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[E−1 熱帯林の持続的管理の最適化に関する研究]

(3)森林の荒廃が多様性の維持機能に及ぼす影響


独立行政法人国立環境研究所

 

生物圏環境研究領域 熱帯生態系保全研究室

奥田敏統・唐艶鴻

西村千・吉田圭一郎

鈴木万里子・沼田真也

財団法人自然環境研究センター

市河三英・佐藤香織


[平成11〜13年度合計予算額]

 平成ll〜13年度合計予算額 56,029千円
 (うち、平成13年度予算額 18,292千円)

[要旨]

森林伐採が生物多様性の維持機構に対してどのような影響を及ぼすかについて、幾つかの現地調査を用いて検討した。第一に、択伐が引き起こす森林の物理的変化を明らかにするため、異なる択伐履歴を持つ森林を対象に構造比較を行った。その結果、択伐直後に多くの損傷木や土壌の劣化が確認され、数十年経った森林においてもなお、森林構造や林内環境に対して影響がみられることが示唆された。第二に、森林伐採が樹木の繁殖機構に及ぼす影響を明らかにするため、伐採対象樹種であり、特異な繁殖リズムを持つフタバガキ科の開花、結実フェノロジーの調査を行った。その結果、比較的開花しやすい種と開花しにくい種が存在すること、また、開花頻度の低い樹種については規模の小さい一斉開花の場合において実生定着が困難であることが予測された。天然林、履歴の異なる択伐林の開花、結実頻度を比較した結果、新規に伐採が行われた択伐林の残存木の中での開花頻度は、天然林との間に差は見られないものの、個体密度が高いほど開花個体密度も高くなることが示唆された。第三に、森林内に生育する稚樹の更新様式を生態学的、遺伝学的手法を用いて解析し、択伐が樹木の世代交代に対して与える影響を検討した。その結果、同所的に共存し、系統的に近い植物群においても、様々な更新様式がみられるだけでなく、その更新様式には近親交配による遺伝的影響を受けている可能性が示唆された。そのため、今後、生態学的、遺伝学的研究を発展させ、複雑な種特異性を考慮した択伐による影響予測を行う必要があると考えられる。以上から、択伐による影響は森林の物理的構造の変化に伴う直接的なものに加え、将来の世代交代に対して影響を与え続ける間接的な影響が混在するため、生態学的、遺伝学的手法を発展させ、複雑な種特異性を考慮した択伐による影響予測を行うことで、森林の生物多様性を保全する管理指針を提示することが可能になると考えられる。


[キーワード]

 生物多様性、熱帯低地林、森林構造、択伐、森林動態