環境省
VOLUME.61
2017年10・11月号

エコロ塾

[ 今月の授業 ]
PCB廃棄物

強い毒性と健康被害が明らかになり、日本では45年前に製造が禁止された化学物質「PCB」。
しかし、現在も古いビルや施設の電気機器などにはPCBが残されている可能性があります。
過去に重大な被害をもたらした危険性と、迫りつつある処分期限を改めて解説します。

基礎編

1時間目PCB廃棄物って何?

PCBとは、ポリ塩化ビフェニル(Poly Chlorinated Biphenyl)の略称で、人工的につくられた、主に油状の化学物質です。絶縁性が高い(=電気を通しにくい)、燃えにくい、水に溶けにくい、熱で分解されにくい、沸点が高いといった特徴を持ち、化学的に安定した性質を持つことから、昔は送られてきた電気の電圧を変えるトランス(変圧器)や、電気を一時的に蓄えて電圧を調整するコンデンサー(蓄電器)などの絶縁油として、町中の工場やビル、電車などで使われていました。そのほかにも、PCBは工場の加熱および冷却用の熱媒体や潤滑油(じゅんかつゆ)、ノンカーボン紙などさまざまな用途で利用されていましたが、その毒性が明らかになり、現在は製造も輸入も禁止されています。また、PCBが使われているものは、持ち主が「PCB廃棄物」として適切に処分することが義務付けられています。

油状のPCB。製造は中止になりましたが、現在も漏洩(ろうえい)事故が報告されています

油状のPCB。製造は中止になりましたが、現在も漏洩(ろうえい)事故が報告されています

2時間目どんなふうに危険なの?

PCBは脂肪に溶けやすい性質を持つことから、食物連鎖などで生物の体内に徐々に蓄積しやすく、人体に入るとさまざまな症状を引き起こします。中毒症状としては、目やに、爪や口腔粘膜の色素沈着などから始まり、ついで座瘡様皮疹(ざそうようひしん)(塩素ニキビ)、爪の変形、まぶたや関節の腫れなどが報告されています。 また、PCBは分解されにくいので、大気や海を長距離移動し、極地などへも到達してしまいます。そのため、極地で暮らすイヌイットの人々、アザラシ、クジラの体内へもPCBが蓄積するといった、地球規模での汚染を引き起こすことも指摘されています。

こんな症状が現れます/PCBは分解されにくいため、人体や、その他動物の体内にも蓄積されてしまいます。

COLUMNカネミ油症事件

経緯

1968年、米ぬか油による大規模な食中毒、「カネミ油症事件」が西日本を中心に広域で発生しました。食用油の製造過程において、脱臭工程の熱媒体として使用されたPCBが誤って商品に混入してしまったことが原因で、多くの人たちがこの油を摂取し健康被害が拡大しました。患者数は約1万3,000人にも上ったとされ、胎児にまで影響を及ぼすPCBの恐ろしい毒性が当時の人々に衝撃を与え、世界からも注目されました。

なぜ禁止になったか

大規模な健康被害をもたらしたカネミ油症事件によって、PCBの毒性が社会問題となりました。こうした経緯から日本では1972年、PCBを製造することが禁止されました。国際的には2001年、人や生物への毒性が高く、長距離移動性が懸念されるPCBなど残留性有機汚染物質の廃絶・削減などを行うことを決めた「POPs条約」が採択され、欧米などの先進諸国ではすでにPCB廃棄物の処理が進んでいます。

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