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概要

エコジン02・03月号

今回の報告書では、国際的な研究コミュニティによってつくられたRCP(Representative Concentration Pathways/代表的濃度経路)シナリオを採用している点が第4次報告書とは大きく異なります。将来の温室効果ガスの安定化レベルとそこに至るまでの主な経路を設定し、温暖化対策を徹底的に講じた場合から何も対策をしなかった場合まで、4パターンのシナリオを設けています。国連気候変動枠組条約では、「世界の平均気温を産業革命以前から2℃以内に抑えるために大幅なCO?削減が必要だ」という合意がなされていますが、RCPシナリオを採用することで、「気温上昇を2℃に抑えるためにはどうすればいいのか」というような目標主導型の社会経済シナリオをつくり、検討することが可能になるのです。そして、その社会、経済、技術的条件については今後発表される第3作業部会の報告書に書かれます。排出できるCO?の量はすでに決まっているので、仮にいまのままでもあと30年で使い切ってしまう。しかも、毎年排出量は増えているので、もっと短いかもしれません。人類全体で排出してもいいCO?の量が決まっていて、あとはそれをどう分配するのかという問題になります。こうした数字を出すことで、より切迫感が伝わるのではないかと私は考えます。つまり、「既にこうした数字が出ていますが、どうしますか」という問い掛けです。2100年頃には世界の排出量がほぼゼロ、あるいはマイナスになるように2020年くらいから徐々にCO?の排出を減らすというのが今回の報告書におけるRCP2.6のシナリオです。我々は本気でそれを目指すのか、あるいは諦めるのか。人類はもはや温暖化によるリスクと、経済的なコストなど温暖化を止めることで生じるリスクの両方から逃げることはできません。どのような選択をするのか真剣に議論しなければならない時に来ているのです。今回の報告書は、そうした選択をする上での材料になるものだといえます。もう一つ、今回の報告書で注目していただきたいのが、「二酸化炭素の累積排出量と世界平均地上気温の上昇量は、ほぼ比例関係にある」という新見解です。気温の上昇量は人類が過去から将来に渡ってCO?をどれだけ出したかによってほぼ決まります。つまり、温度上昇を2℃以内に抑えようとすると、トータルでどれだけ排出していいのかが自ずと決まるのです。具体的には、世界平均気温を2℃以内に抑えようとすると、産業革命以降、約800ギガトンカーボン(1ギガトンカーボン=10億トン炭素換算CO?)のC O ?しか排出できないことになります。人類はすでに約500ギガトン使っているので、残りは約300ギガトンしかない。現在、年間約10ギガトン排出している報告書は、これから人類が向かうべき方向を選択するための材料といえます。教えてくれた人:江守正多(えもり・せいた)1970年生まれ。97年、独立行政法人国立環境研究所に入所。2001年に「地球シミュレータ」(横浜市)を使用した研究のため地球フロンティア研究システムへ出向。04年に復職し、06年から同研究所地球環境研究センター気候変動リスク評価研究室長。近著に『異常気象と人類の選択』がある。文/さくらい伸25