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[B−3 アジアフラックスネットワークの確立による東アジア生態系の炭素固定量把握に関する研究]

(4)観測データベースに基づくモデル化と炭素収支の数値把握に関する研究


独立行政法人森林総合研究所

 気象環境研究領域

気象研究室

大谷義一

 植物生態研究領域

物質生産研究室

千葉幸弘・川崎達郎・荒木真岳

独立行政法人産業技術総合研究所

 環境管理研究部門

山本晋

 環境管理研究部門

大気環境評価研究グループ

近藤裕昭・蒲生稔・村山昌平・三枝信子


[合計予算額]

 平成12〜14年度合計予算額 20,799千円
 (うち、平成14年度予算額 7,005千円)

[要旨]

 アジアフラックス観測サイトの一つである岐阜県高山市郊外の冷温帯落葉広葉樹林(高山サイト)において、1993年以降行っている空気力学的方法と1998年に開始した渦相関法を用いて、1994年から2001年にわたる8年間の生態系純生産量(NEP)を求めた[B3(1)]。得られた観測データは、分散型データベースシステム"Ecosystem Database in AIST"で公開中(一部公開準備中)である[B3(3)]。観測されたデータを用いて生態系炭素収支を推定するモデルを構築した。このモデルでは、夜間の生態系呼吸Recを気温の関数とし、光合成総生産量GPPを樹冠で吸収された光合成有効放射量APARの関数とし、生態系純生産量NEPをGPPとRecの和とする。このモデルを用いて、高山サイトの森林炭素収支各項に関する季節変化と年々変化を引き起こす要因を解析した。
 同じく、アジアフラックス観測サイトに属する山梨県富士吉田市の冷温帯常緑針葉樹林(富士吉田サイト、アカマツ林)において、1999年8月以降行っている渦相関法によるタワーフラックス観測結果を解析し、森林の生態系純生産量を求めた[B3(1)]。タワーフラックス観測および、関連する微気象観測データのデータベース化にあたり、公開用データと生の観測データを機能的に関連づけタワーフラックス観測結果の解析を支援する、時系列データに特化した新たなデータベース管理システムを開発した。この観測データベースを用いて、生態系純生産量の推定モデルを作成し、生態系純生産量の年々変動とその要因について解析した。
 また、富士吉田サイトのアカマツ林を対象として、群落上で計測されるCO2フラックス観測データとの整合性を図るため、林冠光合成量と呼吸量等の物質生産プロセスを解明して、季節的な環境要因に対する応答機構を組み込んだCO2収支モデルの開発に向け、炭素循環プロセスのパラメータの測定とその定量化を行った。観測用の樹冠アクセスタワーを利用して、当年生と1年生の針葉の光合成パラメータについて、樹冠内の位置による変異を分析して、樹冠内の光環境と葉内窒素含量が光合成速度に及ぼす効果を明らかにした。また光合成の生化学モデルで重要なパラメータであるRuBPカルボキシラーゼ最大活性(Vcmax)と最大電子伝達能力(Jmax)の樹冠内での違いや季節変化等についても解析して、光や温度など樹冠内の微気象要因との関連を解明した。また、葉群を支える樹冠構造とその動態の解明を目的として、枝シュートの空間構造や齢構造を解析して、樹冠の発達過程を復元・モデル化するための解析を行った。それらの結果をもとに、個体ベースの光合成量を評価し、妥当な結果が得られた。樹幹呼吸速度については樹幹部位による違いや温度依存性の分析を継続的に進めており、林冠光合成とあわせて群落CO2収支の評価に向けてデータが蓄積されつつある。


[キーワード]

 冷温帯落葉広葉樹林、常緑針葉樹林、観測データベース、生態系炭素収支、年々変動