開発援助プロジェクト及びプログラムに係る環境アセスメントの促進に必要な施策に関する
理事会勧告 (仮訳)

 


1986年10月23日採択

理事会は、

1960年12月14日の経済協力開発機構条約5 (b)を尊重し、

1979年5月8日の「環境に著しい影響を及ぼすプロジェクトのアセスメントに関する理事会勧告」を尊重し、

閣僚レベル環境委員会においてOECD加盟国政府及びユーゴスラビア国政府により採択された1979年5月8日の「予見的環境政策に関する宣言」 (C (79)121の附属書)を尊重し、

閣僚レベル環境委員会においてOECD加盟国政府及びユーゴスラビア国政府により採択された1985年6月20日の「環境:次世代への資源に関する宣言」 (C (85)111)を尊重し、

特に、「環境:次世代への資源に関する宣言」のパラ1及びパラ11において、OECD加盟国政府及びユーゴスラビア国政府が、環境影響評価及び適切な経済的手段の利用を拡大すること及び開発途上国における環境保全上健全な開発への寄与を強化することを宣言していることを想起し、

1985年6月20日の「開発援助プロジェクト及びプログラムに係る環境アセスメントに関する理事会勧告」 (C (85)104)を尊重し、

加盟国がその活動の環境への影響の可能性を考慮し、開発途上国とのより密接な協力を追及する必要性に留意し、

開発援助プロジェクト及びプログラムの環境アセスメントが高くつく潜在的な環境への悪影響のリスクを減少させうることを認識し、

加盟国の経験から、環境アセスメントプロセスの成功は、効率的な組織、手続き及び資源によることを認識し、
環境委員会及び開発援助委員会の提案に基づき、

I 加盟国政府に以下のことを勧告する:

a)各国における援助活動に向けた環境アセスメント政策の正式な採択を積極的に支持すること

b)このような政策の実施に関する既存の手続き及び実務の適正さを検討すること

c)この検討に鑑み、必要な包囲において、附属書Iに概説されているアプローチを必要に応じ考慮しつつ、環境アセスメントプロセスの効果的な実施手続きを作成すること

d)開発援助プロジェクト及びプログラムの計画と実施に責任を有する部局内で、このような手続きを実施するための責任体制をしっかりと確立すること

e)援助機関の本部において環境アセスメントプロセスを監督し、指導するための責任体制を確立すること

f)環境アセスメントプロセスを時宜を得た費用効果のよい方法で実施するのに十分な人的、財政的リソースが供与されることを確保すること

g)附属書IIに概説されている施策のすべて又は一部を考慮しつつ、環境アセスメントを実施する能力を向上させたいと願っている被援助国への人的、財政的リソースの供与を確保すること

II 開発援助プロジェクト及びプログラムに係る環境アセスメントを実施するうえでの進展及び実施の経験に関する情報交換を行うことを加盟国に要請する

III 開発援助委員会に環境委員会との協力のもとに以下のことを行うことを指示する

a)加盟国の援助機関が開発援助プロジェクト及びプログラムに係る環境アセスメントを実施する方法に関する情報を収集すること

b)ある種の開発援助活動の環境影響を評価する際にどのようにしてリスクアセスメントを取入れてゆくことができるかを検討すること

c)本勧告を実施するために取られたすべての施策及び他の国際機関における関連活動について、3年以内に理事会への報告書を作成すること

IV 事務総長に対し、開発援助プロジェクト及びプログラムの環境アセスメントがすべての国によってよりよく実施されることを促進する観点から、適当な国際機関に本勧告及び付随する報告書 (ENV (85)27)を送付することを指示する

附属書I

開発援助活動に係る環境アセスメントプロセスを確立するためのアプローチ

1.援助活動の環境影響の評価のための新たなプロセスが創設される場合にも、既存の手続きをこのようなプロセスに合せてゆく場合にも、環境アセスメントは、被援助国政府との調整が計られ、プロジェクト及びプログラムの早い段階で実施され、援助活動の実施に反映され、モニタリングと事後評価によるフォローアップが行われるべきであることを提案する

2.このようなプロセスのうち以下の要素が有用と考えられる

a)完全な環境アセスメントが必要かどうかを決めるために、最初にスクリーニングが行われるべきである

b)プロジェクト又はプログラムに係る環境アセスメントは、フィージビリティ調査前又はプロジェクト提案段階で開始され、費用便益及びエンジニアリングのフィージビリティ調査に組入れられるべきである

c)アセスメントの内容は、プロジェクト又はプログラムの適切な代替案及びそれらに伴う最も著しい環境影響を見出すための手続きにより決定されるべきである。その理由は、意思決定を行うために必要な最も重要な問題だけに取組むことにより、アセスメントが最も時宜を得た、費用効果のよい方法で実施されることを確保するためである。この手続きは、問題を議論し、アセスメントにおいて取組むべき問題を決定するためにプロジェクト又はプログラムに責任のある一群の人々が集って実施するのが望ましい。被援助国政府職員及び、可能な範囲において、援助活動により影響を受ける人々その他の関係者がこの手続きに関与することが重要である。

d)この手続きの後に、アセスメント自体の実施細目の作成に移るべきである。プロジェクト又はプログラムの規模、性格及び実施場所により、アセスメントは、既存の情報に基づき一人の担当者によって実施される1-2ページの分析から、広範な野外調査及びデータ収集に基づき学際的なチームにより実施される包括的な環境影響評価書まで様々でありうる。アセスメントの「範囲」に拘らず、アセスメントは、従来からの調査 (例えばエンジニアリングのフィージビリティ調査)とともに実施されることが必要である。

e)アセスメントは、特定の活動の結果生じうる環境影響を指摘するだけでなく、プロジェクト又はプログラムが実施された場合の悪影響を抑制するためにとられるべき軽減 (例えば嬌正的)対策又は代替案を提案するものであるべきである。更に、軽減対策が実行に移されることを確保するために、被援助国において適当な制度上の仕組みを確立することに注意が払われるべきである。

f)アセスメントプロセスは、プロジェクト又はプログラムの実施の決定がなされたあとも継続し、建設及び稼働中のモニタリングも含むべきである。モニタリングは、アセスメントの知見 (例えば、提案された軽減対策)が実施されていることを確認し、実施された予測 (例えば、プロジェクトの大気、水、人の健康、生態系の安定への実際の影響)の正確さを検証するために必要である。モニタリングの結果、プロジェクトの修正及び将来の同様のプロジェクト及びプログラムにパラ (C)に記述されている手続きを実施するためのデータベースの改善が行われることがありうる。


附属書II

開発途上国の環境アセスメント実施能力向上のための方策の提案

1.援助機関の環境アセスメントプロセスの究極の目標は、開発途上国が自力で彼等自身の開発を環境保全上健全な方策で管理するのを助けることである。開発途上国に環境アセスメント能力を移転し、開発途上国における環境アセスメントの能力向上を支援する上で援助機関が取りうる方策として以下のことを提案する。

2.すぐに取りうる方策としては、援助機関が責任を有する環境アセスメントを実施するときに非援助国政府職員を積極的に巻込むことである。このような関与は、非援助国政府職員等をスコーピングに巻込むことにより始まり、アセスメントの実施及びモニタリングに非援助国政府職員を従事させることにより継続させうる。 (附属書I参照)

3.OECD加盟国の援助機関及び環境担当官庁が環境アセスメントのトレーニングコースを設立することが考えられる。トレーニングは、政府及び産業界の代表及び上級意思決定者、高級行政官、プロジェクトマネージャー、技術のスペシャリスト、担当部局員、環境の利益団体の代表等の多くのターゲットグループに対して行われるべきである。どのようなタイプのトレーニングが行われるべきかは、ターゲットグループをどれにするかによって異なろう。例えば、政策策定者に対しては、経済開発計画に環境の要素を取りこむことを怠ったことにより生ずる悪影響を実証し、環境保全上健全な計画策定により得られる便益を強調するためにセミナーを開催すべきである。プロジェクトマネージャーや技術専門家に対するトレーニングは、環境アセスメントのための手続きと方法、環境管理における環境アセスメントの役割と重要性を強調することになろう。

4.OECD加盟国政府は、一定期間国家計画官庁とともに作業する「環境専門家」を派遣することにより、開発途上国政府への面接の支援を検討することもあろう。このような専門家は、政府職員がプロジェクト、プログラム又は政策から生ずることが予想される環境影響を評価し、意思決定者や公衆に環境への悪影響を軽減し、影響を受ける地域における人間環境の質を向上させる適切な代替案を知らせるのを助けるという役割を果たすことになろう。

5.環境の状況に関する適切な基礎データと情報が不足していることが、開発途上国において環境アセスメントを成功裡に実施するうえでの大きな制約となっている。OECD加盟国の援助機関及び環境担当官庁は、被援助国の「環境プロファイル」や特に影響を受けやすい地域に関する基礎研究等の情報を提供することを検討するかもしれない。さらに、被援助国が自らの研究を実施するための直接の財政的、技術的援助を行うこともあろう。