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概要

エコジン04・05月号

エコに関する旬な話題を勉強しよう!長期観測と独自のセンサーFTS※が強み須藤 パンの例を使うと、こちらがパンの材料だと思って提供したものから、研究者が小麦粉と水だけを使ってうどんを作っていた、というような予想外の成果が出たケースもあります。「いぶき」のデータから、「クロロフィル蛍光を観測して植物の活性度を把握する」というもので、当初我々が想定していなかったことができるようになりました。二酸化炭素とメタンの変化を捉える役割を果たしながら、それ以外のプロダクトが出てきたことは、材料を提供している側として非常に嬉しかったですね。齊藤 クロロフィル蛍光は、2014年に打ち上げられたアメリカの衛星「OCO-2」も当然のように観測するようになっていますし、欧州ではクロロフィル蛍光に特化した衛星の打ち上げも計画されています。「いぶき」で分かったからこその動きですね。非常に大きな発見です。須藤 こうした新しいアイデアは、「いぶき」が長くデータを提供しているから生まれたのかもしれません。「いぶき」は打ち上げて8年目、人工衛星の中ではかなり長寿です。約10年間、1つのセンサーで取り続けたデータは、国際的にも非常に利用価値が高い。世界に先駆けて観測を始めたこと、長くデータを取り続けていることは、「いぶき」の大きな優位性です。齊藤 もう一つ、FTSというセンサーそのものの独自性にも優位性があると思います。外国の温室効果ガス観測衛星のセンサーとは違う手法を使っているので、ほかの衛星にないデータを補うことができます。須藤 FTSは観測点の密度は低いのですが、多くの種類の気体を観測できます。一方、外国の衛星センサーは、観測点の密度は高いけれども観測できる気体の種類が少ない。齊藤 両方の優れたところをピックアップして使っていければいいですね。息の長い観測が新たな発見を生み、人を育てる須藤 私は、今ある「いぶき」も後継機も、長く使ってあげたいです。二酸化炭素は長い期間大気中に留まっているので、長期にわたるゆっくりした変化をとらえなければいけません。そのために、辛抱強くデータを見続けるための道具が必要だと思います。長くデータを蓄積していけば、将来新しい知見が生まれた時、データから何か新しい発見があるかもしれない。齊藤 おっしゃるとおり、長期観測は「いぶき」の役割そのものですね。2号機、3号機と長期間にわたって温室効果ガスを観測しようという同意があるのは、日本の強みです。今後温暖化が進んだ場合のシミュレーションはありますが、実際に何が起きるかは観測しなければいけません。観測したことが、全体から見て異常なことだと示すには、長期間のデータが不可欠です。さらに人材育成の面でも、国内、海外の研究分野の裾野が広がれば、関わる研究者が増え、社会に一層成果を還元できるのではないかと考えています。< 今回のおさらい >「いぶき」とは、宇宙から地球全域の温室効果ガスを測定することで、温暖化対策に貢献する人工衛星です。※プロダクト……GOSATによって観測されたデータの処理結果を、ユーザーに提供するために所定のフォーマットに成形したデジタル情報、またはその電子ファイル。※FTS……温室効果ガス観測センサー。赤外線を観測するための「フーリエ変換分光計」方式を採用し、精密な観測が可能。19