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中央環境審議会土壌農薬部会土壌専門委員会(第5回)議事録


  1. 日  時  平成12年6月7日(水)14:00~16:50

  2. 場  所  通商産業省別館第905号会議室(9階)

  3. 出席者

    (1)委員
    林 裕造
    山口梅太郎
    土屋 隆夫
    松久 幸敬
     委員長
     特別委員
     専門委員
     専門委員

      上沢 正志
      中杉 修身
      松本 聡

     専門委員
     専門委員
     専門委員

      駒井 武
      増島 博
      山本 出

     専門委員
     専門委員
     専門委員
      (櫻井 治彦 委員黒川 雄二 専門委員武田 信生 専門委員 豊田 正武 専門委員森田 昌敏 専門委員は欠席)

    (2)事務局
    遠藤 保雄
    長尾梅太郎
    西尾 健
    岩田 元一
     水質保全局長
     水質保全局企画課長
     水質保全局土壌農薬課長
     水質保全局地下水・地盤環境室長 他

  4. 議  題

    (1)土壌中の硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素について
    (2)土壌中のふっ素及びほう素について
    (3)その他

  5. 配付資料

    資料5-1中央環境審議会土壌農薬部会土壌専門委員会(第4回)議事要旨
    資料5-2中央環境審議会土壌農薬部会土壌専門委員会(第4回)議事録(案)
    資料5-3硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の評価に係る技術的検討課題
    -土壌中の硝酸性窒素の挙動の把握について-
    資料5-4硝酸性窒素の溶脱量の予測について(上沢委員)
    資料5-5土壌中のふっ素及びほう素に係る文献調査(中間報告)(松久委員)
    資料5-6人為的なふっ素及びほう素の土壌環境への投入状況(中間報告)(駒井委員)
    資料5-7土壌中のふっ素及びほう素に係る追加調査結果
    (参考資料)
    参考資料5-1土壌中の硝酸性窒素に係る収集文献一覧
    参考資料5-2中央環境審議会水質部会排水規制専門委員会(第4回)配布資料

  6. 議  事

    【事務局】 ただいまから中央環境審議会土壌農薬部会土壌専門部会の第5回を開催する。まず、資料を御確認いただきたい。(配付資料の確認)
     それでは、林委員長に議事進行をお願いする。

    【林委員長】 議事次第に従い議事を進める。
     まず、前回の議事録の確認について、事務局からお願いする。

    【事務局】 資料5-1の議事要旨と5-2の議事録(案)について説明する。5-1の議事要旨については、公開取扱要領に従い、まず事務局で会議の内容を議事要旨及び議事録(案)として調整し、既に林委員長の御了解をいただいている。資料5-2の議事録(案)については第4回の専門委員会出席委員の御確認をいただいているところだが、まだ最終的に御確認をいただけていない部分があるため、後日確認をいただいた後に氏名を伏せて公開資料とする。

    【林委員長】 では資料5-2については、本日、もし御確認が可能であれば、後ほど事務局に御連絡いただきたい。
     では次に、本題に入る。最初の議題は硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素である。事務局からまず資料5-3を、次に上沢委員から資料5-4を説明していただく。

    【事務局】 それでは、資料5-3に基づき説明を行う。(資料5-3の説明)

    【林委員長】 引き続き上沢委員にお願いする。

    【上沢委員】 今回は中間報告とさせていただく。また、本資料で扱われているものは、すべて畑の状態ということが前提である。もう一つの前提としては、上から下への一次元的なモデルということである。(資料5-4の説明)

    【林委員長】 初めに資料5-4の上沢委員の御説明に対して御意見をいただき、その後で5-3の方に御意見をいただきたい。まず資料の5-4について何か御意見、御質問はあるか。

    【A委員】 5-4のモデルは、どのような前提条件で、土壌への窒素の供給について考えているのか。経常的な供給があるところでの挙動として考えているのか、一度に投入された場合の挙動についてのモデルなのか。土壌環境基準を考える際、どのようなとらえ方であるかという点が非常に重要なポイントとなると思う。ここで委員に御紹介いただいた1、2、3というのは、どういうことと解釈したらよろしいか。

    【上沢委員】 1については、5つの仮定の中の2項目に書いてある。ここは土壌中の窒素はかなり変動するのだが、毎年のある期間ごとを比較すると、比較的一定の値と仮定している。一定の値とは、供給の方が一定でなければ、一定の値になることは多分起こらないと思われるので、供給もほぼ安定している条件のところで得られた考え方である。
     2の数理モデルも、様々あるが、ある時期に間違って10倍量入れた/廃棄したというようなところを、特に対象としているのではない。
     3については、マサチューセッツ州ウェブスターのトウモロコシ畑でのモデルである。これも年間を通して見ると、供給量は一定であるところで出されたものである。例えば5月の降雨量とあるが、多分4月ごろに投入して、作物が小さいために、蒸散や作物による窒素の吸収が非常に小さいというような状況下で得られたモデルである。ウエブスターでの降水パターンなども関連して5月の降雨量だけを取りあげ、このような単純な式でいいということなのだろう。そのような状況で1年、2年と投入していくと、非常にコンスタントな状況と言えるところで得られたデータやモデルになるということである。

    【林委員長】 ほかに御質問はあるか。

    【B委員】 非常にファクターが多く、これを全部考えてやるというのは大変だろう。そのため、まずは第一近似で問題の8割程度の押さえられるところだけで攻めていくのはいかがか。その場合には硝酸性窒素の動きだけに注目する。硝酸性窒素が土壌を上から下へ浸透して地下水の方へ入っても、薄められて水質の環境基準以下になることが、本当はあるのかもしれない。しかし、そういったことは別として、ある程度以上に土壌カラムから硝酸性窒素が出るのであれば、規制等を考えるという立場に立つということである。
     このモデルについて伺いたい。ある土壌について、硝酸性窒素を投入した場合に、もちろんそれは水の量、投入した硝酸性窒素の量、温度等様々な条件があると思うが、その土の硝酸性窒素のホールディング・キャパシティといったものをコンスタントとしてつかまえることができるのだろうか。もしそういうコンスタントがあれば、いろいろな土壌について、もちろん連続的であるから、いくつかに分類し、そのコンスタントを見る。このようなコンスタントを持っている土壌は、例えば年間平均降雨量のもとでこのくらい窒素が出るから、これ以上硝酸性窒素は土の中にあってはいけないとか、何かそういう考え方で追いかけていくことができないのだろうか。つまり、ちょうどカラムクロマトグラフィーのときのカラムにホールディング・キャパシティがあるといったような一つのコンスタントをまずつかまえることができないだろうか。

    【C委員】 カラムクロマトグラフィーと土壌は、吸着/脱着では非常によく似た性質がある。ただ、アニオンに関しては非常に置換容量が低い。一般に、カチオン置換容量(CEC)に対して、アニオン置換容量(AEC)は、土壌の場合非常に小さい。そのため、硝酸イオンに関しては、ほとんど水と同じような挙動をしている。乱暴な言い方をすれば、挙動はほとんど透水係数で決まってしまうことになる。そのため、非常に粘質の土壌、すなわちAECが比較的大きな土壌でもゆっくりと水とともに出てきて、その置換容量は低い。それから透水性の高い、例えば真砂土のような花崗岩粉石のようなところであれば、速やかに出てくる。硝酸イオンに関しては、土壌の吸着というのは余り考えなくてもよい。乱暴な言い方だが、必ず硝酸イオンは全量短時間で出ていくと考えている。

    【B委員】 透水係数をうまく使うという手段は何かないか。

    【C委員】 それにはいろいろな数理モデルがある。先ほど上沢委員が説明された数理モデルも、そのような種々の土壌物理から出てくる数理モデルがかなり厳密に表現されている。そのため、私は、土壌物理で使う数理モデルで話が進むのではないかと思う。

    【林委員長】 ほかに何か御意見はあるか。

    【上沢委員】 北海道大学の波多野先生が、先ほどB委員が指摘した、実際に農耕地の土壌から非常に大きな土壌カラムを切り出し、なるべく構造を壊さずに実験を行っている。それを用いてモデルを作ろうと10年間実験してきたのだが、結局微妙なところへくると、何をデータとして積み上げてきたのかよくわからなくなり、非常に困っているとのことである。つまり、10倍、100倍というところでの値についてはモデルはつくれるが、例えば2メートルのところで、果たして10メートルの数字を超えるかどうかという予測をして実験をした場合に、非常に難しく、方向転換をしなければいけないということであった。農水省のプロジェクトの研究会において、若い研究者が人工土壌でそのようなことをやってみようという提案した際、先生がそのような説明をされたことがある。

    【D委員】 私も、硝酸性窒素には、比較的土壌に吸着され溶脱されるというイメージがあった。しかし、容易に土壌から抜けるのであれば、もう一回考え直したい。

    【林委員長】 ほかに今の5-4の資料に質問はあるか。なければ、5-3の方に移り、また適宜5-4に戻らせていただく。
     では、資料5-3に入る。課題順に御意見をいただきたい。まず5-3の課題[1]について御意見はあるか。

    【A委員】 まず最初に、土壌環境基準とは何のために設定するのかという点を考えていく必要がある。従来の土壌環境基準は、大体は、対象物質が土壌に残留している、つまり土壌表層からの供給が全くない状態で、対象物質が地下水に与える影響、すなわちリスクを評価する。リスクがあれば、浄化の対策をする。どのレベルで対策を開始するかということと、浄化の目標をどうするかということで、一般には土壌環境基準、つまり望ましい状態としての運用が実際にされてきたのだろうと思う。C委員の話によると、硝酸性窒素の場合は、土壌表層からの供給を止めれば、途端に土壌の地下水への流出もなくなる。このような物質の土壌環境基準は、従来とは全然性格が違ってくる。そのため、従来と同様な設定の考え方でいくならば、土壌環境基準を設定する必要性についてもまず考える必要があると思う。つまり、ここで硝酸性窒素の土壌環境基準を設定したときに、その基準で次にどういうことをするのか。確かに望ましい状態を何かつくろうということだろう。例えば、施肥によって硝酸性窒素が望ましい土壌の状態を超えないための尺度として出すという意味では、もちろん土壌環境基準というものがある。しかし、そのあたりの考え方を最初に整理しなければ、従来と同様な考え方を単純に当てはめることは、困難だと思う。

    【林委員長】 ほかに御意見はあるか。

    【C委員】 A委員御意見のとおりである。

    【B委員】 硝酸性窒素だけに注目するということでいいのか。硝酸性窒素だけで、窒素の地下水への影響を押さえられるものか確認したいのだが、いかがだろうか。

    【C委員】 土壌への窒素の投入は、施肥として考えても、様々な形態で投入される。硝酸態窒素のほかにアンモニア態窒素、または堆肥という形で投入される有機態窒素がある。どのような格好で投入されるかで、土中の微生物が、アンモニア態窒素を硝酸態に転換するか、有機態窒素を硝酸態に転換するかが決まり、土壌微生物の作用が随分違う。土壌中でこのような窒素の転換をする微生物には、ニトロソーモナスとニトロバクターの2種類がある。この2種類の微生物は、アンモニア態窒素が継続的に土壌に施用されると、徐々に集積する性質を持っている。時間が経過するにつれて、アンモニア態から亜硝酸態/硝酸態への転換が非常に早くなる。これはそういう土壌微生物が窒素を集積するという現象で、随分昔から知られている。結果的に、畑地土壌では、どのような形態の窒素を投入した場合でも、最終的に土壌の下方からは硝酸態窒素として出てくる。しかし、アンモニア態として投入した場合は、硝酸態になるのは時間がかかるというのは大きな間違いである。アンモニア態を継続して投入した場合、極端な言い方をすると、投入してすぐに硝酸態に転換するくらいに土中微生物は集積している。私はこのことは問題だと考えている。

    【E委員】 今の問題に関連して、現在、水質部会の排水規制等専門委員会でも、硝酸性窒素の排水基準について検討している。そこで全く今と同様の、硝酸性窒素だけを考えればよいのかという問題が出た。これはまだ検討中の段階で、最終的にはどうなるか分からないが、水中のトータル窒素、全部の窒素で考えなければならないだろうという議論が出ている。
     では、土壌の場合どう考えるか。土壌の場合、トータル窒素でよいかという点については、疑問である。土壌有機物には非常に分解の遅いものがあるため、窒素の総量までは考える必要がないのではないか。水質の方でトータル窒素とは、水溶性窒素の総量である。土壌について考える場合も、水溶性窒素に加え、いわゆる中性塩溶液で出てくる窒素(不溶性のアンモニア及び水溶性窒素)くらいの範囲で考えるのが妥当なのではないかと、個人的には考えている。

    【林委員長】 指標を何にするかは別として、課題[1]でも、地下水への影響という観点から行うべきではないかとなっているが、その点についての御意見はあるか。

    【E委員】 それについては、全くこの提案のとおりだと思う。この前にダイオキシンで検討したときに、ダイオキシン類は大気と土壌との境界面の問題、大気に舞い上がったものを吸い込む、あるいは子供が土に手を触れるという意味で、深さ10cmまでを問題にした。今度は土壌と地下水面との境界面の問題であり、ダイオキシンの場合と位置がかなり異なるということがある。
     先ほど上沢委員が脱窒の問題について触れたが、これについて意見を申し上げたい。地下水面近くの脱窒をかなり評価する方としない方の両方がいる。これは実験条件が違うからであり、結局、脱窒する際には、脱窒する菌の基質として有機物が必要である。地下水面近くの深い土壌になると、脱窒菌の基質となる有機物が非常に不足しているため、深い土壌で実験した方は脱窒は全然ないと言う。有機物が供給される浅い条件で実験した方は、脱窒は大きいとしている。つまり、全然違うところで話をしているので、その辺は気をつけなければならないだろう。

    【林委員長】 では、課題[2]に移るが、何か御意見等あるか。

    【A委員】 ここで土壌からの溶脱という話があるが、これも先ほどから私が申し上げたような話から考えると、溶脱とは何かというと一時蓄積のまさに通過点である。C委員の話を引用すると、ほとんど通過しているだけである。だから、形式上は溶脱になるのだろうが、溶脱であれば単に供給を制御すれば良いという話になりかねない。そのため、土壌の溶脱について考え始めるときに、何を検討するのかという点がよくわからなくなってしまう感じがした。全評価手法も含めた考え方について整理し直した方がいいのではないか。例えば溶脱モデルについて、金属や農薬については、上沢委員の話にあった土壌の数理モデルで考えられるのだろうが、C委員の話にあった土中微生物による窒素の蓄積のようなものは同じように扱えるかについては、また別の話だと思う。そのような意味では、硝酸性窒素は由来が様々であるという点も含めて、どのように考えるのか。これは課題[2]の部分だけではなく、全体として、もう一つその前に議論があるのではないかと思う。

    【事務局】 今のA委員の御意見は、まさしく非常に大きな課題であるが、環境基準になるのか、あるいは基準までならないような目安といったものになるかという、その議論の方向をしていただかなければならないと思う。ただ、我々は、この溶脱について考えていく中で、確かに土壌中の硝酸性窒素濃度は下層にいくほど低くなるというが、地表で投入した窒素の量だけでは地下水の影響を評価できないのではないかと考えている。例えば植物への吸収、あるいは脱窒といった土壌中における窒素の挙動の結果として、最終的に溶脱という形で地下水への影響の要因となるものがが出てくる。必ずしも土壌に対する施肥量の観点だけから硝酸性窒素を比較することはできず、より直接的に施肥や作物栽培も含めた土壌管理のトータル的な結果として、溶脱という概念が一番使えるのではないかと考えている。

    【A委員】 まさにそのとおりだと思う。その際には、土壌環境基準との間でどうなるのかという話が起こってくる。確かにお話のとおりで、施肥管理のような話であれば、このような考え方で設定するのが当然だろうと思う。しかし、土壌環境基準について議論する際、どう評価していくかという話になると、溶脱とは何なんだろうかと。土壌の濃度が高くなってそこからどうなるという議論をしていったときには、本当にこの考え方でいいのだろうかと、もう一回整理し直す必要があると思う。

    【F委員】 やはり土壌環境基準には、蓄積性や残留性といったイメージが非常に強いが、この場合は、いわゆる挙動モデルである。溶脱モデルというよりは一般的に挙動モデルと言われているモデルを解いていっても、おそらく指標となるものが出てこないようという感じを受ける。とすれば、溶脱のいわゆる土壌カラム試験程度くらいしかイメージとして出てこないと思うが、その辺はどうだろうか。

    【林委員長】 上沢委員、何か御意見はあるか。

    【上沢委員】 もう少し議論した方がよろしいのではないか。

    【林委員長】 これらの課題はそれぞれ重複しているため、課題[3]の方に入らせていただくが、課題[3]について何か御意見はあるか。なければ、次の課題[4]の方も既に議論があったが、課題[3]及び[4]について何か御議論はあるか。

    【E委員】 課題[3]には時期の問題が書かれているが、施肥との関連があり、特定の時期というのはなかなか押さえられないと考えられる。環境基準ができるかどうかわからないが、もし環境基準を設定するならば、年間モニタリングを実施する場合に特定の時期を指定して行うことはまず考えられない。不特定の時期でもモニタリングはできる、そういうことを考えていかなければならない。
     先ほど申し上げたように、この問題は土壌水と硝酸性窒素と土壌の間には吸着は全くないということは今わかったのだが、そうすると硝酸を動かすドライビングフォースは水の動きだけだということになれば、土壌水とその下にある地下水、これはもう自由水である。土壌水と自由水での境界面での挙動をとらえるという意味からすれば、ちょうどダイオキシン類のときに下層は問題にしなかったように、硝酸性窒素の場合は表層はもう問題にしない。肥料をやっている部分は問題にしない。下層で基準をつくるということになれば、あるいは環境基準はできるのかなという感じである。

    【林委員長】 C委員、何か御意見はあるか。

    【C委員】 私も、今の考え方を支持する。

    【B委員】 先程来、勉強したことに積み重ねると、結局、透水性というか、水の通りやすさということが一番ファクターになってくるように思う。結局どのぐらい水が通りやすかったら危ないのか、あるいは危なくないのかという点で押さえられないだろうか。では、どのぐらい水が通りやすかったらば、どのぐらい危険かという目途を何で見るかということで、それは硝酸性窒素でもいいし、あるいは可溶性の窒素でもよい。有機態窒素は論外だろうと思う。それから通り抜けの仕方というのは水の量に関係するが、これはいったん地下水、あるいは地下のレザボア部分に入れば、そこで結局希釈されるなどするため、年間の平均降雨量あたりを考えればいいのではないか。水の通りやすさと可溶性の窒素、あるいは硝酸性窒素、その辺のところをつかんでいくのが比較的わかりやすいような気がする。また、議論が進むにつれて変わってくるかもしれないが。

    【林委員長】 ほかに御意見はあるか。

    【F委員】 今の話と関連して、私自身地下水モデルを扱っており、難しさはよくわかるのだが、今のB委員のお話でよろしいかと思う。その理由は、この地下水面という概念が非常に難しい。測定しても、おそらく1メートル、2メートルのばらつきが出る。これは降水量との関係もあるが、実際に間隙水圧とかポアプレッションを測定しても、地下水面がどこにあるかわからない場合が多いためである。加えて、地下水面より上にある部分は不飽和層と呼ばれており、このあたりの化学物質の挙動は、極めて難しいと言われている。したがって、そのような難しいモデルを扱っていくよりも、やはり涵養というか、降水量と施用量というくらいのファクターでまとめた方がよろしいかと思う。

    【林委員長】 他に何か御意見はあるか。(意見等なし)
     では次に、議題[5]について御質問、御意見はあるか。

    【A委員】 委員長に伺う。硝酸性窒素についても、影響は一応慢性と考えてよろしいか。

    【林委員長】 よい。

    【A委員】 そうすれば、溶脱の評価は当然年平均であるだろうから、季節変動は余り考慮しなくていい。ただ、季節的によって非常に著しいピークがあるならば、そのピークを外さないための配慮が必要になる。そうするとモニタリングのようなものをどの程度の間隔でやればよいかという点が問題になると思う。季節変動が全体量にあまりに影響を及ぼさないのであれば、季節変動というのは余り関係ない。しかし、非常に著しい変動があれば、その季節変動を考慮しないと年間の全体総雨量まで把握することが必要になってくる。その必要性を把握するため、どの程度まで季節変動を押さえなければならないかという議論になってくると思う。

    【C委員】 これはある特定地域に限ったことだが、茶畑における施肥窒素が通常の水田や畑に比べると十数倍になることが、近年私の所属する学会で非常に問題になっている。これは、茶の新芽に集中的にアミノ酸の窒素、アミノ酸態窒素を集積させ、茶の香りや味を上げるという、消費者を狙った施肥法が、現在の茶畑の施肥にあらわれている。降雨時期を逃すと、先ほどA委員の指摘した、鋭いピークが抹消される可能性があるので、私はこの時期は絶対に外さないでほしいと思う。

    【E委員】 現実的な対応として、そのピークを外さないというのは非常に難しい話になると思う。私が先ほど申したとおりに、下層土を問題にすれば、おそらくそのピークは徐々に下へ行く。ある深さのコアサンプルカラム全体を評価の対象にすれば、どこかでそのピークは把握できるため、そのサンプルの中にピークが入るということを考えてモニタリングの方法を組み立てていけば、時期の問題は余り微妙な問題にはならないのではないかと思う。ただし、これは地下水位がある程度深くないと成り立たない。

    【C委員】 溶脱がないし、表面流出がないという条件も非常に重要である。

    【B委員】 メトヘモグロビン血症というのは慢性ととらえるのか、それとも例えば硝酸性窒素濃度が2,3日非常に高かった場合でも出るものなのか。それによって少し話が変わってくる。

    【林委員長】 それについては、事務局の方で何かデータを示せないか。

    【A委員】 一応環境基準は年平均で評価すると思う。トータル量で年間。それも乳児が中心の影響であり、一生涯を見るわけではないだろう。多分急性毒性では見ていないのではないか。つまり環境基準の濃度を見るときに、最高濃度で見るのではなくて平均濃度で見る。そういう意味で、平均で評価する。慢性と言えるかどうかは別として、そのような考え方で良いのではないかと思う。

    【事務局】 A委員からのお話のとおり、メトヘモグロビン血症は、乳児期に硝酸性窒素を吸収した場合に出るが、離乳後はそれほど大きな影響は出ないと言われている。そういう意味では主に数カ月間のことを念頭に置いている。急性影響ではないので、環境基準も年平均値で10mg/lとしている。

    【林委員長】 急性の影響は高濃度の場合にはありうるが、こういう低濃度の場合は、急性については余り問題はない。メトヘモグロビン血症もわずかな影響が徐々に蓄積した結果なので、今の御説明のとおり、メトヘモグロビン血症の発現も、数カ月とか半年とか期間がかかるので、慢性といってよろしいのではないか。

    【B委員】 茶畑の場合は、ある時期だけ非常に大量に出る可能性もあるので、そこも押さえるべきかどうかという意味で伺った。

    【林委員長】 では、次に課題の[6]及び[7]に移る。御意見はあるか。

    【C委員】 一応ポーラスカップや、ライシメーターで下層土の移行を把握するとのことだが、ポーラスカップの場合は、これは限られた土壌の中からサクションで引っ張るので、必ずしも土壌層の全体を窒素濃度を引っ張っているわけではない。そういうところからいくと、ある程度の規模、ライシメーターのように全面的に落ちてきたものをそこで絞って取り出すという、そういう下層土への評価の仕方、この方が私としては良いのではないかと思う。

    【林委員長】 ほかに御意見はあるか。なければ課題の[8]に移る。溶脱をどのように定量的に把握すべきかということだが、いかがか。では、課題[9]の溶脱モデルの方に移ってもよいが、両方含めていかがか。

    【G委員】 全体の話を伺うと、先ほどA委員がおっしゃったように、土壌環境基準を決めるべきなのかという点が一番大きな問題のようだ。施肥法や田であるか畑であるかによっても異なるだろうし、雨の降り方によっても異なるだろう。従来、環境基準は、ある場所にどういった物質が蓄積していて、それがどのような悪影響を及ぼすかという点に着目するが、ここでは、硝酸性窒素の有無や量ではなく、供給源の方のコントロールで決まってきてしまう。環境の問題ではないような感じもする。環境基準を作った方がよいのかどうかというような感じである。水質の基準は決まっているので、定点観測のようなことをやりながら、非常に濃度の高い地下水が出るようだったら、周辺の施肥法を考えるとか、ある時期は注意すべきとか、そのような環境基準とは違う管理基準といったものを決めた方がわかりやすいのではないか。

    【林委員長】 何か御意見はあるか。

    【C委員】 私もG委員と同様の考えである。もう一つ、土壌環境基準を決めた場合には、これを超過した場合の対策について考えることになる。そう考えたときに、結局、他の物質の基準と同様に、土壌の窒素分を落すという対策が考えられるかというと、これは多分考えられない。供給を減らすか、停止するかということしかない。そういう意味では、あえて土壌環境基準というのを設ける必要があるのかどうか。設けたときに窒素を測定し続けるというコストがかかる。あるいは環境基準という言葉だけで誤解を受けて、いろいろな対策をしなければいけないというふうな誤解を受けるということもある。そのため、この点についてはよく考えて、考え方を整理してから、もし環境基準が望ましい状態という本来の意味であれば、そのような数字があってもいいのかもしれない。しかし、これは、今までの通常の我々が議論しているような環境基準いう概念から大分外れていると思う。もし、環境基準を設定するならば、そういったところ十分よく説明をした上で設定しないと、大変だと思う。

    【林委員長】 事務局、何かあるか。

    【事務局】 この硝酸性窒素の問題が我々に提起されたときに、今御論議いただいたところは少し想定していたが、我々としては、どういうふうに考えていけばいいかということについて、部分部分を拾い上げて御意見をいただこうと考えていた。本日、このような形で案を出していただいたので、次回を目途に、御議論を踏まえて、今の根本的な問題の部分について、再度御議論いただくような形にしていきたいと考えている。

    【林委員長】 基本的なことは次回までに少し事務局の方で練るとして、そのため、技術的な問題について少し情報をほしいということか。では、そのような意味で[8]、[9]について御意見はあるか。

    【A委員】 [8]については、土壌や地下水にどれだけの量の硝酸性窒素が供給されるかという観点で考えるべきだと思う。通常の土壌汚染では、土壌にある物質が存在して、それが地下水に個々に条件の多少の違いはあっても、定期的に供給される。そうすると、濃度については地下水への供給はほぼ一定であろうという考え方で整理してよいと思うが、先ほどからの議論にあるように、硝酸性窒素については、下の方へいくと平滑化されるといいながら、かなり量的な変動があるのならば、単に濃度で考えるのではなく、総量として押さえるべきだろうと思う。

    【林委員長】 ほかに御意見はあるか。

    【E委員】 私も今のG委員のお話に始まった議論には全く賛成である。しかし、10年近く前、平成2年か3年だったと思うが、土壌肥料学会が土壌農薬課から委託されて、この問題を考えたことがある。当時はまだ土壌の環境基準という明確な考え方はなかったが、土壌の管理基準という考え方で、私が担当して回答を差し上げたことがある。土壌の管理基準であれば、それ以前にも環境庁が設定した例があった。それは汚泥の重金属の集積の問題である。環境庁が管理基準というものをつくるのは一向におかしくないということである。そのときは、先ほどのF委員の御発言と全く同じ考え方で、余り難しいことを言ってもしようがないだろうということで管理基準とした。要するに、降水量を重点に土壌中での挙動を押さえれば一つの管理水準ができるのではないかと報告した。

    【事務局】 これを参考に考えてみたい。

    【E委員】 その報告から10年も経っており、私の考え方も多少変わったかと思う。そこで、もし差し支えなければ、次回までにその考え方を少し再整理し、出し直したいが、いかがだろうか。

    【林委員長】 今の御提案に対し、事務局から何かあるか。

    【事務局】 今、E委員から非常に力強いお言葉をいただいた。我々もその報告書やいただいた御提言をバイブルとしてよく検討したつもりだったが、十分に表現できなかったのは、果たして環境基準というものにどのような形で踏み込んでいっても良いかという点について、委員の御議論の前に、事務局が検討するというのは僭越だという思いもあって、やはり御議論いただいた後に、種々検討していけば良いと考えていたためである。先ほどのE委員からの御提案については、事務局としての考え方もまとめ、委員と御相談するという形にさせていただきたい。

    【林委員長】 それでは議題2について、今いただいた御意見については、事務局の方で御検討お願いする。
     では、次に議題3の土壌中のふっ素及びほう素についてに移る。今回は、まず、文献の取りまとめを担当された松久委員、駒井委員からの中間報告資料を御説明いただきたい。

    【松久委員】 それではお手元の資料5-5に従って文献調査の結果の概略をお話しする。土壌中のふっ素、ほう素の存在を理解するためのバックグラウンドとして、鉱物、岩石、地下水、河川水あるいは生物等といった土壌の周辺の物質を含めて文献調査をした点について御了解いただきたい。(資料5-5の説明)

    【林委員長】 では、引き続き駒井委員に説明をお願いする。

    【駒井委員】 (資料5-6の説明)

    【林委員長】 資料の作成に御協力いただいた山口委員、何か補足説明があるか。

    【山口委員】 よく資料をまとめられていると思う。

    【H委員】 非常に膨大な資料だが、その中でこれというような、揃ったデータが出ているものがない。そういう意味では、土壌中にはほう素・ふっ素がまず存在する、岩石中にもある程度存在する、しかし、土壌中の挙動に関するデータが存在しない。それから、ほう素・ふっ素が与える影響についてのデータが存在しない。そのため、取りまとめは非常に難しかったと思うし、うまくまとめられたと思う。

    【林委員長】 委員には大変御苦労いただいた。今回、事務局の方からも追加資料があるので、御説明お願いする。

    【事務局】 それでは土壌中のふっ素及びほう素に係る追加調査結果について説明する。資料の方は5-7だが、参考として前回の専門委員会の資料4-5(3)を再配付している。(資料5-7の説明)

    【林委員長】 それでは第3の土壌中のふっ素及びほう素につきましての資料の5-5、5-6、5-7について、何か御意見、御質問はあるか。

    【G委員】 先ほどあまりデータがないということであったが、データがないのは、実はふっ素、ほう素による影響が出ていないということではないか。鉄鋼業にしても、アルミ製造にしても、かなりの歴史があるが、そのようなところで使っていたものが、従来全くふっ素・ほう素の影響を考えずに処理をされてきた。そして今に至って急に影響があると言われて、急遽データを集めて何か考えるといった、そのような段階のような気がする。今すぐ何かアクションを起こすのは、とてもできないような感じがする。

    【A委員】 ほう素については、若干環境庁の委託の仕事で調べたことがある。正確に覚えているわけではないが、たしかEPAのレポート中に、いろいろな物質について、物質ごとに使用や環境への排出の調査があり、それが図に示されている。その中に一つほう素のレポートもあったかと思う。健康影響について、どの程度まで項目があったか十分に覚えていないが、アメリカの少々古い事例だが、多少参考になるかもしれない。それから、データを公表できるかは分からないが、ほう素についての日本での生産使用の流れ、つまり人為的なところでマテリアルフロー(大体どこにどう流れているか)について、古いものだが、軽金属協会だったと思うが、そこで作成したものがある。それによると、日本において、ほう素の人為的な使用で圧倒的に多いのがガラスの単繊維である。そのため、ほう素は、ガラスの単繊維、グラスファイバーといったところへ流れていくのではないだろうか。大体どこにどのぐらい使用されているかについては、報告書がある。これらについては、必要であれば、資料として追加すればよいと思う。

    【B委員】 ふっ素並びにほう素の人体影響のエンドポイントは何で見ているのか。ふっ素は歯で見ているのか。

    【林委員長】 今は歯で見ている。

    【B委員】 ほう素では何をもって見ているのだろうか。

    【林委員長】 ほう素は人体影響で明らかなものはあるか。

    【A委員】 私の記憶が間違っていなければ、犬の生殖器の異常があり、その動物実験のデータをもとに基準を作ったかと思う。

    【林委員長】 ほう素については、生殖毒性に関する動物実験のデータは多少あるが、ヒトについてのデータはない。ふっ素については、歯に対する影響についての、はっきりしたヒトのデータがある。
     ほかに何か御意見はあるか。今回の御意見は事務局の方で参考にしていただきたい。次にその他として、この専門委員会の今後の進め方について事務局から御説明いただきたい。

    【事務局】 ふっ素、ほう素については、前回と今回の御意見を踏まえ、次回に硝酸の方で課題を提示したように事務局から少し考え方を提示させていただきたい。
     次回第6回の土壌専門委員会の日程については、8月をめどに後日改めて御都合をお伺いしたい。引き続き硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素、ふっ素、ほう素について御審議をいただきたいと考えている。

    【林委員長】 では、最後に本日の資料の公開について、第1回目の土壌専門委員会で決まった公開取扱要領により、今回の資料のうち、資料5-2については出席の委員の先生方の確認をとれるまでは非公開とし、その他の資料については、特に非公開に当たるものがないと思われるため、全部公開としたいが、よろしいか。(意見なし)

    -以上-