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[キーワード] オゾン、フラックス、沈着速度、イネ、コムギ

[C-062 東アジアの植生に対するオゾン濃度上昇のリスク評価と農作物への影響予測に関する研究]

(1)植生へのオゾン沈着量の観測[PDF](658KB)

  独立行政法人農業環境技術研究所
  大気環境研究領域


  宮田 明

<研究協力者>

 

  農業環境技術研究所

  間野正美

  中国科学院 土壌科学研究所

  ZHU Jianguo

  [平成18~20年度合計予算額] 25,048千円(うち、平成20年度予算額 7,160千円)

[要旨]

  東アジアでは、窒素酸化物等の放出量増大にともなう地表オゾン濃度の上昇により、自然植生や農作物への悪影響が予測される。本サブテーマでは、オゾン吸収量に基づく植生への影響評価で必要とされる東アジアの代表的な植生へのオゾン沈着量を実測し、沈着速度のパラメタリゼーションやプロセスモデルの開発に必要なデータを取得することを目的とした。このため、揚子江下流域に位置する中国江蘇省江都市郊外のイネ、コムギ二毛作地帯で、2007年と2008年の両年、オゾンフラックスの観測を実施した。昼間のオゾン濃度は3月頃から徐々に上昇し、コムギの収穫期にあたる5月下旬と、イネの生育期間前半にあたり年最高気温が記録された7月に、100 ppbを越える高濃度が出現した。年間を通じて、オゾン濃度は14時から16時頃に極大、6時頃に極小となる明瞭な日変化を示し、オゾンの沈着フラックスは12時頃を中心とする緩やかな極大値を示した。イネの生育期間のオゾン沈着速度は植物の成長にともなう季節変化を示し、湛水直後は日平均値で0.05cm s-1と観測期間中の最小値を示したが、イネの成長とともに日中の沈着速度が増加し、登熟期には日最大値が約0.8 cm s-1に達した。一方、コムギの出穂期から登熟期の沈着速度の日最大値は0.5~0.6 cm s-1であり、コムギの収穫後にも非生物過程により収穫期に匹敵する沈着速度が観測された。昼夜の群落コンダクタンスの違いから推定した気孔によるオゾン吸収量の全沈着量に対する割合は、2007年のコムギの生育期間後半(出穂~収穫)は66%であり、2008年のイネの生育期間については、前半(移植~出穂)の方が後半よりも気孔による吸収の割合が高く、生育期間全体では59%であった。2008年のイネの全生育期間のオゾン吸収量は約19 mmol m-2で、その55%は移植から出穂期までに吸収されたと推定される。以上のように、本研究により、コムギの生育期間後半と、これまで観測データが不足していたイネの全生育期間にわたるオゾンフラックスの実測値や、沈着速度のパラメタリゼーションに必要なデータが得られた。