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[キーワード] 酸性化、中国、大気沈着、異なる気候帯、森林集水域

[C-052 酸性物質の負荷が東アジア集水域の生態系に与える影響の総合的評価に関する研究]

(2)東アジアの異なる森林生態系における生態系構成要素の測定に基づく酸性物質循環の解析[PDF](395KB)

  東京農工大学 

楊 宗興

<研究協力者>

 

  東京農工大学

磯貝ゆりか

  中国科学院東北地理与農業生態研究所

Dexuan Wang

  中国科学院華南植物研究所

Jiangming Mo、Yunting Fang

  [平成17~19年度合計予算額] 11,902千円(うち、平成19年度予算額 3,904千円)

[要旨]

  東アジアでは人間活動由来の大気沈着物負荷が急速に増加しており、森林生態系へのインパクトを正確に理解することは重要である。酸性原因物質に対する生態系の感受性は、気候に影響を受けて形成される土壌タイプの違いによって大きく異なると予想される。しかし、このような土壌生成学的要因を結びつけて詳細に研究した例はこれまでほとんどなかった。そこで、中国の亜熱帯域と亜寒帯域、わが国の温帯域を含む計6地域を対象に、最深部までの土壌の化学性、集水域渓流河川の水質、また集水域における塩基収支等について研究を行った。その結果、土壌の塩基成分含量および酸性度には、亜寒帯、温帯、亜熱帯の系列に沿って大きく系統的な変化が認められた。亜熱帯域の塩基成分含量は温帯、亜熱帯の1-6%でしかなく、亜熱帯域生態系の酸性化に対する基本的な感受性の高さが実証された。亜熱帯の一つの森林集水域における渓流河川のpHは3.9と異例の酸性を示し、土壌最深部のpHも3.9-4.1であり、いずれも高濃度の溶存Alが含まれていた。このような状況が大気沈着物によってもたらされたものである確証を得るため、同じ気候帯、土壌タイプであるが広州市からの距離の異なる生態系系列(広域トランゼクト)を設定して比較調査した。その結果、産業の中心地である広州市に接近するほど河川のpHの低下、硝酸イオン濃度と溶存Al濃度の上昇が生じており、それと符合する系統的な化学性変化が土壌にも見出された。酸性の顕著な集水域で塩基収支を検討した結果、河川による塩基の流亡が大気沈着および風化からの補給を大きく上回っていること、数十年程の時間で土壌から塩基が完全に枯渇しうることが示された。中国亜熱帯域は、多量の酸性原因物質の負荷と本来の生態系の脆弱性のために、欧米とは異なる極限に近い酸性化が生じ始めていることが明らかになった。