中環審第132号
                              平成10年5月22日

 環境庁長官
  大 木  浩 殿


                             中央環境審議会会長
                                近 藤 次 郎
         騒音の評価手法等の在り方について(答申)


 平成8年7月25日付け諮問第38号をもって中央環境審議会に対して諮問のあった「騒音の評価手法等の在り方について」について、下記のとおり結論を得たので答申する。

                 目  次
  
はじめに
1.騒音の評価手法の在り方

2.評価の位置及び評価の時間等
 (1)環境基準の評価の原則
 (2)環境基準の達成状況の地域としての把握の在り方

3.評価手法の変更に伴う環境基準値の再検討に当たっての考え方
 (1)科学的知見の集積と社会実態の変化
 (2)地域補正等
 (3)騒音影響に関する屋内指針の設定
 (4)建物の防音性能
 (5)時間帯の区分
 (6)対象騒音の範囲

4.一般地域における環境基準の指針値
 (1)一般地域の地域補正を行う類型区分
 (2)一般地域の環境基準の指針値

5.道路に面する地域の環境基準の指針値
 (1)道路に面する地域の範囲等
 (2)道路に面する地域の環境基準の類型区分等
 (3)道路に面する地域の環境基準の指針値

6.環境基準の指針値の達成期間等
 (1)一般地域の環境基準の指針値の達成期間
 (2)道路に面する地域の環境基準の指針値の達成期間
 (3)幹線交通を担う道路の著しい騒音が直接到達する住居等の達成評価
 (4)幹線道路近接空間における騒音対策の総合的推進
 (5)高騒音地域における対策の優先的実施

7.今後展開するべき施策
 (1)道路に面する地域について今後展開するべき施策
 (2)その他の騒音対策等

むすび

参考資料



                   記

 平成8年7月25日付け諮問第38号により中央環境審議会に対し諮問のあった「騒音の評価手法等の在り方について」については、騒音振動部会に騒音評価手法等専門委員会を設置し、同専門委員会において最新の科学的知見の状況等を踏まえ、騒音に係る環境基準(以下単に「環境基準」という。)における騒音評価手法の在り方及びこれに関連して再検討が必要となる基準値等の在り方について検討が行われ、その結果が別添の専門委員会報告として騒音振動部会に報告された。
 騒音振動部会においては、上記報告を受理し、審議した結果、騒音の評価手法等の在り方について、騒音評価手法等専門委員会の報告を採用することが適当であるとの結論を得た。
 よって、本審議会は次のとおり答申する。

はじめに
 昭和46年に設定された現行の環境基準では、騒音の評価手法として騒音レベルの中央値(L50,T)によることを原則としてきた。しかし、その後の騒音影響に関する研究の進展、騒音測定技術の向上等によって、近年では国際的に等価騒音レベル(LAeq,T)によることが基本的な評価方法として広く採用されつつある。このような動向を踏まえると、環境基準における騒音の評価手法の在り方について再検討が必要となる。
 また、騒音の評価手法の再検討に関連して環境基準の基準値等の在り方についても再検討が必要となるが、その際には、現行の環境基準が設定された以降の騒音影響に関する科学的知見の集積や、騒音問題の現状及び今後の対策の方向を踏まえて検討する必要がある。
 騒音問題の現状をみると、一般地域については全国の測定地点の約7割で環境基準を達成しているが、道路交通騒音については各種の道路交通騒音対策の推進が図られているものの、環境基準の達成率は極めて低いまま推移し、また、幹線道路沿道においては要請限度を超える地区が多数見られるなど、道路交通騒音は深刻な状況にある。
 このような状況の中で、平成7年3月の中央環境審議会の答申「今後の自動車騒音低減対策のあり方について(総合的施策)」において、自動車単体対策、道路構造対策、交通流対策及び沿道対策を適切に組み合わせて、総合的かつ計画的に自動車騒音問題を解決すべきであることが示された。その中で、特に幹線道路の沿道については、土地利用の適正化や住居の防音性能の向上等の道路に面する地域の実態に即した効果的な沿道対策を講じることが必要であることが示された。
 今般、環境基準の基準値等の在り方を検討するに当たっては、現行基準値を単に換算するのではなく、新たな科学的知見に基づいて望ましいレベルを検討するとともに、上記の答申に示された今後の自動車騒音低減対策の基本的な考え方を具体化する見地から、道路に面する地域の実態に即した効果的な沿道対策を促す視点を加えるなど、道路交通騒音対策の推進に環境基準が目標としてより効果的に機能しうるものとする必要がある。
 本報告はこのような基本的な考え方に基づき、騒音の評価手法の在り方及びこれに関連して再検討が必要となる基準値等の在り方について基本的な内容を示したものである。

1.騒音の評価手法の在り方
  騒音のエネルギーの時間的な平均値という物理的意味を持つ等価騒音レベル(LAeq,T)による騒音の評価手法は、以下の利点がある。
1)間欠的な騒音を始め、あらゆる種類の騒音の総曝露量を正確に反映させることができる。
2)環境騒音に対する住民反応との対応が、騒音レベルの中央値(L50,T)に比べて良好である。
3)1)の性質から、道路交通騒音等の推計においても、計算方法が明確化・簡略化される。
4)等価騒音レベルは、国際的に多くの国や機関で採用されているため、騒音に関するデータ、クライテリア、基準値等の国際比較が容易である。
 しかし、一方で、騒音レベルの変動に敏感な指標であるため、騒音の変動が大きい場合には、騒音レベルの中央値に比べてより長い測定時間を必要とすることから、測定の安定性と実用性の確保が重要となる。
 以上から総合的に判断すると、騒音の評価手法としては、これまでの騒音レベルの中央値による方法から等価騒音レベルによる方法に変更することが適当である。

2.評価の位置及び評価の時間等
(1)環境基準の評価の原則
 1)評価の位置
 現行の環境基準においては、地域の騒音を代表すると思われる地点又は騒音に係る問題を生じやすい地点で評価することとされているが、 騒音の影響は、騒音源の位置、住宅の立地状況等の諸条件によって局所的に大きく変化するものであるため、その評価は、個別の住居、病院、学校等(以下「住居等」という。)が影響を受ける騒音レベルによることを基本とし、住居等の建物の騒音の影響を受けやすい面における騒音レベルによって評価することが適当である。
 これにより、環境基準が個別の住居等の生活環境保全の目標としてその機能を果たすことが可能となる。
 現行環境基準においては、著しい騒音を発生する工場及び事業場の敷地内、建設作業の場所の敷地内、飛行場の敷地内、鉄道の敷地内及びこれらに準ずる場所は測定場所から除くこととされており、この考え方を踏襲することが適当である。
 なお、5(2)に述べる屋内へ透過する騒音に係る基準については、騒音の影響を受けやすい面における屋外の騒音レベルから当該住居等について見込まれる防音性能を差し引いた値をもって評価を行うことが適当である。
 2)評価の時間
 ア)評価の期間
 環境基準は、継続的又は反復的な騒音の平均的なレベルによって評価することが適当であるため、評価の期間は、継続又は反復の期間に応じて決める必要があるが、一般的には1年程度を目安として、そのうち平均的な状況を呈する日を選定して評価することが適当である。
 イ)一日における評価の時間
 環境基準は、時間帯区分ごとの全時間を通じた等価騒音レベルと騒音影響の関係に関する科学的知見に基づいて設定されるため、時間帯区分ごとの全時間を通じた等価騒音レベルによって評価を行うことが原則である。測定を行う場合、時間帯を通じての連続測定を行うことが考えられるが、騒音レベルの変動等の条件に応じて、実測時間を短縮することも可能である。この場合、連続測定した場合と比べて統計的に十分な精度を確保しうる範囲内で適切な実測時間を定めることが必要である。
 3)推計の導入
 必要な実測時間が確保できない場合や(2)に示すように地域として環境基準の達成状況を面的に把握する場合等においては、積極的に推計を導入することが必要である。

(2)環境基準の達成状況の地域としての把握の在り方
 一般地域(道路に面する地域以外の地域)においては、騒音の音源が不特定・不安定であるが、道路に面する地域と比べると地域全体を支配する音源がなく、地域における平均的な騒音レベルをもって評価することが可能であると考えられることから、原則として一定の地域ごとにその地域を代表すると思われる地点を選んで評価することが適当である。
 道路に面する地域においては、一定の地域ごとに面的な騒音曝露状況として地域内の全ての住居等のうちの基準値を超過する戸数、超過する割合等を把握することによって評価することが適当である。この場合、地域内の全ての住居等における騒音レベルを測定することは極めて困難であるため、当面は実測に基づく簡易な推計によることが考えられるが、並行して、各種の推計モデルを用いた計算による騒音の推計手法を確立することが必要である。

3.評価手法の変更に伴う環境基準値の再検討に当たっての考え方
(1)科学的知見の集積と社会実態の変化
 今回の評価手法の変更に伴う環境基準値の再検討に当たっては、現行環境基準が設定されてから約25年が経過し、この間に騒音影響に関する新たな科学的知見の集積、建物の防音性能の向上等の変化が見られることから、騒音影響に関する科学的知見について、睡眠影響、会話影響、不快感等に関する等価騒音レベルによる新たな知見を検討するとともに、建物の防音性能について、最近の実態調査の結果等を踏まえて適切な防音性能を見込むことが適当である。

(2)地域補正等
 環境基準の指針値を導くに当たっては、土地利用形態に着目した地域補正を行うことが適当である。
 また、後述するように、道路に面する地域においては、地域補正に加えて、道路の属性及び道路への近接性に着目した指針値設定を行うことが適当である。

(3)騒音影響に関する屋内指針の設定
 環境基準の指針値の検討に当たっては、生活の中心である屋内において睡眠影響及び会話影響を適切に防止する上で維持されることが望ましい騒音影響に関する屋内騒音レベルの指針(以下「騒音影響に関する屋内指針」という。)を設定し、これが確保できることを基本とするとともに、不快感等に関する知見に照らした評価を併せて行うことが必要である。
 騒音影響に関する屋内指針は、睡眠影響及び会話影響に関する科学的知見を踏まえ、表1のとおりとすることが適当である。(表1参照)

(4)建物の防音性能
 建物の防音性能については、通常の建物において窓を開けた場合の平均的な内外の騒音レベル差(防音効果)は10dB、窓を閉めた場合は建物によって必ずしも一様でないが、通常の建物においておおむね期待できる平均的な防音性能は25dB程度であると考えられる。

(5)時間帯の区分
 現行の環境基準では、昼間、夜間に加えて朝、夕の時間帯を設けているが、特に朝、夕の時間帯に固有の騒音影響に関する知見がないこと等を考慮して、朝、夕の時間帯の区分は設けないこととすることが適当である。
 昼間、夜間の時間帯の範囲については、平均的な起床・就眠の時刻を参考にすると、昼間は午前6時から午後10時まで、夜間を午後10時から翌日午前6時までとして、都道府県等による差を設けず、一律に適用することが適当である。

(6)対象騒音の範囲
 現行の環境基準は、航空機騒音、鉄道騒音及び建設作業騒音には適用しないものとされており、今回の環境基準の指針値の検討に当たってもこの考え方を踏襲することとする。

4.一般地域における環境基準の指針値
(1)一般地域の地域補正を行う類型区分
 一般地域については、前述の地域補正の考え方を踏まえ、現行の環境基準と同様にA地域(主として住居の用に供される地域)、B地域(相当数の住居と併せて商業、工業等の用に供される地域)及びAA地域(療養施設、社会福祉施設等が集合して設置される地域等特に静穏を要する地域)の類型ごとに指針値を設定することが適当である。

(2)一般地域の環境基準の指針値
 3.に示した考え方により、A地域について望ましいレベルを導くとともに、これに地域補正を加えて検討した結果、一般地域の環境基準の指針値を表2のとおりとすることが適当である。(表2参照)

5.道路に面する地域の環境基準の指針値
(1)道路に面する地域の範囲等
 道路に面する地域については、一般地域とは別に環境基準の指針値を設定することとするが、A地域のうち、1車線の道路(幅員が5.5m未満の道路をいう。)に面する地域については、道路交通騒音が支配的な音源である場合が少ないと考えられるので、一般地域の環境基準を適用することが適当である。
 また、AA地域については、当該地域の特性にかんがみ、道路に面する場合であっても補正を行わず、一般地域の環境基準を適用することが適当である。
 道路に面する地域の指針値を適用する範囲は、道路交通騒音が支配的な音源である範囲とすることが適当であり、道路からの距離により道路に面する地域の範囲を規定することは適当ではない。

(2)道路に面する地域の環境基準の類型区分等
 1) 土地利用形態による類型区分
 道路に面する地域の類型区分については、我が国の都市の一般的な構造を踏まえ、専ら住居の用に供される地域(以下「C地域」という。)並びに、主として住居の用に供される地域(C地域を除く。)及び相当数の住居と併せて商業、工業等の用に供される地域(以下「D地域」という。)とすることが適当である。
 2) 幹線交通を担う道路に近接する空間(以下「幹線道路近接空間」という。)における特例の必要性
 幹線道路近接空間については、その騒音実態、居住実態等の実情にかんがみれば、道路に面する地域の類型区分に応じた環境基準の指針値を一律に適用することは適当でなく、別途固有の環境基準の指針値を設定して総合的な対策の目標とする必要があると考えられる。
 すなわち、欧米諸国と比較して狭隘な国土に高密度の人口集積がある我が国の国土条件の下においては、土地利用形態による類型区分にかかわらず道路交通や地域の状況によっては屋外の騒音低減対策には物理的あるいは技術的な制約があることに加え、現実に幹線道路近接空間において居住実態があり、行政としてはその生活環境を適切に保全することが必要であるため、幹線道路近接空間について、その特別な条件を前提とした上で、道路に面する地域の屋内指針を満たすことができる範囲内で固有の目標を環境基準の指針値の特例として定め、これによって幹線道路近接空間の特別な条件に対応した具体的な施策の推進を促すこととすることが適当である。
 この場合、幹線交通を担う道路の範囲は、道路網の骨格を成す道路が該当するように定めること、また、幹線道路近接空間の範囲は道路端からの距離により定めることとし、具体的な距離は、騒音の減衰特性、家屋の立地状況等を勘案して定めることが適当である。
 3) 幹線道路近接空間における指針値の特例
 幹線道路近接空間の指針値の特例については、その居住実態等を踏まえ、窓を閉めた屋内において騒音影響に関する屋内指針が確保されるよう屋外の指針値を導出することとする。この場合、昼間70dB以下、夜間65dB以下とすることが考えられ、このレベルが確保されていれば、ある程度窓を開けた状態でもかなりの程度の会話了解度が確保できると考えられること、不快感等に関する知見に照らしても容認しうる範囲内にあると考えられること等から、住居全体としては生活環境を適切に保全することができるものと考えられる。
 また、このレベルは土地利用形態による類型区分にかかわらず設定するものであるが、結果として、幹線道路近接空間全体として現行の環境基準値と同等の範囲内であると考えられる。
 幹線道路近接空間に存する住居等(以下「幹線道路近接住居等」という。)については、主として窓を閉めた生活が営まれている場合には、必要な防音性能を確保することにより屋外で環境基準の指針値が達成された場合と実質的に同等の生活環境を保全することができると考えられる。
 幹線道路近接空間においては、地域の状況によっては屋外の騒音低減対策のみでは早期に十分な改善を図ることが困難であると考えられることから、地域の実情に応じて屋外騒音の低減のための諸対策と併せて防音性能の向上を含む沿道対策の推進を促すことが必要である。環境基準は原則として屋外の騒音レベルについて設定されるものであり、屋内の指針値は環境基準とは別の対策目標として位置付けることが適当ではないかという考え方もあるが、環境基準は屋外の騒音レベルで示すことを原則としつつも、幹線道路近接空間については、その特別な条件にかんがみ建物の防音性能の向上等の沿道対策の推進も視野に入れた対策の目標として環境基準を機能させるため、その指針値の特例の中で屋内の指針値を位置付けることが適当である。
 このため、騒音の影響を受けやすい面の屋内において主として窓を閉めた生活が営まれていると認められる住居等については、幹線道路近接空間における指針値の特例として設定した屋外の指針値に代わるものとして、屋内へ透過する騒音(以下、単に「透過する騒音」という。)に係る指針値を設定し、これを適用することができるものとすることが適当である。
 透過する騒音に係る指針値は、以上の趣旨で導入するものであり、生活環境の保全を図る観点からその適切な運用を図る必要がある。

(3)道路に面する地域の環境基準の指針値
  3.に示した地域補正等の考え方及び(2)を踏まえ検討した結果、道路に面する地 域の環境基準の指針値を表3のとおりとすることが適当である。(表3参照)
 
6.環境基準の指針値の達成期間等
(1)一般地域の環境基準の指針値の達成期間
 一般地域においては現行環境基準と同様に、環境基準設定後直ちに達成又は維持されるよう努めるものとすることが適当である。

(2)道路に面する地域の環境基準の指針値の達成期間
 新たに設置する道路においては、道路に面する地域の環境基準の指針値が供用後直ちに達成されるよう努めることとすることが適当である。
 既設道路においては、環境基準の指針値を現に下回っている場合にはこれを維持し、現に超過している場合には、関係行政機関及び関係地方公共団体の協力のもとに、自動車単体対策、道路構造対策、交通流対策、沿道対策等を総合的に講ずることにより10年を目途として達成されるよう努めるものとすることが適当である。また、幹線交通を担う道路に面する地域であって、交通量が多くその達成が著しく困難なものにおいては、対策技術の大幅な進歩、都市構造の変革等と相俟って、10年を超えて可及的速やかに達成されるよう努めるものとすることが適当である。

(3)幹線交通を担う道路の著しい騒音が直接到達する住居等の達成評価
 幹線道路近接住居等に準ずるものとして、幹線道路近接空間の背後のC地域又はD地域に立地している中高層の集合住宅などで、その中高層部に生活の中心があり、そこへ道路からの著しい騒音が直接到達している場合、騒音レベルとしては幹線道路近接住居等ほどではないにせよ、広い範囲から騒音が到達するため、屋外騒音を低下させることが困難である場合が多い。
 したがって、このような住居等において、騒音の影響を受けやすい面において主として窓を閉めた生活が営まれていると認められる場合にあっては、建物の防音対策の推進を促す見地からも、その屋内で透過する騒音に係る指針値を満たす場合には、環境基準を達成しているとみなすことが適当である。
 このような達成評価は、以上の趣旨で行うものであり、生活環境の保全を図る観点からその適切な運用を図る必要がある。

(4)幹線道路近接空間における騒音対策の総合的推進
 幹線道路近接空間に立地する住居等において、騒音の影響を受けやすい面の屋内において主として窓を閉めた生活が営まれていると認められる場合には、屋内へ透過する騒音に係る指針値によることができることとするものであるが、地域の実情等に応じて、自動車単体対策、道路構造対策及び交通流対策による屋外騒音の低減対策と建物の防音性能の向上を含む沿道対策を適切に組み合わせることにより環境基準の達成に努める必要がある。
 幹線道路近接空間における指針値の設定は幹線交通を担う道路に近接して住居等が多数立地する我が国の国土条件等を踏まえたものであるが、幹線交通を担う道路に面して大規模な再開発を行おうとする場合等において可能な場合には当該道路の沿道に非住居系の土地利用を誘導するよう努めることが適当である。また、住居立地が避けられない場合においては、一定の防音性能の確保を求めていくことが必要である。
 さらに、幹線交通を担う道路の新設に当たっては、道路計画において騒音低減のための可能な限りの配慮を行うとともに、周辺の土地利用状況を踏まえつつ、沿道における非住居系の土地利用への誘導や建物の防音性能の確保等の沿道対策を道路計画と一体的に計画していくよう努める必要がある。

(5)高騒音地域における対策の優先的実施
 平成7年3月の中央環境審議会答申において、「21世紀初頭までに道路に面する住宅等における騒音を夜間に概ね要請限度以下、その背後の沿道地域における騒音を夜間に概ね環境基準以下に抑える」ことが当面の目標とされており、各地域レベルの対策協議もこの方向で進行中である。
 したがって、対策の継続性の観点から、夜間の現行要請限度を総合した値として、夜間等価騒音レベル73dBを目安として、これを超える地域における騒音対策を優先的に実施するものとすることが適当である。

7.今後展開するべき施策
(1)道路に面する地域について今後展開するべき施策
 平成7年3月の中央環境審議会答申「今後の自動車騒音低減対策のあり方について(総合的施策)」及びその後の社会情勢の推移等を踏まえ、道路交通騒音対策を強力に推進するとともに、新たな環境基準の達成を図るために、特に以下の施策を早急に展開する必要がある。

ア)自動車単体対策の促進と低騒音な自動車の普及
 平成4年中央公害対策審議会中間答申及び平成7年中央環境審議会答申において示された自動車単体に係る騒音の許容限度設定目標値の早期達成に努めるとともに、更なる自動車単体の騒音低減に努める必要がある。
 また、従来型の自動車に比較して低騒音な電気自動車、CNG車等の低公害車の大量普及を促進する必要がある。

イ)高騒音地域にプライオリティを置いた対策の段階的かつ計画的な実施
 騒音の状況が深刻な地域における関係機関の対策協議を一層促進し、高騒音地域の解消を図り、次いで環境基準の達成を目指して、総合的かつ計画的な対策推進を図るための枠組みを強化する必要がある。
 なお、一般国道43号及び阪神高速道路(県道高速神戸西宮線及び県道高速大阪西宮線)に係る訴訟における最高裁判決は、個別の事案における民事賠償責任について、侵害行為の態様と侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の事情をも考慮し、これらを総合的に考察した結果示された判断であると考えられ、全国的には本報告に示す環境基準の指針値を対策の目標として、その達成に向けて施策の段階的かつ計画的な実施が必要である。

ウ)沿道対策の推進強化
  欧米諸国の対策の考え方を参考として、道路沿道への住居立地に当たっては、地域の特性に応じて、その構造を防音性能が高く、騒音の影響を受けにくいものとするよう普及啓発を行うことが必要である。また、道路の新設に当たっては、沿道対策を一体的かつ計画的に推進していくことに努める必要がある。
 また、我が国の沿道対策に関する代表的な制度としては「幹線道路の沿道の整備に関する法律」があり、今後とも道路交通騒音が深刻な地域での対策手段として、その充実と適用拡大を図るべきであるが、さらに、幹線道路近接住居等の屋内へ透過する騒音に係る指針値等に対応して、既設住居については防音工事助成の抜本的な拡充を図るとともに、沿道耐騒音化対策のための規制や助成のスキームを整備すべきである。
 さらに、上記の施策のための基本的条件として、敷地の騒音状況に関する情報提供や住宅の防音性能を入居者に対して明示させる方策等を確立するべきである。

エ)新環境基準に対応したモニタリング体制の確立
 道路に面する地域の環境基準について示した道路交通騒音の基準超過戸数等による評価を実施するに当たっては、騒音レベルの推計方法の開発や沿道土地利用に関する各種データベースの整備等多くの課題があるが、国と地方公共団体の緊密な連携の下に、早急にモニタリングのための体制整備を図る必要がある。このため、地方公共団体における適切なモニタリングの実施のための支援措置を講じるとともに、的確で効率的なモニタリングを行うための技術開発を促進する必要がある。

(2)その他の騒音対策等
 1) 道路交通以外に起因する騒音の対策
 法に基づく現行の規制を適切に実施するとともに、技術開発の促進、移転に対する支援等の土地利用対策等を進めることが必要である。また、近隣騒音を防止するため、普及啓発等の対策を進める必要がある。
 2) 科学的知見の充実
 環境基準の指針値は、現時点で得られる科学的知見に基づいて設定されたものであるが、常に適切な科学的判断が加えられ、必要な改定がなされるべき性格のものである。このためには、騒音の睡眠への影響、騒音に対する住民反応等に関し、特に我が国の実態に基づく知見の充実に努めることが必要である。

むすび
 以上に示した新たな環境基準の検討結果においては、騒音の評価手法について等価騒音レベルに変更するとともに、個別の住居等の騒音レベルによる評価を基本とすることとしており、これにより、騒音のより適切な評価が可能となるとともに、環境基準が生活環境保全の目標としてより効果的に機能を果たすことが可能となる。
 また、環境基準の指針値については、騒音影響に関する等価騒音レベルによる新たな科学的知見等に基づいて導いたものであるが、一般地域及び道路に面する地域ともに現行の環境基準値に比べ全体として強化されたものとなっている。
 幹線道路近接空間における指針値の特例は、我が国の国土条件、自動車交通の状況等の下で、このような空間に現実に住居等が多数立地し、また、対策面での制約等があることを踏まえ、その生活環境を適切に保全するために設けたものであるが、これは、環境基準の対策の目標としての性格を重視し、効果的な沿道対策等を促すものとすることが重要と判断したものである。
 政府は、以上のような趣旨を踏まえ、その適切な運用を図りつつ、環境基準の達成に向けて、制度的枠組みの拡充を含め総合的な騒音対策の推進に取り組むべきである。

表・参考資料