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[キーワード] オゾン、イネ、コムギ、収量、開放系実験

[C-062 東アジアの植生に対するオゾン濃度上昇のリスク評価と農作物への影響予測に関する研究]

(5)東アジアのオゾン濃度上昇が農作物に及ぼす影響の予測[PDF](501KB)

  東京大学 大学院農学生命科学研究科
  農学国際専攻  国際植物資源科学研究室


小林和彦

  東京大学 大学院農学生命科学研究科
  生物・環境工学専攻 生物環境情報工学研究室


大政謙次

<研究協力者>

 

  東京大学 大学院農学生命科学研究科

野内 勇

  独立行政法人海洋研究開発機構

滝川雅之

  東京大学 大学院農学生命科学研究科

PANG Jing

  東京大学 大学院農学生命科学研究科

伊藤真璃子

  東京大学 大学院農学生命科学研究科

大澤直也

  中国科学院 土壌科学研究所

ZHU Jianguo

  中国江蘇省 揚州大学農学院

WANG Yulong

  中国江蘇省 揚州大学農学院

YANG Lianxing

  中国江蘇省 揚州大学農学院

GUO Wenshan

  [平成18~20年度合計予算額] 147,381千円(うち、平成20年度予算額 43,849千円)

[要旨]

  中国江蘇省江都市近郊で、コムギとイネを対象にした世界最初の開放系オゾン暴露実験を行った。コムギのオゾン暴露期間の日中7時間平均オゾン濃度は、外気区の55 ppb(2007年)/ 54 ppb(2008年)に対して、オゾン増加区は73 ppb(2007年)/ 66 ppb(2008年)と、ほぼ32 %(2007年)/ 23 %(2008年)の濃度上昇であった。オゾン濃度上昇により、コムギの収量は2年間平均で17-27% 減少したが、主な原因は粒重の低下であった。収量へのオゾンの影響に品種間差はなかったが、粒重の低下には品種間差が見られた。イネの実験は、日本型品種1、インド型品種1、ハイブリッド品種2の計4品種で行った。田植え2週間後から成熟期までの日中7時間平均オゾン濃度は、外気区の42 ppb(2007年)/ 38 ppb (2008年)に対して、オゾン増加区は52 ppb(2007年)/ 47 ppb(2008年)とほぼ23 %の濃度上昇であった。この結果生じた減収に、品種間で弱い有意差が見られ、ハイブリッド品種(2品種平均で約19%)は有意であったが、通常品種は有意でなかった。品種間差は1穂あたりモミ数の減少で明瞭で、ハイブリッド品種の減少のみが有意であった。このように、開放系実験の結果は従来よりも大きな減収を示し、特にハイブリッド・イネ品種の減収が明らかに大きかった。実験結果に基づいて、2000年から2020年へのオゾン濃度上昇で生じる減収量を見積もったところ、コムギでは中国の生産量が17%、インドの生産量が16%減少するが、日本の生産量減少は2% 程度と推定された。これらは、従来方法での見積もり(中国が7%、インドは8%のいずれも減収)よりもかなり大きい。同様に、2000年を基準にした時の2020年のイネの減収は、従来の推定方法では約3%に過ぎないが、開放系実験結果からは、ハイブリッド品種で40%以上、通常品種でも15%以上と推定された。予測されるオゾン濃度上昇が開放系実験処理を上回るため、見積もりの信頼度は高くないが、ハイブリッド品種で20%をかなり超える減収が生じる可能性は高い。今後、実験を続けて推定精度を高める一方で、影響軽減対策を急ぐ必要がある。