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日本人研究者の情熱
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「魔法のバケツ」の普及につとめる、
日本人研究者の情熱

ジェイペック

株式会社ジェイペック 高倉式コンポスト

世界には、ごみ収集システムが未整備である都市はいまだ少なくない。その背後には、急速な人口拡大に都市インフラが追いつかないという現実がある。
そのため、ゴミと隣り合わせの生活を強いられる人も多く、非衛生的なその環境は赤痢やコレラなどの伝染病の温床にもなっている。
こうしたなか、アジア諸都市のゴミ問題解決に向けてコンポスト技術の普及に取り組み続けてきた日本企業が存在する。それが株式会社ジェイペックだ。
開発者の名をとり、「高倉式コンポスト」とも、「タカクラ・メソッド」とも呼ばれる取り組みは今日、各国で大きく花開こうとしている。
同社は電力・エネルギー企業であるJ-Powerのグループ企業。一見、コンポストとはなんの関わりもないように思える同社が、なぜこうした取り組みを続けてきたのか――。
技術を開発するとともに、陣頭に立ってその普及活動に取り組んできた若松環境研究所 業務推進役の高倉弘二氏に聞いた。

主婦を集めコンポスト化取り組みの良さを力説
主婦を集めコンポスト化取り組みの良さを力説

株式会社ジェイペック
若松環境研究所 業務推進役
高倉弘二氏

インタビュー

Q アジアにおいてコンポストの普及活動を開始したきっかけと、その体制を教えてください。

高倉●2004年に(財)北九州国際技術協力協会(KITA)より、当社若松環境研究所にスラバヤ市(インドネシア)での廃棄物減量化・資源化活動について協力依頼があったことがそのきっかけです。
KITAは北九州市と深い関係を持つ国際協力を目的とした団体で、スラバヤ市のケースでは、日本側が北九州市、KITAおよび当社、さらにカウンターパートとして現地NGOと連携して活動を開始しています。
またスラバヤ市で一定の成果をあげたことで、それに注目した(財)地球環境戦略研究機関(IGES)が2006年に連携先に加わりました。
その後、スラバヤ市だけでなく、東南アジアの諸都市に活動を広げるなか、国際協力機構(JICA)からも協力、支援をいただいています。ちなみにJICAとの協力と支援は、北九州市、KITA、IGESによる積極的なアプローチの結果でもあります。

スラバヤ市長から感謝状を拝受右KITA石田氏中バンバン市長
スラバヤ市長から感謝状を拝受 (右)KITA石田氏 (中央)バンバン市長[JPG]


そうした枠組の中での当社の役割は、コンポストの技術指導(理論・実技)と現地技術として定着するためのフォローおよび普及に向けた啓発活動になります。

KITAからジェイペックへと協力の要請があった背景には、高倉氏が日々取り組んでいたコンポストに関する豊富なノウハウと高い知見の存在があった。そして、そのノウハウとともにスラバヤ市の皆さんと作り上げ、完成したのが高倉式コンポストだ。
ご存知の通り、コンポストとは、生ゴミや落ち葉を発酵腐熟させてつくった堆肥(有機肥料)のこと。また堆肥をつくる容器をコンポストと呼ぶことも多いが、高倉式コンポストとは、生ゴミのコンポスト(堆肥)化に関わる一連の技術を指す。
その第一の特徴は「速さ」である。
通常生ゴミは、コンポスト容器内で微生物により分解されて1~2週間で堆肥に変わるが、高倉式コンポストではそれがわずか1日に短縮される。
さらに「臭い」がしない点も特徴のひとつ。
生ゴミの分解には腐敗がつきものである。そうした中、高倉氏が注目したのは発酵というプロセスだった。
微生物の分解作用は大きく発酵と腐敗の二つに分けられる。悪臭は腐敗にともなって生じるが、発酵菌の働きが腐敗菌を上回ればそれは避けられるのだ。
悪臭をともなわないコンポストの実現に向けて、高倉氏がまず取り組んだのは、発酵菌を集め、それを増やす技術を確立することだった。今日、高倉式の名で知られるコンポスト容器の中では、1000を越える発酵菌が働いているという。

Q そもそもなぜコンポストに取り組まれたのでしょう?

高倉●当研究所では、石炭灰をはじめとする資源リサイクル事業にも取り組んでいます。
そうしたなか、捨てられている生ゴミも再利用できるのでは、という観点から、自分なりに研究テーマをつかみ、会社に提案し、研究をスタートさせました。


NGOスタッフに発酵菌採取方法を指導

だが、研究成果をそのままの形で生かすことができなかった。日本の発酵菌を持ち込んで、万が一にもインドネシアの菌類の生態系を撹乱してはならないと考えたからだ。

その結果、高倉氏は現地において発酵菌を集めることから取り組みを開始せざるを得なかったという。

高倉●生態系への影響という問題に限らず、実は人々への普及を図る上でもそれは必要なプロセスだったと考えています。
技術を現地に根付かせるには、それが借り物としてではなく、現地の人々自身のものとして受けいれられる必要があります。これは私自身も取り組みを続けるなかで実感したことなのですが、現地において「技術の適正化」を図ることがとても重要になるのです。

取り組みを開始した当初、高倉氏が目にしたのはスラバヤ市のいたるところに放置されたゴミの山だった。
回収システムが未整備ということもあり、住民は家屋に溜まったゴミを川に投げ込んだり、空き地に捨てていたのだ。それは街に広がる、悪臭と害虫の発生源にもなっていた。
しかし今日、ゴミの山は消え、スラバヤ市は緑豊かな美しい街へと姿を変えた。
高倉氏たちが取り組みを開始した2005年からの数年で、家庭からのゴミ排出量は20%以上減ったという。
また緑が増えた理由は、スラバヤ市がコンポストを積極的に緑化に使うだけでなく、家庭での使用も増えたためだ。
この劇的ともいえる成功例は「スラバヤモデル」とも呼ばれ、高倉式コンポストが世界各国から注目されるきっかけとなった。


Q 当初はご苦労も多かったのでは?

高倉●もちろん順風満帆だったとはいえません。
例えばスラバヤ市では当初、現地NGOのキーパーソンにこんな言葉を投げかけられています。
「私たちは、あなたの技術を必要としていない!」
それが私の海外技術協力の第一歩だったのです。
しかし一方では、「来た以上は現地に貢献するなにかを残したい、残さなければならない」とも強く思ったことも事実です。そのために「できない理由を探すのではなく、どうすればできるのか考えよう」と心の中で何度もつぶやいたことを今も覚えています。
菌の問題に限らず、現地における技術の適正化、最適化に積極的に取り組むようになった背景にもその言葉があります。
そうした経緯があっただけに、協力事業終了時に先のキーパーソンからこんな感謝の言葉を戴いたときには、思わず涙があふれてしまったことを覚えています。
「日本人の試験研究の技術、時間管理・使い方、勤勉さを目の当たりにし、コンポスト技術以外にも多くのことを学ぶことができた。ありがとう!」
たしかに苦労は数多くありましたが、多くの方々に支えられてここまで来たと感じています。

また私は、技術の普及においては人々と「驚き」「感動」「笑顔」を共有することが大切であると考えています。
例えば高倉式コンポストでは、生ゴミはわずか1日でほとんど形がなくなります。
住民の皆さんにデモンストレーションすると、まずそれに「驚き」ます。そして半信半疑で試して自分にもできたことに「感動」し、不衛生な生ごみが台所からなくなり、さらには出来た堆肥を使って地域が緑豊かに変わることで自然に「笑顔」がこぼれる――。
そこまでいけばしめたものです。
現地の方々に喜ばれるような技術は、人々のクチコミだけでも自然に普及していくはずです。


NGOスタッフと家庭を訪問し生ごみの実態調査

ちなみに高倉式コンポストでは、家庭用の洗濯籠など、現地でもっとも手に入りやすいものを容器として使う。スラバヤ市のケースでは、1個あたりのコストは約1,000円。
今日スラバヤ市には、2万個以上の高倉式コンポスト容器が普及しているが、そのうち1万6000個はスラバヤ市が無料配布したものだ。
環境啓発活動を加えた1個あたりの配布コスト1,000円を加味した必要コストは3,200万円。これに対し、ごみ削減効果により年間1,300万円のごみ処理経費削減が図られ、投資コストは2.5年で回収できてしまう。さらに、その後もごみ削減効果は持続するのだ。
さらにコンポスト化を実行してもらうために、現地NGOでは堆肥の買取システムも整備した。
堆肥1㎏の買い取り価格は500ルピア(約4円)。平均すると1世帯あたり月34円前後を得る計算になるという。
市と住民双方が利益を得るシステムを整備できたことも、その普及が進んだ要因だったに違いない。


高倉●普及に向けた仕組みづくりという面では、世界各地でさまざまな取り組みが行われています。
例えばセブ市(フィリピン)のケースでは、出来たコンポストを市が買い上げ、山間部で農業を営む低所得層に無償配布する予定です。
これまでは化学肥料を配布していたそうですが、その価格が高騰したこともありコンポストへの転換を積極的に図っているようです。

Q 社内における活動の位置づけはどうなっているのでしょう?

高倉●当社ではCSRを積極的に推進しており、主となる活動拠点は本社と若松環境研究所にあります。
高倉式コンポストについては、KITAなど北九州市内の連携先からの協力依頼に応じた、若松環境研究所による地域への社会貢献活動という形で取り組みを継続しています。
また、実際の海外での活動は、諸都市における地域貢献活動として行っています。

一方でこうした取り組みは、本業である電力・エネルギー分野とはかけ離れているようにも見える。しかし同グループが、アジアで業務展開を図る上で、社会貢献活動を通し、地域社会の密接なパイプを持つことは大きな意義があるというのだ。

Q 高倉式コンポスト普及に向けた、社内の体制を教えてください。

高倉●今までは私一人で対応していました。
後継者として、JICA青年海外協力隊員としてネパールで高倉式コンポストの普及活動をした経験を持つ女性を2010年に採用し、現在はOJTを中心にその教育にあたっている段階です。
2011年度は、教育の一環として海外OJTも実施する予定です。

Q 世界における高倉式コンポストの普及状況を教えてください。

高倉●私が直接的に普及活動に関わってきたのは、インドネシア、フィリピン、タイ、マレーシアの4カ国です。
そのほかにJICAボランティアによって普及活動が行われている国もあります。現在、ネパール、ブルキナファソ、ドミニカ、スリランカ、ラオス、ジブチ、タンザニア、ベナン、ラオス、エチオピア、モロッコ、ヨルダン、モザンビーク、南アフリカ、ルワンダ、ウガンダ、フィリピン、ブータン、ナミビア、フィジーの20カ国において、取り組みを実施、あるいは計画がされています。

Q 本当に世界中で取り組みが進んでいるのですね。その普及は順調に進んでいるのでしょうか?

高倉●残念ながら、普及がスムーズに進まないケースも確かに存在します。
高倉式コンポストは「簡単・速い・安い」「衛生的」「臭いがしない」「良質な堆肥ができる」など、今までのコンポスト技術にはない高い効果が簡単に得られるという特徴を持っています。
また日本国内ではなく、発展途上国と位置づけられるインドネシアで導入に成功したことが、多くの国で親近感とともに受け入れられたという事情もあります。
その結果、安易に高倉式コンポストを取り入れようとする傾向があるようにも思えます。「これなら自分たちにもできるのでは」というわけですが、その一方では、高倉式コンポストが成功した第一の理由は見落されがちです。
それはすでに触れた通り、現地において技術の適正化、最適化を図ってきたという事実です。
繰り返しになりますが、単に移植するだけでは技術は地域に根付きません。まず技術の基礎理論を伝えることが大切なのです。

これまでの経験では、普及が進まない理由として、以下のようなケースがありました。
●成功事例だけが念頭にあり、フォローアップ体制が不十分だった(普及者のコンポスト経験が不十分であり、トラブルシューティングも不十分となり途中頓挫した)。
●基本マニュアルでは「米ぬか」や「モミガラ」をベースに発酵床を仕上げるが、他の資材を使うことも可能である。しかし「米ぬか」や「モミガラ」が絶対的なものと考え、入手が困難であるにも関わらず、これらをベースにしてスタートしたため資材が入手できなくなり頓挫した。
●市長等のトップ(責任者)の交代でコンポスト取り組みを縮小した。
●行政施策として組み込まれずにNGOの取り組みとしているため、規模の拡大に限界が生じている。

NGOスタッフと発酵床作り

Q 高倉式コンポストの今後の展望を教えてください。

高倉●そのひとつは国内での普及です。
高倉式コンポストはスラバヤ市をはじめ海外の多くの都市で取り組んでもらってきましたが、実は日本国内ではまだまだこれからという段階です。
ゴミ問題は世界共通の課題です。その解決に向けて市民自らが取り組める方法の一つがコンポストです。高倉式コンポストに限らず、日本国内でも多くの人がコンポストに取り組んでいただければと思います。
もちろん海外での普及にも積極的に取り組み続けたいと考えています。
実際に取り組む人々に「やってよかった」と感じていただくため、「技術指導」「フォローアップ」などの確実な提供にこれまで以上に力を入れ、人々と「驚き」「感動」そして「笑顔」を分かち合いたいと考えています。
私のコンポスト活動のスタート地点には、「環境問題への貢献」という課題がありました。コンポストはあくまでもその一部であると考えています。
私自身のこととして言わせてもらえるなら、幸い後継者も育ちつつある今、「環境問題への貢献」に関する新しいテーマにも今後は取り組んでいきたいとも考えています。


NGOスタッフに技術指導

Q 企業内で国際協力に携わる方々へのメッセージをお聞かせください。

高倉●世界には既存の日本の技術・システムが生かせる場面が数多くあります。
国際協力の対象国の多くは発展途上国です。そこでは最先端の技術が望まれているとは限りません。逆に、ローエネルギー・ローコスト・シンプルテクノロジー(シンプルシステム)が望まれています。
そのため「日本では当たり前であることが、実は現地ではとても斬新であり、渇望されるものだった」ともいうことが多いのです。
また国内の技術・システムを、気候や文化が異なる土地にそのまま持ち込んでも成功するとは限りません。何度も繰り返すようですが、どれだけ優れた技術やシステムであっても現地に応じて適正化していく必要があります。
さらにいえば、現地の人々が技術を自立的に適正化していけるように、時間が掛かっても基礎理論の伝達に力を入れることが大切です。
また実際の協力の場面において大切なことは、「相手の立場に立って、心を込める」ことです。その際、過剰なサービスは逆効果でしかありません。

指導の際、私は次の2つの言葉を大切にしています。それは、
「やってみせて、いって聞かせて、やらせてみて、ほめてやらねば、人は動かじ」
「間違いは間違いとして、やさしくていねいに理解できるまで伝える」
という2つです。その姿勢が真の意味でのサービスにつながると考えています。

Q ご自身の取り組みを自己採点すると100点満点で何点をつけますか?

高倉●当初はスラバヤ市のコミュニティの200世帯がコンポストに取り組んでくれれば成功と考えていました。それが今日、「高倉式コンポスト」は世界中に広がろうとしています。スタート時の基準で採点するなら200点をつけてもいいぐらいだと感じています。しかしそれもみな「皆様のおかげ」なのです!
★取り組みのヒント
  • 日本発祥の技術の普及に向けて、その「適正化」を積極的に図った。
  • 現地の人々が技術を自分たちのものとし、それに改良が加えられるよう、技術指導ではなによりも基礎理論の伝達に力を入れた。
  • スムーズな技術の普及には、現地の人と同じ目線で、「驚き」や「感動」を共有することが大切だ。