研究成果報告書 J95E0210.HTM

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[E−2 熱帯林生態系における野生生物種の多様性に関する研究]

(1)樹冠形成過程の生理生態学的多様性に関する研究


[研究代表者]

国立環境研究所 生物圏環境部  ●古川昭雄

[環境庁 国立環境研究所]

生物圏環境部  ●古川昭雄

地球環境研究グループ森林減少・砂漠化研究チーム

●可知直毅a)・奥田敏統・唐 艶鴻・藤間 剛b)

a)現在:東京都立大学理学部、b)現在:森林総合研究所森林環境部

マレーシア農科大学

●Muhamad Awang・Abdullah Ahmad Makmom


[平成5〜7年度合計予算額]

40,107千円

(平成7年度予算額 13,530千円)


[要旨]

(1)光合成速度の日変化
 マレーシア半島部のパソー森林保護区に設置した樹冠回廊を用い、地上30mの低地熱帯林の樹冠を形成している葉の光合成速度、気孔コンダクタンスをNeobalanocarpus heimii, Xanthophyllium amoneum, Ptychopyxis caput−medusaeDipterocarpus sublamellatusの4種について調べた。光合成速度は2日間連続して測定した。2日間で最も異なった環境条件は水蒸気飽差であった。光合成速度の日変化は測定日と種によって異なった。しかし、光合成速度はどの種でも低かった。D.sublamellatusN.heimiiの光合成速度は光量子密度(PFD)が上昇するに伴い、午前中は増加したが、その後は減少した。光合成速度とPFDの日変化から両者の関係を求めたが、N.heimiiでは明瞭な関係が見られなかった。これは、日中の葉の水分不足によって気孔開度が減少したためと考えられる。気孔コンダクタンスと光合成速度の関係についても求めたが、D.sublamellatusを除いて、気孔コンダクタンスが増加すると光合成速度が増加する関係が認められた。この結果は、葉内CO2濃度がD.sublamellatusを除く測定した樹種でほぼ類似の値を示すことを意味している。
(2)光合成速度の季節変化
 N.heimii, X.amoneum, P.caput−medusaeD.sublamellatusの樹冠構成葉の光合成速度と気孔コンダクタンスを降雨量の比較的少ない7月と多い11月に測定した。光合成速度の日変化の測定結果から光量子密度─光合成速度の関係を求め、両月の光合成速度の値を比較した。さらに、気孔コンダクタンスと光合成速度の関係についても求めた。その結果、両月における光合成速度と気孔コンダクタンスの差はほとんど見られなかった。7月と11月では葉齢で約4ヶ月の違いがあるが、光合成速度と気孔コンダクタンスに明瞭な差がなかったことは、熱帯雨林の樹冠構成葉の光合成は、かなり長い期間にわたって高い価を維持していることを意味している。
(3)階層による光合成速度の違い
 熱帯樹による樹冠形成過程を明らかにする目的で、マレーシア半島部のパソー森林保護区に設置した樹冠回廊近傍に自生しているElateriospermum tapos葉の光合成速度と気孔コンダクタンスを調べた。光合成速度と気孔コンダクタンスは、樹冠部の34mから25m、21m、16mの高さ別に測定した。光合成特性から、34mと25mの高さに分布する葉は、陽葉的特性を示し、21m,16mの高さに分布する葉は陰葉的特性を示した。
(4)階層による葉のアロメトリー
 熱帯樹による樹冠形成過程を明らかにする目的で、マレーシア半島都のパソー森林保護区に設置した樹冠回廊近傍に自生しているE.tapos葉の外部形態特性について調べた。葉の外部形態については、樹冠部の34mから25m、21m、16mの高さ別と林床に生育している稚樹(1m)について測定した。また、葉柄の役割は、光の受光面を調節するために弱光域で長く強光域で短くなると考えるよりも、葉の支持器官として捉えるべきだとの結果を得た。この結果は、熱帯林の階層構造の形成は、複数の樹種にのみによっているのではなく、広い光強度領域で生活可能な単一樹種によっても形成されうることを示唆するものである。


[キーワード]

光合成、気孔コンダクタンス、階層、樹冠構成葉、水蒸気飽差