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[キーワード] ハイブリッド・インセンティブ・メカニズム、トリプル・ベネフィット、レジティマシー、ラオス、事前評価

[B-072 森林減少の回避による排出削減量推定の実行可能性に関する研究]

(4)既存枠組みとガバナンスをふまえた「森林減少の回避」制度の実行可能性の検討[PDF](429KB)

 東京大学大学院農学生命科学研究科 教授

井上 真

 <研究協力機関>

 

 東京大学大学院農学生命科学研究科・農学共同研究員
(財団法人・地球環境戦略研究機関・研究員)

百村帝彦

東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程

向井周平

  [平成19〜21年度合計予算額] 3,900千円(うち、平成21年度予算額 1,700千円)
※予算額は、間接経費を含む。

[要旨]

  本研究の目的は、ガバナンスの観点からREDD制度を検討し、実行可能な制度設計の方針を提案することである。まず、REDD制度を2つの評価基準に基づいて検討した。第1はトリプル・ベネフィットの観点である。CO2吸収のみならず、生物多様性保全および地域住民の貧困軽減といった側面の同時達成により、生物多様性条約や国連ミレニアム開発目標との整合性を確保できる。第2はレジティマシー(正当性/正統性)の観点である。レジティマシーは有効性(森林減少の回避可能性)と民主性(地域住民参加の促進可能性)によって確保される。有効性の面からは森林セクターだけを対象とする対策の限界が、民主性の面からは地域住民の権利を奪わない仕組みづくりの重要性が示された。これらの検討に基づき、基金と市場の組み合わせによる「ハイブリッド・インセンティブ・メカニズム(HIM)」を提案した。基金メカニズムの骨子は、プログラムの事前評価に基づく活動資金の先行付与、および第三者団体による資金付与の監査、である。市場メカニズムの骨子は、炭素クレジットの取引量に上限を設けることと、政府に一定のクレジットを基金に売却する義務を課すことである。HIMの類型としては、政府がクレジットを獲得した後にインセンティブをプロジェクト関係者(個人、企業、コミュニティ)に付与しないタイプA、資金を事後付与するタイプB、クレジットを事後付与するタイプCという3タイプが考えられる。どのタイプも基金からプロジェクト関係者への資金の先行付与は必須である。このHIMをラオスのルアンパバーン県シェングン郡で適用するための準備作業として、既存のプログラムをトリプル・ベネフィット観点から事前評価し、プログラムの優先順位付けを試行した。最後に、REDD+用の新たなプログラムの導入や選定優先順位の高い既存プログラムのみの活用などの選択肢を示した。本研究の成果は今後の国際交渉の結果に関わらず応用可能であり、技術的・方法論的な決定事項と合わせて具体的に制度を検討し提案する基盤を築くことができた。