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[キーワード]感染症、人獣共通感染症、ストレス、人間活動、エコツーリズム

[F-061 大型類人猿の絶滅回避のための自然・社会環境に関する研究]

(3)大型類人猿の疾病と人間活動が大型類人猿の健康状態に与える影響についての研究[PDF](990KB)

  財団法人日本モンキーセンター

西田利貞・伊藤詞子

<研究協力者>

 

  財団法人日本モンキーセンター

郡山尚紀・松阪崇久・稲葉あぐみ

  中部学院大学

竹ノ下祐二

  山口大学

藤田志歩・川村誠輝・佐藤宏

  ㈱林原生物化学研究所 類人猿研究センター

座馬耕一郎

  大分大学

長谷川英男・森元梓・佐藤晶子

  目黒寄生虫館

巖城隆

  京都府立大学

牛田一成

  京都大学 大学院理学研究科

井上英治・久世濃子

  京都大学 野生動物研究センター

村山美穂

  京都大学 霊長類研究所

宮部貴子・景山節

  東京工業大学 生命理工学研究科

金森朝子

  ガボン共和国 熱帯生態学研究所

Ludovic Ngok Banak・Pierre Philippe ・Mbehang Nguema

  Wildlife Conservation Society,
  Global Health Program


Patricia Reed

  Virginia Polytechnic Institute

Taranjit Kaur

  Tanzania National Parks

Inyasi Lejora・Titus Mlengeya

  Tanzania Wildlife Research Institute

Julius Keyuu・Crispin Mwinuka

  [平成18~20年度合計予算額] 71,170千円(うち、平成20年度予算額 23,597千円)

[要旨]

  本サブテーマの目的は、人間活動が大型類人猿の健康状態に与える影響を明らかにし、大型類人猿をストレスや感染症から防御するための対策を構築することである。まず、アフリカとアジアの大型類人猿の生息地において、病原体試料の採取、検索、同定をおこなった。ヒト以外からの感染経路も考えられるため、近縁の霊長類も同様に調査した。これと並行して、野生大型類人猿の健康状態や疾病の一般症状の直接観察もおこなった。さらに、比較として飼育下の大型類人猿を対象に、ヒト由来病原体の暴露状況も調査した。また、エコツーリズム等の人間活動はストレスを誘発すると考えられることから、糞中コルチゾール濃度を測定し、ストレスの度合いを定量的に評価した。これらの調査の結果、大型類人猿の糞から人獣共通の寄生虫を含む多数の寄生虫が検出され、地域差が見られた。野生および飼育下のチンパンジーからヒトメタニューモウイルスが同定され、大型類人猿における人獣共通感染症の発生が証明された。チンパンジーの風邪様の症状は、観光客の多い雨期の終わりから乾期の始まりの時期に多かった。飼育個体からは多くのヒト由来病原体に対する抗体が検出され、野生個体を脅かす可能性のある新たな病原体について情報を得た。ストレスの指標となるコルチゾール濃度は、ゴリラが人に慣れるにつれていったん低下したものの、観察者とゴリラとの距離の短縮や、観察時間の延長によって再び増加した。飼育下のチンパンジーやゴリラでは、ストレス行動や糞中コルチゾール濃度は観客数と相関関係があった。本研究の結果は、これまで情報の少なかった野生大型類人猿の保有する病原体を定性的に網羅し、また彼らが被るストレスを定量的に示すことで、大型類人猿とヒトとの関わりを客観的に評価したものである。本研究は、大型類人猿の保護活動をおこなう生息国政府関係機関やNPO、エコツーリズムを実際におこなっている民間の観光業が、適切なガイドラインを設けることを可能にする。