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[キーワード]温暖化、森林、種間相互作用、高山植物、湖沼

[F-052 生物相互作用に着目した高山・亜高山生態系の脆弱性評価システムの構築に関する研究]

(2)大雪山系・阿寒山系における高山生態系・亜高山針葉樹林生態系の研究[PDF](1,478KB)

  北海道大学大学院地球環境科学研究院

工藤 岳・甲山隆司・久保拓弥

  北海道大学低温科学研究所

福井 学

<研究協力者>

  北海道大学大学院地球環境科学研究院

長谷川成明・亀山慶晃・平尾 章

  北海道大学低温科学研究所

小島 久弥

  [平成17~19年度合計予算額] 42,900千円(うち、平成19年度予算額 14,040千円)

[要旨]

   山岳生態系生物群集の構造、動態、ならびに生態機能を明らかにするために、高山植物の野外温暖化実験、雪解け傾度に沿った高山植物の空間的遺伝構造、高山植物集団の維持機構、亜高山アカエゾマツ個体群の年輪解析、湖沼生態系のバクテリア群集構造解析を行った。
  温暖処理により植生高とバイオマスがともに増加する傾向が見られたが、その応答は標高やハビタットタイプにより大きく異なっていた。特に影響が顕著だったのは低標高の風衝地群集で、続いて高標高の風衝地群集であった。雪田群集では温暖処理の影響は小さく、雪解けの遅い場所では7年間の実験で影響は検出されなかった。雪田草本のエゾコザクラは、集団内の開花は消雪時期に沿って6月下旬から8月中旬まで続き、開花時期の異相による花粉散布の制限によって血縁構造が形成されていた。アオノツガザクラの分布は花粉媒介者を介して同所的に生育するコエゾツガザクラの影響を強く受けていることが明らかにされた。
  雄阿寒岳の亜高山林で異なる標高3箇所(500,800、1100m)に調査地を設置し、各地点100個体についてアカエゾマツの年輪解析を行い、過去40-150年の直径成長の履歴を得た。平均直径成長量と年平均気温、年降水量との相関関係を調べたところ、夏季の累積気温は成長量と負の相関を示し、冬季の積雪量は成長と正の相関を示した。高標高の個体群はもっとも気象変動に鋭敏に反応した。以上の結果は、亜高山帯針葉樹林が気候変動に対して敏感であることを示した。森林限界は温暖化に伴って上昇せず、かえって下降すると予測した。
  山岳湖沼に特異的なバクテリア群集構造が存在し、その成立に塩濃度とpHが影響している可能性を示した。山岳湖沼バクテリア群集を特徴付ける代表的なバクテリアはいずれも陸域由来有機物を利用していることが示唆された。山岳湖沼に特異的な微生物群集が持つ機能としては、陸域と水界のリンクとしての役割が重要なものであると考えられた。