「開発プロジェクトに伴う立ち退き及び再定住に関する開発援助機関のためのガイドライン」

 


経済協力開発機構
パリ 1991年

 I. 序

 II. 政策目的

 III 再定住プランニング

 IV. 再定住における援助機関の役割

 V. プロジェクト整理および文書化

 付録

開発プロジェクトに伴う立ち退き及び再定住に関する開発援助機関のためのガイドライン

 OECD (経済協力開発機構)開発援助委員会 (DAC)は、開発援助および環境に関する作業部会を通じて、環境および援助に関する多くのガイドラインと勧告を作成してきた。それらは作成され次第DACによって採択され、事務局長によって公開された。「開発プロジェクトに伴う立ち退き及び再定住に関する開発援助機関のためのガイドライン」は、プロジェクトによって移住させられた人々がそれから利益を受け、健全な生産基盤の上に再定住できることを確保するようプロジェクトの計画者や施行者に求めている。


Copyright OECD, 1991



開発プロジェクトに伴う立ち退き及び再定住に関する開発援助機関のためのガイドライン

I. 序1. 

人々をその意に反して移住させざるをえない開発プロジェクトは、普通厳しい経済的、社会的、環境的問題を引き起こす。生産システムは取り去られ生産の基盤及び収入源は失われる。人々が新たに移住させられた環境では、彼らの社会的及び生産面での熟練は適性を欠き、資源獲得競争は厳しいものとなるかもしれない。意に反した再定住は、適切な措置が注意深く計画、実施されない限り、長期的困難、貧困、環境ダメージを生む可能性を持つ。過去の経験によれば、意に反した再定住に関する明確なガイドラインの欠如が多くのプロジェクトにおいて立ち退きの問題の複雑さと影響の過小評価につながっている。

2. 再定住計画の策定は立退きに伴うマイナスの影響を緩和し、プロジェクトにより影響を被った人々に開発機会を創造する契機となる。初期の適切な再定住計画の策定はプロジェクトコストを増大させるが、長期的な利益としてプロジェクト実施中の遅れ、コスト増大を少なくし、再定住者の生産活動増大による利益を増し、社会全体の福祉へのコスト減をもたらす。

3. 以下に述べるドナー援助プロジェクトに伴う、人々の意に反した再定住を処理するための政策及び実行ガイドラインは、こめ領域における最善の慣行のいくつかを体系的に集成したものである。



II. 政策目的

4. 再定住に関する政策ガイドライン採択の主な目的は、プロジェクトの計画者や施行者が最善の慣行に従うことによりプロジェクトによって移住させられた人々がそれらから利益を受け、健全な生産基盤の上に再定住できることを確保することにある。

5. 立ち退きおよび再定住に対する代替案は、立ち退きおよび再定住に関する決定がなされる前に十分考慮されるべきである。立ち退きおよび再定住の問題は、プロジェクトの準備の最初の段階からそのプロジェクトに不可欠なものとして取り扱われるべきである。潜在的な再定住問題の発生に備えて、プロジェクトはその適性が審査されるべきである。特に住民の意に反する再定住を引き起こすと思われるプロジェクトには以下の建設或いは設立が含まれている。a) ダム、b) 新しい街、港、c) 住宅および都市基本施設 (学校、道路など)、d) 鉱山、e) 大規模産業プラント、f) 鉄道および高速道路、g) 用水路、そしてh) 国立公園または保護エリアなどである。

再定住計画には以下の基本的な政策的考慮が払われるべきである。

a) 意に反する住民移動は、他のあらゆるプロジェクトデザインの選択可能性を調査し、可能であれば回避するか最小限にすべきこと。どのような場合にも、プロジェクト実施を回避する案 ("開発せず"の案)が真剣に検討されねばならず、決定の過程においては、住民のニーズと環境保護に重きを置くべきである。移住が不可避な場合、移住計画は住民のニーズと環境保護に十分注意が払われるべき。ドナー諸国は、住民の移住を伴うプロジェクトは、影響を受けるグループの権利を守る受け入れ可能な移住計画が含まれない場合、支持すべきでない。
b) あらゆる意に反する移住は、移住民がプロジェクトの便益を受けられるよう十分な投資資源とその機会を用意する開発プログラムとして立案され実施されるべきこと。移住民は以下のことが可能となるように取り扱われるべきである。
 1)土地ベースまたは雇用ベースでの生産手段の再構築
 2)移住に要する費用に等しい損失補償
 3)移住に要する期間と過渡期間における援助
 4)移住民の以前の生活水準と所得の能力、生産水準を改善するため、または少なくとも維持するために彼らがなす努力に対しての援助。
c) 環境担当機関と地域共同体の移住計画と実施における参加は不可欠。また女性がそれに含まれること。移住民と彼らを受け入れる側の住民の適切な現存の社会・文化機能が活用されるべき。
d) 移住民を受け入れる側の共同体は、計画実施過程に関与させられ、移住に伴う有り得べき社会環境への悪影響に打ち勝つための支援がなされるべき。
e) プロジェクトにより取られる土地や他の資源に慣習的権利を保有している土着グループ、少数グループ、放牧民には、適切な土地、インフラ、その他の補償が用意されるべき。そうした集団が土地に対し法的権利を持たなくとも、補償の障害となってはならない。
f) 天然資源を基礎とする生産は (彼女らの知識・技能・労働によって)非常に広い範囲で女性に負っており、かつ女性の家族・コミュニティ・国家経済への貢献は大であるので、移住計画は彼女らの選好を考慮し、かつ彼女らのニーズと制約を踏まえなければならない。
g) 移住計画の実施は効率的に監督されねばならない。

III 再定住プランニング

7. タイムテーブル、予算を含めた詳細な再定住プランは、移住したひとの経済基盤を向上させ、あるいは少なくとも回復させるための開発パッケージを中心に立てられるべきである。過去の慣例によれば、現金補償のみでは必ずしも十分ではなくしばしば逆効果を与えるものになる。農業地から移住させられた人びとに対する土地を基本とした再定住戦略に優先権が与えられるべきである。もし適当な土地が手に入らないのであれば、雇用または自営の機会に対して立てられる土地を基本としていない戦略が必要となる。

8. 再定住プランの詳細内容およびそのレベルはさまざまな条件、特に再定住の規模によって多岐にわたる。プランにはふつう以下の条項が含まれる。

 a)組織の責任
 b)社会経済調査
 c)コミュニティーへの参加および受け入れる側の住民への統合
 d)法的なフレームワーク
 e)失われた財産の評価と補償
 f)土地の獲得と生産手段建て直し
 g)職業訓練および雇用へのアクセス
 h)シェルター、基本的施設 (学校、道路など)、そして社会的サービス
 i)環境保全とその管理、
   そして、
 j)実施のためのタイムテーブル、モニタリングおよび評価

9. こうしたプランの構成のひとつひとつの詳細は付録に述べられている。再定住計画においてもっとも重要なことは、可能性のある移住地をいくつか前以て確認することである。地方の再定住者に対しては、失われた土地と少なくとも対等な生産可能性を持った代替の土地を提供する"土地と土地への交換"的アプローチが奨励されることが望ましい。都市の再定住者に対しては、新しい土地において、雇用、基本的施設、サービス、生産機会などに対して以前にも匹敵するアクセスが確保されるべきである。

10. コスト見積もり (経済、社会、エコロジー面のコストを反映する見積もり)は移動プランに盛られたすべての活動に対してなされるべきで、主要投資プロジェクトの物理的作業と同格に予算が立てられスケジュールが組まれるべきである。

IV. 再定住における援助機関の役割

11. 他の開発プロジェクト同様、住民の意に反する再定住を伴うプロジェクトの第一責任は、そのプロジェクトが実行される国の政府にある。

12. 移住の規模や社会環境影響の軽減を追求する際、ドナーは以下のことを通して支援受け入れ国の努力を如何に支持できるか、その可能性を調査すべきである。a)再定住政策、その戦略、法律、規制、個々のプランなどを計画、評価するについての援助、b)再定住に責任を負う機関の能力を強化するための融資技術援助、c)再定住の投資コストに相応しいものとしての直接的または間接的融資、そしてd)政府と移住受け入れ国とのあいだの協力関係および再定住民および土着住民を代表するNGOへのサポートなどの奨励などである。

13.各プロジェクトの再定住に関する特定のニーズが前もって分からない場合は、援助受け入れ側は、再定住政策、プランニング方針、そして制度面の調整についてドナーと合意する必要があろう。移住する住民の人数および再移住にかかる全体のコストの予備見積もりは、提案再定住地の評価とともに少なくとも最初の段階でなされるべきである。



V. プロジェクト整理および文書化

14. 再定住作業の準備は主要プロジェクトの状況および性格によって異なるが、効果的なプランニングを行いそれを実施するためには、以下のような幅広い一連の事項が過去の実践によって示唆されている。

15. プロジェクトの確認 住民の意に反した再定住の可能性は、出来るかぎり早めに決定されるべきであり、プロジェクト確認作業では移住を回避または最小限に抑えるための技術的代替案が調査され、文書化されるべきである。プロジェクトマネージャーは以下の事柄をなすべきである。a)再定住に関する規模、アプローチ、タイミングの予備評価および説明、b)援助受け入れ側および関係住民グループに再定住政策ガイドラインを報告し、住民のプランニングへの参加を計画する、c)同類の作業を過去に行なったほかの国を調べる、d)再定住に関する政策、計画、および制度、審議、法の各側面の調整について討論するために援助機関の責任者を招く、e)適切な箇所には援助受け入れ側のために技術的援助が早期に与えらることを確保するなどの事柄である。

16. プロジェクト準備 プロジェクトの準備のあいだ、提案された再定住の実行可能性が関係住民および受け入れ住民の参加審議において確かめられねばならない。そこには地元女性グループが参加するべきである。再定住計画草案および作成予算見積もりなどに関して、その戦略が合意されるべきである。再定住の全体コストが確認され、それは主要投資プロジェクトの総コストに含まれるべきである。

17. 見積もりおよび交渉 再定住プランおよび予算立てに時間の制限があるという事実は、再定住を含めたプロジェクトに対する最初の見積もり条件でなけばならない。見積もり代表者は以下のことを確かめるべきである、a)住民の意に反した再定住および人間的困難はどこまで最小限に抑えられるか、b)再定住およびその補償に関するタイムテーブルや予算を含めたプランの妥当性、c)すべての再定住活動に対する土地と資金の入手可能性および妥当性、d)実施調整の実行可能性、そしてe)どの程度の恩恵を受ける者がでるか。

18. 実施および監督 再定住を構成する各作業は、実施期間全体にわたって監督され、新しい土地へ再定住の住民が到着した後もつづけられるべきである。調査団には経済学、社会論理学、技術などの必要専門知識をもったスタッフがそろえられているべきである。

19. 事後評価 プロジェクト終了レポートでは再定住の結果や、再定住者および受け入れ住民の生活水準に関して再定住がもたらした影響が評価されるべきである。

 

付録

再定住プラン

 再定住政策および目的は、再定住活動プランに具体化されるべきである。以下に示されたものはそうした活動プランが準備および作成されるあいだに考慮されるべき基本的要素である。

1. 組織の責任 再定住を管理する組織面のフレームワークは、プロジェクト準備中に開発され、十分な財源が担当機関に提供されねばならない。プランニング、実施活動、再定住モニタリングにおける参加非政府組織 (NGO)の幅は、かなり広いものになる可能性がある。

2. 社会経済調査 再定住プランは住民の規模、文化、経済、生態的性格、そして移住によって起こり得る影響についての最近の情報に基づくべきである。社会経済調査ではいかの事柄について説明がなされるべきである。I)移住の規模、II)平均的家庭の性格および影響住民の全基本資産。非公式セクターや非農業活動、共通財産からの収入を含めたもの、III)住民グループが経験する財産における全体あるいは部分的喪失程度。自由に使える財源、知識、および技術などを含む、IV)影響を受ける公共基本的施設および社会サービス、V)再定住プログラムの計画、実施に際して援助を出し得る公式、非公式の組織そしてVI)再定住オプションに関する姿勢。社会経済調査、関係家族の氏名の記録などは補償資格のない住民の流入を防ぐために出来るだけ早期に行なわれるべきである。

3. 地域共同体の参加および受け入れ住民への統合 再定住プランに対する文化的、心理的受け入れ能力は、グループによる住民移動、分散の低減化、グループ組織の存在様式の保存、文化財 (寺院、巡礼センター等)へのアクセス保持などによって増すことが可能である。文化財のアクセス保持に関しては必要であればそうした文化財を移動することもある。

4. 移動に先立つプランニングにおいて意に反する再定住者と受け入れ住民の参加は、非常に重要である。効果的な参加を得るには、再定住者は自分たちの権利について知らされる必要があり自らのオプションや好みについて再定住プランの準備中に審議がなされるべきである。また、環境管理や基本的施設維持についての責任を負うために地元のリーダーシップが奨励されるべきである。女性、そして生まれながらに住んでいる人びと、エスニック・マイノリティーそして土地を持たないひとといった被害を被りやすいグループなどもそうした調整の話し合いに代表として参加するということを確保する、といった点について特別な関心が払われるべきである。

5. 受け入れ地域共同体における条件やサービスは改善されるべきであり、少なくとも悪化させるべきではない。両グループに優れた教育、水、健康、そして生産手段のサービスを提供することはグループの調整統合のためのより良い社会環境を育てることになる。

6. 法的なフレームワーク 再定住管理に関係した地元の法的フレームワークの分析がなされるべきである。そこでは以下のものが含まれる。I)喪失財産評価に対する公用徴収権および規制の範囲、II)適用可能な法的、行政的手続き。苦情処理プロセスに関係するそうした手続きへのアクセスを含む。III)土地権および登録手続き、そしてIV)再定住施行に責任を負う機関に関連する法律および規制などである。

7. 失われた財産の補償 喪失財産の評価はその財産の移動取替原価でなされ、また透明かつオープンな方法でなされるべきである。一般的には十分に正当化される例を除いて現金補償だけは避けられるべきである。そうしたことは概して貧困化につながるためである。以下のようなある種の財産喪失は金銭的条件において容易に補償されない。I)公的サービスへのアクセス喪失、II)顧客および供給者、III)漁業、牧場または森林エリアなど。そうした財産に等価あるいは文化的に受け入れ可能な財源、または収入を得る機会へのアクセスが求められねばならない。慣習土地所有権および土地使用権は、前使用者の生活貧困化を避け補償するために認められなければならない。

8. 土地の獲得と生産手段建直し 再定住プランには新たな再定住用地の確認、獲得あるいは指定とともに没収地の公正な獲得、文化遺産の保護が盛られるべきである。土地を基本とした生産手段対策は、農家の社会経済面の債券にとって、一般にもっとも信頼できるオプションである。そこには小規模潅漑開発や植林計画などが含まれる場合がある。共通財産管理体制化の土地や最貧困グループへは特別な関心が払われる必要がある。

9. 職業訓練および雇用へのアクセス 総合経済成長はプロジェクト関係住民の福祉を守ためには信頼出来ないものである。非農業移住家庭、または土地がもとのすべての農業従事者を受け入れるに不十分な農家では、代替雇用および職業訓練が再定住プランに組み込まれることがある。再定住プランでは主要な投資によって作りだされた新たな経済建直し機会が追求されるべきである (例としては新たに資金を蓄積しての漁業、農業開発などがある)。

10. シェルター、基本的施設、そして社会的サービス 移住コミュニティーの経済的および社会的生活力を確保するために、シェルターや基本的施設 (上水道、支線道路など)、社会サービス (学校、健康センターなど)に提供する十分な財源が割り当てられるべきである。コミュニティーあるいは自己建設家屋は請負い建築家屋より再定住者のニーズに対して好意的に受け入れがなされ適していることが多いので、適切な基本的施設、モデルハウスプラン、建設資材、技術援助、そして"建設手当て" (再定住者の家屋建設中の先に支払われる収入)などの条項はコミュニティーが提供されなければならないオプションである。シェルター、基本的施設、そして諸々のサービスのプランニングは人口増加を考慮に入れるべきである。

11. 環境保全とその管理 再定住を必要とする主要な投資の環境評価には再定住による潜在環境影響が含まれるべきである。地方の再定住において、新たな再定住人口が受け入れ住民人口と比較して多い場合、森林伐採、過度の放牧、土壌侵食、衛生面、そして汚染などの環境問題が深刻になる恐れがあり、環境保全プランには適切な軽減対策が含まれるべきである。都市への再定住は他の人口密度問題を引き起こす (例えば輸送能力、携帯用水、衛生システム、健康管理施設など)。環境および住民への考えられる影響が受け入れがたい場合は、代替および/または追加移住地が見出だされねばならない。

12. 実施タイムテーブル、モニタリングおよび評価 再定住のタイミングは再定住を必要とするプロジェクトを構成する主要投資の実施と統一されるべきである。再定住プランにおいてはすべて各段階の活動の実施タイムテーブルが含まれるべきである。実施タイムテーブルには最初の準備、実際の移動、そして移動後の経済的、社会的活動などが網羅されている。またプランには再定住者や受け入れ住民への予想される恩恵が達成されると思われる目標期日が含まれているべきである。

13. 再定住のモニタリング実施およびその影響評価に関する調整は、プロジェクト準備中に支援受け入れ機関によって詳しい説明がなされ、監督期間中に利用されるべきである。組になったモニタリングと評価は十分に資金融資を受け、再定住に関する専門家がそこに置かれるべきであり、その諸々の条項は直接参加アプローチを保証する目的で作成されるべきである。