研究成果報告書 J98B5240.HTM

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[B−52.アジア太平洋地域における地球温暖化の局地植生への影響とその保全に関する研究]

(4)湿潤熱帯山岳における森林植生帯閾値と地球温暖化のインパクト評価に関する研究

[研究代表者]

森林総合研究所企画調整部海外森林環境変動研究チーム

●北山兼弘

[農林水産省林野庁森林総合研究所]

木曽試験地

●伊藤雅道、岩本宏二郎

[平成8〜10年度合計予算額]

14,130千円

(平成10年度予算額4,688千円)

[要旨]

 森林生態系の温暖化への応答予測の大きな問題となっているのは、温度と栄養塩がどのような相互作用をみせるのかということである。私たちはこの問題に答えるためにボルネオ島のキナバル山において、異なる栄養塩(特にリン)の供給下にある熱帯降雨林生態系がどのように温度に制限されているのかを、温度を標高で代表させ、リンの供給能を地質(リン供給が比較的に豊富な堆積岩と比較的に貧弱な超塩基性岩)で代表させることによって、3年間に渡って調査した。材成長に落葉落枝量を加え地上部純一次生産(純炭素固定量)を表すと、リンの供給に関係なく温度と一次生産には有意な正の相関が見られた。一次生産の温度依存性は、予測に反し、リン供給が貧弱な超塩基性岩上で大きかった。葉のリンと窒素濃度を調べることにより、樹木は温度上昇に対して葉の窒素とリン(面積当)を減少させて適応するが、リンの供給が少ない条件下で温度が上昇すると炭素固定のためのりンヘの要求量が急激に低下して温度上昇への反応性が大きくなることが示唆された。温暖化の応答シナリオとして、栄養塩の制限が無い場合、熱帯林の純一次生産の温度依存性は相対的に低く、温度1度Cの上昇に対して乾物生産量67(g/m2/yr)の増収となる。栄養塩の制限がある場合、温暖化に伴い単位炭素を固定するための栄養塩(酵素)要求が緩和され、見かけの熱帯林の温度依存性は相対的に高くなり、温度1度Cの上昇に対して乾物生産量104(g/m2/yr)の増収となる。しかし、リターの分解速度は純一次生産に対して指数関数的に増加し、温度の上昇に対する短期的な炭素収支はどのような栄養塩状態でもネットでマイナスになる可能性がある。これは短期的(推移的な)応答として熱帯林からの炭素放出を意味する。この短期的な炭素放出がどのようなフィードバック効果を引き起こすのかが、今後の正確な温暖化予測の鍵となろう。しかし、そのような短期的なフィードバックを無視し、生産と分解のバランスとして長期的な熱帯林の総炭素貯留量を予測すると:栄養塩の制限がない場合、平均気温が上昇して分解速度が生産速度を上回り土壌中の炭素貯留量が減少しても、長期的には減少分を地上部のバイオマス増加が補い、単位栄養塩当たりの炭素量は変わらずネットでの生態系の炭素総量は変化しない。栄養塩の制限がある場合、平均気温が上昇すると生態系の単位栄養塩当たりの炭素量が増加することによって生態系の炭素貯留量は著しく増加する。

[キーワード]

熱帯雨林、純一次生産、分解、炭素貯留量、温度依存性