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[キーワード]拡大シリカ欠損仮説、ボトムアップ効果、トップダウン効果・微生物食物網、生態系モデル

[D-061 流下栄養塩組成の人為的変化による東アジア縁辺海域の生態系変質の評価研究]

(2)漁業生態系モデルに基づいたN、P、Si組成比の海洋高次生態系への影響評価[PDF](531KB)

  独立行政法人水産総合研究センター
  瀬戸内海区水産研究所
  生産環境部 環境動態研究室


樽谷賢治

  [平成18~20年度合計予算額] 24,831千円(うち、平成20年度予算額 7,020千円)

[要旨]

  栄養塩組成比と食物網の構造および動態との関係および沿岸生態系の食物連鎖構造や漁業生産に対するボトムアップ効果とトップダウン効果の相対的な重要性について、既往知見のレビューを行い、関連する研究の現状と課題を整理した。また、既往データを用いて、瀬戸内海(播磨灘)における栄養塩濃度と漁獲量との関係について検討したところ、1990年代半ば以降、海水中の溶存態無機窒素(DIN)濃度が減少傾向にあり、それとほぼ同期した形でクロロフィルa濃度や漁獲量も減少傾向を示していた。このことから、1990年代半ば以降の瀬戸内海の一部の海域においては、窒素負荷量の減少に伴うDIN濃度の減少が植物プランクトン現存量の低下、さらには漁業生産の低迷に結びついている(すなわちボトムアップ効果)可能性が示唆された。さらに、トップダウン効果(漁獲圧の増加)とボトムアップ効果(大型植物プランクトンに対する小型植物プランクトンの比率の増加)を示す2つのシナリオを想定し、瀬戸内海(播磨灘)を対象に構築した平衡状態モデル(Ecopathモデル)を基に感度解析を行い、有用魚介類やクラゲ類等のゼラチン質動物プランクトンを含む生物群の現存量に及ぼす影響について検討した。感度解析の結果、漁獲圧の増加は、有用魚介類現存量(資源量)の減少とクラゲ類現存量の増加をもたらすことが推定された。一方、大型植物プランクトン(ケイ藻類)に対する小型植物プランクトン(鞭毛藻類)の比率を増加させたところ、漁獲圧の増加に対する応答と同様に、有用魚介類現存量が減少し、クラゲ類現存量が増加する結果となった(ただし、変化量は漁獲圧の増加に比べ小さい)。以上の結果から、漁獲圧の増加(トップダウン効果)のみならず、栄養塩動態(組成比)の変化に起因する餌料環境の変化(ボトムアップ効果)も魚介類、クラゲ類等の高次生物を含む海洋生態系を変質(劣化)させる可能性があることが確認された。