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分別という文化を伝えることが
真の社会貢献につながると考えています
Case Studies

技術開発よりむしろ、
分別という文化を伝えることが
真の社会貢献につながると考えています

ブレスト

株式会社ブレスト プラスチック油化装置の開発・販売事業

自然界では分解されず、焼却すれば1kgあたり約3kgのCO2を排出するプラスチックごみの処理は、今日の世界が直面する課題のひとつだ。そうした中、プラスチックを石油に変える装置を開発する日本のベンチャー企業に世界の熱い注目が寄せられている。

同社の取り組みを紹介した、国連大学が発行するWebマガジンの記事は330万件のアクセスを記録。YouTubeに転載された同記事のビデオブリーフへのアクセス数も、250万件を突破――。神奈川県平塚市に本社を構える、社員数9名のベンチャー企業は、なぜこれほどの注目を集めるに至ったのか。その背後には、技術開発だけに留まらない、地道な取り組みがあった。

同社代表取締役の伊東昭典氏と営業部長の滝沢 誠氏に話をうかがった。

ブレスト
目の前で実際に廃プラが石油に戻るところを興味深く見つめるマーシャル諸島共和国の子どもたち

株式会社ブレスト
代表取締役社長
伊東昭典氏 

インタビュー

目指したのは、だれもが操作できる油化装置だった

Q プラスチック油化に取り組んだきっかけを教えてください。

伊東●プラスチック油化の原理は、そう複雑なものではありません。プラスチックを加熱すると液化し、さらに熱を加えれば気化します。そのガスを水で冷やせば石油が回収できるのです。そのため日本のテクノロジーを生かせば、プラスチックは簡単に石油に変えられるはずだと考えたことが、この事業に取り組むきっかけでした。
ご存知の通り、日本はエネルギー資源に乏しい国です。しかしプラスチック油化が実用化できれば、ごみの山は油田に変わるのです。

株式会社ブレストの設立は2001年。翌年には取り組みがNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)助成事業に採択されるなど、事業は順調に滑り出したかに見えた。だが、伊東氏はすぐに大きな壁に突き当たることになった。

伊東●私たちの取り組みは当初、先行メーカーが開発した既存技術の実用化を目指すという方向で始まりました。しかし、どの装置も満足に動かないんですよ。
装置を動かすには、特別な前処理をしたプラスチックを用意し、特別な技術を持つエンジニアが何人もそこに張り付くことが必要でした。これでは実用化はほど遠いなあ、というのが正直な思いでした。

当時すでに国内では、大型のプラスチック油化プラントの稼動が開始されていた。だが装置が大型化すれば、プラスチックごみの回収・分別コストや収集・運搬車両が排出するCO2も増加する。
そうした中、同社が目指したのは、コミュニティ単位で完結型のシステム構築が可能な小型装置の開発だった。

伊東●トラックで大量のプラスチックごみを集め、それを分別・油化するという考え方には、やはり限界があります。むしろ小型装置を使い、プラスチックごみが出る現場で、油化する方が効率がいいのです。
しかしそれを実現するには、だれもが簡単に運転できる装置を開発する必要がありました。そこから私たちの苦難の道が始まったわけです。

今日、同社製のプラスチック油化装置は、完全に電子制御化され、運転はタッチパネルによる対話形式で行われる。また火力を使わず、高圧を掛けずに油化するため、誰でも安全に運転することが可能だ。装置は現在、各地の工場や一部のリサイクル事業者によって導入され、稼動が始まっている。だがそれが社会全体に広がるには、技術とは別の大きな課題があった。

 


技術だけでは解決しない。問題の真の難しさはそこにあった


Q 油化技術の実用化に向けた、最大の課題はどこにあったのでしょう?

伊東●どうやってごみを分別するか、という問題に尽きます。
私たちの装置が油化できるプラスチックは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)の3種類。これらは国内で生産されるプラスチックの約6割を占めていますが、油化をスムーズに行うには、「プラスチックごみ」をさらに分別する必要があるのです。
一般家庭から排出されるプラスチックごみの大部分は容器・包装材。その第一の目的は、商品の保護や店頭での販売促進で、リサイクルという観点は必ずしも重視されていません。そのため、分別には、大きな労力が必要になります。そのコストを考えると、プラスチックの油化は経済的にとても成り立たないのが現実だったのです。

プラスチック油化を前提とした分別が、市民一人ひとりに文化として定着しない限り、その実用化は難しい――。それが伊東氏の結論だった。
その実現に向けて開始したのは、子どもたちを対象とした啓発活動だった。
同社製の装置は、1kgのプラスチックごみから約1リットルの石油を回収する。子どもたちが収集し、分別したプラスチックごみをその目の前で石油に変えることで、分別に対する理解を得ようと考えたのだ。ちなみにプラスチック油化を目的とした分別を、伊東氏は「目的分別」と呼ぶ。


新居浜市で開催されたにいはまこども環境サミットでの油化実験風景
新居浜市で開催されたにいはまこども環境サミットでの油化実験風景

Q 子どもたちを対象に啓発活動を行おうと考えた理由を教えてください。

伊東●創業してまもなく、「プラスチックが石油から出来ていることを子どもたちに教えてほしい」という依頼が、あるリサイクル事業組合からありました。その組合は当時、「キャップ100個を集めれば、トイレットペーパー1個と交換する」というキャンペーンを小学校で行い、大成功を収めていました。その話を聞き、「そうか、子どもたちを啓発すれば、その親も巻き込んだ大きな運動になるのか」と気づいたのです。
また、教育現場に油化装置を受け入れてもらうことで、当時取りざたされていた装置の安全性に関する懸念を払拭したいという狙いもありました。
恥ずかしい話ですが、当初は、なんとか自社の装置を売りこみたいという思いがすべてでしたね。

伊東氏が初めて子どもたちの前に立った場所は、自身の子どもが通う小学校だった。
当時のエピソードの一つに、こんな話がある。
ある日、いつものようにプラスチック油化の実演を行う伊東氏に、ある子どもがこんな質問をした。「でもプラスチックが石油から作られるなら、なぜプラスチックは石油の匂いがしないんですか?」。その質問に、彼は立ち往生してしまう。


伊東●匂いはその成分が気化することではじめて感じられます。しかし、分子が固定化されたプラスチックの場合、その成分は気化しない――。それを子どもが理解できるように説明できなければならなかったのです。
私が、ごみ問題や環境問題について真剣に勉強するようになったのは、それからのことでした。むしろ私の方が、子どもたちに育てられたのです。
また、子どもたちは問題の本質を的確に受け止めます。先日も、ある子どもから、こんな手紙が届いたところです。
――私一人が始めても意味がないと思っていました。でも、この授業を受けて私一人が変わることの大切さを知りました。
こういう手紙を読むと、これまで自分がしてきたことが間違いではなかったことを実感しますよね。

伊東氏は今も、廃プラスチックは石油に戻るという「目的分別」を伝えるために全国の小中学校を中心に高校や大学でも環境教育を行い、「スクール油田」構想を広めている。 その「スクール油田」構想の影響を大きく受けた「エコパーティ(主催:学校法人松本学園)」というグループが油化装置、蒸留機、発電機を積んだ大型トラックと共にネパールの学校や東北の震災地を駆け巡り続けている。 その活動を「スクール油田キャラバン」と呼ぶ。
目的分別によって学校は油田に変わる――。そんな思いを込めた命名だ。



スクール油田キャラバン車:破砕機、油化装置、蒸留機、発電機を搭載しインド、ネパールを旅し、今は東北の被災地や学校を巡っています。

Q ベンチャー企業がこのような社会貢献活動を行う上で、難しさはありましたか?

伊東●当初はやはり、「なにかものを売りに来るの?」という受け取られ方が大部分でしたね。そのため活動母体となるNPO「スクール油田」を設立しています。
また最初は自腹を切って行っていましたが、やはりそれでは活動は継続できません。今は、実費分だけは予算化してくれるように各校にお願いしています。
活動を通して多くの支援者に出会えたことも、取り組みを続けられた理由の一つ。IAAF世界陸上2007大阪のIAAFグリーンプロジェクトに採用され、会場で使われる食器等の容器類は全て油化できる素材で作り、それらの廃プラスチックを会場でその場で石油に戻し発電機を稼働させるという「スタジアム油田」構想を実現させた。そしてこの活動が2011年春に実施した「エコパーティ」によるネパールでのスクール油田キャラバン活動にもつながっています。

プラごみ問題は万国共通。それならば解決法も同じでは

Q 海外での活動はどのようにして始まったのですか?

伊東●マーシャル諸島共和国の大統領から外務省に届いた手紙がきっかけとなり、2007年にマーシャル諸島共和国を訪問し大統領以下学校の児童たちにも「スクール油田」構想を説明し「目的分別」を伝え、マーシャルに油化装置を寄付し、海外青年協力隊とともに啓発活動を行ったことがそのはじまりです。
南太平洋に浮かぶ島々からなる同国の平均海抜は3m。温暖化による水没が危惧されているだけに、地球環境問題に対する意識はきわめて高いものがあります。その一方で同国は、プラスチックごみ処理を巡る問題にも直面していました。
燃やせばCO2が発生する上、地理的条件を考えると廃棄場所の確保も難しいのが実情だったからです。そうしたなか、同国が注目したのが日本のプラスチック油化技術でした。

実はその際、現地事情に詳しい人から「目的分別なんて国内でも難しいのに、海外ではとても無理だよ」とアドバイスされたという。

伊東●プラマーク制度に相当するものがないなど、国内では考えられない困難があったのも事実です。
しかし海外であっても、プラスチックごみが石油に変わる様子を実際に目にすることで、その人の意識が大きく変わることに違いはありません。
石油の価値を考えれば、日本のような豊かな国よりも貧しい国の方が「目的分別」は定着化しやすいかもしれません。

Q YouTubeに投稿された国連大学のビデオブリーフに対するコメント等を読むと、今日プラスチック油化装置は世界的な注目を集めていることが分かります。海外への進出は、早い段階から視野にあったのでしょうか?

伊東●社会貢献の一環としての活動は比較的早い段階から行ってきたつもりですが、事業としての進出は、さほど意識していませんでした。それだけに、国連大学の記事への反響の大きさには本当に驚かされました。

滝沢●海外からの問い合わせが急増したのは、国連大学がレポートを発表して1年以上が過ぎた2010年8月のことでした。それまで、海外からの問い合わせは平均すると週3~5件に過ぎませんでしたが、ある日を境に海外から毎日数十件ものEメールが届くようになったのです。
実は当初は、国連大学に問い合わせても、その理由は分かりませんでした。
調べると、国連大学のビデオブリーフがYouTubeに投稿され、そこにアクセスが集中していることが判明しました。それがさらに世界中の人々のブログに転載されることで、知らぬ間に、私たちの装置が世界中に知られるようになっていたのです。
それ以来、2011年10月までに海外から届いたEメールの合計は約1万5000通。大部分がビジネスの引き合いでした。

Q 海外での啓発活動に難しさを感じたことはありますか?

伊東●特にはないですね。
私はこれまで、アラスカから赤道直下まで、さまざまな国のごみ捨て場を見てきましたが、その風景は驚くほどよく似ているのです。さまざまなごみが分解される中で、プラスチックだけが分解されずに残ることがその理由です。
そうした姿は、最貧国と呼ばれる国々でも同じです。なぜなら、外国から輸入される商品の大部分はプラスチック包装されているからです。
私が訪ねた国の一つである西アフリカのベナン共和国は、一人当たりGNIが750ドル(2009年、世界銀行調べ)という貧しい国です。そこには、川に捨てられたプラスチックごみの山と隣り合わせで暮らす人々の姿がありました。
生活ごみを川に捨てるという古くから続く生活の中に、突然プラスチック製の容器や包装材が入り込んだことで、このような光景が生まれたのです。
プラスチックごみを巡る問題は万国共通です。それならば、解決法もまた万国共通であるはずです。

西アフリカのベナン共和国に於いて
西アフリカのベナン共和国に於いて:川の両岸にはゴミが積み上げられ、これが海洋に流れ出て漂着ゴミとなります。

Q 海外での事業展開に向けた、今後の課題を教えてください。

伊東●発展途上国の人々に受け入れてもらうためにも、販売価格をより安くする必要があると考えています。だれもが操作できる装置を、今度は、だれもが手に入れられるようにしたいのです。
実際、昨年夏以来、海外から数多くの問い合わせがありましたが、大部分は価格表を送った段階で話が終わっています。
実は、この課題を乗り越えるめどはすでに立っています。現在開発中の第3世代機では、装置の大幅な簡素化が実現しています。それが製品化されることで、販売価格は従来の半値近くになる見込みです。

注文を受けると設計図を送り、製造は各国で行う――。それが同社が描く、将来的なビジネスモデルだ。それが実現すれば、プラスチック油化は世界中のあらゆる場所で一気に進むのかもしれない。
なお2011年現在、同社の装置は約20カ国に導入され、すでに米国、カナダ、ギリシャ、オランダ、インドにおいて販売代理店が決定している。


伊東●もうひとつの目標は、「目的分別」という言葉を世界の共通語にすることですね。
技術だけでは、プラスチックごみ問題は解決しません。技術の開発や装置の販売ではなく、目的分別という文化を世界に広げることが最大の社会貢献であると考えています。

諦めないこと。それが成功への唯一の道だった

Q 冒頭で触れられた通り、プラスチック油化の原理自体は、そう複雑なものではありません。また取り組みを開始した当初、すでに先行ランナーが存在しました。そうした中、なぜ成功を収めることができたのでしょう?

伊東●満足に利益をあげていない事業を成功というのは心苦しいのですが、それは「諦めなかった」という一言に尽きるでしょう。この10年間、資金調達も含めて、苦労の連続でした。でも諦めたら、そこですべてが終わってしまうんです。

Q 現在、環境ビジネスに取り組んでいる方、あるいはこれからチャレンジしようと考える方にアドバイスするなら?

伊東●「継続は力なり」としかいいようがありません。
そのためには、人々の理解を得る努力が必要です。事業を続けたいなら、なによりも一人でも多くの応援者を作ることです。
自分一人でできることには限りがありますが、チームを作れれば、思いもしないことが可能になります。そういう意味では、経営者にとって一番大切なのは“かわいげ”かもしれませんね。

Q かわいげ、ですか?

伊東●こう見えて、私は今でも開発に協力してくれている大学の先生や、資金面で協力してくれる皆さんには本当に甘えっぱなしなんですよ。逆に、自分の仕事を自慢するようになったら終わりでしょうね。おそらくこれも万国共通だと思いますよ。また、ベンチャー企業の場合、マスメディアに取り上げてもらう努力も必要です。それはベンチャー企業に欠ける社会的な信用を補ってくれますから。

Q これまでの取り組みを自分で採点するなら、100点満点で何点をつけますか?

伊東●10年間、自分の能力以上のことを続けられたという意味で、120点をつけたいと思います。
多くの仲間たちと出会い、新しいビジネス分野を創造し、それに対し世界の人が喝采を送ってくれた――。この10年間、私にはすばらしい奇跡が起き続けているんですよ。

参考
株式会社ブレスト
エコパーティー「地球環境文化交流協会」
★取り組みのヒント
  • 既存の技術に満足することなく、誰もが運転できる装置の開発に取り組み続けた。
  • 技術だけでは問題は解決しないという視点から、啓発活動に地道に取り組み続けた。
  • 困難に直面しても、諦めずに事業を続けた。