研究成果報告書 J92A0520.HTM

検索画面に戻る Go Research



(644Kb)

[A−5.紫外線の増加が植物に及ぼす影響に関する研究]

(2)紫外線増加が植物プランクトンに及ぼす影響の評価に関する研究


[研究代表者]

 

北海道区水産研究所

●田口 哲

[水産庁 北海道区水産研究所]

 

生物環境研究室

●齊藤宏明、葛西広海


[平成2〜4年度合計予算額]

29,218千円


[要旨]

 紫外線を含む光合成有光光照射培養装置を作製した。紫外線放射量は19μW・cm-2であり光合成有光光子量は1.2mW・cm-2として紫外線照射実験と非照射実験を連続して紫外線の影響を受けた緑藻Tetraselmis sp.細胞が回復する過程をこの種の生息可能な温度の上限に近い32℃、下限に近い13℃、及びそのほぼ中央値の23℃で行った。紫外線照射によるクロロフィルaの減少は13℃で最も大きかった。紫外線照射によって細胞はクロロフィルa及びbを消失するがそのかわりにカロチノイド色素を生産して紫外線からの影響を減少させていた。富栄養性沿岸水域である北海道厚岸湾の植物プランクトンを使って現場実験を行った。紫外線を除去すると細胞の化学組成比及びクロロフィルaあたりの光合成速度の増加比は1日の間で変化するが24時間後には2以上の増加比がクロロフィルaあたりの光合成速度で観測された。このことは現場の植物プランクトンは紫外線の影響から1日以内で回復しえない場合もあることを示唆している。
 紫外線を含む現場の光環境を水中紫外線分光光度計と水中可視光分光光度計で解明した。従来よく測定されてきた青色光の消散係数から紫外線の消散係数の推定はある程度可能となった。紫外線の消散係数はクロロフィルa濃度に依存していた。外洋親潮海域では表面の紫外線放射量の1%は305nmで12.2m、320nmで16.0mまで到達していたが、厚岸湾では両波長とも1mにすぎなかった。これら紫外線の到達する層の有光層内に占める割合は外洋親潮海域で23〜30%、厚岸湾で16〜19%であり、植物プランクトンは紫外線UV−Bの増加の影響を外洋親潮水域でより受けやすいことが示唆された。
 過去の植物プランクトン種組成と当研究で得られた種組成にあまり変化が見られなかったことと本実験及び当研究で得られた光環境の結果から、現場の植物プランクトンは海水の鉛直混合等によって1日の昼夜の明暗周期を利用して紫外線の影響から回復していると示唆された。


[キーワード]

 植物プランクトン、紫外線UV−B、クロロフィルa、Tetraselmis sp.、消散係数