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概要

エコジン6・7月号

国立公園というと、自然環境を保護するために規制を強めた場所というイメージが強いかもしれませんが、それだけではありません。2009年の調査によると、陸中海岸国立公園と種差海岸階上岳県立自然公園を訪れた人は、年間750万人を超えています。宮城県の松島あたりまで含めると、年間利用者は1,520万人にものぼります。このエリアをひとつの国立公園とすることで、美しい自然環境を維持しながら観光利用を促進し、豊かな地域づくりに役立てようとするものです。そしてこの再編の取組には、地域の皆さんの協力が不可欠です。今回、国立公園を再編するにあたっては、検討の段階から地元の方々にも参加していただいて、この地域がもっているポテンシャルを教えていただきながら、それをどう生かしていくかを継続的に議論しています。このエリアの魅力は、日本最大級の海食崖とリアス海岸が連続した豪壮で優美な海岸景観がまずあげられます。断崖にあたりくだける波や、海岸線と人々の暮らしや営みが織りなす風景の美しさは、司馬遼太郎をはじめ、多くの文人らをも虜にしてきました。そのような景観に加え、三陸沿岸は世界三大漁場と呼ばれる、豊かな漁場でもあります。北上山地で蓄えられた栄養分の豊富な水が川となって海に注ぎ込むことが、漁業資源を育む理由のひとつ。山と海が近く、双方からの恩恵を受けてきた沿岸に住む人々は、古来から海と森の自然に感謝しながら生活を営んできました。そのような独自の文化に触れることを目的として、今後は体験型・滞在型のエコツーリズムをさらに充実させていきます。そのひとつの例が「みちのく潮風トレイル」の創設です。国立公園の北端である青森県八戸市かぶしまの蕪島から、三陸復興国立公園を貫いて、福島県相馬市に至る全長約700キロメートルに渡る、歩くことを楽しむための道です。自然を愛する気持ちは、口で言うだけではなかなか伝わらないものです。自分の肌で自然の素晴らしさを感じてはじめて、大切にしたいという気持ちが芽生えるのだと思います。道の途中で、地元の人たちの暮らしや文化と出会い、おいしい東北の食に触れていくと、人生観が変わるほどの何かを感じるかもしれません。みちのく潮風トレイルをつくる過程で地元の人だけが知る歩きやすい道を教えていただくなど、地元の方とのワークショップをさまざま重ねてきました。この道が多くの観光客に利用されるだけでなく、地域の人にも愛される生き生きとした道になるように、わたしたちも努力していきたいと考えています。自然からの恩恵がある一方で、自然が厳しい災害をもたらすことも、私たちは一昨年の震災で思い知らされました。今回の大きな地震とそれに伴う津波の経験を今後に生かし、語り継いでいくことも三陸復興国立公園の使命であると考えています。まもなく日本に国立公園が誕生してから80年の節目を迎えます。三陸復興国立公園の取り組みが、新しい国立公園の役割を切り開く第一歩になればと、そして人と自然の関わりの方向を多くの人たちに指し示す大きな存在となるように願っています。青森県八戸市から宮城県の中部まで続く一大国立公園になります。すばらしい自然景観を楽しめるうえ、地域の暮らしや文化、さらには自然の脅威を学ぶ場でもあります。教えてくれた人:渡辺綱男(わたなべ・つなお)東京都出身。東京大学農学部卒業後、1978年に環境庁(現環境省)入庁。自然環境計画課長、自然担当審議官などを経て、2011年に自然環境局長に。昨年秋から一般財団法人自然環境研究センターと国際連合大学に勤務。23