二国間及び多国間援助機関におけるハイレベルの意志決定者用の環境チェックリストに関する
理事会勧告 (仮訳)

 


1989年2月22日採択

理事会は、1960年12月14日のOECD条約第5条 (6)を尊重し、
1986年10月23日の「開発援助プロジェクト及びプログラムに係る環境アセスメントの促進」に必要な施策に関する理事会勧告」〔C (86)26 (Final)〕を尊重し、
及び19日の大臣会合における、OECDは持続的開発への貢献のため、二国間及び多国間援助プロジェクトの環境面のレビューに対する共通のアプローチの発展のための作業を継続すべきとの理事会の合意〔C (88)107〕を尊重し、
加盟国がその活動の環境への影響の可能性を考慮し、開発途上国とのより密接な協力を追求する必要性に留意し、
開発援助委員会がプロジェクト審査原則に環境保護規程を盛り込んだ〔DAC (88)3 (Final)〕ことを認識し、
環境委員会及び開発委員会の提案に基づき、

I.加盟国政府に以下のことを勧告する:
 a)二国間及び多国間開発援助にあたって資金援助が提案されている開発プロジェクトの確認、計画、実施、評価において、環境の側面が考慮されることを確保すること。
 b)以下の人々が「ハイレベルの意志決定者用の環境チェックリスト」 (附属書1)、を利用できるようにすること。
   1.二国間開発援助プロジェクトの承認に責任を有する政府高官
   2.多国間開発援助機関への政府代表者
 c)上記b)1.2の職員が開発援助プロジェクトの承認又は却下以前に環境チェックリストを利用するよう支援すること。
 d)プロジェクトと同様にプログラム援助に関する決定の環境影響にも配慮するよう上記b)1.2の職員を支援すること。

II.加盟国が二国間、多国間開発援助プロジェクトに対する「環境チェックリスト」の利用経験に関する情報を交換するよう奨励する。

III.開発援助委員会に環境委員会との協力のもとに以下のことを行うよう奨励する。
 a)「環境チェックリスト」の、二国間、多国間開発援助の意志決定に際しての活用方法をモニターすること。
 b)OECD加盟国における、二国間、多国間のプロジェクト開発及び意志決定への環境解析・評価の組み入れの効果について、「チェックリスト」及び他の関連手法の自発的適用を含めて、3年以内に報告すること。

IV.事務総長に対し、すべての援助機関により、開発援助プロジェクトの環境レビューがよりよく実施されることを促進する観点から、本勧告を多国間援助機関及び他の適当な国際機関に送付することを指示する。



附属書 1

ハイレベルの意志決定者用の環境チェックリスト

I.影響の確認
 * 1.プロジェクトが脆弱な環境に影響を与えるか。
 * 2.プロジェクトの正及び負の重大な環境影響について明確に記述されているか。リスクが評価されているか。
  3.越境汚染を含めたプロジェクト実施場所以外への影響 (いわゆるアップストリーム・ダウンストリームに対する影響)や、影響が現れるまでのタイムラグが考慮されているか。

II.緩和策
 * 4.どのような緩和策が提示され、どのような代替地が検討されたか。
  5.過去の同様のプロジェクトからのどのような教訓が本プロジェクトの環境評価に反映されたか。
 * 6.プロジェクトの準備に際して、関係住民・団体が関与し、彼等の利益が適切に考慮されているか。住民移転を伴うか。適切な補償措置が示されているか。

III.手続き
  7.援助機関及び被援助国政府の採用している環境ガイドラインがどのように利用されたか。
 * 8.意志決定過程のどの段階に、環境アセスメントが含まれていたか。
  9.プロジェクトの正と負の環境影響が、プロジェクトの経済分析にどのように組み込まれたか。
 *10.プロジェクトの準備に際し、環境保全に責任を有する途上国の機関が相談を受けたか。プロジェクトの承認に責任を有する途上国の中央機関がプロジェクトの環境影響に気づいているか、また彼等は環境対策が含まれることを承認したか。

IV.実施
 *11.環境対策を効果的なものとするためには、途上国の組織強化が必要か。また、もしそうであるならどのような行動が必要か。
  12.実施中及び実施後に誰がどのように環境影響及び緩和策をモニターするのか。
  13.必要な環境対策費が見積もられ、その資金供給のための適切で現実的な保証があるか。

* 附属書2参照



附属書 2

チェックリストの質問項目の一部に関する解説

1.脆弱な環境の例
 a)土壌及び土壌保全地域
 b)砂漠化にさらされている地域及び半乾燥地域
 c)熱帯雨林及び熱帯植生
 d)水源
 e)特に湿地、マングローブの沼沢地及び珊瑚礁など、魚、野生生物資源の保護、保全、持続的利用にとって貴重な生息地。
 f)固有の価値を有する地域 (歴史的、考古学的、文化的、審美的、科学的)
 g)人口又は産業活動が集中しており、それ以上の産業開発又は都市拡大が重大な環境問題を引き起こしそうな地域 (特に、大気及び水質について)
 h)特定の脆弱な人口集団にとって特別な社会的価値のある地域 (例えば、伝統的な生活様式を持つ遊牧民等の人々)
2.環境影響の明確な記述が必要なプロジェクトには以下のようなものがある。
 a)再生可能資源の利用における重大な変更 (例えば、農業生産、森林、牧草地への転換、農村開発、木材生産)
 b)耕作法及び漁法の重大な変更 (例えば、新作物の導入、大規模な機械化)。農業における化学物質の利用 (例えば、殺虫剤、肥料)
 c)水資源の開発利用 (例えば、ダム、灌漑・排水事業、水及び流域管理、水供給)
 d)インフラストラクチャー (例えば、道路、橋、空港、港湾、送電線、パイプライン、鉄道)
 e)産業活動 (例えば、金属精錬工場、木材加工工場、化学工場、発電所、セメント工場、石油精製・化学工場、農業関連産業)
 f)採掘産業 (例えば、鉱業、砕石、泥炭、石油及びガスの発掘)
 g)廃棄物の管理及び処分 (例えば、下水道施設、廃棄物埋立地、家庭ごみ処理施設及び有害廃棄物処理施設)
 正及び負の環境影響のタイプはプロジェクトにより異なり得る。例えば、灌漑プロジェクト〔上記c〕は淡水漁業の新たな可能性の創出という正の効果を与え得る。同時に、塩水化、土壌浸食のような負の影響も与え得る。
3. 他の地域への影響例としては、産業排水が処理されずに水域へ排出される場合の下流の水生生物への影響がある。
 決定においてタイムラグを考慮することの重要性を示す例としては、自然地域を通過する道路による2次的影響がある。これらの道路はしばしば大規模な (移動)耕作や環境悪化を引き起こす。
4.緩和策は、負の環境影響を減少または軽減するためにとられる行為である。例としては:
 a)水域に排出される前に産業排水を処理すること。
 b)高速道路及び産業プロジェクトに防音壁を供給すること。
 c)開発目的のために利用される土地を補償するための野生生物保護区や他の保全地域を設定すること。
6.影響を受ける人々は、開発プロジェクトに関連する計画の問題や解決策の実施を明確にし、理解することに参加すべきである。これは開発に際して公平性に重点を置くことと、意志決定過程の分散化を必要とする。これには、持続的開発と農村人口の側の完全な参加を促進するための努力が伴うべきである。
8.プロジェクトまたはプログラムの環境アセスメントはプレ・フィージビリティ・スタディまたはプロジェクトの提案段階で始めるべきであり、費用効果及びエンジニアリング・フィージビリティ調査とともに実施されるべきである。
10.プロジェクトに関連する環境情報の浸透を確保する1つの方法は、プロジェクトの最終決定の前に、途上国において省庁間の協議過程を設けることである。
11.途上国政府機関の強化策の例としては、環境アセスメント及び管理に関する研修コースの提供及びプロジェクト、プログラム、政策から発生し得る環境影響を評価する政府職員を補佐し、意志決定者及び公衆に対して、負の環境影響を緩和し、当該地の人間環境の質を高めるための合理的代替策を知らせるための環境アドバイザーの提供がある。民間及び非政府機関は地域住民の環境意識の向上のために援助され得る。