国別環境調査及びその戦略の実施要領

 


 I. 序

 II. 国別環境調査及び戦略の定義と目的

 III. DACメンバーの「国別環境調査及び戦略」の経験

 IV. 国別環境調査及び戦略のための実施要領

  A. 総合的考察

  B. ドナーの調整

  C. 「国別環境調査及び戦略」のイニシアチブ

  D. 「国別環境調査及び戦略」の組織化

  E. 技術適用範囲

  F. 宣伝、普及および調査

  G. フォローアップ

  H. 時間とコスト

経済協力開発機構
パリ 1991年


国別環境調査及び戦略のための実施要領

 OECD (経済協力開発機構)開発援助委員会 (DAC)は、開発援助および環境に関する作業部会を通じて環境と援助に関する多くのガイドラインと勧告を作成してきた。それらは作成され次第DACによって採択され、事務局長によって公開された。
 「国別環境調査及び戦略のための実施要領」は、そうした調査のために融資したり、またはそうした調査を実施する各支援機関が、多くの主要要素をその行動のなかに取り込み結果として途上国における環境および自然資源の計画や管理を促進させるうえで効果的政策手段となるよう確保することを目的としている。


Copyright OECD, 1991



国別環境調査及びその戦略のための実施要領


1. 「国別環境調査及び戦略」は開発途上国における環境改善や自然資源のための計画、管理を促進させるためには非常に重要な方策である。過去10年の間、ますます多くの途上国政府や国際協力提供組織 (インタナショナル・ドナー)そして非政府組織 (NGO)などは、環境の健全な開発のための新しい戦略形成のため、こうした「国別環境調査及び戦略」に乗り出していた。こうした調査研究の持つ重要な役割を認めながら、OECDの開発援助委員会は各メンバーの経験を見直し、途上国政府および開発援助ドナーにおける”実施要領”を形づくるこうしたアプローチを確認した。本資料は「国別環境調査及び戦略」の包括的定義を与えその目的を示し、DACのメンバーの今日までの経験を要約し、その経験から示された実施要領に対する一連のガイドラインについて述べるものである。

2. 「国別環境調査及び戦略」は、環境および自然資源の管理に対する健全な政策および慣行を統合し、持続的開発のためのプランニングおよび意思決定のための基本ラインを提供するものである。以下に示すものは「国別環境調査及び戦略」の基本事項およびその目的である。

― 資源利用の環境持続性から見た包括的セクター間の評価。特定の途上国または地域に関する基本ラインデータを含む。
― 人口の資源ベースの重要性およびその関係性の評価。そこでは性別による分析がなされ貧困と環境状況の関係を示す。
― 環境の質および自然資源の利用に関する傾向の分析。
― 自然資源の情報システムの確立。環境の置かれている状態をモニターするためのシステムであり、その環境の状態は環境および自然資源管理のためのプランニングとその意思決定プロセスに密接に統合されているものである。
― 自然資源の管理に関連した法的、経済的、制度的側面から見た問題の評価。
― 環境の劣化や資源の誤った管理を好転させるための対応政策の確立。
― 地元から、および外部から融資を受けている各々のプロジェクトおよびプログラムに対する環境影響評価能力。
― 自然資源計画およびその管理に対する途上国に対する制度上の能力を強化し、プランナーや政策決定者を支援する。データを収集し、環境動向のモニタリングや分析的研究を行なう。
― 環境の質および自然資源の管理を向上させるための、環境問題への国民の参加および意識の強化。
― 政策の歪み、制度的障害、その他のボトルネックを把握し、それを効果的な自然資源プランニングおよび環境管理に活かす。
― 長期委託のほか、政策変更、制度建て直し、トレーニングおよび教育、リサーチおよびモニタリングなどに関する主催政府および援助機関からの勧告。
― ひとつひとつの投資プロジェクトおよびプログラム段階のフォローアップ活動。経済手段の利用、価格政策、助成金や投資インセンティブ、調整フレームワークおよび国土保有システムなど、経済、開発活動の全体に及ぶ適正な政策戦略の確立。
― 主催国の責任のもとでのドナーの活動の調整。


3. 「国別環境調査及び戦略」は、特定の国における環境傾向および環境問題の包括的多元セクター分析である。同様の研究がある地理的地域または地方エリアに対してはなされているかもしれないが、そうした研究はプロジェクト・プランニングのプロセスの一部としての援助機関による評価と区別されて然るべきである。一般的に言えば、「国別環境調査及び戦略」は環境の質および自然資源の利用における傾向を調べ、その資源管理に関連した法的、経済的、社会的そして制度的問題を評価するものである。そうした調査および戦略は、概して、国土、水、鉱物、森林・海洋資源などの利用について説明を施し野性生物や公園の保護状況を見直し、都市化や空気・水の汚染、衛生、そして有害廃棄物についての諸問題を調査し、これらの諸問題に関する社会的及び経済的次元について評価をするものである。そして環境プランニング、環境管理のための政策および制度面の枠粗みの分析なども行なうものである。「国別環境調査及び戦略」は更に政策およびプログラム勧告を作成しており、政策の歪み、制度面の障害、その他不都合を解決し、それをその国における効果的な自然資源プランニングおよび環境管理に活かすことを意図としている。

4. 「国別環境調査及び戦略」およびそのプロセスは、持続的開発を生み出すための長期的戦略の一部と見做されており、そうした開発は環境改善および自然資源のプランニング、管理を通して得られるものである。したがって、その目的を達成するにはよく考え抜かれ、かつフレキシブルな行動プランが要求されるのである。そうした調査、戦略には国およびその国の住民 (諸グループ)が直面している重要な問題が述べられていなければならず、その国の置かれた条件に合わせ展開可能な変化へ向けて実用的戦略が述べらていなければならない。またその時、さまざまな要素が施行に向けて動き出し、関係ドナーコミュニティーのモラルの面、物質面からの継続的支援を受け入れねばならない。

5. こうした「国別環境調査及び戦略」の広い定義は途上国やドナーによって1970年代後半以来作り上げられた、さまざまに異なったタイプの定義を網羅している。こうした定義は「環境報告の状況」を包含するものであり、そうしたものには例えば、インドやアメリカ合衆国で出版された「国際自然保護連合」 (IUCN)がスポンサーとなっている「国家自然保護戦略」  (the National Conservation Strategies)、「国際開発ユナイテッド・ステーツ・エージェンシー」  (US AID)、オランダ、その他両国の互恵ドナーのサポートを得た「国家環境プロフィール」  (Country Environmental Profiles)世界銀行による「環境行動計画」  (the Environmental Action Plans)、そしてインター・アメリカン開発銀行やアジア・アフリカ開発銀行によって始められた同種の環境評価、環境プランがある。これらすべて上述の本資料の包括的、多元セクター的性格を反映しているものである。

6. 国別環境研究の一覧表は1990年国別環境研究案内 (Directory of Country Environmental Studies)の中に含まれているものであり、その案内は世界資源協会 (WRI)の国際開発環境センターによってUS AIDのために作成された。また、その案内は各セクター評価を含むものであり、US AIDの熱帯森林およびその生物学的分布評価、FAO/UNDPによる熱帯森林政策研究、その他セクター見直しや砂漠化撃退のための国家プランなどがある。一方、より焦点を絞って言えば、こうした研究は「国別環境調査及び戦略」に描かれた研究と似ていなくもない政策や制度的な変換をしばしば求めている。したがって、以下に述べられた実施要領に基づいたガイダンスはまた資源評価のこうしたセクター別タイプに適用し得るかもしれない。この研究の摘要は一覧表付きディレクトリーに示されている。その一覧表は途上国政府がそれぞれ異なる援助機関が融資してきた研究のタイプを確認できるように作成されている。そのディレクトリーは、DACが支援する「国際環境自然資源評価情報サービス」  (INTERAISE)を確立するためのプロジェクトのもとで、現在も拡大、更新されていて、環境開発国際協会 (IIED)やWRI,IUCNが行なっている。INTERAISEのもとで、「国別環境調査及び戦略」のライブラリーがコンピューターによる情報サービスとともにIIED、WRI、IUCNに設立されつつあり、それによりドナー、NGO、そして開発途上国政府の手助けができるようになる。

III. DACメンバーの「国別環境調査及び戦略」の経験


7. DACのメンバーは10年以上に渡って「国別環境調査及び戦略」の作成、支援に関わってきた。一方で、メンバーはこうした研究に対しさまざまなアプローチで望んで来たが、彼らはそうした研究を環境と開発の連携への理解と、開発途上国における健全な自然資源管理の促進に必要欠くべからざる道具として見ている。

8. 一般的には、DACのメンバーによる「国別環境調査及び戦略」の3つのカテゴリ―は他のものとの見分けが可能である。一番目のカテゴリーは環境対策・評価、自然資源管理計画を網羅するもので、援助機関が主に自らの内部政策や開発援助プログラムを定義し形成するためのものである。すべてのメンバーはある程度までは何らかの形でそうした研究を試みたことがあるが、その具体的な例として次のようなものが含まれる。環境対策報告書。これはカナダ国際開発局 (CIDA)がそのそれぞれの国別調査書類のなかに含めているものである。そして自然資源評価。これはUS AIDが、US AID派遣団のための国別開発戦略声明書 (CDSS)の一部としてバングラデッシュやインドネシアなどの国で行なったことがある。こうした研究は主にドナーの目的達成に役立つ一方、特定の国における環境および自然資源に対する基本的知識を得る場合、相当量の貢献なし得るものである。また、そうした研究が協調的に行なわれ、情報が主催国にとって容易に手にし得るようになっていれば、その研究は制度的能力を増加させる助けになり得るものである。

9. 「国別環境調査及び戦略」の2番めのカテゴリーは、国別環境プロフィール (CEP)である。オランダは、自国が大規模な開発計画をもっている諸国の、特定地域、地方あるいは特定領域といったものを網羅するこのプロフィールを支援している。US AIDもまた自らが取り行なう途上国におけるCEPを支持してきた。

10. US AIDの経験にはCEPの2タイプが含まれている。「フェイズI」 (Phase I)および「フェイズII」  (Phase II)の研究である。最初のフェイズIはUSAIDの方向づけのためにのみなされた簡単なデスク・スタディーである。2番めのフェイズIIスタディーは、すでに述べた「国別環境調査及び戦略」の包括的なフィールドをベースにした定義に相応するものである。それらは主に主催国の諸々の組織によってなされてきたものであり、明らかに主催国における環境および自然資源プランニング、及び管理を改善させるためのものである。「フェイズII」プロフィールはラテンアメリカ、カリブ海域の14ヵ国、およびルワンダやタイでなされてきた。

11. 世界銀行の環境行動プランは上記のフェイズII CEPスタディーに似ている。行動プランはモーリシャスおよびレソトのために完成され、その諸々の研究がマダガスカル、ガーナ、ブルキナ・ファソ、ギニアそしてルワンダで現在進行中である。

12. 国別自然保護戦略 (NCS)は「国別環境調査及び戦略」の3番めのタイプであり、DACのメンバーからかなりの支持を受けている。UNEP、IUCN他の諸支持団体が思案したように、NCSはCEPに近い情報や分析を提出しているが、NCSはまた特定の国における環境保護のための国別戦略実施のための立法措置周辺の政治的コンセンサスを固めることを求めている。世界中で50以上のNCSが完了または準備中であり、DACメンバーの諸協会はこれらの多くを支持している。そうした協会には以下の組織が含まれている。CIDA、ヨーロッパ経済機構 (EEC)、ノルウェー援助庁、 (NORAD)、スエーデン国際開発局 (SIDA)、協同博愛援助スイス理事会 (DDA)そしてUS AIDなどである。

13. 上記の広義のカテゴリーにも当てはまらない他の2つの例についてもここで述べるべきであろう。ともに包括的資源管理プログラムの質低下問題の解決を狙った特定地域のプランニングおよび開発プロジェクトを含むものである。そのひとつは、ノルディックのドナーとともに行われるフィンランド国際開発庁 (FINNIDA)の仕事であり、ザンベジ河行動計画のための提案に関するものである。このプロジェクトはもともと国連環境プログラム (UNEP)と南アフリカ開発協力争議 (SADCC)によって起草されたものであり、このザンベジ河行動計画が網羅する国々の環境プロフィールを含むものとなろう。もうひとつはサヘルにおける特定地域砂漠化コントロールに対する戦略を開発するためのイニシアチブである。ドイツはいままでサヘル (Sahel)における旱魃コントロールのための恒久各州間委員会 (CILSS)を通してサヘルを支援してきた。

14. DACメンバーの「国別環境調査及び戦略」に伴う経験のより詳細な見直しが、DAC議長報告である1990年代の開発協力 (OECD 1990年12月)に登場している。この調査は環境影響評価、熱帯森林行動計画その他政策と共に「国別環境調査及び戦略」や環境問題を扱うためにDACのメンバーによって採用されたプログラム・イニシアチブなどを網羅している。追加の情報は国別環境研究案内に見られる。

IV. 国別環境調査及び戦略のための実施要領

A. 総合的考察

15. 「国別環境調査及び戦略」の中心目標は特定の国における持続的開発のための戦略を建てること (そしてその戦略を実施にもっていくこと)であるべきである。そこでは資源利用、環境の質、そして社会状況に影響を与える要素について調査がなされ、根源的といえる資源の質低下の原因に対抗し得る解決策が提出されねばならない。このことのなかには、制度、政治、経済の側面からの調整と施行 (これは複雑かつ往々にしてデリケートであるが)のための政策改善策を分析しその構想を立てるといったことが含まれているのである。「国別環境調査及び戦略」はこうしたことに留意して、特にそれらが抱えている状況に対応していなければならない。ドナーや政府のスポンサーたちは同様に「国別環境調査及び戦略」がなし得る戦略的な役割の明確な認識を持つべきである。ドナーは途上国側のパートナーとこうした問題に関する建設的な政策話し合いを始めるについて十分の準備をしていなければならず、特に施設建設についての援助の手を差し伸べる時はなおさらである。それは途上国が上記の問題について能率的に対処できるように援助するためである。

B. ドナーの調整

16. コーディネートするドナーのプランおよび活動は、究極的には特典的なものであり主催国政府が責任を負うものである。結果的には、「国別環境調査及び戦略」のそうしたコーディネーションの潜在的有利性については、ドナーと主催国政府との間に早い時期に十分な詰めがなされることに力点が置かれて然るべきである。

17. 最初からドナーは懸案の「国別環境調査及び戦略」の評価を下すべきであり、それは他の研究やプロジェクトの基盤の上に建てられるべきである。そしてその結果から、多くのドナーのサポートを得る可能性をもった一連の潜在的プロジェクトやイニシアチブが提供されるべきなのである。

18. したがって「国別環境調査及び戦略」は他のドナーの政策、プライオリティー (優先性)、プログラムそしてプロジェクトなどに留意しながら計画されてしかるべきである。これは、関係ドナーヘの早い時期の通告やプロセス全体にわたるドナー間ミーティング、そして「国別環境調査及び戦略」に対するフォローアップのためのプロジェクトおよび融資計画の調整などを通じて容易になし得ることである。

19. DACのプロジェクト評価原則 (Project Appraisal Principles)では、特定の国におけるあらゆる関連の経験を確定するため、他のドナーの早い時期の通告が要求されている。 こうしたことは「国別環境調査及び戦略」のプロセスにおいても適用され得るものである。現地レベルの国連環境プログラムを、代表する国連開発プログラム (UNDP)はドナーの調整を容易なものにするについて、援助の手を差し伸べることも可能である。

C. 「国別環境調査及び戦略」のイニシアチブ

20. 途上国政府およびそのドナーは、予備評価に基づき「国別環境調査及び戦略」を行なう決定をすべきである。そうした予備評価では予想される技術的要求とともに、政策的、制度的なパラミーター (要素、範囲など)が明示されるためである。評価の範囲において、研究のための制度的フレームワークが調査されるべきである。つまり入手し得る専門的意見およびデータ、NGO、そしてそこに含まれる大学や他のプライベート・セクターの利益などの調整である。またそこでは「国別環境調査及び戦略」が述べるであろうと思われる傾向および重要な政策問題に対する予備的見解が提供されてしかるべきである。そうした評価のなかでは社会的状況や巨視的経済連鎖などに対する適正な関心が払われるべきであり、この予備的研究においては、可能な範囲で提案の「国別環境調査及び戦略」に参加した政府および非政府組織との懇談があってしかるべきである。

21. 「国別環境調査及び戦略」の戦略目的、その範囲および組織については、この予備的評価に基づいてドナーと受け入れ政府の間で交渉を進めることが出来るのである。融資委託、物品サービス、スタッフの仮解任、その他技術的、行政的要素などについてもこの時に合意が得られるものと思われる。

D. 「国別環境調査及び戦略」の組織化

22. 「国別環境調査及び戦略」の基本目的は、開発途上国政府が自然資源利用および環境の質をより効果的に計画し、管理する能力を経営化させることである。これをなすには重要な環境問題、データ、および分析的アプローチ、オルタナティブ (代替)政策、そして新技術の施行などを政府の正式な意思決定プロセスの中に提起していくことが要求されるのである。また、政府間調整および政策立案者と専門家のトレーニングなどを改善することも必要とされる。こうした目的には、プランニングの過程で政府役人とともに地元の参加代表、NGOにプレミアムが付けられている。

23. このような目的を念頭に描きながら、「国別環境調査及び戦略」のオーガナイザーは以下のことを行う際、中心となる機関の選択に特別な力点を置かなければならない。目的に向けた作業を進めること。政府間調整のメカニズムを打ち建てること。テクニカル・チームを編成すること。そして一般参加のプロセスを明確化する事などである。

24. 理想を言えば、中心となる機関は環境及び自然資源要素を国家経済開発計画に統合し得る権限と能力を持つべきである。また、そうした機関は「国別環境調査及び戦略」プロセスを効率的に管理するためばかりではなく、その提唱者として国レヴェルを基本に政府内で活動する為の活動に対する挺身の姿勢、技術、政治的忍耐性を持つべきである。その機関は限定されたセクターの利益を計る団体であってはならないし、また権限も固定した位置も持たないその場限りの事務局であってもならない。

25. 国家開発計画省は環境省または機関と密接に作業を進める組織であるが、環境計画を開発意志決定に連結させるといった目標達成に対して最も権限を持った中心的機関であり得るものである。少なくとも理論から言えば、そのような国家計画機関は政策およびプログラムのプライオリティーを合意に導く時や政府の各省を招集する時の命令権および調整権を持っているであろう。しかしながら、そうした中心をなす機関が選ばれる場合、環境庁の役割はその過程においても減少するものではない。さらに、セクターの計画、開発活動を統合する時、そうした中心的団体組織が全く存在しない場合、その作業過程における他のセクター間の利益の調整に明確な権限を持った環境省に国の最高幹部から先導的役割が与えられなければならない。

26. 「国別環境調査及び戦略」の全体的な政策ガイダンスは、政府および非政府の協会から成る運営委員会から提供されてしかるべきである。その中心機関を議長として、そうした委員会には、次のような団体からの代表が含まれているべきである。各セクターの省、特別機関、プライベート・セクターの関係者、そして環境、開発に関係したNGOなどの団体の代表である。女性の十分な参加も保証されて然るべきである。

27. その運営委員会は行政的、技術的目的で自らを小委員会のなかに組織させ得るものである。政策および技術調査グループはその調査過程において非政府参加調整とともに政府間調整を促進するために確立されてしかるべきである。

28. 「国別環境調査及び戦略」の技術事務局は中心機関内に置かれるべきであるが、多くの領域に渉るプロフェッショナル・スタッフは他機関およびNGOから引き抜かれた者でなければならない。そうしたスタッフ手続きによって、政府間調整は容易になされ、過去にそうしたスタッフを持たなかったと思われる政府機関に環境の専門家が紹介されるべきなのである。そうしたことが容易になれば、国内の専門家では手が回らない専門分野を扱うために必要とされる、国外在住の専門コンサルタントも最低人数の確保がなされるだろう。特別ワークショップやトレーニング・セッションを通して、そうした過程における政府間調整およびプロフェッションナル・トレーニングを促進する機会も十分に開発されてしかるべきである。運営委員会 (そして小委員会も)および事務局の技術作業グループは、自然資源の分析および管理に対する新しいアプローチを紹介する機会を共に申し出ている。例えば、持続農業政策または迅速な農業評価に関する特別ブリーフィングやトレーニング・セッションがあり、その過程で催すことが出来るものである。

29. 「国別環境調査及び戦略」には、周到で慎重に公表される公的参加へのプロセスが最初から含まれていなければならない。そうしたプロセスはプライオリティーを確認し代替戦略についてのコンセンサスを展開させるためばかりでなく、勧告施行の一貫性を拡大するためにも必要である。民間事業の持っている関心のみならずNGOが持っている関心も異なる政策オプションの底流をなす環境問題の性格や実際的、文化的制限のなかに特別な洞察をもたらし得る。結果的には、その様な関心は効果的「国別環境調査及び戦略」に非常に価値の高い貢献をなし得るものである。そのプロセスには以下の事項、組織が含まれるとされる。a) プロジェクト運営委員会および政策、技術調査委員会への公的参加。b) NGO、各大学、ビジネス・コミュニティー、などを含むプライベート・セクター調査委員会、c) 国際ドナー委員会または国際調整会議、そしてd) ヴィレッジやコミュニティーのレヴェルでのミーティングなどである。その参加プロセスは新しいイニシアティブをテストし実施するために正式な調査が完了した後も続けられるべきである。

E. 技術適用範囲

30. プロセスの初期に、「国別環境調査及び戦略」の基本目的と範囲が、正式範囲決定プロセスを通して合意されるべきである。環境影響評価に対して推奨されたプロセス同様、この範囲決定の話し合いでは、環境および自然資源に関心をもった重要なひとびとが政府やNGO、それに専門コミュニティーおよびプライベート・セクターから集められている。それは「国別環境調査及び戦略」の目的を討論し、そこで発表されるべき重要問題を確認し優先順位を決めるためである。範囲決定プロセスのなかで述べられると思われる多くの問題はかなり広範囲に渡ることになる。それはデータやリサーチのニーズ、地域的関心事および制度面からの調整から、各政策目的に当てられた互いに関連性を持ったプライオリティーまでにわたる。しかしながら、究極の目標は「国別環境調査及び戦略」が出来るかぎり効果を発揮する明確な目的、適用範囲、そして手続きにある。

31. その適用範囲は主催国の特定の条件や要求事項に対応するものとなろう。従って一般的に言えば「国別環境調査及び戦略」の適用範囲は以下の資源エリアにおける諸傾向や諸問題を分析するものとなる。土壌/農業、森林、鉱物資源/採鉱、排水、水文学、海洋沿岸生態系、保護エリアと野性動物、都市環境、産業化、空気・水の汚染、衛生及び有害廃棄物などである。自然資源の誤った管理方法の底流にある原因を調べる際、社会的、文化的要素や経済セクター政策およびその実施、そしてその国の環境、自然資源管理に対する法、規則、制度面からみたフレームワークなどが「国別環境調査及び戦略」によって再び分析されるものと思われる。

32. 「国別環境調査及び戦略」の中心目的は環境の状況、および環境と地元の人びととの関係に関するもので、そうした入手し得る情報を一本化し環境の質および自然資源の利用における包括的なプレゼンテーションを行なうことにある。そうした事であるから、「国別環境調査及び戦略」は、ある国の将来のプランニングおよび分析の明確な基本ラインを確立するものである。そうした国ではこのような情報が存在しなかったり包括的な形でまとめられていないため特に重要である。

33. 「国別環境調査及び戦略」の主要目的は、データの収集、環境傾向のモニタリング、プランナーや政策立案者を補助する分析的研究を取り行なうこと等に関して制度的なメカニズムを設定することである。そうした目的の各エリアにおいては、集められたデータと政策プランナーおよび意思決定者のニーズが繋ぎ合わさるかたちでその方法論が立てられるべきである。ベースラインのデータが確立され、開発プランニング・プロセスに統合し得る有用なインディケーター (統計指標)もまた確立されて然るべきである。こうしたデータとニーズの連結およびインディケータ作りを確立する際の最良の方法は、プロセスから出されるひとつの結果が環境や自然資源をプランニングおよびモニタリングする情報管理システムとなるよう、「国別環境調査及び戦略」の初期段階において決定されなければならない。

34. 「国別環境調査及び戦略」では環境の質、資源利用の型と経済、財政の有力な政策との繋がり具合などが調査されるべきである。現行の価格支持、助成金、税金、輸出奨励、その他の政策が自然資源の持続的利用にディスインセンティブ (不活性化)を提供し環境悪化を招く恐れがある。開発プランナーや政府政策立案者が環境に対して破壊的効果を持つ政策手段を除外または改訂することの出来るように、資源経済の方法論を駆使することで上述の要素の確認、分析がなされる必要がある。同時に環境を守り質を高めるインセンティブを与えると思われる政策の導入が可能である。

35. また「国別環境調査及び戦略」では国および地方レベルでの環境、自然資源のプランニングおよび管理における制度的調整の分析は強調されるべきではない。資源環境改善に対する制度的障害は、先進諸国および開発途上国を問わず世界中で見られることである。制度面の調整、重複しかつ矛盾する要素、トレーニング不足のスタッフ、限られた予算、そして貧困な政策サポートなどは環境政策をすべて効果のないものにする。私的組織の活動もまた資源開発に関して逆効果をもたらすこともある。「国別環境調査及び戦略」ではこうした制度面での調整について調査がなされるべきである。それは国の経済計画や制度に直結した恒久的な環境プランニングやその管理能力を確立することを保証する新しい活動、組織、あるいはトレーニング・プログラムを明確にするためである。

F. 宣伝、普及および調査

36. 「国別環境調査及び戦略」の基本目的はその政策およびプログラム勧告についてコンセンサスを見い出すことであり、持続的開発のための環境と自然資源要素の重要性に対する一般認識を育てることである。こうした目標を達成させるための努力はプロセス全体を通じてなされるべきであり、そうした努力の結果公表後に向けて明確なコンセンサスを確率し一般認知戦略を明らかにする、そのようなことに対して特定の関心が払われるべきである。

37. 宣伝、普及および調査に対する戦略は、リポートの的をよく絞り広く配布することなどが含まれる。そうしたリポートには、技術書のよく知られたヴァージョン、新聞/テレビ報道、会議、ワークショップ、および地元ヴィレッジのミーティングなどのリポートがある。「国別環境調査及び戦略」に基づいたトレーニング・プログラムはまた政策の立案者やプランナーそして地元の人たちの間に諸々の問題についての認識を深めてもらう場合の有効な手段である。こうしたすべての活動は問題を公的なディスカッションのもとに据え置くために期間が延長されることもある。

38. このように決められたことに対して、明らかだがよく見逃されるとして出される結論は、こうした活動に対する完全に十分な資金は最初から「国別環境調査及び戦略」の欠くことの出来ない部分である必要がある、ということである。十分なリポートを出版できず、正式な調査および話し合いにかかるコストのみならず配布に要するコストも出ない場合、コンセンサス作りや宣伝教育のプロセスはうまく行かないかもしれない。よく知られたヴァージョンやそれ以外の形のプレゼンテーションも共に地元の人たちのあいだに普及されるよう促されるべきである。

G. フォローアップ

39. 「国別環境調査及び戦略」では政策リフォーム、制度建直し、トレーニングおよび教育、リサーチおよびモニタリングなどに関して一連の勧告が出される。そうした勧告を実施するための戦略には、ドナーからの資金および技術援助の委託とともに主催国政府からの長期的委託を必要とされる。

40. 「国別環境調査及び戦略」では、ドナーや主催国政府からのフォローアップのための行き届いた戦略が生み出されるべきである。そうした戦略を形づくり、参加団体から与えられるそれ相当のレベルのサポートを決定するためにも、それに相応しいNGOが参加するドナーや主催国政府の連続した円卓会議が開かれるべきである。

41. 主催国政府やドナーがサポートを要請されるフォローアップには2つのタイプがある。一番めは「国別環境調査及び戦略」から出される多数の具体的な政策リフォームまたは/およびプロジェクト提案である。二番めは諸制度および専門家の十分な活用であり、そうした専門家はデータ収集、モニタリング、および政策分析の連続したプロセスを確実なものにするために「国別環境調査及び戦略」を発展させた人たちである。環境計画プロセスには入手したての新しいデータ、科学的情報を使うといった静的なものではなく動的なものでなければならない。現地の情報を通した知識や相関関係は女性に関するそれを含めて「国別環境調査及び戦略」に正しく反映されるべきである。政府内で恒久的な環境リサーチおよび分析能力があるということは、環境および自然資源の政策、管理を改善させるに当たって究極的にはかなりの影響力を持ち得るものである。

42. 「国別環境調査及び戦略」の完成に続いて、ドナーや主催国政府は適当な時間の経過後、そのプロセスや達成内容について評価を下すべきである。プロセスそのものから得た教訓は別にして、そうした評価は「国別環境調査及び戦略」の結果として出されたイニシアチブの調整作業に貢献することがある。

H. 時間とコスト

43. 「国別環境調査及び戦略」を行なう際に含まれる時間とコストはその時々で非常に多岐にわたっている。多岐にわたる要素は、特にデータの範囲、入手可能性、それに参加者の協力度における相違によって影響されるものである。したがつて、一般化するのは困難であるにしても大雑把な指標はここでいくつか得られるだろう。

44. 過去の経験が示すところでは「国別環境調査及び戦略」の場合、開発に約2年の歳月がかかる。この時間の見積もりは「フェイズII」の場合のUS AIDの経験に基づいたものであり、適当な政府協力や調査を完成させるための十分なデータなどが入手出来ることを前提としている。

45. 「国別環境調査及び戦略」のコストを決定することは難しい。過去の経験によればおおよそ20万から30万USドルの範囲とされる一方、そうした数字には物品によるサービス、補助スタッフ、その他の要素は含まれていない。例えば、ラテンアメリカにおけるコストはアフリカのそれより低い場合がある。何故ならラテンアメリカの国の多くはよく整備された地元のNGOネットワークやコンサルタントを持っているからである。コスト見積もりには、出版や普及、フォローアップ活動とともにこうした要素を考慮に入れなければならない。「国別環境調査及び戦略」が継続モニタリングと共に分析、プランニングおよびプロジェクト計画に欠くことの出来ない部分になるまでは、追加コストはそれにかかる時間を越えて増加させ得るものである。