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■議事録一覧■

中央環境審議会 自然環境・野生生物合同部会
第3回 生物多様性国家戦略小委員会
議事要旨


1.日時

平成24年4月23日(月)13:30~16:30

2.場所

環境省第1会議室

3.出席者(敬称略)

委員長:
武内和彦
委員長代理:
山岸哲
委員:
あん・まくどなるど、磯部雅彦、大久保尚武、小泉透、櫻井泰憲、下村彰男、白幡洋三郎、白山義久、土屋誠、中静透、宮本旬子、吉田謙太郎、吉田正人、鷲谷いづみ(五十音順)
事務局:
環境省(自然環境局長、大臣官房審議官、総務課長、自然環境計画課長、野生生物課長、自然ふれあい推進室長、動物愛護管理室長、生物多様性地球戦略企画室長、生物多様性施策推進室長、鳥獣保護管理企画官、外来生物対策室長、自然環境整備担当参事官、生物多様性センター長)

4.議事要旨

(1)次期国家戦略における論点(案)について

環境省より[資料1]に基づき、次期国家戦略における9つの論点(案)について説明後、各論点について検討した。

<論点1(生物多様性の重要性と理念)、論点2(現状と課題)について>

第3の危機について、外来種だけでなく化学物質の問題も重要。化学物質の使用による影響は、家畜の抗炎症剤の影響でインドハゲワシが激減した顕著な例もあるが、他の要因と複合的に出てくるので、影響についてよく分からない面があり、研究も不十分である。ネオニコチノイドによるアカトンボなどへの影響は強く疑われている。個体数の劇的な減少が起こる前の影響が「疑わしい」段階で使用を控えるようにしないと生物多様性の減少を止めていくのは困難。ただし、佐渡のように農薬を控えた農業が広がりつつある点は希望が持てる。また、生物多様性を一つの指標として化学物質の環境中への影響を把握するという方法もある。(鷲谷委員)
第3の危機について、外来種は非意図的導入による影響が続いているので危機感を盛り込むべき。また、放射性物質を始めとした東日本大震災による影響も盛り込むべき。(吉田正人委員)
生物多様性の重要性と理念について、図表を加え、具体例を盛り込むなど分かりやすく、またメリハリを付けた内容として欲しい。さらに、全てのいのちを守るべきとした場合、ゴキブリやオニヒトデをなぜ殺すのかといったことも整理しておく必要がある。(土屋委員)
第2の危機については、地域がどのように持続可能な形で成り立っていくかを考える必要がある。関係省庁が協力して方向性を見いだして欲しい。「地球温暖化」以外にも、それと関連する洪水の頻度、積雪量、台風の規模なども生物多様性に大きな影響を与えるため、「気候変動」が正しい。窒素循環という視点も重要。震災について、被災地は生態系サービスに支えられてきた地域。復興の中にはこれまでの生物多様性や生態系サービスを活かしていくという方向性を盛り込んで欲しい。一番被害を受けた沿岸の生態系は、今後も衰退が危惧されており、生態系サービスを高めていく観点からも積極的に自然回復する場所と考えて欲しい。(中静委員)
論点1について、これまで「種の減少」が強調され過ぎていたが、今回は愛知目標を踏まえて持続可能な利用を強調するのが良い。生態系サービスをいかに説明し定着させていくか、それが人間の福利に繫がっていることまで一体的に捉え、明確化する必要がある。また、地球温暖化ではなく、「気候変動」あるいは「地球環境変動」という言葉が良いのではないか。地球環境変動は陸と海で分けて考える必要がある。(武内委員長)
「地球温暖化」という用語一つで説明してしまうのは危険である。(櫻井委員)
論点2について、今の4つの項目に「世界における日本」(グローバルな視点)を加えるとともに、自然にかかる側面だけでなく人間側の課題についても考えるべき。(あん委員)
第2の危機について、人口減少と高齢化の問題があるが、持続可能な自然利用に向けた方向性を示して欲しい。第一次産業の危機と生物多様性の危機は重なっており、第一次産業をどうやって復興するかという視点も重要。(大久保委員)
第6次産業化と生物多様性との関係については議論する価値がある。(武内委員長)
地球温暖化については地球環境の変化。変動と変化は違う。これまでの日本における生物多様性とのつきあい方は世界に誇れるすばらしいものであったということを書いて欲しい。現行戦略の記載のトーンが全体的にネガティブなので、次期国家戦略ではこういう社会にしたいという明るい日本の将来像を示せると良い。(白山委員)
農林水産業との関係や生態系サービスとしての評価への踏込が必要。また、震災復興に当たって、地域が経済的にあるいはエネルギー、資源も含めて地域が自立していけるモデルを提示して欲しい。さらに、担い手の確保などエコロジカルマネジメントも課題。(下村委員)
国際的な動きを踏まえた日本政府のアクションと地域レベルでの様々な動きに対する日本政府のアクションという構成になると分かりやすい。国家戦略なので地球規模の変化への対応という視点が必要。科学的基盤に基づいたシナリオづくりも必要。第2の危機については担い手の問題が重要。(小泉委員)
世界から地域までの階層性を入れ子の関係で組み込み、束ね、立体的に生物多様性を捉えるフレームワークを提示する必要。(武内委員長)
生物多様性の主流化に向けては経済価値の見える化が必要であることを強調しておきたい。企業の取組が評価される仕組み、認証制度を進めていくことが必要。生態系サービスは費用便益分析で、環境が失われる費用の「見える化」が理解を促し、さまざまな意思決定に反映される。第2の危機については、限界集落の全てを守るのは難しいが、ティッピングポイントや重要な場所が分かれば対策も進むのではないか。また、トキのように人工飼育等の努力で種の遺伝子を絶やさないことも重要。(吉田謙太郎委員)
生物多様性の理解を進めるには分かりやすいものから伝えることが大事だが、日常では目に見えず有用性を実感しにくいものの価値を説明していくことも重要。生物哲学や環境哲学など、根本的で深い内容についても触れて欲しい。(宮本委員)
 ご意見のあった点について検討や調査を進めて、骨子案を示す段階で反映させたい。(生物多様性地球戦略企画室長)
 自然だけでなく社会や人といったところにも踏み込み、生態系サービスや一次産業との関わり、世界から地域まで視点の階層性、社会の変化への対応(将来像の提示)、ティッピングポイントとレジリエンス等、ご指摘いただいた点を踏まえて今後の議論を進めていく。(自然環境局長)
愛知目標にもある「自然と共生する社会」を強調したい。人間の自然への関与は強くても弱くてもいけない。人間は自然のダイナミズムの中にいる。生物多様性の危機はそれぞれ別のものではない。次期国家戦略を夢のある日本再生シナリオの生物多様性版としたい。(武内委員長)

<論点3(目標)、論点4(国土のグランドデザイン)について>

生物多様性国家戦略と国土形成計画との関係は。(武内委員長)
 生物多様性基本法では国の計画は国家戦略を基本とすることとされている。(生物多様性地球戦略企画室長)
東日本大震災を受け、近代型の発展の延長上に幸せはないのではないか、という認識が広まってきている。一見背反している課題の中に将来像が隠れている。現行の生物多様性国家戦略2010は非常に良くできているので、ある程度この形も維持しながら整理していくのが良い。省庁間の調整と連携をしっかりやっていただきたい。(下村委員)
現行の生物多様性国家戦略2010はGBO3や愛知目標の前に策定されている。世界の生物多様性が厳しい状況にあるという認識の記述は必要。今回は項目によってはティッピングポイントを超えてしまったという視点を反映すべき。長期的に見ればわが国は大きな地震・津波は何度も来ている。自然に対する畏敬、恵みの中で生きているという認識も必要。(吉田正人委員)
危機的な状況をチャンスにつなげるような内容を書けないか。例えば、人口減少は、自然を回復させるという意味ではプラスの面もある。また、一次産業の見直しが二次的自然の再生につながる。(武内委員長)
震災の反省として、都市への一極集中が挙げられる。地域の自給率を高めていくなど、日本全体のリスクヘッジが生物多様性を高めていくことにつながる。論点4について、生態系サービスの恩恵を受ける人たちと、ガバナンスに責任を持つ人たちのミスマッチがある。こうしたミスマッチを解消していくことが重要。(中静委員)
国土のグランドデザインの変更すべき点を検討するためにも、現行の720の行動計画のどこに問題があったかを整理する必要があるのではないか。(土屋委員)
論点3について、防災・安全と環境との調和が必要。(磯部雅彦委員)
 国土のグランドデザインの問題点までは整理できていないが、本年1月に現行戦略の720の個別施策について進捗状況の点検を行い、課題は整理している。(生物多様性地球戦略企画室長)

<論点5(施策展開に当たっての重要な視点)について>

生物多様性に関するリテラシーについて、新しい学習指導要領盛り込むことは実現されているが、教えることのできる教員の確保と研修が重要な課題。特に野外での教育が重要。学習指導要領に書かれたことが実際の現場に活かせるよう、つないでいく取組が重要。(鷲谷委員)
レジリエンスという言葉は、生態系が回復力をもつ範囲で人間が利用をしていくという考え方が重要。この新しい言葉の導入は生態系サービス(自然の恵み)とのセットだと分かりやすいのではないか。(吉田正人委員)
短期的なレジリエンス(対災害)と長期的なレジリエンス(対変動)を分けて考えていくことが必要。(武内委員長)
生態系サービスの内容を充実させることには賛成である。国家戦略のサブタイトルもそれが分かるようにして欲しい。(土屋委員)
ウイルスや菌など人間にとって有害な生物は生物多様性の中に含まれないのか。こうした生物をどう考えるかは整理していく必要がある。(山岸委員長代理)
バランスを取りながら生物が多様に多量に成り立っていることが大切である。それは非常に難しいことであると素直に書くのが良いのではないか。人間が自然を作ることはできないため、人間は出来る範囲で保全をして、その中で生態系サービスを享受するという姿勢が必要。(磯部委員)
リテラシーに関して、広めていくためには教育システムを使っていくことが考えられる。他地域に種子や苗木を送ることが科学的にはまずい事例もあり、教育において科学的なことと情操的なことを戦略的に区別することが必要。(宮本委員)
企業の生物多様性への貢献はNGOとの協働が圧倒的に多いが、エネルギーやバイオマスを含めて得意分野である技術開発でどう関わっていくかが大きな課題。(大久保委員)
国際的な視点として、日本は世界の生態系サービスに依存しているという認識を強調した方が良い。(中静委員)
リオ+20に関連して、震災復興における生物多様性など、日本の取組を紹介している。こうした例も含め、世界と日本をつなぐ視点が必要。ESD(持続発展教育)と生物多様性とは親和性がありそうであり、地域での取組の中でリテラシーを高めていくという観点も必要。(武内委員会)
 レジリエンスについて、自然の力をどう評価し活用していくかは重要と認識。その他についても、ご意見のあった点を踏まえて戦略に書いていく。(生物多様性地球戦略企画室長)

<論点6(基本戦略)と論点7(行動計画)について>

愛知目標では、外来種対策の目標の表現が明確であるため、達成は難しいと考えられるが、何ができていて何ができていないのかをはっきりさせるなど2020年の目標達成に向け戦略的に行動計画を考える必要がある。個人やNGOに任せるだけでなく、取組の継続性を確保するための仕組みづくりが課題。(鷲谷委員)
国際的な視点について、貢献についての具体的な記載をして欲しい。例えば、公海の生物多様性を調査し、重要性を国際的に発信していくことは大きな貢献になる。具体的施策によって、計画期間の5年間でできることなのか、2020年を見据えた最初の一歩となる5年間なのかは区別して欲しい。既に成功している事例についての記載も必要。(白山委員)
4つの基本戦略は大きく変える必要はないと考えるが、愛知目標の5つの戦略目標などを参考に必要に応じ書きぶりを変えていくのが良い。特に主流化という視点は重要。「森・里・川・海のつながりを確保する」取組については、省庁連携が必要。またグリーンインフラストラクチャーのように、レクリエーションで人がつながるなど、生物多様性の面だけでなく人間にとってのメリットを確保する視点も重要。(吉田正人委員)
科学的基盤や調査研究の推進の中で、評価手法、指標の検討や共有化が重要。また、継続してデータを収集していくことが重要。アセスメント系の情報の集約や、他省庁データのアーカイブ化ができないか。(下村委員)
数値目標で5年間の進捗を示すこと、モニタリング体制の充実やポータルサイトの設置を図る必要がある。ポイントではなくネットワーク(流域)でのモニタリングが必要。放射性物質に関し、生物多様性の観点によるモニタリングポストも必要。(小泉委員)
栄養循環に際し、負荷の削減は進んでいるものの、依然として赤潮と貧酸素水塊は改善していない。全体を見通した中で窒素、栄養塩の循環の問題をどこかでまとめて取り上げる必要がある。(磯部委員)
今後5年での重点的な取組、明るい話題、離島を含めた地域の取組事例を多く取り上げて欲しい。(あん委員)
国際的な活動については1章を設けても良い。(土屋委員)
行動計画について、愛知目標に対して何をするのかを具体的に記述し、5年後に達成状況を評価するのが良い。(中静委員)
主流化に向けて、生物多様性に配慮したことが見えるような形で示していくことが重要。環境経済からの視点とともにトップダウンではなくボトムアップの視点も必要。鳥獣被害への対応方針や名古屋議定書への対応方針の明確な記述も必要。(吉田謙太郎委員)
5年間の計画では社会経済的な視点での評価が重要。指標について、数値化できるものは数値化していき、できないものは劣化、安定、向上といった傾向を示すという方法もある。(櫻井委員)
 ご意見のあった点については内容を深めていくとともに関係省庁とも議論を深めていきたい。(生物多様性地球戦略企画室長)
 外来種対策は、これまでの防除の問題点を整理しながら体制や役割を検討していきたい。(外来種対策室長)

<論点8(各主体の役割)と論点9(計画期間)について>

論点8について、地方自治体や企業、NGOなど、他のセクターも含んだ戦略という位置付けにするなど、踏み込んでも良いのではないか。計画期間は愛知目標に合わせて、2020年とするのが良いのではないか。(吉田正人委員)
計画期間は法律で縛りがないのなら、途中に中間評価があるので愛知目標の2020年が良いのではないか。(武内委員長)
 2020年というご意見も踏まえて、各省と相談していきたい。2015年が中間評価の年になっているので、そのタイミングで評価をしたい。(自然環境局長)
地球温暖化に関する2020年目標など、他の中長期計画の期間との整合性を意識して欲しい。(武内委員長)
各主体の役割について、企業のグローバルな活動の関係についても記述をして欲しい。(大久保委員)
計画期間を2020年にすることについては異論はないが、努力が停滞しないように、ロードマップの提示が必要である。(白山委員)
現在は各主体の役割が個別に書かれているが、重要なのは主体間の連携。最近は異業種間の連携や参入といった動きも見られる。(武内委員長)
現行の生物多様性国家戦略2010は良く書き込めているが、生物多様性を広めるために誰に呼びかけるかという視点が必要。生物多様性とは何かということを、前文ではまだ書き切れていない。どのような社会を目指すのか前文の中で示唆すると良い。(白幡委員)
生物多様性地域連携促進法には「地域連携保全活動支援センター」の設置が規定されている。各主体間の連携を進めるためには誰がコーディネートをしていくのかが大事。支援センターも絡め、連携のための組織づくりも含めたら良い。(下村委員)
各主体の役割について、新たなパートナーシップ、地方と企業のマルチステイクホルダーの関係、そして文化と生物多様性の観点から都市における事例を含めると良い。(あん委員)
 ご意見のあった点は対応を進めていく。(生物多様性地球戦略企画室長)

<全体を通した意見>

生物多様性条約第7条で規定されている特定と監視については、国家戦略の付録として生物多様性アトラスのようなものを付けるなどの対応をして、他国のモデルとなるような国家戦略に欲しい。(吉田正人委員)
国際的なモデルになるような戦略という視点は重要。現行の国家戦略は、国内の取組と国際的な取組がバラバラだったが、COP10を期に状況は変わってきている。(武内委員長)
 次回に骨子案をご議論いただけるよう、各省庁とも調整を図っていく。COP10や東日本大震災を受けた国家戦略の改定ということで、それが分かりやすい形で反映できるようしていく。(自然環境局長)