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[B−4 森林の二酸化炭素吸収の評価手法確立のための大気・森林相互作用に関する研究]

(2)森林生態系炭素循環の観測とそのモデル化


[経済産業省資源環境技術総合研究所]

  首席研究官

●山本 晋

  環境影響予測部 大気環境予測研究室

●近藤裕昭 ・ 村山昌平 ・ 兼保直樹 ・ 三枝信子

[環境省国立環境研究所]

  生物圈環境部   環境微生物研究室

●広木幹也

             生態系機構研究室

●宇田川弘勝 

  地球環境研究センター

●中台利枝

北海道大学 農学部

●小池良孝

岐阜大学  流域環境研究センター

●小泉 博

広島大学大学院 生物圈科学研究科

●中根周歩 ・ 李 美善 ・ 林 明姫


[平成11〜12年度合計予算額]

47,590千円

(うち平成12年度予算額 23,779千円)

[要旨]

 本研究では透明かつ検証可能な炭素吸収量評価の方法を確立する事を目的として、野外観測に基づく森林生態系炭素収支モデルの構築を試みた。具体的には苫小牧国有林のカラマツ人工林にフラックスサイトとエコロジカルリサーチサイトが設定され、40mと25mの観測タワーが設置された。このサイトにおいて、資源環境研と国立環境研が北海道大、岐阜大、広島大との共同で大気と森林生態系の二酸化炭素フラックス、光合成生産や呼吸過程、土壌呼吸過程の詳細を調べ、炭素収支モデルを構築した。
(1)苫小牧フラックスリサーチサイトでの測定
 北海道苫小牧国有林に設営した苫小牧フラックスリサーチサイト(カラマツ林)において、フラックスネットの標準的な測定手法である渦相関法(closed-path 方式)によって、CO2・水蒸気・顕熱フラックスの連続観測を行った。 2000年7月から2001年6月まで連続測定を行った結果、カラマツの落葉や展葉に伴う樹冠上CO2 ・ H2Oフラックスの季節変化が明瞭に観測された。また、中国黒竜江省の東北林業大学のタワー観測サイトを調査し、フラックス共同観測の可能性について協議し、研究計画を立てた。
(2)苫小牧タワーサイトでの光合成・呼吸測定
 カラマツ人工林の樹冠部位に到達する足場を設け、その光合成速度と呼吸速度を追跡した。これによって非破壊で酵素活性を推定し、植物光合成・呼吸過程モデル化のための生理的パラメータを算出した。光合成能力が高いはずの日中に、短枝葉では光合成速度が低下した。これはカラマツ属の樹木の水ストレスに対する反応性が高く生育地が苫小牧の水はけのよい未成熟火山灰土壌であることから、容易に水ストレスを受けていたと推察される。気孔制限の日変化と、カルボキシレーション効率の日変化から、短枝葉の日中における光合成速度の大幅な低下は気孔制限よりもカルボキシレーション効率の低下が原因と考えられる。さらに光阻害と関係して電子伝達系についても評価する必要がある。長枝葉では短枝葉に比較して日中に明瞭な光合成速度の低下が見られなかった。また、長枝葉は陽光にさらされる位置にあるため高い気孔の調節機能を持ち、これに対して短枝葉はやや日陰におかれるため、弱光を利用するために高い気孔コンダクタンスを持つと考えられる。
(3)土壌呼吸測定手法の改良と土壌呼吸特性の解明
 異なる2種類のオープントップチャンバー法について検討を行った。一つは、安価なセンサーを使用した傾度法に基づくもので、他の一つはFang & Moncrieff(1998)を基にしたもので(OTC法)、従来型の通気法(OF法)と比較して、測定値が風速の影響を受け、1. 5m/s以上の風速のもとでは、CO2フラックスを過小評価する可能性が示された。苫小牧のカラマツ林での土壌呼吸速度の面的バラツキを検討し、必要測定点数を求めた。また、同じカラマツ林内の9地点で土壌呼吸速度(OTC法およびOF法)と土壌中の有機物および微生物バイオマス量を測定した結果、場所によって有機物の集積状況に大きな差があり、土壌呼吸速度との間に関連があると推定した。
(4)冷温帯落葉広葉樹林の炭素収支モデルの構築とカラマツ林生態系炭素収支との比較
 岐阜県高山市の冷温帯落葉樹林(ダケカバ、ミズナラ林)において土壌呼吸速度の日変化・季節変化の測定を行い、生態学的測定手法の結果と合わせてCO2の循環と収支を計測し、冷温帯落葉広葉樹林の生態系純生産量を明らかにした。土壌及び雪面からのCO2放出量と地表面温度の関係式を用いて、各年毎の炭素フラックス量を推定したところ、それぞれ6.03、5.78、5.03 ton C ha-1 yr-1の値を示し、年により10〜20 %の変動が認められた。次に、森林生態系純生産量(NEP)の推定を試みた。純一次生産量(NPP)は、樹木による固定量2.89 ton C ha-1 yr-1にすでに推定した林床のクマイザサの固定量1.18 ton C ha-1 yr-1を加えることにより、4.07 ton C ha-1 yr-1と推定された。さらに、土壌呼吸量(SR)は3年間の値を平均して5.61 ton C ha-1 yr-1と見積もられた。NEPを推定するためには、さらに根の呼吸量(RR)を明らかにする必要がある。森林生態系の土壌呼吸量に占める地下器官の呼吸量の割合の既存の研究から、RRの推定値は2.57 ton C ha-1 yr-1土壌微生物・動物の呼吸量(HR)は3.04 ton C ha-1 yr-1となり、この森林のNEPは1.03 ton C ha-1 yr-1 と見積もられた。今後、この結果とデータの整いつつある北海道苫小牧市苫小牧国有林カラマツサイトでの炭素収支との比較を行う。


[キーワード]

カラマツ林、炭素収支モデル、C02フラックス、光合成活性、土壌呼吸、純一次生産