本文へジャンプ

■議事録一覧■

中央環境審議会大気環境部会
微小粒子状物質リスク評価手法専門委員会(第2回)
議事録


1.日時

平成20年9月10日(水)14:00~17:00

2.場所

虎ノ門パストラル新館4F プリムローズ

3.出席者

(委員長)
内山 巌雄
(委員)
香川 順、工藤 翔二、加藤 順子
坂本 和彦、佐藤 俊哉、関澤 純
祖父江友孝、武林 亨、田邊 潔
椿 広計、富永 祐民、新田 裕史
溝畑 朗、横山 榮二
(環境省)
白石水・大気環境局長
岡部総務課長
松田総務課課長補佐
早水大気環境課長
松田総務課課長補佐
        

4.議題

(1)
欧米における微小粒子状物質のリスク評価手法について
(2)
その他

5.配付資料

資料1-1WHOにおける微小粒子状物質のリスク評価手法について
資料1-2海外視察報告(WHO・加藤委員)
資料1-3海外視察報告(WHO・武林委員)
資料2-1米国EPAにおける微小粒子状物質のリスク評価に関する手法について
資料2-2カリフォルニア州EPAにおける微小粒子状物質のリスク評価に関する手法について
資料2-3海外視察報告(米国EPA、カリフォルニア州EPA・新田委員)
資料2-4海外視察報告(米国EPA・武林委員)

参考資料1微小粒子状物質リスク評価手法専門委員会 委員名簿
参考資料2 微小粒子状物質リスク評価手法専門委員会の設置について
参考資料3 微小粒子状物質リスク評価手法検討の進め方
参考資料4 欧州委員会指令案の作成プロセスについて

6.議事

【岡部課長】 皆様、お待たせいたしました。定刻となりましたので、ただいまから第2回微小粒子状物質リスク評価手法の専門委員会を開催いたします。
 委員の先生方の皆様方におかれましては、ご多忙中にもかかわらずご出席をいただきまして、まことにありがとうございます。
本日の出席状況について申し上げます。現時点で14名の委員の方にご出席をいただいております。定足数でございます過半数に達しているということをご報告させていただきます。
本専門委員会の開催に当たりまして、水・大気環境局におきまして人事異動がございました。7月22日に着任いたしました白石水・大気環境局長よりごあいさつを申し上げます。

【白石局長】 ご紹介いただきました白石でございます。本日は、委員の皆様方、大変お忙しい中ご出席をいただきまして本当にありがとうございます。あわせて、この夏、欧米への出張をしていただきました加藤先生、武林先生それから新田先生にも重ねて、暑い中、本当にありがとうございました。御礼申し上げます。
 微小粒子状物質取り組みも釈迦に説法でございます。私も前任の局長からも非常に重要なテーマだということで引き継ぎを受けております。PM2.5の大気環境目標値、アメリカあるいはEUにおいて目標値が設定されている中で、ここで議論していただきます評価方法の検討ということは極めて重要なプロセスであるというように考えております。
 本日は、欧米におきまして大気中の微小粒子状物質の定量的なリスク評価方法について、先生方からご報告をちょうだいすることになっておりますけれども、他の先生方、皆様方の専門的見地からの格別のご指導、ご鞭撻をちょうだいいたしたいというように考えております。よろしくお願いいたします。
 簡単でございますが、あいさつにさせていただきました。ありがとうございます。

【岡部課長】 続きまして、事務局の方でございますけど、異動によりまして同じく8月1日に着任しました大気環境課長、早水をご紹介申し上げます。
 続きまして、お手元の配付資料を確認させていただきます。
お手元に議事次第の紙がございます。その下半分のところに配付資料ということで記載しております。順番に申し上げます。資料1-1、WHOにおける微小粒子状物質のリスク評価手法について、資料1-2、海外視察報告(WHO・加藤委員)、資料1-3、同じくWHOの海外視察報告(武林委員)、資料2-1、米国EPAにおける微小粒子状物質のリスク評価に関する手法について、資料2-2、カリフォルニア州のEPAにおける微小粒子状物質のリスク評価に関する手法について、資料2-3、海外視察報告(米国EPA、カリフォルニア州EPA・新田委員)、資料2-4、海外視察報告(米国EPA・武林委員)。
それから、参考資料4点ございます。参考資料1、微小粒子状物質リスク評価手法専門委員会委員名簿、参考資料2評価手法専門委員会の設置について、参考資料3、微小粒子状物質リスク評価手法検討の進め方、参考資料4、欧州委員会指令案の作成プロセスについて。
参考資料4別添としましてRAINSモデルについてということで資料を配らせております。もし資料の不足等ございますれば、随時事務局にお申しつけいただければ幸いでございます。マスコミの方が来られている場合におかれましては、カメラ撮りについて、恐縮でございますが、会議の冒頭のみとさせていただいておりますので、ご協力をお願いいたします。
それでは、以降の進行につきまして、内山委員長にお願いいたします。

【内山委員長】 本日は、まだまだ、お暑い中、お忙しい中をお集まりいただきましてありがとうございました。
今日は議題が1つ、それからその他というようにございますので、よろしくお願いいたします。
早速議事に入りたいと思いますが、議題の1は欧米における微小粒子状物質のリスク評価手法についてということでございます。前回の会議におきまして提示させていただきました欧米の評価手法に関する調査事項につきまして、事務局においてその後一部の委員のご協力をいただきながら文献調査を進めて、調査事項に沿った整理を進めていただきました。また、文献調査にあわせて確認を要する事項につきましては、事務局の方で現地調査を行っていただいたところです。その際には、先ほどご紹介ありました、加藤委員それから武林委員、新田委員にもご協力いただいて同行していただき、調査を行っていただきました。
そこで、本日はそれぞれの機関に関する資料につきまして、事務局より文献調査を踏まえた資料の説明をまず受けた上で、現地調査に行っていただきました委員から各現地調査で確認いただいたこと、あるいは感じられたことについてご報告をお願いして、それぞれの機関ごとに事務局及び委員の方々からその内容について皆さんにご審議あるいはご質問等を受けていただきたいと思います。
また、前回欧州委員会の方もヒアリングということを予定しておりましたが、欧州委員会につきましては、現地機関とスケジュールがどうしても合わなかったということで現地調査は行えなかったということでございますが、健康影響のみならず、欧州委員会ではコスト・ベネフィットの方も考慮して検討しているという点で、他のWHO、EPAと多少違っていることもございますので、参考資料として事務局の方からこの欧州委員会については最後にまたご説明をお願いしたいというように思っております。
このようなことで進めさせていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
それでは、最初にWHOの評価手法からお願いしたいと思いますので、まず、事務局の方から説明をお願いいたします。

【松田補佐】 それでは、WHOのリスク評価手法について説明申し上げます。資料につきましては、資料1-1についてご説明をしたいと思います。
 まず、見開きの目次の部分ですが、1.に基礎的な考え方、2.に解析に用いる信頼できる疫学知見の抽出の考え方、3.に疫学的証拠による影響度評価手法、4.に健康インパクト評価手法ということで、前回の委員会で資料4としてお示しした評価手法の検討の進め方において、調査事項をお示ししまして、それは本日の会議の参考資料3に示してありますが、この参考資料3に関する事項について、文献調査や現地調査を通じて資料を作成してきたというところです。本資料につきましては、こういった検討内容に沿う形で関連する部分を抜粋して、それで事務局が委員の協力を得ながら編集したものであります。
 実際に使った文書については、その次のページの2ページ目に書いておりまして、WHOにつきましては、例えばAir Quality Guideline、これはAQGという略語で言っておりますが、その他にもさまざまな関連するドキュメントを活用して、まとめたものだということでございます。
 それでは、早速、資料の方についてご説明をしたいと思います。まず、こちらの資料の目次の後のページ数が1ページ目の基礎的な考え方からでございます。まず、1.1で目標値の位置付けでございます。WHOが示したガイドライン、これは全世界で使用されることを想定してさまざまな状況下で公衆衛生を保護するために最善かつ達成可能な大気質を目指す行動を支援することを目的として作成をされ、国ごとに大気質基準を設定すべきとしています。その大気質基準は、国ごとに粒子状物質の曝露による健康へのリスクを低減するための具体的な施策、技術的実現可能性、経済的な考察などにより異なるというように考えられて、WHOはその奨励するガイドラインにおいて、これらの多様性を認めていて、特に政策目標を立てるときには各国政府が法的基準として直接ガイドラインを使う前に自国の地域環境を慎重に考慮すべきだというように考えているということでございます。
 それで、1.2に濃度設定の考え方ですが、粒子状物質への曝露が健康へ悪影響を及ぼすという証拠は増加している。これは、世界の各都市で現状の濃度レベルの粒子状物質曝露による有害影響を立証している。しかしながら、現状の科学的知見からは粒子状物質への曝露による健康影響が認められない濃度を特定することができないということは、バックグラウンド濃度まで低減しない限り、いかなる濃度の基準を設定しても、いくらかの残留リスクが残りうることを意味している。そのため、大気中PM2.5濃度の基準値を地域的な制限や能力、公衆衛生の優先性を考慮したうえで可能な限り低濃度にすることを目標としているということでございます。
 また、汚染物質ごとにガイドライン値とともに示した暫定的目標値は、汚染レベルの高い地域において、大気汚染の段階的低減の漸進的なステップとして提案されたものです。こうした目標値設定の目的は、段階的に低濃度へ移行させていくことにあるが、最終的にはガイドライン値の達成を目標としているということでございます。
1.3の微小粒子状物質の環境大気ガイドライン改訂に至る経緯でございます。この部分につきましては、前回の委員会においても紹介しておりますので、基本的に割愛をいたしますが、2ページ目、3ページ目に現在のガイドラインに関する表を、表1-1と表1-2に示すとおりでございます。
それで、次の1.4健康影響指標の選定の考え方ということで3ページ目の方に移りますが、大気汚染物質への曝露は、軽微な生理学的不調から死亡にいたる幅広い急性及び慢性の健康影響と関連がある。一般的に健康影響の発生頻度は、重篤度と反比例の関係にあり、これは図1にピラミッドのような形で示しております。一番上が死亡で、下の方が、症状が軽いものということでございますが、これが、頻度がより大きいものが下の方に行っているということです。軽度なものは発症頻度が多く、重篤な影響の発生頻度は総体的に少ないと、こういうことでございます。
その次のページに行きまして、ガイドラインが発行されて以来、多くの新たな疫学的証拠が報告されており、現在でも短期・長期による死亡影響に加えて、呼吸器や心血管系の症状への影響についても研究されている。
このように、さまざまな大気汚染曝露による健康アウトカムが報告されている中で、改訂したガイドラインでは疫学的証拠に基づいてPMのガイドライン値を設定するときには、PM10及びPM2.5の年平均及び24時間平均において死亡をエンドポイントとしている。
なお、こちらの方に付則として挙げていますQHEというレポートにおいては、可能な限り死亡率の算出に考慮すべき要因として、それぞれについて挙げています。例えば全死亡ですが、全死亡については、死因別データよりも分類及び登録に関して信頼ができる。大気汚染と関連するがまだ特定されていない死因が存在する可能性もある。したがって、非事故による全死亡のリスク推定値がある場合は必ず使用すべきであるとしている。ただし、証拠とした疫学研究で対象とした集団と評価しようとする集団の間に、死因の構成が異なりうる場合には、全死亡リスク推定値の利用について、特に慎重を期すべきであるというようにされております。
また、原因別死亡について、データがある場合については、大気汚染曝露により増加するとされる死因について、死因別の影響を推定すべきであるというようにされております。
心血管系疾患と呼吸器系疾患について、非悪性の慢性呼吸器疾患による死亡は、死亡診断書では心臓血管疾患による死亡と誤分類されていることが多いため、疫学研究では、これらの死亡を心臓‐呼吸器死亡としてまとめ、誤分類の問題に対処しようとしたということでございます。肺がんにつきましては、重篤な疾患で非常に重要なエンドポイントだということでございます。ただ、大気汚染に関連する肺がん死亡リスクについては、患者数が少ないことによる誤差、また喫煙の交絡、そういったものの可能性があるということでございます。
5ページ目に行きまして、曝露期間でございます。最新の疫学知見によれば、短期及び長期の大気汚染物質の曝露が健康に影響することが示唆されておりますが、長期曝露はより大きな影響と、より大きな相対リスクをもたらすといえると書かれております。
ガイドライン値の評価におきましては、低濃度域において、偶発的な偏りが発生する懸念が少ないため、24時間平均ではなく年間平均を優先することを提案しております。年間平均に対する基準に加え、補完的に24時間平均の目標値を達成することで、ピーク濃度がもたらす相当の過剰死亡及びmorbidityから人々を保護することができるとされております。
次に2番目ですが、解析に用いる信頼できる疫学知見の抽出の考え方ですが、優先すべき手法としては、時系列研究とコホート研究に関して、これは大気汚染による健康影響を異なる面から測定をしている。時系列研究は、短期曝露が引き起こした死亡数のみをとらえ、急性の発作などのエピソードに関連しない死亡を換算しないので平均寿命の短縮を過小評価する。
一方、コホート研究は大気汚染に関連するすべての死亡カテゴリーを把握できるが、短期曝露による死亡のみの増加を区分することはできない。大気汚染による公衆衛生の影響を評価するには、汚染への短期及び長期曝露により短縮する寿命を定量化する必要がある。コホート研究では特定の年齢における寿命を確認できることから、大気汚染による健康影響を公衆衛生の観点から推定するにはコホート研究の結果に基づくことが推奨されている。
なお、時系列研究で観察される関連性につきましては、心疾患及び肺疾患の既往がある人々を死に至らしめるharvestingを反映している可能性も考えられる。時系列研究によって示される日単位の死亡率の増加がharvestingのみを反映しているならば公衆衛生上の重要な影響を示しているとはいえない。しかし、コホート研究で得られた結果から、PM曝露による健康影響はharvestingによるものではないことが示されている。また、harvestingが死亡率に影響を及ぼす範囲について分析した結果は、PM曝露による寿命短縮が数日間というレベルよりも大きいことを示しております。
次のページに行きまして、対象とする疫学調査地域でございます。PMの長期曝露と死亡に関する前向きコホート研究は、多数の参加者や長期の追加調査、PM濃度及び潜在的交絡因子に関する情報を必要とするため困難であり、この疫学研究の大部分は米国での実施となっています。
この改訂ガイドラインでは、この米国の研究であるACS研究の結果を他地域に一般化することが可能であると仮定し、年平均ガイドライン値を設定しております。
PMの短期曝露に関連した死亡数に関する時系列研究については、ヨーロッパと米国で行われた日死亡に関する疫学研究に関するメタアナリシスの結果を参照しているということです。
次に、3番の疫学的証拠による影響度評価手法でございます。3.1に長期曝露影響についてです。PM2.5の年平均値のガイドライン値の設定には、ACS研究及びハーバード6都市研究のデータを使用して検討を行っております。
PM2.5の長期的な平均濃度は、ハーバード6都市研究において18μg/m3、これは11μg/m3から29.6μg/m3の幅の中であり、ACS研究では20μg/m3、これは9μg/m3から33.5μg/m3の間であります。PM2.5曝露と関連した健康影響の閾値濃度は、これらのいずれの研究においても明確ではないとされています。
拡張ACS研究においては、リスク推定値における統計的な不確実性が約13μg/m3よりも低濃度域で明確になり、平均濃度との濃度差が大きいほど、信頼限界が大幅に広くなっている。これは図3-1の方に示されております。
ハーバード6都市研究では、PM2.5濃度の長期平均値が11μg/m3の都市と12.5μg/m3の都市におけるリスク推定値は同レベルであり、14.9μg/m3の都市においてリスク推定値が明らかに上昇していること。
これらの結果は、11μg/m3から15μg/m3の範囲でPM2.5の長期曝露による健康影響がある可能性を示唆している。したがって、年平均濃度10μg/m3は、発表された文献の中で最も可能性のある影響レベルより低い濃度だというようにされております。
 米国では1982年から1998年にかけて大気汚染濃度は全般的に低下をしている。ACS研究の対象者が参加した時点で住んでいた都市におけるPM2.5濃度については、フォローアップ直前とフォローアップ直後までデータが入手できる。ACS研究参加者を研究期間中住んでいた都市ごとの曝露推定値と、2つの期間の平均値に割当をしている。PM2.5濃度10μg/m3増加に対する相対リスクは、1979年から1983年の間が最も小さかった。曝露量を2つの期間のPM2.5濃度の平均値とすると、大気中PM2.5濃度が10μg/m3変化するごとの相対リスクは増加をすること。これは表3-1に示すとおりです。この違いは、初期の推定値では確率誤差、実際の差とは異なる誤差が生じやすいことが原因と考えられること。したがって、2つの期間のPM2.5濃度平均値を用いて推定された相対リスク値を濃度-反応関数の係数として使用することとしたというようにされております。
 その次のページに行きまして、WHOは、ガイドライン値のほかに、暫定的な目標値を定義しております。この目標値の設定は、年平均ガイドライン値の根拠となったACS研究におけるPM2.5濃度と死亡率の濃度-反応関数で、10μg/m3増加当たりの死亡率が6%増加するという関係が低濃度域でも線形であるという仮定のもとに、PM2.5濃度35μg/m3、25μg/m3、15μg/m3における死亡率をそれぞれ算出して、年平均ガイドライン値を達成した場合と比較した死亡リスク増加分を提示しております。これは、この考え方は表3-2の選択されたレベルの根拠にも記述をしております。ただし、具体的な算出過程については、このガイドラインの中では述べられておりません。
 次に3.2.短期曝露影響です。この24時間平均ガイドライン値の選定手法については、このガイドラインでは詳細な記述は見られません。
 WHOは、ヨーロッパ、米国、アジアなどで行われている時系列研究について、複数都市研究や地域を限定したメタアナリシスの結果など広範な地域での研究について検討を行っています。これらの研究で報告されているPM10の短期曝露による死亡率の増加率は、PM10濃度10μg/m3増加に対して約0.5%で、地域によらずほぼ一定であると記述されております。
 この改訂ガイドラインにおけるPMの短期曝露と死亡率の増加に関する記述は、ヨーロッパ及び米国で実施されたPM10の短期曝露影響に関する疫学研究のメタアナリシス、これは表3-3と3-4の結果に基づいています。ヨーロッパで実施されたPM2.5の短期曝露影響に関する疫学研究は少なく、これは表3-4に示しておりますが、この表3-4に示された短期曝露影響に関するリスク推定値は、いずれもPM10と死亡率に関する研究によるものです。改訂ガイドラインには、北米及びヨーロッパで実施された時系列研究のPM年平均濃度と全死亡の相対リスクの分布がグラフとして図に示されています。特にヨーロッパについては、PM10の年平均濃度とPM10の短期曝露による全死亡の相対リスクの分布が示されていまして、それを図3-2として示しています。
 24時間平均ガイドラインについて暫定目標値がそれぞれ設定されておりますが、これは、先ほど6ページでも示しましたPM10濃度10μg/m3増加当たりの死亡率が0.5%増加するという関係が線形であるという仮定をもとに、PM10濃度75μg/m3、100μg/m3、150μg/m3における死亡率をそれぞれ算出して、24時間平均ガイドライン値を達成した場合と比較した死亡リスク増加分を提示しております。これが表3-5の選択されたレベルの根拠に示されております。ただ、この算出過程については改訂ガイドラインの中には述べられていません。また、これはPM10のことですので、PM2.5についても直接的にはこの中では書かれておりません。
 3.3.11ページですが、疫学的証拠における不確実性です。PM曝露に関連した健康影響の実験及び臨床研究による証拠が蓄積されてきていますが、疫学研究にみられる関連性の根拠となる生物学的メカニズムが完全に解明されていないため、疫学研究の結果に基づいてPMの変化による健康影響を予測するには不確実性の存在が無視できないとされています。
 さらに、疫学研究を用いる入院・受診・喘息発作などのエンドポイントは、重篤度の判断に主観的な評価が関わってくることも不確実性の一因となっているということです。
 大気汚染と健康に関する疫学研究では、時系列研究・コホート研究で潜在的な交絡の問題があること。時系列研究では、気温・湿度などを変数として取り込み、死亡率の季節的変動に対処するための平滑法を用いることで、これらの影響を制御していること。
 長期のコホート研究では、大気汚染以外の生活様式・環境曝露などの要因が、疫学研究参加者の居住地である都市によって変動するならば、生活様式などの要因は交絡因子としてコホート研究の結果に影響を及ぼすこと。このため、コホート研究では、これらの潜在的交絡について考慮されているということでございます。
 次に、3.4.曝露に関する不確実性です。これは、不確実性の一つとして環境大気中のPM濃度と個人曝露量の差が挙げられています。これは、多くの時間を人が室内で過ごす地域では、環境大気中のPMは屋内に侵入した場合にのみ、ヒトの曝露に重要な影響を及ぼすこと。欧米で実施された曝露研究によると、外気のPM濃度は、個人曝露量とその時間的変動に大きな影響を及ぼしており、疫学的研究では、大気中のPM濃度測定値が個人曝露量の代理指標として利用できることが示されています。
 時系列研究における詳細な分析によると、曝露濃度の測定誤差は、多くの場合に健康影響の過小評価につながるというようにされております。
 次に12ページに行きまして、健康インパクト評価手法について説明をします。このWHOの改訂ガイドラインでは、先ほどご説明をした疫学的証拠による影響度評価によってガイドライン値を設定しています。そして、そのガイドライン濃度レベルを達成した場合の健康上の効果について検討した事例として、後ほど資料で説明をすることになる、U.S.EPAによってとりくまれた評価、この中ではRisk-based considerationの紹介と、バンコクでPM濃度をガイドライン濃度まで低減されるケースを想定した健康リスクを推定した事例を示しております。なお、ここで紹介されている事例では、いずれも経済的評価、コスト・ベネフィット評価までの内容を含んでいません。
 あと、他の活用した事例としては、大気汚染物質の長距離越境による健康影響を評価した事例が挙げられます。この事例では、大気汚染物質に関連した健康リスクをインパクト評価によって推定し、さらに推定された健康リスクをRAINSモデルに入力することで経済的な影響を含めた検討を行っています。このとき、健康インパクト評価では、Popeらの曝露反応関係、これは表3-1にも示しましたが、これに基づいてリスク推定を行っているということです。
 また、地球規模・地域的疾病負荷のPM曝露による寄与分を推定した事例というものでございます。これで過剰死亡数などを算出しているということでございます。
 4.1の健康インパクト評価の意義ということですが、これは、大気汚染の変動に関連して、そのインパクト評価によって大気汚染物質と定量的に関連づけられる有害な健康アウトカムの種類を明確にして、その程度を推定値として示すことができるということがあるということでございます。
 この評価のプロセスの一部において、重大な不確実性・大きな影響を及ぼす因子を特定して、その後の研究課題を示すとともに、得られている情報の価値を評価することができるというようにされています。
 また、健康インパクト評価によって推定される健康面の便益の評価と、健康影響を経済的価値に置換した情報は、大気汚染物質対策の意思結果の参考となりうる。また、大気汚染削減戦略の優先順位の決定、コスト・ベネフィット分析などに使用することが可能であるというように書かれております。
 その次の健康インパクト評価におけるエンドポイントの選択でございます。このインパクト評価などの定量評価に含めるべきエンドポイントの選択は、入手可能な疫学知見などの証拠としての強さ、エンドポイントの定義の精度、ベースライン率に関する情報の入手可能性、健康や経済的観点の両方の影響の重要性などによって決定されること。PMの短期曝露と日死亡率に関する時系列研究は、世界で実施されていて妥当な一貫した結果を示しうること。また、全死亡率は明確かつ一貫した定義であること。こういった理由から、健康インパクト評価のエンドポイントとして、死亡が選択をされているということでございます。
 次に、インパクト評価の構成ですが、これは図4-1にもお示しをしておりますが、基本的には4つの要素です。大気質観測点の測定値、あるいはモデルによる推定値に基づく大気汚染前及び後の濃度及び曝露評価と、あとは自然発生源に由来するバックグラウンド濃度、あとは国勢調査などに基づく大気汚染レベルに曝露した集団グループの規模及び構成、あとは死亡及びmorbidityのバックグラウンド発生率、あとは濃度-反応関数、これは4.3.1にも示しますが、こういったものによって構成をされております。
 次に、不確実性と仮定の取り扱いについて説明します。これは14ページです。この曝露に関する健康インパクト評価には、PMの発生源から健康影響に至る全体にわたる証拠の不確実性が存在をします。
 これら健康インパクト評価に存在する不確実性の大きさや範囲は、信頼区間提示、重要な仮定に関する感度解析、専門家の判断によって、定量的に表すことが可能だとされています。
 ガイドラインでは、次のような不確実性を挙げています。これは15ページに示しておりますが、まず、濃度-反応関数における不確実性です。この関数において、低濃度における閾値の有無、またその傾斜の有意な変化について不確実性があるとしています。最近の疫学研究の多くにおいては、全濃度範囲においてPM濃度と健康エンドポイントの間の統計的有意かつ線形関連があって、さらに集団的に評価した場合に閾値が存在することを示す証拠が確認されていない。
 一方、対数線形関数は、汚染レベルの高い影響推定値を求めるのに適しているというようにされています。短期及び長期のどちらの閾値を適用して全体の推定値への影響を決定することは可能だと言われています。濃度-反応関数の形状と、ある地域で実施された疫学研究の結果を別の地域に外挿すると、これはこのインパクト評価において最も大きな不確実性の要因になるというように書かれています。
 また、共存汚染物質による不確実性という部分も示されています。これはPMだけではなくて、その他のガス状のものなども含めた形でいろいろな影響があり得るということでございます。汚染物質混合物の指標としてPMを使用することは妥当ではあるが、過小評価になる可能性はあるということでございます。空間的または時間的にPMと関連していない他の汚染物質への曝露が、PMのリスク推定値に含まれない健康影響を示すことが考えられるというようにしています。
 また、ベースライン発生率に関連した不確実性というのも示されております。このインパクト評価が参照するベースライン発生率は、その地域の局所的な調査から得られることが理想的ですが、このデータが得られない場合は、元の疫学研究のベースライン率を使用する場合もある。この場合、別の都市または国へのベースライン率を適用することによる不確実性が発生します。また、疾患の誤分類・コード化の間違いもさらに懸念される可能性があるとしております。
 対象とする集団の年齢分布、健康上の習慣、移住群などの変化は、経時的にみるとベースラインとする死亡率やmorbidityに影響をもたらす。したがって、インパクト調査では、これらの経時的変化がリスク推定値にもたらす影響を示すことが妥当であるとしております。
 後ろの方に、関連する参考文献もつけております。
 事務局からの説明は以上です。

【内山委員長】 ありがとうございました。それでは、引き続いて、WHOの現地調査に同行していただきました加藤委員それから武林委員の方からご報告をいただいた後で、いろいろご質問あるいは議論をしたいと思いますので、まず、加藤委員の方からよろしくどうぞお願いいたします。

【加藤委員】 座ったままでよろしいですか。加藤です。この資料1-2にございますように、2008年、今年の7月30日に訪問をいたしました。
 訪問したメンバーは、お隣の武林先生と私、それから環境省の松田補佐、それからあとコンサルタント会社の方3名という6名で訪問いたしました。朝9時半からの約束がもっと早くに伺って、12時までの約束が1時までということで、非常に十分時間をとってご説明をいただきました。
伺ったポイントですけれども、PM2.5の基準の考え方、年平均値のレベルをどう考えたか、それから24時間平均値のレベルをどう考えたか、それから指針をつくる過程でリスク評価がどのように取り込まれているのか、いないのかと、そういうあたりについて、あらかじめ質問を用意してお送りして、そして質問に沿って答えていただくという格好でディスカッションが進みました。
その結果を簡単にまとめております。WHOの担当の方から、私がこう言ったということは言わないでほしい、それだけの責任は持てないので、ということでしたので、ここに書かれていることは、私どもがディスカッションを通じて了解したこと、としてご理解ください。
 まず、最初に、PM2.5指針値のレベルです。健康影響に閾値が認められない、閾値はあるかもしれないけれども、感受性が個人差によって非常に大きいために、集団としては、閾値は確認できていないと。それで疫学研究の結果は、10μg/m3あたり全死亡率が6%増加することを示しており、低濃度であってもリスクがあることを示唆している。これはPopeの結果ですけれども、それをやはり根拠に使っているようです。
 ということは幾ら下げてもリスクは残るということで、それではどこまで下げればいいかという議論があるわけですけれども、WHOは、この前のガイドラインのときには、どれくらいのリスクレベルまでにするかということは各国の問題なので、ということで数値を示さなかったわけですけれども、やはり各国に対して指針値を示すことが有効であり、方向性を示す上で数値を示すことは有効と判断して、実現可能性を考慮した妥協として指針値を示している。ですから、ここに示した指針値は、それでゼロリスクになるというものではなくて、妥協として考えているものですというように言っておられるようでした。
 年平均指針値の根拠ですけれども、その数値のレベルをどう選ぶかということですが、そのときの着眼点としては、科学的に説明のできるレベルということで、統計的に有意なレベルというのに注目しているようでした。
その際に使ったデータとしては、拡張ACS研究。そのACS研究の中では、全死亡あるいは原因別死亡についての数値が示されているわけですけれども、原因別死亡では数が少なくて信頼区間が広がってしまう、そういうことのために、確かな影響を選ぶということで全死亡を影響指標として選んでいるようでした。
ACS研究では、肺がん死亡とPM2.5濃度にも関連が認められているということですけれども、粒子が発症と関係しているかどうかということは、そのACS研究の結果からだけでは明確ではないわけです。そういうようなディスカッションの中で、Schwartzが今年の1月に発表している論文のことが話題になりました。その論文というのは、もともとは例えば死亡率の上昇が何年前の曝露に関連しているかという統計解析を行ったものですけれども、その論文を見ますと、肺がん死亡の場合には3年以内の粒子曝露に関連しているというような統計解析結果が示されております。Schwartzの主張はそこにあるわけではないのですが、そういう論文があったというようなディスカッションが行われました。
PM2.5の24時間平均指針値の根拠ですけれども、このことは指針のドキュメントの中に明確に書かれておりません。そこのところを伺うことも今回の訪問の一つのポイントでした。この場合、PM2.5のデータをもとに24時間平均値を考えたのではなくて、PM10に関するもので数値を考えて、それをPM2.5に外挿したというプロセスをとっているようです。
それでは、そのPM10の指針値50μg/m3ですけれども、その数値はどこから来たかということが話題になったのですが、EUでは24時間限界値が今現在50μg/m3で35回の超過を許すという形になっているのですけれども、EUでそのPM10の24時間限界値を超過しているところ、超過してないところ、それぞれにつきまして、PM2.5の年平均値がどうなっているかというようなことを解析しております。その解析の結果を見ますと、PM2.5の年平均値10μg/m3を達成できているところでは、現在のEUの限界値である50μg/m3を超えることは非常に少ないのですが、たまにはあるということで、そういう意味でPM10の24時間指針値を50μg/m3とまずしてしまって、そして、それからPM2.5の24時間指針値を、PM10 とPM2.5の比が2対1というところから25μg/m3にしたと、こういうやり方をしているようです。ただ、この場合にPM10の24時間値50μg/m3というのが99パーセンタイルフォームになっているのですけれども、これは正式な統計解析をしたものではなくて、任意に99%にしたということのようでした。
 それから、暫定指針値というのをWHOは決めています。この暫定指針値というのは、直接的に指針値を目指すことのできない地域に対して達成目標を示すために示しているものですが、リスク評価というのがどこに使われているかというと、この暫定指針値を達成したときにどれぐらい死亡を低減できるかを示すところで使われています。ですから、リスク評価はそういう形で使ったというように理解いたしました。
 それから、その次のPM10指針値とPM2.5指針値ですが、後で出てきますけれども、EPAの場合にはPM10の年平均値基準はなくて、短時間の基準しかないこと、一方、WHOの場合にはPM10とPM2.5、両方ともに年間指針値と24時間指針値があること、それからWHOでは、PM10の中からPM2.5を引くという作業をしていないわけで、この辺の考え方を伺ったのですが、一つは、粗い粒子の方にも健康影響が認められているので、粗い粒子に対する指針値も必要であるということ。それからもう一つは、PM2.5のモニタリングをやっていない地域があるということで、PM10の指針値を示すことは有効であろうということで、その二つの意味合いで両方を決めている、設定しているということでした。
 まとめとしましては、閾値があるかないかはわからないところで、かなり低濃度でも影響が認められるという状況でWHOが採用した方法としてこういうことだったのかなということですが、一つは、実現可能性も考慮して方向性を示すこと。ですから、10という数値が理想的な数値ということではなくて、実現可能性も考慮した数値であること。
 それから、得られている知見の中で最も信頼性が高いと考えられる知見を根拠として選択する。ですから、そのために、信頼限界が広がらないレベル、それからエンドポイントとして全死亡を使うというようなことが、採用されているというように理解しました。
 それから、もう一つは大気質の状況、モニタリングの状況が様々であることも考慮に入れて各国が自国の事情に合わせてリスク低減に取り組むことができるように配慮すること。そういうことで暫定指針値を決め、あるいはPM10、PM2.5両方について、24時間、年間平均値両方を設定している、そういうように理解をいたしました。
 以上です。

【内山委員長】 ありがとうございました。では、武林先生、続いてお願いいたします。

【武林委員】 武林でございます。資料1-3にございます。私は1枚にまとめてございますが、先ほど加藤委員から説明がございましたように、実際にはかなり時間を使いまして、テクニカルなことも含めてかなり細かいディスカッションも行われましたけれども、ここでは非常に原則的といいますか、考え方そのものについて確認したことを報告させていただきたいと思います。
 まず、最初の項でございますが、そもそもWHOにつきましては、ガイドラインという言葉が使われているわけでございまして、これについても全体的な位置づけということを確認いたしました。その中で、このガイドラインというのは、populationを対象とした、必ずto protect public healthということも出てまいりますけれども、基本的には、population、集団の保護を目的とした値であるということを再度確認いたしました。
 この意味でございますけれども、もちろん最終的に下にも出てまいりますが、基準値スタンダードを設定する中では、SensitiveあるいはVulnerableという言葉が使われておりますが、感受性の高いあるいは弱い集団をプロテクトするというようなことも考えられるけれども、とりあえず、このガイドラインの中では一般集団の保護ということを目的に設定されているということが確認をされました。
 それから2番目でございますけれども、基本的にはエビデンス、特に疫学を中心としたエビデンスに基づいてこのガイドラインの値が設定されているということと同時に、何か一つの、単一のということではなくて、基本的にはすべてのエビデンスをまず包括的・総合的に評価をし、その結果として、先ほどお話がありましたACS研究がかなり強いエビデンスにはなっているわけでありますけれども、基本的なスタンスとしては、総合的あくまでも包括的なエビデンスの検討を行ったものであり、また、その結果として、集団としては閾値が明らかでない、ここにありますような、この以下の値を守れば影響が認められというものは設定できなかったということも改めて確認をいたしました。このことについては、かなり突っ込んで議論をいたしましたが、個人としての閾値についてはあるかもしれないけれども、やはり集団として疫学的に観察する場合には、残念ながら現在の研究の中では明確な閾値は出てこないのではないかというようなディスカッションがあったというように理解をしております。
 それから、それに関する議論の延長で3番でございますが、そういうことがありますので、現在のところ明らかに安全だというレベルが明らかでないので、現在も非常に世界中で幅広い研究が進められており、より低濃度での健康影響がこれから明らかになってくる可能性もあるということも強調されておりまして、そういう観点から、WHOとしても常にこのガイドラインは、その新しい知見が出てくることによって常に評価をされるべきであるし、その中で議論に出てまいりましたのは、日本の疫学研究もエビデンスとしてこれがパブリッシュされることになれば、それも含めて包括的にさらにこのガイドラインを見直すために有用であろうというような議論になりました。
 それから、4番目でございますが、これはガイドラインバリューとそれからスタンダード基準値の性格の違いでございますが、これが明確になりましたのは、あくまでも各国あるいは地域が設定をするスタンダードというのは、そのそれぞれのポリシーに基づいて設定するものであって、必ずしもこのガイドラインバリューがそのまま受け入れられるものではないということは、WHOとしては、当然そういうように考えていると。そのための参考として、ポリシーに基づくものでありますから、health impact analysisということをWHOでは提供して、それぞれさまざまなポリシーに基づいて数値を設定した場合の影響の大きさについてモデルを提供しているということで、WHOに出てまいりますhealth impact analysis、健康影響度評価については、そういう意図をもって実施をされているものだということを確認いたしました。
 そして、最後の点でございますが、具体的には、今4番で述べましたように、基準値というのは各国が設定するものであると同時に、上にも出てまいりますが、現在では明らかに安全だというレベルが設定できないということ、それから、各国によってかなり大気汚染の状況、PM2.5-10の濃度も違いますし、それに対して対応をどうとれるかということも変わってきているということから、WHOとしてはマネジメントの観点からIT値、目安値をあわせて設定し、とにかくこれをうまく使うことによって、少しでも実際のPM2.5あるいはPM10の濃度レベル、曝露レベルを十分下げるという努力の継続が非常に大事であるということが強調されたというように理解をしております。
以上でございます。

【内山委員長】 ありがとうございました。ただいま事務局それから加藤委員、武林委員の方からWHOのリスク評価手法についてご説明あるいはご報告がありましたので、これにつきましてご意見あるいはご質問等がありましたら、ご自由にご議論いただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
 坂本先生、どうぞ。

【坂本委員】 WHOでPM10の値から2対1ということを仮定してやっていることですけど、これはどのくらいの幅、それから、かなり都市域とそれからルーラルで違う可能性があると思うのですが、その場合にどのくらいの幅を今2対1というのが、例えば2対1.2から0.8だと、その辺のところは何か議論された数値とかは何か出てきましたでしょうか。

【加藤委員】 ヨーロッパでは7割ぐらいが2.5だろうというようなことは言っておられましたけれども、WHOの指針は、かなり世界中で使われるということで、5という数字を使って指針を出しています。でも、これは指針ですので、多分、各国は自分たちの国の事情で合わせることはできるということも想定の中なのかもしれませんが、一応そういうことでした。

【坂本委員】 ありがとうございます。

【内山委員長】 関澤先生、どうぞ。

【関澤委員】 加藤委員のご紹介の中で、Schwartz2008年を用いて肺がん死亡は3年以内の粒子曝露に関連しているというご紹介があったのですが、この論文は、資料1-1の方では特に引用されていないので、具体的にどういうことで大変短い3年以内というように推定されたかという、もう少しご説明はありますか。

【加藤委員】 そのときには、そこまでのディスカッションはしておりません。それで、論文自体は、統計解析によって、例えば何年前の大気質と今の健康影響が関係しているかと、その関連性が最も強いのはいつであるかというような解析をやっているようです。長期の健康影響、長期の基準を考える場合には、それが何年分の影響が積もっているのかということによって平均時間をどうするか、とかというようなこともでてきます。あるいは濃度-反応関係を考えるときにどの時点の濃度と今の反応を関連づけるかということが問題になってくるかと思うのですけれども、そういうことも含めて解析をした論文のようですが、現実にはその議論は出てきませんでした。それでお答えになっていますか。

【関澤委員】 論文化ということはされているのですか。

【加藤委員】 はい。論文の書誌事項等はそのときにご紹介がございました。

【内山委員長】 よろしいでしょうか。これは、私もちょっとこの方と議論したことがあるのですが、これは一つには、肺がんですと、細胞ががん細胞になってから症状あるいは死亡に至るまでは十数年あるはずなのに、PM2.5との、あるいは粒子の関係をやってみると、どうも3年ぐらい前のときの曝露が一番関連していて、それでこの上の文章とつながると思うのですが、PM2.5が肺がん死亡の原因になっているのかどうかは、どうもこういう論文もあるので余りはっきりしないのではないかという一つの例として、傍証としてこの論文を挙げられていたのではないかと思うのですが、そうことでよろしいですか。

【加藤委員】 多分そういうことだろうと思います。そういう流れの中でこの論文のことについて言及をされていました。

【内山委員長】 Schwartz自体は、それが、PM2.5が肺がんの原因であるかどうかということを言っているのではなくて、3年前とどうも関係があるみたいだという論文ですが、WHOのこの担当官は、そういう論文は少し矛盾しないかという、事実と我々の常識的に肺がんを発症して死亡するまでには十数年ぐらいかかると言われているのに、そこのところがよくわからないなという、そういうことだろうと思いますが。
工藤先生、どうぞ。

【工藤委員】 これ、原文を読んでいるわけじゃないから、何ともわからないのですけども、やっぱりちょっと解せないというか。これは3年前ということですか。それとも、過去3年間の累積というような意味でしょうか。それから、通常の喫煙との、発がんとの関係でも、ちょっと3年というのがいま一つよく理解できないところがあるので。祖父江先生なんかの方がご専門かもしれない。

【祖父江委員】 ちょっと私もうろ覚えできちんと説明できませんが、要は、発症じゃなくてもう少し後のイベントと関係することで、結果的に肺がん死亡とPM2.5濃度の関連が見られているのではないかと。特にPM2.5の高いところで何か医療とサービスがどうのとか、ちょっと関係ないようなことでもそういう交絡のようなことで死亡と関係しているのかもしれないと、そういうような意味だったのじゃなかったですかね。
 ちょっと、余り参考にならず、すみません。

【内山委員長】 わかりました。じゃあ、この論文についてはまた次回にでも少し詳細なところをご報告させて、どういう論文であるかをご紹介させていただきたいと思いますが、そのほかに何かございますでしょうか。
 私の方、この、先ほど事務局から報告していただいたものの目次を見ると、いわゆるWHOのヘルスインパクトの評価手法というのは大分ページを割いたりしているのですが、結局、この基準をつくるときには、これはいわゆるこの健康インパクト評価からではなくていわゆる疫学調査、疫学のデータの確からしさというところから決めているということで、その目標値なり暫定値が目標値までなったらこのぐらいの効果がありますよというのがヘルスインパクトで一応確認しているという、そういう考え方でよろしいですか。

【武林委員】 今、委員長からお話がございましたように、そこの点は十分確認をいたしまして、あくまでもエビデンスに基づいて設定をしたということで、まずそれが先にございまして、その後、その値をいろんな条件を変えて動かした場合には、どうインパクトが実際に起こり得るかと。これは実際にマネジメントあるいはポリシーに移行した場合に、どういう結果が予想されるかというものだということを確認したというように思っております。

【内山委員長】 はい。ありがとうございます。
 そのほかにございますでしょうか。横山先生、どうぞ。

【横山委員】 一つお聞きしたいのですけれども、先ほど松田さんがご紹介になったこのWHOにおける手法の6ページに、要するにWHOでも長期の基準値においてはACS研究を重視したと、これは前から言われていることでございますけれども、結局そこで11μg/m3から15μg/m3というレベルが最も可能性のある最低レベルであるというのがあって、そして、最終的に10μg/m3という、WHOは長期基準値を決めているわけです。ここのところの11μg/m3から15μg/m3、ですから、その差は4μg/m3か1μg/m3ですが、これはどうやって決めたのでしょうか。WHOは、ガイドラインとして、最初にともかく最善にして実行可能な大気質レベルを決めるようにうたっているわけです。そのことと、慢性影響スタディーで11μg/m3から15μg/m3でもって有意な影響が見られる低い濃度である、という認識のもとに、実際の長期の指針値としては10を打ち出しているわけです。そこの差、1μg/m3から4μg/m3、これはどうやって導いてこられたのでしょうか。何かそこら辺の話はあったのでしょうか。

【武林委員】 非常に正直に申し上げますと、その具体的なことは、議論は十分にされませんでした。といいますのは、もちろんその点についてはどういうエビデンスに基づいて一体最後数字が幾つになったということは議論いたしましたけれども、そこにまさにございますように、ACSから行くと13μg/m3までは非常に統計的にも有意であるけれども、そこから下は有意ではなくなる。しかし、それは集団のサイズが小さいですとか、誤分類の影響ですとか、いろいろなことがあり得るので、確定的なことは言えないと。それから、ほかの研究を見ても、例えばハーバード6都市の研究では、11μg/m3と12.5μg/m3は同じレベルだけれども14.9μg/m3で上がると。そこを総合的に判断して比較的ガイドラインとして示しやすい10μg/m3というのが出てきたというような、非常に漠然とした議論でございまして、そこのところ非常に統計学的あるいはいろいろな手法で詰めて11μg/m3と10μg/m3と12μg/m3、どう違うかというところまでは議論にもなりませんでしたし、そこについては余りWHOの当事者の方も明確なお答えを示してはいただけなかったというように記憶をしております。

【横山委員】 そうしますと、科学的なデータを用いていろいろやって、しかしぎりぎり最後のところでは、1μg/m3から4μg/m3というものは、特に根拠はなく10μg/m3という数字を決めたと。要するに、これが7μg/m3とか8μg/m3ではなくて10μg/m3であるのはなぜかということを僕は知りたいのです。今のお話では、そこら辺のところは余りWHOの方も触れなかったと。ということは、私個人的には何か、特に根拠はなく決めたというように理解するのですけど、それでよろしいでしょうか。いや、これは、僕個人としては、やはり環境目標値というものが健康の保持を維持するという我が国の環境基準の考え方からすれば、やっぱり死亡のデータを使って環境基準値あるいはガイドラインを決めるということについては、そこにサムシングがなきゃならないと思っております。このサムシングが何だろうか、WHOの場合は何なのか。それから、EPAもそうです。このサムシングが何なのかということを知りたいということからお伺いしたわけです。

【武林委員】 すみません。ここから先はあくまでも個人的な意見でありますが、今の点は、やはりWHOでも十分議論をされていたというように思います。その中で、少なくとも明らかになっている研究で、ACSでは13μg/m3というところまでは非常に明確であると。それをさらにガイドラインバリューにするときに、その数字よりも大きい数字はやはりとれないという立場が一つ。その中で、やはり先ほど出てまいりました集団をプロテクトするという意図と、少しでも恐らくSensitiveあるいはVulnerableな集団も含めて少し安全サイドに考えてガイドラインを設定したときに、やはり一つ目安として10μg/m3という数字が、一番WHOとしては、とりやすかったのではないかということで10μg/m3に決まったのかと、これは個人的な理解でございますけれども、そのように思っております。

【加藤委員】 私の理解も同じですけれども、健康影響のピラミッドがあって、一番上が死亡で、もっと頻度は高いけれども重篤度は低い健康影響というのがあるわけで、例えば目標値を決めるときに、その一番究極のエンドポイントである死亡ではなくて、もっと前駆的な症状ですとか、そういうものをエンドポイントとして決めるというのが考えやすいとは思うのですけれども、WHOの方のお話ですと、科学的な根拠が示せるということ、確からしいということが非常に大事であったのかなというように思います。そういう意味で、死亡影響をとらざるを得なくて、しかもその確からしい値の幅に対して若干のプロテクションのある、若干それよりも低い10μg/m3という数字が選ばれたというように私は理解しました。

【内山委員長】 よろしいでしょうか。
 香川先生。

【香川委員】 ちょっと教えていただきたいのですが、従来、WHOのやり方を見ていますと、疫学調査で閾値的なものが評価されたときに、ほとんどの場合、安全係数を掛けていますよね。この場合は掛けていないですね。もし掛けているとしたら、さっきから議論になっている13μg/m3とか11μg/m3とかが科学的なエビデンスに基づいた最低の値だから、前の粒子状物質のSO2とスモークのときは、たしか20%か25%の安全率を掛けていますね、疫学調査から得られた値に。
だから、私は、この10μg/m3というのは、切りがいいという、管理上、切りをよくするという意味もあるけれども、そういった安全係数的なものを少し考慮してこうなっているのか、その辺はどうでしょうか。

【武林委員】 その点については、明確なお答えはありませんでした。

【香川委員】 明確な答えがないというのは、ちゃんと聞かれたのですか。

【武林委員】 ディスカッションの中で、一体この数値がなぜ10μg/m3なのか、あるいは、もっと言いますと、もう少し厳しいアクセプタブル・リスクという考え方は何かなかったのかという議論はいたしました。ただし、今先生がおっしゃいましたような、じゃあ、これが従来の方法と比べてどれくらいの安全係数、あるいは安全率を見ているのかという議論には具体的にはなっておりません。といいますのは、私の理解では、それ以前に、この今回のエビデンスの場合には、明らかに閾値がそもそも見つからないということが前提の議論になっておりまして、閾値が見つかった場合にどれだけ安全にするかという議論の前に、閾値は一体あるのかないのかという議論がかなり時間を割かれまして、今先生がご指摘なったような点については具体的なディスカッションにはなっておりません。

【内山委員長】 ほかにはよろしいでしょうか。

【香川委員】 閾値がないのは、要するにいろんな疫学調査を分析したところ、ないわけですよね。でも、ないのだけれども、実際の疫学調査の値からは低い、もちろんこれ、調査したところの地域の濃度が一番低いところで、そこで影響があるというようなことになってくれば、閾値がなければないだけに安全係数の議論って当然出てくると思うのですが、くどいようですけど、そこはちゃんとディスカッションされたのでしょうか。

【加藤委員】 安全係数をどういうように考えましたかというご質問はしませんで、安全係数についてのディスカッションも明確にはいたしませんでした。それ以前に、閾値があるかどうかが不確かであるというところから入りましたので、それでは、そういう不確かな中でどういうように考えて決めたのかという議論の流れになりまして、その安全係数はどの様に考えましたかという質問はしませんでしたし、そういうディスカッションにはならなかったというのが事実です。

【内山委員長】 よろしいでしょうか。あくまでも、ですから、安全係数というのは閾値があったときに、そのLOAELが求まったときに、それからさらに幾つかをとるという考え方だったので、閾値が、今まで得られた疫学調査から見ると、どこまで下まで行っても影響はありそうだというので、閾値があるかどうかわからない。それで、有意差があるところを便宜上の、ここまでは確実性が高いというところを採用した。さらにそこから閾値を考えるというのは、ちょっとそのやり方としては合わない、その中で一番チャンレンジングなところなのか、あるいは、さっき横山委員がおっしゃったような死亡というものをとっているから、少し安全幅を見てというような議論をされてきたのだと思うのですが。そういうことでしょうか。

【加藤委員】 ほぼそういう感じです。

【香川委員】 この資料1-1の2ページと3ページのところにガイドラインの値が出ておりますけれども、この濃度と、それから15%リスクを避けるとか6%とか、これは、ほぼ直線関係で値を出しているように思えるのですが、それでよろしいのですか。

【武林委員】 これは、明らかに直線のモデルを当てはめて、そのまま数値を当てはめているというものでございます。それは確認いたしました。

【香川委員】 あと、この図の3ページの図1-1というの、上が三角でとんがっていますよね。ピラミッドになっていますね、図が。これは、私、死亡には三角形はないと思うのですね。だから、上は何かあるところで平らにしないとおかしいのじゃないですか。これはちょっと余計なことですけれども。私、いろんなところでこれが出てきておかしいなと思って。いまだに直されていないので。

【松田補佐】 これは、WHOのあくまでも書類上に掲載された図をそのまま引っ張ってきているということでございますので、これはあくまでもWHOではこのように三角形でとられて、こういったピラミッドということで出しているということだと理解をしました。

【内山委員長】 ほかによろしいでしょうか。

(なし)

【内山委員長】 そうしましたら、WHOに関しては、また今後に議論いただくこともあるかと思いますので、今日はこのぐらいにさせていただきたいというように思います。
続きまして、アメリカのEPA及びカリフォルニア州のEPAのリスク評価手法について、事務局の方から説明をお願いいたします。カリフォルニアEPAにつきましては、米国の一つの州でございますけれども、連邦のEPAとは少し違った観点で出しているようですので、両方をお願いしたいと思います。

【松田補佐】 それでは、米国EPAとカリフォルニア州EPAのリスク評価手法について、あわせて説明をしたいと思います。
 それでは、まず資料2-1でございます。これもWHOと同様に、本日の参考資料3に沿った、調査事項の形に沿って整理をしております。また、委員の方にも協力していただきまして、2ページ目に書いていますが、Federal Registerを中心として、その補足としてスタッフ・ペーパーやクライテリア・ドキュメント、あとはヘルス・リスク・アセスメントに関する資料というのを抜き取ってまとめたものでございます。
 それでは、まず1ページ目の基礎的な考え方です。目標値の位置づけでございますが、米国の大気汚染防止法では基準値に関する規定が示されていまして、第109項で汚染物質の一次及び二次に関するスタンダードを提案して公布することをEPA長官に命じています。一次基準につきまして、その判断基準は適切な安全余裕を考慮して、公衆衛生の保護のためには、その達成及び維持が必要不可欠であると長官が判断する基準と定義されております。
 それで1.2の目標とすべき濃度水準の設定の考え方ということですが、EPAは適切な安全余裕の要件に対応するにあたり、関係する健康影響の性質や重要度、危険にさらされる脆弱性の高いsubpopulationの大きさ、対処しなければならない不確実性の種類や程度といった要因を検討しています。一次基準は、PM曝露に対して敏感な集団の健康を保護することができる最大許容大気レベルに設定しなければならず、この目的から敏感な集団の中の1個人ではなく、敏感な集団を含む代表標本に合わせて基準を設定するということが示唆されるということでございます。なお、この日本語については、ちょっと適切かどうかわかりませんので、あえて英文をここにつけております。
 また、公衆衛生や福祉を保護するために、必要不可欠な基準を設定するに当たっては、EPAは、これらの目的を果たす上で厳しすぎることも甘すぎることもない基準を設定しなければならないとされているとしております。
 なお、基準を設定する際には、EPAは基準を実行するためのコストについては考慮しないということが書かれております。
 それでは、2ページに行きまして、大気基準の設定に関する経緯でございますが、前段の部分につきましては、前回の検討会でもお示しをしていますので割愛をいたします。
 三次改定のときに、EPAはクライテリア・ドキュメントを作成して、科学的知見のレビューを行い、基準作成上の考え方を示して、それでスタッフ・ペーパーでは、公衆衛生の保護のためにPM2.5基準を改定することを支持し、疫学的証拠による影響度評価――これはスタッフ・ペーパーではEvidence-Based Considerationsと記載をしています。――また、リスク削減予測による影響度評価、――このスタッフ・ペーパーではRisk-Based Considerationsと記載されています――に基づく検討を行いまして、この代替PM2.5基準を三つの組み合わせで勧告をしております。これは、ここに点で書かれてある三つの組み合わせでございます。
ここで、この勧告を受けたEPA長官が、疫学的証拠やリスク削減予測による影響度評価の結果を検討して、パブリックコメントなどの公衆の審査を経て、それでFederal Registerで従来のPM2.5基準を改定することに同意をしているということでございます。そして、主に疫学的証拠による評価の結果から濃度レベルを表1-1に示すような形で、三次改定で示すような形で基準を改定しているということでございます。
次に、1.4の健康影響指標の選定の考え方です。EPAスタッフは定量的リスク評価において検討対象としたエンドポイント、これについては短期曝露影響の死亡率、入院、症状の知見や長期曝露影響の死亡の知見です。PM曝露との関連性を示す強力な疫学的証拠が得られているエンドポイントが選択されているということでございます。
PM2.5の短期曝露に関連する健康影響のエンドポイントとしては、米国やカナダの多都市研究やパネル研究の結果を基に関連性を検討されているということです。
PM2.5の長期曝露に関連する健康影響のエンドポイントとしては、米国やカナダの研究を基に、死亡が重視されているということです。EPAの最新のレビューでは、PMの長期曝露に関連した健康影響の強力な証拠として、ハーバード6都市研究、ACS研究、拡張ACS研究が重視されているということでした。
一方、PMの長期曝露に関するmorbidityへの影響については、24都市研究や南カリフォルニアの小児コホート研究で検討されているということです。この小児コホートの研究については、肺機能発達の低下など、morbidityに影響を及ぼすことが知見として記述されていますが、このコホート研究は、長期曝露が肺機能発達に影響を及ぼしたとする唯一の事例であること、及び米国内の1地域のみを対象とした疫学研究であることから、長官は、これらの証拠はPM2.5年間基準を現行の15μg/m3以下に設定する根拠としては信頼性が低いと判断をしていること。
ということで、結果としては、定量的リスク評価、長期曝露に関連したものについては、主に死亡をエンドポイントとした疫学研究が重視されているということでした。
次に、4ページの曝露期間についてですけども、97年の二次改定時のレビューについては、PM2.5の年間基準は短期曝露による健康影響が認められた地域における長期的な年平均PM2.5濃度を年間基準値の根拠としております。
しかし、その後に発表された6都市研究、ACS研究などの長期曝露に関する疫学研究によって、PM2.5の長期曝露による健康影響に関する強力な証拠が得られたことから、2006年に改定された基準では、短期曝露の証拠については24時間基準値の根拠として、長期曝露の証拠を年間基準値の根拠としているということです。
次に、解析に用いる信頼できる疫学知見の抽出の考え方です。最も一般的に利用される疫学研究については、生態学研究、時系列準生態学研究、前向きコホート研究、あとはケースコントロール及びクロスオーバー研究であるということですが、特に重視されたものは、短期影響としては時系列研究、長期影響としては前向きコホート研究であるということでした。
次に、対象とする疫学研究の地域性ということですが、独立して実施された単一都市研究の結果を集積し比較するメタアナリシスについては、各疫学研究の方法論、データの質、表現性などが異なるため、信頼性が低くなる傾向があると。特に、独立した時系列研究では、それぞれの研究で行っているラグ時間のモデル化に統一性がなく、メタアナリシスが困難であるということも書かれていました。
スタッフ・ペーパーでは、多都市研究の結果を大きいデータセット、一貫したモデル使用等の観点から特に重要視しているということでした。多都市研究の利点については(1)から(5)に示すものでございます。
2.2.2の自国研究と他国研究の取扱いですが、米国以外で実施された研究は、その地域の人口統計学的特性や大気汚染物質特性が米国とは異なることから、EPAでは2.5の測定値を用いた米国とカナダの研究を重視しているということでした。
2.3の曝露評価に関して、EPAスタッフは、PM2.5、PM10-2.5について、様々なモニタリング法を使用した研究結果を比較して、使用したモニタリング法の差異に起因するリスク推定値の差異はないというように考えているということでした。
測定頻度の減少に伴い不確実性が増大するというクライテリア・ドキュメントの認識と同様、EPAスタッフは、1日1回のPMデータ採取をおこなった疫学研究を重視するべきであると判断しているということでした。
次に3番、疫学的証拠による影響度評価です。EPAスタッフは、疫学的証拠による影響度評価と、後ほど説明するリスク削減予測の影響度評価で得られた要件を考慮しつつも、基準値を選択する上では相対的に疫学的証拠による影響度評価を重視しているということでした。特に、年間基準値を選択する上では、前回のレビューと比較して大量に得られた長期曝露に関する疫学的証拠を相対的に重視しているということでした。
それで、3.1、長期曝露影響ですが、これは死亡率との関連を示した6都市研究、ACS研究など、強い証拠として挙げられるものについて、代替リスクモデルに対する再現性・妥当性の確認と、感度分析を含む再解析が実施をされていると。Krewskiらの再解析の結果は、このオリジナルの研究における結果を支持して、死亡率との関連が確認されている。
EPAのスタッフは、これらの研究で測定されている各都市の長期的な平均濃度よりもやや低い濃度をPM2.5年間基準のレベルを選択する際に考慮することが適切であると考えているということです。疫学研究におけるPM曝露と健康影響との関連性の証拠は、疫学研究のデータが最も集中している長期的な平均濃度や、その周辺において最も強いことをスタッフは認識している。PM2.5の長期曝露と死亡率に関する疫学研究において報告されている長期平均濃度は、ハーバード6都市研究で18μg/m3、ACS研究で21μg/m3、拡張ACS研究で解析に用いられた1999年から2000年で14μg/m3、ACS研究の両期間を合わせた平均濃度は17.7μg/m3であるということでした。
 また、南カリフォルニア小児コホート研究、24都市研究の長期平均濃度、これは15μg/m3、14.5μg/m3ということでした。EPAスタッフは、これらの証拠は年間平均基準値を15μg/m3よりもやや低い約12μg/m3まで下げる根拠を提供しているという結論をしているということでした。
 EPA長官は、こういったスタッフの見解に概ね賛同したということです。死亡率・morbidityに関する疫学研究は、15μg/m3以下の基準値を考慮する根拠になると暫定的に結論をしているということでした。
 しかしながら、肺機能や症状など死亡以外のエンドポイントに関する研究は、南カリフォルニア小児コホート研究が唯一の研究であって、米国内の1地域のみで実施された研究であることから、従来の15μg/m3よりも低いレベルに設定する根拠としては適切ではないと判断をして、それから年間基準値を15μg/m3と据え置いているということでした。
 長期曝露に関連した重要な証拠となっている拡張ACS研究では、濃度-反応関数の形状や信頼区間が評価をされていること。推定された濃度-反応関数は、PM2.5濃度と全死亡、心臓・呼吸系疾患による死亡、肺がんによる死亡との関係のいずれも直線関係と有意に異なるものではないことがPopeらの論文で確認されていること。
また、拡張ACS研究によって推定された濃度-反応関数の信頼区間、これは点線ですが、図3-1に示したとおり、PM2.5濃度が12μg/m3から13μg/m3以下の範囲では幅が広がっており、この濃度範囲以下ではPM2.5濃度と相対リスクの関連性の不確実性が拡大すると考えられているということでした。
それで、3.2の短期曝露影響です。短期曝露の疫学研究につきまして、測定された大気中のPM2.5濃度の範囲内に明確な閾値の証拠は存在せず、いくつかのエンドポイントについては、閾値レベルを検出することは極めて困難であった。そのため、一連の疫学的証拠に基づいて、短期曝露に関連する全ての影響から人々を保護するようなPM2.5の24時間基準を設定することは困難だとされています。
EPAは濃度-反応関数の形状や閾値については、いまだに不確実であり、証拠として疫学研究で観測されたPM2.5の濃度範囲では、この短期と長期と関係する影響に対して集団閾値が存在することは、肯定も否定もされないと考えている。
ただし、一部のPM2.5の短期曝露に関する疫学研究は、閾値が存在するならば25μg/m3以下である可能性があることを示唆しているということでした。
スタッフ・ペーパーにおいてPM2.5の短期曝露と健康影響との間に統計的に有意な関連性を示している疫学研究を検討しています。それらの疫学研究におけるPM2.5濃度の24時間平均値の98パーセンタイル値の範囲は32μg/m3から59μg/m3の間となり、99パーセンタイル値は34μg/m3から69μg/m3となっていた。EPAスタッフは、これらの疫学研究で認められた短期曝露影響からの保護を目的とした24時間基準は、98パーセンタイル値または99パーセンタイル値の範囲以下にするべきであると考えているということでした。
疫学的証拠からは24時間基準の推奨値を設定するための明確な根拠が得られなかったため、PMの人為的汚染から保護することを目的とする基準値は、バックグラウンド濃度以上であるべきだとしています。米国の24時間バックグラウンドレベルの長期平均値は、1から5μg/m3低いレベルですが、分布の上限は約10μg/m3から20μg/m3と推定をされているということです。
 EPAスタッフはPM2.5への短期曝露と死亡率との関連性に焦点を合わせて具体的に検討をして、15μg/m3の現行の年間基準を維持したまま、30μg/m3から25μg/m3の範囲の改定24時間基準を考慮することが適切であると結論をしております。さらに、もう1つの選択肢として、40μg/m3から35μg/m3の範囲の24時間基準と組み合わせた13μg/m3から12μg/m3の範囲の年間基準の考慮を支持しております。
 それで、これらのスタッフ・ペーパーにおける検討を踏まえ、EPA長官は、PM2.5の短期曝露に関する疫学研究を観察して、死亡・入院・呼吸器症状との有意な関係を報告した疫学研究では、24時間平均値の98パーセンタイル値が約39μg/m3までの研究が多数を占め、98パーセンタイル値が約30μg/m3から35μg/m3の範囲内の疫学研究では有意な関係を示すものは少数となることを確認している。さらに98パーセンタイル値が30μg/m3から35μg/m3を下回るレベルの研究は極めて限られており、このような低濃度範囲におけるPM曝露に関連した健康影響の証拠にはならないと判断しているということでした。
 以上を根拠として、長官は、24時間基準値を35μg/m3に改定しているということでした。
 それで、様々な不確実性、仮定の取扱いということで、まず3.3.1の濃度-反応関数の不確実性がある。これは評価に使用する濃度-反応関数の係数の推定値に関する不確実性、濃度-反応関数の仕様、あとは研究で調べた濃度範囲内に集団閾値または非線形関係が存在するか否かに関する不確実性がある。さらに、歴史的なPM濃度の変遷による影響も濃度-反応関数に不確実性を与える要因となっているということでした。
 次、共存汚染物質による不確実性も、WHOと同じように示されておるということでございます。
 あとは、次のページに行きまして、PMの成分につきましても、やはりいろいろな成分が含まれていて、こういった成分の役割や毒性についての不確実性があるということですが、結果として一括りとして扱うことが適切であるという判断をしています。
 また、気象条件の変動・時間的傾向に関する不確実性もここで示されております。
 次に、3.3.5の曝露と時間構造の取扱いですが、まずは最初に時系列研究におけるラグの不確実性に関する記述が書かれております。この時間的な構造に対処する方法は三つの方法があるということですが、多くの研究では、この三つの方法のうちの真ん中の2番目にある汚染物質やエンドポイントについて最大の影響を及ぼすラグや移動平均を使用する方法がとられるということでした。
 EPAスタッフ・ペーパーでは、単一のラグモデルを採用して、その上で複数のラグを設定することによる感度分析を行っている。その結果、ラグを1日に限定しても数日間にわたるPM曝露と関係する健康影響から保護することができると述べております。
 その次に、11ページに行きまして、コホート研究における曝露期間についての記述もございます。前向きコホート研究では、調査対象としては集団に対する曝露を特徴づけるため、数年間といった長期間の平均化された大気の濃度測定値が使用されています。健康影響に対して、過去の曝露と最近の曝露がどのように作用しているかを区別することは困難で、これが潜在的な曝露測定誤差の要因となる。潜在的な曝露測定誤差は、地域間で平均PM濃度がそれぞれ異なって変動する場合に拡大をする。
 長期に及ぶ平均濃度は、死亡直前の短期間の濃度よりも集積的な曝露をよく代表している可能性が指摘されている。リスク削減予測による影響度評価では、長期的な平均値を曝露指標として用いることが適切であるというように書かれております。
 それで、次に4番目のリスク削減予測による影響度評価でございます。EPAのリスク削減予測による影響度評価を実施する目的は、特定の都市部で従来の基準または代替基準を満たす濃度レベルで予測される死亡やmorbidityの影響の大きさを推定すること、リスク推定値に対する仮定や各種情報の影響について理解をすること、あとはリスク分布・代替PM基準適合に伴うリスク低減パターンを把握することだということでした。PMのリスク評価は多くの不確実性が存在していて、それはリスク推定値の信頼区間としてあらわされる。その他の不確実性や重要な情報の変動は、感度分析によって対処しているということでした。
 EPAのスタッフによって実施されたリスク削減予測による影響度評価は、PM2.5基準値を修正する必要性の根拠となっている。しかし、スタッフが示したリスク削減予測による影響度評価は、閾値の存在が明らかでない研究に基づいている。EPA長官は、リスク削減予測による影響度評価には基準レベル選定の根拠とするには限界があり、代替のPM2.5基準を設定するにあたり、疫学研究の証拠に基づいた基準値の15μg/m3を下回る年間基準値を提案する根拠とすることは適切ではないという判断をしております。
 なお、スタッフ・ペーパー、その技術サポート文書の中で、このリスク削減予測に関する影響度評価には、健康リスクの貨幣価値換算やコスト・ベネフィット分析の概念は含まれていません。また、基準値レベルの選択過程では、これらのコスト・ベネフィット分析は行われておりません。
 次に、リスク削減予測による影響度評価に用いたエンドポイントですが、これは死亡や入院、症状等の多様なカテゴリーのエンドポイントを含めております。
 次に、リスク削減予測による影響度評価に用いる対象都市の選定ですが、これは多数の都市から地理的変動性がある可能性を前提として9都市を選択しているということでした。これらの都市では、大気のデータや死亡率・入院・受診のベースラインのデータが整備されている。また、精度の高い疫学研究が実施されて、濃度-反応関数が推定をされるということでした。
 次に4.4のリスク削減予測による影響度評価の要素です。これは、PM2.5の濃度測定値やバックグラウンド濃度などの大気質情報、あとは疫学知見の濃度-反応関数、また死亡率やmorbidityのベースライン、あとは人口に関するデータ、これらの要素に基づいて発生率の算出と感度分析を行っているということでした。
 リスク削減予測による影響度評価における要素の役割を概略図として図4-1に示しております。このエンドポイントの発生率は、PM濃度を濃度-反応関数に入力して算出されて、その上で各地の死亡率やmorbidityのベースラインと人口を考慮してPMに関連する死亡数やmorbidityの発生の変化量を計算するというものです。
 感度分析を実施したポイントというのは、このダイヤの形のSであらわしているものでございまして、例えばバックグラウンド濃度の差に関する感度分析は、あとはバックグラウンド濃度を一定値にした場合はS1,2の部分のところで感度解析をいろいろ行っている。また、地域内のモニターの最高値を基準値に適合させるケースや、あとは地域内モニターの平均値を基準値に適合させるケースに関する感度分析など、こういった大気中の濃度をいろいろと変えた上での感度分析というのをS3、S4でやっていまして、またS5やS6では、短期曝露モデルのラグ設定に関する感度解析、疫学研究です。あとは長期的なPM2.5濃度の変動に起因する濃度-反応関数の不確実性に関する感度解析、これをS5,6でやっている。さらに、そのほか多都市研究と単一都市研究の濃度-反応関数の差の感度分析もやっているということでした。
次に、4.5の濃度-反応関数の内容及び選定の考え方です。これはPM2.5のリスク評価に使用する濃度-反応関数は、条件に適合する疫学研究において推定されたものを使用しているとのことです。
PM2.5のリスク削減予測による影響度評価で使用される濃度-反応関数は、特定の都市部に関する疫学研究で報告された濃度-反応関数である。その多くは対数線形型の濃度-反応関数だということで、主にはこの式4-1のy=Beβxというシンプルなバーチになりますが、こういう形であらわされる。ここで係数はここに書かれてあるとおりのものですが、このPM2.5濃度の差というか閾値の差をSx=x0-xに対応するという部分で、このベースライン、y0からベースライン発生率yまでの健康影響の発生率の差をΔyとして、それと求めると式4-2または式4-3のような形になって、この大きなBという部分ですネ。環境の中でPM2.5濃度がゼロになる場合の健康エンドポイントの発生率というのは、計算をしなくて算定はできるようにはなるということですが、こういう式であらわされます。
この濃度-反応関数は、統計モデルの不確実性、単一都市モデルと多都市モデルにおける不確実性、共存汚染物質に関する不確実性、時系列研究における不確実性にラグの不確実性に対応するため、感度分析が実施されているということです。
また、疫学研究で観察されたPM2.5濃度の範囲内では、閾値の存在は否定も肯定もされていないので、このリスク削減予測による影響度評価では、対数線形関数の低濃度範囲に仮想的な閾値、――これをカットポイントとここでは書いていますが――を設けた非線形の修正対数線形関数を導入している。ホッケースティック型関数というように書いていますが、これは非線形関数、非線形シグモイド型関数を代用するものだということです。
PM2.5に関するリスク削減予測による影響度評価で適用するホッケースティック型関数は、オリジナルの濃度-反応関数にカットポイントを設定して、カットポイントより高い濃度範囲でオリジナルの濃度-反応関数のPM2.5係数を調整することで得られるということでした。
4.5.1の濃度-反応関数の選択です。これは、各都市でいろいろな研究がやられているということで、それぞれの都市で実施した時系列研究、再解析の結果に基づいて推定をされている。これは短期のお話です。長期については、全てコホート研究に基づいている。6都市研究の再解析結果、ACS研究、拡張ACS研究が選定されているということでした。
カットポイントですが、これは短期曝露のリスク削減予測による影響度評価では、基本ケースとしてカットポイントを政策関連バックグラウンド濃度、米国西部では2.5μg/m3、東部では3.5μg/m3と設定しています。このカットポイントの最高値を20μg/m3というようにして、さらに10μg/m3と15μg/m3というカットポイントを追加しています。
なお、政策関連バックグラウンド濃度というのは、米国で観測されるPM濃度の中から、米国とカナダ、メキシコにおいて人為的に発生した一次粒子と前駆物質を除いた濃度であること。つまり、米国で政策的にコントロールできない濃度だということでございます。
また、PM2.5の長期曝露に関連する疫学研究で測定された長期平均の最低濃度は、7.5μg/m3から11μg/m3の範囲なので、長期曝露のリスク削減予測による影響度評価の基本ケースでは、カットポイントを7.5μg/m3というようにしているということでした。
先ほど図3-1にも示しましたが、長期曝露に関連した死亡率の濃度-反応関数の信頼区間は、12μg/m3から13μg/m3の、より低濃度ですね、不確実性が大きく閾値の存在は仮定できる。長期的な平均濃度レベル付近の濃度では、濃度-反応関数は線形となっている可能性が高く閾値の存在を仮定できないことから、追加するカットポイントとして10μg/m3と12μg/m3を設定しているということでした。
次に、4.6に行きまして、これは16ページですが、様々な不確実性・仮定の取扱いということですが、これは多くの不確実性が含まれていて、濃度-反応関数の不確実性、研究対象地域の違い、単一都市モデルと多都市モデルの違い、あとは単一汚染物質モデルと複数汚染物質モデルの不確実性、時系列研究のラグの不確実性、PM濃度を基準値に適合させる調整方法の不確実性、環境モニターの妥当性の不確実性、バックグラウンド濃度の不確実性などのベースライン発生率および集団データの不確実性、こういったものが示されています。
これらの不確実性について、影響度評価を通してリスク評価とリスク削減予測による評価における限界と前提条件としている仮定について明示して説明をする。あとは、統計学的な不確実性はリスク推定値の信頼区間として示す、このリスク削減予測による影響度評価において重要な前提条件については、その前提を変えたときのリスク推定値への影響を説明するための感度分析を実施するということでした。
参考文献としては5番に示しております。
引き続きまして、カリフォルニア州EPAの資料について説明をします。
大分、EPAと重なる部分が多いので、ここは割愛をしながら主な部分を説明していきたいと思います。
それでは1ページ目ですが、基礎的な考え方です。まず、目標値の位置づけですが、これはカリフォルニア州では基準は乳幼児、子供を含む住民の健康を適切な安全余裕をもって適切に保護するレベルに決定しなければならないというようになっております。
目標とすべき濃度水準設定の考え方ということですが、カリフォルニアでも一般集団だけではなく、高感受性群をも保護するように定められているところです。改定においても乳幼児や子供、一般集団に加えて脆弱集団も保護するべきとされています。
適切な安全余裕の定義はみられませんが、基準設定における適切な安全余裕とは、大気汚染による多様な潜在的高感受性集団への健康影響の正確な予測の不足や科学的不確実性を説明、補償するものと理解されます。
疫学的証拠というのは増加していますが、閾値は確認されていない。このことが低濃度で大きな不確実性をもたらしている。特に、環境中のような低濃度のPM曝露で健康影響が生じることや、反応の個人差が大きいということから、全員を保護する基準の設定は困難だというようにしています。しかし、PM曝露の実態や反応の個人差、健康影響の知見などを考慮しながら、乳幼児や子供を含むほぼすべてのカリフォルニア住民を保護する複数の基準を推奨して、適切な安全余裕の概念を運用しているということでした。
この適切な安全余裕をもって適切に保護する観点から、PM2.5曝露と健康影響との有意な関連性を示した疫学研究で報告されているPM2.5を基準として、その濃度を超えないことで安全余裕を組み込むことで対処しているということでした。
次の1.2ですが、特に健康影響指標の選定としては、最も重篤で不可逆的な影響である死亡とPM濃度の関連性を示す疫学研究を用いて評価を行っているということでした。
1.3の経緯でございますが、これは2002年にPM2.5の基準値を設定して、12μg/m3という年間基準を設定しております。また、PM2.5の短期影響の24時間の基準の方ですが、25μg/m3と設定することを推奨しているのですが、いろいろと疫学研究に関する統計解析ソフトウエアの問題もあって、まだ24時間平均基準として提案はしていないということで、まだ現実的には年間平均の基準ということになっております。
次に2ページ目に行きまして、優先すべき手法としては、これもコホート研究を重視していると。その上で時系列研究にもある程度の重みを置いているということでした。
それで、3ページ目に行きまして、対象とする疫学調査地域ですが、カリフォルニア州で実施された疫学研究は少ないということで、カリフォルニア州以外で実施された疫学研究も参照しているということでした。
特にハーバード6都市研究は、カリフォルニア州の都市を含んでいないということで、ACS研究ではカリフォルニア州の4都市を含んでいる。また、短期影響の知見については、カリフォルニア州の、まあ、25都市の研究があるのですが、そのうち2都市がカリフォルニア州ということでした。この点について、カリフォルニア州以外で実施された研究について、曝露状況や集団の特性をカリフォルニア州のものとして代表していない可能性がある点について注意が必要であるというように記述されております。
3の疫学的証拠による影響度評価ですが、これも先ほど何回も繰り返しで言いますが、ACS研究、ハーバード6都市研究では閾値の存在は明らかではない。カリフォルニアEPAのスタッフでは、6都市研究はACS研究の疫学的な証拠から、12がコホート研究の平均濃度より低い値であり、子供の入院・死亡や長期曝露に関連した成人の死亡に対しても更なる保護と考えて、12を推奨、年間基準値として推奨するということでした。
また、短期の知見、短期の死亡についての知見で有意な関連性が示された研究でも長期平均濃度が13μg/m3から18μg/m3であるということにも留意をしているということでした。
3.2の短期曝露影響は、基準設定でまだ示されていないということですが、こちらの方に書かれてある。3ページ目、4ページ目に書かれているとおり、いろいろな短期影響の知見を踏まえてさまざまな検討がなされていると、こういう状況でございます。
それで3.3の不確実性ですが、ここでもやはり短期曝露影響と長期曝露影響について、それぞれの不確実性がいろいろ書かれております。短期曝露影響に関して言うと、低濃度における健康影響の少なさや曝露測定値の誤差、共存汚染物質の問題、気象条件の問題など、こういった低濃度域の研究の濃度の分散の低下などの不確実性が存在することが書かれています。
長期影響の方は、カリフォルニア以外で実施しているということもあるので、その点注意事項として挙げられているということでございます。
5ページ目に行きまして、リスク削減予測による影響度評価です。これは目的としては、カリフォルニアEPAのリスク削減予測による影響度評価の目的としては、カリフォルニア州の健康影響を定量的に示すこと。また、提案する基準値を達成することによって得られる健康面での便益を推定することであり、PM2.5を12μg/m3まで低減させたときのカリフォルニア州の影響の大きさを推定しているということでした。この結果は、死亡率やmorbidityに対して基準を設定、基準改定によって低減効果を及ぼすということを示しているということでした。
 あとはリスク削減予測による影響度評価の要素は4.3に示していますが、基本的には先ほどもお話ししたとおり、大気中のデータや濃度-反応関数、あとは国勢データとか国勢人口のデータとか、あとはベースラインのデータとか、そういったものが必要だということでした。
 濃度-反応関数内容および選定の考え方ですが、基本的には対数線形モデルであり、対数線形モデルを用いて行っている。濃度-反応関数の推定としては、長期はACSやハーバードの研究、短期についてはハーバード6都市研究の死亡に関する研究、あとは入院・受診についても一部表4-1に示すものを見ているということでした。
 次にカットポイントは、4.3.3に示しますが、基本的にはカリフォルニア州のバックグラウンド濃度を5μg/m3として、これをカットポイントとして濃度-反応関数に設定しているということでした。
 長期の方の死亡については、ACS研究やハーバード6都市研究で示されたPM2.5濃度の最小値の9μg/m3を仮定しているということでした。
 不確実性の部分については、主に地域性の部分が示されていまして、やはりカリフォルニア州以外のものをカリフォルニア州に設けることの不確実性、この点が示されています。またこのほか、いろいろ疫学研究の選択やエンドポイントの偏り、共存汚染物質、曝露評価の地点の不確実性のものが示されています。
 感度分析の実施方法は8ページでございますが、これもリスク削減予測による影響度評価で、濃度変動による感度分析を行っています。年間平均濃度を現状で観測されるレベルから12に低減したケースや、短期死亡については5μg/m3まで低減したケース、長期死亡は9μg/m3まで低減したケースで試算をしているということでした。
 以上、ちょっとカリフォルニア州を駆け足でしたが、EPAとカリフォルニアEPAに関する評価手法について説明いたしました。

【内山委員長】 ありがとうございました。
 それでは、続きまして、同行していただいた新田委員それから武林委員からご報告をお願いいたします。

【新田委員】 まず、私の方から、新田から米国の環境保護庁それからカリフォルニア州の環境保護局、それぞれ2日間にわたって広範囲にディスカッションをしてまいりました。全体像は、ただいま松田補佐の方からご紹介いただきました。
 私としては、その中で重点的な事項として、そこに示しておりますように、まず、PMの基準設定における基本的枠組み、繰り返し議論されておりますのは、米国においてもどうかと。特に米国のクリーンアクトではcriteria pollutantsとhazardous pollutantsという二つの枠組みがあるということで、その法律上の考え方との関係、それからmargin of safetyとの関係、それから閾値の問題と、その3点、それから具体的な基準値のレベルですね、数値の決定のプロセスを確認するということで、米国の、ただいまご紹介ありましたように、多くに文書が公表されているわけですけれども、その中で示されているものの確認、それから、その中での疑問点の確認ということ、それから最後は、前回第1回の本専門委員会でご質問がありましたけれども、環境基準値設定においてリスクアセスメントの考え方がどのように取り入れられているのか、取り入れられていないのかということの確認を行ってまいりました。
 まず、基準設定における基本的枠組みですが、ただいま申し上げましたように、米国においてはcriteria pollutantsについて、大気環境基準を定めることを法律でEPAに求めているわけです。一方で、日本で有害大気汚染物質と呼んでいるものに関しては、異なる枠組みで規制が行われているということで、これに関しては大気環境基準設定ということは法律上求めていないというように理解しております。
 それから、もう一点は、現在の米国での考え方は、既にある環境基準が妥当であるかどうかという観点から今回検討がなされたということで、PM2.5、PM10の環境基準を幾つにするべきかという議論ではなくて、現在ある基準が妥当かどうか、妥当でないとしたらどのように改善するべきかという議論がなされていたということです。
 それからもう一つ、通常、有害大気汚染物質で議論されているようなユニットリスクそれからvirtual safety doseの考え方は採用されていない、また、議論もされていないこと。そもそも閾値の有無等々の議論とは別にスタート時点でcriteria pollutantsとhazardous pollutants、枠組みが異なるということで、criteria pollutantsに関しては、このようなユニットリスク、virtual safety doseの考え方は基本的に議論されていないというように理解しました。
 閾値の問題に関しても、ですから、今申し上げたとおり、criteria pollutantsに関しては取り扱いが異なっているということです。それから、margin of safetyに関しましては、定量的根拠を示したものはない。つまり、安全係数を幾つにしなさいというような明確な基準はないこと。これはカリフォルニア州においても同様ということで、先ほどの説明にありましたように、脆弱な集団もしくは感受性の高い集団を含むような疫学調査対象に基づく知見によって、定性的にmargin of safetyを考慮したとEPA長官が判断をしているというように理解をいたしました。
 それから、繰り返し述べられていることですけれども、米国それからカリフォルニアEPAでも同様に、基準値の設定は健康影響のみを考慮して定められているということで、コスト・ベネフィット分析を含むRegulatory impact analysisと米国は呼んでおりますが、その結果は考慮されておりません。
 具体的な基準値(level)決定のプロセスですけれども、米国それからカリフォルニア州においても、まず疫学的な知見に基づいて曝露と疫学的な因果関係が認められるようなエンドポイントを同定するということで、具体的には、この中で一番証拠として確実な死亡が採用されているということです。
それから、これらのエンドポイントとの関連性が認められる環境濃度の範囲を同定する。どのくらいの濃度範囲でエンドポイントとの関係が認められているのかということを調べるということです。
 それから、統計学的に有意な影響が見られる環境濃度の傾向、トレンドですね、これを探索する。傾きと解釈しておりますが、それを探索する。
 それから、濃度-反応関数において誤差の幅、曝露側の誤差の幅、それから、影響側の誤差の幅、両者含むような誤差の幅の大きさを考慮するというようなことを基本的に考えているということでした。
 このような基本的考えは、カリフォルニア州においても同様ということです。ただいま説明がありましたように、PM2.5の長期の環境基準で言えば、米国のEPAは年平均値15μg/m3、それからカリフォルニア州においては12μg/m3という数字を出しているわけです。説明にありましたように、基本的には根拠となる疫学的知見は同様のものということで、12μg/m3と15μg/m3、どうして違うのかということをカリフォルニア州の担当者に質問いたしました。疫学研究に基づいて、その両者の違いを具体的に説明することはできないという答えでした。ですから、EPAにおいても先ほどスタッフ・ペーパーで15μg/m3から下げて12μg/m3ということは十分あり得るということがスタッフ・ペーパーでは示されております。ですから、カリフォルニア州においても、その疫学知見の、特に長期的なコホート研究の解釈においては同様のものだというように理解をいたしました。
 それから、Risk assessmentとの役割に関しましてですが、大気環境基準設定においては、Risk assessmentというものと、Regulatory impact analysisという、Risk assessmentと日本で言われているものを含むような二つの範疇の手法が幾つかのドキュメントで見られております。
 前者の大気環境基準設定において、risk-based considerationsと呼ばれているものに関しましては、定量的リスクの推計値を示してEvidence-based analysis、つまり疫学的証拠に基づく基準値の設定なりの補完的役割を持つということで、具体的には米国の場合には年平均値の基準と24時間値の基準の組み合わせをどのようなものが、ある組み合わせの場合にリスクがどのくらいの大きさになるかというような考え方、試行実験に採用しているということになります。
 後者に関しましては、費用便益解析を含むような全米を対象とした定量的リスクということで、環境基準設定に限らず、政策決定全般において健康リスクの低減がどのようになるか、経済的なインパクトがどのようになるのかというような定量的推計を行っているものだということで、少なくとも後者に関しては、環境基準設定の後の政策にかかわるものだというように理解をいたしました。
 以上です。

【内山委員長】 武林先生、お願いします。

【武林委員】 事務局からの報告それから新田委員からの報告と重複することもございますので、かいつまんで報告させていただきます。
 1番から、同じように5番にまとめてございますが、やはりEPAにつきまして、私は米国EPAのみ参加いたしましたが、こっちはスタンダードでありますけれども、基本的には疫学的なエビデンスを含めたhealth-basedなアプローチによってあくまでも設定された値であるということで、後段出てまいりますリスクアセスメントについては、あくまでもその後の参考、あるいはマネジメントの中での条件設定ということで示されたものであって、スタンダードそのものはエビデンスに基づくということ。それから、その中で、新田委員からも報告ありましたが、何らかの数学的なモデルで低濃度領域への外挿をするというようなことではなく、実際のリスクアセスメントの大きさを考慮してEvidence-basedに基づいて設定したということを確認いたしました。
 さらに具体的なメカニズムとか閾値につきましても議論をいたしましたけれども、明らかでないということでありまして、やはり今後の研究の進展によって当然変わり得るということで、これ、5番にも関連します。5番については、特別にPM2.5についてのことではございませんけれども、こういう状況がございましてEPAとしてはさまざまなナックスについて5年に一度ぐらいのサイクルで全体のエビデンスをもう一度見直して、その数値を評価できるようなプロセスの見直し中であるというようなことが、この議論の中で確認をされました。
 それから、4番に書いてございますが、スタンダードである以上は、実際にEPAとして設定をした後に各州でのimplementationが非常に重要だということで、この中での役割分担でございますが、国としての、EPAとしては、測定における一貫性あるいはprecisionの確保ということが非常に重要であって、さまざまな測定法の標準化を含めてそのような仕掛けをして、各州でのimplementation planを支えるようなことも視野に入れて、このスタンダードをセッティングしているということを確認いたしました。
 以上でございます。

【内山委員長】 ありがとうございました。
 今、アメリカのEPAそれからカリフォルニアのEPAのリスク評価手法につきましてご説明いただきました。何かご意見、ご質問ございますでしょうか。
 傍聴の方もいらっしゃいますので、ちょっと確認します。criteria pollutantsというのは、いわゆる、日本で言うと環境基準がもともと決まっている二酸化硫黄、窒素酸化物、オキシダント、SPM、そういったものをcriteria pollutantsと呼んでいるということでよろしいですか。

【新田委員】 そうです。

【内山委員長】 それから、HAPと言っているのは、有害大気汚染物質、日本で言っているベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、こういうものを言うということですね。
 それで、それは枠組みが米国の場合では明らかに違うということでよろしいでしょうか。日本はHAPも環境基準を持っていますが、米国では、まだHAPに関しては環境基準を出したけれども、裁判で取り下げたというものもありますが、まだ決まっていないということで、一応、リスク評価をして10-5あるいは10-6のときにはこういう値というものは計算されてはおりますけれども、特に環境基準は決められていないということですね。
 何かご質問、ご意見ございますでしょうか。

【横山委員】  先ほどのWHOの文章にもあったのですけれども、「死亡率やmorbidity」となっているのです。恐らくこれは、mortality and morbidityだと思うのですけど、mortalityを死亡率と訳してどうしてmorbidityを日本語に、かなりこれ、ポピュラーな用語で別に難しいものじゃないと思うのですけれども、これなぜ訳さないでmorbidityにしているのか、ちょっと教えてください。

【内山委員長】 何か意図はありますか。

【松田補佐】 いや、意図は余りなくて、mortalityというのは死亡ということで訳せるだろうなということで思ったのですが、morbidityというのを、例えば罹患とかという訳をすると、もう少し広い概念だというような先生方のお話もありまして、morbidityというのは死亡を除いた、健康が余りよくない症状なのかなともちょっと思ったのですが、なかなか適切な日本語がちょっと思いつかなかったもので、それで、とりあえず今回はmorbidityとそのまま置いたと、こういうことでございます。この点は、新田委員や武林委員から何かコメントがありますか。

【新田委員】 確かに、資料をつくる段階でmorbidityのままの方が適切ではないかと強く主張した一人ですけれども、WHOにおいてもカリフォルニアEPA、米国でも、まあ、我が国でもそうですが、大気汚染の健康影響等を考えられるような種々の指標のうちで、基本的な考えで死亡とその死亡以外のものすべてをmorbidityと呼んでいるということで、それを何か病気に関係するような日本語にしますと、ここで取り上げているのが疾病の概念が成立しているものだけという誤解を与えるのではないかということで、morbidityのままにさせていただいております。

【横山委員】 でも、これは日本の考えじゃなくて、要するにアメリカEPA、WHOの考えを紹介しているレポートですから、工藤先生、どうですか、これ、morbidity、罹患率と訳してまずいですかね。

【工藤委員】 いや、一般にはわかりにくいでしょう、これ。どこかで日本語にして……。

【内山委員長】 日本語というか、公のところで罹患率を定義しているのは、多分、人口動態統計や患者調査のときでしょうか。その場合は罹患率という言葉を定義してしまっていて、それは病院にある期間に疾患で何々という、たしか定義がありました。確かにここで言っている罹患率とは違うので、誤解されるおそれはあるかもしれない――と私自身は思いましたけど、新田先生、そういうことにお詳しいと思いますが。

【横山委員】 Risk-based considerationをこんな難しい日本語に翻訳しているのだから、もっと素直に訳してもいいじゃないかなと思ったので。

【内山委員長】 これは、多分、併記をしていただければいいと思うのですが、まだ、日本語に訳すと誤解を招きそうなものを英語でそのまま併記をしていると。

【工藤委員】 訳さないでも解説を、ちょっと……。

【内山委員長】 はい、わかりました。もう少し報告書までのときには工夫させていただきたいと思います。
 富永先生、どうぞ。

【富永委員】 morbidityが適当な日本語訳がないかということですけど、死亡率、mortalityの方はすっきりしていていいのですけど、morbidityになりますと、今、事務局の松田補佐や新田委員が言われていましたように、morbidityというのは、有病率というとある時点での有病者の率、ポイントプレバランスとでも言いましょうか。罹患率というのは、一定期間に何例発生したかということが問題になりますね、時間の概念が入ります。だから、両方を合わせてmorbidityと言っているのですね。英語でもそうです。ですから、morbidityにはぴたっとした和訳がありませんので、有病率と罹患率をあわせたような指標だと見たらいいじゃないかと思いますが。

【内山委員長】 よろしいですか。そこは報告書のときは少し工夫させていただきたいと思いますが、そのほかいかがでしょうか。
 椿先生、どうぞ。

【椿委員】 どういう情報をもとにいろいろな閾値の考え方が出てきているか、閾値が出ないということ、あるいは基準をどうするかというようなことが出たかということについては非常によくわかって、また一方でエビデンスに基づいて一応議論したということになっております。
先ほど、この濃度と反応の関数については、若干テクニカルになりますけど、対数線形のカーブを使ったとのことでした。実際に今回の前半のご説明にもありました三つの資料を通して出てきているPopeの研究というのは、微妙な話ですけど対数線形というよりは対数加法という、割と最近のモデリングを行っている。その結果、何が起きているかというと、非常に濃度の低いところというのは、ごくわずかの地域のデータによってすべての結論が左右されるという、事実上その部分は、変な言い方ですけど、2点をつなぐような形で統計の方法を使いながらそういうような形になっており、したがって、信頼区間で不確実性が非常に広くなってしまった。この原因は、先ほどいろいろ専門的なご議論あったようですけれども、肺がん死というのが非常に著しい落ち方を、ごく低濃度の地域のために落ちてしまって、それでは非常に不確実性が出るということで、これ、むしろ全死のところもそういう傾向が出ているわけですけれども、ただ、これは私もちろん自分でデータをいじったわけではないので確定的なことは申し上げられませんけど、この部分の影響というのが非常に全体の解析も引っ張ったのであろうということが考えられます。
 したがって、結論としては、米国の方でおっしゃっている15μg/m3以下のところというものの不確実性から来る、いろいろな判断のあいまいさというのが出てくる、それが12μg/m3や15μg/m3になるということはそのとおりかと思うのですけれども、一方で、この種の統計のモデルでエビデンスに基づいて判断を下したということであるならば、非常に低濃度の、米国なりに、この今回の都市地域以外、都市の調査になったところ以外の低濃度の部分、領域というのは非常にあるであろうし、あるいは、低濃度であることが予想される厳密な計測値があれば非常に結構なことかと思いますけど、低濃度であることが予想されるような地域において、この種の全死に当たるようなエンドポイントがどういう状況であるかという、このモデルが再現しているかどうかというようなことに関しては、米国の中でも議論あってしかるべきではないかなというように思います。
 これ、担当の方々は非常にセンシティビティーアナリシスも含めていろいろな検討を、多様な検討をしていただいているので、恐らくそういうことについてもある程度考えていらっしゃるのではないかというように推察するところですけれども、何かこの種のモデルが現時点での再現性に関する何らかの情報というようなものがあれば大変ありがたいなというように思うところです。

【内山委員長】 何か、新田先生、いかがでしょうか。

【新田委員】 まず、疫学的なエビデンスがかなり低濃度領域でACSスタディー以外に明確なものがあるかというと、非常に少ないというように言えると思います。このほかにも重要な長期のコホート調査はございますが、ACS研究がカバーしているような、10μg/m3以下も含むような部分の疫学調査は非常に、特に長期の信頼性の高いと言われているものは非常に少ないと。少ないと申し上げますか、ここで参考にできるようなものはなかったということかと思います。
 ですから、すべて、やはりACS、一部ハーバードの6都市調査を参照としながら、データとしてはそれのみに基づいて、もしくは、その二つの調査に基づいた範囲の中でいろんな感度分析等を行われているというのが現状かと思います。

【内山委員長】 そのほかによろしいでしょうか。
 関澤先生、どうぞ。

【関澤委員】 ちょっと先走った議論になるかも、これから多分議論されると思うのですけれども、幾つかの不確実性について指摘があって、また、今、椿先生が低用量でのデータの問題については触れられたのですが、例えば肺がんといった場合に、アメリカでは減りつつあって日本ではまだ増えているといった場合に、日本での調査はもちろん交絡要因としてたばこについて十分検討されているとは思うのですけど、地域による生活習慣の違い、それから、日本とアメリカでは湿度も違うとか、いろいろ測定データの取り方の違いということを言っておられるのですが、このアメリカやWHOのデータを私たちが参照していくときに、その辺のデータの不確実性の扱いについて、今回WHOあるいはEPAでお聞きになって疫学的なデータを使って、日本にあてはめて考えるときに、どういうように考えたらいいかというようなことで何かサジェスチョンがあったら、ご報告された方の中でいただけないかなと思うのですけど。喫煙を含む生活習慣など国によって事情が違うはずであり、インパクトの前に科学的なデータとしても、扱いの上で不確実性を非常に大きく左右する問題がそこら辺にあるのではないかなと思いながらお聞きしていたのですけど。

【内山委員長】 どなたか。

【新田委員】 ご指摘のように、これから本検討会で考えなきゃいけない一番大きな宿題の一つかと思います。いずれにしても、米国それからWHOで採用されているような、というか、重視されているような長期の疫学、長期のコホート調査に基づく疫学的な知見を最も重視して、定量的なリスクを評価するという場合には、いずれにしても少数の調査に基づくということになろうかと思います。ですから、我が国の調査結果をどのように解釈するかにしても、ACSを採用するにしても、日本の調査結果も含めて総合的に判断するにしても、今ご指摘の点が一番重要かと認識はしています。ただ、ちょっと現時点でこのような考え方に基づいてこうすべきという、ちょっと明確に、私、個人的にも答えを残念ながら持っておりません。

【内山委員長】 わかりました。これは、これからまた議論していくことだろうと思いますので、宿題ということにさせていただきたいと思いますが、そのほかに何かございますか。
 富永先生、どうぞ。

【富永委員】 今回の専門委員会では、WHOあるいはアメリカなどでの微小粒子状物質のリスク評価に関する評価手法についての報告・検討があったわけですけれども、WHOの報告、資料1-1、それから、米国EPAの報告、資料2-1の両方の目次を見ますと、内容もそうですけど、随所に不確実性が出てまいります。数種類の不確実性がありますけれども、私が見るところ、いろんな不確実性の中で大変厄介な、取り扱いが難しい不確実性は、共存汚染物質に関連する不確実性ですね。WHOだと、4.4.2のところにそれが出ております。本文にも出ております。それから、EPAの方でもやはり共存汚染物質の影響、これが3.3.2のところに出ております。
 それで、これについて、WHOの資料1-1の15ページの4.4.2共存汚染物質に関連する不確実性のところの2行から3行目にかけて「汚染物質混合物の指標としてPMを使用することは妥当であるが、過小評価になる可能性がある。」というように書いてありますけれども、私は、これは過小評価だけじゃなくて過大評価にもなり得ると思います。例えば、数名が一緒にグループになって走っているとすると、だれか1人が、つまりPM2.5が後の人を引っ張っている、後の人がぶら下がっていてブレーキになっている場合には過小評価かもしれませんけど、ほかの人に背中を押してもらっている可能性もあり得るのですね。ですから、これは過小評価になる可能性だけじゃなくて、過大評価になる可能性もあると私は思っています。
 それから、米国EPAの報告の方では、まず、最初から行きますと、些細なことですけど、6ページから7ページにかけて、拡張ACS研究ではこういうことが考慮されているので、より信頼し得るデータではないかというところで、[3][4]のところに職業曝露とかあるいは食べ物のことが書いてあるのですけど、総死亡にしましても、肺がんにしましても喫煙、たばこのことが全く触れてないのは信じられないことでございまして、多分英文から和訳するときにそこが省略されたか何かではないかと思っております。大変重要な因子であります。共存じゃなくて、交絡因子のようなものですね。
 それから、同じEPAの10ページのところの上から4行目からです。「綿密に計画された研究であっても共存汚染物質による潜在的交絡は依然としてきわめて難しい検討課題である。」ということでございまして、私も全く同感だと思っております。
とはいえ、14ページに行きますと、これはリスク削減予測モデルですから、それが必ずしもぴったり当てはまりませんけど、ここには14ページには対数線形型のモデルが、多変量解析モデルが示されておりまして、下から6行目からの3行ですね。「濃度-反応関数は、統計モデルの不確実性、単一都市モデルと多都市モデルに関する不確実性、共存汚染物質に関する不確実性、時系列研究におけるラグの不確実性に対応するため、感度分析が実施されている」。これは、不確実性に対応するためにこのような感度分析が実施されているだけで、これで不確実性が除去されるわけではないと思っています。
 そういうことで、今日は、私の感想としましては、WHOもEPAもいずれも我が国で、特に私らが関係している我が国の疫学調査で抱えている共存汚染物質による影響をどうするかということ、これをやっぱり、みんな認識しているようで明解な答えはありませんけれども、やっぱり頭痛として残るなということが今日わかりました。

【内山委員長】 ありがとうございました。前回の4月にまとめた報告書でも共存汚染物質のことを随分不確実性として挙げておりますけれども、またこれも、これからいろいろ議論していただいて、なるべくそこは少しでも不確実性が減るように議論していただきたいと思いますが、そのほかにございますでしょうか。
 どうぞ。

【佐藤(俊)委員】 先ほど新田委員からEPAとカリフォルニアEPAの基準値で、EPAの方は15μg/m3ですか、年平均値の基準で、カリフォルニア州では12μg/m3を採用したことについて、EPAの方でもどちらも年平均値の基準としては挙げているということで、確かに三通りの組み合わせを提案していました。スタッフ・ペーパーでは年平均値と24時間値の組み合わせとして三通りのものを提案されているのですけれども、これは何らかのリスクの指標が大体同じような値になる組み合わせとして提示されているのでしょうか。

【新田委員】 ちょっと詳細、今ちょっと細かくご説明できませんが、事務局の方から説明がありましたようなリスク削減予測による影響度評価の中で、その三通りの組み合わせについてそれぞれリスクを評価して、その中から組み合わせとして三つを選び出しているということで、ちょっと正確にその三つが同じ最終的な死亡リスクの削減効果になっていたかどうか、ちょっと今確認できませんけれども、考え方としてはそのような方向でというように理解しております。

【佐藤(俊)委員】 多分いろいろな年平均値と24時間値の組み合わせで、同じような削減効果を与えるようなものというのはたくさんあると思うのですけれども、そういったことのうちのどれを選ぶかということの基準も決めておくのがちょっと重要じゃないかなというように思いました。

【内山委員長】 よろしいでしょうか。
 香川先生、どうぞ。

【香川委員】 余り重要なことじゃないので、ちょっとくだらないことですが、EPAの報告の中にしばしば出てくるのが、EPAスタッフはどうの、それでEPA長官はと、二つ出てきますよね。これ、使い分けはどうなるのでしょう。EPA長官というのは、議員さんですよね。違いますか。

【白石局長】 議員というか、閣僚のような。

【香川委員】 ええ。ですから、専門家じゃないですよね。だから、ここでEPA長官はこういうように決めたとか、EPAスタッフはこうだと。何かその辺どうなっているのか。

【内山委員長】 新田委員、よろしいですか。

【新田委員】 私の理解は、スタッフ・ペーパーというドキュメントには、スタッフがこう考えたと、こう結論づけるとか、こうリコメンドするというようなものを引用している場合には、この資料で「スタッフが」と書かれているかと思います。それから、一番基本的な文書のFederal Registerは、基本的には「EPA長官が」という主語でほとんどのドキュメントが書かれておりますので、Federal Registerの内容を引用した場合に、「EPA長官は」という主語でこの本日の資料2-1というようなものが記述それから要約されているというように理解しております。

【香川委員】 実際はだれが判断しているのですか、EPA長官が判断しているわけじゃないですよね。

【新田委員】 それも質問をいたしました。EPA長官とその周辺のブレーンですね、それが協議してアメリカは最終的にはEPA長官が全部責任を持ってそういう表現をするということでした。
 それから、スタッフというところは、判断はかなり多数の人数の疫学の専門家を含む合議でこういうドキュメントを作成しているというように聞いております。

【内山委員長】 よろしいでしょうか。
 関澤先生。

【関澤委員】 今の香川委員のご質問について、日本とアメリカで、大分違いがあるかなと思います。私は、前、WHOの化学物質リスク評価のプログラムにずっと携わっていたのですけど、そのとき一緒に仕事をしていたアメリカのEPAの方がその後長官になったと、私のところに知らせてきてくれました。アメリカの環境保護庁では、専門家でないと昇進できないというか、上に立てないという話を聞いたのですね。日本ではおっしゃるように議員であって全然専門家でない方が環境省の大臣になっておられますけれども、その辺はかなり違いがあるかなと思います。米国では、専門家の方が組織をリードしていらっしゃるという面が強いかなと思います。

【香川委員】 必ずしもそうじゃない、議員さんがなっている場合もある。必ず専門家じゃないと思います。

【白石局長】 ポリティカルアポインティーでございますので、どのような者がなるかというのはそのときの状況によります。議員内閣制でありませんので、下院議員あるいは上院議員がなるとは限りません。なることは排除されていないと思いますが、通常は議員でない者が政治任命で大統領が任命する。多くの場合は何らかの専門家でしょうし、ポリティカルアポインティーでコンファメーションヒアリングがあるレベルではないと思うのですけれども、やはりいろいろな方からの批判にさらされますので、全くの素人の方がなることはないと思います。

【内山委員長】 ありがとうございました。ここでともかく「EPA長官が」と書いてあるところは、Federal Register、最終決定の文書を引用しているところ、それから「スタッフが」と書いてあるところはスタッフ・ペーパーから引用しているところというように考えていただければいいと思います。

【横山委員】 要するに、日本の場合は、環境基本法で政府が決めるものとなっているわけです。アメリカは、クリーンエアアクトでEPA長官が最終的に判断するとなっているだけであって、実態は要するに政府ということだと僕は思いますよ。

【内山委員長】 Federal Registerでの文書ということでよろしいですね。フェデラルとして認められた公式文書からの引用ということでよろしいかと思います。
 それでは、次に行きたいと思いますが、よろしいでしょうか。
 最後に、欧州委員会の手法につきまして、先ほどもちょっと申し上げましたようにヒアリングには行かれなかったようですが、多少、今申し上げたWHOそれからEPAとは違ったところもあるようですので、簡単にご説明を事務局からお願いしたいと思います。

【松田補佐】 それでは、欧州委員会の評価手法について申し上げます。資料は参考資料4で、欧州委員会指令案の策定プロセスということでご説明をします。
 基本的には、この資料は、ほかのものと比べて評価手法という部分について、特に今文書でしっかり把握できているという部分が、欧州委員会の指令案までの内容ということですので、実際には欧州委員会の指令案が出た後にいろいろと欧州議会・欧州理事会でもいろいろ議論があって決められている部分もあるのですが、ちょっとそこは割愛をして欧州委員会の指令案の策定プロセスを中心にして資料をつくっております。
 最初に、1番目の環境目標値の設定の動向については、前回の専門委員会の会議資料でもお示しをしておりますが、この中で、特に基本的には、EUは1.1の環境基準の位置づけの中の二つ目ですけれども、環境政策の策定にあたって、科学的・技術的データ、共同体の様々な地域における環境条件に加えて、措置の潜在的便益および費用、共同体の経済的社会的発展について考慮すべきということが条約上決められている。
 その三つ目のところです。EUにおいては、重要な法令の提案・政策提案についてはインパクト評価を行うこととされており、大気質指令の改定提案において、健康影響評価、大気質評価に加えて、規制の実施によるインパクト評価――これはコスト・ベネフィット分析も含むということですが、これが実施されているということです。
 基準の内容について、EUは実際に環境目標値的なものとしては限界値が定められているということで前回ご説明しましたが、そのほかにも曝露削減目標と、あとは曝露濃度義務ということでそれぞれ決められています。欧州委員会の指令案としては、この限界値と曝露削減目標までの提案を欧州委員会の指令として出したということで、その内容について簡単にご説明します。基本的には5ページ目からということです。
 それで、欧州委員会の中でCAFEというプログラムのレビューを行うために、ワーキンググループをつくって、その中で健康影響評価とあわせて大気質評価や達成可能性も考慮して、ひとまずワーキンググループで評価を行っているということでございます。
 健康影響評価については2.1.1に書いておりますが、このCAFEプログラムの実施に際して、EUはWHOが実施した科学的なレビュー、健康影響に関するレビュー情報をもとにして基準案の根拠として挙げておりまして、その中で短期(24時間)と長期(年平均)の目標値が設定される必要がある。
 限界値の選定については疫学研究で導かれる健康影響に関する濃度-反応関係に基づくべきである。
 疫学研究は時系列研究、コホート研究がありますが、時系列研究は長期曝露の慢性影響を評価しないことから、基準値の提案についてはコホート研究に基づくものとする。コホート研究でも、特に長期的平均死亡との関係でその時点で行われた最大規模のコホート研究のACS研究を重視する。
PM2.5曝露と死亡との関係について閾値が存在するという証拠が不明確であるため、延長ACS研究で観測された最低濃度近辺の値、12μg/m3から20μg/m3というのを提案するということで示しております。
なお、結果としては基準値にはなっていないのですが、短期目標値についても24時間値の年間の頻度分布、これは年間の限界値から見て、それを頻度分布に換算をしたら20μg/m3から35μg/m3ということではないかなと思いますが、これが限界値のたたき台として望ましいというようにされております。
それで、濃度レベルに関する勧告ということは2.1.2で書かれております。この中では、ワーキングの評価では、長期曝露の影響のACS研究では10μg/m3の数値以下でもリスクが認められるということで、PM2.5は最低レベルの曝露濃度が下がっても濃度-反応関係が変わらないというWHOの助言を踏まえて、まずは最低レベルまで微小粒子の曝露削減を実施することが望ましいと結論づけております。ただ、ワーキンググループは限界値を実際に制定する際には、現行の濃度レベル、バックグラウンド濃度、微小粒子濃度の変化傾向等の大気質情報や達成可能性等も考慮する必要があるというようにされています。また、限界値は20を可能な限り超過するべきではないと結論づけています。最終的には、このレベルの達成可能性を考慮しなくてはならず、ワーキングでは一つの粒子状物質濃度のレベルを目標値としてではなくて、12μg/m3から20μg/m3というものをインパクト評価に使用すべきだというようにしております。
次に、インパクト評価の部分ですが、これは排出・大気の輸送・人間の健康・大気汚染の環境への影響に関する知見をもとに、施策の効果を金銭に換算して評価をするものである。これを別添に示すRAINSモデルというモデルをもって、いろんな統合、図1に示すようなRAINSモデルやコスト・ベネフィット分析も含めた形で総合的にアセスメントをして評価をしているということですが、その手法自体は、達成すべき長期目標値について追加的な施策を今後講じないというベースラインと、それとその一方で費用を全く考慮せずに技術的に実行可能最大限の低減を図るシナリオ、MTFRというのですが、こういう両極、二つの極端なシナリオをつくって、その中に技術的に実行可能な低減施策を講じた複数の、三つのシナリオの結果の比較の検討を行っている。その上で、コスト・ベネフィット分析に基づいて暫定的な目標が決められています。
EUのコスト・ベネフィット分析につきましては、2.2.3の方に書かれていますが、基本的にはベースラインと比較した場合の余命損失の減少を医療費等で換算した費用をベネフィットとして、政策の実施による費用をコストとして見ているということでございます。
それで、ちょっと資料が長くて恐縮ですけども、このコスト・ベネフィット分析に当たっては、PM2.5の影響だけではなくて、2.2.4の8ページにも書かれておりますが、粒子状物質だけでなくてオゾンによる健康影響、または酸性雨による環境への影響とか、あとは富栄養化、これは恐らく大気汚染物質の中に窒素なんかが入っていて、それが水に入ると富栄養化という部分だと思いますが、そういった自然環境への影響というのもあわせて考慮して、その上で実行可能な、先ほど言った実行可能な最大削減を行うシナリオや、三つの異なる削減シナリオを提示して、効果的な施策内容が検討されていると、こういうことでございます。
結果としては、分析結果でこちらの方にコスト・ベネフィットの結果がAやBやCということで、その間を選ぶとどういうようになるのかという過程を書いているのですけれども、2.2.5の大気質指令提案の検討の中で、ここでインパクト評価の結果というようにあるのですが、結果的には、先ほど言いました三つのシナリオの中から、主に2000年に比べて2020年までに排出量としてSO2が82%、NOxが60%、VOCが51%、一次発生粒子59%の排出抑制を行うようなシナリオが最適である。これは三つのうちのシナリオのどれかということではなくて、さらにそれの折衷をしたものだということですが、これが2000年に比べると大気汚染物質の排出量をこれだけ減少させれば、PM2.5濃度が2010年に約20%削減できること。こういった排出抑制施策をとることによって、粒子状物質の曝露による余命の短縮が結果として可能となると、こういうことでインパクト評価がされている。こういった健康影響評価とインパクト評価を踏まえて、結果として指令案として曝露削減の目標を20%減少する。あとは濃度上限値を25μg/m3というようにすると、こういう指令案を作成したということでございます。
その後は、この欧州委員会指令案については、欧州議会・理事会に提示されて、さまざまな議論が長期間にわたる議論で、いろいろな修正なども経て最終的にはここの1番に示される濃度、限界値及び曝露削減目標と曝露濃度義務ということで決定されたということでございます。
以上、今までのEPAやWHOなどとちょっと異なりまして、インパクト評価も考慮して、どうもPM2.5についての目標というのを決めているようだということで、ほかの機関とは少し違うようだということをかいつまんでご説明いたしました。

【内山委員長】 ありがとうございました。
 何かご意見、ご質問ございますでしょうか。
 加藤先生。

【加藤委員】 質問ではなくてコメントですけども、EUの場合にはPM2.5の大気質基準ですね。限界値あるいは曝露削減目標等を決めるのに当たって、この大気質指令の枠内だけでなくてほかの酸性雨対策ですとか、ほかの環境保全対策、大気質に関連した対策を含めて統合的に評価をして、そして、それの中での最適化を図るというような方法で決まったものというように理解しました。ということで、多分、アメリカとかWHOとはそういう意味でも、一つの政策領域だけでなくて複数政策領域をカバーして考えているという意味でも違うというように思います。

【内山委員長】 ですから、単純にPM2.5なりだけの値を比較すると、ちょっと解釈が違ってくるというような感じでしょうか。

【加藤委員】 ですから、結局、健康影響の評価でレビューした結果の中でどれが最終的な基準値に使われているかというと、基本的には、エビデンスももちろん考慮されている、わけですけれども、もう一方でエビデンスの中での濃度-反応関係がインパクト評価の中に持ち込まれて、そちらの方での計算結果というのも最終的には考慮の対象になっているということだと思います。

【内山委員長】 ありがとうございます。そのほかにいかがでしょうか。
 これは、EU各国はこの値を使わなくても、WHOの対応を採用しても、それは構わないのですか。うちはこれで、WHOの値を採用してもっと厳しくするというところも出てくる可能性はあるのですか。

【加藤委員】 今のEUのご説明いただいた資料の最初のところにありますように、より厳しいものは決められる、環境基準として。ですけれども緩くはできないということで、ですから、スウェーデンでしたか、オランダでしたか――スウェーデンだったと思いますけど、EUよりも厳しい数値を採用するというように聞いています。

【内山委員長】 ありがとうございました。
 そのほかにいかがでしょうか。富永先生、どうぞ。

【富永委員】 先ほど共存汚染物質のことで、不確実性について頭痛の種を紹介しましたけれども、先ほどの参考資料4の6ページにRAINSモデルが出ておりまして、これの統合アセスメントモデルの詳細が参考資料4の別添として一枚紙で出ておりますね。この一枚紙を見ますと、SO2、NO2とかVOC、あるいはPMなどがそれぞれ排出されて、これを削減するわけですけれども、このようなフローチャートの考え方で見ると、実際にはPM2.5だけではなくて、いろいろ、ほぼ同じような増え方、減り方をすると思いますけど、これで一番右側、PM population exposureになっておりまして、その左側、Primary PM dispersion、その上がSecondary aerosols、これらのほかのガス状物質から凝集する形でできるものですけど、これがあわさって全体になりますので、対策の面から考えると、共存汚染物質は複雑に絡み合っていても、これで何とかいけるのではなかろうかというように思いました。

【内山委員長】 これはどうでしょうか。影響だけではなくて、排出源のコントロールの可能性とコストでのバランスですので、共存汚染物質の健康影響ということが不確実性を考慮しているかというと、ちょっと違うかなという感じがするのです。結果として……。

【富永委員】 それは関係ないと思うのです。だけど、あと不確実性があって共存汚染物質とPM2.5がごちゃごちゃになって影響していようと、対策でこれを全部やっつけてしまえば、あるいはPM2.5の基質になるような凝集物質もコントロールしてしまえば、一括して対策が立てられるので、こういう考え方で対応すれば疫学的に非常に難しい問題があっても、避けて通れるのではないか、そこの不確実でわからないところは飛び越していけるのではなかろうかというように思ったわけです。

【内山委員長】 これも、じゃあ、少しその考え方等もまた議論させていただきたいと思いますが、そのほかにいかがでしょうか。

(なし)

【内山委員長】 それでは、大体ご意見も出たようですし、時間にもなりましたので、今日、事務局あるいは同行していただいた委員の方からご報告いただいた事項につきまして、ご議論のあったところ、それから、一つ、二つご説明いただいた点に対してのご質問あるいは不明な点もございましたので、それらに関して今後の評価作業に反映させるとともに、また随時ご報告させていただきたいというように思いますが、よろしいでしょうか。
(了承)

【内山委員長】 それでは、議題(2)のその他でございますけれども、これは一つ、私の方からちょっと提案させていただきたいと思います。
 今日、欧米のリスクの評価手法につきまして示していただきました。今後、今日のご議論を踏まえまして、これらの評価手法やそれから国内外の科学的知見を踏まえて、このリスク評価手法に関する検討作業を行っていくことになろうかと思います。
 この作業につきましては、検討事項ごとに主要な論点整理を行うとともに、欧米の解析手法あるいは適切な解析手法の検討を行うことを予定しておりますけれども、この作業については、非常に専門的な見地からということと、実務的な作業が伴うということで、この全体会議で全部をご議論いただくということには非常に時間がかかると思いますので、本リスク評価手法専門委員会の設置についてということで、参考資料2に今日はお示ししておりますけれども、その中の運営方針というところで、「必要に応じて作業会合を開催して実務的な検討作業を行わせる」ということがございます。それで、今回、その作業会合をつくって、そこで少し実務的な検討作業を行っていただいて、本委員会にご報告いただいて、またそこで議論いただくという形にしたいと思いますが、よろしゅうございますでしょうか。
ご異論なければ、作業会合に参画いただくメンバーは、僭越ですが、私の方からご指名させていただきたいと思います。それで、まず、現地調査にご参画いただいた加藤委員それから武林委員、新田委員はまず参加していただいて、その他に統計の佐藤俊哉委員、それから三府県コホート等でもご尽力いただきました祖父江委員、それから曝露評価ということで田邊委員という、この6人の先生方にお願いしたいと思いますが、よろしいでしょうか。先生方も11月まで――最初この会合は11月ぐらいまでにまとめたいということで進んでおりますので、非常にまたタイトなお仕事になると思いますけれども、是非お願いしたいと思いますが、よろしゅうございますでしょうか。

(了承)

【内山委員長】 ありがとうございます。
 それでは、今日の議題、今日議論いただいたことも含めまして、今後その作業会合において、欧米の評価手法あるいは国内外の知見を踏まえた検討事項に係る資料作成をお願いして、次回以降の委員会にお示しいただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
 あと、そのほか事務局、何かございますでしょうか。

【岡部課長】 本日は、皆様、長時間にわたりましてご審議どうもありがとうございました。本日の議事要旨それから議事録につきましては、各委員にご確認をいただいた上で公開の扱いにさせていただきます。
 次回の専門委員会の日程につきまして申し上げます。10月3日の午後2時から行うということでお願いしたいと思っております。次回の委員会におきましては、本日の議論も踏まえて、さらに三府県コホート調査の報告も含めた国内外の知見のご紹介と、それから検討事項に関する議論ということでお願いしたいと考えております。
 以上でございます。

【内山委員長】 はい。それでは、その他に特に委員の方からもございませんでしたら、今日の会議をこれで終了したいと思います。よろしいでしょうか。
 どうもありがとうございました。