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[キーワード]温暖化、湿原群落、種間相互作用、高山植物、湖沼

[F-052 生物相互作用に着目した高山・亜高山生態系の脆弱性評価システムの構築に関する研究]

(1)八甲田山系における高層湿原生態系の研究[PDF](948KB)

  東北大学大学院生命科学研究科

占部城太郎・彦坂幸毅・河田雅圭

<研究協力者>

  東北大学大学院生命科学研究科

及川真平・小泉やよい・松島野枝
神山千穂・鈴木孝男・八神遙介
高橋彰子・加藤聡史・米倉浩二
長田典之

  [平成17~19年度合計予算額] 55,532千円(うち、平成19年度予算額 15,744千円)

[要旨]

   高山・亜高山生態系脆弱性の解明へのアプローチとして、高層湿原植物群落と山岳湖沼生物群集を対象に研究を行った。高層湿原植物群落については、異なる標高に成立する高層湿原を対象に植物種間の資源をめぐる競争と獲得した資源の利用について比較解析を行った。その結果、高層湿原の植物群集構造は標高によって異なり、高標高では常緑種の種数やバイオマス占有率が高いことを明らかにした。さらに、常緑種は落葉種が展葉していない雪解け後に多くの光を獲得し、落葉種と同等の光獲得効率を持つことが明らかとなった。これらの結果から、常緑種は落葉種の生育期間が短いほど相対的に有利になり、高標高でバイオマスが多いことが示唆された。温暖化により融雪が早まり生育期間が延長されれば、常緑種は相対的に不利になり、存続が危ぶまれる種も出現することが危惧された。
  山岳湖沼については、水質と生物群集の把握を行うとともに、高山特有の生物群集の成立に支配的な影響を及ぼす環境要因の抽出を行った。調査を行った高山・亜高山帯湖沼の多くは平地湖沼に比べ貧栄養であったが、リンに比べ窒素が多く、その原因として大気降下物による負荷の可能性が伺われた。動物プランクトン群集はD. dentiferaなど平地湖沼には分布していない少数の大型動物プランクトン種によって構成されていた。これら調査湖沼の比較解析から、温暖化にともなって動植物プランクトンともに生物量は増加すること、ただし高山湖沼特有の生物群集は温度上昇よりもむしろその間接効果である魚類の分布拡大や植生・土地利用に起因する栄養状態の変化により大きな影響を受けることが示唆された。また、側所的に分布する近縁2種が温暖化により接触するようになった場合、中立形質以外の適応的な形質の浸透により高緯度・高標高に分布する生物種が消滅して行く危険性も示唆された。湖沼など不連続分布している生態系では、温暖化に際して、特に魚類など自然分布していない生物の人為的移動が深刻な影響を及ぼすことを指摘した。