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[キーワード]山岳湖沼、食物網、安定同位体分析、地理情報システム、陸上有機物

[F-052 生物相互作用に着目した高山・亜高山生態系の脆弱性評価システムの構築に関する研究]

(3) 陸系-水系間の物質フローが水系の食物網構造に及ぼす影響の解析[PDF](465KB)

  山梨大学工学部

岩田智也

<研究協力者>

  京都大学生態学研究センター

高津文人

  [平成17~19年度合計予算額]  10,780千円(うち、平成19年度予算額 3,380千円)

[要旨]

  温暖化は陸上生態系の植物群落構造を変化させるだけでなく、陸上由来の炭素をエネルギー源としている水系食物網にも波及効果を及ぼす。とくに、温度上昇に脆弱と考えられる山岳地生態系では、陸上植生の変化に湖沼の生物群集も敏感に応答する可能性がある。しかし、山岳湖沼食物網の陸上炭素への依存特性はほとんどわかっていない。そこで本研究は、本州中部地域から北海道にいたる高山・亜高山帯の山岳湖沼を対象に、安定同位体による食物網解析とGISによる空間構造解析から湖沼群集の陸上炭素への依存特性を明らかにし、陸域環境変化に脆弱な山岳湖沼の地理的特徴を明らかにすることを目的とした。解析の結果、小湖沼ほど集水域や陸域との接点が相対的に大きく、陸上有機物が大量に流入していることを明らかにした。また、このような小湖沼では陸起源の有機物が沿岸帯の無脊椎動物群集を維持する主要なエネルギー源となっていることを示した。一方、沖帯のプランクトン群集では主に微生物が炭素循環を駆動していたが、これらも陸上有機物を呼吸基質として利用している可能性を示した。このように複数の経路を通過しながら陸上有機物は湖沼生態系全体を流れており、陸域からのエネルギー補給はとくに小型山岳湖沼の生物多様性維持に不可欠であると考えられた。このことは、小規模な湿原・池塘の食物網ほど温暖化等による植生分布や水体サイズの変化に敏感に応答する可能性を示している。