中環審第158号 平成11年7月12日 環境庁長官 真 鍋 賢 二 殿
中央環境審議会会長
近 藤 次 郎 平成10年10月16日付諮問第66号をもって中央環境審議会に対して諮問のあった「環境研究技術基本計画について」について、別紙のとおり結論を得たので答申する。 |
(1)環境研究及び環境技術開発を取り巻く全般的状況
(2)環境研究及び環境技術開発の現状
(3)計画策定の意義
第2章 環境研究技術の基本的方向
(1)環境政策との連携強化
(2)社会経済情勢への迅速な対応
(3)体系的・総合的な視点の重視
(4)各主体間の連携・交流の促進
(5)世界へ向けた成果の発信
(6)地域の特性の活用
(7)環境技術の開発、普及、移転
(8)環境ビジネスの振興・雇用の創出
第3章 環境研究技術の重点課題
(1)環境変化の機構解明
(2)環境影響の把握
(3)環境保全対策
第4章 環境研究技術の推進方策
(1)環境研究及び環境技術開発の推進の基本的枠組み
(2)横断的・共通的に推進すべき施策
(3)各主体の役割
おわりに
はじめに
本報告は、平成10年10月の環境研究技術基本計画の策定に関する環境庁長官からの諮問に対し行われるものである。
折しも、2001年の省庁再編に伴い、国の研究機関の在り方も変わろうとしており、多くの機関が独立行政法人化することにより、一般的に、研究機関としての独立性が高まり、研究体制の多様化や研究の効率化が進んでいくことが期待されている。
また、地球温暖化に対する京都議定書策定の例のように、世界のすべての国が英知を集めて、新しい体制で様々な環境問題に取り組もうとしている。このような中、「知恵や知識の体系」としての環境研究や環境技術開発の重要性が、21世紀に向かいさらに増大していくのは明らかである。
ここでは、現在までのシステムの検討及び海外での推進体制の動向も勘案しつつ、環境研究及び環境技術開発の推進体制の改革の基本的方向を提言することとしたものであり、この計画の環境基本計画の見直しへの反映の仕方やこの計画の今後の具体化に当たっては、財政的、制度的制約など諸条件を十分に勘案していく必要がある。
この計画により、21世紀における我が国の基本的な知的基盤の一環をなし、戦略的にも重要な環境研究及び環境技術開発を、我が国の占める国際的地位にふさわしいレベル及び形態で進めていくことが必要である。
第1章 計画策定の背景と意義
(1)環境研究及び環境技術開発を取り巻く全般的状況
環境研究や環境技術開発の役割は、(i)環境問題の発掘、原因の同定、(ii)環境問題の性質、規模、影響の程度などの究明、(iii)環境問題への効果的な取組方策の分析、提案、(iv)技術開発などによる環境問題への対応方策の多様化 などである。
この環境研究や環境技術開発は現在までも進められてきたが、環境問題が局地的問題から地球規模の問題へと拡大し、内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)による汚染で代表されるように、次世代にも影響を及ぼすなど時間的空間的にも拡大しつつある。
今後21世紀に向かい人間活動の総量がさらに増大し多様化すると予測される中、人類の生存基盤である地球の希少な自然資源の破壊や改変がさらに深刻化すると考えられる。これらの問題に効果的に対応していくため必要な環境研究や環境技術開発の重要性は、21世紀に入り地球的規模で飛躍的に高まることは確実である。
また、環境研究や環境技術開発は、21世紀における我が国の最も重要な知的資産の一つを構成するものとして、戦略的にも重要である。広く地球益の推進にも寄与するのみならず、環境ビジネスなど新たな事業や雇用の創出に貢献するからである。
(2)環境研究及び環境技術開発の現状
地球環境問題に関しては、「地球環境保全に関する関係閣僚会議」が、毎年度「地球環境保全調査研究等総合推進計画」を策定し、政府全体として体系的に、関連する研究や技術開発を進めている。環境庁は、この閣僚会議が定めた「総合推進計画」に基づき、毎年「地球環境研究計画」を策定し、「地球環境研究総合推進費」制度により、政府の関係省庁の研究機関が一体となった地球環境研究を推進してきた。
また、公害防止や自然環境の保全など地球環境以外の研究や技術開発については、関係省庁の試験研究機関の公害防止等に関する試験研究費を環境庁が一括して予算計上するなどし、総合的に推進してきた。この制度の下では、当面の問題のみならず、中長期的な視野に立った対策推進の基礎を確保するよう配慮し、研究分野ごとに総合研究プロジェクトを編成してきた。また、関係省庁においても、それぞれの所管行政との関連で、環境保全に資する様々な研究及び技術開発を実施してきた。
さらに、地方公共団体においては、環境に係る試験研究機関において、化学分析・環境モニタリング分野に加え、生物多様性の保全に係る生態学的な分野や地下水の汚染物質の浄化に関する研究も進められてきた。また、民間においては、各産業ごとに環境保全に向けた「自主行動計画」を策定し、関連する環境研究や環境技術開発に取り組んできた。
一方、欧米先進国では、環境研究や技術開発に関する国家的戦略を立て、推進している例が多い。例えば、米国の国家科学技術会議は、1997年に「持続可能な未来のための技術」と題する報告書をまとめ、今後の環境技術の研究開発の方向性を打ち出している。この報告書は、環境を改善し維持しながら、雇用の創出につながる長期的経済成長を実現していくため、米国は、これまでの汚染対策・修復技術から、汚染の防止や監視・アセスメントに重点を移しつつ、ライフサイクルの視点を取り入れた新しい「産業エコロジー」を展開していかなければならないと指摘している。また、ドイツや英国なども、環境研究や技術開発の戦略的重要性を認識し、環境研究や技術開発に関する国家戦略を策定している。環境研究や環境技術開発は、新たなビジネスや雇用を生み出す重要な活動の一つとして位置づけられている。
このような状況において、政府全体を俯瞰すれば、多くの省庁が、それぞれの所管との関連で、様々な観点から多くの環境研究や環境技術開発を推進しているにもかかわらず、全体を通じた明確な戦略や相互間の連携が十分でないなどの問題も指摘されている。また、環境庁では、上述の「地球環境推進費」や「一括計上」などで関連研究を進めてきたが、課題の固定化、予算面の制約、人材面の制限などあり、量的質的に新たな研究ニーズに対応し切れていない。
一方、欧米では、環境研究に関する取組みを格段に強化してきており、環境研究に関する戦略的重要性を踏まえ、国家的戦略を策定するなど国全体で優先的環境研究の企画、立案、推進及び評価を柔軟かつ強力に推進している。
(3)計画策定の意義
以上のような環境研究及び環境技術開発の状況に適切に対応するためには、21世紀を見通した環境研究及び環境技術開発の方向性、重要課題、課題推進のための施策等を示すとともに、環境研究及び環境技術開発を総合的、一体的に推進していく必要がある。
現行の環境基本計画においても、環境保全に係る共通的基盤的施策の重要な柱として、調査研究、監視・観測等の充実、適正な技術の振興等を位置付けたところであり、環境政策を推進していく上で、今後とも環境研究及び環境技術開発を総合的かつ計画的に推進していくことが重要である。
ここでは、上記の全般的状況、さらには2001年に予定されている省庁再編なども踏まえ、新たな環境基本計画の策定に先立ち、戦略的重要性の増す環境研究及び技術開発に関し、新たな枠組みを提案しようとするものである。
この環境研究技術基本計画は、今後10年程度を見通した、今後5年間の環境研究及び環境技術開発の推進政策を具体化するものとして策定するものであり、ひいては、持続的発展が可能な社会の構築や、循環・共生等の長期的目標の達成を目指すものである。その目的は次のとおりである。
@今後の環境研究及び環境技術開発の方向性を示す指針とする。
A今後の取組が必要とされる環境研究及び環境技術開発に関する重点課題を明らかにする。
B環境研究及び環境技術開発を総合的・計画的に推進していくための施策を示す。
第2章 環境研究技術の基本的方向
環境研究及び環境技術開発は、社会経済情勢と密接に関連した目的志向型の研究であり、学際的かつ国際的視野を持ちつつ、大規模集中的というより、分散型でかつネットワーク参加型の展開を図っていく必要のあるものであり、21世紀には経済活性や雇用確保の観点からも戦略的重要性を有するものである。このような特性を踏まえて、以下の基本的方向に沿って各般の施策を実施する。
(1)環境政策との連携強化
環境研究及び環境技術開発は、新たな環境問題を発見し、環境変化の機構を解明し、人間活動と環境との相互作用を明らかにするとともに、環境保全に関する施策の立案等への貢献を通じて、環境問題の解決に資することを求められている。すなわち、環境研究や環境技術開発は、学術や科学技術そのものの振興にとどまらず、環境問題の解決に貢献するという明確な目的を持ち、環境政策との密接な連携の下に推進されなければならない。
(2)社会経済情勢への迅速な対応
環境研究及び環境技術開発に対する主要なニーズは、環境問題解決の道筋を明らかにするものとして発生するものであり、国際的な枠組みの規定や新たな科学的知見の集積、社会経済状況、国民の生活様式などに依存しており、それに応じて変化する。オゾン層破壊や地球温暖化に関する国際的枠組みの策定により、新たな研究開発テーマが創造され推進されてきたのはその例である。したがって、環境研究や環境技術開発は、これら関連する社会経済条件の変化に対し、迅速かつ柔軟に対応して推進されていくことが不可欠である。
(3)体系的・総合的な視点の重視
地球温暖化を始め、最近の環境問題は、特に、多くの要素が複雑に絡み合った複合的な問題である。実際、中には、気圏・水圏・地圏・生物圏と多岐の領域に関連し、地域から地球規模までの空間的な広がりと、将来世代にわたる時間的な広がりを有するものも多い。このため、環境問題に効果的に対応するには、生物学、化学、物理学、工学、医学、農学、経済学、法律学、社会学、人文科学など多くの学問分野の知見の総合化が必要である。特に、最近は、社会経済問題、人口問題、食糧問題、安全保障問題等の大規模かつ深刻な諸問題と複雑に絡み合い、環境問題がより多様化してきていることから、分野横断的、学際的な取組が一層重要視されている。
(4)各主体間の連携・交流の促進
近年、環境問題は、問題の原因及び被害の両面において、国、地方公共団体、大学、事業者、国民、民間団体、さらには諸外国や国際機関といった、多くの主体の様々な活動と密接に関係している。どの問題をとっても、環境研究や環境技術開発のみでは解決できないし、また、環境研究や環境技術開発抜きでも解決できない。つまり、環境研究や環境技術開発は、知恵や知見や技術がこれら様々な主体間で共有され、これらの主体の参加・連携・協力の下に、環境問題への効果的な取組を促進するものでなければならない。そのため、関係する各主体間の連携・交流を促進し、企画、立案、実施、評価、成果の共有、実際の応用に至るそれぞれの段階で、適切な関与を積極的に行っていく必要がある。
(5)世界へ向けた成果の発信
地球環境問題は、我が国だけでは解決できない人類共通の課題であり、各国が協力して取り組むべきものである。また、地域的な問題であっても、他の国にも同様な問題が存在しているケースが多いため、研究成果や経験を世界的に共有することは、一般に極めて有用である。言うまでもなく、世界の国々は、経済社会的状況や環境問題への関わりなどが大きく異なっているのが常であり、地球温暖化などの問題への対応で明らかなように、各国が共通の枠組みで協力するのは決して容易なことではない。環境研究や環境技術開発は、このような各国間の違いを埋め、いわば各国間の共通の言葉として議論の土台を創る上で、極めて重要な役割を持ってきている。このため、他の国の研究機関や国際研究ネットワークとの連携を促進し、世界に向けて成果を発信していくことが必要である。
(6)地域の特性を踏まえた推進
一般に、環境問題は、当初地域において顕在化し、解決の糸口もその中から見出され得ることが多い。また、地球環境問題と言っても、それに対処するためには、結局は、地域の環境保全努力の積み上げによる部分が大きい。このため、環境研究や環境技術開発を、地域の自然・社会条件などを考慮し、併せて、地域にある色々な資源を最大限に活用することを念頭に、展開していくことは極めて重要である。特に、地域の環境を熟知している地方公共団体の環境に係る試験研究機関、地域における社会経済活動への影響力も大きい事業者、民間団体等の研究開発ポテンシャルが十分に発揮される体制の構築が必要である。
(7)環境技術の開発、普及、移転
環境技術の開発は、環境保全対策の選択肢を広げるものであり、効果的な対策を推進していく上で、最も重要な活動の一つである。しかし、必ずしも環境技術は生産には直結していないため、公共の関与がない状態では、一般に優先順位の低いものとして扱われ兼ねない。そのため、環境保全のための技術開発の推進を目的とした、国などによる適切な環境づくりや支援体制の整備が求められる。
また、地域の自然的社会的条件への適応を考慮し、費用対効果にも留意した技術開発や、事業者、民間団体等の自主的積極的な取組の促進等の技術の受入れを可能とする社会システムづくりを図ることにより普及に努めることが必要である。開発途上地域との関連で考えれば、それらの地域の自然的、社会的、経済的な状況に適合した、いわゆる「適正技術」の開発や普及、移転を図ることが重要である。
(8)環境ビジネスの振興・雇用の創出
環境保全に関する事業活動(環境ビジネス)の振興は、環境への負荷の低減に資する技術や製品等の開発・提供を通じて、効果的でかつ効率的な環境技術の普及を可能とするものであり、環境負荷の少ない持続的発展が可能な社会を形成する上で重要な役割を担うものである。特に、今後、地球環境保全に関する努力が本格化する中、世界的に環境に関する技術や知見、またこれに基づく施設や設備に対する需要が高まると考えられることから、21世紀に向かい、我が国に新たな産業及び雇用をもたらす大きな契機の一つとすべきである。
第3章 環境研究技術の重点課題
環境問題への対処は、地球規模の環境問題、環境汚染物質による人の健康及び生態系への影響、自然生態系の破壊などの顕在化している諸問題への対応とともに、今日の環境問題の大きな要因となっている大量生産、大量消費、大量廃棄型の社会経済システムを持続可能なものへと転換していくことが不可欠となっている。このため、環境保全の取組の科学的な根拠となり、また対策の基盤となるべき、以下の環境研究及び環境技術開発の重点的な推進が必要である。
(1)環境変化の機構解明
環境問題に対応するための研究は、その基盤的情報として環境の状況を把握し、環境変化の機構を解明し環境変化を予測することから始まる。
この研究は、環境対策の出発点ともなる基盤的な研究であるが、学術や科学技術の振興にとどまらず、環境問題の解決に資するという明確な目的の下に、関連する調査や研究との関連を踏まえつつ、明確な戦略に基づいて行われるべきものである。
具体的には、ダイオキシン類・内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)などの化学物質の環境中での挙動の解明、地球温暖化をはじめとする地球規模の環境変化の機構の解明・予測、野生生物の生態の把握や生態系の実態解明、生態系の構成要素間の相互関係の解明などの重点的な推進が必要である。
また、環境の監視・観測に不可欠な監視技術の開発も重要であり、革新的な計測技術やモニタリング手法に関する研究開発などの重点的な推進が必要である。
なお、これらの研究は長期間にわたる場合も多いことから、持続的な実施体制の確保に留意するとともに、常に研究の評価を行うなど的確で戦略的な推進が要求されるものといえる。
(2)環境影響の把握
人間活動による環境への負荷は、環境の変化をもたらし、それは人の健康及び生態系にさまざまな影響を及ぼす。これらの影響は、その影響の生じる蓋然性、影響の深刻さ及び影響を受ける対象の範囲の観点から評価し理解することが必要であり、これらは、環境リスクとして捉えることができる。
このため、化学物質による環境汚染、地球規模の環境変動の及ぼす影響、生態系の破壊による野生生物の種の絶滅などの諸課題について、それらの人の健康及び生態系に及ぼす影響を含めた総合的な環境影響の把握、すなわち環境リスクの評価研究を重点的に推進する必要がある。
なかでも、ダイオキシン類・内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)などの環境汚染においても、人に対する健康影響を把握していくことが重要である。
また、不確実性の残る中で政策を進める必要から、政策の合意形成上重要な環境リスクの評価手法やコミュニケーション手法などの研究も重要である。
また、このような視点は、物質循環を考慮した河川流域全体あるいは、都市圏域全体として環境を把握することにもあい通じるものである。
なお、これらの研究の推進に当たっては、海外における取組や国際的な枠組との関連に配慮することが必要である。
(3)環境保全対策
環境制約が21世紀における我が国のありようを左右する大きな要件の一つであることが明らかとなりつつある。このため、社会経済システム及び生活スタイルを持続可能で自然と共生するものへと再構築することが不可欠となっている。
したがって、対策の基盤となる技術の開発とともに、これらの技術を活用できる社会システムづくりを含めた政策の選択肢を提示しうるような研究を連携させつつ、その推進を図ることが重要である。
ア.対策の技術基盤の提供
環境保全対策を推進するためには、これを支える技術体系の確立が必要とされることから、省資源・省エネルギー型の生産技術や製品、物質循環の確保を目指した廃棄物処理・リサイクル技術、環境負荷低減技術、環境浄化技術、生態系管理技術、自然環境の復元技術、快適環境創造技術などの研究開発を重点的に推進する必要がある。
これらの技術開発に当たっては、技術のライフサイクルからの評価、技術がその機能を発揮する上での環境への負荷の大きさを評価する環境効率性、技術を適用する場合に不可欠となる社会的自然的制約条件からの事前評価を考慮することが必要である。
イ.持続可能な社会経済システム及び生活スタイルのあり方の研究
環境問題は、国民全てに係わりのある問題として、その対策の推進には国民の理解と取組とが不可欠である。また、その対策も、社会経済と密接な関係を有するものとなってきている。
このため、環境配慮を内在化した産業活動・社会経済システムのあり方、環境インフラの整備のあり方、環境保全のための国際的な枠組作りに係る研究、国際協調的な対策立案、環境保全対策の費用負担に関する研究など、人文社会科学的な観点からのアプローチを中心とした研究を推進する必要がある。また、環境マネジメント技術、政策の合意形成のための研究、効果的な環境教育に関する研究なども重要である。
第4章 環境研究技術の推進方策
本章では、第2章に定めた基本的方向に沿って、第3章に掲げた具体的課題についての研究開発を推進するための施策のあり方を検討する。そのためには、まず、さまざまな環境研究技術の課題の特質を捉え、各課題のタイプに応じた的確な制度を構築し、その運用を図ることが基本となる。すなわち、環境研究技術推進制度の構築と運用を通じ、基本的方向にそった対応が、それぞれの制度にふさわしい形で採られることが望ましい。
一方、課題のタイプにかかわらず、横断的・共通的に推進すべき施策課題も少なくない。このため本章では、まず、第1節で異なった制度の構築が求められる環境研究及び環境技術開発の課題のタイプを分類し、それぞれのタイプに応じた施策のあり方を検討した。その上で、第2節において横断的・共通的に実施すべき政策課題を取り上げた。
第1節 環境研究及び環境技術開発の推進の基本的枠組み
異なった制度を構築すべき必要性などを考慮した場合、環境研究及び環境技術開発の課題を(1)基盤的・先導的研究課題(2)問題対応型研究課題(3)政策提言・政策対応型研究課題(4)環境技術開発の4つに分類することが考えられる。
ここでは、これらの4つの課題のタイプごとに検討した。今後、こうした施策のあり方を念頭に置きつつ、的確な制度の構築と運用に向けた施策を展開していくことが必要である。
(1)基盤的・先導的研究課題
環境問題に対応するためには、問題の未然防止若しくは早期発見が最も望ましいことは言うまでもない。また、環境問題が顕在化した場合にも、それに即答し得るよう、基礎的知見を充実しておくことが重要である。こうした未だ顕在化していない問題を検出しこれを未然防止するための研究や、今後の環境研究の基盤となりうる先導的な役割を果たすための研究は、問題が明らかとなっていないがゆえの特性を有しており、その他のタイプの推進施策とは異なる施策の実施が求められる。すなわち、これらの研究は、基盤研究的な色彩が強く、創造的かつ先進的な取組が求められることを踏まえる必要がある。
すなわち、その推進に当たっては、(i)さまざまな主体が参画し、独創性を発揮できるものとなっていること、(ii)研究の企画や実施は研究者の自主性を保証したものとなっていること、(iii)研究成果の科学的評価に重点を置いたものであること、などの条件が重要となる。
(2)問題対応型研究課題
対処すべき環境問題が同定されれば、その問題の因果関係や原因を究明するとともに、環境影響の地理的範囲や程度の解明、対策をとらない場合など特定のシナリオの下での将来予測、劣悪化した環境の修復の可能性などについて調査して問題の全体像を解明し、さらにはそれらに的確に対応するための政策や政策手段を研究することが必要となる。多様化・複雑化する環境問題に対応するためには、こうした課題に対する取組を一層充実する必要がある。
また、こうした取組には、行政分野や学問分野などについての既存の組織や体制にとらわれず、多分野・多領域にわたる体系的かつ学際的な検討が必要となることも少なくない。実際、先に見たように、こうした分野間の連携の重要性が特に大きくなっている現状を踏まえると、こうした調整的役割を果たすための制度についても充実が必要である。
したがって、この種の研究の推進に当たっては、(i)主要研究項目や研究体制など、研究のデザインを問題の性質に応じ適切なものとすること、(ii)特に、既存の組織や体制の枠組みの下で進めるべき研究とそれらの枠組間の連携・調整を念頭に置いた研究とを分け、それぞれに適した制度の下で研究を推進すること(iii)最大3年程度の時間的制約の中で集中的にかつ体系的に研究を実施すること、(iv)比較的規模の大きい資金を確保すること、(v)評価は、外部の専門家も加え、多角的かつ客観的に行うこと、などの要件が満たされる必要がある。
(3)政策提言・政策対応型研究課題
一般に、対処すべき環境問題の因果関係や全体像が明らかにされた場合、まず、全体的な対応の枠組みが構築され、その枠組みの下での具体的な施策の構築が求められる。したがって、たとえば、一定期間内に環境汚濁負荷を一定量以下に低減することが全体的な枠組みとして定められた場合、あるいは最終的な目標達成に向けて一定期間内に解明すべき研究課題等が定められた場合、期間内に具体的な政策の選択肢の効果の評価や新たな政策手段の開発等を実施することにより、目標達成に資することが不可欠となる。
この種の研究は、経済的ないしは社会的側面からの分析を含め、通常、政策の設定や実施に大きく関連するため、(i)厳しい時間的制約で実施するなど緊急な要請に対応可能なものであること、(ii)研究資金は、短期集中的に使用が可能で、予測できない費目への支出にも柔軟に対応できるものであること、(iii)データの解釈や条件の設定、結果の捉え方などについて、外部の専門家も含めた広範な評価が必要であること、などの要件が満たされる必要がある。
(4)環境技術開発
環境技術の開発は、ある問題に対しとりうる政策の選択肢を拡大し、より効果的な施策の推進に資する。その意味で、環境技術の開発は極めて重要である。しかし、環境技術の開発は、市場原理のみで十分に推進されることは少なく、環境問題に対処するための政府の政策や助成策が一つの前提となって、その範囲で推進されるのが常である。したがって、これらの技術を推進する上で、政府や国際機関など公共サイドの機関の果たす役割には大きなものがある。
技術開発には、通常、(i)基礎研究、(ii)実証研究、(iii)実用化研究、(iv)技術移転及び普及など、いくつかの段階があり、関与する研究者の数や必要な資金額も、これらの段階に応じ変化する。技術開発には相当程度の準備期間があるのが通常であり、特定の技術が特定の政策の前提となっていて、目標年次などが設定されている場合には、計画的かつ集中的な投資が必要となる。環境技術開発を進めるに当たっては、環境以外の技術開発の場合に行われてきたように、基礎研究から実用化、普及研究に至るまで、それぞれの段階に応じたきめ細かな研究支援システムを整備する必要がある。
他の分野の技術開発と比べ、環境技術開発の推進では、国など公共サイドの果たす役割が大きいため、(i)将来の技術的ブレークスルーの契機となり得るような独創性の高い基礎的な研究については、競争的環境の下で、国などの積極的な奨励策ないしは直接の関与が必要であること、(ii)実証研究の段階では、産官学や民間の専門家などを巻き込んだ、共同研究が必要であること、(iii)従来の技術開発の基本的な概念とは異なる、小規模、分散型で地域特性に敏感な、労働集約的な技術の開発にも重点を置く必要があること、(iv)開発された環境技術が、市場で必要とされるような政策環境を作り出す必要があること、などの要件を十分満たした環境技術開発推進体制が整備される必要がある。
第2節 横断的・共通的に推進すべき施策
上述した各課題タイプ毎の具体的な施策の推進とあわせ、横断的あるいは共通的に実施すべき施策を以下に取りまとめる。
(1)環境研究及び環境技術開発の総合的な推進
ア.環境研究及び環境技術開発の総合的推進システムの構築と基本方針の策定
第1節で述べた環境研究技術推進制度の相互の有機的な連携を確保するとともに、政策との密接な連携を確保し、体系的・総合的視点に立って研究開発を推進するためには、環境研究及び環境技術開発の総合推進体制の構築が必要である。特に、第2章で述べた基本的方向は、環境研究開発を他の分野の研究開発と区分する特徴とも捉えることが可能であり、こうした特徴的な環境研究開発を効果的に推進していくためには、この分野固有の総合推進体制を構築することが不可欠である。また、環境問題は多くの社会経済活動と関係するため、関係する機関や研究開発の推進体制も多岐にわたる。このため、多様に展開される研究を、重複することなく全体として効果的に推進するための調整も必要となる。こうしたことから、環境研究及び環境技術開発の推進を統括するシステムのもとで環境研究及び環境技術開発の基本方針を定め、これに基づいた計画的・戦略的な研究開発を進めるとともに、個別のプロジェクトの段階でも重複を排除するための連携・調整を進めることが求められる。
イ.研究開発の企画システムの強化
従来、環境研究や環境技術開発は、基礎的ないしは長期的課題として位置づけられることが少なくなく、優先課題を設定する時の政策とのすり合わせ、ないしは研究成果の政策などへの反映は必ずしも十分に行われてこなかった。しかし、近年、地球環境問題に見られるように、環境研究や環境技術開発が基礎となって、国際的な枠組みが決まるなど、これらの研究の戦略的重要性は格段に増大してきている。これに対応するためには、総合的視点に立って、研究プログラムの全体をより戦略的に企画・立案・推進する必要がある。
一方、個別の研究開発のプロジェクトにおいては、問題発掘型の研究や技術開発のための基礎的な研究をのぞき、研究者を始め多くの関係者の広範なネットワークの下、多角的かつ総合的に推進されることが重要である。これを実現するためには、実際に研究を実施する前に、関係の機関や研究者との間で十分な意見交換がなされ、目的、範囲、内容、期間、実施体制、資金調達などについて合意されることが、不可欠となる。このため、研究実施の前にしかるべき時間と費用をかけて、研究の詳細を企画するのを支援するメカニズムが必要になる。
ウ.個別研究の総合化
特定の環境問題に対する科学的知見を、何年かに一度総合的に検討評価することは、その問題に関する世間の注目度を高め、関連する政策をより効果的なものとなるよう見直し、新たな優先研究課題を同定していく上で、大変重要なことである。こうした取組は、地球温暖化に関するIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の活動などに見られるように、オゾン層や温暖化に関連し一般化してきた世界的潮流の一つである。従来、我が国では、このような活動は必ずしも積極的に取り組まれてこなかったが、増大する重要性に鑑み、我が国においても、今後より重点的に取り組んで行く必要がある。 一方、たとえば問題の現象解明と影響予測との2つの研究が同時並行的に進められた場合、影響予測の研究の前提となっていた現象についての仮説が、現象解明の研究の結果、実際とズレたものであることが後になって判明するということがある。こうした場合、両方の研究成果を有機的に結びつけ、より実りある成果を引き出すためには、新たな検討・分析が求められる。しかしながら実際には、多くの研究は、さまざまな分野に分かれてそれぞれ独自に進められ、その後統合される機会を持たないというこ
とが少なくない。こうしたことから、さまざまな研究成果を統一的視点から比較分析し、統合化するための活動を意識して積極的に展開することも、今後一層積極的に取り組んでいくべき課題である。
エ.研究開発の評価システムの強化
研究開発のプログラムについては、制度が制度制定の目的に照らして適正なものであり、また、時代のニーズを的確に捉えたものとして機能し得ているかを定期的に検討評価し、必要に応じて柔軟に改革していくことが必要である。 また、個別の研究開発のプロジェクトについても、その成果や進捗状況を、客観的に評価し、その評価結果に基づき、当該研究の変更、強化、縮小、中止などの措置を適切に講じるための体制を整備することが重要となる。なお、その際、施策の企画・立案・推進への貢献という観点からの評価軸を重視して評価することが重要である。
特に、環境技術については、その総合的な評価手法を明らかにした上で、恒常的な体制の整備のもと、体系的かつ定期的に評価していくことが必要である。
オ.ネットワークの中核となる研究機関の育成
地域的あるいは国際的ネットワークを有効に機能させるためには、情報が集まり、また情報を発信するネットワークの結節点であり、研究の連携機能を果たせるような研究機関の存在が必要である。このため、共同利用施設の整備や情報基盤の整備とも相俟って、ネットワークの中核となる中央及び地方の研究機関を育成する必要がある。
(2)連携と協同
ア.地域での取組及び地域からの発信
地域で環境研究ニーズに適切に対応するためには、地域に存在する独自の資源、自然条件、地域住民や社会ニーズを踏まえ、学問領域や組織の枠を超えた環境研究のコーディネートを行うことが重要である。このため、地域のさまざまな主体による優れた研究能力、あるいは地域の特殊な環境を活用するなど、地域の特性を生かしつつ、適正な連絡・調整の下での、環境研究開発を推進することが重要である。その際地方公共団体の試験研究機関については、そうした取組の中核的機能を果たすことが期待されるため、その体制の強化や役割の充実を図る必要がある。
さらに、地域の研究機関ないしは専門家(地方公共団体、大学、事業者、NGOなど)と、国レベルないしは地球レベルの研究計画や研究プロジェクトとの情報の交換は問題の具体的解決のために、非常に重要である。また、このようなネットワークを介し、我が国の地方の研究機関と他の国の地方の研究機関との直接の連携も可能となる。ネットワークを介した、異なる国での地方対地方の直接の連携は、地方活性化にも大きく貢献するものと考えられる。
地域における研究開発の成果は、その地域のみならず、世界で共有できるものである。そのため、こうした成果等について、世界に向けて積極的に発信していく必要がある。
イ.国際協同
地球環境問題については、一国のみの研究では十分でなく、国際的な共同研究の推進が不可欠なのは明白である。ダイオキシン類・内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)の問題や廃棄物の不適正な処理の問題など他の環境問題は、問題の現れ方や対処の仕方がより地域的ではあるが、決して特定の地域に限定された問題ではなく、国際的な広がりをもった問題である。また、途上国に目を転じれば、先進国では既に克服された問題が顕在化している場合も多い。そのため、環境研究及び環境技術開発は、多くの場合、地球的かつ国際的視野を持ちつつ進めていくことが重要である。
実際、今までも、国際的に多くの共同研究プログラムやネットワークが設置され、多くの研究が国際的に推進されてきた。しかし、現在まで我が国がこのような国際共同研究システムの中で果たしてきた役割は、「応分の貢献」という受け身のレベルに止まるものであった。今後、環境問題の地理的拡大、環境問題への意識の高まり、インターネットの普及などによるボーダレス化の進展に伴い、環境研究及び環境技術開発の国際化ないしは地球化は、さらに進展していくこととなる。
このため、環境研究及び環境技術開発を推進するに当たり、国際的ないしは地球的展開を、積極的に支援するシステムを、今後、整備していく必要がある。国際的研究プログラムやネットワークの我が国への誘致やそれらへの主体的関与、特に、我が国と地理的にも密接な関係にあるアジア太平洋地域の研究プログラムの推進は極めて重要であり、そのためのリーダーシップの発揮、国際的・地球的共同研究の有する特別なニーズに対応した特別な研究支援制度及び支援資金の整備などを強力に推進していく必要がある。
また、途上国で環境研究及び環境技術開発を行う場合、人材育成、施設や装置の整備などの研究開発基盤整備に関する支援について、政府開発援助資金(ODA)の利用も含め、我が国としての対応について検討する必要がある。
(3)研究開発基盤整備
ア.人材の養成及び確保
上述した制度を的確かつ活発に運用していくためには、環境研究及び環境技術開発に関わる人材を、(i)個人として育成、確保する、ないしは、(ii)ネットワーク化などによりシステムとして育成、確保するという二つの観点から、以下のような施策を推進することが重要となる。
@研修及び留学制度の拡充
語学や他分野の基本的事項の修得など研究者を対象にした研修プログラムの整備、途上国を含む諸外国の大学への短期留学、国際的な研究ネットワークでリーダーとして活躍できる研究者の育成を目的とした研修制度の整備などの施策を推進する。
Aフェローシップ制度の拡充
国内外の若手の学位取得者を主な対象に、特定の研究プロジェクトを、一定期間、共同で実施することを前提に、国の研究機関などに招聘する。これは、民間や諸外国にある知見や活力を活用するために有効であり、既存のシステムの強化を含め、その充実を図る。
B人材交流の推進
国や独立行政法人の研究者と行政官や民間の研究者さらには外国や国際機関の研究者や専門家との人事交流の促進を図る。これを促進するため、任期付きで外部の研究者などを雇用するシステムを整備、強化する。また、国や独立行政法人の研究者が、一定期間、民間や外国など他の研究機関が推進する研究プロジェクトに参加できるようにする。
C流動性のある研究制度の構築
環境研究の取り組むべき課題が膨大になってきており、かつその内容も学際的かつ分野横断的なものが多くなってきている。またその一方で、人材確保は、徐々にしか進み得ないという現実がある。したがって、このような性格を有する環境研究を、限られた人的資源のもとで的確に推進していくためには、従来の研究体制に加え、特定の研究プロジェクトを期限付きで立ち上げ、集中的に人材を投入して研究を推進するような流動性のある研究の仕組みが必要である。
D研究支援者の確保
研究開発を円滑に推進するためには、高度な技能を有する外部の人材を、研究補助者又は技能者として招聘するなどの研究開発を支援する体制を構築することが重要である。特に、大学院学生を研究補助者として活用することは、人材の育成といった観点からも有用である。
E研究プロジェクトへの自由なアクセス
公募型研究プロジェクトについては、原則として、一定の資格を有していれば、国や独立行政法人以外の研究者でも応募できるものとし、このような競争的環境の中で、人材を育成する。
イ.研究資金の確保
環境研究及び環境技術開発に必要な資金は、研究の性格上、多くの場合、公共セクターが負担する必要がある。環境研究などに充当すべき資金量は、どのレベルが適当かについてはいろいろな議論があり得る。しかし、相対的には我が国の環境に関する研究資金の規模は欧米諸国に比べ低い水準にあること、そして、今後、環境研究及び環境技術開発の戦略的重要性が増大していくことを考慮すれば、我が国は環境に関する試験研究資金を、格段に充実強化をしていく必要がある。 しかし、一つの国がすべての研究需要を満たす資金を充当していくのは可能でもないし、適当でない。重要なことは、限られた資金を、環境に関する研究の成果が最も効果的に生産されるよう、仕組んでいくことである。むろん、少なくとも上述したようなそれぞれの研究制度が的確に運営させるために必要な資金を最低限確保することは、必要不可欠である。しかしながら、これらと同時に、研究目的にあわせた柔軟な資金の利用、環境研究や技術開発の受益者の間での資金分担など多くの施策が推進されていく必要がある。
@研究の性格に応じた資金メカニズムの創設
第1節に詳述したように、環境研究や環境技術開発には、かなり本質的にタイプの異なるものが存在する。また、国際協同を進める上では、異なった資金的要件が存在する。したがって、こうした異なる需要に柔軟にこたえる資金メカニズムを創設することが重要である。その際、広く国内外の人材を結集し、柔軟かつ弾力的な予算の運用が可能となる特殊法人等の活用を図ることが考えられる。
A資金の柔軟性の確保
研究資金は単に量的に充足しているだけでは十分でないことが多い。研究目的を最も効果的に達成できるよう、資金が柔軟に活用できることが重要である。そのためには、特定の費目あるいは予算年次に縛られることなく、研究環境の変化に応じて、研究資金を柔軟に使用していくことが重要となる。この措置は、研究者に研究実施に当たってより多くの裁量を与えることになる。これは、研究の効率的実施を図る上で重要であるが、研究成果の適正な評価など事後的評価の強化とあいまった措置である。
B資金分担の推進
多くの環境研究が、地域の自然的社会的条件に応じて企画されるものであり、あるいは、国際的な視野の下で推進されるという特性を有したものであるならば、国だけでなく、地方公共団体や国際的な研究プログラムやネットワークと共同で資金負担をしていくことが重要である。また、研究内容によっては、民間企業など公共セクター以外の主体にも利益をもたらすものがあり、共同研究などの方式による資金分担も必要である。
C補助金、税制措置
民間企業やNGO、さらには途上国の研究機関などが環境に関する研究や技術開発を実施し、それが環境保全という公共目的の達成に資すると考えられる場合には、逆に、国から、それらの主体に対し、適切なレベルで補助ないしは税制上の措置を講じる必要がある。少なくとも、環境に関する研究を、他の生産に直接関係する研究などと同レベルで、民間企業などで推進させていくためには、このような措置が必要である。結果として、民間などに存在する活力やノウハウを環境研究に還元していくことになる。
ウ.共同利用施設の整備
環境研究や環境技術開発は、一般に大規模かつ高価な研究施設を必要とするものではない。むしろ、現場主義的、知識集約的研究や、他の目的のために作成された施設などを使用して実施できる場合が多いのであり、分散的な傾向が強い。しかし、環境データの収集や、モデリングの研究などで大型の施設を必要としたり、特定の現場に特定の施設が必要になる場合がある。このため、関係する研究機関は、大型施設や特定施設などの利用を、外部の組織や専門家にも、できる限り開放していく必要がある。
@共同利用施設及び装置
特定の施設ないしは装置を共同利用することにより、研究がより効率的に推進される場合がある。衛星、船舶、大型コンピューターの利用など、特に、大型の施設や装置が必要な研究にそのような場合が多い。そのような装置ないしは施設の利用は、適切な費用負担の下、できるだけ外部の研究者や研究機関にも、アクセスを確保するよう措置していく必要がある。
A外国での共同利用施設
特定の施設や装置が外国に設置されている場合や、たとえば熱帯林の研究プラットフォームのように外国にしか設置できない場合がある。日本の研究者がこのような外国の特定施設や装置を活用して、研究を実施できるような環境を整備していく必要がある。外国の政府や機関が設置した施設や装置を利用する場合には、たとえば、共同研究プロジェクトの実施などにより、日本から何らかの具体的貢献をしていくことが有効な場合が多い。
エ.情報基盤の整備
@情報共有体制の確立
環境に関するデータや環境研究技術に関する知見は、環境保全という公益を実現していく上で必要不可欠なものであり、本来できるだけ多くの人の間で共有されることが望ましい。環境研究や環境技術開発を進めていく上で、このような情報へのアクセスは極めて重要である。このため、公的な研究機関や大学などは、外部からアクセスできるような情報ベースを整備していく必要がある。また、国際的ないしは公的な研究プログラムやネットワークでは、たとえば特定の環境技術など民間などで保有しているデータや知見へのアクセスの方法を紹介していくことが有効である。
A環境モニタリング
環境問題を同定し、それに対する何らかの対応策をとれば、その対応策がどの程度有効であったのか、今後対応策を変更する必要があるのかなどを決定するのに、環境モニタリングが不可欠となる。特に、近年、温暖化やオゾン層の破壊、内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)による影響などが問題になり、地球規模での効果的かつ経済的な観測手法やシステムなど、合理的なモニタリング体制の整備に関する需要が高まってきている。温暖化に関する京都議定書のように、温室効果ガスの排出や吸収に関するモニタリング結果が、排出量取引などの京都メカニズムとも関連してくる場合等、環境モニタリングは重要性を帯びてくることも考えられる。また、モニタリングデータそのものが、多くの環境研究にとって不可欠であることから、モニタリングは環境研究の基礎としての重要性を有する。 環境モニタリングは、その目的により、どのような頻度で、どのような地理的範囲で、どのような方法で行うべきであるかによって変化する。したがって、既存のシステムの利用、外国も含め他の主体との協力、データの標準化による互換性の確保などを図りつつ、必要なデータを継続的に取得していくため
のモニタリングの戦略作りが求められる。
また、環境モニタリングの基盤として環境試料の長期保存、環境標準試料の整備も充実していく必要がある。
オ.普及・啓発活動の促進
環境保全対策を効果的に実施するためには、環境研究や環境技術開発の知見を普及し、社会経済活動や生活様式を環境負荷低減型のものへと転換させるように誘導することが重要である。
特に、優良環境技術の開発普及を促進するため、その推奨・助成等の措置を講じていく必要がある。
また、今後、環境保全に向けた研究開発を推進するに当たり、国民の研究開発に対する関心を喚起し、理解を増進するとともに、積極的な参加を促すことが不可欠である。このため、成果を一般向けの分かりやすい形に変換し、シンポジウム、環境雑誌、インターネット等の情報提供手段を十分に活用し、普及・啓発活動に努めることが必要である。
第3節 各主体の役割
環境研究技術の重点課題の具体的推進方策については、第1節及び第2節で示したとおりであるが、これらの施策を推進するに当たり、国の役割及び地方公共団体、大学、事業者、民間団体、国民に期待される役割は以下のとおりである。
(1)国の役割
国は、各主体が密接な連携の下に環境研究及び環境技術開発を実施することができるように、各種の施策を推進するとともに、政策の立案に必要なあるいは民間においては実施することが困難な環境研究及び環境技術開発を推進することが必要である。
このため、環境研究及び環境技術開発の基本方針を明らかにするとともに、重点的に取り組むべき課題を提示し、また、環境研究及び環境技術開発を進めていく上での研究開発の企画・評価システムの強化、多様な研究開発システムの構築、研究開発の実施を進める。さらに、研究開発の共通基盤となる情報データベース等の整備を行うほか、各主体の取組が総合的に推進されるよう各種の研究環境の整備や支援のための措置を講じるなど、第2章の基本的な方向に沿って第4章に掲げる推進方策が総合的に実施されるように施策を推進する。
(2)地方公共団体の役割
地域特性を踏まえた取組は、環境研究及び環境技術開発の基本となるものであり、また、その成果は世界へと発信しうるものであることから、地方公共団体の果たすべき役割は大きい。
このため、地方公共団体は、地域の自然的社会的条件などを踏まえ、環境研究及び環境技術開発に関連する地域内外の各主体とも連携を図りつつ、地域の研究開発能力の向上に留意しつつ、環境研究及び環境技術開発について国に準じた施策や地域独自の施策を推進することが期待される。
(3)大学の役割
大学は、教育の場であるとともに、学術振興の場であることから、環境研究及び環境技術開発に係る人材の養成とともに、環境研究及び環境技術開発の基礎的基盤的な研究開発における役割は大きい。
このため、環境研究及び環境技術開発に関連する各主体との連携にも配慮しつつ、人材の養成、研究開発が期待される。 また、人材の養成及び学問体系の基盤をつくる大学の役割から、環境側面を内在化した学問体系を確立し、我が国が持続可能な社会経済システムを構築していく上での貢献への期待も大きい。
(4)事業者の役割
事業者は、我が国における経済活動の中で大きな部分を占めており、また、環境技術についても大きな知見を有していることから、環境技術の開発、普及、移転に当たって果たすべき役割は大きい。とくに、21世紀を間近にひかえ我が国の主要な産業分野の一つとして期待される環境ビジネスの発展と雇用の創出に大きな役割が期待される。
このため、環境技術開発に関連する各主体との連携にも配慮しつつ、環境技術の開発、普及、移転を推進することが期待される。
(5)民間団体の役割
非営利活動を行う民間団体によるリサイクル、水質保全、里地・里山の保全などの活動や、開発途上国における緑化・野生生物保護・公害対策などの活動、さらに国際交流活動は、きめ細かな地に足の着いた多彩な活動として評価される。これらの活動は、一般に問題の発掘、活動の企画と支援活動とが密接に結びついていることが特徴と言える。 このため、民間団体の有する地域環境の熟知、機動性、柔軟性等の特色を活かし、各主体との連携にも配慮しつつ、環境研究及び環境技術開発に取り組むことが期待される。
(6)国民の役割
今日、国民の日常生活に起因する環境への負荷が増大しており、生活スタイルの転換を含め、社会経済システムを持続可能なものとすることが必要となっている。
このため、環境保全対策の基盤である環境研究及び環境技術開発の役割について理解を深め、環境負荷の少ない製品等の利用に努めるなどにより環境研究及び環境技術の振興を支援することが期待される。
おわりに
環境の状況の把握、環境の変化の機構解明、環境保全に関する施策の適正な策定のため、環境研究及び環境技術開発を的確に推進していくことが重要である。この環境研究や環境技術開発は、とりもなおさず、持続的発展が可能な社会の構築や、循環・共生等の長期的目標の達成に向けたものでなければならない。
環境研究技術基本計画においては、環境保全施策を推進していくためには、その基盤として重要な役割を果たす環境研究技術をできるだけ効果的・効率的に実施していくことが不可欠との認識に立って、実施すべき環境研究技術の基本的方向、重点課題、推進施策等について示した。本計画により、環境研究技術に関わる国、地方公共団体、大学、事業者、民間団体等の研究者、技術者らが行っている研究や技術開発の位置づけの確認に役立ち、有効で効率的な研究や技術開発が実施されていくことが必要である。
その際、これまで、環境研究は広く各方面で推進され、成果は蓄積されてきたが、今後は、その研究成果の環境技術開発への橋渡しを含め、環境技術開発を体系的に推進し、普及していく必要がある。
さらに、我が国における環境研究及び環境技術開発の取組状況の全体を可能な限り把握し、諸外国の取組についても、定期的なレビューを行い、我が国の位置づけを明確にしつつ、本計画の進捗を管理していくことが必要である。
また、本計画は、新たな科学的知見の集積、社会経済状況の変化に柔軟かつ適切に対応して、適宜見直しを行っていく必要がある。
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