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概要

エコジン06・07月号

にとっていかに幸せで持続的な社会をつくるかであって、その阻害要因である温暖化をできるだけ食い止めようということになる。であれば、緩和策だけ、あるいは適応策だけを考えるのではなく、両者をどのような組み合わせで進めればいいのかを考えようという話になります。そして、「これが最適」という唯一絶対的な対策はなく、当然地域によってそれは異なるのです。 緩和策としては、将来に向けて温室効果ガスをいかに減らすかが重要になりますが、適応策は、まず現在起きている気候変動による自然災害や、それによって生じる農業の不作などの影響を減らすことが、将来のさらなる悪化を食い止める「はじめの一歩」になります。 第5次評価報告書の公表を経て、今後は適応策と緩和策、想定される被害などを数量化した気候変動対策のコスト換算などの研究も進められると考えられます。今回は、その道筋を示したといえるのではないでしょうか。候変動だけが人類にとってリスクなのではなく、気候変動対策と自然災害対策、あるいは水資源管理や生態系のマネジメントを一体化して考えていかなければいけないというメッセージが強く打ち出されています。一口に気候変動といっても、それは国、地域、人によって影響の出方や深刻度が異なるのです。特に貧しい国や地域、人々にとって、より深刻な影響を与えると考えられています。気候変動策は全世界で考えるべき問題 日本の場合、インフラが整備され、しかるべき設備投資もなれさているため、たとえば豪雨や熱波が起きても、きちんとした住居や設備がない開発途上国などに住む人々と比べれば対応力はあるでしょう。食料生産が多少ダメージを受けても、すぐに死活問題にはならないかもしれません。しかし、だからといって他の国のことを気にかけなくていいのかというと、グローバル化した現在では他の地域の影響は決して無関係ではないのです。 たとえば、2011年に起こったタイの洪水では、精密機器や自動車産業における部品などの供給が滞り、経済的な被害は全世界に波及しました。自分たちの国と国民が平気だったらそれでいいのではなく、自国の経済は他の国の繁栄とも密接に結びついていることを忘れてはいけません。原材料の確保という面だけでなく、日本の製品を買ってもらうことで日本経済が支えられている面もあるので、他国の心配をすることは単に一方的な援助ではないのです。こうしたことからも、世界が手に手をとって気候変動対策を進めることがいかに重要かが分かるのではないでしょうか。 気候変動対策には緩和策と適応策の両方が必要になりますが、それは最終的に「人類にとって幸せで持続的な社会をつくること」につながるからです。“温暖化さえ止められれば人類が滅びてもいい”というのは本末転倒な話です。目的は、人類エコに関する旬な話題を勉強しよう!沖大幹(おき・たいかん)1964 年生まれ。2006 年より東京大学生産技術研究所教授。水文学(すいもんがく)、特に気候変動とグローバルな水循環、バーチャルウォーター貿易を考慮した水資源評価が専門。IPCC第5 次評価報告書統括執筆責任者、国土審議委員ほかを務める。著書に『水危機 ほんとうの話』などがある。国や地域の状況はさまざまですが、それを理解した上で世界中の人々が協力して温暖化対策に取り組むことが大切です。今回のおさらい19