研究成果報告書 J98A0430.HTM

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[A−4.紫外線の増加がヒトの健康へ及ぼす影響に関する疫学的視点を中心とした研究]

(3)白内障の実態把握並びに「白内障発症と紫外線被曝との関連性に関する国際比較研究」


[研究代表者]

 

金沢医科大学眼科学教室

●佐々木一之

[研究者担当者]

 

金沢医科大学眼科学教室

●小島正美、佐々木洋

東京女子医大衛生・公衆衛生学教室

●加藤信世

国立環境研究所

●小野雅司

[研究協力者]

 

DepartmentofOphthalmologyIcelandUniversity

●FridbertJonasson

SingaporeEyeResearchInstitute

●Hong-MingCheng、SekJinChew、YingBoShui

RoyalVictorianEyeandEearHospitalUniversityofMelbourne

●HughTaylor、CatherineMcCarty、LubaRobman


[要旨]

 ヒト白内障の様相は異なる環境下、あるいは異人種間でどう変わるかの検討はこれまでには少ない。国内外で太陽紫外線のヒト白内障発現に及ぼす影響が注目されているが、これを明らかにするには実験的検討、疫学的検討の両者が必要とされる。本研究は国内2地域(能登、奄美)、海外3地域(レイキャビック、シンガポール、メルボルン;予備調査)の住民を対象とした白内障の疫学調査であるが、これまでに各群の水晶体混濁有所見率をはじめ病像の特徴を明らかにすることができた。対象者は何れも調査地域に永く在住する一般住民で、能登、奄美対象群ではそれぞれ615名、339名、レイキャビック、シンガポール群では1,045名、517名であった。全ての調査は能登調査と全く同じ手法を用い、固定した研究者の構成をもって行われた。白内障発現のベースとなる生理的な水晶体透明度の加齢変化の傾向は対象群により異なっていた。その傾向はアイスランド、能登群葦間および奄美、シンガポール群間では差はなかったが、前2群と後2群間には明らかな差 が60歳代、70歳代でみられた。生理的な水晶体透明度の低下の原因となる共通因子が各2群間にあるものと考えたい。臨床的には三つの基本病型:皮質、核、嚢下白内障を一括して白内障と呼ぶが、それぞれの発現は必ずしも同一機序で説明できないため、病型別の検討も必要である。ある程度進行した水晶体混濁の年代別有所見率は調査地域の紫外線照射量に相関するもであった。白内障の進行を能登対象群とレイキャビック、シンガポール対象群と比較すると、日本人(能登対象群)ではレイキャビック群より約10年早く、シンガポール群よりもおよそ10数年遅いことが明らかとなった。疫学的には魅力ある結果ではあったが、現時点で全病型を含めた白内障の有病率を太陽紫外線照射量の差に結び付ける程の根拠はもたない。白内障の中で圧倒的に頻度の高いのは皮質白内障であるが、レイキャビック群の皮質白内障の有所見率は能登、奄美、シンガポール対象群にくらべ有意に低いものであった。今回の研究からは、少なく共皮質白内障に関しては紫外線誘発説 を支持する疫学データは得られたものと考える。核混濁の有所見率がシンガポール、奄美で高かったが、これと紫外線被曝との関係は現時点では明らかではない。慢性の紫外線被曝により誘発される眼疾患として翼状片がよく知られているが、この有所見率は能登、奄美、シンガポール、レイキャビックでそれぞれ6.4%、25.4%、11.1%、0.2%で、照射量によく関連していた。また、シンガポール対象群について紫外線被曝防止としてのサングラス装用効果を翼状片発現者と非発現者の間で検討したところその効果を肯定するデータ が得られた。
 紫外線被曝量が大きく異なる日本人、アイスランド人、シンガポール人の水晶体混濁の病像、翼状片の発現を直接比較した本研究は、今後の紫外線誘発眼病変発現の検討に有用な基礎情報をもたらしたものと考える。


[キーワード]

白内障、紫外線一B、危険因子、アイスランド、シンガポール、能登、疫学調査