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先進的取り組みの現在
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生物多様性の保全を目指す、
先進的取り組みの現在

リコー

株式会社リコー 森林生態系保全プロジェクト

株式会社リコーが森林生態系保全への取り組みを開始したのは、「生物多様性」という言葉がまだ耳慣れない1999年のこと。
その背景には、持続可能な社会の実現の必要性に関する経営層の正しい認識と、社員の情熱があった。
環境NGOと協働して、地域社会を巻き込みながら、持続的な森林生態系保全の仕組みづくりを図る先験的取り組みを続ける中で得てきたものを社会環境本部 環境コミュニケーション推進室の岸 和幸氏に聞いた。

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活動サイトの一つである極東ロシアのビキン川流域の豊かな森林。
アムールトラやシマフクロウなど様々な生物が生息する大森林だが、開発の圧力にさらされている。

株式会社リコー
社会環境本部
環境コミュニケーション推進室
岸 和幸氏

インタビュー

Q「生物多様性」という言葉がまだ耳慣れなかった1999年当時、生態系保全という取り組みを開始した理由を教えてください。

岸●その前提には、企業活動を続けていくには持続可能な社会の実現が必要であることをリコーが認識していたということがあります。実現するための条件は、人類が環境に与える影響を自然の再生能力以下にとどめることです。現実的には残念ながら、環境への負荷は自然の再生能力を上回る状態が続いており、弊社は環境負荷の低減に積極的に取り組み続けています。

一方で企業は、地球環境の再生能力向上に取り組むことも可能であるとの考えで「森林生態系保全プロジェクト」は行われています。

地球上には、森林、湖沼、海洋などさまざまな生き物の生息地がありますが、その中でも森林は生物多様性の宝庫であることが森林生態系に注目した理由です。また地球上で森林の失われる速度が大変早くなっていることから、すぐにでも取り組む必要があると考えて1999年から開始しました。

Q いち早く、生態系保全という課題に注目した理由を教えてください。

岸●実は、その背景には一社員(私の先任者)の環境に対する「思い」がありました。その社員は、日本海でのタンカー座礁の映像を見てショックを受け、それを契機にして地球の各地で起きている生き物たちの悲惨な状況を見聞きするようになり、「このままではいけない」と考えるようになったのです。そこで環境部門へ異動を希望し、生態系の保全を会社として取り組む動きをつくっていったのです。

Q 大企業における大きな活動が、一社員の「思い」から始まったというのはちょっと意外な気もします。

岸●もちろん個人的な熱意だけで組織が動いたわけではありません。企業経営の継続には持続可能な社会の実現が不可欠という経営層の認識とのマッチングがうまくいき、縦のラインが上手くつながり推進できたということが大きかったと考えています。

今日、「森林生態系保全プロジェクト」の活動資金は、社会貢献活動を継続するために同社が設けた「社会貢献積立金」から拠出されている。これは株主総会での承認のもと、毎年の利益から年間配当を差し引いた金額の1%(上限2億円)を積み立てたものだ。
同プロジェクトはこれまでバングラデシュ、スリランカ、フィリピン、マレーシア、中国、日本、ガーナ、ロシア、ブラジルの9カ国で実施されてきた。

Q プロジェクトでは、どのような部分を大切にしているのでしょう?

岸●私たちがもっとも重視しているのは、地域住民の生活や経済活動も含め、森林生態系が持続的に保全される地域主体による自律的な仕組みがプロジェクトによってつくられるということです。

地球上で起きている森林破壊はさまざまです。例えば、2002年からプロジェクトを進めてきた西アフリカのガーナでは原生林伐採の背景には、カカオ豆プランテーション開発の圧力があります。同国の貴重な外貨獲得手段であるカカオ豆の栽培は、森林伐採後に同じ土地で数年栽培すると地力が低下して病害虫が増えるため、新たな栽培地を必要として残っている森を伐採する方法をとっており、人口増加も加わって大量の森が失われました。こうした状況の中、森林破壊を食い止めるには、森を切らなくても地域経済が成り立つ仕組みを構築する必要がありました。ガーナでの活動では、原生林の保護地域の外側に拡がるコミュニティに「アグロフォレストリー」(森林農法)の方法により森の中でカカオ豆を栽培する農法を拡げていき成功しています。各地域により森林減少の要因は異なりますが、私たちはプロジェクトパートナーのNGOと連携して、情報収集と分析を行い、各活動でそれぞれのゴールを設定し、その実現に向けた取り組みを続けています。

Q プロジェクトの具体的な流れを教えてください。例えば、プロジェクトはどのように選定しているのですか?

岸●基本的には、環境NGOからの情報提供が起点になります。「生物多様性が豊かでありながら危機的な状況にある森、その森を守る・回復するためにどのようなことが必要か、リコーの支援が現地の生物多様性保全に役立てるのか」というNGOとのやりとりがあります。先ほどお話した、「リコーのプロジェクトが行われることで、地域住民の生活や経済活動も含めて森林生態系が持続的に保全される地域主体の自律的な仕組みがつくられる」ことの可能性を判断してプロジェクトを選定します。開始が決まれば、ゴールである自律的な仕組みづくりに向けてのロードマップをNGOと共に考えて決めます。
活動初期は啓発活動を通して地域住民を取り組みに巻き込み、その後は地域主体の活動展開を図り、ゴールを目指します。

Q ロードマップ作成後の具体的活動は、NGOが行うのでしょうか?

岸●目標を共有化した上で、現地での実活動はNGOが進めるのが基本です。一方では頻繁にNGOと東京で作戦会議を開き、活動を前進させる手段を探るプロジェクトもあります。
その一例が、2005年から取り組む「北限のトラ生息域タイガ保全プロジェクト」です。

極東ロシアを流れるアムール川の支流ビキン川流域は、500頭まで減少して絶滅が危惧されるアムールトラのほか、ヒグマやオオカミ、シマフクロウ、タンチョウ、イトウなどが生息する生物多様性の宝庫というべきエリアだ。
その一方で、1992年のソ連崩壊以降、極東シベリアの森林資源は開発の圧力にさらされ続けてきた。それは、ビキン川流域も例外ではなかった。

岸●2003年にNGOから現地の話を聞いたとき、ビキン川流域の森林はいつ伐られてもおかしくないという状態でした。極東ロシアでは森林が次々に伐採されている中で、許可のGOサインが行政から業者に出されれば、大型機械によってあっという間に森の木々は切り尽くされてしまうことでしょう。
シベリアの森林土壌は水分が多く、一度伐採されてしまうと森の再生は難しいのが現実です。森を守るための取組みがすぐにでも必要とされる状況でした。


1992年のソ連崩後、極東ロシアの森林伐採は激しさを増していった。

日本ではあまり知られていませんが、極東ロシアの森林開発は、日本と深い関係があります。同地の木材の輸出先は、かつて日本が1位。今では中国にその座を譲ったものの、中国に輸出された木材の大部分は、現地で加工後、日本に輸入されていると見られています。つまり輸出先の実質的なトップが日本であることに変わりはないのです。またアムール川はオホーツク海の豊かな水産資源の源でもあり、日本人の食卓と深い関係があります。


活動サイトのビキン川はアムール川の支流で、その流域には広大な森林が広がり、生物多様性の豊かな場所になっている。

リコーがNGOと共に森林保全に取り組んでいるのは、ビキン川中上流域に拡がる約130万ヘクタール。福島県に相当する広さの土地に暮すのは、古来から狩猟で生計を立てて生活してきた約200人ほどの先住民族で、彼らはたびたび計画される伐採計画に反対し続けてきた。

岸●現地の森を守るというこの活動の基本方針は、ロシア国内の関係諸団体と連携して政府に対し世界自然遺産を目指すことを働きかけ、森の持続的な保全にエコツアーを活用していくというものです。
狩りの達人である先住民の人々は、森林レンジャーとしてうってつけの人材であり、森のパトロールを毎日行って密猟や違法伐採を見張っています。
すでに世界自然遺産に登録されているシホテ・アリン国立自然公園に近いこの土地にはユネスコも注目しており、ロシア政府が推薦すれば世界自然遺産へ登録される可能性はかなり高いと聞いています。

森林レンジャー教育やエコツアー推進などの現地活動はNGOが得意とするところですが、さまざまな組織との折衝活動等は企業が強みを持つ部分です。NGOから随時報告を受け、状況が動くたびに東京において作戦を練ってきました。今は一時の危機的状況は脱し、世界自然遺産登録に近づきつつありますが、まだまだ油断はできない状況です。

シベリアの各地で森林の大規模伐採が行われており、伐採木材の大半は日本に輸出されている。

Q 企業がNGOと協働する上での注意点を教えてください。

岸●NGOと企業は、そもそも性格が異なる組織であることをまずは認識することが大事だと思います。例えばNGOの場合、担当者イコールその組織ということがよく見受けられ、特定のテーマや地域に熱い思いを持つ方が積極的に動き、長年携わることが多いと思います。企業の場合は、経営理念に基づく活動を計画的に行い、経済性に照らし合わせて資源(人、物、金)を効率よく使用することが求められます。

両者の違いをふまえながらNGOとの協働を成功に導くためには、「地域(森林、住民)の持続性をゴールとして、ビジョンや思いを共有する」、「win-winを心がけ互いの役割をきちんと果たしていく」ことが大切だと思います。単に、企業は資金や物を提供する、NGOは活動するという構図では、信頼関係を築きながら長期的に協働することは難しいですね。

もちろんNGOにより様々な考え方や価値観があり、私たちの考えをすんなりと受け入れてくれるばかりではありません。だからこそ、コミュニケーションは重要であると常に感じています。

目指すゴールに向けて互いに意見をぶつけ合い、活動の成果を確認して方法の修正を行いながらも、プロジェクトを一緒に前へ進めていく協力が大切なのでしょう。

性格が異なる2つの組織の強みを活かしあえることができれば、パートナーシップはより強いものになるでしょう。

Q 協働が難しいと感じるNGOもあるのですか?

岸●私たちの森林生態系保全プロジェクトは長期の活動になるものであり、パートナーシップを結ぶにあたっては、長期にわたって信頼してお付き合いできる相手かどうかという部分を確認するようにしています。結婚生活と同じで、組む相手を間違えると、どちらが悪いということではなく双方が後々苦労しますからね(笑)。

Q 生態系保全に向けた取り組みによって、リコーという企業が直接的に得るメリットはどこにあるのでしょう?

岸●この活動は、企業ブランド向上につながるものであることは間違いないと思います。しかし、それはあくまでも生物多様性保全を目指した活動を行って成果を上げた上での結果であるという認識を常に社内で共有するようにしています。この優先順位を間違えると、活動の資金よりも広告の資金の方が多くなるというようなおかしなことになりかねません。何のためにこの活動を行うのかという目的を常に大事にしながら活動とコミュニケーションの両立を図ることが重要です。また、今後はリコーグループの事業との連携も図り、リコーという企業の取り組みであることをより明確に示していく必要もあると考えています。

Q 事業との連携を図るとは、具体的にはどういう意味でしょう?

岸●プロジェクトの活動地域によっては、近隣にリコーグループ企業の事業拠点があるケースはありましたが、事業による地球環境への負荷を軽減する取り組みとは別な文脈からプロジェクトが開始されたことから個の活動として推進してきました。

しかし開始から10年以上が経った現在、生物多様性の保全活動は持続可能な社会づくりに欠かせない国際的な重要テーマとして社会から見られるようになり、企業内はもとよりお客様からの関心もだんだんと高くなってきています。そのような状況から、今後はプロジェクト地域の近隣にある事業拠点に参加を呼びかけたり、あるいは取引先企業、お客様にも協力を呼びかけたりするなど積極的に取り組んでいきたいと考えています。多くの人や組織に「一緒に取り組みませんか?」と働きかけ、持続可能な社会づくりの輪を広げていくことはますます大事ですね。

Q 生物多様性への取り組みは、客観的な評価が難しいという面があります。企業として取り組む上で、それも障害の一つではないでしょうか?

岸●生物多様性への影響や貢献に対する評価手法が現在確立されていない中では、研究者やNGOの方々と協力して取り組むべき大きな課題といえます。

生物多様性保全に取り組む企業間の情報共有を図ることを目的に2008年設立された「企業と生物多様性イニチアティブ」(JBIB)は現在参加企業が50を超え(弊社は副会長企業として参加)、現在定量化・可視化の仕組みづくりを求める声が数多くあります。一方で、関係者の間では「生物多様性は定量化・数値化という観点で語るのは非常に難しい」という共通認識があることも確かです。

生態系は、我々に豊かな恵みを与えてくれています。これをサービスとして捉えれば、経済的価値に置き換えることは可能です。一方でこの生態系サービスは生き物の相互作用を通してつくられますが、その複雑さと規模の大きさはまだよくわかっていません。

生物多様性は、CO2排出量とは違って、指標の一元化はどうも難しいようです。経済合理性のみで良しと考えて行った活動が自然に対して良くない影響を与えることがあります。例えば、過去の緑化活動ではスギやヒノキなど単一品種の植林が日本の各地で行われました。人工の林は在来種による天然の森に比べて、CO2吸収は高くても生態系の機能を総合的に見ると劣ることが、CBD-COPで発表されたTEEB(生物多様性と生態系の経済学)で明らかにされています。

また生物多様性の保全を企業内で進めるにあたっては、数値化とは別に啓発活動で社員が自然環境を肌で感じられる機会を多く設ける必要があると思います。例えば弊社の社長は、プライベートで菜園づくりや森林整備を行っているので、生物多様性の意義は本質ロジック以前に肌で理解している部分もあるようです。おそらくそうした「気づき」の入り口は、各人それぞれに違うことと思います。リコーが環境ポータルサイト「ガイアイア」を開設し、そこに世界各地でのグループ内の活動レポートや美しい写真など多彩なコンテンツを掲載している理由もそこにあります。

社員には、さまざまな情報に触れ、自分なりの「気づき」を得てほしいと考えています。

Q 企業が環境課題に向けた取り組みを強化する上では、トップの強い意思は不可欠と考えますか?

岸●大きな要素であることは間違いないでしょう。一方では、担当者の熱意も必要だと思います。

各社の担当者とお話しをすると、「社命として生物多様性保全に力を入れることになったが、なにをすればいいのか分からない」という方もいらっしゃいます。

そういう方は、ずいぶん苦労されています。しかし以前から関心を持つ分野であれば、取り組み方もまったく違います。企業の環境への取り組みを前進させるには、トップダウンとボトムアップの双方が必要ではないでしょうか。

Q 情熱はあるがうまく組織を動かせないと感じている方へのアドバイスは?

岸●担当者の取り組みを後押しするのは、生物多様性の保全を重視し企業の取り組みを評価するような社会的状況の変化だと思います。

昨年、生物多様性条約締約国会議が名古屋で開かれたこともあり、生物多様性に対する社会の注目は徐々に高まりつつあります。企業は社会の一員であり、社会の変化を追い風に経営層への働きかけを続けていけば、動き始めることと思います。


アムールトラ

Q 取り組みを自己採点すると100点満点で何点をつけますか?

岸●企業による取り組みでこの分野のトップランナーの1社として専門家やNGOの方たちから評価いただいていることを考えると、100点をつけさせていただいてもよいのかもしれませんが、まだ満点ではないと考えています。この生物多様性保全という大きな課題に、多くの人々と協力していくことで、多くのアイデアと行動の可能性を見つけて現実化していきたいと考えています。
★取り組みのヒント
  • 森林生態系保全プロジェクトの背景には「トップの理解」と「担当者の熱意」があった。
  • 互いに意見をぶつけ合う中で、NGO・企業双方の強みを生かすパートナーシップを構築してきた。
  • 目指すのは持続可能な社会のために生物多様性を保全することで、企業ブランド向上はその結果という原則をブレずに貫き通した。
  • 生物多様性保全の意義を知るには、なによりも自然に触れて実感してもらうことが大切。この観点から、社員に向けて自然に関する多彩な情報発信を心がけた。もちろん企業内で推進するために活動の評価(定量、定性)も大事なこととして、関係者と協力して確立を進めている。