研究成果報告書 J97F0220.HTM

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[F−2 アジア・太平洋地域における湿地等生態系の動態評価に関する研究]


(2) 長距離移動性渡り鳥の減少機構解明に関する研究


[環境庁自然保護局野生生物課]

(委託先)

東京大学大学院農学生命科学研究科野生動物システム学教室 ●樋口 広芳


[平成7−9年度合計予算額]

17,000千円

(平成9年度予算額 5,687千円)


[要旨]

 長距離移動性の森林性および水辺性渡り鳥について、日本各地において減少の実態を調査した。調査内容は、野外調査、文献調査、アンケート調査、および探鳥会記録の解析である。いくつかの地域を対象にした野外調査および文献調査の結果、減少傾向が明らかであった種は、サンコウチョウ、サンショウクイ、シマアオジ、ヨタカ、アオバズク、アカショウビン、ヒクイナなどであった。そこで、これらの種についての減少実態に関するアンケート調査を全国規摸で行なった。減少傾向のあった地点は日本全国に分布し、減少の時期はそれぞれの地点で異なるが、1980年代に大きく変化のあった種が多い。

 水辺性の鳥類であるヒクイナの減少した地域では、水田から宅地に変化するなど繁殖地の環境に変化のあった地点が多く、繁殖地の生息環境の変化が減少にかかわっていると考えられる。サンコウチョウ、サンショウクイなど森林性の鳥類の減少した地域では、生息環境の変化のなかった地点が半数以上をしめ、繁殖地の生息環境の変化だけが減少の原因ではなく、渡りの越冬地の環境変化などにも原因があることが示唆された。サンコウチョウの越冬地であるといわれているインドネシアでは、越冬環境および越冬状況の調査を行なったが、熱帯雨林の伐採が非常に進んでおり、サンコウチョウなどの生息についての情報を得ることはできなかった。

 北海道根室市とその周辺の調査では、野付半島や走古丹などでシマアオジの減少、シマセンニュウの増加傾向がみられた。春国岱では、これらの種の増加と減少の間に何らかの関係があることが予想されたが、はっきりした関係は見いだせなかった。

 探烏会記録の解析は、全国66か所について種数の変動を明らかにし、さらに種別の減少傾向を承した。この解析には、再アンケートのデータ10か所も使用した。種数の変動では、夏鳥に減少傾向のある地点が多く、留烏では変化がないか増加傾向のある地点が多かった。また、地点別種別にそれぞれ減少傾向があるか増加傾向があるかを調べた。出現の有無を1、0で示し、その年次変化についてプロビット分析を行ない、増減を判断した。減少傾向のあるものについては、Probit(P)=0.5となる年を求め、それを「半減期」とみなした。種別に半減期を調べてみたところ、1980年代に半減期が集中しでいることがわかった。

 夏鳥の減少は、繁殖地の環境変化が原因となっている場合もあったが、多くは繁殖地の環境変化だけでは説明できなかった。減少の時期が越冬地の熱帯雨林の減少時期と一致していることから、夏鳥の減少の−部あるいは多くは、越冬地の環境変化に原因があると考えられる。夏鳥の減少をくいとめるには、繁殖地、渡りの中継地、越冬地それぞれで環境利用のモニタリング調査を行ない、生息環境を保全する具体的な方策をみいだすことが必要である。


[キーワード]

 渡り,夏鳥,湿地,森林,保全