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[E−1 熱帯林の持続的管理の最適化に関する研究]

(2)二次林化及び森林の分断化が森林群落の動態及び野生生物の生態に及ぼす影響


独立行政法人 森林総合研究所

森林植生研究領域 群落動態研究室

新山馨

独立行政法人 森林総合研究所

 

 

森林遺伝研究領域

ゲノム解析研究室

津村義彦

野生動物研究領域

鳥獣生態研究室

安田雅俊

北海道支所

チーム長

田内裕之

九州支所

森林生態系研究グループ

佐藤保


[平成11〜13年度合計予算額]

 平成ll〜13年度合計予算額 46,029千円
 (平成13年度合計予算額 14,181千円)

[要旨]

伐採による二次林化および分断化が森林群落の動態及び野生生物種の生態に及ぼす影響を明らかにするため、マレーシア半島の丘陵フタバガキ林に設置した天然林と択伐林の2つの試験地と、低地フタバガキ林のコアエリアとバッファーゾーンに設置した3つの試験地で研究を行った。丘陵フタバガキ林の優占種であるShorea curtisiiは胸高直径が50cmを越えると高い割合で開花するが、択伐林では、50cm以上の個体が少なく、遺伝子の交流が制限されていた。天然林での平均他殖率96%に対し、択伐林では52%と他殖率が明らかに低かった。花粉流動距離をDNAで分析すると、天然林で平均28.3m、択伐林では平均102.Omであった。これを基に繁殖単位面積(遺伝子の流動が行われる範囲)を算出するとShorea curtisiiの繁殖単位面積は天然林(6.3ha)より、択伐林(4.8ha)の方が狭かった。これは択伐林で自殖率が高く、遺伝子フローが制限されているためである。低地フタバガキ天然林の代表的なフタバガキ科樹種Neobalanocarpus heimiiは母樹密度が低いが(0.71本/ha)、広い繁殖単位面積(86.3ha)を持っていた。またN.heimii種子には翼がないのに、母樹の樹冠下に他母樹の種子が平均で16%含まれていた。これは樹上性小型哺乳類がN.heimiiのように翼のない樹種の種子散布に重要な役割を果たしていることを示している。このような種子散布で生じる空間的な遺伝構造を、フタバガキ科3種の中で比較した。Hopea dryobalanoidesは強い遺伝構造を持つが、S.pervifoliaは遺伝構造が弱く、S.acuminataでは有意な遺伝構造が検出されなかった。1974年に部分的に伐採された二次林(0.2ha)での更新状態をみると、Shorea lepulosulaは8個体が既に胸高直径5cmを越えていたがN.heimiは胸高直径5cmを越えた個体は1個体もなかった。このように同じフタバガキ科の樹種でも、種子散布、繁殖単位面積や遺伝構造、伐採後の二次林での更新可能性に大きな違いがあることが明らかになった。樹上性小型哺乳類の組成は天然林と二次林では異なっており、択伐後45年を経ても天然林と択伐林では森林の林冠構造が異なり、小型哺乳類の組成と行動に影響が残っていた。


[キーワード]

 遺伝的構造、樹上性小型哺乳類、択伐、二次林、繁殖面積