生物・水産資源・水環境問題検討作業小委員会(第5回)

1.日時

平成25年10月28日(月)10:00~12:00

2.場所

アクロス福岡606会議室

3.出席者

小委員会委員長 有瀧真人委員長
委員 岩渕光伸委員、古賀秀昭委員、速水祐一委員、山本智子委員
専門委員 梅崎祐二委員、大村浩一委員、川村嘉応委員、福留己樹夫委員、松山幸彦委員
事務局 水環境課長、水環境課閉鎖性海域対策室長補佐

午前10時00分 開会

○高山室長補佐 時刻になりましたので、ただいまから有明海・八代海等総合調査評価委員会第5回生物・水産資源・水環境問題検討作業小委員会を開催いたしたいと思います。
 最初に、本委員会は公開の会議となっておりますことを申し上げます。
 本日の出席状況でございますが、欠席の連絡を藤井委員よりいただいております。本日は11名ご出席されております。
 また、評価委員会の岡田委員長、それから、本日午後予定されている海域再生小委員会の滝川委員長にもご出席をお願いしております。
 続きまして、環境省水・大気環境局水環境課長の宮崎よりご挨拶申し上げます。

○宮崎水環境課長 おはようございます。環境省水環境課長の宮崎でございます。
 有明海・八代海等総合調査評価委員会第5回の生物・水産資源・水環境問題検討作業小委員会の開催に当たりまして、一言ご挨拶申し上げます。
 委員の皆様には、お忙しい中お集まりいただきまして、まことにありがとうございます。先ほどご紹介がありましたように、有明海・八代海等総合調査評価委員会の岡田委員長、また、この生物小委員会の有瀧委員長、それと午後開催を予定しております海域再生小委員会の滝川委員長にもご出席をいただきまして、まことにありがとうございます。
 有明海・八代海の再生につきましては、有明海・八代海等を再生するための特別措置法に基づきまして、基本方針を定め、関係各県がその県計画に沿って、各種対策を実施しているところですが、現状では本年度も、赤潮の発生、有明海湾奥西部で貧酸素状態が確認されておりまして、まだまだ有明海再生の道半ばと考えているところであります。
 今回の小委員会では、有明海の赤潮に関連した最新の情報と、貧酸素水塊に関します研究成果の報告について、ご意見をいただくこととしております。有明海・八代海の課題の克服には、環境悪化の原因要因の特定と、再生に向けた再生像や、その再生手順の提示といった、この評価委員会の役割がとても重要であると考えておるところでございます。委員の皆様には、本日の検討におきましても、忌憚のないご意見を賜りたいと考えておりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

○高山室長補佐 続きまして、配付資料を確認させていただきます。
 まず、議事次第がございまして、資料1として委員会名簿がございます。資料2といたしまして「夏の赤潮の整理と検討」、資料3-1といたしまして「有明・八代海における貧酸素水塊」、資料3-2といたしまして「有明・八代海における貧酸素水塊(概要)」、それから参考資料1につきましては、午後1時半からこの場所で開催予定の海域再生対策検討作業小委員会の配付資料をつけさせていただいております。委員のみの配付とさせていただいておりますので、ご了知願います。不足の資料等がございましたら、事務局のほうにお申し出ください。
 報道取材の皆様におかれましては、これ以降のカメラ撮影はお控えいただきますよう、よろしくお願いいたします。
 これ以降の進行は、有瀧委員長、よろしくお願いいたします。

○有瀧小委員会委員長 有瀧でございます。皆さん、おはようございます。
 先ほどの挨拶の中にもありましたが、この小委員会は、今年度、赤潮と貧酸素について検討を進めていくということをご紹介しているところです。本日は、この両方についてご検討いただくということで、よろしくお願いいたします。なお、前回と今回の検討結果については、今後開催されます本委員会のほうで逐次報告していくということになりますので、これもまたよろしくお願いします。
 それでは、議事次第をごらんください。今申し上げましたが、議題としまして、夏場の赤潮と貧酸素についてということで二つ用意しております。前半の赤潮については、これから10時半をめどに検討していき、残りの時間を使って貧酸素についてご説明、それから検討していただくということになります。
 では、早速でありますが、赤潮については松山委員のほうからご説明いただきたいと思います。よろしくお願いします。

○松山委員 おはようございます。水産総合研究センターの松山です。どうぞよろしくお願いします。
 それでは早速ですけれども、私のほうからは、夏場の赤潮の整理と検討(魚毒性の発現・被害軽減等)ということで、ご説明をさせていただきます。説明する内容は、先ほどの資料確認でありましたように、資料番号2についてということになっております。ご確認をよろしくお願いします。このままパソコンを使って発表させていただきます。
 赤潮に関して小委員会で収集すべき項目として、事務局のほうからはこのようにミッションを与えられております。前回第4回の小委員会では、かなり膨大な資料となりましたけれども、ここで字を青で反転させた項目について資料を収集し、発表させていただいたということであります。今回は、残りのうち、赤字で反転させたものということで、被害を受ける水産生物に関するものと対策技術に関して集めた資料を、これから説明していきたいと思います。
 収集した資料の概要は、主に5項目に分かれております。順番にご説明をしていきたいと思います。
 最初に、有明海・八代海における赤潮による漁業被害の概要についてのご説明です。
 5ページの写真は、有明海・八代海で夏場に赤潮を起こす主要な4種類の赤潮生物で、これは前回の委員会の資料でもご説明したものであります。魚を殺す赤潮は上の二つ、シャットネラとコクロディニウムが有名ですけれども、今回特に最も毒性の強いシャットネラを中心とした資料で説明をすることにいたします。
 6ページの写真は、シャットネラ赤潮でへい死した天然魚の写真でございます。撮影されたのは、2009年7月24日、長崎県諫早湾においてとなっております。
 7ページの写真は、同様にシャットネラ赤潮でへい死した養殖ブリの写真でございます。撮影されたのは2009年の天草市の養殖漁場においてであります。
 8ページは、前回の委員会の資料に出ているものですけれども、赤潮の発生件数については、1998年以降、有明海海域、八代海海域でも増えているような傾向が伺えています。これは、被害の件数の経年変化を取りまとめたものです。有明海、八代海、橘湾と、3海域それぞれに被害の件数を入れていますが、赤潮の件数だけを見ますと、特に大きな増減の傾向は見られないということになっております。
 9ページは、日本における赤潮による漁業被害の上位5位を金額順に並べた表になっております。こうして見ますと、2位、3位、5位に八代海を中心とした海域が入って、先ほどのシャットネラでありますとかコクロディニウムが、赤潮の原因生物として出ております。トップ5のうち3つが八代海・有明海海域ということで、国内でも規模の大きな赤潮被害が最も多発している海域であるということがわかります。
 次に10ページは、シャットネラ属の赤潮が水産生物に与える影響に関する学術論文の文献検索をかけたものです。魚種ごとにヒットしてきた数を入れておりますけれども、シャットネラ属で見ますと、やはり漁業被害の多いブリに関する論文が多く報告されていることがわかります。
 11ページは、八代海でよく問題になるコクロディニウムについて同じように文献検索をかけたものですけれども、こちらは複数の魚種に1報とか多くても5報ぐらいということで、シャットネラ属と比較しますと、知見が非常に少なくなっているという状況です。
 12ページの表は、有明海と八代海で赤潮が発生したときに問題となる事象を簡単に総括したものであります。基本的に、赤潮の影響を受けるのは、養殖の魚類でございます。八代海や牛深海域、橘湾で、先ほどの資料にありましたように、億単位の漁業被害が頻発して、そのたびに社会・経済学的な問題として大きく取り上げられる状況でございます。この表でいうと、一番上の養殖魚類に対する被害が、赤潮で最も問題になるということでございます。
 頻度は少ないんですけれども、先ほど写真で見ましたように、天然の魚が死ぬということも、たびたび見られています。さらに、クルマエビやガザミなどの甲殻類の漁獲物の衰弱、漁獲の不振も、よく観察されているということであります。
 また、諫早湾とか有明海の奥部では、赤潮の発生後に二枚貝のへい死も観察されております。こちらについては、赤潮の最中に貧酸素水塊の発生等も認められるということで、赤潮の直接的な影響なのか、それとも貧酸素の影響なのかがはっきりしていないという部分があります。
 赤潮が天然魚介類に与える影響は、有明海・八代海海域に限らず、知見そのものが非常に少なくなっています。ここでは熊本県海域で調べられた結果をご紹介いたします。
 14ページの図は、クルマエビの漁獲量とCPUEを月ごとに示したものです。こうして見ますと、ピンクの斜線が描かれたシャットネラ赤潮が発生している期間、ここに漁獲の谷間が存在します。
 ただ、漁業者は、シャットネラ赤潮が出ますと、クルマエビが獲れないことを経験的に知っていますので、操業そのものをしない、海に行かないということもありまして、この減少分は、単純に漁に出なかった影響も含まれております。
 そこで15ページ、赤潮の発生時期に操業していない期間に、熊本県さんが、漁業者さんの船を借り上げて試験操業したデータですが、この赤潮の区間をつないだのが赤棒になります。こうやって見ますと、漁業者が指摘するように、赤潮が発生している時期は、漁獲が極端に低下していることがわかります。
 ただ、赤潮が終わった後には、急に漁獲がまた回復してくるということから、死んでしまったというわけではなく、赤潮が出ていないほかの海域へ逃避したのか、もしくは網にかからないように深く堆積物中に潜っていたとか、そういった可能性が想定されます。いずれにしても、現場において顕著な忌避行動が認められるわけです。
 次に、2番目として、赤潮プランクトン(シャットネラ)の二枚貝に与える影響についてご説明いたします。時間の関係で要点のみをご説明します。
 17ページでお示しする試験結果は、まずマガキとタイラギへの影響を調べたものです。まず赤潮密度でこういった曝露試験をマガキ、タイラギに対して行っております。最高の細胞密度は1ml当たり1万細胞と設定しております。結果、24時間では、マガキもタイラギも、シャットネラでへい死を起こすということはありませんで、急性毒性は24時間程度では認められないという結果が得られております。
 一方、これら二枚貝は、赤潮プランクトンを食べてくれる捕食者でもあるわけです。その食べるという行為、ろ水活動のほうも同様に測定した結果が18ページです。こちらからシャットネラの細胞密度が0、1,000、2,000、上は5,000ぐらいまで矢印をとっておるんですけれども、見てもわかるとおり、2と書いたところ、1ml当たり2,000細胞を超えますと、マガキもタイラギもほとんどろ水活動を止めてしまうことがわかりました。
 同様な試験を今度は有明海の奥部に生息していますサルボウでも実施しております。先ほどのマガキとタイラギ同様、この点線で示したのがろ水活動になるんですけれども、2,000細胞を超えたところからフラットになる、つまりほとんど食べていないということで、同様にろ水活動を停止することがわかりました。
 次は、有明海のもう一つの重要な水産生物であるアサリについてです。こちらは2万細胞の48時間という、かなりきつい曝露条件でやった試験でありますけれども、やはり短時間でのへい死というものは認められておりません。
 ろ水については、プランクトンの数が時間とともに減っていくということで、ろ水をしているということがわかりますけれども、シャットネラの場合は、数百細胞ぐらいでも、24時間経過してもほとんど食べていないということで、若干、ほかの二枚貝と比べると、シャットネラに対して感受性が高いような結果が得られています。
 次は、実際に実験しているところの写真です。一方が珪藻のキートセロス、一方がシャットネラで、どちらもクロロフィル濃度は一緒にされています。入っているアサリの個体数も一緒ですけれども、珪藻のほうは食べますので、透明になっていきます。シャットネラはろ水をしませんので、実験中もほとんど変わりませんでした。
 二枚貝に対するシャットネラの影響をまとめますと、赤潮の密度である1万~2万細胞という曝露ではへい死しないということで、魚で認められるような急性毒性はありませんでした。
 一方で、数百~2,000細胞の密度で貝のろ水活動が低下するということで、赤潮になってしまうと、二枚貝による赤潮の除去効果が期待できなくなることがわかりました。
 次に、3番目として、赤潮プランクトンが甲殻類に与える影響の資料でございます。
 先ほど、クルマエビの漁獲に与える影響を説明いたしました。25ページは、シャットネラをクルマエビに強制的に曝露した結果でございます。細胞密度は2,500~2万という値をとっておりますけれども、全ての試験区において、時間の経過とともに生残率が下がる、すなわち、へい死することがわかりました。すなわち、急性毒性を示すことが判明しております。
 26ページの写真のうち、下のほうがシャットネラに曝露されたクルマエビの写真でございます。矢印のところに、えらがあります。見てもわかりますとおり、シャットネラで曝露された試験区では、鰓に櫛状の茶色い顕著な着色が認められます。すなわち、えらが変色しているということです。顕微鏡で、クルマエビのエラにシャットネラの細胞の潰れたものが多数付着している映像が観察されております。
 さらに、組織切片の映像で確認しました。27ページは、鰓の構造自体の画像でして、一方が通常の鰓の形で、もう一方はシャットネラで曝露された鰓です。シャットネラで曝露された鰓は、基本的な構造、きちんとした楕円の形は保っておりますが、鰓と鰓のすき間に、こういう粘質物がびっしりと詰まっているということで、クルマエビはえらが物理的に詰まって窒息しているんじゃないかということが示唆されております。
 次に、ガザミへの影響であります。28ページには、2回行った試験の結果が示されているわけですけれども、やはりこれも時間の経過とともに生残率が下がるということで、クルマエビ同様に急性毒性が見られることがわかりました。
 同様に29ページは鰓の写真です。この串状の部分が鰓になるんですけれども、一方が通常のガザミのえら、一方がシャットネラに曝露されたガザミの鰓ということで、見てわかるとおり、曝露されたほうは茶色く変色しています。鰓にシャットネラが強固に付着して、閉塞をさせているということがわかります。
 甲殻類に対する影響をまとめますと、クルマエビもガザミも2,500細胞を超えると、短時間でへい死が発生する、すなわち急性毒性があることがわかりました。これは魚類と同様であります。そのへい死のメカニズムとしては、シャットネラが鰓に絡みついて窒息死をさせていることが疑われました。赤潮の発生中に漁獲されるクルマエビは、漁業者のお話を聞きますと、鰓が汚れていると指摘されておりますので、本試験結果はそれを裏づける結果じゃないかと考えられます。
 4番目として、今度は魚類に与える影響でございます。
 ブリに対するシャットネラの致死的作用の既往知見が多数、文献として出てきていると先ほどご紹介いたしましたけれども、この試験は、ブリの幼魚を用いて、細胞密度と生残時間との関係を詳しく見たものであります。
 32ページには、各段階の細胞密度と生残率が出ております。細胞密度が高くなるほど、生残時間が急激に短くなるということで、濃度依存的な魚毒性が認められることがわかりました。幼魚の場合は720細胞以上でへい死するということです。この試験は全て通気環境下でやられていますので、いわゆる飼育水中の酸欠で死ぬのではなくて、赤潮の影響が直接的に魚を殺しているということが読み取れるわけです。
 次は、へい死したブリの鰓の組織切片像です。左が通常の鰓の構造です。右端がシャットネラに曝露された鰓の組織切片像です。三角で示された部分に空胞ができていますけれども、これは浮腫になります。上皮細胞が浮腫しているということと、櫛状の構造の根元の部分にある二次鰓弁間細胞がほぼ消失しているということで、えらが著しいダメージを受けていることがわかります。これによって、えらの機能障害による窒息死の原因ということが言えるわけです。これは、瀬戸内海等で過去、シャットネラの赤潮が発生したときに精査された結果ともほぼ一致することがわかりました。
 こうした試験を今度はヒラメで行っております。そうしますと、ヒラメにも魚毒性は認められるわけですけれども、へい死する細胞密度が1万5,000以上ということで、シャットネラよりも20倍高い細胞密度じゃないとへい死しなくて、しかも、生残時間もブリの20倍以上ということで、ヒラメはブリよりもシャットネラに対してかなり耐性を有していることが、この試験結果でわかりました。
 時間がありませんので、このスライドの説明は割愛させていただきます。
 魚類に対するシャットネラの影響をまとめます。培養されたシャットネラでも急性毒性を認めていますが、先ほどありましたように、ブリが弱くてヒラメが強いという魚種特異性が認められています。これは現場でも頻繁に指摘されていることでありまして、赤潮にはヒラメが非常に強く、次にマダイ、ブリが弱いと言われております。したがって、赤潮に対する毒性にはこうした魚種特異性があることを加味した対策が必要になります。
 赤潮によるへい死は、鰓の機能障害による窒息死だということが、改めて確認をされております。これまでご説明しましたように、有明海や八代海で主要な漁獲対象となっている魚介類とシャットネラの関係は大分解明されてきております。結果をこのように一覧として整理しておりますので、お手元の資料でご確認をお願いします。
 最後になりますが、赤潮による被害軽減策について簡単にご説明をいたします。
 まず、赤潮が発生する八代海あるいは橘湾では、赤潮が出ますと、漁業者の方々が生けすの網を継ぎ足して、生けすの水深を深くしたり、生けすそのものを深く沈めるといった対策をとられております。これは、赤潮プランクトンの日周鉛直移動特性ということを勘案して行われているわけです。赤潮プランクトンは、基本的に海面近くで光合成しておりますけれども、夜間は深いところにある栄養塩を求めて、下のほうに潜っていくことが文献等でわかっております。このことが日周鉛直移動と呼ばれているわけですけれども、その運動する幅が種類によって違います。例えばシャットネラ、ヘテロシグマであれば10メートル前後、コクロディニウム、カレニアは20メートルを超えることがわかっております。
 40ページは、2010年に八代海で赤潮が発生したときに熊本県さんが調べた結果であります。観察時間は、お昼12時からスタートして、夜中を経て、朝までとなっています。シャットネラは、昼間は海面近くにいるんですけれども、夕方から深いところに潜っていき、分布の中心が10メートルぐらいのところまで潜ると、また次の日は表面まで戻ってくるという日周鉛直移動を示していまして、この10メートルという幅はほぼ文献値に近い出現特性だとわかります。ですので、漁業者は、赤潮は深いところには来ないだろうということで、水深10メートルよりも深いところに生けすを沈めたり、網を深さ10メートル以上になるように継ぎ足すといった対策をとられております。
 41ページは、赤潮の被害が大きかった鹿児島県海域のデータであります。赤潮のピーク5日間の、漁協さんが計数されたシャットネラの30メートルまでの水深別の細胞密度であります。ピンクの点線が描いてある100細胞というところが、大型のブリ等のへい死が発生する細胞密度だと言われています。こうやって見ますと、おおむね、表面10メートルよりも浅いところに高い細胞密度があります。ということで生けすは水深15メートル~25メートルに沈めるという対策をとっていたわけですけれども、水深15メートルを超えるところでも、日によっては致死的な細胞密度が出現しておりまして、結果として、漁業被害を回避できなかったということになっております。
 ですので、生物が上下に動く幅は10メートルだとわかっておるわけですけれども、実際の養殖漁場では、縦方向の複雑な潮流等で、表面の赤潮が深いところまで行くということが発生しておりますので、こうした潮流も含めて、養殖漁場周辺の複雑な海流も解明しないと、なかなか被害対策にはつながらないのではないかと考えられます。
 次に、赤潮が発生したときに、現場で被害対策として呼びかけられている餌止めについてです。餌止めとは給餌を完全に停止する絶食のことです。
 これの延命効果は、実は科学的知見が乏しく、経験則で行われてきているということがあります。そこで、ブリの幼魚を用いて、4日間の絶食が延命効果があるかどうかを調べたのが、42ページの結果になります。実際、絶食区では給餌区よりも生残時間が2倍以上伸びました。へい死をとめる効果はないんですけれども、延命する作用はこのように確認できているということで、餌止めは一定の延命効果があることが確認されております。
 また、養殖の方法によって被害が増減することも、現場から指摘されています。43ページは、2010年に赤潮の被害が大きかった漁場において、個々の生けすの性状と魚のへい死率との関係を重回帰で解析した結果でございます。数字が高いほどへい死との相関が高いというふうに見ていただきたいんですけれども、網目合、魚令、魚の収容密度といったものがへい死率と関係があることが統計的に浮かび上がりました。
 さらに、細かく解析をいたしますと、魚の体重が、赤潮とのへい死との因果関係が最も強いことが統計的に確認できました。体重が大きな魚ほど赤潮で死にやすいというのは、現場からも言われていたわけですけれども、こうしたものが統計処理によっても導かれたということでございます。したがいまして、赤潮が発生すると大きい魚は死ぬという前提に基づいて、こうした魚を赤潮の発生リスクの低い漁場で飼育するとか、赤潮が発生したら早目に出荷をするということで、被害を軽減できるのではないかと考えられます。
 44ページは、赤潮プランクトンを直接駆除するため、官民でさまざまに取り組まれている対策の一覧です。これについては多数の知見等ありますので、お手元の資料でご確認をいただきたいと思っております。
 赤潮の被害軽減についてまとめます。現状、取り組まれている情報の迅速共有、あるいは餌止め、避難、生けすの沈下、早期出荷等は、一定の赤潮被害軽減効果がありますので、今後ともこれらを徹底することが有効ではないかと考えられます。
 直接的な防除については、さまざまな手法が取り組まれていますけれども、費用対効果、環境への配慮を十分に見きわめて、慎重に実施する必要があると考えられます。
 また、魚のサイズ、魚種によって、赤潮による影響の度合いが大きく異なります。したがって、魚の種類やサイズごとにどう漁場を選んでいくかが、最初に重要じゃないかと考えられます。
 それと、これは長期的な取り組みになるんですけれども、瀬戸内海での事例を見ますと、赤潮の発生そのものが減少することが根本解決につながります。有明海・八代海で赤潮の発生がどういうメカニズムで増減しているのかという部分がまだよくわかっておりませんので、こうしたことの解明が何より長期的対策として重要ではないかと考えられます。
 以上、大変長くなりましたけれども、これで発表を終わらせていただきたいと思います。

○有瀧小委員会委員長  どうもありがとうございました。
 今のご説明に関して、何かご意見、ご質問等あったらよろしくお願いいたします。

○岩渕委員 まず、グラフの見方です。18ページにマガキとタイラギのろ水量のグラフがあります。凡例の500~1万という数字は何をあらわすのでしょうか。

○松山委員 これは実験を開始したときの初期細胞密度ですね。実験中に徐々に細胞密度が減りますので、区間、区間の細胞密度をプロットしていることになります。1時間置きにろ水量を測定していて、そのときの実測の密度でしていますので、実験を開始した試験区の名前が、この1万~500ということです。

○有瀧小委員会委員長 ほかには。どうぞ。

○梅崎委員 同じくグラフの見方についてです。43ページで、上のほうでは体重と魚令が高い相関があるように見えるんですけれども、下のほうでは体重が高いけれども、魚令が低い、収容数が上のほうは低いけれども、下のほうは高くなっているというふうに思ってしまったんですけれども、どうなんでしょうか。

○松山委員 そうですね、下のほうが2度重回帰をかけて、ばらついたものをドロップアウトさせるような形にしておりますので、実際には、下のほうの数値を見ていただいたほうが正確ではないかなと思います。実際、これでも100台近い生けすのデータではあるんですけれども、やはり重回帰をかけるには数的にまだまだ厳しい部分があって、このデータはかなりばらついていると思ってください。下側のほうで見ますと、やはり網目合いと体重と収容の数統計的には可能性が高いです。
 補足しますと、網目合いが大きいほど魚が死にやすいという結果がここで出ているんですけれども、これまではむしろ、網目合いが小さいほど死にやすいということが、瀬戸内海等では言われていましたので、私もこの資料を見てあれっと思いました。多分、大きな魚ほど死にやすいというのは、大きな魚が飼われている生けすは、当然、網目合いが大きいですから、この結果は、基本的に大きい魚が飼われていたことが一番影響しているんじゃないかと判断されています。

○梅崎委員 はい。

○有瀧小委員会委員長 ほかには。

○古賀委員 8ページの被害件数のグラフ、これは夏の赤潮の、魚介類の被害発生件数ということでいいのかという確認です。
 それと、赤潮プランクトンの種類ごとの発生件数を整理されたほうがいいのかなという感じがしました。八代海では多分、以前はシャットネラの被害はあまりなかったんじゃないかなと思いますの。年代で変化しているのでは?ということもあって、その辺、確認です。

○松山委員 これは前回の委員会資料そのまま用いていますので、夏の赤潮も冬の赤潮も件数として含まれております。特に八代海、橘湾は、ほとんどが夏の被害件数になるんですけれども、有明海は相当数、ほとんどが冬の被害になります。
 これから来月に向けて親委員会のほうに取りまとめ資料を上げていく場合は、今、委員がおっしゃったように、種類ごと、季節ごと、それとある程度、赤潮の規模がわかるもの――大きい赤潮も小さい赤潮も、みな1件でカウントされていますので、そうした規模がわかるような形の図をもう一度整理する必要があるということで、取り組んでいこうかなと思っています。

○有瀧小委員会委員長 本城委員、お願いします。

○本城委員 3点ほど質問させてください。
 1点は、5ページで、有明海・八代海で夏季に頻発する赤潮生物の写真があります。3種類までは納得できますが、スケレトネマがここに入っていて、ヘテロカプサが落ちています。その理由をまず説明していただきたいと思います。

○松山委員 特に夏場の鞭毛藻の赤潮が発生する前や、鞭毛藻の赤潮が終わった直後は、スケレトネマの赤潮が実際に発生しているということで、九州漁業調整事務所さんの資料を見ると、夏場の赤潮もこのスケレトネマでかなりの件数が出てきます。そういうこともありまして、ここに入っております。けれども、委員がおっしゃるように、魚介類をへい死させる赤潮ということでスクリーニングをしていくと、ほかにも何種類か候補として入ってくると思います。ただ、赤潮の件数は必ずしも多くありません。

○本城委員 件数が多くないので、被害額はある程度出ていても、ここではヘテロカプサを落としたという意味ですね。

○松山委員 そういうことです。

○本城委員 それで全体的によければと思います。
 2番目は、昔から、絶食して痩せた魚は死なないとは漁師さんたちから言われていることです。今回もそういう結果が得られているように思います。しかし、太った魚と絶食させた魚とで酸素消費量は変わらないという結果がその下に示されていて、太った魚と痩せた魚の死亡する差というのは、他に何が考えられているのか、総合センターはどういうお考えを持っているかお聞かせください。

○松山委員 各県さんも含めて、養殖業者さんたちにいろいろお話を伺っておるんですけれども、こういった酸素の消費速度で見ますと、ほとんど変わらないんだと。実際に餌止めした魚も生けすを活発に泳いでいまして、酸素の要求だけではどうも説明できないなというのは皆さん徐々に感じているところです。ただ、えらに赤潮プランクトンが絡んでへい死するということを想定しますと、餌止めをした魚は粘液の分泌が非常に少なくなっているとも言われておりますので、もしかしたら、そうしたものとへい死とが関係しているんではないかとおっしゃる方もおられます。

○本城委員 国の予算で、長崎大学の石松先生に絶食の研究をしてもらったことが過去にあります。そのときに、やはり酸素消費量とは別だということを先生がおっしゃっていたことを思い出します。今後、石松先生と情報交換していただければありがたいと思います。
 3番目は、クルマエビと魚のへい死の鰓状態についてです。クルマエビでは、粘液や細胞の崩壊したものが詰まって死んでいるということ、魚類のほうでは浮腫を起こしているということで、同じへい死という扱いの中でも、鰓の変化が少し違うような気がします。それはそのように理解してよろしいのでしょうか。

○松山委員 この組織切片画像を見る限り、赤潮で曝露された区でもしっかりと膜が残って、中の血管とか血球もそのままありますので、物理的にはダメージは受けていません。魚のほうはかなりぼろぼろになっていますけれども、クルマエビ、ガザミに関しては、鰓の基本構造はそのままで、ただ、すき間に物がいっぱい詰まっているという映像がありますので、やはり死に方は微妙に違うんじゃないかなと科学的には判断されると思っています。

○本城委員 そこに詰まっている物は、粘液が主なのか、細胞の崩壊物も含まれているのかを教えてください。

○松山委員 報告書の文章を見ますと、実体顕微鏡でこの鰓をよく見ると、シャットネラそのものが潰れたのがたくさん詰まっているという記載がされています。ですので、クルマエビから出た粘液というよりは、これは赤潮プランクトンそのものの塊が残っているのではないでしょうか。

○本城委員 細胞の崩壊物と考えてよろしいですね。ありがとうございました。

○有瀧小委員会委員長 ほかには何か。

○滝川海域再生対策検討作業小委員会委員長 まず1点なんですが、原因対策といいますか、再生策という方向からちょっとお伺いします。13ページの熊本県水産センターさんではかられているシャットネラの観測地点とクルマエビの漁業地域ということで、図が14、15ページにあります。ここで、そのほかの要因というんですかね、例えば貧酸素はどうなっているといった関連、あるいはそれを示すようなデータが同時にとられているのでしょうか。あるいは、赤潮の範囲がどの程度なのでしょうか。そういった調査等のデータはありますか。

○松山委員 ここでは漁獲に関する図のところだけを取り出しておりますけれども、この報告書では、海域の水温、塩分といった環境データも同時に図示されております。この海域はもともと潮流が非常に速いので、貧酸素でこれが起きたということはちょっと考えづらい、やはり赤潮の影響ではないかと、文献等からも読み取れる結果になっています。

○滝川海域再生対策検討作業小委員会委員長 わかりました。
 それと、43ページのところです。先ほどのは興味深いお話だと思うんですが、大型の魚のほうがどうも影響を受けやすいと、何か網の目との関係でおっしゃいましたけれども、それのメカニズムにかかわるようなデータといいますか資料など、何か考え方としてあるんでしょうか。

○松山委員 これに関しては、少し資料を整理しました。もちろん大きな魚ほど死ぬというのは、昔から漁業者の方からさんざんご指摘されている内容で、それを改めて統計解析で確認ができたということです。その科学的な理由、例えば大きな魚と小さな魚で鰓の構造が、赤潮プランクトンからダメージを受けやすいのかとかまでは、まだ科学的な知見を持ち合わせておりません。

○滝川海域再生対策検討作業小委員会委員長 とにかく、とられるデータの中で、重回帰をやってみたら、こういうふうになったということですね。
 それと、もう一つ。これまた要望ですが、最後の45ページで、それぞれの軽減策を示していただいています。赤潮によって被害をこうむるメカニズムがそれぞれに幾つか可能性として考えられる、その可能性に対してこういう軽減策が考えられるよという形で示していただけると、我々の再生検討委員会のほうでも議論しやすいのかと思いますので、ぜひそういった方向でのまとめを示していただけるとありがたいです。

○松山委員 はい、その方向で進めさせていただきます。

○岡田委員長 今の話の中で、最後の45ページの「長期的には赤潮発生そのものの抑制を目指す」というのは、もちろんそのとおりだと思うんです。しかし、十分ご承知だと思いますが、じゃあどこまで抑制するか、ある程度答えというか推察をある時点ではせざるを得ないだろうと思います。赤潮を抑制するといっても、なぜ抑制するかというと、赤潮は被害をもたらすからです。じゃあ、被害とは何かというと、前の12ページの表は非常におもしろかったんですが、養殖魚類に被害があるものと、天然魚類に被害があるものとで、同じ被害でも大分意味が違うだろうと思うんですね。例えば養殖魚類だと、それなりの対策もあり得るということでした。しかも、その海域を見ると、有明海では養殖魚類の被害はあまりないということでしたね。そうすると、有明と八代では、同じように「被害」と言っても、意味が全く違ってくるというところがあります。例えば8ページの被害も、非常に簡単に見ると、有明海の被害は天然魚類の被害件数と見ていいし、八代海は、これはほとんど養殖ですか。

○松山委員 有明海では魚類養殖はないです。

○岡田委員長 あまりないですもんね。はい、わかりました。
 その辺のところをぜひ分けて、赤潮ゼロというのは多分あり得ないと思いますから、最終的にどのぐらいの赤潮にすべきかという目標値をぜひ見出せと言うと叱られると思うんですが、できる限り検討していただければありがたいと思います。よろしくお願いいたします。

○松山委員 今回集めた資料を眺めていきますと、例えば魚にしても甲殻類にしても、2,000とか2,500のところからへい死が始まるとか、二枚貝の浄化能力も2,000細胞を超えたぐらいから急激に落ちるということがありました。赤潮発生そのものをゼロにすることは、多分無理だと思いますので、今言ったような生物自身の影響であるとか、浄化能力を失わないレベルまで最高の発生密度を下げるという意味では、今言った2,000とかいう数字が目標として今後生きてくるのかなと感じております。

○有瀧小委員会委員長 ありがとうございます。いろいろご意見があるかと思うんですが、もう時間も超過してきました。
 最後になりますが、これで一応、赤潮については全体像の提示が済んだと認識しております。それで、今の本城委員、それから岡田委員長のほうからもご指摘があったんですが、何がわかっていて、何がわかっていないか、それに対してどうしていくのかということ、それから、ある一定の基準を作るというのが宿題だったと思います。
 また、先ほどからご意見があったように、例えば魚類に対する影響についても、魚種特性やサイズ特性があるということの原因、要因がわからない。ここまではわかっているけれども、これからはわからないという、そういう課題を出して、この小委員会の中で絞り込みをしていかなければいけないと思います。この委員会としては、「こういうものがあるが、優先順位をつけたらここから取り組んでいかなければいけない」ということを出していかなければいけません。本委員会までにそういうことも含めて、先ほどの宿題も受けとめながらやっていきたいと思いますので、よろしくお願いします。
 それでは、赤潮のほうはこれで一旦区切りをつけます。続きまして、おおむね1時間程度で、速水委員のほうから貧酸素についてご説明いただいて、意見交換をしていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

○速水委員 それでは私、速水のほうから、有明・八代海における貧酸素水塊について報告したいと思います。
 今日は、まず貧酸素水塊とは何かについてお話をした後で、有明海における貧酸素水塊の発生状況、貧酸素水塊の形成・変動メカニズム、貧酸素水塊の経年変動、魚介類への影響、最後に、八代海における貧酸素水塊という順番でお話をしたいと思います。
 まず、貧酸素水塊とはということですけれとも、実は水中の溶存酸素についてはさまざまな単位が使われています。mg/L、これはppmと同じです。あるいは、水産用水基準などはml/Lの単位が使われています。また、化学系の方はmmol/L、あるいはmM(ミリモラー)という単位を使います。また、飽和度が使われる場合も多いです。
 1ml/Lは1.428mg/Lに等しいです。また、1mmol/Lあるいは1mMは、32mg/Lというように、mg/Lに換算することができます。また、酸素飽和度は、試水と同じ水温・塩分における酸素飽和量で試水の溶存酸素量を割って、それに100を掛けたものであらわされます。
 我々は、このようにさまざまな単位であらわされている溶存酸素について、多くの文献で現在使われている「mg/L」という単位に基本的に統一しようと考えました。ただし、漁業者からは、飽和度(%)のほうがわかりやすいという意見があるため、一部こちらの単位を併用しています。
 次に、貧酸素水塊の定義です。
 実は貧酸素水塊の決まった定義は、現在、日本にはありません。文献によってさまざまな基準で、貧酸素水塊が規定されています。例えば、城(1989)による大阪湾のケースでは、飽和度50~60%より少ない場合を貧酸素と呼んでいますし、東京湾の場合、鬼塚(1989)によるものでは40%を基準にしています。また、Fujiwaraらの伊勢湾では30%、それから世界各地の水域を対象にしたRabalais et al(2010)でも30%、それから柳(2004)では25%ないしは40~50%以下と記述しています。
 ちなみに、夏季の有明海の浅海域底層の典型的な塩分30、水温25度という値を入れますと、50%は3.74mg/L、40%は2.78mg/L、30%が約2mg/Lとなります。
 また、溶存酸素濃度と酸素飽和度との関係ですけれども、塩分が高くなると酸素の飽和度は低くなる、つまり酸素が水中に溶けにくくなります。また、温度が高くなるほど、水中に溶ける酸素の量は少なくなって、飽和酸素量は少なくなります。これは重要なことなので覚えておいてください。
 そこで、次に、貧酸素水塊の定義2ということで、mg/Lで見ていきたいと思います。まず一番上にありますのは水産用水基準でして、ここでは3ml/Lと定義されています。これは4.3mg/Lに相当します。また、同じこの水産用水基準の中にある甲殻類の致死濃度、あるいは貝類に生理的変化を引き起こす臨界濃度は3.57mg/Lです。また、有明海でよく使われている値は3mg/Lです。これは伊勢湾で久野らが、長良川河口域で村上らが、中海で森脇・大北らが使っているものと同じ値です。
 一方、水産用水基準では、底生生物の生存可能な最低濃度として2ml/L、これは2.86mg/Lですけれども、こういう数値を挙げています。また、これは『サイエンス』に載った総説ですけれども、Diaz and Rosenberg(2008)でも、やはり2ml/L、2.86mg/Lを貧酸素の基準にしております。小林(1993)の東京湾の例、それから鈴木(1998)の三河湾の例でも、やはりこれを基準にしています。
 一方、柳(1989)では、正常なベントス分布を保証する限度として、2.5mg/Lという値を挙げています。それから水産用水基準の中では、底生魚類の致死濃度として1.5ml/L、つまり2.14mg/Lを挙げています。一番厳しいものは、Diaz(2001)、あるいは環境基準の環境保全の項目でして、これは2.0mg/Lとなっています。
 これを見ますと、大体3ないし2.86mg/Lという値が、一般的によく使われている場合が多いことがわかります。有明海の場合、有明海の生物がどの程度まで貧酸素耐性を持っているのかという情報が十分にありません。そういうことを鑑みると、現時点では3mg/Lという値を用いて、おそらく問題はないだろうと考えております。したがって、今回の報告では、3mg/Lを貧酸素の基準にします。また、飽和度の場合は、40%を貧酸素の基準にしたいと思います。
 次に、貧酸素水塊の基本的な形成機構についてお話します。
 貧酸素水塊は、水塊への酸素供給速度が、酸素の消費速度よりも小さくなった状態が継続すると発生します。これが基本です。
 それから、内湾や湖沼では夏季に成層が強まり、鉛直的な酸素輸送が妨げられると、底層水への酸素の供給速度が小さくなり、その結果、貧酸素化します。
 ただし、毎年夏になると貧酸素が起きるようなところでの長期的な貧酸素の進行のプロセスは、少し違う面があります。4ページのような、こういう水域があって上に躍層がある場合を考えます。こうした水域で経年的に貧酸素が進行していっていると考えた場合、原因として三つの可能性があります。一つ目は、同じだけ酸素が供給されるのだが、酸素の消費が増加する、その結果、貧酸素化しやすくなるというパターンです。二つ目は、酸素の消費量は同じなのだけれども、成層が強くなったり風が吹かなかったりして上から供給される酸素の量が減ることによって、貧酸素化しやすくなるというパターンです。それから三つ目として、貧酸素化する前の水は沖合から進入してくる場合が多いわけですけれども、その水の初期濃度が下がってきた場合です。この三つのケースが挙げられます。
 続いて、有明海における貧酸素水塊の発生状況についてお話しします。
 5ページは、2010年に西海区水研を中心にした一斉観測によって得られた底層の溶存酸素濃度の分布ですけれども、有明海の湾奥西部を中心にした浅海域と諫早湾の2カ所で、同時に別々の貧酸素水塊が形成されていることがわかります。
 次は、先ほどの観測の2ラインにおける断面観測の結果で、上が密度、下が酸素です。水深4メートル付近に非常にシャープな密度躍層がありまして、この密度躍層よりも下が低酸素化しています。特に湾奥の部分で貧酸素がひどく、この貧酸素水塊が沖合の中層に広がっているというパターンがわかります。
 下は、有明海奥部の沖神瀬西観測点P6における底上0.2メートルの溶存酸素の変動を2004年から2012年まで全て重ねたものです。赤のラインが3mg/Lです。これを見ますと、年による変動はあるものの、貧酸素水塊は毎年この間発生し続けてきたことがわかります。
 次は、有明海奥部における一斉観測の結果を3年分まとめたもので、今年度は、下に記した17機関の参加を得て実施しています。これを見ますと、赤いラインが3mg/L、つまり貧酸素の境ですけれども、年によって貧酸素水塊の分布や強度には、かなり大きい違いがあることがわかります。
 それでは次に、もっと沖のほうの断面はどうか見てみます。現在、熊本県が、このステーション1から6までのラインで、夏季の間、毎月、断面観測を行っています。これがそのデータですけれども、ステーション6の点では過去に貧酸素が観測された例がありますが、ステーション5から1では、これまで貧酸素が観測された例はありません。したがって、少なくとも有明海中央部、この竹崎-三池ラインよりも南では、貧酸素が発生するということはないだろうということが推察されます。
 次に、有明海の湾奥から諫早湾にかけてのラインです。一番上から水温、塩分、密度、それから溶存酸素になっています。これを見ますと、(有明海奥部では)4メートル付近に非常に強い躍層がありまして、その下に張り出すように貧酸素があります。それから、それとは別に、諫早湾の一番奥にも貧酸素があります。このように貧酸素水塊の中層への張り出しがあるのですけれども、両水塊は離れていることがわかります。すなわち、有明海奥部の貧酸素は、沖合中央のこういった方向に広がるのですが、諫早湾奥の貧酸素はそれとは別に発生していることが、この図からわかります。ただし、貧酸素の規模が大きい場合には、両海域の貧酸素水の交換の可能性は否定できません。
 次に、福岡県の海域の貧酸素の観測例をお見せします。福岡県では、三池沖のこういった4点で、海底直上の溶存酸素濃度を連続観測しております。平成21年から平成25年までつなげたものを上に示しておりますけれども、これを見ますと、溶存酸素濃度40%以下の貧酸素水が、夏季の間、毎年のように間欠的に発生している様子がわかります。この結果は、有明海の奥部、諫早湾以外に、大牟田沿岸でも夏季には貧酸素が間欠的に生じているという事実を示しています。
 また、データを収集していく中で、感潮河道内で貧酸素化しているという例も見つかりました。左は佐賀県有明水産振興センターが観測している六角川の感潮域の溶存酸素濃度です。それから右側は、水資源機構筑後大堰管理室からいただいた筑後川のデータです。赤の点線が3mg/Lを示しています。これを見ますといずれも、毎年ではありませんが、しばしば3mg/Lを切るような貧酸素が感潮河道内で発生していることを示しています。
 次は長崎県総合水産試験場から提供していだたいた橘湾における観測データです。2012年9月13日のデータですけれども、こういった測点で測定した、海底上1メートルの溶存酸素の飽和度の分布を示したものです。これを見ますと、飽和度40以下の海域が広い部分を覆っていて、このあたりではほぼ無酸素になっていることがわかります。そこで、この点における鉛直プロファイルを示しました。そうしますと、全体に成層はしているわけですけれども、強い躍層はありません。そして海底直上5メートルぐらいで急激に溶存酸素濃度が下がっていって、一番下ではほぼ無酸素になっていました。こうした橘湾における貧酸素も、今回初めて報告されたものになります。
 以上の貧酸素水塊の分布特性をまとめますと、有明海の貧酸素水塊は基本的に有明海湾奥部と諫早湾の2カ所で発生します。それから、大牟田沿岸浅海域でも間欠的に貧酸素は発生します。そして、密度成層の形成に伴い、密度躍層より下層が貧酸素化し、干潟縁辺に近い浅海域で貧酸素が発生することが特徴です。それから、こういった貧酸素水塊の範囲、強度は年によって大きく変動します。ただし、有明海奥部の貧酸素水塊は2004年以降、毎年発生しています。また、六角川、筑後川といった河川感潮域が貧酸素化する場合もあることがわかりました。また、橘湾の底層においても貧酸素水塊が観測されました。
 次に、貧酸素水塊の形成・変動のメカニズムについてお話ししたいと思います。
 これは、2006年に我々が観測した結果で、一番上が大浦の潮位、その下が筑後川の河川流量、それから表層と底層の塩分で、こちらが表層、こちらが塩分で、その差が成層強度になります。それから次が佐賀における風で、こういうラインに沿った岸沖方向の海底直上のDOの分布を時系列で示しています。これを見ますと、この年は3回の大出水が7月にあり、それに伴って表層の塩分が急激に低下して、強い成層状態が形成されています。2回目の出水の後で貧酸素が始まって、その後、約1カ月間、継続して貧酸素が続きました。そして、この貧酸素が解消されたのは、8月中旬の台風による強風連吹によって撹拌されたためでした。
 それでは次に、このラインに沿った断面の構造を見ていきます。上から8月5日、8月8日、8月16日の断面で、塩分と溶存酸素になっています。これを見ると、水深4メートル付近に非常に急激に塩分の濃度が変わる躍層が存在していて、表層と底層の水が鉛直混合しにくい形になっています。この躍層よりも下の部分がほぼ無酸素になっている、強い貧酸素になっているという様子がわかります。すなわち、まず出水による成層強化があって、それが密度躍層を発達させ、それが鉛直混合を抑制し、それが貧酸素を引き起こしたわけです。
 躍層の下にずっと貧酸素水塊がつくられているわけですけれども、一方で、こういったところでは相対的に溶存酸素濃度が高い水も見られます。これは、上層水が流出するのに対して、下層から沖の水が進入してくるというエスチャリー循環の循環流があるためと考えられます。そして、出水後時間がたつに従って、だんだんと成層は弱まっていきます。それに伴って、貧酸素水塊も縮小・緩和されていく様子がわかります。
 次は、有明海奥部における貧酸素水塊の構造と、流れの分布、潮汐を除いた残差流の分布を示したものです。水温、塩分、それから溶存酸素、流速ですけれども、これを見ますと、上層流出、下層流入のエスチャリー循環パターンが非常にきれいに見えています。そして強い躍層がここにあり、その下側が溶存酸素が低くなっていて、特にエスチャリー循環の循環流がちょうど湧昇を起こすあたりで、最も貧酸素が深刻になっている様子がわかります。
 それでは、毎年このように出水によって長期の貧酸素が起きるのかというと、必ずしもそうではありません。多くの年は、2006年よりももっと溶存酸素濃度の変動が激しくなっています。次は2004年の例ですけれども、ステーションAの点における塩分と溶存酸素の鉛直分布の時系列を示したものです。九州農政局から提供していただいたデータです。これを見ますと、こことここ、ここで貧酸素が起きています。いずれの時も、底層が高塩分化しています。それはどういうときかというと、いずれも小潮の時期に当たっています。すなわち小潮時に底層で塩分が上昇するとともに、貧酸素化しているということです。
 そこで、この期間だけを拡大して、測点Dの点のデータを見ていきます。これが先ほどの測点Dで、海底直上の塩分、水温、溶存酸素です。こちらの図が8月5日と8月12日の断面図で、このグラフが8月4日から8月14日までの変化になります。つまり、この図(8月5日)の断面構造からこの図(8月12日)の断面構造に変わる間に、海底直上ではこういった変化があったわけです。つまり最初は比較的、低塩分だったところが、突然ジャンプするように高塩分の水が入ってきて、同時に、水温も下がっていったということです。それと同時に、溶存酸素が急激に低下しました。これは、こういった小潮時の塩分上昇と、沖合にあった高塩分で低温の水が海底に沿って湾奥へと進入して、それに伴い急激な溶存酸素の低下があったことを示しています。
 次は、西海区水産研究所が行っている貧酸素水塊の連続観測のデータを合わせたもので、ステーション1の点、ステーション14の点、それからステーション6の点の三つのデータについて、ピンクが表底の密度差、紺が底層の溶存酸素、水色が水深すなわち潮位をあらわしたものです。
 これを見ますと、6月から7月にかけての出水の後で、表底の密度差が非常に大きい期間が続きます。その間、ステーション6では貧酸素の状態が続きました。一方で、その間でも、ステーション14、1といったところでは、貧酸素化してもまた回復する、そしてまた貧酸素化する、ここで一時的な貧酸素化が続くというように間欠的な貧酸素にとどまっています。また、こういった強い貧酸素ですが、7月中旬に来襲した台風によって急激に成層が弱まり、貧酸素が解消している様子がわかります。また、この期間についても、貧酸素の進行が認められますが、その場合も、強い台風の襲来によって貧酸素が解消しています。その後、9月は海面冷却により混合で成層が緩和していって、貧酸素も解消していく様子がわかります。このように、貧酸素の変動には、潮汐に加えて、風が非常に大きな影響を与えていることがわかります。
 それでは、諫早湾ではどうかということで、次は山口・経塚(2006)から持ってきた観測の結果です。このときは、諫早湾内のこういった点で船舶観測をすると同時に、一部の点で係留観測を行っています。2004年の夏季です。
 次は、海底直上の溶存酸素の濃度分布です。7月29日ごろに小潮の後、非常に強い貧酸素が起きた後、それが緩和され、8月10日の小潮ごろからまた強くなり、また緩和された後、その後、再び少し貧酸素化するというように、貧酸素化して、それが解消するという変動を夏の間に繰り返している様子がわかります。これは有明海奥部の貧酸素とよく似たパターンです。
 そこで次に、このラインに沿った密度と溶存酸素の断面構造を見ていきます。8月6日から13日にかけての変化ですけれども、8月6日は比較的水柱はよく混ざっておりました。それが8月10日の小潮になりますと、沖合側から高密度水が底層に進入してきて、成層が強まります。そして13日には、こうした水が湾奥まで入り込んできて、強く成層します。
 その結果湾内の溶存酸素がどうなったかを次に示します。8月6日には貧酸素はないのですが、底層水が進入してきた10日に貧酸素が始まって、底層水が強い躍層を形成した8月13日になりますと、諫早湾の湾奥に貧酸素水塊が形成されます。これは沖合から底層に高密度水が進入し、それに伴って湾奥が貧酸素化することを示しておりまして、有明海奥部と同様の機構が諫早湾でもあることを示しています。
 次に、風と貧酸素水塊の関係について、もう一つの例をお示しします。この新聞記事は、2008年8月に起きた諫早湾での青潮の例です。青潮といいますのは、皆さんご存じの方も多いかと思いますけれども、底層で形成された貧酸素水が表層へ湧昇し、水中の硫黄がコロイド化することによって白濁し、海面が青白色に着色する現象で、青潮が発生すると、魚介類の大量へい死が引き起こされる場合があります。
 このときの海況気象がどうだったかを見てみます。一番上が水位で、その次が佐賀大学のタワーにおける風、それから下の二つが塩分とDOで、それぞれ九州農政局のデータを使わせていただいております。これを見ますと、特徴的なのは、8月11日ごろ、ステーションB3の点ですけれども、ここの底層では無酸素になっています。ですが、この無酸素の水は、13日ぐらいから改善するのです。一方で、一番湾奥のステーションS1、S6では、8月14日ごろに急に塩分が上昇し、同時に、それまで十分に酸素があったものが、いきなり下がっていて、S1に至ってはほぼ無酸素になるわけです。そして、ちょうど青潮が確認された8月15日15時ごろには、このところで少しDOが上がりました。つまり、風によって撹拌があり、無酸素水が水面に持ち上げられると同時に、混合されたことを意味しています。もともと8月11日にここで貧酸素化していた水が、南よりの風が連吹したことによって、諫早湾湾奥のほうに輸送されて、その結果、湾奥の無酸素化を引き起こし、さらには、この日の強い南風、南西風によって表層に持ち上げられて、青潮を引き起こしたと考えられるわけです。
 次に、有明海における酸素消費速度についてお話しします。木元ら(2003)では、有明海奥部のこの点で、ベルジャーを用いて、現場で酸素消費速度の測定しております。次がその結果でして、全酸素消費速度は、0.28から1.39mg/L/dayという値になっています。また、これを底層水による酸素消費と底泥による酸素消費に分けますと、酸素消費には底層水の寄与が大きいことがわかります。グラフのブルーの部分ですね。
 次は、さらに、底層水の中の酸素消費を、水自体による酸素消費と水の中の懸濁物による酸素消費に分けて調べた結果の図です。これは、水中のSS濃度と酸素消費速度の関係をプロットしたもので、このようにSSが増えると酸素消費速度が大きくなるという、きれいな関係が見られます。
 そこで、この関係式と、海底直上4メートルの平均SSを18.6mg/Lとして、この底層水の酸素消費に占める海水と懸濁物の割合を出しました。すると、海水のほうが1.32g/m3/day、懸濁物の酸素消費が2.56g/m3/dayということで、懸濁物による酸素消費の寄与が非常に大きいということがわかりました。
 さらに、酸素を食っている懸濁物の正体は何だろうかということで調べた結果が、次の図です。これは児玉ら(2009)から持ってきた図ですけれども、縦軸が酸素消費速度、横軸が有機炭素安定同位体比です。安定同位体が重くなるほど海起源のものが多い、こちらに行くほど陸起源のものが多いというように理解してください。こうして見ると、海起源の有機炭素が多いほど、酸素の消費速度が大きくなっていくことがわかります。
 また、もう一つ、海陸起源の有機物を分ける指標として、有機物中の炭素窒素比が使われます。炭素窒素の比が小さいほど海起源のものが多い、大きいほど陸起源のものが多いという傾向を持っています。こうして見ると、炭素窒素比が小さくて海起源の有機物が多いと酸素消費速度が大きいという、同じような結果が得られています。つまり、海で生産された有機物のほうが、単位炭素当たりの酸素消費速度が大きく、有明海の酸素消費に大きく効いているだろうということが推定されるわけです。
 さらに、酸素消費については、こうした生物学的な酸素消費に加えて、化学的な酸素消費があります。次がその模式図です。全酸素消費や生物学的な酸素消費と、化学的な酸素消費に分かれています。そして化学的な酸素消費は、硫化物による酸素消費、それから2価の鉄とマンガンによる酸素消費に分けられます。
 そこで、そういった化学的な酸素消費がどの程度効いているかについて、研究が進められています。次のグラフは徳永ら(2009)から持ってきた結果ですけれども、全酸素消費のうち、生物学的な酸素消費を緑で、化学的な酸素消費をグレーで示しています。これを見ますと、ばらつきはかなり大きいのですけれども、時には化学的な酸素消費が9割も占めるという結果になっています。平均すると、生物学的な酸素消費が6割ですけれども、それでも化学的な酸素消費がかなりの量であることがわかります。
 また、時系列的に見ていきますと、まず最初に化学的な酸素消費が起きた後で、生物学的な酸素消費が起きることがわかります。これは、底泥を撹拌させて、その後の酸素消費の主体について調べたわけですけれども、撹拌直後は化学的な酸素消費が起きて、その後は生物学的な酸素消費がメインになるという結果を示しています。
 次に、これは底質中の話になりますけれども、有明海のここの点における底泥中の硫化水素と酸化還元電位の鉛直プロファイルを示します。貧酸素がちょうどひどかった時期ですけれども、こうした時期には、表層付近まで底質が還元化していることがわかります。こうした時期には、高い硫化水素濃度が底泥中で発生します。このような硫化水素が発生しますと、水中の溶存酸素濃度の低下と相まって、サルボウ等の底生動物の生息環境の悪化をもたらします。また、こういった底泥が撹拌され巻き上げられますと、水中の酸素濃度の減少を促進することになります。
 最後に、これが有明海の表層堆積物中の有機炭素濃度の分布ですけれども、いずれを見ても、岸に近い浅いところで有機炭素濃度が高いことがわかります。これは、浅いところで酸素消費能力すなわちポテンシャルが高いことを示唆しています。
 次に、こうした全酸素消費速度について、他の海域との比較を行ってみました。上が柳(2004)から持ってきた数値との比較です。これを見ると、有明海は0.28~1.39mg/L/dayという値でしたけれども、これを志津川湾、東京湾、燧灘、周防灘、大村湾といった湾と比較しますと、東京湾に匹敵する非常に高い値です。
 また、底泥のみの酸素消費速度を見てみます。これは丸茂・横田(2012)から引用しましたけれども、英虞湾、広島湾、豊前海と比べてみて、有明海が最も高い値でした。
 このように有明海という海は、非常に酸素消費速度が大きい海であるということが、ここから言えるかと思います。
 それでは、まとめます。なぜ浅海域が貧酸素化するのかについてです。まず初めに、強い密度躍層ができます。躍層ができると、躍層以深に酸素供給がされにくくなります。
 次に、エスチャリー循環があります。エスチャリー循環によって、沖合側から酸素の豊富なフレッシュな水が、酸素を消費されながら湾奥へと輸送されていきます。
 三つ目に、湾奥では、非常に活発な巻き上げによって、大きな酸素消費速度があるということが挙げられます。有機懸濁物質の集積も起きていますし、それが活発な沈降・再懸濁を引き起こすことで、先ほどお示ししたような海起源有機物主体のものによる高い酸素ポテンシャルのもとで急激な酸素消費が生じます。
 四つ目に、躍層以深の水柱の高さが小さいほど、酸素消費は大きくなることが挙げられます。すなわち、海底による酸素消費量が同じであれば、容積が小さいほど、水塊の溶存酸素は速く失われるという原理です。
 以上の四つが相まって、有明海の奥部浅海域、干潟のところで、貧酸素水塊が発生すると考えるわけです。
 次に、まとめの2です。有明海奥部・諫早湾では、成層強化によって貧酸素水塊形成、大潮・強風時の鉛直混合によって解消します。それから、成層強化の機構には2種類あります。一つは出水型で、もう一つは底層貫入型です。両方の機構が共存して、沖合域は出水型で貧酸素が持続し、その水が浅海域に貫入して、より低酸素化する場合もございます。
 まとめの3です。有明海奥部における酸素消費速度は、国内の他の内湾に比べて大きくて、東京湾に匹敵します。それから、酸素消費に対しては、底泥よりも底層水の寄与が大きく、特に底層水中の懸濁物の寄与が大きいです。質的に見ると、海域で生産された植物プランクトン起源の有機懸濁物の酸素消費が大きいです。また、生物学的な酸素消費以外に、化学的な酸素消費すなわち硫化水素等の影響も大きいです。特に(底泥が)再懸濁されたときには、これが効きます。また、有明海では浅いところでの底質中での有機物量が多く、浅海域での高い酸素消費ポテンシャルになっています。
 次に、貧酸素水塊の経年変動です。
 貧酸素水塊の経年変動については、実は過去2000年以前は、浅海定線のデータしかありません。そこからは前の委員会で報告されたような、このような報告例がございます。
 一方、2004年から九州農政局によって諫早湾内の6点で、それから環境省及び水産庁の事業によって、西海区水産研究所が有明海奥部の、現在は7点、前はもう少し点があったのですけれども、7点で、図のようなブイを入れて連続観測を行っています。
 次はその例ですけれども、例えば2006年などが非常に貧酸素のひどい状態が長く続いたことがわかります。それから2012年も、貧酸素の状態が比較的長く続いたことがわかります。また、2011年は、ほかの年よりも早く、6月中にもう貧酸素が起きています。一方で、2009年などは、貧酸素がごく一時的にしか起きていないことがわかります。このあたりの年による詳細な違いは、次の表にまとめておりますので、後でごらんください。
 こうした貧酸素の経年変化をわかりやすく示すために、まず酸素濃度低下速度を求めました。大潮などで貧酸素が解消した後、また貧酸素化するまでのトレンドを回帰してやって、その傾きをシーズンごとに平均したものです。測点T1の点と、測点14の点、測点P6の点、測点P1の点の四つを示します。これを見ますと、一番湾奥の測点P1で最も酸素消費が大きくて、測点14がそれに次ぐという結果になっています。年々のこのばらつきはあるのですけれども、全体として特に一定の傾向は見られません。
 次に、貧酸素状態の継続時間の経年変化を示します。継続時間で見てみますと、2006年が圧倒的に多く、2012年がそれに次ぎます。継続時間を測点ごとに比べると、P6では継続時間が長く、P1がそれに続きます。こうした年で貧酸素が長期継続したのは、出水による密度成層が強く長く続いたためです。
 次に、平均溶存酸素飽和度の経年変化を示します。これで見ても、2006、2012年が低いことがわかります。これは密度成層の長期継続により、貧酸素の継続時間が長く、貧酸素化が進行したことによります。
 ここで、表層と底層の密度差と、それから海底直上の潮流振幅の関係を調べてみました。そうしますと、密度差が大きくなるほど、潮汐振幅が小さくなることがわかります。また、潮汐振幅と底層DOの関係を見てみますと、潮汐振幅が小さくなると底層DOが低くなることがわかります。すなわち、淡水が流入して、密度成層が形成されると、単に上から下への酸素の輸送が減って、底層DOが減少するだけではなく、底層の潮流が減少して、それがさらに底層での水の動きを弱くする結果、底層DOの低下を促進します。また、底層の潮流の減少は、海底での乱れの発生を減少させますから、さらに成層を強めるという意味で、相互作用を引き起こします。
 以上をまとめますと、底層の平均溶存酸素濃度・貧酸素の継続時間は、河川からの平均淡水供給量によって大きく変化します。淡水供給が多い年には、成層が長期間続き、貧酸素の継続時間が長く、貧酸素化も深刻化します。少なくとも2004年以降は、貧酸素化について一定の経年トレンドは見られません。経年的に見ると、淡水流入による成層強化と、成層強化に伴った底層での潮流減少が、貧酸素化の深刻化をもたらしています。
 最後に、魚介類への影響について、簡単にご紹介します。
 貧酸素化が魚介類、生物に与える影響については、間接影響と直接影響があります。
 直接影響は、遊泳可能な魚介類の逃避で、これは漁場形成に影響します。それから魚介類の生理的変化、これは衰弱ですね。さらには、へい死する場合もあります。さらには底生動物の生理・生態的変化、へい死もあります。
 間接影響としては、貧酸素化すると、底泥からの栄養塩(アンモニア・リン)の溶出が起こりますので、水域の富栄養化を助長します。それから硫酸還元・硫化水素を発生させて、魚介類・底生生物の衰弱・へい死を起こします。生物のへい死自体が貧酸素水塊の助長、水域の生物多様性や浄化能力の喪失を引き起こします。
 次は、我々の研究グループで行っている結果で、有明海奥部におけるマクロベントス相の変化と貧酸素の関係を調べたものです。佐賀大のタワーのところで底層のDOを測っていまして、貧酸素が起きたところを赤のハッチで示しています。上のグラフがこういった測点で得られたベントスの総個体数、下が種数です。これらを見ますと、いずれもこの赤のハッチで示した期間に総個体数は減少していますし、種数も減少しています。つまり、有明海の奥の場合は、毎年夏の貧酸素の時期にベントスの動物相が貧弱化して、その後また回復する、そういったサイクルを繰り返しているわけです。
 次に、アサリへの影響です。これは長崎県総合水産試験場から提供された情報ですけれども、小長井地先の干潟における貧酸素の状況とアサリの被害の関係です。ここでは2004年と2007年に、それぞれ2.5億円、3.0億円という漁業被害が出ていまして、このときには、釜という漁場で44時間、長戸という漁場で72時間の貧酸素の継続が起きていました。
 そこで、こうした貧酸素の改善方法について検討された結果が次に示す論文です。平野ら(2010)から引用させていただいています。対照区とは貧酸素が起きる区域で、試験区とは貧酸素が発生しにくいように改善した区です。両方を比べますと、試験区のほうが生存率が比較的高く推移しているのに対して、対照区のほうは、へい死が進んでいく様子がわかります。したがって、2004年8月の大量へい死は、こういった貧酸素によるものと、高水温、この時期は水温も非常に高かったわけですけれども、それによるものということが示唆されました。ただし、この貧酸素の影響の中には、貧酸素時に発生する硫化水素の影響の可能性は除外することができません。
 次に、タイラギへの影響です。タイラギについては、荒巻・大隈(2011)から引用しましたけれども、2010年の夏季に、ここでは大量のタイラギの1歳貝のへい死が起きました。2回にわたってへい死が起きまして、そのうち1回目は出水による低塩分化が原因でした。2回目の大量へい死が起きたときの、これが底層の溶存酸素濃度の分布です。こちらのタイラギの漁場図を見ますと、貧酸素水塊というか、無酸素に近い水塊の分布と漁場分布が非常によく一致している様子がわかります。タイラギ成貝は比較的、貧酸素には耐性が強いのですけれども、このときは10日間、無酸素に近い状況が続いたために、大量へい死したと考えられました。
 また、次は郡司掛ら(2009年)から引用してきた論文ですけれども、タイラギを、DOを0.5mg/L以下に下げて貧酸素状態で6時間、それから通気してろ過海水導入をするといった操作を繰り返した区と、そういうことせずにずっとDOが高いまま飼った区との比較をしています。対照区は、DOが5以上で飼った区ですけれども、こちらはほとんど死なずに生残しているのに対して、反復的に無酸素に近い状態を経験させたタイラギは、20日付近から急激にへい死し出します。このときのタイラギの生態を見ますと、暴露日数増加とともに、タイラギが砂から露出する程度が大きくなり、その後、衰弱した個体が増加して、最後はへい死に至ったということで、海底直上水のDOの重要性の指摘をしています。
 次に、サルボウへの影響です。このグラフは有明海奥部の水中の溶存酸素濃度の鉛直分布の変化です。赤のラインが3mg/Lで、こういったところで貧酸素が継続していました。これがそのときの底泥中の酸化還元電位です。こういったところでもって、表層底泥でも酸化還元電位が上がってきていることを示しています。
 このときのサルボウの生息状況ですけれども、7月27日、ちょうどこのあたりから、殻つきのまま死んでいく貝が出てきました。貧酸素が発生しても、最初はそれに耐えて生きているのですけれども、1週間以上になってきますと、へい死する貝が出てきて、写真のように殻に軟体部をつけたまま口をあけて死んでいる状況が引き起こされます。さらには、こういったところ(底泥表層で酸化還元電位が下がったところ)では、硫化水素の発生も原因としてあっただろうということが推定されます。
 次は、佐賀県有明水産振興センターが行った試験の結果です。サルボウを、通気区、すなわちずっと5mg/L以上の環境で飼った場合と、貧酸素区、すなわち貧酸素の状態で水換えをせずにずっと飼った場合、それから貧酸素換水区、すなわち貧酸素海水だけれども、毎日1回、DO1mg/L未満の新しい貧酸素海水で水換えをした場合、この三つを比較しています。
 そうしますと、水換えをしない区でのみ、5日目以降に水中に硫化水素が発生しました。そして、同じ貧酸素区であるにもかかわらず、換水をしていない硫化水素が発生した区で、硫化水素の発生と同時に急激なへい死が起こりました。したがって、貧酸素自体もサルボウのへい死に大きな影響を与えるわけですけれども、それに加えて、硫化水素の発生が、大きなへい死要因になっていることを示しています。
 最後に、八代海における貧酸素水塊について、簡単にお話しします。
 八代海では、これまで貧酸素水塊の発生は認められてきませんでした。しかし、近年の観測によって、貧酸素に近い状態が認められるようになってきました。この図は、このラインに沿った断面図で、水温、塩分、クロロフィル、溶存酸素ですけれども、一番奥の点では、溶存酸素濃度は、3mg/Lは切らないのですが、貧酸素に近い観測データが得られています。
 さらに、つい最近ですけれども、2013年7月2日になって、熊本県水産研究センターの定期観測によって、八代海の北部の湾奥部の底層で、2.1mg/Lという貧酸素が初めて観測されました。さらに聞き取りを進めますと、鹿児島県海域でも、八代海南部の2カ所で、過去に5回、3mg/Lを切る貧酸素が観測されていたことがわかりました。
 以上から、平成18年の委員会報告では、八代海で貧酸素水塊は確認されていないとされていましたけれども、その後の調査で貧酸素が発生したケースが認められました。有明海と同様の機構で貧酸素化が起きているとすると、今後は小潮時の調査が重要であると推定されました。
 最後に、今後の課題です。
 今後の課題の一つ目として、まず重要海域の絞り込みが必要です。これについては、おそらく有明海奥部と諫早湾が最も深刻な貧酸素水塊なので、最も重要な地域になります。
 それから二つ目に、貧酸素が物質循環に及ぼす影響の定量化が必要だと考えられます。
 三つ目に、幼生期、稚貝、仔稚魚期の貧酸素耐性の解明が非常におくれています。こういったものを解明することによって、貧酸素が資源動態に与える影響の解明が進むと考えられます。
 貧酸素が漁場形成に与える影響の解明も今後の課題です。
 それから、モニタリングの重要性です。今回もお示ししましたように、有明海・八代海の貧酸素の特性として、非常に間欠的であるということがあります。したがって、なかなかシップサーベイではひっかからない場合も多く出てきますので、現在行われているような広域連続モニタリングが非常に重要なものになってきます。
 また、今後、対策を考える際には、これまでは各種の対症療法的な対策が行われてきましたけれども、根本的な対策についての検討も必要だと考えられます。
 以上です。長くなって済みません。

○有瀧小委員会委員長 時間が迫る中で、コンパクトにまとめていただきまして、どうもありがとうございました。
 ご意見、ご質問等ありましたら、よろしくお願いします。

○滝川海域再生対策検討作業小委員会委員長 確認を含めてですが、赤潮について2004年からという言葉がどこかにありましたよね。「2004年以降、毎年発生」と10ページに明記してあります。なぜこんなことを申し上げるかというと、以前の評価委員会の中でも、私はずっと申し上げてきたんですが、最後のほうの23ページに、1976年から2000年の間ということで、過去の浅海定線データを整理して見てみると、「観測点4では4.3mg以下の出現に大きな違いはなし」と書いてあるんです。観測点4だけで議論したのではなく、全ての浅海定線の調査データから、赤潮の発生する時期、パターンが大体似ていて、夏場発生しやすくてと、それは私自身の報告にもありますし、評価委員の中でもそういったことがありました。ですから、私は、それよりも以前から貧酸素水塊あったという共通認識が必要なんだろうと常々思っていましたので、2004年以降と限られる理由をもう一度確認したいということがまず最初です。
 それとあとσt。密度成層を計算する際、密度強度をされるときにσtを出されていて、塩分についてのご説明はたくさんあったんですが、それに関するtですね、いわゆる温度に関する原因の検討がどうなっているのかということです。
 それと、まとめの方向で、21、22、23、まあ、どこでもいいんですが、まとめ1、2、3と書いてあって、よくまとめていただいていると思います。ただし、注意しなければいけないのは、速水先生が書かれているみたいに、それぞれの場所が湾奥なのか、それ以外のところか、あるいは大潮、小潮でもという説明のときに場所がありますよね。そこの誤解がないように、ここの海域ではこういうものが起こったというふうに、ある程度そういった意味の説明を加えていただきたいです。どうも、あるときにはそれが出てきたり、あるときにはそれがなかったりという非常に複雑な要件があるのでしょうから、場所とそのときの状況みたいなものも加えていただけるとありがたいかなと思いました。
 以上です。

○速水委員 まず、最初のご質問ですけども、「2004年から」と書きましたのは、水質連続モニタリングが始まったのが2004年からということで、それ以降は、毎年出ているということです。それ以前に貧酸素が発生した例はありますので、それ以前の貧酸素の発生を否定するものではありません。ただ、2003年以前も毎年発生していたのかを示すデータがないので。

○滝川海域再生対策検討作業小委員会委員長 いや、浅海定線データの中には記録があります。

○速水委員 浅海定線のデータだけだと、2003年以前は毎年発生していたというデータにはなりません。

○滝川海域再生対策検討作業小委員会委員長 毎年ではなくて、それの分布図を私は整理していますけれども。毎年あります。

○速水委員 ですが、ここでは3mg/L以下を貧酸素の定義にしていますので。

○滝川海域再生対策検討作業小委員会委員長 そうですね。だから、その定義そのものを含めて、もう一度確実に整理していただいたほうがいいだろうなと思っているということです。

○速水委員 貧酸素の定義としましては、やはりあまりにも高い数値にしてしまうと、後々対策を考える上でも大変になりますし、現実的に、有明の生物に対して、影響を与えているだろうというものを……

○滝川海域再生対策検討作業小委員会委員長 要因を考えていく上で、もちろん魚という影響もあるんだけれども、貧酸素水塊そのものがどういうメカニズムでどう挙動しているのかと考えていく上では、過去の事例等も考えないといけないのではないでしょうか。今、定義したものよりも低いか高いかだけで2004年というラインを引いてしまうと、「じゃあどうして2004年?」という話にしかきっとならないんだろうと思います。多分、観測されていて、連続観測があるから、それは定義できますけれども、ひょっとしたら以前でも、そういうきちっとしたはかり方をすれば――浅海定線は月に1回しかはかれませんからわからないわけですよね。だから、そういったところは少し注意が必要なのかなと思っているということです。

○速水委員 わかりました。ただし、2003年以前について、貧酸素の定義を変えるというのは不自然ですので、やはり貧酸素の定義は3mg/Lで通させていただければ思います。

○滝川海域再生対策検討作業小委員会委員長 ここではそういう考え方で結構ですが、そういう物の捉え方ですよね。現象をどう捉えていくのかという上では、オミットしてしまうのはおかしいだろうと思いますので、参考ではないんですが、考慮に入れていただきたいと思います。

○速水委員 それから、二つ目のご質問ですけれども、水温の影響は塩分に比べると弱いですが、出水がない場合には、8月に入ると、水温も成層にはかなり効いてきます。ただし、メインの成層の要因は塩分です。

○滝川海域再生対策検討作業小委員会委員長 そうですよね。

○速水委員 それから、三つ目のご質問が何でしたっけ。

○滝川海域再生対策検討作業小委員会委員長 場所ですね。

○速水委員 場所というのはなかなか難しくて、結局、海洋構造が変わってくると、同じ海域でも変わってきてしまうので、有明海奥部と諫早湾、共通して貫入型の貧酸素があると。それから、どちらも、出水で全部覆われてしまうと、貧酸素化するんだと。

○滝川海域再生対策検討作業小委員会委員長 それはよくわかるんです。ただし、今、スポットで当てているのは、諫早湾と西海岸というお話ですよね。それ以外のところでも貧酸素が起こったというお話がありますよね。その場所を抜きにして議論が進んでしまうと非常に危ないだろうと思います。ここの場所ではこうですよと、ご説明とくっつけていただけると、間違わないと言ったらおかしいんですけれども、海域の特徴として、ここの海域ではこういうメカニズムで、このときはこう起こりましたというまとめをしていただいたほうがと。このままだと場所がよくわからないままで、ああそうなんだと判断してしまうことになる、それはまずいのかなと思っているということです。

○速水委員 わかりました。これはあくまでも有明海奥部・諫早湾で、橘湾や八代海は含みません。

○滝川海域再生対策検討作業小委員会委員長 そうですね。一番いいのは、地図の上で絵を描きながらというか、「ここら辺は」というものとくっつけてご説明いただけるとありがたいなと思います。

○速水委員 はい、そこはおっしゃるとおりです。

○滝川海域再生対策検討作業小委員会委員長 それと、ごめんなさい、これは追加の情報ですが、八代海のほうで、熊本県さんでも貧酸素水塊が確認されたというお話です。これは熊本県さんの測定と同時に、国土交通省の海輝でも観測されていますし、熊本大学で定点でやっているやつでも、多分同じような時期だったと思うんですが、やはり同じように環境の症状悪化が生じているという判断でよろしいかと思います。ほかにもそういう観測事例があるということです。

○速水委員 わかりました。またそういう情報はいただければと思いますので、よろしくお願いいたします。

○有瀧小委員会委員長 ほかには。

○本城委員 速水先生、私は貧酸素水塊を3mg/L以下とするのはよろしいと思います。ただ、有明海の湾奥部で、滝川先生も先ほど指摘されましたけれども、いつの年代から酸素が少なくなってきたのか、その経過をしっかりと把握しておく必要があろうかと思います。
 そして、先生は、密度の躍層、河川水の流入、底層水の流入などで貧酸素水塊の形成を論じられておりますし、しっかりとまとめておられます。しかし、もう一つ、長崎大学の中田英昭先生たちの論文で、湾奥部の流れの滞りですね、30%ぐらい弱くなったという論文が出ているように思います。人工構造物ができることによって流れが弱くなったということも、貧酸素水塊の形成に関して躍層の形成以外に考慮する必要があるのではないかと私は思いますが、いかがでございますか。

○速水委員 そうですね。まず、先ほどの滝川先生のコメントにもありましたように、2004年以前の浅海定線を中心にしたデータ、あるいはシミュレーションの結果などについては、時間的な都合もあり、今回は十分に吟味する余裕がございませんでした。ですので、次の小委員会までに、少しそういったところの新しい情報をまとめて、またご報告したいと思います。よろしくお願いいたします。

○有瀧小委員会委員長 ほかには何かございませんか。

○古賀委員 最後に1点だけ。スライドナンバー59の長崎県の実験のデータで、底層溶存酸素の現地改善実験と書いてありますけれども、この改善というのはどういうものだったか、教えていただければと思います。

○速水委員 すみません、今、私、資料を持っていませんので、また原本をお送りいたします。

○有瀧小委員会委員長 よろしいですか。
 それでは、時間も来ましたので、貧酸素の概要については、本日、これぐらいにしたいと思うんですが、速水先生のほうで、最後のところで今後の課題について取りまとめをしていただいております。先ほど申し上げましたが、いずれ、この検討結果を本委員会のほうに上げていきますので、課題を上げ、それから「絞り込み」即ち、具体的にどういう方向性をとっていったらいいのかを、この委員会の中で議論していただきたいと思います。一方、今までに二枚貝、赤潮、貧酸素と個別課題を整理・検討してきたんですけれども、それらの関連性についてそろそろ検討を始めていく必要があるんじゃないかと思っておりますので、今後ともよろしくお願いします。
 それでは、済みません、議事進行がまずくて、時間が押してしまいました。用意された議題については、これにて終了したいと思います。事務局のほう、よろしくお願いいたします。

○高山室長補佐 どうもありがとうございました。
 事務局から、今後のスケジュールについて述べさせていただきます。有明海。八代海等総合調査評価委員会の日程でございますけれども、11月27日午後に環境省の第1会議室で開催を予定しております。それと、次の小委員会のスケジュールでございますけれども、2月にもう一方の小委員会と日程を連動させて開催したいと考えております。後ほどまた日程等の調整を委員の先生にお送りいたしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
 それからもう一つ、本日の議事録の概要を後日お送りいたしますので、それを見ていただいて、コメントをお願いいたします。
 それでは、これにて第5回生物・水産資源・水環境問題検討作業小委員会を閉会いたします。本日はありがとうございました。

午前12時00分 閉会