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概要

エコジン08・09月号

エコジン愛読者の皆様、はじめまして。公立鳥取環境大学の小林と申します。私は環境学部に所属し、日夜(!)野生生物の保護、生息地の保全について考え、研究し、保全のための実践を行っています。そんな最近の活動の中で、体験したり感じたりしたことを何回かお話ししたいと思います。初回は、日本固有の愛すべき動物、ニホンモモンガについての話です。ニホンモモンガは本州全土の高地に生息するリス科の動物で、基本的には夜行性で、木から木へ滑空して動き回る樹上性の生活者です。生息のためには、スギや自然林が入り交じった広い森林を必要とじゅどうします。また、樹洞をつくってくれるキツツキが棲むことも必要で、現代ではなかなか得がたい環境となっています。鳥取県を含め、多くの自治体で絶滅危惧種として挙げられているのには、そういった背景もあるのでしょう。ちづあしづさて、私は鳥取県の智頭町にある芦津渓谷の森で調査をはじめてから7年近くなりますが、その中で、特に記憶に残っている出来事の一つに「慌て者の子モモンガ」事件と私が呼んでいる出来事があります。それは、ニホンモモンガではとても珍しく、一匹だけ生まれた子モモンガ(通常は4~6匹の子どもが生まれます)が見せてくれた事件(?)です。私が、一匹だけの子どもを出産した母モモンガを、スギの幹の地上6メートルあたりに取り付けた巣箱の中で発見したのは5月のはじめでした。1カ月後、巣箱を調べてみると、その親子が入っていました。たいていは、巣を発見された子育て中の母モモンガは別の場所に移動するのに、その親子はなぜか同じ巣箱を使っていました。そしてそのときの子どもの顔は、それはそれは可愛い顔でした。さらにそれから約1カ月後、その日は他の調査が長引いたせいで、私がその親子の巣箱までやってきたときには、すでに夕闇が降りかけていました。私が疲れた腕に力を込めて巣を付けている木にはしごをかけたときでした。なんと、成長した子どものモモンガが、巣箱から半分身を乗り出して、上から私を見ているではありませんか。「おじさん、また来たの?」みたいな顔です。私はうれしくなり、その子の顔を、同じ高さのところからもっとよく見たくなり、梯子を置いて斜面を登りました。そして、その子と目の高さが同じになり互いに見つめ合ったときでした。子どもは面と向かって私を見て、動揺したのか、体を動かしはじめたかと思ったら、ぱっと飛んだのでした。私は驚きました。そして思いました。こんなに子どもでも、もう飛べるのか!しかし、どうも、その子は、飛べるから飛んだのではなく、動揺して飛んでしまったらしいのです。滑空はできず、そのまま下へと落ちいき、地面に不時着したのです。それからがまたケッサクです。子どもは大急ぎで木まで歩き、木を登り巣箱の中に飛び込んだのでした。私は笑ってしまいました。そして「慌て者の子モモンガ」事件と命名して、長く記憶にとどめることになったのです。こばやしともみち/1958年岡山県生まれ。岡山大学理学部生物学科卒業、京都大学にて理学博士を取得。現在は公立鳥取環境大学の教授として、動物行動学、人間比較行動学を専門に教える。ヒトを含めた哺乳類、鳥類、両生類などの行動を、動物の生存や繁殖にどのように役立つかという視点から研究を続けてきた。著書に『先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます!』(築地書館)など。公式ブログ「ほっと行動学」も公開中。http://koba-t.blogspot.jp35