瀬 環 審 第 69 号
平成11年1月19日



  環 境 庁 長 官
    真 鍋 賢 二 殿




会 長   中 西  弘



瀬戸内海環境保全審議会


瀬戸内海における新たな環境保全・創造施策の あり方について(答申)




平成9年9月19日付け諮問第4号をもって当審議会に対してなされた「瀬戸内海における新たな環境保全・創造施策のあり方について(諮問)」について、別添のとおり答申する。
なお、当審議会としては、瀬戸内海の環境保全を進める上で必要となる、地域のコンセンサスづくりに寄与することを念頭に置きつつ、瀬戸内海の環境保全に関する今後の施策の方向性を提示することを目指して審議を進めた。
 このため、諮問の審議を付託した企画部会では、諮問内容に関する国民各界各層の意見を審議に反映することが必要との観点から、平成10年2月から5月の間、{1}企画部会における関係省庁、関係機関等からの2回のヒヤリング、{2}瀬戸内海沿岸の3カ所で開催した現地小委員会における地方公共団体、漁業関係者、NGO、学識経験者等からの意見の聴取、{3}事務局における一般からの意見募集を実施した。さらに、企画部会報告の骨子案についても平成10年10月に一般に公開し、一ヶ月間にわたり再度国民各界各層からの意見を募集した。
 企画部会では、これらの意見を踏まえて計7回の審議を重ねて部会報告をとりまとめ、これを当審議会総会で審議のうえ決定したものである。









瀬戸内海における新たな環境保全・創造施策のあり方について
(答申)













平成11年1月19日

瀬戸内海環境保全審議会





目 次
第1 課題と新たな流れ
1 瀬戸内海の環境保全施策の経緯       ・・・・・・1
2 瀬戸内海の社会経済の状況                  ・・・・・・1
(1)人口
(2)産業
(3)漁業
(4)物流
3 瀬戸内海の環境の変遷と課題       ・・・・・・2
(1)水質
(2)藻場、干潟
(3)景観
(4)埋立て
(5)新たな課題
4 環境政策をめぐる新たな流れ           ・・・・・・4

第2 瀬戸内海における今後の環境保全の取組みに対する基本的な考え方
1 保全型施策の充実      ・・・・・・6
2 失われた良好な環境を回復させる施策の展開      ・・・・・・6
3 幅広い連携と参加の推進       ・・・・・・7

第3 今後の環境施策の展開
1 保全型施策の充実      ・・・・・・8
(1)総合的な水質保全対策の推進
(2)藻場、干潟、自然海浜の保全
 (3)自然とのふれあいの確保・推進と景観の保全
(4)埋立ての抑制
(5)海砂利採取への対応
(6)散乱ゴミへの対応
  (7)油流出事故対策の推進
(8)島しょ部の環境の保全
2 失われた良好な環境を回復させる施策         ・・・・・10
(1)基本的考え方
(2)具体的施策
3 推進方策         ・・・・・13
(1)「瀬戸内基本計画」、「埋立ての基本方針」及び「瀬戸内府県計画」の見直し
(2)沿岸域環境の保全・回復計画の策定
(3)制度、事業等における対応
(4)住民参加の推進
(5)環境教育・環境学習の充実
(6)調査研究、技術開発の推進
(7)情報提供、広報の充実
(8)広域的連携の強化
(9)各主体間の連携と役割
(10)海外の閉鎖性海域との連携

(参考)審議経過




第1 課題と新たな流れ

1 瀬戸内海の環境保全施策の経緯
瀬戸内海は、多島美と豊かな水産資源を誇る内海であり、古来多くの人々が沿岸域で生活を営み、漁業をはじめ海運業などの産業が発達する中で地域の文化が育まれてきた。
 しかし、その経済的、地理的な条件や遠浅で穏やかな海域の特性等を背景に、特に戦後の高度成長期には産業が沿岸に集積し、多くの浅海部が埋め立てられ、工場排水や生活排水により、赤潮が頻発した。
 このような状況を受けて、地域からの働きかけにより、昭和48年7月に瀬戸内海環境保全臨時措置法が制定され、昭和53年6月には瀬戸内海環境保全特別措置法(以下「瀬戸内法」という。)に恒久法化された。
 瀬戸内法では、瀬戸内海環境保全基本計画(以下「瀬戸内基本計画」という。)の策定、特定施設の設置の許可制、汚濁負荷量の総量規制、指定物質の削減指導、自然海浜保全地区の指定、埋立て等についての特別の配慮等の特別な措置が規定されている。特に、汚濁負荷量の総量規制、埋立て等についての特別の配慮等は先駆的なものであった。さらに、瀬戸内法がめざす環境保全の範囲は、水質の保全、海面及びこれと一体をなす陸域における自然景観の保全並びにこれらの保全と密接に関連する動植物の生育環境の保全を含む広範なものとなっているところが特徴である。
 これらの施策により、国や関係する地方公共団体、事業者、住民等が連携して環境保全に関する取組みがなされてきた。また、最近では、国際的な交流も積極的に進められ、閉鎖性海域(水域)の環境保全に関し、瀬戸内海は世界的にも注目されている。

2 瀬戸内海の社会経済の状況
 瀬戸内海は、我が国において、生活、生産、交通、憩いの場として重要な海域である。
 瀬戸内海をめぐる社会経済的要素の近時の概況は、以下のとおりである。
(1)人口
 瀬戸内法で規定される瀬戸内海地域の人口は、およそ3千万人であり、全国平均と同程度に緩やかに増加している。全体として人口集中地域であるが、特に沿岸域に人口が集中している。

(2)産業
 我が国有数の産業地域であり、石油化学、石油精製、鉄鋼等の基幹産業では、全国の製品出荷額の30%を維持している。
しかし、近年における経済のグローバリゼーションの進展等を背景として、瀬戸内海沿岸域における全体の工業出荷額の全国に占める比重は徐々に低下しており、既存産業の高度化、新規産業の創出など大幅な産業構造の転換が求められている。

(3)漁業
 瀬戸内海は、世界の他の閉鎖性海域と比較しても単位面積当たりの漁業生産性が極めて高い海域であり、平成9年現在、海面漁業は我が国の沿岸漁業の漁獲量の約14%、養殖漁業は我が国全体の約25%を占めている。
 近年においては、養殖漁業が海面漁業を漁獲量、生産額とも上回っている。

(4)物流
 瀬戸内海は、古くから海上交通の要路であり、沿岸には物流の拠点として多数の港が存在している。
 近年の沿岸11府県における港湾取扱貨物量は全国貨物の約5割を占めており、外貿・内貿あわせて年間16億トンに達し、微増傾向にある。

瀬戸内海では、今後、本四架橋尾道・今治ルートの完成により本州と四国が3本の架橋ルートで結ばれることとなり、瀬戸内海をはさむ時間距離の短縮、空間的な一体化が図られ、広域的な交流の活発化、連携の強化による新たな経済圏や生活圏の形成等が予想される。

3 瀬戸内海の環境の変遷と課題
瀬戸内法施行以降の瀬戸内海の環境の変遷の概況と近時における新たな課題は、次のとおりである。
(1)水質
瀬戸内海の水質を改善するため、これまで、特定施設の設置・変更の許可制、CODで表示した汚濁負荷量の総量規制、窒素・燐の削減指導等の措置により、汚濁負荷量の削減対策を実施してきている。
 この結果、瀬戸内法施行時に比べ、COD汚濁発生負荷量は、産業系については半分以下に減少し、生活系についても下水道等の整備の進展とともに徐々に減少している。また、赤潮についても、年平均の発生件数は瀬戸内海全域でかつて頻発していた時期の4割程度に減少しており、一時期の危機的な状況からは脱したものと考えられる。
 しかし、瀬戸内海における有機汚濁は、海域に流入する有機汚濁と海域の中で窒素・燐等の栄養塩類の増加により増殖する植物プランクトンに由来する有機汚濁(いわゆる内部生産)の双方によって形成されるため、近年、環境基準の達成率、赤潮の年間発生件数ともやや横這い傾向にあり、水質の改善は必ずしもはかばかしくない状況にある。また、一部の海域では季節的に貧酸素水塊の発生が見られる。
 一方、高度成長期に問題となった水銀、PCB等による底質の汚染は、浚渫や封じ込め等の対応により解消している。

(2)藻場、干潟
 瀬戸内基本計画では、水産資源保全上あるいは鳥類の渡来地、採餌場として重要な藻場、干潟は極力保全するよう努めるものとされている。
 瀬戸内法施行以降、藻場、干潟の消失速度は鈍化しつつあるものの、昭和53年から平成3年の13年間に、藻場については約1,300ha(全国の消失面積の21%に相当)、干潟については約 800ha(同21%に相当)がそれぞれ消失した。このうち、藻場の約4割、干潟の約7割が、埋立てや浚渫等の人工改変が消失の原因となっている。
 平成3年現在、瀬戸内海沿岸域の藻場は約17,500haで全国比9%、干潟は約11,700haで全国比22%を占めるが、このうち水産資源保護法に基づく保護水面、鳥獣保護区の特別保護地区等に指定されている藻場、干潟はわずかである。

(3)景観
瀬戸内海の景観の特色は、多島海と白砂青松に代表される砂浜や海岸線の美しさ及び自然と人々の生活や歴史が織りなす漁港景観、段々畑などの農業景観や歴史的町並みなどの人文的な景観にある。
その景観を支える多くの島しょ部では、急速な過疎化・高齢化の進行により、歴史的に形成されてきた文化の継承が危ぶまれるとともに、住民による環境保全の取組みにも影響が出ており、一部では、廃棄物の不法投棄問題が発生している。
一方、海面と一体となり優れた景観を構成している自然海岸は、開発等に伴い少しずつ減少を続けており、昭和53年から平成5年の15年間に、自然海岸については約 110km、半自然海岸については約50kmがそれぞれ失われている。
 また、人文的な景観についても、高度成長期以降の工業化、大量消費・大量廃棄型の生活様式の定着、画一的な環境整備手法等により、徐々に減少してきている。

(注)自然海岸:海岸(汀線)が人工によって改変されないで自然の状態を保持している海岸
半自然海岸:道路、護岸、コンクリートブロック等の人工構造物で海岸(汀線)の一部に人工が加えられているが、潮間帯においては自然の状態を保持している海岸

(4)埋立て
瀬戸内海における埋立ては、瀬戸内法第13条の埋立てについての規定の運用に関する基本方針(以下「埋立ての基本方針」という。)に基づき、厳に抑制すべきものであり、やむを得ず認める場合にも、環境への影響が軽微であることが条件とされている。この結果、瀬戸内法施行前と後とを比較すると、埋立て免許面積の伸びは大きく減少し、抑制の効果は現われている。
 しかし、瀬戸内法施行以降においても、港湾整備、都市再開発、廃棄物処分等を目的とした埋立面積は浅海域を中心に年平均 400haを上回っている。また、これらの埋立ての多くは都市の地先海域において行われることから、住民が立ち入ることのできない水際線が増え、人々が海とふれあう機会の減少につながっている。
一方、最近の埋立てでは、排水の高度処理の導入、親水性に配慮した緑地等の整備だけでなく、近年の環境保全に対する意識の高まりを踏まえ、親水性や海水浄化機能の向上、生物の生息・生育環境整備の観点から緩傾斜護岸、人工ラグーンの整備等の環境対策を導入する事例も見られ始めているが、その効果については、必ずしも十分解明されていない状況にある。

(5)新たな課題
(a)海砂利採取
 瀬戸内海においては、高度成長期以降、コンクリート骨材への使用を主目的に、海底の砂利が大量かつ継続的に採取されてきている。
海砂利採取については、瀬戸内基本計画において、「海底の砂利採取に当たっては、動植物の生育環境等の環境の保全に十分留意するもの」とされており、海砂利採取が行われる地方公共団体では、採取海域又は採取禁止海域を指定するなどの環境保全に資する対応がとられている。
 海砂利採取海域においては、水深が著しく増大した場所や海底に礫が堆積している場所が存在することが確認されており、海砂利採取による環境への影響が懸念されている。

(b)散乱ゴミ
人間活動に起因する散乱ゴミは、海浜に堆積することにより、瀬戸内海の良好な景観を損なうとともに快適な利用の障害となり、また、海底に堆積することにより、底質の悪化の一因となったり、底生生物の生息や漁業操業にとっても障害となっている。
 特に、最近廃プラスチックによる汚染が報告されているが、プラスチックのゴミは、その物理的特性から海洋環境中に長期間存在するとともに、誤飲等により野生生物に影響を及ぼすことが確認されているが、有効な対策は確立されていない状況にある。

(c)油流出事故対策
平成9年1月のナホトカ号油流出事故を契機に、国においては油回収機能を有する船舶整備の充実を図るとともに、海上保安体制の強化等に努めてきた。また、各地方公共団体では、連絡体制の整備、官民協議会の設置、地方公共団体間の応援体制の整備等大規模な油流出事故に対する危機管理体制の整備が推進されてきた。
しかし、事故時における自然環境や漁場等の保全について、その対象や保全方法を規定している地方公共団体は少ない。

(d)新たな有害化学物質問題への対応
近年、瀬戸内海においてもダイオキシン類による汚染や内分泌攪乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)等による環境への影響が懸念されている。

4 環境政策をめぐる新たな流れ
 平成4年に開催された国連環境開発会議(いわゆる地球サミット)以降、環境への負荷が少ない持続的発展が可能な社会の構築及びそのための地域レベルでの取組みの必要性が世界の共通認識として定着しつつある。
 我が国では、平成5年に公害対策基本法に代わり、我が国の環境保全の基本理念、各主体の役割、基本的施策、その推進方策等を示すものとして、新たに環境基本法が制定され、平成6年には同法に基づき環境基本計画が策定された。
環境基本法においては、持続的発展が可能な社会の構築に向けて、社会経済活動による環境への負荷を低減する行動がすべての者の公平な役割分担の下に行われるよう求めている。また、環境保全については、{1}大気、水、土壌その他の環境の自然的構成要素が良好な状態に保持されること、{2}生物の多様性の確保が図られるとともに、多様な自然環境が地域の自然的社会的条件に応じて体系的に保全されること、{3}人と自然との豊かな触れ合いが保たれることの必要性が明示され、従来の公害防止、自然保護といった概念より幅広いものとなっている。
 環境基本計画においては、「循環」、「共生」、「参加」と「国際的取組」の4つの要素を環境政策の長期的な目標とし、この目標の実現に向けて施策の方向が提示されている。この中で、水環境については、水質、水量、水生生物、水辺地等を総合的にとらえ、水環境の安全性の確保を含めて、水利用の各段階における負荷を低減し、水域生態系を保全するなど対策を総合的に推進すべきことが強調されている。
環境基本法の基本理念のもとに、平成9年には事業者が環境影響の調査・予測・評価を行うとともに、住民意見の反映等の広範な情報交流を通じて事業内容に適切な環境配慮を組み込むための仕組みとして環境影響評価法が制定された。
一方、平成9年12月に開催された地球温暖化防止京都会議(気候変動枠組条約第3回締約国会議:COP3)では、温暖化防止のための京都議定書が合意された。同議定書により、我が国については、厳しい温室効果ガスの削減目標が定められ、今後、その達成のために、産業、運輸、民生の各分野でより一層の努力が求められている。
 さらに、平成10年には、特定非営利活動促進法(NPO法)が制定、施行され、ボランティア活動をはじめとする市民の自由な社会貢献活動の促進が図られることとされている。
 以上のような環境政策をめぐる国内外での新たな流れを受けて、各地方公共団体において環境基本条例等の制定や地域環境計画の策定が行われるとともに、地球環境問題を含め環境問題について国民の関心は大きくなっている。


第2 瀬戸内海における今後の環境保全の取組みに対する基本的な考え方

 以上概観したとおり、瀬戸内法が施行されて四半世紀が経過し、各種施策の実施により、人間活動に起因する環境への負荷の軽減について一定程度の成果が見られるが、過去の開発等に伴って蓄積された環境への負荷や新たな環境問題への対応など依然として取り組むべき課題も多い。
 この間、環境保全に対する考え方は、当初の水質改善、有害物質対策等の公害対策中心のものから、環境基本計画等に見られるように、生物多様性の保全、健全な水循環の回復・確保、物質循環の促進、豊かな自然との触れ合いの確保など幅広い環境保全を目指すものに変化してきた。また、環境に対する国民の意識も大きく変化してきており、各般の環境関連技術も大きく進歩している。
 このような中にあって、「瀬戸内海が、我が国のみならず世界においても比類のない美しさを誇る景勝地として、また、国民にとって貴重な漁業資源の宝庫として、その恵沢を国民がひとしく享受し、後代の国民に継承すべきもの」(瀬戸内法第3条第1項)であることは不変であり、瀬戸内海は、生活、産業等を含む人間と自然との共生の場として、海域毎の地理的、自然的、社会経済的な条件を考慮しつつ、今後とも一体的、総合的に保全されていくことが求められている。
 このため、環境に関する新たな流れを踏まえて、現状における多くの課題に適切に対処することが必要である。
 今後の瀬戸内海における環境保全施策については、これまでの施策の結果やその検証を踏まえ、既に得られた知見と技術を最大限に活用し、次のことを基本的な考え方として取り組むことが必要である。

1 保全型施策の充実
瀬戸内海にふさわしい環境を確保し、これを将来に継承するためには、何よりもまず、現在残されている自然環境を極力保全するとともに、発生負荷の抑制と物質循環を促進させ、人間に起因する環境への負荷をさらに削減することが必要である。このため、規制を中心とする保全型施策をさらに充実させるとともに、下水道等の環境負荷低減施設の一層の整備を推進することが必要である。
 例えば、多様な汚濁負荷の削減をさらに進めることにより水質の改善を図るとともに、開発行為については、事業計画の早い段階から環境への影響の回避、低減を十分検討すること等が必要である。

2 失われた良好な環境を回復させる施策の展開
 規制を中心とする保全型施策の充実だけでは、これまでの開発等に伴い既に消失した藻場、干潟をはじめとする浅海域、自然海浜等のふれあいの場、良好な景観を構成する自然海岸等の物理的・生態学的な回復は困難である。
 瀬戸内海にふさわしい多様な環境を確保するには、これらの失われた良好な環境を回復させ、積極的に環境を整備して将来の世代に継承する観点に立った施策の展開が必要である。
 例えば、かつての環境の状況や現状及び今後望まれる環境の姿を踏まえ、藻場、干潟、海浜の造成等の環境整備のための適切な技術を活用しつつ自然の持つ浄化能力を引き出し、健全な水循環を回復・確保すること等も有効である。

3 幅広い連携と参加の推進
多くの人々が生活を営み、多岐にわたる利用がなされている瀬戸内海において、残された自然環境を保全し、環境への負荷を低減するとともに、失われた良好な環境の回復を図るためには、関係する人々が瀬戸内海の環境に対する理解を深め、積極的に各種施策に取り組むことが求められるが、この場合、これまで以上に幅広く、緊密な連携を図りながら計画的に推進することが重要である。
このためには、地域相互間、主体相互間及び世代相互間のそれぞれの連携、いわば「3つの連携」の強化が肝要である。第一は、瀬戸内海地域における沿岸府県市町村の「横の連携」と河川流域府県市町村の「縦の連携」の強化である。第二は、環境保全に取り組む国、地方公共団体、事業者、住民、研究者などの各主体間の連携の強化であり、特に住民の理解と協力を得ることが重要である。第三は、環境保全のための世代を越えた連携の強化であり、環境教育・環境学習の推進を図っていく必要がある。


第3 今後の環境施策の展開

1 保全型施策の充実
 現行の保全型施策の課題を踏まえて、瀬戸内海にふさわしい環境を確保し、将来に継承するために、現存する環境を保全する観点から充実、追加すべき施策を以下に示す。
(1)総合的な水質保全対策の推進
人間活動に起因する負荷の低減を図るため、今後もCOD汚濁発生負荷量の削減を進めるとともに、CODの内部生産や赤潮の原因となるプランクトンの増殖に影響を与える窒素、燐の負荷量削減を総合的に進めることが重要であり、そのための枠組みについて早急に検討し、対応することが必要である。
また、新たな有害化学物質問題については、行政的な対応を検討するためのデータが不足しているので、汚染状況調査、発生機構の解明、人体や環境等への影響調査等の各種調査研究に基づき、環境負荷低減技術の開発等の取組みを進めることが必要である。

(2)藻場、干潟、自然海浜の保全
藻場、干潟、自然海浜は多様な生物の重要な生息・生育空間としてだけでなく、藻場については、海水中の栄養塩類の吸収、光合成による酸素の供給等の場所として、また、干潟、自然海浜については、海水に含まれる懸濁物質や有機物質の濾過、脱窒等の有機物質の分解、鳥類の採餌などによる水質浄化の場所、海水浴、潮干狩り等の自然とのふれあいの場所などとしても重要である。
したがって、このような藻場、干潟、自然海浜の重要性を認識し、埋立て、浚渫等の人為的な直接改変に対し、現存する藻場、干潟、自然海浜を保全する方策を検討するとともに、これらの価値を適切に評価するための方策について検討することが必要である。

(3)自然とのふれあいの確保・推進と景観の保全
瀬戸内海の環境の劣化は、高度成長期からの開発の要請の中で、各地で見られる自然海岸、干潟、島しょ、あるいはそれらにより構成される景観等の瀬戸内海独特の環境の価値が十分に認識されなかったことが要因の一つである。
現存する良好な自然を保全するためには、国立公園とも連携を図りつつ、自然との適切なふれあいを通じて瀬戸内海の環境の価値に対する理解を一層深めることが求められる。
このため、自然と一体をなしている各地の史跡などの歴史的、文化的要素を積極的に活用し、瀬戸内海の独特な環境に対する理解を促進するための施設の整備を進めるなど、自然とのふれあいを確保するとともに、エコツーリズム等を活用して自然とのふれあいを推進していくことが必要である。
 また、瀬戸内海各地に点在する漁港、段々畑、町並みなどそれぞれの地域の個性を反映した人文的な景観についても、適切に保全されるよう配慮することが必要である。

(4)埋立ての抑制
埋立ては、水質の悪化、生物の生息・生育環境等の生態系の変化、自然景観の改変、海とのふれあいの場の減少、漁場の減少等多岐にわたる環境変化の原因となりうるものであり、埋め立てられた海域は元の状態には戻らないことを認識する必要がある。瀬戸内法施行以降においても累積する埋立て等により、藻場、干潟の減少等瀬戸内海の環境は劣化する方向であることから、埋立てを抑制するための方策を幅広く検討することが必要である。
 瀬戸内海では、物流基盤等の整備に加え、陸上残土や浚渫土砂等の処分場確保を目的とした埋立ての要求が依然根強いことから、埋立てを抑制するためにはこれら土砂の搬出抑制、有効利用等の方策を検討していくことが必要である。また、廃棄物の処分を目的とした埋立ての要求も強いことから、廃棄物の発生抑制、減量化、リサイクルの促進を図ることも必要である。
 一方、やむを得ず埋立てを行う場合には、環境の劣化を極力防ぐことが必要である。このため、事業計画の早い段階から、環境への影響の回避、低減を十分検討する必要がある。その結果、さらに残る影響がある場合には、適切な代償措置を検討することが必要である。このような環境への影響の回避、低減等の検討に際しては、特に浅海域は、一般に生物生産性が高く、底生生物や魚介類の生息、海水浄化等において重要な場であることを考慮しなければならない。

(5)海砂利採取への対応
 海砂利採取が水質、底質、生態系等の環境に及ぼす影響については、調査に着手されているものの、十分な知見がない状況にある。
このため、海砂利採取の環境への影響の究明を促進するとともに、水質、底質、海底地形、生態系等多様な環境を考慮した対策の検討を行うことが必要である。
一方、海砂利の代替品の利用及び砂利に代わる骨材等の研究開発を促進し、海砂利への依存度合の低減を図ることが必要である。

(6)散乱ゴミへの対応
散乱ゴミについては、一般に排出源が多数にわたること、意図的に排出されるものが少ないことが特徴である。
したがって、海上や海岸における清掃等行政における適切な対応とともに、住民や事業者等においてゴミを散乱させないよう注意することが重要である。
 このため、住民等への広報活動、住民参加による海浜の清掃、散乱ゴミの実態調査等を通じ、散乱ゴミの問題についての意識の向上を図ることが必要である。
また、廃プラスチックについては、汚染の実態を把握するとともに、野生生物への被害をはじめとした生態系に及ぼす影響を解明することにより、廃プラスチックによる海洋汚染防止のための効果的な対策、制度等を検討することが必要である。

(7)油流出事故対策の推進
海上交通の要路として大型船、危険物積載船等の通航が多い瀬戸内海は、浅い閉鎖性海域であることから、大規模な油流出事故が発生した場合、被害が甚大になることが予想される。
したがって、これまでの大規模な油流出事故の際の防除体制や防除手法等を通して得られたノウハウを新たな知見を踏まえて適宜修正しながら継承していくことが求められる。
その際、事故発生時における自然環境、漁場等の保全の対象、保全方策等について検討を進めることが必要である。また、油処理剤の使用等油の処理及び除去の方法の中には生態系への影響が懸念されるものがあることから、環境への影響の少ない新たな防除技術の研究の推進を図ることも必要である。
一方、事故の自然環境、漁場等に及ぼす影響及び事故後の回復状況を評価する際に、比較のための平常時における自然環境等のデータが必要であり、その蓄積に努めなければならない。

(8)島しょ部の環境の保全
島しょ部では、限られた環境資源を利用した生活が営まれてきていることから、その環境保全は住民生活や社会・経済のあり方に直結する課題である。このことは、瀬戸内海全体あるいは日本全体が直面している課題でもあり、環境容量の小さな島において、他に先駆けて取り組むことが求められる。
 また、島しょ部の環境保全は、瀬戸内海の良好な環境を保全・継承する意味では、瀬戸内海全体の問題であることを、すべての関係者が共通認識として持つことが重要である。
過疎化や高齢化が進む島しょにあって、住民だけによる保全活動には制約が大きいことから、関連する島しょの集合体あるいは市町村・府県全体として島しょ部の環境保全に取り組む必要がある。


2 失われた良好な環境を回復させる施策
 藻場、干潟等の貴重な自然環境、自然海浜等のふれあいの場などの既に失われた良好な環境を回復させ、積極的に環境を整備するための施策については、以下に示す基本的な考え方に基づいて具体化を図ることが必要である。
(1)基本的考え方
(a)対象地域
 失われた良好な環境を回復させる視点に立てば、開発等に伴いかつての良好な自然環境が消失した地域を対象として、施策を推進することが基本である。

(b)実施体制
瀬戸内海の海域は公有であり、これまで国及び地方公共団体が中心となって環境の保全についての取組みがなされてきている。失われた良好な環境を回復させることへの対応については、国及び地方公共団体が先導的役割を果たしつつ、事業者、住民及び民間団体と連携して取り組むことが重要である。

(c)計画的な実施
 施策の実施においては、かつての環境の状況や現状及び今後望まれる環境の姿を踏まえて、どのような環境の創出に取り組むか検討することが必要である。また、藻場、干潟等の整備による環境の回復は短期間で達せられるものでないことから、中長期的な視点から計画的に取り組むことが必要である。

(d)技術の選定
具体的な施策の検討に当たっては、土地及び海域の利用状況、地形・水質・潮流・周辺の生物の生息・生育状況等の現況と環境整備のための技術の開発状況を踏まえ、以下に留意して適切な技術を選定することが必要である。また、新たな視点による設計・施工技術についても積極的に検討し、実証実験によりその効果を確認することも期待される。この場合、実験が環境に悪影響を与えない場所でかつ適切な期間行われるよう、十分な検討が必要である。
 {1}かつて存在した自然環境に配慮
創出する環境の安定性や周辺環境への適合性からみて、かつてその海域に存在していた自然環境を念頭におくことが必要である。

{2}生物多様性の回復、物質循環の促進に寄与する技術を優先
生物の種類数や個体数を適切に回復させ、それら生物の浄化能力(有機物の分解・無機化・硝化・脱窒)、あるいは漁獲、鳥類の採餌による物質の系外への移動などにより、健全な物質循環を促進することが理想であり、これに寄与する技術を優先すべきである。

{3}自然の回復能力の活用
生物が生息・生育しやすく安定した場を提供することを基本とし、自然が自ら回復する能力の活用を図る。
その際、創出する環境の維持・管理のために継続的に大きな経済的負担を要する技術は、解決方策としては好ましくない。

{4}周辺の自然環境等への配慮
対象地域の周辺等に存在する良好な自然環境に悪い影響を及ぼさない技術を選定することが必要である。

{5}地域性、住民の意向の反映
 それぞれの地域独自の歴史、文化などの地域性や創出する環境の利用者たる住民のニーズを反映することが必要である。

(e)適切な維持管理
創出した自然的環境については、環境の回復が進むように適切な維持管理を実施することが必要である。
また、創出した自然的環境の効果については十分解明されていない面が多いので、適切なモニタリング等を通して環境の回復状況や効果を調査し、課題を整理するとともに、環境整備のための技術の開発、改良、蓄積を図ることが必要である。

(2)具体的施策
 失われた良好な環境を回復させるため、次の観点から、具体的な施策を進めることが求められる。
 その際、新たな環境づくりの場として、近年の経済社会状況の変化により遊休化している用地の活用を図ることも一案である。
(a)自然浄化能力の向上
 水質の改善を進めるとともに、健全な水循環を回復・確保するためには、汚濁負荷量の削減を進めるだけでなく、海域の自然浄化能力の向上を図るための施策の実施が必要である。
このための技術としては、例えば、底生生物や付着生物等により有機物分解が促進される干潟、浅場の造成、栄養塩の吸収機能が高く、光合成による酸素の供給にも資する藻場の造成等があげられる。

(b)生物の生息・生育環境の創出
 藻場、干潟等の重要な生物の生息・生育環境が消失していることから、生物多様性を考慮した生物の生息・生育環境を創出することが必要である。
このための技術としては、例えば、魚介類の産卵・育成の場である藻場、多様な底生生物や鳥類、海藻類等の生息・生育の場である干潟、浅場の造成等があげられる。

(c)親水性の向上
 都市の海岸線の多くは、産業や物流の場として、住民が海に近づきにくい状況にあることから、このような場所において人と海とがふれあえる場の創出が必要である。
このための技術としては、例えば、海水浴、潮干狩りの場としての人工海浜や干潟の造成、水際線へのアクセスや魚釣り、散策等が可能な親水性護岸の採用等があげられる。

(d)景観の改善
開発等に伴い劣化した景観については、その改善のため、文化、歴史等の地域性を踏まえ、周辺の自然環境と調和した景観の整備が必要である。
このための技術としては、例えば、養浜による砂浜の回復、松等の植林による海岸の緑化、人工海岸における自然石等を利用した自然的な工法の採用等があげられる。


3 推進方策
 以上の施策を推進するためには、関係者がこれまで以上に幅広く、緊密な連携を図りつつ、以下に述べるように、「瀬戸内基本計画」、「埋立ての基本方針」及び瀬戸内海の環境の保全に関する府県計画(以下「瀬戸内府県計画」という。)の見直しの他、沿岸域環境の保全・回復を推進するための具体的な行動計画の導入や地域で行われる各種事業における対応、さらには、規制措置の見直しも検討する必要がある。

(1)「瀬戸内基本計画」、「埋立ての基本方針」及び「瀬戸内府県計画」の見直し
瀬戸内海の環境保全のマスタープランとして、環境保全の目標、講ずべき施策等の基本的な方向を明示している「瀬戸内基本計画」並びに瀬戸内海における埋立てに際して瀬戸内海の特殊性への配慮を規定した「埋立ての基本方針」に関して、本答申を踏まえて、保全型施策の充実、失われた良好な環境を回復させる施策の導入の観点から見直し検討を行うことが必要である。
 また、この検討結果を受けて、「瀬戸内府県計画」についても見直し検討を行うことが必要である。

(2)沿岸域環境の保全・回復計画の策定
多様な価値を持つ沿岸域において、良好な環境を確保し、これを将来に継承するためには、地域の特性に即した沿岸域の環境に係る将来ビジョンの下に、保全すべき環境、回復させるべき環境の具体的な目標を設定し、計画的な実施を図っていくことが必要である。
このため、瀬戸内府県計画等を踏まえ、関連する計画との整合に配慮しつつ、沿岸域環境の保全・回復を推進するための具体的な行動計画の導入を検討することが必要である。
 計画の目標の設定においては、当該地域の過去の環境の状況等を踏まえるとともに、現存する自然環境、土地利用等の現況、歴史、文化等の地域性や住民等の関係者のニーズなどを勘案することが必要である。
さらに、設定する目標がわかりやすいものとなるよう、明解な指標を用いることを検討すべきである。その際、生態系等に関する知見が不十分な状況にあることや数値化になじみにくい要素も多いこと、さらに指標化によって抜け落ちる要素があることに留意する必要がある。また、知見の集積に伴い、随時これらを見直すとともに、可能な限り定量化が図られるべきである。
計画の策定や推進に際しては、地域間の計画の整合性を確保し、円滑な事業の実施を図るため、広域的な連携が不可欠であり、そのための体制の整備が必要である。

(3)制度、事業等における対応
 保全型施策を充実させる観点から、瀬戸内法に規定されている規制措置の見直しを検討することが必要である。
また、環境負荷の低減等の観点から、下水道等の生活排水処理施設の普及及び高度処理導入の一層の促進、養殖、畜産等からの負荷削減対策の推進を図るとともに、環境を保全し、失われた良好な環境を回復させる観点に合致する事業の推進を図ることが必要である。
 さらに、住民、NGOによる環境保全活動を促進するため、普及啓発活動の推進、顕彰制度の検討を進めることも必要である。

(4)住民参加の推進
瀬戸内海の環境保全のための施策の推進には、住民の理解と協力が不可欠であり、汚濁負荷量の削減、環境保全への理解、行政施策策定への参加の観点からその推進を図ることが必要である。
(a)汚濁負荷の削減
 瀬戸内海においても、住民生活に起因する汚濁発生負荷量が相当程度(平成6年度における生活系のCOD、窒素、燐の負荷量は、それぞれ全体の約5割、約3割、約4割)を占めているので、瀬戸内海の水質の改善には、住民自らが負荷量削減に積極的に取り組むことも求められている。
 また、廃棄物処分のための埋立てを抑制する観点からも、住民が大量消費・大量廃棄型の生活を改善し、廃棄物の発生の抑制、リサイクルの推進に取り組むことが必要である。

(b)環境保全への理解の推進
海岸清掃、植林等の緑化活動、身近な生き物調査等の住民参加の活動を通して、環境保全に関する理解の推進を図ることが求められている。
また、住民自らの手により住民参加活動が企画・実施されるように、リーダーとなりうる環境ボランティアの養成、環境ボランティアのネットワーク化、環境カウンセラー登録制度の活用等の取組みを支援することが必要である。

(c)行政施策策定への参加
 瀬戸内基本計画、瀬戸内府県計画等の地域の環境保全を進めるための施策の策定に当たっては、その中で生活を営んでいる住民の意見を反映することが必要であり、その方策について検討を行うべきである。

(5)環境教育・環境学習の充実
現在の人間活動は自然環境への加害者となる場合もあることから、自然との共生の考えが重要との認識に立ち、自然の仕組み・大切さへの理解、人と自然との関わりへの理解を促進し、自然を守る気持ち、環境保全活動に参加する態度を育むために環境教育・環境学習を推進することが必要である。
このため、海とのふれあいを確保し、その健全な利用を促進するために必要な施設や瀬戸内海の自然環境、住民生活との関連等についての理解を促進させるプログラム等の整備を促進することが必要である。特に、瀬戸内海は環境学習の素材が豊富であることから、体験的な環境学習の現場の設定やその成果を踏まえての環境教育・環境学習拠点の整備を検討することが有効である。
 また、自然公園等における自然観察会、子どもを中心とした各種施策(こどもエコクラブ事業、子どもの水辺再発見プロジェクト、子どもパークレンジャー事業)などにより体験的学習の機会を提供し、地域環境等に関する理解の向上を図るとともに、このような体験的学習を支援するためのボランティア等の人材育成について検討することも必要である。

(6)調査研究、技術開発の推進
瀬戸内海の環境については依然として未知の部分が多いため、環境を保全し、回復させるための各種施策の具体化には、専門的な調査研究や技術開発を進めるとともに、多様な分野の研究成果や情報を集約し、効率的に施策に活用するための仕組みづくりが必要である。
このため、瀬戸内海に関する環境情報や調査研究、技術開発の成果等のデータベースを整備することにより、情報の共有化、情報収集の効率化を促進し、瀬戸内海地域に係る様々な研究機関等における研究実施の効率化、連携の強化を支援することが必要である。
 また、瀬戸内海の環境の問題点を把握し、瀬戸内海の各種現象の解明、施策の具体化等を進める上で必要な環境データを収集するためのモニタリングの充実方策、新技術の効果を確認し、技術改良を促進するためのフィールドにおける実証実験等について検討を進めることも必要である。
なお、瀬戸内海の環境を保全し、回復させる観点から推進すべき主要な調査研究、技術開発を例示すると、次のとおりである。
  ◇様々な生態系の構造や各種機能、景観等の評価方法、そのための指標の開発
  ◇生態系等に関する効果的な環境モニタリング手法
  ◇新たに認識された有害物質の影響の評価と対応方策
  ◇海砂利採取の環境影響の評価
  ◇自然環境を活用した水質改善技術
  ◇生物の生息・生育や水質浄化の機能に着目した藻場、干潟の造成技術等環境改善    のための技術の開発、効果の検証
  ◇廃棄物等の再利用方策

(7)情報提供、広報の充実
住民参加を積極的に進めるためには、正確な環境に関する情報を住民にわかりやすい形で公開することが必要である。また、これらの情報は、環境教育・環境学習や調査研究、技術開発を進める上でも必要不可欠のものである。
このための手法の一つとして、瀬戸内海に関する水質等の環境情報、社会経済や各種計画の情報、文化・歴史の情報、調査研究の成果等の多様な情報をデータベース化し、ホームページの活用等により広く提供するシステムの構築等を進めることが必要である。
また、広報誌、マスメディア等を通じて、瀬戸内海の環境の状況、環境施策の現状、負荷量削減への取組み、大量消費・大量廃棄型の生活の改善に向けた取組み等の広報に努めることも必要である。

(8)広域的連携の強化
瀬戸内海は13府県が関係する広範な海域であり、かつ、多岐にわたる利用が存在することから、環境保全のための施策を進める上で、各地域間の広域的な連携の強化が不可欠である。
(a)流域における連携
健全な水循環の回復・確保の観点から、例えば、森林や農地の適切な維持管理、河川、湖沼等における自然浄化能力の維持・回復、地下水の涵養、下水処理水の再利用等において流域を単位とした関係者間の連携の強化を図ることが必要である。
 また、住民参加の推進、環境教育・環境学習の充実を図る上でも、流域における連携を図ることが必要である。

(b)地方公共団体間の連携
瀬戸内海は一つとの認識の下、現在、瀬戸内海環境保全知事・市長会議等により、地方公共団体間の連携が図られているが、さらに、各地方公共団体の環境保全のための取組みに対して相互に意見を述べる機会を設ける等連携の強化を進めることが必要である。

(9)各主体間の連携と役割
多くの住民が生活を営み、多岐にわたる利用がなされている瀬戸内海では、地域の自然的社会的条件により、様々な個性が形成されている。環境保全のための施策の策定・推進に当たっては、このような地域性を踏まえ、各種の利用を調整することが不可欠である。
 したがって、その地に生活する住民や事業者等の幅広い意見を調整し、施策に反映するための適切な仕組みづくりが必要である。
また、今後の環境保全のための施策を効果的に実現するためには、環境基本法に規定された責務を踏まえ、各主体が瀬戸内海の環境の現状を正しく理解し、自主的、積極的に取り組むことが求められる。各主体に求められる役割としては、以下の項目が考えられる。
(a)国
 {1}瀬戸内基本計画や埋立ての基本方針の見直し、沿岸域環境の保全・回復計画の策定を目的としたガイドライン等の整備を検討するとともに、施策の実施に必要となる規制措置、事業支援措置等の制度、基準等の整備を推進すること
 {2}調査研究、技術開発の支援のための仕組みの検討を行うこと
 {3}事業者、住民の参加を進めるための方策の検討を行うこと

(b)地方公共団体
 {1}瀬戸内府県計画の見直しを行うこと
 {2}沿岸域環境の保全・回復計画の導入を検討するとともに、個別事業を推進すること
 {3}子供、学生、社会人等に対する環境教育・環境学習を推進するため、水生生物調査の実施等による学習の機会を提供するとともに、講習会、シンポジウム等の行事による  普及啓発活動を推進すること
{4}関係地方公共団体、事業者、住民、民間団体との協力体制を構築すること

(c)事業者
 {1}水質の改善、埋立ての抑制等の観点から、汚濁負荷量の削減や廃棄物の発生の抑制、リサイクルの推進に今後とも積極的に取り組むこと
 {2}都市の海岸付近に広大な空間を占有する傾向にあることから、可能な範囲で人と海とのふれあいの場の整備等の環境の創出に取り組むこと

(d)住民、民間団体
 {1}水質の改善、埋立ての抑制等の観点から、女性の持つ知識と経験が広く生かされるよう配慮しつつ、家庭からの汚濁負荷量の削減、廃棄物の発生の抑制、リサイクルの推進に積極的に取り組むこと
 {2}水生生物や水辺の生息環境の調査、環境モニタリングなどへ参加すること
 {3}日常の取組みや調査を踏まえ、行政の施策や事業者の対策を提言すること
 {4}沿岸域環境の保全・回復計画の策定へ参加すること

(10)海外の閉鎖性海域との連携
海外の閉鎖性海域における環境保全に関する取組みとの連携の強化を図り、積極的にこれに貢献するため、環境を保全し、回復させるための先駆的な取組みを進めるとともに、国際エメックスセンターが取り組んでいる閉鎖性海域に関する国際会議等の開催の支援及び積極的な参加、人的交流、環境保全のための技術開発や施策に関する情報のデータベース化と発信等を促進することが必要である。



(参考)審議経過


平成9年
  9月19日 第24回瀬戸内海環境保全審議会総会
         ・「瀬戸内海における新たな環境保全・創造施策のあり方について」諮問
・瀬戸内海環境保全審議会企画部会設置
  12月2日   第1回企画部会
・審議の進め方
平成10年
  2月6日  第2回企画部会
・意見聴取(瀬戸内海環境保全知事・市長会議、瀬戸内海研究会議、水産庁瀬戸内海漁業調整事務所、運輸省第三港湾建設局)
  2月19日   一般意見公募(〜4月30日)
  3月13日  第1回現地小委員会(瀬戸内海西部地域:山口県小郡町)
・意見聴取(地方公共団体、漁業関係者、NGO、学識経験者等)
  4月17日  第2回現地小委員会(瀬戸内海中部地域:香川県高松市)
・意見聴取(地方公共団体、漁業関係者、NGO、学識経験者等)
  4月24日  第3回現地小委員会(瀬戸内海東部地域:大阪府大阪市)
・意見聴取(地方公共団体、漁業関係者、NGO、学識経験者等)
  5月26日  第3回企画部会
・意見聴取(国土庁、建設省(海岸4省庁代表))
・現地小委員会、一般意見の整理
  7月2日  第4回企画部会
・論点についての審議
  9月10日  第5回企画部会
・企画部会骨子案の審議
  10月9日  企画部会骨子案公表、一般意見公募(〜11月9日)
11月26日 第6回企画部会
・一般意見の整理
・企画部会骨子案の審議
12月18日 第7回企画部会
・企画部会報告案の審議
平成11年
 1月19日 第25回瀬戸内海環境保全審議会総会
・企画部会報告の審議