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[F―4 高度情報・通信技術を用いた渡り鳥の移動経路と生息環境の解析および評価に関する研究]

(2)衛星追跡による鳥類の渡り経路選択の機構解明に関する研究

東京大学大学院農学生命科学研究科生物多様性科学研究室

樋口広芳

〈研究協力者〉東京大学大学院農学生命科学研究科生物多様性科学研究室

         藤田 剛,森下英美子,守屋恵美子

   

[平成13〜15年度合計予算額]

 平成13〜15年度合計予算額 50,043千円
 (うち、平成15年度予算額 16,319千円)
 

[要旨]

 ツル類およびタカ類を対象に、渡り経路、経時移動様式、経路選択について解析を行なった。対象となったの
はマナヅル5羽、サシバ4羽、ハチクマ3羽である。
 マナヅルについては、実際に選択された経路上と繁殖地から越冬地までの最短距離上にある湿地や草地の面積、
および実際に選択された経路上と各中継地点から越冬地までの最短経路上にある湿地と草地の面積を比較し、実
際に選んだ経路の方に対象環境がより多く存在することを明らかにした。マナヅルは最短距離を渡るよりも、好
適な生息地がより多く存在する経路を選んで渡っていると考えられる。
 サシバについては、越冬地と繁殖地間の往復の経路を比較した結果、北上と南下はほぼ同じ経路をたどるが、
部分的に異なる地域を通過すること、同一個体の北上経路は年が異なってもほぼ同じであることが明らかになっ
た。春の北上は秋の南下よりも短時間で終着点まで到達することが多く、繁殖地により早く到着することが重要
であると考えられた。春秋ともに、内陸を渡るさいには山岳の間を流れる大きな河川沿いに移動する傾向があっ
た。山腹斜面に発生する上昇気流を利用しているのではないかと考えられる。
 ハチクマは秋、サシバと違って中国大陸を南下してマレー半島を経由し、インドネシアやフィリピンに到達す
るという、大きな迂回経路をたどった。春の北上では、はじめは秋の南下経路を逆にたどるが、途中から大きく
ずれて朝鮮半島北部に向かい、その後、朝鮮半島を南下して九州に入り、東進して繁殖地に戻る、非常に大きな
迂回経路をとった。春のこの渡り経路は、これまでどの鳥でも知られていなかったものである。なぜ、このよう
な経路をとるのかは明らかではないが、食物や気象の条件と関係している可能性がある。幼鳥は日本には戻らず、
マレー半島にとどまった。

[キーワード]

 マナヅル、サシバ、ハチクマ、衛星追跡、渡り経路選択