これからの環境教育・環境学習
−持続可能な社会をめざして−


中央環境審議会




はじめに


 環境問題の深刻化、複雑・多様化等を背景に、環境教育・環境学習の重要性を訴える声が高まりを見せる中、平成10年7月13日、環境庁長官から中央環境審議会に対し、環境教育・環境学習の推進方策の在り方について諮問がなされた。
 企画政策部会に設置された環境教育小委員会では、国民の皆さんの声を審議に反映させるため、2度にわたり一般意見公募を行うとともに、関連団体等からのヒアリングも実施しながら、 環境教育・環境学習の推進方策について検討を重ねてきた。これらも踏まえ、ここに、本審議会は、「これからの環境教育・環境学習−持続可能な社会をめざして−」を答申するものである。

 我が国における環境教育・環境学習は、全国各地で、様々な主体による多様な実践活動が積み重ねられる中で発展してきた。環境教育・環境学習がさらに力強い歩みを重ねていくために、これらの多様な実践活動や、今日の環境・環境問題等をめぐる様々な社会的要請をふまえ、環境教育・環境学習の理念を改めて問い直し、その方向性を明確に示していくことが求められている。
 本審議会では、環境教育・環境学習は持続可能な社会の実現を目指して行うものであるとの認識のもと、その推進方策を検討してきた。持続可能な社会の実現のためには、環境問題のみならず、現在のライフスタイルや社会システムを構成している様々な事項、側面にも目を向けていかなければならないことは言うまでもない。
 これは、環境教育・環境学習が、特定の人たちだけが特定の場で取り組む活動から、社会を構成するすべての人たちが、環境のみならず、社会や経済、そして人間の精神的な側面なども見据えた上で、各人の毎日の生活、活動に、持続可能な社会の実現につながる具体的な行動を組み込んでいくものへとシフトすることの必要性を意味するものでもある。

 なお、現在、本審議会では、環境基本計画の見直しに向けた審議も行っているが、この中で、国民の皆さんの幅広い参画も得ながら、私たちが目指すべき持続可能な社会の在り方について検討を重ね、その具体的な姿を示したいと考えている。

 本審議会では、本答申で提示された具体的な施策が速やかに実施されることはもちろんのこと、本答申をきっかけに、国民の皆さんが、21世紀の到来を前に、来るべき世紀を持続可能なものにするにはどうしたらよいか、また、そのための教育・学習はどう在るべきかについての議論を深め、「持続可能な社会づくり」に積極的に参画されることを期待する。


平成11年12月


 

目   次


1 環境教育・環境学習の役割の高まり

2 今、なぜ環境教育・環境学習か

3 環境教育・環境学習の基本的な考え方

4 発展し、広がる環境教育・環境学習のために

5 おわりに−実効ある取組に向けて−

参 考




 

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1 環境教育・環境学習の役割の高まり


(1)今日の環境問題

 今日の環境問題は、大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済活動やライフスタイルの定着化、人口や社会経済活動の都市への集中等を背景とし、自動車交通量の増大等による大気汚染、生活排水による水質汚濁、廃棄物の量の増大、身近な自然の減少などから、地球温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨、熱帯林の減少といった地球規模の環境問題に至るまで、多様化、深刻化している。また、いわゆる環境ホルモン問題やダイオキシン類による健康影響などに関する国民の関心も高まっている。
 これらは、これまでの公害問題とは異なり、一企業内や産業界、一地域における対策のみでは解決し切れないものである。また、地球環境問題や化学物質による問題の中には、それが引き起こす詳細な影響や、生じた影響をくい止めたり、回復するための方策について、必ずしも十分な科学的知見を持ち合わせていないものもあり、不確実性が存在する。
 このような今日の環境問題の特質と、その対応にあたって必要な視点をまとめると以下のとおりである。

○複合的にたくさんの要素が絡み合って構成されており、生活環境や自然環境といった分野別にとらえるだけではなく、環境そのものを総合的にとらえる必要がある。
○その多くは、国民の日常生活、事業者の通常の事業活動から生ずる環境への負荷によって生じるものであり、その解決には、国民生活、事業活動の在り  方そのものを環境への負荷の少ないものに変えていくことが必要であり、根本的には我が国の社会の在り方自体を環境に配慮したものに変えていくことが必要となる。
○地球規模の空間的広がりと将来世代にわたる時間的広がりを持っており、国際的な連携のもと、科学的知見の充実と未然防止を旨とした対策が必要である。


(2)環境政策の流れと環境教育・環境学習

 今日的な環境問題に対応するため、平成5年に環境基本法が制定され、新たな施策として環境基本計画、環境影響評価、経済的措置、環境負荷の低減に資する製品等の利用の促進、環境教育・環境学習、民間団体等の自発的活動支援、情報の提供、地球環境保全に係る国際協力等が位置付けられた。
 同法では、「国は、環境の保全に関する教育及び学習の振興並びに環境の保全に関する広報活動の充実により事業者及び国民が環境の保全についての理解を深めるとともにこれらの者の環境の保全に関する活動を行う意欲が増進されるようにするため、必要な措置を講ずるものとする。」と規定し、環境教育・環境学習の振興を法制上明確に位置付けている。
 また、環境基本法を受け、翌年に閣議決定された環境基本計画においては、「循環」「共生」「参加」「国際的取組」の4つを環境政策の長期的な目標として、この目標の実現に向けて施策の方向が提示されている。
 環境基本計画においては、環境教育・環境学習を「参加」を促すための重要な施策として位置付け、「各主体の自主的積極的行動を促進するため、国は、環境教育・環境学習等を推進し、環境保全の具体的行動を促すための施策を講じ、情報の提供を進める。」こととした。同計画では、さらに、環境教育・環境学習の意味・理念について、

○持続可能な生活様式や経済社会システムを実現するために、各主体が環境に関心を持ち、環境に対する人間の責任と役割を理解し、環境保全活動に参加  する態度及び環境問題解決に資する能力を育成すること
○幼児から高齢者までのそれぞれの年齢層に対して推進するもの
○学校、地域、家庭、職場、野外活動の場等多様な場において互いに連携を図りながら、総合的に推進するもの

と整理するとともに、推進に当たって重視・留意すべき点として、

○自然の仕組み、人間の活動が環境に及ぼす影響、人間と環境の関わり方、その歴史・文化等について幅広い理解が深められるようにすること
○知識の伝達だけではなく、自然とのふれあい体験等を通じて自然に対する感性や環境を大切に思う心を育てること
○特に、子どもに対しては、人間と環境の関わりについての関心と理解を深めるための自然体験や生活体験の積み重ねが重要であることを指摘している。

 これらはとりもなおさず、持続可能な社会の実現に向けたソフト面における政策手法の1つとして、環境教育・環境学習の重要性を認識し、その位置付けを行ったものといえる。
 さらに、個別の環境問題への対応としても環境教育・環境学習の果たす役割が高まっているところである。例えば、地球温暖化対策としては、「地球温暖化対策推進大綱」(平成10年6月、地球温暖化対策推進本部決定)において、国民のライフスタイルの見直しを地球温暖化対策の重要な柱の1つとして掲げ、そのための環境教育・環境学習の充実の重要性を指摘しているとともに、「地球温暖化対策の推進に関する法律」に基づく「地球温暖化対策に関する基本方針」(平成11年4月、閣議決定)においても、広範な社会経済システムを温室効果ガスの削減等が図られるように転換していくための手法の1つとして環境教育が掲げられている。また、「ダイオキシン対策推進基本指針」(平成11年3月、ダイオキシン対策関係閣僚会議決定)においても、廃棄物処理及びリサイクル対策の推進のための幅広い環境教育・環境学習の充実強化の必要性が指摘されている。



 

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2 今、なぜ環境教育・環境学習か


(1)環境教育・環境学習の意義

 地球環境は、すべての生命の生存基盤であり、私たち人類はその大きな恵みに支えられてこそ健康で文化的な生活を送ることができる。  しかしながら、この限りある地球環境が、人類が与える負荷によってまさに損なわれつつある。このまま人類が、大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済活動やライフスタイルを続けると、地球環境に取り返しのつかない影響を及ぼすことは明白である。
 こうした危機的状況に対処するには、持続可能な社会の実現に向け、現在の社会経済活動やライフスタイル、そしてそれを支える社会システムを根本的に見直すことが不可欠である。そのためには、国民一人ひとりが、環境が人類に与える計り知れない恵みを理解し、環境を大切に思う気持ちを育むことが大切であり、その上で、それぞれの日常行動が環境にどのような影響を与えているか、また、そのことが自分たちの生活や将来の世代にどのような影響を及ぼすかなど、人間と環境との相互作用について正しく認識し、実際の行動に生かしていく必要がある。
 今日の環境教育・環境学習を、環境基本計画の趣旨にのっとり整理すると、「環境に関心を持ち、環境に対する人間の責任と役割を理解し、環境保全活動に参加する態度や問題解決に資する能力を育成すること」を通じて、国民一人ひとりを「具体的行動」に導き、持続可能なライフスタイルや経済社会システムの実現に寄与するものと位置付けられる。
 自然環境保全基本方針などの自然保護政策において強調されてきた自然のメカニズムや人間と自然との正しい関係についての理解や、自然に対する愛情とモラルの育成は、国民の環境保全思想を高め、生活・社会全般における環境保全行動を促す上で相応の効果を上げてきたことは疑いない。
 しかしながら、今日の環境教育・環境学習には、さらにこれを一歩進めて、国民の日常生活や社会活動において環境負荷の少ない行動様式を具体的に現実のものとし、持続可能な社会の実現に目に見える役割を果たすことが期待されていると言える。
 また、環境問題の解決のためには、新たな問題の発生を未然に防止していくための行動力や環境に配慮した技術の開発や研究を進めることも必要であり、環境教育・環境学習には、このような面からの期待も高まっている。
 一方、地域住民によるまちづくりの重要性の強調、さらには国におけるパブリック・コメント制度の導入等にもみられるように、国民が政策形成に参画することの重要性が指摘されている。環境政策においても例外ではない。
 平成9年には、環境基本法の基本理念のもと、事業の実施による環境影響について調査、予測及び評価を行うとともに、住民意見の反映等の広範な情報交流を通じて事業内容に適切な環境配慮を組み込むための仕組みとして「環境影響評価法」が制定された。さらに、ダイオキシンなど化学物質による環境の汚染の未然防止に関する国民の関心が高まる中、平成11年7月には、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」が公布され、工場等から環境中に排出される各種化学物質の量について公表されることとなり、国民の理解のもと、化学物質の排出の低減が期待されることとなった。また、「ダイオキシン類対策特別措置法」においても、廃棄物焼却炉等からの排出濃度の測定結果について公表され、国民の監視下におかれることとなる。
 このような新たな流れをみても、環境政策を進める上で、国民の参画を得ていくことが求められており、そのためには国民が環境への関心や環境の現状等に関する正しい認識を持つことに加え、住民意識を持って政策の意思決定のプロセスに関わっていくことも重要であり、ここにも環境教育・環境学習のさらなる意義が認められる。なお、これらの前提として、環境に関する行政情報が公開され、住民・民間団体の有する情報・意見等との交流が進み、的確に情報が共有される必要がある。


(2)持続可能な社会と環境教育・環境学習

 以上のような今日的な意義への認識のもと、環境教育・環境学習が、持続可能な社会の実現に具体的にどのような役割を果たし得るかを検討しておくことが必要である。
 国民の環境問題への関心は高まり、環境保全が必要だという理解は進んでも、それが環境保全のための具体的な行動に結びつきにくいことが指摘されている。これは、「他の誰かにまかせておけばよいだろう」「何をしたらよいのか分からない」「行動したとしても、それがどういう効果があるのか分からない」などという思いによるものと思われる。
 例えば地球温暖化防止のための日常生活における取組についての考えを尋ねた調査によると、「積極的に取り組む」と答えた人は全体の7.7%と少数である。しかしながら、「できる部分があれば取り組む」と答えた人は、全体の66.4%に及んでいることから、国民が、現実に生じている環境問題と自分たちの生活行動には密接な因果関係があり、自ら実践することができる様々な対策があることへの認識を高めれば、具体的行動に結びつきやすくなるものと考えられる。

 <参考>  地球温暖化防止のため、個人の日常生活においての取り組み
(地球環境とライフスタイルに関する世論調査、総理府、平成10年11月)


 したがって、自らの行動を具体的にどう変えればよいのか、そのことにより、どのような効果が得られるのか、また、それを支えるどのような社会的な仕組みが存在するのか等を情報として適切に整理し、各主体に伝えていくことが必要である。これらを通して、各主体に環境重視の価値観や行動規準を確立するよう促すことも必要であろう。環境教育・環境学習はこれらのための重要なツールとなり得るものである。


<参考>
持続可能な開発

 「持続可能な開発」の概念は、国連の「環境と開発に関する世界委員会」(通称ブルントラント委員会)報告書(1987年)において打ち出されたものであり、「将来の世代の欲求を充たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」と定義され、そこに含まれる鍵となる概念として、「何にも増して優先されるべき世界の貧しい人々にとって不可欠な必要物の概念」と「技術・社会的組織のあり方によって規定される、現在及び将来の世代の欲求を満たせるだけの環境の能力の限界についての概念」が示されている。
 この概念は、その後の地球環境保全のための取組の重要な道しるべとなっている。

(訳:大来佐武郎監修「地球の未来を守るために」,1987,福武書店 より)


 一方、持続可能な社会の姿やそれに至る道筋について、国民一人ひとりが自ら考えて、これに答えを出していくプロセスも環境教育・環境学習の重要な要素である。すなわち、環境教育・環境学習は、全地球的なこと及び将来世代のことにまで、視野を空間的・時間的に広げていく活動であり、それを通じて、持続可能な社会のビジョンを自ら描き、その実現に向けて取るべき行動を選び取っていくことが期待される。
 こうした一人ひとりの意識の深化・発展が、ひいては社会全体のパラダイムの転換につながり、環境問題の本質的解決の道を開くともの考えられる。
 環境学習講座で学んだ市民が、自分たちの地域の現状を知り、自ら環境学習の場をつくり、一緒に活動できる仲間を増やし、環境を意識したまちづくりのビジョンを描き、市民版ローカルアジェンダづくりにまでつなげていった事例なども大いに参考になる。
 もちろん、持続可能な社会は、環境教育・環境学習のみをもって実現されるものではなく、規制、経済的措置、社会資本整備、技術開発などとの適切な組み合わせによって達成されていくものであるが、このような環境政策を推進するためには、社会的な合意が前提となるものであり、これら社会的合意形成を促す基盤づくりも環境教育・環境学習が担っている。

 以上をまとめれば、環境教育・環境学習は、人間と環境との関わりについての正しい認識にたち、自らの責任ある行動をもって、持続可能な社会の創造に主体的に参画できる人の育成を目指すものと言えよう。



 

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3 環境教育・環境学習の基本的な考え方


(1)環境教育・環境学習の基礎

 環境教育・環境学習は、持続可能な社会の実現を指向するものである。言い換えれば、持続可能な社会の実現に向けた全ての教育・学習活動やそのプロセスは環境教育・環境学習と言える。
 このような意味からも、環境教育・環境学習が扱う内容は、例えば、自然、大気、水、廃棄物、エネルギー、化学物質、消費、歴史、文化、食、住居、人口など、極めて多岐にわたるものである。
 国際的にも、環境教育・環境学習の対象に開発や貧困、食糧、人口などの問題を含める方向で議論されている。国連環境開発会議(地球サミット、1992年)で示された「アジェンダ21」では、貧困、消費、人口、健康、居住、意思決定等の社会的・経済的側面を始め、開発資源の保護と管理、主たるグループの役割の強化などあらゆる分野にわたる行動計画が示されているが、この中で、「教育、意識啓発及び訓練の推進」はこれらすべての分野と関連しているとされている。これ以降、持続可能性に向けた教育が国際的に着手されている。


<参考>
テサロニキ宣言
 1997年に、ギリシャ政府とUNESCOによって開催された「環境と社会に関する国際会議−持続可能性のための教育とパブリック・アウェアネス」においては、持続可能性のための教育は、持続可能な未来を達成するための手段として考えられ、人口、貧困、環境劣化、民主主義、人権と平和、開発と相互依存などの概念に関して、統合するようなものとしてとらえられている。本会議で採択された「テサロニキ宣言」においては、「環境教育を『環境と持続可能性のための教育』と表現してもかまわない」としている。
(宣言抜粋) 6 持続可能性を達成するために、多くの重要なセクター内で、及び消費と生産パターンの変化を含む急速で抜本的な行動とライフスタイルの変化の中において、取組の大掛かりな調整と統合が求められている。このために適切な教育とパブリック・アウェアネスが法律、経済及び技術とともに、持続可能性の柱の一つとして認識されるべきである。
10 持続可能性に向けた教育全体の再構築には、全ての国のあらゆるレベルの学校教育・学校外教育が含まれている。持続可能性という概念は、環境だけではなく、貧困、人口、健康、食糧の確保、民主主義、人権、平和をも包含するものである。最終的には、持続可能性は道徳的・倫理的規範であり、そこには尊重すべき文化的多様性や伝統的知識が内在している。

(訳:(財)地球環境戦略研究機関)


 環境教育・環境学習で扱う領域、テーマは幅広く、多様であることから、その入り口は広く開かれていると言える。一方、その目指すところは持続可能な社会の実現に収れんされる。
 このような意味からも、どのような領域、テーマからアプローチしようと、その基礎として共通に理解を深めるべき内容がある。

 <参考> 市区町村におけるテーマ別の環境教育・環境学習実施状況
(環境教育の総合的推進に関する調査、環境庁、平成10年3月)


 それは、人間と自然とのかかわりに関するものと、人間と人間とのかかわりに関するものに大別できる。  前者は、人間と人間以外の生物あるいは無生物とのかかわりを学ぶことを通じて、人間と環境とのかかわりを理解することである。また、環境が、大気、水、土壌及び生物等の間を物質が循環し、生態系が微妙なバランスを保つことによって成り立っていることや、環境が本来持つ回復能力には限度があり、事業活動や日常の消費など人間活動による、環境の回復能力を超えた資源採取や不用物の排出などは、確実に資源の減少や環境汚染などの問題を生みだすことなどに関するものである。
 後者は、将来世代の生活とのかかわり(世代間公正)や、公正な資源分配など国内外における他地域の人々とのかかわり(世代内公正)に関するものであり、また、環境負荷を生み出している現在の社会システムの構造的要因への理解や、持続可能な社会システムの在り方に関する洞察、さらには、社会づくりに必要なコミュニケーションの問題、多様な社会や文化、多様な価値観への理解などに関するものも含む。
 また、これらの前提として、環境問題やそれらと関連する事象を、科学的な視点もふまえ、客観的かつ公平な態度でとらえていくことが求められる。さらに、恵み豊かな環境が人間にとって、生態的のみならず、精神的にも物質的にも、さらには、学術的にもいかに価値あるものであるかを認識し、それらを大切に思う心を育むことを重視すべきである。そのためにも、豊かな自然や良好な環境とのふれあいの体験などを通じて、豊かな感性を育て、想像力・創造力の基礎を作ることも、環境教育・環境学習の重要な側面である。
 以上のような基礎に立ち、前章でも示したとおり、持続可能な社会の実現に向け、日常生活や社会活動のすべての過程に、環境問題の本質的な解決に結びつく具体的な行動・活動を組み込んでいくことが必要である。


(2)環境教育・環境学習の実施に当たっての留意点


 すでに述べてきたような今日的な環境問題の特質及び環境教育・環境学習の意義を踏まえると、環境教育・環境学習の実施にあたっては、以下のような視点が重視されることが必要である。

@総合的であること

 今日の環境問題は、都市・生活型公害から地球環境問題に至るまで、極めて多岐にわたるが、これらは、エネルギー、食糧、人口問題を始め、現代のライフスタイルからそれを支える社会システムに至る様々な事項が、相互に関連しながら、多面的・複合的に、環境に影響を与えた結果生じている。また、環境の問題は、文化、歴史、さらには政治、経済、人間の精神的な面にも影響を与えるものである。  このような環境問題の特質を踏まえると、環境教育・環境学習においては、ものごとを相互連関的かつ多角的にとらえていく総合的な視点が欠かせない。
 また、環境教育・環境学習は、幼児から高齢者までのすべての世代において、学校、家庭、地域、職場、野外活動の場等多様な場において連携をとりながら総合的に行われることが必要である。
さらに、従来から環境教育・環境学習を担う主体として、行政、事業者、民間団体、メディア、学校、住民などの活動が強調されてきたが、持続可能な社会を実現していくために、これらの活動がパートナーシップのもと、総合的に推進されていくことが必要である。  一方、環境教育・環境学習が一つのソフト面での政策手法であることを考えると、環境情報の整備・提供、環境影響評価、経済的措置などの様々な施策、政策手法との適切な組合せ、連携を図ることにより、政策効果を高めることも重要である。

A目的を明確にすること

 環境教育・環境学習は、持続可能な社会の実現に向け、多様な場、多様な対象、多様な手法を通して総合的に行われるものであり、結果として持続可能な社会づくりへの学習者の主体的参加を促すものである。
 しかし、個々の実践場面では、例えば、ごみ問題や水質といった個別のテーマ、あるいは、川や森林といった特定の場・フィールドを基軸として行われることが多い。学習者の関心や地域の状況等により、多様なテーマ・切り口、手法、場等の中から最適なものが組み合わされて実施されるべきである。
 この際重要なのは、今行われている活動が、持続可能な社会の実現という大目標に至る全体像の中で、どういう段階にあたり、具体的に何を目的としているのかを明確にしておくことである。そのことにより、次のステップが明確になり、活動自体の自己目的化を避けることができる。
 また、地球温暖化対策や廃棄物・リサイクル対策など個別の具体的な環境政策として、環境教育・環境学習を推進するという社会的要請もあり、これに応えていくことも重要である。

B体験を重視すること

環境教育・環境学習は、各人が学びの主体として環境問題にかかわり、主体的に持続可能な社会の実現に向けて具体的な行動に結びつける資質を育てるものである。
 そのためには、環境問題の現状やその原因について単に知識として知っているということだけではなく、実際の行動に結びつけていく能力、すなわち、課題を発見すること、課題を自分なりの感じ方で探求し、客観的に分析していくこと、たくさんの情報の中から必要かつ客観的な情報を収集し活用すること、多様な選択肢の中から最善のものは何かを判断すること、問題解決のための方法を見出し実践すること、様々なデータをもとに先を見通していくこと、他者の意見に耳を傾け多様な立場の人たちと協力し合うこと、自分の意見を他者に伝えていくことなどといった多様な能力が必要とされる。
 これらは、単なる知識の習得だけでは得られるものではなく、体験型の学習により、学習者が自ら体験し、感じ、分かるというプロセスを繰り返すことにより身につくものである。したがって、環境教育・環境学習の実施に当たっては、このような手法を意識的に取り込んでいくことが必要である。
 また、環境教育・環境学習の基礎となる、自然への感性や環境を大切に思う心は、恵み豊かな自然の中で、五感を駆使して感動、驚き、畏れなどを体感したり、生活体験を積み重ねることにより、培われるものであり、特に、幼少期においては、このような良質の体験機会が重視されるべきである。

C地域に根ざし、地域から広がるものであること

 環境教育・環境学習は、生活の様々な局面で行われることが重要であり、その中心となるのは、日々の生活の場としての、多様性を持ったそれぞれの地域である。したがって、国が画一的なやり方を示すものではなく、地域や実践現場の自主性、主体性が尊重されるべきである。その際、地域の素材や人材、ネットワークなどの資源を掘り起こし、環境教育・環境学習に活用していくことが大切である。地域の伝統文化や歴史という観点を取り入れることも重要であり、そのような意味からも、先人の知恵を環境教育・環境学習に生かしていくことが望まれる。
 環境教育・環境学習を通じて、地域住民が、地域の環境の素晴らしさ、課題を理解した上で、どのような地域にしたいのかというビジョンを描き、地域づくりに主体的に参画していくことも重要である。
 また、各地域間で様々な経験を共有しあっていくことも重要である。例えば、我が国が過去に経験した激甚な公害問題や、適切な配慮を欠いた開発が環境に影響を与えた事例などから、その直接的な原因のみならず、命や健康の重み、不可逆的な環境の変化やそれに伴う損失などの影響、さらには、情報提供・把握の在り方、行政の対応、住民参加の在り方や社会意識などについての教訓を学び取り、持続可能な地域づくりに生かしていくことも重要である。
あわせて、環境教育・環境学習の実践や、それらを通じた地域づくりに関する多様な事例等を広く学び合い、共有していくことも大切である。
 一方、地域の環境問題が、地球規模の環境問題につながるという現実がある。常に地球規模の視野をもちながら、地域の問題にかかわるべきである。



 

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4 発展し、広がる環境教育・環境学習のために


(1)環境教育・環境学習の現状

 現在、国、地方公共団体における施策に加え、民間団体等が中心となり、全国各地で地域性豊かな多様な環境教育・環境学習に関する取組を展開している。
 環境庁では、幼児から高齢者までのそれぞれの年齢層に対して、多様な場における環境教育・環境学習を推進するとの観点から、学習拠点の整備、学習機会の提供、人材の育成・確保、教材・手法の提供などを行ってきている。事業者や消費者に対する意識啓発にも力を入れているところである。
 平成7年度から地方公共団体との連携のもと実施している「こどもエコクラブ事業」は、事業開始以来、参加する小・中学生の数が年々確実に増加するとともに、全国各地で子どもたちの興味・関心に基づいた地域性豊かな活動が多様に展開されている。子どもたちが、日頃の生活の中で見付けた身近なテーマから活動を始めながら、自分たちでテーマを深化させたり、活動の成果を積極的に周囲の大人に訴え掛けるなど、地域を巻き込んだ活動を展開している例も多い。1999年には、国連環境計画(UNEP)からグローバル500賞青少年部門をおくられるなど国際的にも評価が高まりつつある。
 なお、環境庁が各こどもエコクラブのサポーター(連絡調整役を担う大人)を対象に行ったアンケートによると、全体の約80%が活動を進める上で、何らかの課題を抱えていると指摘しているが、その上位は子どもの多忙さや自主性・主体性を生かした活動の難しさなど、現代の子どもをめぐる社会環境や大人の意識を反映した結果となっている。

<参考>
こどもエコクラブ活動を進める上での課題

     1 子どもたちが忙しくて活動に時間をかけられない
     2 子どもたちの集まることのできる日時を調整することが難しい
     3 サポーターが忙しくて活動に時間をかけられない
     4 子どもたちの自主性・主体性を生かした活動を行うのが難しい
     5 子どもたちの意欲・関心が低い
     6 環境に関する情報が不足している
     7 具体的な活動方法が分からない
     8 クラブの活動について相談できる人が近くにいない
     9 クラブの活動に対する子どもたちの親の参加・協力が得られない
    10 クラブの活動を行う場所の確保が難しい
    11 クラブの活動を行うのに金がかかる
    12 子どもたちの安全確保に関する不安がある
    13 その他
(環境保全活動を行う子ども等に関する調査、環境庁、平成10年3月)


 また、文部省を始め、各省庁においても、環境教育・環境学習関連の様々な施策を実施しているところである。
 しかしながら、国の施策に関しては、各省庁間での縦割りの弊害を指摘する声や、施策に関する情報が国民に広く行き渡っていないなどの指摘も多い。
 一方、環境学習が根付き、活発な活動が行われている地域をみると、例えば、モデル事業など国の施策の後押しが、地域における環境学習の推進に有効に機能している例も認められる。
 地方公共団体においては、都道府県が策定する環境総合計画の中で環境教育・環境学習の推進が位置付けられているところであるが、さらに「環境学習基本方針」「環境学習プラン」等を策定し、環境教育・環境学習推進の具体的な方向性、指針を示している例も増えてきている。このような制度的な位置付けのもと、人材育成、学習拠点整備、情報提供整備などに取り組んでいる例が多くみられる。
一方、都道府県内部の部局間での連携の不十分さを指摘する声が、市区町村などから寄せられている。
 市区町村においても、地域の民間団体や企業等と積極的に連携しつつ、環境教育・環境学習を進める体制を整備したり、地域に密着した環境学習講座の開催など、様々な施策が展開されている。
 しかしながら、市区町村全体でみると、環境教育・環境学習を推進する上で、「マンパワーの量的な不足」「行政職員に環境の専門知識を有する人材が少ない」「予算が不十分である」などの課題を指摘する声が高い。

<参考>
市区町村が環境教育・環境学習を推進する上での課題
(環境教育の総合的推進に関する調査、環境庁、平成10年3月)

<参考>
市区町村における環境教育・環境学習関連施策の実施状況
(環境教育の総合的推進に関する調査、環境庁、平成10年3月)


 なお、環境庁が実施した「環境教育の総合的推進に関する調査」(平成10年3月)によると、市区町村で実施率が最も高いのは、「広報紙への環境関係記事の掲載」の68.5%である。一方、全国の成人男女を対象とした調査(環境にやさしいライフスタイル実態調査、環境庁、平成10年3月)によると環境情報の入手経路として、TV、新聞に次いで、「自治体の広報紙・パンフレットから入手する」と答える人が多く、過半数を超えている。住民への環境関連情報の提供、行政施策の伝達といった点においては、市区町村の広報紙が比較的有効に機能していることが伺われる。
 広報紙に続いて、住民参加の環境調査・観察会、一般向けパンフレットの作成・配布、講演会・シンポジウム等の開催なども実施率が高い。実践活動支援策としては、リサイクル・美化・緑化活動資金助成が高い実施率を示している。一方、行政内部の連絡会議の設置、人材育成・登録制度、基金の設置、人材・学習施設等に関する情報の整備など、環境教育・環境学習を推進するための仕組みづくりに資する施策は全体的に低い実施率にとどまっている。
 総じて、人口規模の大きな市区町村ほど幅広い施策を展開しているものの、例えば、「連続講座の開催」は、「講演会、シンポジウムの開催」「イベントの開催」などに比べ実施率が落ちるなど、段階的な学習機会の提供となると、人口規模の大きな市区町村においてさえ課題を抱えている。
 環境団体や消費・労働団体等の民間団体は、全国各地で地域性豊かな活動や民間国際協力などきめ細やかな活動を展開しており、一層の活躍が期待されるところである。環境庁は平成6年度から各種団体との共催で環境教育プロジェクトを5年間にわたり実施してきたが、そこで報告された数々の事例からも、日常生活の場としての地域に根ざし、かつ地球への視点の広がりをもった活動が地域住民の参加を得ながら多彩なテーマ、手法により展開されていることを伺い知ることができる。また、環境教育・環境学習に関わる個人や民間団体が緩やかなネットワークを形成しながら、活動を広げたり、深めている事例も各地で見られるようになっている。
 しかしながら、国民の環境団体の情報に対する接触状況は低い傾向がみられる(環境にやさしいライフスタイル実態調査、前出)ことから、民間団体の活動が社会的にはあまり知られていないのではないかとも推測される。環境庁が、4つの市区町で子どもを持つ親を対象に実施した環境教育・環境学習に関する家庭アンケート調査において、子どもへの働きかけに当たって影響力を持つ主体を尋ねたところ、地域差はあるものの、「家庭」「学校」の影響力を強く認識している保護者が多い一方、民間の環境団体・消費団体をあげるものは総じて少なく、民間団体との距離感をもっていることが伺える。

<参考>
子どもたちが身につけるために強い影響力をもっていると思われる主体
(環境教育の総合的推進に関する調査、環境庁、平成11年3月)


 これは、我が国の多くの民間団体に共通する財源や人材不足という問題などから、活動の広がり、情報の発信などに制約があり、民間団体の利点が十分に生かされにくい状況にあることによると考えられる。
 以上のように、各地で各主体の特性や地域性に応じた多様な取組や施策が行われ、多様な実践活動が積み重ねられている一方で、課題も多い。環境教育・環境学習を社会全体に浸透させていくためのさらなる努力が望まれる。
 なお、これまで、国、地方公共団体、民間団体等が、様々な形で環境教育に関するシンポジウムなどを開催してきており、それらの中で、実践活動の紹介や、環境教育・環境学習の推進方策等に関する議論が活発に行われてきた。今後は、これらの成果もふまえながら、さらに、社会全体の共通課題として環境教育・環境学習を推進するために必要な議論やコンセンサスづくりを行っていくことが必要である。

<参考>
環境教育に関するシンポジウム等の例

○環境教育シンポジウム’96(平成8年)

  • 主催:環境教育シンポジウム’96実行委員会
  • 「持続可能な社会づくりのためのパートナーシップを求めて」をテーマに全国会議とそれに先立ち地域会議を開催。

    ○アジア太平洋環境教育シンポジウム(平成8年11月)

  • 主催:環境庁、文部省、米国環境保護庁、国立オリンピック記念青少年総合センター
  • 日米環境保護協力協定に基づく合同プロジェクトとして開催。
  • 趣旨:「持続可能性のための環境教育」の目指すべき方向性について考える。

    ○APEC持続可能な都市のための環境教育シンポジウム(平成10年9月)

  • 主催:環境庁、仙台市
  • 趣旨:「持続可能な都市」の実現を図る上で、環境教育の役割を認識し、その推進のための課題と方策を討議し、今後の取組の道筋を明らかにする。

    ○アジア太平洋環境教育国際会議(平成11年2月)

  • 主催:環境庁、(財)地球環境戦略研究機関
  • 日米コモン・アジェンダ環境教育プロジェクトの一環として開催。
  • 趣旨:アジア太平洋地域における環境教育の推進方策等について検討。



  •  また、各取組をみると、予算やマンパワーの制約等によるものと思われるが、継続性が担保されておらず、単発の取組にとどまっている例が多く、学習段階に応じてステップアップするような継続的・段階的な学習機会が提供されるには至っていないのが実状である。さらに、各地で展開されている多様な活動に関する情報が分散しており、アクセスしにくい状況にある。
     結果として、全体としてみると、せっかく活動がなされていながら、活動自体が自己目的化してしまったり、特定の人が特定の場において行う活動に終始してしまうことになりがちであり、ライフスタイルや経済社会システムの変革はもとより、日常生活での具体的な行動に結びつきにくい例が多い。


    (2)環境教育・環境学習推進の方向

     環境教育・環境学習の現状に鑑みると、今後は、環境教育・環境学習が持続可能な社会の実現を指向するものであるとの基本認識を十分にふまえた上で、環境教育・環境学習のすそ野の拡大、多様な学習の機会・場の継続的・段階的な提供、さらには実践活動の輪を広げるための人的あるいは情報に関するネットワークの形成が課題となる。また、こうした取組を体系的かつ計画的に推進していく必要がある。
     これらを踏まえると、今後の環境教育・環境学習の推進方策は、以下のような基本的考え方のもとに再構築される必要がある。
     この際、実践体験を継続・反復することにより、具体的行動と知識・理解が相互に深化・発展することを促すことや、それにより、個々人の取組の輪が、地域の中で広がりを見せ、浸透していくという視点が必要である。
     また、環境教育・環境学習が、環境政策上の重要課題、例えば、温室効果ガスの削減目標を見据え、それを他の政策との連携のなかでどう実現していくかという視点もあわせて必要である。
     その上で、先に掲げた環境教育・環境学習の基本的視点ともあわせ、次のような方向で、その推進を図っていくことが望まれる。


    @場をつなぐ

     一人の人間は家庭に属し、同時に地域社会や、企業あるいは学校にも属している。したがって、特定の場において行動するだけでなく、それぞれの場で具体的な行動につなげていくことを促すことが重要である。そのためには、多様な場において多様な環境学習機会が提供されていることが必要であり、家庭、地域社会、職場、学校、野外活動の場等が相互に連携を図っていく必要がある。
     その際、環境教育・環境学習と銘打たない既存の様々な活動や、そのための場や機会を環境教育・環境学習という視点から見直し、積極的に活用することも検討すべきである。
     これにより、環境問題に関心を持たない、いわゆる無関心層に対するアプローチも期待できる。

    A主体をつなぐ

     環境教育・環境学習は、行政、事業者、民間団体、国民等様々な主体が取り組むべきものであり、各主体がその特徴を活かして、それぞれ積極的な環境教育・環境学習の推進・実践を担うことが期待される。
     一方、多様な主体が連携・協働しながら活動を展開するとともに、さらにそのための仕組み(システム)を地域に根付かせることにより、日常の生活や活動の流れの中で、継続的に環境教育・環境学習に取り組めるよう促すことも必要である。

    B施策をつなぐ

     環境教育・環境学習で扱われる内容は、環境問題に関するものから、環境科学に関するもの、野外活動に関するもの、環境政策、ライフスタイルや経済社会活動に関することまで多岐にわたる。このような様々な内容について、各主体の理解を促すためには、環境教育・環境学習と様々な政策手法や各主体の活動との連携を図ることが効果的である。
     たとえば、事業者等の組織の環境管理・監査は、それ自体環境教育を含む施策であり、環境影響評価においては、アセスメント対象地域の環境を学ぶことにより効果的な住民参加が期待される。また、環境研究・環境技術開発においては、その知見・成果の普及を促進することを通じて、国民が理解を増進し、環境負荷の少ない製品の利用といった面から、研究・技術開発の振興を支えることも期待できる。
     さらに、環境教育・環境学習が、持続可能な地域づくりにつながるものであるという視点に立ち、行政内部の様々な部局、施策を横断的、総合的につないでいくことも必要である。

    <参考>

    学校版エコライフ
     大阪府では、「環境にやさしい学校生活推進の手引き:ECOPAL(エコパル)探検隊」を作成。児童・生徒と教師・職員が一緒になって、省エネルギーやごみの減量化など、学校でのエコライフ活動を始めるためのプログラムを実践事例とともに具体的かつ段階的にわかりやすく解説している。これを活用して、環境にやさしい学校づくりが進められており、学校内での取組が、家庭や地域での実践にもつながっている。

    オフィスから家庭へ
     企業において、社員教育の一環として環境教育を実践し、企業活動に伴う環境負荷の低減等に取り組むとともに、社員が中心となり、1日の生活の様々な場面での環境に配慮した行動をまとめた冊子を作成するなどして、家族ぐるみでのエコライフの実践を呼び掛けている例が増えている。
     労働団体においても、職場での取組に加え、組合員とその家族を対象に「身近なところから、できることからはじめよう」と日常生活でのライフスタイルの見直しの実践を呼び掛ける運動を展開し、多くの参加者を得ている例がある。


    官民で環境教育の場づくり
     熊本県水俣市では、市民一人ひとりが、21種類にもおよぶ資源ごみ分別を実践し、ごみの減量化・資源化対策に取り組むとともに、地域をあげて水俣病教訓の発信、地域の再生などに取り組んでいる。さらに、自然や風土、文化なども生かしながら、地域全体を「環境教育の場」としてとらえ、官民協働で発足した教育旅行誘致促進協議会が、様々な施設、フィールドをつないだ環境学習・体験プログラムを用意し、他地域の人たちに対する学習・体験機会の提供にも力を入れている。

    環境教育と防災
     兵庫県西宮市では、阪神・淡路大震災の経験を踏まえ、市民が、自分の暮らしている町の歴史や自然、地理的条件などへの関心を高めるとともに、自分自身の自然観や暮らしぶりを振り返ることにより、「安全とは」「自然との共生とは」を考えるきっかけにするために、「セイフティー&エコガイド事業」を実施し、ワークシートや活動マニュアルを作成。さらに、町の自然や文化について次世代に語り継ぐとともに、災害時のリーダー役ともなる「まちの語り部養成セミナー」 を開催している。


     なお、学校教育においては、従来から、小・中・高等学校を通じて、社会科、理科、家庭科などで児童生徒の発達段階に応じた環境教育に関する指導がなされてきたが、平成10年12月に小・中学校の学習指導要領が、平成11年3月には高等学校学習指導要領が改訂され、これまでの各教科等に加え、「総合的な学習の時間」が新設されることになった。「総合的な学習の時間」においては、「自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てること」や「学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探究活動に主体的、創造的に取り組む態度を育て、自己の生き方を考えることができるようにすること」がねらいとされ、各学校の創意工夫を生かして、例えば、環境や国際理解などの横断的・総合的な課題などについて学習活動が行われる。また、開かれた学校づくりを進めるため、地域や学校の実態等に応じ、家庭や地域の人々の協力を得るなど家庭や地域社会との連携を深めるとの方向性が示されている。
     さらに、文部省の生涯学習審議会は、完全学校週5日制の実施に向け、家庭や地域社会で、子どもたちのために、様々な体験活動を意図的、計画的に提供する必要があることや、そのための体制整備に向けた提言などを盛り込んだ答申を平成11年6月にまとめた。文部省では、答申等も踏まえ「全国子どもプラン(緊急3ヶ年戦略)」を策定し、関係省庁と連携して、種々の取組を推進しているところである。

    <参考>
    全国子どもプラン(緊急3ヶ年戦略)

     文部省では、完全学校週5日制の実施に向けて、平成13年度までに、地域で子どもを育てる環境を整備し、親と子どもたちの様々な活動を振興する体制を整備することを目的として「全国子どもプラン」を策定し、次のような取組を推進している。

    ○子どもたちの活動の機会と場の拡大

  • 「子どもパークレンジャー」事業【環境庁との連携事業】
  • 「子どもの水辺」再発見プロジェクト【環境庁・建設省との連携事業】
  • 「博物館・美術館を楽しむ」ためのハンズ・オン活動の促進
  • 週末の学校の施設・機能の開放の促進  等

    ○地域における子どもの体験活動の情報提供体制の整備

  • 衛星通信利用による「子ども放送局」の創設
  • 「子どもセンター」の全国展開  等



  •  企業においては、ISO14001等の環境マネジメントシステムの構築や環境報告書の作成、企業内の環境教育や関係者との環境コミュニケーションの取組が進みつつある。さらに、住民向けの環境学習講座の開催、住民活動に対する助成・顕彰、見学施設の開放、講師派遣などを通じて、他の主体とのパートナーシップのもと、環境教育・環境学習を推進している例も見られるようになってきたところである。

    <参考>
    環境報告書

     環境報告書とは、事業者が事業活動に伴って発生させる環境に対する影響の程度や影響を削減するための自主的な取組などをまとめて公表するものであり、環境に関する経営方針、組織体制など環境マネジメントシステムに関わる内容や環境負荷物質の排出状況や環境負荷の低減に向けた取組の内容などが記載される例が多い。
     現在、民間団体の主催により、優れた環境報告書等を表彰する「環境レポート大賞」が実施されている。これは、環境情報の開示と環境コミュニケーションを促し、事業者の自主的な環境保全の取組等を促進することを目的としている。


     今後、環境教育・環境学習を推進していくためには、学校、企業、地域社会をめぐる上記のような新たな流れ、取組とも、積極的に連携を図っていくことが望まれる。
     なお、環境問題が複雑・多様化する中、研究者、技術者、教員、行政担当者などが、持続可能な社会の実現に向けて果たす役割は極めて大きいと言える。個々の専門分野の知見の充実に加え、マクロ的な視点に立ち、科学的知見をもって環境問題の本質を理解し、個々の専門分野や職務に活かしていけるような環境意識の高い人材が数多く輩出されることが急務である。その意味においても、それぞれの職場や機関における研修・教育が充実されることはもちろんのこと、大学等の教育機関において環境に関する教育内容が一層充実されることを期待する。

    <参考>
    公務員に対する研修の例

     環境庁環境研修センターでは、国、地方公共団体において環境行政を担当する職員等を対象に、職務遂行に必要な専門的知識と技術の付与等を目的にした環境行政研修を実施している。平成11年度は、行政関係研修として、環境教育研修、環境基本計画研修、自然保護研修、環境影響評価研修など19コース、国際関係研修として、地球環境保全研修、海外研修員指導者研修など6コース、分析関係研修として、機器分析研修、大気分析研修、水質分析研修など10コースなど全36コースを実施する予定である。平成10年度末までの研修修了者は延べ28,391名である。
     なお、人事院では、政府全体で取り組むべき課題や国際関係業務の増大、政策担当の専門家としての国家公務員の資質向上の必要性等に鑑み、行政研修を始め各種研修を実施している。平成11年度においては、課長補佐級や課長級を対象とした行政研修において政策課題研究として、「地球環境の現状と課題」など環境問題をテーマとして取り上げている。


    (3)環境教育・環境学習の具体的な推進方策

     以上のような方向性等を踏まえ、今後具体的に講ずべき施策を整理する。
     なお、これらの施策の推進に当たっては、地方分権、情報公開、政策評価の導入など、我が国の行政をめぐる基本的な潮流をふまえることが必要である。
     また、環境教育・環境学習の振興は、国、地方公共団体の主要な政策課題である一方で、国民一人ひとりが「いかに生きるか」という、いわば価値観をも問うものであることに留意するべきである。
     国、地方公共団体は、各地において環境教育・環境学習が展開されるよう、その理念の普及や推進のための仕組みづくりに力を入れるべきである。また、自らが実施している、あるいは実施しようとしている様々な施策に、環境教育・環境学習の視点を取り入れていくことも重要である。
     民間団体がその民間性、自主性、専門性、地域性等を生かして、環境教育・環境学習を推進していくことも大いに期待されるところである。以下のような施策の実施にあたっては、環境教育・環境学習に関するノウハウや実践経験を豊富に積み上げている民間団体や個人等との連携を積極的に図ることが望ましい。


    @推進の原動力として多彩な人材が育つ仕組みを

     持続可能な社会の実現を目指して、体験を重視した環境教育・環境学習を推進するには、環境や環境問題等に関する専門知識はもちろんのこと、環境教育・環境学習のための技能・手法を備えた多様な人材が必要である。例えば、どのような目標に立って、どのような内容、手法で活動を行うかという全体的な企画・計画を行う役割を担う人(プランナー)や、それぞれの活動の場で参加者の思いや参加者同士の関係を上手に引き出したり促進したりする役割を担う人(ファシリテーター)、さらに、様々な人や団体、場とのネットワークづくりやそのつなぎ役として調整を行う役割を担う人(コーディネーター)などである。また、地域での環境活動の実践を担うリーダー的な人材も多数求められる。
     現在、国、地方公共団体、民間団体などでは、多様な人材登録・育成事業などを行いつつある。例えば、環境庁では、環境カウンセラー登録制度、パークボランティア制度に加え、自然解説指導者研修等の支援事業を実施している。地方公共団体においては、環境アドバイザーを始めとする様々な人材登録・派遣事業等に加え、「地球温暖化対策の推進に関する法律」に基づく地球温暖化防止活動推進員という新たな役割をもつ人材も求められている。民間団体においても、自然保護分野を中心に、積極的な人材養成に取り組んでいる例がみられる。  活動する意欲や様々な専門性を備えた人材が、地域で多様な形で多数存在することは、地域での環境保全活動や環境学習の推進にとって大きな原動力となるものであり、今後、さらに広範な人材の確保・育成を行うことが求められる。その際、地域の専門家、民間団体、環境カウンセラー、地球温暖化防止活動推進員などが、それぞれの専門分野や特性を生かしつつ連携して活動できるような仕組みや、環境教育・環境学習の指導者としての技能・手法を身につけるための体系的な研修を受けられる機会の提供・充実が必要である。  一方、地域での実践活動の中心となっている個人、団体等が、それぞれの経験、視点等を分かちあいながら、実践の輪や活動の幅を広げられるよう、交流機会の提供やネットワーク形成支援を行うことも重要である。
     なお、我が国は本格的な高齢社会を控えている。シルバー層は、社会経験や職業・家庭生活を通して習得した専門知識や生活の知恵が豊富であり、モノを大切にするなどといった伝統的なライフスタイルを次世代に継承する存在としても、環境教育・環境学習や環境保全活動における指導者あるいは実践者としての活躍が期待されるところである。環境保全に関する行動への参加意欲が他の年代に比して高い傾向も伺える(環境にやさしいライフスタイル実態調査、前出)。したがって、シルバー層の活動機会を拡大することにより、各年齢層の活動の活発化・多様化が期待できることから、特にシルバー層を対象とした人材育成のための仕組みづくりに着手すべきである。


    A具体的行動に結びつくプログラムの整備を

     欧米では、行政や企業等の支援のもと、様々な民間団体が、長い時間をかけて、プログラム開発を積み重ねてきた歴史があるが、我が国では、個人や民間団体の独自の取組によってきたところが多く、環境学習プログラムが段階的、体系的に整備されている例は少ない。  自然の中で行われるプログラムに関しては、従前より実施されており、相対的に見れば数も多いと思われるものの、日常生活とのつながりまでを意識したものとなると数は少なくなる。また、都市・生活系の問題からアプローチをするためのプログラムについては、自然系のものに比較すると数そのものが不足しており、体系化もあまり進んでいない。これらのプログラムについて、その現状等を把握した上で、必要な整備を行うことが急がれる。
     そのためには、まず、環境教育・環境学習プログラム等の枠組みの全体像のなかで、活動の場、テーマなどに応じて、学習段階ごとのねらいを明らかにする必要がある。さらに、環境問題を理解するために必要な基本的な概念などに関する整理を行いつつ、地域や学校などで実施されている内外の事例を有機的に結びつけるなどして、モデル的な学習プログラムを整備することが望まれる。例えば、人口が集中し、人々の活動が環境に与える影響が大きい都市においては、その特性に応じた環境教育・環境学習が必要であるように、地域レベルで、地域性を生かしたプログラムを整備していくことが大切である。国には、地域の実践者の協力を得ながら、こうした取組の支援を行うことが期待される。
     また、各地の学習拠点などの実践事例やそのためのノウハウ等に関する情報が共有されるよう、インターネット等を活用したシステムを構築すべきである。
     なお、プログラムやテキスト、教材などは、定期的に検証・評価を加え、必要な改訂を行うことにより、その信頼性を高めることが必要であり、そのためのガイドライン開発への着手が急がれる。


    Bネットワークで多様な情報をつなぐ

     国民の主体的な環境学習や実践行動を促すためには、環境の現状や環境問題に関する正しい情報や情報源情報が、欲しい時に欲しい形で入手できるような体制が整備されていることが前提となる。
     このため、国は、地球的・全国的視野に立った基礎的な情報や情報源情報を整備するとともに、各主体の有する情報とのリンクなどにより、それらの提供及び有効利用のための体制を体系的に整備・強化することが必要である。
     この際、EICネット(環境庁環境情報提供システム)などのインターネットの有効活用を図るべきである。
     なお、アンケート調査(環境にやさしいライフスタイル実態調査、前出)によると、環境に関する情報で、国民が欲しい情報は、暮らしのなかでの環境保全のための工夫や行動、環境問題が生活に及ぼす影響、製品の生産・消費・廃棄に伴う環境への負荷に関する情報などが上位になっている。これらは、日常生活の中での具体的な行動に結びつきやすい情報であり、今後、このような国民のニーズに適切に対応した、具体的かつ実践的な情報を整理し、提供していくことが必要である。
     特に、ライフスタイルや経済社会システムの変革という観点からみると、消費行動において環境を重視していくことを促すことも効果的である。製品選択に際して購入者が留意すべきポイントや、個々の製品が環境面でどのような性質を持っているかに関する情報、さらには、エコマークなどのエコラベル制度やグリーン購入といった社会的な仕組みなどに関する情報を、国民がいつでも入手できるように整備することが大切である。
     また、環境学習に関する機会を拡大する意味からも、環境教育・環境学習に関わる個人・団体の活動状況や、各主体の企画・実施している様々な学習講座、イベント、セミナー等に関する情報などを集約し、整理の上、一覧的に発信していくような環境学習情報システムを構築すべきである。


    C実践的体験活動を行うことのできる場や機会を拡大する

     国民が気軽に訪れることのできる一定の地理的範囲内で、環境についての関心を持ち、実践的体験を交えながら様々な環境問題を学習したり、日常生活と結びついた具体的な実践活動を行うことができる多様な場が多数存在することが必要である。さらに、それぞれの機能を活かしながらネットワーク化を図ることが効果的である。
    平成10年度に環境庁が実施した総合環境学習ゾーン・モデル事業は、このような考え方に立ち、地域にある既存の各種施設の活用を図りながら、資器材や教材面からの整備を行ったものである。本事業の成果の1つに、同一県内であっても、設置主体、所管部局等の違いなどからほとんど連携がなかった様々な機関、団体の連携の機会を、県域を超えた形で創出したことが挙げられる。
     多様なバックグラウンド、専門性のもと、多様なプログラム、施設、フィールド、人材を有している拠点が連携を図ることにより、地域における環境学習や実践体験活動の場、機会を、点から面へと、地理的にも内容的にも拡大することができる。
     今後とも、自然公園内のビジターセンターなどが環境教育・環境学習の活動拠点として積極的な役割を果たすため、その充実を図るとともに、公民館、児童館、博物館など地域における既存の各種施設や多様な自然環境等のフィールドの活用、及び各拠点間の連携等について支援の充実を図る必要がある。学校開放事業などと環境教育・環境学習のための取組の連携方策についても検討すべきである。あわせて、「地球温暖化対策の推進に関する法律」に基づく全国地球温暖化防止活動推進センター及び都道府県地球温暖化防止活動推進センターとの連携も密に図っていくべきである。この際、情報通信の手段が発達している今日の状況をふまえ、情報ネットワークの積極的な活用も図りたい。
     また、このような各種施設の連携を継続的に保っていくためには、コーディネート機能を担える機関・団体の存在が不可欠であり、そのための仕組みも必要である。
     さらに、これら地域での拠点活動を支えるものとして、人材育成、プログラム開発・改良、実験的・先導的な環境教育・環境学習活動の実証、情報提供等の拠点としての中核的な機能の在り方についても検討していく必要がある。


    D環境教育・環境学習に関する各省庁間の連携強化を

     現在、環境教育・環境学習に関しては、環境庁、文部省のみならず、各省庁がそれぞれの所管行政の中で様々な施策を展開している。これまでは、いわゆる“縦割り”の弊害が指摘されてきたように、それぞれが連携を図ることなく独自の取組を行ってきた感があり、結果として、地方公共団体も同様の弊害に陥ってきた。しかしながら、最近では、環境教育・環境学習については、関係省庁間での連携が必要であるとの認識が深まり、個別の分野での連絡会議の開催や、共同・連携事業といった形での連携が進んできているが、さらなる連携の強化が必要である。
     そのため、個別分野での連携の継続化とともに、環境庁が文部省と緊密に連携しながら、広く環境教育・環境学習に関連する省庁による連携を強化する場を恒常的に持つことが重要と考える。


    E国と地方公共団体の役割の分担と連携を

     環境教育・環境学習を幅広く推進するに当たっては、国、地方公共団体、民間団体、事業者、国民が、それぞれの役割を認識し、主体的に活動を行うことが必要である。
     国及び地方公共団体は、行政を担う立場として、特に連携を図りながら、民間団体、事業者、国民の自主的主体的な活動を促進していかなければならない。
     この際、国は、上記@〜Dの着実な推進により、環境教育・環境学習の推進基盤を整備するとともに、地方公共団体職員に対する研修等を通じて、地方公共団体に対して国の政策や環境教育・環境学習の理念や手法等に関する情報を的確に伝えていくこと、地方公共団体は、部局間での連携を図りながら、地域の状況に応じて、地域に根ざした環境教育・環境学習を推進するための独自の施策を展開するとともに、関係機関や企業、民間団体とも連携していくことが期待される。
     一方、地方公共団体における先進的な取組も多くみられるものの、総じて、それがすべての地方公共団体に行き届いているとは言い難い実状に鑑み、国が、地方公共団体間での環境学習に関する継続的な情報交流を支援していくことも必要である。
     さらに、国がモデル事業の実施などにより、特に、地方公共団体、民間団体、事業者、住民などがパートナーシップのもとに進めている、地域における環境教育・環境学習の推進基盤づくりに資する事業などを支援し、その成果を広く普及していくことが望まれる。


    Fビジネスの視点から環境教育・環境学習の推進方策を探る

     企業による環境マネジメントシステムの構築や環境報告書の作成の取組なども広い意味での環境教育・環境学習の取組といえる。企業によるこれらの取組を、環境教育・環境学習の視点から積極的に評価していくことが必要である。
     また、豊かな自然環境に恵まれた地域等において、民間事業者によって自然を活かした環境教育・環境学習に係る取組が実施されているが、活動参加者が必ずしも多くないこと、活動可能な季節が限定されることなどから、事業として成立している例は一部にとどまっている。環境教育・環境学習の質的な向上及び社会全体への広がりを図っていくためには、いわゆるプロフェッショナルな人材が多数存在し、それらの活動が事業として成立するということも重要であり、そのための条件等について検討していくべきである。
     また、エコツアーと旅行産業を結びつけたり、高度に発展した通信情報システムを活用するなど、環境教育・環境学習を環境ビジネスと結びつけてとらえ、その推進方策をともに考えていくという視点も必要である。


    G地域の多様性を尊重した国際協力の推進を

     環境教育・環境学習は国際的に推進していくことが必要であり、このため、我が国が諸外国の先進的な取組事例に学ぶとともに、我が国の経験を他国と共有し、さらには開発途上国の取組を支援するなど、国際的な交流・協力を推進することも重要である。
     このような観点のもと、例えば、APEC持続可能な都市のための環境教育シンポジウム、日米コモン・アジェンダの枠組等によるアジア太平洋環境教育国際会議やこどもエコクラブアジア太平洋会議の開催などを通じた国際協力が行われてきたところである。アジア太平洋地域では、これらの他にも多様な枠組において、環境教育に関する取組が行われている。しかしながら、それらの成果が地域全体で共有されるには至っていない。
     今後は、各地域の多様性や、それぞれの枠組、取組の多様性を尊重しつつ、(財)地球環境戦略研究機関など既存の機関を活用しながら、アジア太平洋地域に緩やかな連携を図れるような仕組みを構築するとともに、さらに他地域との交流・連携を図っていくことが必要である。
     なお、開発途上国に対しては、特に人材育成に積極的に協力していくことが求められているが、それら環境教育支援プロジェクトの実施に当たっては、その進捗状況や成果等の把握・評価を適切に行い、スキーム等について定期的に検証を行うことが必要である。



     

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    5 おわりに

    −実効ある取組に向けて−


     以上、環境教育・環境学習の今後の推進方策を示したが、環境教育・環境学習が持続可能な社会の実現に向けた重要な施策の1つであるとともに、他の様々な施策の基盤となるべきものであることに鑑み、特に、その実効性を確保していくことが重要である。
     まず、環境教育・環境学習の計画的な推進と定期的レビューの実施が重要である。そのため、今後、見直しが行われる環境基本計画の中で、環境教育・環境学習の推進に向けた中長期的な計画を示し、それを定期的にレビューしていくことが必要である。その際、政策・施策評価の確実な実施に向け、中長期的に環境教育・環境学習の効果を把握するために必要な情報が的確に集められるようなシステムや、一定の地域、範囲の人々の環境に関する知識量やそれに基づく行動の変化を継続的に把握するためのシステムが構築されることも必要である。  さらに、各主体において、すでに一部では行われているが、環境教育・環境学習の取組に関する目標や具体的な実施計画を策定するなどの計画的な取組を、環境庁としても促進する施策を講じることが望まれる。
     また、環境基本計画での明確な位置付けのもと、各省庁が一体となって環境教育・環境学習を推進することが必要であり、そのための連携を強化する場を設けることが望まれる。さらに、地方公共団体、民間団体等環境教育・環境学習に関わる様々な団体との連携を図るとともに、必要な財政措置等についても検討する必要がある。




     

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    (参 考)

    中央環境審議会における審議等の経過


       
    平成10年7月13日 「環境教育・環境学習の今後の推進方策の在り方について」諮問。
    企画政策部会に付議。
            同日 第57回企画政策部会
               ○環境教育小委員会を設置。
              
         7月17日 第1回環境教育小委員会
               ○環境教育・環境学習の現状について
       ○一般意見公募について
              
      (7月17日 一般意見公募開始)
              
         8月 4日 第2回環境教育小委員会
               ○諸外国の環境教育の取組について
               ○環境教育・環境学習の推進に向けた方向性と緊急に取り組むべき課題について
                     
        (8月17日 一般意見公募締切)
              
      8月31日 関連団体からのヒアリング
         9月 8日 第3回環境教育小委員会
               ○中間取りまとめ骨子について
         9月22日 第4回環境教育小委員会 
               ○中間取りまとめ案について
    (9月28日 環境教育小委員会中間取りまとめ公表)
    10月26日 第5回環境教育小委員会
               ○情報提供体制の整備について
        11月30日 第6回環境教育小委員会
               ○環境教育・環境学習に関する各主体の取組について
     ○環境教育・環境学習に関するプログラム等の体系化に向けた検討課題について@
    12月22日 第7回環境教育小委員会
               ○環境教育・環境学習に関するプログラム等の体系化に向けた検討課題についてA
    平成11年1月28日 第8回環境教育小委員会
               ○人材の育成・確保について
               ○環境カウンセラーからのヒアリング
    3月18日 第9回環境教育小委員会
                ○国際協力の推進について
         5月19日 第10回環境教育小委員会
               ○環境学習拠点について
               
         6月24日 第11回環境教育小委員会
               ○環境教育・環境学習を推進するための課題の整理について
         8月26日 第12回環境教育小委員会
               ○環境教育・環境学習を推進するための仕組みについて
               ○小委員会報告の構成について
        10月 4日 第13回環境教育小委員会
               ○小委員会報告案について
    (11月 2日 環境教育小委員会報告案公表、一般意見公募開始)
       (11月30日 一般意見公募締切)
        12月 9日 第14回環境教育小委員会
               ○環境教育小委員会報告取りまとめ
      
    12月14日 第71回企画政策部会
               ○環境教育小委員会報告、答申案の取りまとめ
        12月24日 中央環境審議会答申






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