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概要

エコジン12・01月号

今回は、アカハライモリの話です。アカハライモリは本州全土に生息する日本固有の両生類です。環境省や多くの自治体のレッドリストで絶滅危惧種として記載されています。アカハライモリについての体験で私が強烈に記憶している出来事は、子どものころ故郷の田んぼの水路で熱中した“イモリ釣り”です。あるイネ科の植物の茎を、葉や穂を取り去って、一本の“竿”にし、先を曲げて円をつくります。それを水中にいれ、底を歩くイモリの頭が円の中に入るように移動させ、うまく頭が入ったら、クッと引っ張りあげるのです。うまくいった瞬間の感覚は今でも覚えています。そして、小林少年は、成功率をあげるために、イモリの習性の研究やよりよい釣竿づくりに没頭したのです。さて私は、鳥取環境大学に着任してからすぐ、アカハライモリの研究をはじめました。アカハライモリは春から初夏にかけて産卵し数週間後、幼生から変態して陸に上がります。その後3年間ほど陸上だけで過ごし成長します。でも、私の研究以前には、変態した幼体(姿は親と同じですがとにかく小さい。そしてとてもかわいい!)の陸上での生活についてはほとんど知られていなかったのです。でもまあ、それも無理のない話で、体長3cm足らずの小さな幼体が、草や石の隙間を、主に夜中に動くのです。広い広い草原に散らばった幼体を見つけることはとても難しいのです。私はその難しさに体力と忍耐が試されるやり方で挑みました。夏季休暇を利用して、イモリの子どもが上陸する河川敷に、夜10時ごろから出かけ、河川敷の草むらをしらみつぶしに探すのです。それは結構ハードな作業で、毎回、新品の丈夫な布手袋をはめて始めるのですが、作業が終わる午前2時ごろには手袋はもう使い物にならないくらい穴だらけになります。体中がバリバリになります。そんな作業をほぼ毎日続けました。でも回数が過ぎていくうち、川の音と虫の鳴き声だけが聞こえる草むらで、ヘッドライトが当たる極狭い範囲だけに心を研ぎ澄ませて移動していく体験に、なんともいえない充実感を覚えるようになりました。子イモリを見つける鋭敏さもだんだん増してきて、目で子イモリを認める前に心臓がドクンと波打ちます。無意識の認知が子イモリを見つけ、少ししてからその上方、意識の領域へ届ける、と言えばよいのでしょうか。見つけた子イモリは腹の模様の記録をとって個体識別し、糞を取って、食べていたものを調べます。体長から、上陸して何年目の子どもかも分かるようになり、移動する距離も分かってきます。こうして、アカハライモリの子どもの陸上での生活が少しずつ分かってきたのです。一生忘れることのない体験です。こばやしともみち/1958年岡山県生まれ。岡山大学理学部生物学科卒業、京都大学にて理学博士を取得。現在は公立鳥取環境大学の教授として、動物行動学、人間比較行動学を専門に教える。ヒトを含めた哺乳類、鳥類、両生類などの行動を、動物の生存や繁殖にどのように役立つかという視点から研究を続けてきた。著書に『先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます!』(築地書館)など。公式ブログ「ほっと行動学」も公開中。http://koba-t.blogspot.jp35