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社会貢献のあり方を探っていきたい
Case Studies

通販というビジネスモデルを生かした
社会貢献のあり方を探っていきたい

フェリシモ

株式会社フェリシモ PEACE BY PEACEコットンプロジェクト

化学肥料や農薬の大量投入に支えられた今日の綿花栽培は、地力の衰退、そして農業従事者の健康被害への懸念など、多くの問題に直面している。その解決に向けて、肥料や農薬の使用を最低限にとどめた有機農法への転換が各地で取り組まれているが、従来の綿花に比べて高価である「オーガニック・コットン」に対する消費者の認知はまだ高まっていないのが実情だ。
こうした中、大手通販会社である株式会社フェリシモは、2008年よりオーガニック・コットン製品を基金付きで販売し、その基金によって有機農法への転換を支援するプロジェクトを続けている。プロジェクトを推進したマーケティング本部 第3事業部haco.グループ 部長代理の葛西龍也氏にその取り組みを聞いた。

葛西と支援地のこどもたち
葛西氏と支援地のこどもたち[JPG]

株式会社フェリシモ
マーケティング本部 第3事業部 haco.グループ 部長代理
葛西龍也氏

インタビュー

なにげない一言がすべてのはじまりだった

Q 通販会社であるフェリシモが、オーガニック・コットンへの転換支援に取り組む理由を教えてください。

葛西●そのためにはまず、我々の基本的な考え方を説明する必要があります。
当社の社名である「FELISSIMO」は、ラテン語を語源とする「FELICITY(至福)」と強調を表す接尾語である「SSIMO」による造語で、「最大級で最上級の幸せ」を意味しています。そして企業理念として掲げるのは「しあわせ社会学の確立と実践」。つまり我々が手掛ける通販事業は、人々に「幸せ」を提供する手段でもあるのです。
では、通販というビジネスモデルによってなにができるのか。
それに関して、忘れられない経験が一つあります。はじまりは、2001年に発生した同時多発テロ事件の直後にカタログ読者の方から届いた一通のメールでした。そこには、こう書いてありました。
――この悲惨な出来事に対して、なにかできることはないのですか?
このメールを目にして、私は「我々だからこそ、できることがあるのかもしれない」と考えるようになりました。
その結果生まれたのが、「LOVE&PEACE」というメッセージをプリントした基金付きのTシャツでした。

同時多発テロ事件やアフガニスタン紛争によって、親を失い、住む家を失い、そして教育の機会を失った子どもたちへの支援を目的とした基金付きTシャツは、累計22万枚を売るヒット商品になった。
なお2011年に発生した東日本大震災後は、震災孤児の支援へと使途を変更。その売上は現在も伸び続けているという。


葛西●綿花をめぐる問題に目を向けるようになった背後にも、やはりある出会いがありました。
それは「軍手」に新たな魅力を与えることはできないだろうか、と模索するさなかのことでした。軍手は旧日本軍の兵士が使用した軍用手袋のこと、つまり戦争に由来します。これを手と手で紡いで幸せなものにしたいという思いがありました。実は軍手は、綿を糸にする過程で生まれる糸くずである落ち綿でつくられた、エコ商品。そこで軍手と基金を組み合わせることで、新たな基金付き商品が作れないだろうかと思い、相談したあるクリエイターの方にこんなことを言われたのです。
――やりたいことは分かりますよ。でも、その基金で就学支援した子どもたちが大人になる頃にはもう、綿花を栽培できる場所は地球上に残っていないかもしれませんよ。
「えっ、どういうことですか?」私は思わずそう聞き返していました。

化学肥料や農薬の大量投入による綿花収量の拡大は、綿製品のより安価な供給を可能にした。
その一方で、化学肥料の使用は地下水の汚染や土壌劣化へとつながり、農薬の使用は農業従事者の健康に与える影響が危惧される状況へとつながっている。
この課題の解決に向けて、有機栽培への転換に向けた取り組みが世界各地で進められている。しかし最小限の肥料と農薬で栽培された綿花=オーガニック・コットンは高価であるため、消費者への認知はまださほど進んでいないのが実情だ。


葛西●実は私自身も、オーガニック・コットンは特別な意識を持つ人が好む特別な素材だと考えていました。
しかし私たちがこの問題を見過ごせば、問題はより深刻化する。そこで、オーガニック・コットンで作った軍手を基金つきで販売し、その基金を大地のメンテナンスに活用する――。そんな仕組みが作れないだろうかと考えました。

Q その対象としてインドを選んだ理由は?

葛西●綿花の主要な生産国は、アメリカ、オーストラリア、中国、インド、アフリカになります。先進国も新興国もそれぞれ深刻な問題を抱えていますが、中でも農業従事者の健康被害や児童労働、借金による農民の自殺など、すぐになんらかの手を打つ必要があると思えたのがインドだったのです。

Q 商品開発はどのように進めたのでしょう?

葛西●製造部門を持つわけではない私たちは、綿花に関してはまったくの素人です。
そこで取引のあるアパレル商社に、飛び込みで相談を持ちかけました。そこで出会ったのが、綿花取引一筋40年という綿花取引の専門家でした。
私の説明を聞いたその方がまっさきにいった一言を今も覚えています。
――これは、農家、買取業者、輸入商社、メーカー、そして消費者が縦につながらなければ決して成功しないプロジェクトですね。
確かにこの問題は、これまでのようにNPOに業務を委託すればそれで解決する問題ではありませんでした。

我々はインドの現実の中で何をすべきなのか?

「men(ハート)te」と名付けられた、オーガニック・コットンの落ち綿を使った軍手のデビューは2008年冬。「綿花で作る軍手で、大地をメンテナンスする」という意味を込めた命名だ。第一線のクリエイターの手によるかわいらしい模様がプリントされた軍手の値段は一組1000円。そのうち200円が「PEACE BY PEACEコットン基金」として活用されることになる。

オーガニック・コットンを使った軍手「men(ハート)te」
オーガニック・コットンを使った軍手「men(ハート)te」[JPG]


オーガニック・コットンを使った軍手「men(ハート)te」menteをはめて綿花収穫
men(ハート)teをはめて綿花収穫[JPG]


Q 残る課題は、基金の使い道ですね。

葛西●ともあれ、まずは現地をこの目で見ることにしました。
綿花取引の専門家から紹介されたインド人綿花商の案内で、有機栽培への転換を実践する村を訪ねたのです。

「オーガニック・コットン」とは、農薬・肥料の使用に関する厳格な基準を守って育てられた綿花を指す言葉だ。認証機関の認証を得るには、2~3年にわたって基準に従った生産を実践する必要がある。
そのため転換を図る農家は、有機肥料などによる土壌作りを行い、禁止されている農薬類を一切使わず、認証が得られないまま転換期のオーガニック栽培を続ける必要がある。収量も所得も減少するこの期間を乗り切るには、経済的、技術的な支援が大きな意味を持つ。


葛西●現地NPOが転換支援にあたるその村は、私の目には理想的な環境に見えました。ところが綿花商はこう言ったのです。
――すぐに信用してはいけませんよ。あなたは、もう少し深く知る必要がありそうですね。
もちろん最初は、何を言っているのかまったく分かりませんでした。

葛西氏が綿花商から学んだのは、オーガニック・コットンへの転換の背後にあるインド農村の現実だった。

葛西●インドでは、農民が育てた綿花は工場が買い取り、そこで種を取り除いたものが原綿として市場に出荷されます。一方で工場は、作付け前に農民に種や肥料を貸し付け、収穫後にそれを相殺する金融機能も担うこともあるそうです。
ところが、有機農法への転換に取り組む農家に対し、それに見合った品種の種や有機肥料を高利で貸し付け、その支払いが滞った結果、農民が自殺に追い込まれるケースが近年増えているというのです。
ときには、NPOがそうした搾取の片棒を担いでいるケースもあると彼は言いました。
案内してくれた農場がそうした問題を抱える村だったのか否かは、今も分かりません。しかしパートナーとなるNPO選びには、入念な注意が必要であることは理解できました。
彼は「この問題に本気で関わる気があるなら、自分たちでNPOを設立すべきだ」とアドバイスしてくれました。
しかしどう考えても、日本のサラリーマンである私が、自らNPOを運営することは現実的ではありません。また、基金の運用には第三者の視点が必要であるとも感じました。

支援地の綿花畑
支援地の綿花畑[JPG]


途方にくれる中で思い出したのは、綿花取引の専門家のある一言だった。
――知らない国に行ったときは、一人でも多くの日本人を頼りなさい。
葛西氏は、ムンバイの日本総領事館、そしてニューデリーのJICA事務所に相談を持ちかけた。それが新たな道筋を切り開くことになった。


葛西●JICAを訪ねたときに応対してくれた方が、こう言ってくれたのです。
「JICAとしては、個別企業の便益を図るようなことはできません。しかしこれは、インド国内の農業および日本のアパレル業界全体の利益にもつながるテーマですね。そういう視点で、私たちなりに調査してみたいと思います。ただしそれが、葛西さんの期待に沿えるかどうかは保障できませんよ」
結局、その言葉だけを頼りに帰国することになりました。

パートナー探しは、帰国後も続けられた。だが、現地でも難しいことが国内でうまくいくはずはない

葛西●インド国内で転換支援を行うNPOは数万団体に及ぶと言われます。
問題がある団体はそのほんの一部かもしれませんが、その中から一つを選ぶのは至難の業です。
実は日本の組織に協力を打診したこともあります。その答えは、「スタッフの渡航費や調査費用を先に提供してほしい」というものでした。でも基金がお客様からの預かり金である以上、「調査の結果、我々には無理でした」というわけには行きません。

JICAインド事務所から「調査結果をインターネットにアップしました」という連絡が入ったのは、2009年3月のことだった。

葛西●そこには、インドの綿花栽培の歴史や市場規模、そして有機栽培への転換に向けた取り組みなどがこと細かくレポートされていました。さらにそこには、すでに欧米企業と組んだ転換支援の取り組みで実績を持つNPOのリストも掲載されていました。
我々のプロジェクトが先に進むことができたのは、あの資料のおかげでした。

葛西氏はリストから2団体をリストアップし、2009年4月に現地調査を実施。JICAも同行してくれた。その結果、有機栽培への転換支援を通して農民の地位向上を図る、チェトナ・オーガニックをパートナーに選んだ。

葛西●我々の要望は2つありました。
一つは有機農法への転換支援。二つ目は、支援する村での児童労働は認めないという点でした。その代わりに就学支援を行いたいと彼らに伝えました。
それを受けたチェトナ・オーガニックからのプロポーザルを検討し、2010年7月に覚書を締結。同月に第一回の拠出を行いました。

支援地の実験農園土地に最適な作物を調査します
支援地の実験農園土地に最適な作物を調査します[JPG]


Q プロジェクトの進捗状況はどのように確認していますか?

葛西●持続可能な綿花栽培に向けた支援活動が我々の期待通りに進んでいることは、年3~4回のレポートによって随時確認しています。また毎年1回、現地で問題点等を直接話し合うようにしています。

2008年冬の発売以来、販売された綿手袋の総数は約2万組。さらにカットソー、ニットやデニムや帆布などの素材開発も行いながらアイテムの種類を広げた結果、のべ9万人弱の人が、この基金付き商品を購入した。こうした活動が評価され、「PEACE BY PEACEコットンプロジェクト」は、2011年度グッドデザイン賞(分類:社会貢献活動のデザイン)を受賞するに至っている。

JICAとのグッドデザイン賞受賞よろこび
チェトナとJICAとのグッドデザイン賞受賞よろこび[JPG]


カタログ
カタログ[JPG]


出会いに導かれて、ここまで来られたと思う

Q 難しさはどこにありましたか?

葛西●やはり基金の使途が見えなかった時期は、精神的にも本当に追い詰められました。正直にいうと、いっそのこと返金してしまおうかとも本気で考えました。
ただし、年4回発行されるカタログ上では、直面している課題も含め、必ず状況報告を行うように心掛けました。
もう一つは、商品開発の難しさですね。
誤解される方も多いのですが、オーガニック・コットンと一般のコットンに品質上の違いはありません。また、一般の綿製品から残留農薬が検出されることもありません。ある意味では、オーガニック・コットンと普通のコットンの違いは値段だけなのです。
「いいことをやっているのだから、高くても買ってください」では消費者に通用しません。その値段の高さも含め、商品としてどう昇華していくか――。作り手の力量が問われる素材でもありますね。

通販というビジネスモデルには、この課題を乗り超える可能性があると葛西氏は言う。
オーガニック・コットン製品を紹介するカタログの片隅には、現地での取り組みや就学支援によって学校に通う子どもたちの姿が小さく紹介される。


高等奨学支援を受給した子供たち
高等奨学支援を受給した子供たち[JPG]


女生徒の笑顔
女生徒の笑顔[JPG]


葛西●消費者は、誰かの犠牲の上に成り立つ幸せを求めてはいません。
そういう意味では、この取り組みは共感を持ってお客様に受け入れられていると感じています。
ただしこれが「この子のためにお恵みください」となってしまっては、広がりは生まれません。情報の伝え方という点でも、今後さらに工夫していく必要があると感じています。

Q 同様の取り組みをしようとする企業へのアドバイスはありますか?

葛西●できることとできないことをはっきり区別することです。
どのような形であれ、支援には限界があるのです。それを知った上で、できることからはじめることが大切ではないでしょうか。進めながら、思い込まずに修正をかけていくことも必要です。

Q 今後の目標を教えてください。

葛西●今、オーガニック・コットンのシェアは綿製品全体の約1%と言われていますが、この比率を10%まで高めることが今の目標です。
10人に1人がオーガニック・コットンを選択する時代が到来すれば、そこから新たなトレンドが生まれ、状況が一気に変わる可能性があります。
そのためには、より多くの会社と手を組むことで、活動の幅を広げていきたいですね。

Q ご自身の取り組みを百点満点で評価するなら、何点をつけますか?

葛西●90点はつけていいと思いますよ。
少なくとも、一つ一つのプロセスに真摯に向き合うことはできたはずですから。
ただし時々、弱気になってしまうことがあったのも確か。その理由は、忙しさだったり、社会的な常識に従った結果だったりとさまざまなのですが。そうした点への反省が、満点をつけなかった理由です。
でも振り返ると、あらかじめ定められていたかのように多くの人々との出会いが続いたことには、ちょっと不思議なものを感じますね。まるで大きな何かに導かれていたかのような――。
つらい思いはしましたが、少なくとも、その過程で出会った人々に失望することは一度もありませんでした。プロジェクトがこうして形になったのも、そうした人々との出会いがすべてなんですよね。

女性の自助組織とのミーティング風景
女性の自助組織とのミーティング風景[JPG]
★取り組みのヒント
  • なにげない一言の中に、新たな取り組みへのヒントがある。
  • 理想を追求するのではなく、出来ることからはじめてみる。
  • 出会いを大切に。一つ一つの出会いに真摯に向き合うことで道はひらかれていく。