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概要

エコジン10・11月号

こばやし ともみち/1958 年岡山県生まれ。岡山大学理学部生物学科卒業、京都大学にて理学博士を取得。現在は公立鳥取環境大学の教授として、動物行動学、人間比較行動学を専門に教える。ヒトを含めた哺乳類、鳥類、両生類などの行動を、動物の生存や繁殖にどのように役立つかという視点から研究を続けてきた。著書に『先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます!』(築地書館)など。公式ブログ「ほっと行動学」も公開中。http://koba-t.blogspot.jp*レッドリスト・・・環境省が発行している、絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト。現在、最新のレッドリストは2012・2013 年に公表した、第4次レッドリストです。 今回は地球上の哺乳類の中で、げっ歯類についで多くの種が存在するコウモリ類(約1,000種)の話です。 私がコウモリの調査をはじめるようになったのは、大学の建物の中で、鳥取県でそれまで発見されたことがなかったオヒキコウモリというコウモリに出会ったことがきっかけでした。オヒキコウモリは、環境省レッドリスト*の絶滅危惧種に掲載されている、かなり大きなコウモリです。それが一匹、大きな影をつくって研究棟の廊下を飛びまわっていたのです。 学生からの「先生、巨大なコウモリが廊下を飛んでいます!」という報告を聞いて、体中の血が騒ぎ、私は、そのコウモリの捕獲へと向ったのでした。もちろん捕獲には成功し、鳥取県で最初のオヒキコウモリの確認になったのでした。 それからです。「空飛ぶ哺乳類」と称して、モモンガとコウモリの調査に力を注ぐ日々がはじまったのは。両者ともとても魅力的な動物なのですが、その魅力の意味は少々異っています。コウモリの魅力の一つは、なんと言っても、飛ぶために、哺乳類でありながら極度に特殊化した体や行動にあります。 目下、私は、鳥取県内の洞窟性コウモリ(キクガシラコウモリ、コキクガシラコウモリ、ユビナガコウモリ、モモジロコウモリ)の生態や行動を調べています。一般的には、コウモリというと、「夜の空をせわしなく飛ぶ」とか「血を吸う」「暗い洞窟の底から出てくる」・・・といったネガティブなイメージがつきまとっていますが、彼らの真の姿を知れば、そのイメージは大きく変わること請け合いです。 コウモリの行動に関する私の研究テーマの一つは「ユビナガコウモリの嗅覚能力」です。コウモリの感覚システムというとどうしても「超音波の発信・受信」が有名です。ところが、研究用のユビナガコウモリに餌をあげたりして密接にふれあう中で、彼らが、他の哺乳類と同じく嗅覚をさかんに利用していることを確信するようになったのです。彼らは地面も歩き(歩き方はチンパンジーによく似ています)、イヌのようなしぐさで容器の餌をガツガツ食べ、水をコプコプ飲みます。そんな彼らの行動特性を利用して、たとえば、「自分が棲んでいた洞窟のコロニーのメンバーと、別の洞窟のコロニーのメンバーとを臭いで識別できるのか」といった問題を調べています。 環境問題の視点から言えば、コウモリは生態系の中で重要な役割を占めており、洞窟性コウモリが生息することは、そこが、生物多様性に富んだ豊かな森を保持していることを意味しています。 飼育しているコウモリを、ときどき部屋の中で飛ばせてやるのですが、その瞬間、それまでの毛むくじゃらの小さな哺乳類が、鋭敏で華麗な空中のナイフにパッと変身します。 いいよなー。可愛いし、カッコイイし、何よりも進化の力をいかんなく示してくれる。そんな動物なのです。す33