検索画面に戻る Go Research



(1.4Mb)

[K−1 陸域生態系の吸収源機能評価に関する研究]

(3)人為的活動による農耕地における炭素収支変動の評価


独立行政法人農業環境技術研究所

 

 地球環境部 生態システム研究グループ

 

  食料生産予測チーム

白戸康人・谷山一郎

袴田共之(現農業工学研究所)

(研究協力機関)独立行政法人国際農林水産業研究センター

環境資源部

松本成夫(前農業環境技術研究所)

東京大学農学生命科学研究科

米山忠克

静岡大学農学部 人間環境科学科

早野恒一

豊橋技術科学大学工学部

後藤尚弘


[平成11〜13年度合計予算額]

 平成11〜13年度合計予算額 38,198千円
 (うち、平成13年度予算額 11,881千円)

[要旨]

 石垣,徳之島および浜頓別で採取した土壌Penicilliumのセルラーゼ活性の最適温度f(x)は年平均気温(x)と相関(r=0.565*)し、f(x)=0.17x+58.1の一次回帰の関係があった。他方、土壌菌セルラーゼ活性のQ10は年平均気温と相関せず2.0近傍であった。セルロース濾紙片の分解のQ10は北の方がより大きく温暖化の影響を受けた。腐植や粘土含量がセルロースの分解に及ぼす影響は、腐植酸が拮抗型、ベントナイトおよびカオリンは非拮抗型、アロフェンは混合型でいずれもセルラーゼ活性を阻害した。
 土壌有機炭素のδ13C値はその場の過去現在の植生(C3植物、C4植物)の影響をうけていた。1)δ13C値を用いて林地のサトウキビヘの変換後の年数(x)に伴う土壌炭素量(y)の減少は、タイ東北地域でy=1.O+2.8exp(−0.63x),半減期1.1年、タイ中央平原地域ではy=4.2+13.2exp(−0.14x),半減期5.O年となった。他方、サトウキビ由来炭素の集積は、東北地域で約5年で平衡値2.7mg/g乾重、中央平原地域では約20年で平衡値7.Omg/g乾重となった。2)フィリピンでは、林地のサトウキビ畑化によって林地起源炭素が減少し(半減期約2年)、サトウキビ起源炭素が集積した。3)日本各地の農耕地及び森林土壌のC含有率とδ13C値にっいてはじめて実態をまとめた。
 タイ国コンケンにおいて、耕犀法や施肥法の変化が農耕地土壌炭素の蓄積に及ぼす影響を明らかにするため、トウモロコシ畑で慣行栽培、牛糞施用および不耕起栽培を行い、炭素収支を測定した結果、開始2年間の炭素蓄積量は、対照区、牛糞区、不耕起区でそれぞれ年間−0.1±O.1、+3.8±0,3、+O.7±0.2t ha-1増加した。これら増加量の試験開始前の土壌炭素蓄積量に対する割合は、それぞれ−1、+26、+4%であった。炭素収支を解析したところ、牛糞施用により、牛糞の炭素供給だけでなく、植物根からの炭素供給が増大し、土壌炭素蓄積量の増加をもたらしたと推測された。
 ローザムステッド・カーボン・モデル(Roth-Cモデル)を日本の農耕地土壌に適用したところ,非黒ボク土畑では土壌炭素蓄積量変化の予測値が実測値に精度良く適合した。黒ボク土畑土壌では予測値が実測値を大きく下回ったが,活性アルミニウムが腐植を安定化させていることに着目してモデルを改良した結果,精度が向上した。日本全国の畑土壌において炭素投入量を現在よりも0.5〜1tC/ha/年増加させた場合の土壌炭素蓄積量の変化を予測したところ,全畑土壌で炭素量がlO年後までに2.2〜4.4Mt,50年後までに5.6〜11.1Mt増加するという結果が得られ,農耕地土壌も管理によっては大きな吸収源になることが示された。
 Roth-Cモデルを使用して、次のようなアクティビティの実行による土壌炭素変化量を推計した。シナリオ1:農作物残渣の農地還元量を総発生量の35%から50%に増加。シナリオ2:肥料の施用面積を10%から20%に増大。シナリオ3:不耕起栽培を全農耕地の10%で実施。各アクティビティ実施による目標削減量に占める農耕地における削減量の割合は、シナリオ1、2、3の各々に対し、日本:4.7%、2.4%、O.7%、アメリカ:24.5%、16.8%、4.3%、EU:22.9%、13.7%、3.7%であった。この結果から、アクティビティの実施は二酸化炭素の削減手段として有効であった。これらの中では残渣の農地還元量を増加したシナリオ1が最も効果的であった。土壌炭素量は面積に大きく依存するため、アクティビティによる吸収分の計上は広い農耕地を持つ国にとって、より有効といえる。


[キーワード]

 土壌有機炭素、農耕地土壌、安定同位体存在比、セルロース分解、炭素動態モデル