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環境人材育成への取り組み
Case Studies

「モノづくりは人づくり」を掲げる企業の
環境人材育成への取り組み

デンソー

株式会社デンソー
青少年育成グローバルプログラム「DENSO YOUTH for EARTH Action ~新・地球人プロジェクト~」

株式会社デンソーが、アジアの若者を対象にした環境教育プログラム「DENSO YOUTH for EARTH Action ~新・地球人プロジェクト~」(略称:DYEA)を開始したのは2008年のこと。
環境課題に貢献する人材育成を目的として掲げ、タイと日本でスタートした同プログラムの実施国は、2年目以降、同社が事業拠点を展開するASEAN6カ国と日本の7カ国へと拡大。地域の若者が一カ所に集い、共に環境問題を学ぶユニークな取り組みとして実績を積み重ねてきた。
だが、その一方で自動車業界の経営環境が大きく変化する中、同プログラムはある課題に直面していた。
それは「人づくり」という定量化が難しい活動に対する全社的な理解・共感が、必ずしも順調には深まらなかったという現実だった。
同プログラムのこれまでの活動と、そこから浮かび上がってきた課題、さらにそれを乗り越えるための新たな工夫について、プログラムの企画・運営を手掛ける総務部社会貢献推進室の齊藤 賢氏にたずねた。

竹林整備
現場体験学習  竹林整備

株式会社デンソー
総務部 社会貢献推進室
齊藤 賢氏

インタビュー

Q アジア地域の若者を対象に、「環境に貢献する人づくり」をテーマにした活動を開始した理由を教えてください。

齊藤●グローバル企業のひとつとして、地球環境問題にいかに貢献していくべきかという議論が社内でスタートしたのは2005年のことです。議論を深めていくなかで浮かび上がったのが、我々が直接的な環境貢献を行うよりむしろ地球環境に貢献する人材を育成したいという方向性でした。
もちろん、植林活動などの成果が目に見える活動とは違い、「人づくりは定量的な評価が難しいね」という議論が当時からあったことも事実です。
しかし当社には、「モノづくりは人づくり」という強い思いがあります。環境活動に貢献する人づくりを目標に掲げることは、社会貢献活動における自分たちらしい貢献でもあると考えたのです。
また、活動範囲をアジアに絞った背景には、アジアと当社の関係の深さが存在します。1970年代初頭に当社が初めて生産拠点の海外進出を行ったタイをはじめ、同プログラムを行う国々はすべて当社の事業拠点がある国々でもあります。

現場体験学習:よしず体験活動1

2009年度以降、ASEAN6カ国(タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナム、シンガポール)へと範囲を拡大したDYEAの2010年度の参加者数は全22名。プログラムは、参加者の募集・選考(4月)、事前研修(8月)、日本での現場体験(10月)、フォーラムの開催(12月)という流れに沿って進む。 事前研修は、プログラムの概要説明と参加者間の環境課題の共有化を目的にしたもので、2010年度はハノイにおいて開催されている。

Q アジア地域の拠点は、どのような形でこの活動に参加しているのでしょう?

齊藤●参加者の募集・選考、日本への渡航手続きの代行などがその主な活動で、そのほか事前研修の開催もお願いしています。一方、現場体験をはじめとするプログラムの大部分は、日本側が作成してきました。
実はこの点は、2011年度に向けた大きな改善点の一つでもありました。それについては後ほどあらためて説明したいと思います。

日本国内で行う現場体験は、富士山麓、琵琶湖、愛知の3フェーズで構成される。富士山麓で大自然の恵みを体感し、琵琶湖で環境保全に向けた地域社会の取り組みを学び、愛知ではデンソーの生産拠点における先進的な環境保全活動に触れる。

現場体験学習:富士山フェーズ・アイスブレイク

また学ぶだけでなく、その経験を実践へとつなげる点もプログラムの特徴のひとつだ。参加者は、持続可能な社会の実現に向けた自分なりの「アクションプラン」を作成し、最終的に日本で行われるフォーラムで発表を行う。

齊藤●重視したのは、机上の学問に留まるのではなく、「現地現物」――つまり現場で現物に触れ、その経験を通して、各人がものごとを判断できるプログラムにしたいという点でした。
さらに参加者が知識を得るだけでなく、それをなんらかの行動につなげていくという点も我々のこだわりのひとつです。アクションプランの作成はそうした狙いがあります。

アクションプラン作成現場体験学習:アクションプラン発表準備[JPG]

Q 現場体験などのプログラムは、環境教育などで実績を持つ国内NGOとの協働により行われています。外部団体に協力を依頼した理由を教えてください。

齊藤●環境人材の育成という目的を実現するには、高い専門的知見を持つ組織の協力が不可欠だったことが第一の理由です。
また付随的な理由として、企業単独で行うよりも、公共性が高い団体と協働して行う方がより社会的共感が得られやすいというメリットも挙げられると思います。

Q NPOとの役割分担はどのように行っていますか?

齊藤●最終的な責任は、主催者である当社が担います。
活動の方向性を我々が決定した上で、それに沿う形でNGOが具体的なプログラムを開発するという形で業務を遂行しています。
またプログラム実施後の評価作業も同じ団体に依頼しています。これは「人づくり」という効果が見えにくい取り組みにおいて、極力、客観的な評価を得たいと考えてのことです。

Q 外部の組織と共同作業を行う上での難しさはありましたか?

齊藤●自社業務に関連する部分での協働という面で、難しさを感じています。
実は、愛知県の自社製作所における研修プログラム立案に向けた意思疎通が上手に行えず、結果として自分たちが主体になって立案作業を進めてしまったという反省点があるのです。それは講師が現地でのインタープリターとしての能力を生かし切れないことにもつながりました。
やはり、よりよいプログラムをつくりあげていく上では、充分な情報共有を図り、共にプログラムを立案していくことが求められると感じています。

Q 活動の成果は、どのような形で現れていますか?

齊藤●まず挙げたいのは、現地拠点経営層への影響です。
プログラム終了後、参加者は各国の事業拠点に出向き、自らのアクションプランを報告します。報告を受けるのは経営層やCSR担当社員などに限られていますが、若者たちが立案したプランやそれに注ぐ情熱は、彼らにも確実に響いています。
私も、ローカル人材も数多く含まれる各拠点の経営層と管理職から「若者がこれだけのことを考えていることに感動した」「社会的な評価を得る上での意義は大きい」「これまで知らなかったが、デンソーグループはすごいことをやっているのだね」などの言葉をたびたび耳にしています。
またプログラムを通した参加者の意識変容という面でも、十分に合格点を与えられると自負しています。
実施国を拡大して2年目にあたる2010年度に、各国の参加希望者数が急増したこともその反映だと考えています。

その一方で、当初からの狙いであったアクションプランの実践という面で、苦戦しているのも現実です。
活動を行う上では資金を含めさまざまな課題に直面しますが、若い彼らにはそれを乗り越えるだけの力がまだ備わっていないことがその第一の理由といえるでしょう。また、大学・大学院を卒業すると我々との関係も途切れがちとなってしまうという問題もありました。
もちろんその背景には、我々のサポートがまだまだ未熟であったという課題もあったと感じています。

Q DYEAは、2011年度より一部プログラムの見直しが行われると聞きます。従来の活動の課題はどこにあったとお考えですか?

齊藤●先ほども触れた通り、各拠点の経営層の活動への共感は高いものがありました。しかし社員全体を見渡すと、活動への理解・共感は必ずしも高くなかったともいえます。第一の課題はそこにあったと考えています。
また、プログラム参加者の満足度が高かったことも間違いありません。その結果、当初我々が考えていた「参加者の意識・行動変容のきっかけ」あるいは「ASEAN地域におけるデンソーファンの拡大」という目的は、それなりに達したと考えています。
しかし「参加者の意識はこう変わった」という主観的な情報だけでは、社内の理解・共感は得にくかったのも事実でした。
振り返って考えると、目に見える形でその結果を示していく必要があったと感じています。そういう意味では、アクションプランが活動として定着化しない点も大きな問題でした。その結果、積極的なPR活動が行いにくく、一層プログラムの成果を見えにくいものにしていたのです。
また体験学習の大部分が行われる富士山や琵琶湖は、当社との関わりが特に深いわけではありません。そのため、社員と活動との接点が乏しく、そのため理解・共感が得られにくいという面も指摘できます。
さらに受益者数が少ない点も課題のひとつでした。例年プログラムへの参加者は25名前後。1カ国3~5名に過ぎません。活動への理解を得ていく上では、受益者の量的拡大を図ることも必要でした。

現場体験学習:デンソー工場見学現場体験学習:デンソー工場見学[JPG]

Q なるほど。課題は山積というわけですね。では、そうした課題をどのように乗り越えるつもりですか?

齊藤●大きなポイントは、
  1. プログラムの間口を広げ、受益者数の拡大を図る
  2. 社員と活動の接点を積極的に構築し、アクションプラン遂行を各拠点の社員が積極的に支援していく
という2点です。

具体的には2011年度は、現地拠点が主催する「ローカルプログラム」を実施する予定です。これは従来の現場体験学習のローカル版というべきもので、グローバルプログラムへの参加者選考を兼ねたものです。その選考委員として、現地拠点の社員が関与します。

Q お国の代表を自分たちが選び、応援していくという考え方ですね。

齊藤●そういうことです。
さらにグローバルプログラム参加者は帰国後、現地事業拠点社員の前で自らのアクションプラン発表を行います。
そこで発表された複数のプランから1プランを各拠点の社員が選び、そのアクションを1年間にわたって支援していく予定です。
また、各事業拠点でこれまで行われてきた、植林や海岸清掃などの社会貢献活動とアクションプランの接続を図っていくことも考えています。
2011年3月現在、これらの基本方針は経営層の承認を受け、具体的なプランを作りこんでいる段階です。
(注:東日本大震災の影響により、2011年度は日本での開催は中止となり、ASEANのみでの開催が検討されている。)

フォーラム発表1 フォーラム発表2フォーラム発表3 フォーラム発表4フォーラム:アクションプラン発表の様子


Q 改革を進める上での課題はどこにあると考えていますか?

齊藤●これまでプログラム立案はすべて日本側が行ってきただけに、国内で培ってきたノウハウを各国に移植していくことが今後の課題になると考えています。
タイの事業拠点に、ASEAN地域での活動を統括する部署があるのですが、現在はその担当者が日本に出張する際などに直接会って一つずつ問題を潰している段階です。


Q 一連の活動で得た教訓を教えてください。

齊藤●やはり、いかに社会的意義が高い活動であっても、経営層および社員による幅広い理解・共感が得られなければ、活動継続は難しいという課題ですね。
環境CSRも企業活動の一部である以上、それは当たり前のことかもしれませんが、あらためてそのことを実感しています。

よしず作り
現場体験学習:よしず体験活動②[JPG]


Q アジア地域で環境CSR活動を行う際のアドバイスがあればお教えください。

齊藤●これは特にB to B系の企業にあてはまることだと思いますが、事業を行なう地域に根ざした活動を地道に続けることがもっとも大切だと考えています。
そうやって地域の方々から信頼、共感をいただくことではじめてオペレーションも円滑に行えるのではないでしょうか。

Q 活動を100点満点で自己採点するなら、何点をつけますか?

齊藤●80点ですね。特に2年目以降は高水準のプログラムを実施できたと感じています。
一方のマイナス部分はすでにお話しした通り、社内において理解・共感を得ていくための取り組みが不足した点です。結果として、そうした視点が抜け落ちていたことは、担当者として率直に反省したいと考えています。
★取り組みのヒント
  • 「モノづくりは人づくり」という、企業理念とリンクする形で環境人材育成プログラムを開始。
  • 実績あるNGOと協働し、自然との共生を考える高品質のプログラムを開発。
  • 活動継続には経営層に留まらず、社員の幅広い理解が不可欠。社員が直接活動に接する機会を設定し、その理解・共感を図った。