検索画面に戻る Go Research



(1.3Mb)

[E−1 熱帯林の持続的管理の最適化に関する研究]

(1)森林の荒廃が生物生産機能及び物質循環系に及ぼす影響


独立行政法人国立環境研究所

 

生物圏環境研究領域 熱帯生態系保全研究室

奥田敏統・唐艶鴻

星崎和彦(現秋田県立大学)

西村千・吉田圭一郎・沼田真也

鈴木万里子

岐阜大学流域環境研究センター

小泉博・安立美奈子

生物資源科学部

 

島根大学農学部

山下多聞

都留文科大学文学部

別宮由紀子

自然環境研究センター

市河三英・佐藤香織


[平成11〜13年度合計予算額]

 平成ll〜13年度合計予算額 58,892千円
 (うち、平成13年度予算額 18,690千円)

[要旨]

 本研究では熱帯林の炭素吸収能を適切に評価するために、森林生態系全体に吸収された炭素量と生態系全体から放出された炭素量を定量することを目的とした。マレーシア半島部のパソ保護林において人為攪乱を受けていない天然林と択伐後の再生途中にある再生林を選び、両者の炭素循環について調べ、系内に固定された炭素量を比較した。両者の系で共通な炭素循環を表すコンパートメントモデルを構築し、コンパートメント間の炭素フローを表すフラックスを算出した。求めたフラックスから、それぞれの林分の純一次生産量(Net Primary Production,NPP)と生態系純生産量(Net Ecosystem Productivity,NEP)を算出した。
 天然林と再生林のNEPはそれぞれ、-1.29MgC・ha-1・yr-1と1.34MgC・ha-1・yr-1でほぼゼロに等しかった。両者の森林の炭素循環で大きく異なっていた点は、天然林では枯死によるバイオマスの損失が大きく、再生林では成長によるバイオマス増加量が大きかったことである。その結果、天然林のNPP(8.85MgC・ha-1・yr-1)は再生林(ll.73MgC・ha-1.yr-1)の75%であった。次の点では両者の森林の炭素循環は似通っていた。すなわち表層のリターから直接発生する二酸化炭素量(3.5MgC・ha-1・yr-1)は、鉱質土から発生する量(6.6MgC・ha-1・yr-1)に比べて小さかった。また、各タイプのリターの中では、葉リターが分解後の土壌有機物増加・大気中二酸化炭素増加の両方に最も大きく貢献した。表層リターから土壌有機物へのフラックスは、表層から大気へのそれらに比べると全般的に小さかった。リターの分解残渣中の炭素量はNPPの34-88%に相当し、系内で分解中の炭素リザーバーとしての機能を持っていた。
 以上のことより、現状では、パソ保護林の天然生林分は二酸化炭素放出源として、再生林分は二酸化炭素吸収源として、それぞれ機能していると考えられるが、その効果は微々たるものと考えられ、これらの林分は景観レベルでの炭素蓄積にとって中立的であると考えた方がよい。


[キーワード]

 熱帯林、炭素蓄積機能、現存量、成長量、分解量