検索画面に戻る Go Research



(1.32MB)

[B−56 二酸化炭素の海洋固定化に関する研究]

(1)回収二酸化炭素の深海底貯留法の評価に関する研究

①回収二酸化炭素の深海底貯留法の評価に関する研究


[国土交通省船舶技術研究所]

 大阪支所    支所長

●綾 威雄

           艤装研究室

●山根健次 ・ 小島隆志 ・ 伊飼通明

 機関動力部   部長

●波江貞弘

           燃焼伝熱研究室

●熊倉孝尚 ・ 川越陽一

           蒸気動力研究室

●汐崎浩毅

 原子力技術部 安全性研究室

●稲坂冨士夫


[平成10〜12年度合計予算額]

27,565千円

(うち、平成12年度予算額 9,230千円)

[要旨]

 深海底貯留法は 3500 m以深の深海底窪地を対象とするもので、この水深では液体二酸化炭素が二酸化炭素飽和海水より重くなり、安定に貯留できるほか、上方に二酸化炭素溶解海水の密度成層が形成され、表層への二酸化炭素の移動が抑制されるため、海洋環境への影響が限定されるとともに、二酸化炭素の隔離期間として海洋鉛直循環周期に当たる 2000 年以上が期待できる。
 平成8〜9年度のFS課題「二酸化炭素の分離および深海貯留技術の評価に関する予備的研究」において製作した深度 4000 m対応の循環型深海模擬装置を用い、ディヌーイ型表面張力計を押し込み方式に改良することにより、貯留条件下で海水と液体二酸化炭素との界面に生成する二酸化炭素ハイドレート膜強度を精度よく計測した。その結果、ハイドレートの解離温度近傍および二酸化炭素飽和海水中で、膜強度が低温時の 10 倍にも達することを発見した。これらの強度異常は、貯留二酸化炭素の安定性ばかりではなく、二酸化炭素溶解法(中層放流)の評価にも影響するものであることから、詳細に調べるとともに、理論面からの解明を試みた。この他、膜の成長過程と二酸化炭素溶解抑制効果を 100 日間にわたって調べ、安定に貯留できることを確認した。また、二酸化炭素の溶解拡散過程を支配する二酸化炭素溶解水密度の絶対計測を行った。
 熊本工業大学(現 : 崇城大学)への委託調査として、貯留サイトからの二酸化炭素の溶解拡散数値シミュレーションを、2次元および3次元体系で行った。インプットデータとして、陸上模擬実験から得られるハイドレート共存溶解度やハイドレート膜で被われた二酸化炭素液泡の溶解速度等を使った。その結果、密度成層が二酸化炭素の溶解速度を大きく抑制し、密度成層上面でのpH低下は高々 0.2 程度と僅かとなり、隔離期間も 2000 年より長くなることが判明した。
 また、東京水産大学への委託調査として、駿河舟状海盆および母島南東にある窪地を対象に、液体二酸化炭素の安定貯留が可能な 3500 m以深に生息する近底層生物の採取を行った。その結果、対象海域の窪地周辺の生物密度は非常に低く、魚群探知機による海底地形調査からも貯留に適した形状であるが、生物種の多様性の高いことが示唆された。一方、低酸性度耐性の調査結果から明らかとなった浅海性生物の生存限界 pH7.0 〜 7.3 を上述の数値解析結果に対応させると、本研究の結果を見る限り、低酸性化による海洋環境影響としては、窪地の内部に限られることが予測される。モンテレー湾海洋研究所との共同実海域実験からは、深度 625m の生息するメクラウナギやギンダラ等の近底層生物は、溶解二酸化炭素を関知しない可能性のあることが判明した。


[キーワード]

二酸化炭素、深海底貯留法、ハイドレート、膜強度、溶解・拡散、深海生物、貯留海域、pH影響調査