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[キーワード]極渦、孤立性、オゾン破壊、化学輸送モデル、時間閾値解析

[A-10 衛星観測データを利用した極域オゾン層破壊の機構解明に関する研究]

(4)化学輸送モデルを用いた極域オゾン破壊に関する研究[PDF](719KB)

  独立行政法人国立環境研究所
  大気圏環境研究領域 大気物理研究室


秋吉英治

  独立行政法人国立環境研究所
  大気圏環境研究領域 大気物理研究室


杉田考史

  独立行政法人国立環境研究所
  アジア自然共生研究グループ
  広域大気モデリング研究室


菅田誠治

  名古屋大学大学院環境学研究科

神沢 博

<研究協力者>

 

  独立行政法人国立環境研究所
  成層圏オゾン層変動研究プロジェクト
  オゾン層モデリング研究チーム


吉識宗佳

  [平成16~18年度合計予算額] 21,200千円(うち、平成18年度予算額 6,200千円)

[要旨]

  オゾン破壊を起こす極渦大気が、周囲の大気からどの程度孤立した状態にあるのかを調べるため、化学輸送モデルを用いた数値実験と時間閾値解析法によって、極渦大気の水平方向と鉛直方向の輸送量の解析を、ILASの観測データが存在する1997年について行った。時間閾値解析法によって、1997年1月1日~4月30日の期間中、極渦内からその外側への空気塊の4回にわたる大流出イベントがあったことがわかった。同じ年の南極渦では時間解析閾値法によってこのような流出イベントは見つからなかったことから、非常に安定していた1997年の北極渦でさえも、南極に比べると水平方向の極渦内外の空気の交換は大きいことがわかった。極渦内外空気の水平方向の混合によって、極渦の境界のすぐ外側の55°~65°Nの等価緯度帯では、450 Kの高度で20~25%、365-525 Kの下部成層圏の範囲では、15 DU程度オゾン濃度が低下することがわかった。次に鉛直方向の輸送に関しては、時間閾値解析法によって極渦空気の鉛直フラックスを計算した。その結果、1月~4月の期間の下降流速度の平均値として約1.6 km/monthの値が得られた。極渦空気の孤立性は、このような冬の間の極渦内外の空気の水平方向の混合と、鉛直方向の輸送によって決定されるが、1997年の北極渦の場合、水平方向の極渦空気の入れ替わりは鉛直方向に比べて一桁小さいことがわかった。また、上述の極渦内鉛直速度では北極渦が成立している4~5ヶ月の間に極渦内の空気がすべて入れ替わってしまうことはないことが示唆される。つまり、北極渦は極渦の周りの大気に対してオゾン濃度減少のFlowing Processorとして完全に働いているわけではないことがわかった。しかしながら、極渦周辺の限られた等価緯度帯では極渦成立中にオゾン濃度低下の影響を起こしており、この部分はFlowing Processorとしての働きをしている。一方、1997年5月上旬の北極渦崩壊時には極渦内のオゾン濃度が低下した空気を周囲にばらまくのでContainment Vesselとしての特性も持ち合わせている。以上の結果はAkiyoshi et al. (2006, JGR)に発表された。