検索画面へ Go Research


[キーワード] オゾン、イネ、コムギ、生理的応答、生化学的応答

[C-062 東アジアの植生に対するオゾン濃度上昇のリスク評価と農作物への影響予測に関する研究]

(4)オゾン濃度上昇に対する農作物の生理生化学的応答の解明[PDF](2,078KB)

  東京農工大学 大学院共生科学技術研究院

  伊豆田 猛

  [平成18~20年度合計予算額] 45,836千円(うち、平成20年度予算額 12,568千円)

[要旨]

  オゾン濃度上昇に対する農作物の生理生化学的応答を解明するために、イネとコムギに60 ppbまたは100 ppbのオゾンを暴露し、葉の生理生化学的応答を調べた。イネ(コシヒカリ)の葉の水蒸気気孔拡散コンダクタンスをオゾン暴露中に測定し、その測定値と測定時の光合成有効放射束密度、気温、大気飽差、時刻、出葉日からの日数またはオゾンのAOT0との関数を組み合わせて、水蒸気気孔拡散コンダクタンスの推定式を得た。この推定式を用いて算出したイネの葉の積算オゾン吸収量と純光合成速度との関係を解析した結果、オゾン吸収量の増加に伴って純光合成速度が低下することが明らかになった。一方、葉内の抗酸化物質のうち、アポプラスト中のアスコルビン酸の還元率は、積算オゾン吸収量の増加に伴って高くなることが明らかになった。しかしながら、1日のオゾン暴露によるイネの葉内細胞の膜脂質に対する害作用の程度は、オゾン暴露開始 1日目よりも32日目の方が著しかった。このことから、イネの葉において認められたオゾンによるアポプラスト中のアスコルビン酸の還元率の増加は、オゾンによる害作用を回避するには不十分であると考えられる。2品種(農林61号・シロガネコムギ)のコムギの葉のオゾンに対する生理生化学的応答を調べた結果、葉の純光合成速度、ルビスコ濃度・活性およびクロロフィル濃度がオゾンによって低下した。また、光合成におけるシロガネコムギのオゾン感受性は農林61号のそれよりも高く、その品種間差異には活性酸素消去能力の品種間差異が関係していることが明らかになった。特に、コムギの葉においては、CATおよびMDARが葉内で生成された活性酸素種を効率的に消去するために重要であることが明らかになった。以上の結果より、東アジアにおいて頻繁に観測されている比較的高濃度のオゾン条件下では、葉における活性酸素消去能力は純光合成速度、ルビスコ活性・濃度およびクロロフィル濃度の低下を回避するには不十分であることが明らかになった。