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■議事録一覧■


平成19年度 中央環境審議会 自然環境・野生生物合同部会
生物多様性国家戦略小委員会(第3回)

議事録


1.日時

平成19年6月8日(金)9:30~17:30

2.場所

東京国際フォーラム 7階 G701会議室

3.出席者

(委員長)
熊谷洋一
(委員)
石坂匡身、磯部雅彦、大久保尚武、川名英子、桜井泰憲、佐藤友美子、鹿野久男、篠原修、高橋佳孝、中道宏、服部明世、浜本奈鼓、速水亨、三浦愼悟、森戸哲、山岸哲、鷲谷いづみ、和里田義雄 (五十音順、敬称略)
(事務局)
環境省:
自然環境局長、自然環境計画課長、国立公園課長、生物多様性地球戦略企画室長、鳥獣保護業務室長、生物多様性センター長ほか
(関係省庁)
文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省

4.議事

【事務局】 それでは、定刻となりましたが、若干、交通機関のおくれによりましてご到着がおくれております委員の先生方もいらっしゃいますが、これから、中央環境審議会自然環境・野生生物合同部会第3回生物多様性国家戦略小委員会を開催いたします。
 本日の審議のための資料につきましては、議事次第の裏にある各団体ヒアリングプログラムの順にお手元に配付しております。本日配付の資料もございますので、ヒアリングの途中でも、配付漏れがございましたら事務局の方にお申しつけください。
 それでは、これより、議事進行につきましては熊谷委員長にお願いいたします。熊谷委員長よろしくお願いいたします。

【熊谷委員長】 おはようございます。それでは、ただいまから第3回生物多様性国家戦略小委員会を開催いたします。
 本日の議題は、各種団体からのヒアリングでございます。
 議事に入る前に、ヒアリングの進め方について事務局よりご説明をお願いいたします。

【亀澤生物多様性地球戦略企画室長】 おはようございます。地球戦略企画室長の亀澤でございます。
 資料は封筒の中に入っておりまして、その一番上に議事次第がございますが、その裏にヒアリングのプログラムをつけております。
 このプログラムにありますように、本日は、学会、地方公共団体、NGO、企業等、14団体からのヒアリングを予定しております。
 5年前の見直しの際はNGOだけからのヒアリングでしたが、前回の論点でも申し上げましたように、今回の見直しでは地方・民間の参画が重要な課題と考えておりまして、本日はNGOだけでなくて、学会、地方公共団体、民間企業などから、より幅広くお話をお伺いすることにしました。
 各団体ごとに25分ないし30分の時間を設けていますので、大体その時間の半分でご発表いただきまして、残りの半分で委員の先生方からの質疑・意見交換をお願いしたいと考えております。
 なお、夕方になりますが、14団体からのヒアリング終了後に全体を通じた総括的な意見交換の時間として、30分程度の時間をとっております。
 以上が本日のプログラムの説明です。
 それから、その下にスケジュールがございますが、これは前回説明したものと同じで、次回7月17日の時間と場所まで入っております。
 それから、その次に資料1という束がございますけれども、第1回小委員会の関係省庁ヒアリングの際の宿題、あるいは追加質問事項に対する各省からの回答をお配りしております。
 後ほどご覧いただければと思いますが、幾つか簡単に触れますと、資料1、8ページ、こちらはサンゴ礁がCO2の吸収源となっているか否かということについてですけれども、条件によって異なるが、どちらかというと共生藻類の光合成による吸収よりは、石灰化と呼吸による排出の方が上回るという考え方が強いというものです。
 それから、12ページの方にいきますと、こちらは農水省からの回答ですけれども、農業の生物多様性保全上の効果を経済的に評価することについては、その意義は大きいが手法が確立されていないので、今後知見を深めていきたいという内容となっております。
 それから、14ページ、15ページは文科省からですけれども、生物や自然に関することは教科書にどれぐらい入っているか。これについては、具体的なページ数と割合を示したものです。それから15ページは、地域の自然を学校教育の中にどう取り込んでいるか、幾つかの具体的事例を16ページ以下で示したものとなっております。
 それから、その資料1の束の下に、資料2の両面の一枚紙がございますけれども、こちらは2月の合同部会にご報告をし、4月にご審議いただいた現行戦略の第4回点検結果に対する中央環境審議会からの意見ですけれども、先週6月21日付の大臣あての意見書として公表もしておりますので、ご報告をしておきます。
 先日、個別にお送りしてご確認をいただいたものから変更はありません。
 以上、資料1と2についてはご覧をいただいて、もしお気づきの点があれば、後ほどでも事務局までお知らせいただきたいと思います。
 以上でございますが、本日は午前、午後にわたり、長時間のヒアリングとなります。よろしくお願いいたします。

【熊谷委員長】 では、早速ですが、ヒアリングに入りたいと思います。
 まず初めに、日本生態学会の立川様より、ご発表をお願いいたします。
 なお、恐れ入りますが、ご発表時間は15分程度でお願いをいたします。

【立川氏】 皆様、おはようございます。今日、この小委員会で、生物多様性国家戦略の見直しの議論に関して、日本生態学会からの要望や提言等を説明させていただく機会を与えていただいたことを、大変光栄に存じます。
 今日の発言者として、日本生態学会会長の菊澤喜八郎を予定しましたけれども、大学の授業等の関係で今回どうしても出席できなくて、申しわけございません。そこで、僭越ですけれども、私、当学会の自然保護専門委員会の委員長をしております立川賢一が、かわって発言させていただきます。
 また、委員会から清水喜和と横畑泰志の2名を随行させていただきました。専門分野に関わる質問に関しては回答させていただくこともあろうかと思いますので、私ともどもよろしくお願いします。
 それでは、プロジェクターを使用して説明させていただきますので、座らせていただきます。
 最初に、私どもの所属する日本生態学会について、簡単な紹介をさせていただきます。
 日本生態学会は、1953年に設立されました。設立目的は、生物の生活の法則を、その環境との関係で解き明かす科学の進歩と普及ということのためです。現在、菊澤会長のもと、全国に7支部がございまして、3,900名の会員を擁しております。生物多様性国家戦略に関連する専門委員会は、自然保護、生態系管理、生態学教育、大規模長期生態学などがございまして、学会内の様々な意見を集約しております。ここに2000年以降の要望書を示しておりますが、これらは自然保護専門委員会が取りまとめた要望書です。いずれも、生物多様性国家戦略の目的を実現させるための要望書であると位置づけており、日本生態学会の総会において決議され、関係機関に提出させていただいております。また、三種の定期刊行物がございまして、それぞれ生物多様性に関連した研究結果等を公表しております。
 生物多様性国家戦略の目的達成のための研究活動やモニタリング事業の推進等は、学会等において極めて重要な役割を持っていると考えておりまして、協力や支援を行っております。ここに、表紙で示しましたように、学会では、出版物として『外来種ハンドブック』それから『生態学入門』を刊行しまして、一般にもより広く深く理解していただくための努力も続けております。
 豊かな自然に恵まれていた我が国では、自然からの多様な恵みを調和を保ちながら享受し、継続し、自然と共存する生活様式を歴史的に形成し、自然地域において特徴ある、持続可能な生活文化を熟成してきたことは、よく知られております。しかし、現在では、自然からの過度な収奪・搾取のため、生物多様性の損壊、衰退が進行し、生物資源の持続的利用も危ぶまれております。
 先ほどお示ししました幾つかの要望書には、生物多様性を損壊し衰退させるような自然環境の破壊や、自然資源の過度な利用と判断した現場や状況に対しまして、生態学的な観点から端的にまとめた要望が書かれております。しかし、多くの場合、要望が認められず、自然地域の乱開発が進み、生物多様性の損壊等をとめるに至っていないことは、本当に残念に思っております。
 今回説明させていただく日本生態学会からの要望や提案は、4月23日付で自然保護専門委員会名により提出していただいた論点整理に対する意見書をもとにしております。また、懇談会、意見募集及び小委員会を通じての環境省の論点整理では、多くの貴重で重要な意見等が集約されておりますので、ぜひ、第3次生物多様性国家戦略の策定において、反映していただきたいと思います。
 全体に係る論点というところですが、ここから具体的な要望と提言の説明をさせていただきたいと思います。お話しさせていただきます基本的な内容は、生態学会の会員が生物多様性に関して研究活動やモニタリング調査を実施している現場において直面する、いわゆる生の声に基づいております。
 それでは、論点整理の項目に対応して説明させていただくことにしますけれども、既に提出されている各方面の論点に関しては、それを補強する形、不足の論点には追加する形でまとめさせていただきます。時間的制約から、話を急ぐことになろうかと思いますけれども、ご理解いただきたいと思います。
 全体に係る論点につきましては、三つの危機の現状認識により、意見を述べさせていただきます。
 まず、第一の危機ですけれども、ここにございますように、例えば全国的に国有林の天然林が伐採され続けられている現状に直面しますと、依然として、自然地域や生物多様性は破壊され、損なわれ続けられていることを実感しております。
 この写真は、北海道の松前半島にあるブナの天然林です。2005年に大規模な伐採が行われました。伐採地は水土保全林で、土砂流出防備保安林なんですけれども、人為攪乱をしていけないと考えられている尾根部とか源流部で大規模伐採が実施されておりました。このブナ林は、北限地帯にあるブナの原生林であると考えられております。伐採用作業道は、集材用重機とか伐採用重機を通すための約8メートルの幅で縦横無尽につくられており、しかも重機の沈下を防ぐためか、このように森林育成に必要な表土がすっかりはぎとられて、伐根、伐った後の根ですね、そのまざった表土というのが、作業道周辺の伐採されていない斜面に投げ捨てられているような状況がありました。
 このような攪乱された範囲というのは、作業道を含み、幅15から20メートルに及んでおり、急斜面に捨てられた土壌というのは、源流部から下流部に流下したり、あるいはその残された大径木の根元とか、林床の植物を厚くおおっていますので、この後の生育は非常に困難であると。極めて乱暴な伐採が実施されているというのがわかります。
 この場所は、公益林・保安林でも、一定の伐採率を上限として、都道府県知事の了解を得て伐採できるんですけれども、このような場所ですと、一定面積を集中的に伐採するなどで、保安林による上限伐採率をはるかに超えた伐採が行われている状況がございます。
 それで、下の図ですけれども、これは1950年に953万ヘクタールあった原生的森林というのが、52年後の2006年には657万ヘクタール消失します。これは71%消失しております。これは林野庁によって昨年示された国有林の面積ですが、759万ヘクタールありますけれども、そのうちの天然林の面積は461万ヘクタールで61%ございます。しかし、この天然林のうちの68%、ここの部分ですが、68%が伐採対象林となっております。
 天然林のうちの公益林、ちょっと図がここでは見にくいんですけれど、公益林というのは、ここに書かれていますように、地球環境保全とか水源かん養とか生態系・生物多様性の保全とかいうふうな目的があると書かれております。これは、ちょっと見にくくて申しわけありませんけれども、公益林というものが以前と比べて二つに大きく分けられまして、森林と人との共生林が27%、下の方が、水土保全林64%に機能分類されております。ところが、この機能分類されているこちらが十勝森林計画区の例ですけれども、ここに水土保全林と書かれておりますけれど、ここの部分が主伐といいますか、木を切ることになっております。
 先に説明させていただきましたように、公益的機能を維持するためにはどのような伐採をしていけばいいかというようなことは、余り今は考えられていないんじゃないかという危惧があります。ここで強調したいことは、我が国は、残された原生的自然地域が非常に少なくなっているという現状があるんだということを、強く認識していただきたいということです。
 第二の危機ですけれども、里地里山あるいは里川とか里海とか言われる地域におきましては、生物多様性の保全に対して実現可能な対策を考えるべきではないかということですが、その中に、ちょっと時間の関係でずっと話を急いでいきますけれども、やっぱり、実現可能な対策ということで、生態系管理という視点が非常に重要だということです。それはなぜかといいますと、国土面積の69%を占めている中山間地域、というのはこれは里地里山も含まれますけれども、そういうものを今後生物多様性の保全のために維持するためには、食糧の自給率とか国土保全との関係を含めて実現可能なことを考えなくちゃいけないわけです。そのための省庁横断のグランドデザインが必要だということです。
 すみません、次、進めていきます。第三の危機です。これは私ども日本生態学会としては法制化をお願いしておりましたところ、外来生物法ということで法律ができまして、非常にこのことは評価しております。しかしながら、現状ではまだ特定外来生物の選定とか駆除とかの管理施策に対しては不十分であるということなのです。例えばここに、最近話題になっているカエルツボカビ等の問題とか、それから、国内外来生物をどう取り扱うかという問題などが議題にされております。
 それと同時に、ここに示しておりますのはホタルの例ですが、これはゲンジボタルですが、こちらが長崎の、こちらが青森の方で、このようにゲンジボタルの絵がありますが、このように形は変わってきます。こちらは、発光周期は、やはり同じように長崎の方から青森の方に行きます。ご覧のように発光周期が長崎の方、こちらの方ですね、九州の方は短くて、東北の方が長いということです。遺伝子系を調べますと、日本の中にいるゲンジボタルでも、このように六つのグループがあるというのがわかってきました。さらに調べますと、この関東グループ、東京あたりでは西日本グループの遺伝子が入っているゲンジボタルもあったりして、いわゆる遺伝子汚染というのが既にここでも入っているということで、今後国内の外来生物を含めて、外来生物を確実に管理できる実効的対策を検討されるように要望したいと言えます。これには、外来生物法の改正というのも必要になろうかと思います。
 次に個別の問題に入っていきます。
 1番が、地球規模の生物多様性保全への対応です。これから後は時間の関係で項目、内容じゃなくてこのタイトルのところで説明させていただきたいと思いますが、優れた多様性が現存している非保護地域の保護と保護区の拡大というのを要望したいということなんです。その一つの例としまして、これは日本生態学会が既に要望書を提出させていただいている事例ですけれども、広島県の西方に位置する西中国山地国定公園に含まれる細見谷という場所です。この場所に十方山林道があるんですけれども、この林道を拡幅して舗装する「緑資源幹線林道」が昨年着工されました。
 このように、非常にすばらしい生物多様性がある場所でもありますし、ツキノワグマが、ここに孤立の個体群としてあるんですけれども、このツキノワグマも毎年200頭を超える捕殺がされておりますので、その絶滅が危惧されております。
 生物多様性国家戦略では、このような優れた生物多様性の現存する地域を、どのようにして守っていけるのだろうかと思っております。
 次の、学習・教育と普及広報、地方・民間参画ですが、お手元にプリントさせてもらったのはちょっと私の方の張りつけミスで、[3]のところと[2]が同じになっています。[3]は、「生物多様性」の指導者養成のための制度を設定すべき、であるということなんです。申しわけございませんが、訂正していただければありがたいと思います。
 [1]として、「生物多様性」を理科教育の主題の一つに充てるべきと思うんです。国家戦略ですから、当然、小学校から高校に至るまで、いろんな段階に応じて学習をさせるべきではないかということです。
 NGO、NPO、ボランティア等が活動されているんですけれども、それに対する支援策が非常に弱いということで、もっと強力な支援策をしていただきたいということ。
 それで3番目が、生物多様性の指導者の養成のための制度を設定すべきで、学会としての役割には協力をしたいと思っております。
 海の方ですが、海域保護区の設定と実現可能な管理施策をということです。これは、幾つかありますが、例えば知床世界遺産の管理計画においては、漁業と自然、多様性保護というのを考えた計画ができております。こういうものを利用しながら、海域保護区の設定をお願いしたいと思います。
 その中の一例として、瀬戸内海の生物多様性に対して、簡単に説明をさせていただきます。
 これは、瀬戸内海の上関という場所なんですが、ここにこのような長島というところで、非常に見た目もいい、非常にすばらしい自然があって、ここでは鳥つき網代とかスナメリ網代というか、鳥とかスナメリを目安にして漁業を営まれている、こういう場所がございます。ここに原子力発電所の建設計画が決まったようで、今、ボーリングでこのような状況に開発されております。幾つか問題点があるんですが、ちょっと時間の関係で次に進ませていただきます。
 この場所は、先ほど鳥とかスナメリの話をしましたけれども、その場所には砂堆がありまして、その場所にイカナゴが非常にたくさんいて、それを食べに来る鳥やスナメリを頼りにする漁なんです。瀬戸内海の自然の特徴、砂堆の説明をここにしておりますが、潮通しのよい浅い海に形成される砂地の海底で、ナメクジウオ、イカナゴ、ウミサボテンなどの特徴的な生物相が存在して、今言いましたイカナゴの豊かな生産によって、食物連鎖に至るいろいろな漁業とかが行われているその場所です。
 その砂堆というものが海砂の採取によってどんどんなくなっているという状況で、それがまた、長崎県、鹿児島県、沖縄というように拡大している。ぜひ、こういう場所を残していただきたいということが、この説明です。
 次、国立公園等保護地域と生態系ネットワーク及び自然再生のことです。これもポイントだけ説明させていただきますと、原生的自然の保全強化というのをぜひやっていただきたいということです。そのことの一つには、ここにもありますように生態系ネットワークを広げようということはあるんでしょうけれども、ただ、それによって再配置があったり、ここはもう要らないだろうなんかというふうに縮小したりすることのないようにしていただきたいと同時に、源流域から海域までの流域全体を連鎖させるような保護地域の設定とか、地域生態系の実質的な連鎖系とかというものを、もっと確立していただきたいと思います。
 里地里山の保全に関しましてですけれども、これは、先ほど言いましたように里地里山については非常に注目を浴びて、いろいろな人の手によって、いろいろ保全のために努力されているようなことでございますけれども、その反対に、奥山自然地域というのがどうも疎んじられて、先ほどのような状況が生まれつつあります。里地里山を考える上においても、その奥山の問題を非常に重要視していただきたいと。同時に、里地というのは人がいるような場所ということで、ここに谷戸とか湿地帯というところがあります。こういうところは自然に残せばいい、余り手を加えない方がいいというような場所においても、むしろ改良を加える、いろいろ手を加える方がいいんだというような誤解が現場では起こっているようで、こういうところも考えた管理施策をしていただきたいと思います。
 野生生物の保護管理に関してですけれども、これは希少生物の指定種の拡大と生息地保護区の増加をお願いしたい。現実に見ますと、保護区の設定は非常に小さくて、例えばツキノワグマ1頭の行動圏さえも追えないような状況がございます。ぜひ、これは、生き物に応じた拡大を考えていただきたいと思います。
 それから、自然データの整備に関してですけれども、レッドリスト作成とモニタリング体制の強化、充実ということをお願いいたします。既にモニタリングサイト1000のような観測事業がありますけれども、そういう組織をどんどん機能強化して、有効に活用されるようなデータの長期的収集と蓄積あるいはデータ解析というものを、より強固に実現していただきたいと。それに対して、日本生態学会としても、基礎研究とか情報交換等を行いながら、全面的に協力をしていく体制があるということです。
 最後に、例えばデータの整備の中では、絶滅が危惧される寄生生物と書かれておりますように、寄生生物というのは非常にたくさんいるにもかかわらず、ほとんど無視されているというか、そういうふうな状況がございます。こういう寄生生物がどのような生態的意義を持っているか、役に立つものであるかとか、どのような問題があるのかというのは余り研究が十分ではありませんので、こういうものも考えて整備していただきたいと思います。
 時間の関係で急いで説明して、不十分なところもあると思いますけれども、現場で頑張っている学会員の生の声をできるだけお伝えしたいとして、たくさんのことを言いました。どうもありがとうございました。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 ただいまのご発表につきまして、委員の方々からご意見、ご質問等がございましたらいただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
 それでは、速水委員、お願いいたします。

【速水委員】 ありがとうございました。
 最初のこのところに、森林の北海道の伐採の問題が出ていたと思いますけれども、国有林、様々な形で、以前から比べるとそういうものに対する配慮をしようという努力が現実にはあると思うんですが、なかなか、今のお話だと、そうはなっていないというふうにとらえていらっしゃるわけですね。
 以前と変わって、少しずつそういう配慮をし始めたというところも、見えることは見えるわけでしょうか。皆様方からご覧になって。

【立川氏】 ありがとうございます。現場は、こういう伐採計画が起こったときに、学会員の方も含めていろいろ要望相談とか実情を聞きに行くわけですけれども、そうしたときに、やはりここは天然林である、原生林であるから、今は環境を考える、多様性を考えるところじゃないでしょうかというような議論をしても、なかなかその話が伝わらないという現状があるようです。
 もちろん、先ほど、この次にお示ししていますが、こういう状況があるのはあるんですが、現場というか末端といいますか十分理解されているかどうかということを、対応している学会員としては危惧しているというか、話が全然通じないということはあります。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 実は、内容が豊富でいらっしゃるものですから、大幅に持ち時間がもうなくなってしまいましたので、生態学会の方からのご提言に対して、何かご質問、ご意見がございましたら、後ほど事務局の方にお申し出いただいて、できましたら私と事務局で検討させていただいて、文書で学会の方にご質問なりご意見をお寄せしたいと思いますが、そのときにはぜひよろしくご対応をお願いしたいと思います。
 どうもありがとうございました。

【立川氏】 どうもありがとうございました。

【熊谷委員長】 それでは、予定しております次の学会、日本造園学会にヒアリングをさせていただきます。
 日本造園学会会長の蓑茂様及び総務担当常務理事の下村様より、ご発表をお願いいたします。
 なお、ご発表は15分程度でお願いをいたします。よろしくお願いをいたします。

【蓑茂氏】 ただいまご紹介をいただきました、日本造園学会でございます。私、会長の蓑茂でございます。本日はこういう機会をいただきまして、大変ありがとうございます。
 ご承知かと思いますが、日本造園学会は大正14年につくられております。ほかでもございません、関東大震災直後でございます。といいますのも、造園といいますのは、世界的に見ましても、アメリカのニューヨークのセントラルパーク、あるいは国立公園思想がアメリカで、イエローストーン等で起きましたが、そういったことを受けた学問分野でございます。
 今回は第3次ということで、私たちはこの第3次の生物多様性国家戦略をどうとらえるか、このことについて議論をいたしました。簡単に申し上げますと、シナリオをきちんとつくるときではないかということでございます。戦略的なシナリオをつくるときであるということです。そのために、コンセプトが重要だということで、ここにありますとおり「瑞穂(みずほ)と環(わ)の郷(くに)づくり」ということをいたしました。瑞穂といいますのは、みずみずしい稲の穂の意味でございまして、日本の褒め言葉でもございます。そういった過去のいにしえのいい部分を、どういうふうに今後、次の世紀へつないでいくかということも含めまして検討したわけでございます。
 これは、ほかでもございませんが、アジアモンスーン型の環境モデルといいますか、そういったものを日本はアジアの先進国として発信すべきではないか、そういったことも今回の戦略の中には含むべきではないかということでございます。詳細につきまして、私どもの学会の総務担当常務理事であり、また、この分野のな面でも専門家であります下村常務理事より、ご説明を申し上げます。

【下村氏】 それでは、スライドを、プレゼンテーションに従いましてご説明をさせていただきたいと思います。
 まず、私どもの基本認識ということでございますけれども、我々の学会は、基本的には、生態系あるいは景観という観点から、空間計画を中心に研究したり、技術をストックしている学会でございます。そして人と自然との持続的な関係の再構築という視点を持って、自然環境を社会資本として捉え、そのあり方を検討することが重要だと考えています。それを象徴しましたのがこの副題でございまして、これは、美しい国土づくりという課題、ランドスケープ、景観の問題でございますが、その景観作りという課題と、環の郷ということで持続的社会の実現の仕組みづくりという課題、ランドスケープづくりと仕組みづくり、この二つの課題を象徴いたしました。
 そのほか、この言葉には、日本の伝統ですとか歴史を振り返りましょうという意味合いや、郷という言葉に込めたのですが、今回いろんな空間スケールについてご検討いただく必要があるわけですけれども、中でも地域スケールでのあり方が基本だろうという意味合いも含めていただいております。
 それから、先ほど会長の蓑茂が申しましたとおり、第3次ということを我々どのように考えたかということでございますが、第2次の新・生物多様性国家戦略においては、危機的な状況への取り組みの必要性を強調して、生物多様性に対する認識を高めたという点で一定の成果を得たと理解しております。しかしながら、まだまだ生態系サービスの低下が懸念されて、このあたりは2005年に出されましたミレニアム生態系アセスメントにおいても提示されている問題でございます。
 一方で、国民あるいは市民の関心というものも大きく高まってきておりますけれども、それもまだ個別の動きでございまして、十分に組織化された動き、あるいは、システムとして動いている状態にはないというのが現状であると思います。したがいまして、先ほど会長が申しましたとおり、第3次におきましては、より具体的なシナリオ分析、それを踏まえたアクションプランを提示していく必要があるだろうということでございます。それと同時に明確な目標像を提示し、国民の合意のもとに具体的に行動に移していく必要があるという段階であるという認識でございます。
 それからもう一点、2次から3次に移る過程で、環境の問題は地球規模の問題であるという認識がますます高まってきております。温暖化の問題しかり、生物多様性の問題しかりでございまして、そうした国際的な問題であることを強く認識する必要があると考えております。
 先般、環境立国の戦略も出されておりますので、その中でも強調されている、国際性を十分に念頭に置いて戦略を立てていただく必要があるだろうと認識しております。
 以上、大きく二点、第3次に向けての我々の認識でございまして、これをベースに七つの提案をさせていただきたいと考えております。
 一つ目ですが、まずは国土の目標像をしっかり明示していただく必要があるということでございます。2次におきましても、グランドデザインということで、イメージは描いておられますけれども、より具体的な目標像の提示であるということで、ここでは「明示」という言葉を使わせていただきました。やはり、数値目標等も含めまして、明確な目標を出していただく必要があるということでございます。
 都市域、農山村域、奥山域と、あるいは少し弱い沿岸域を含めて、それぞれこれからどういう自然環境になっていくのか、あるいはこれら相互のバランスをどうとっていくのかということについて、目標像を明示していただく必要があるということでございます。
 それと同時に、やはりネットワーク、生態系ネットワークを形成していくことが重要だということで、それを国土レベルで描いていただく必要があるだろうと。それと同時にまた、先ほど国際性という問題を掲げましたけれども、アジア、太平洋レベルですね、そうしたスケールでのネットワークも、計画の中に盛り込んでいただくことも必要であろうと考えております。
 これが1点目、目標像の明示、つまり全体像あるいは地域相互のネットワークという形での目標像の提示の問題でございます。
 それから、2点目は、その目標像に至る長期のシナリオを描いていただきたいということでございます。この文章にミレニアム生態系評価について書きましたけれども、やはりこれからの目標像とそれに至る道筋を大胆に示すことも必要な段階に来ているのではないかと考えております。しかも、科学的なデータを踏まえてシナリオを描いていただくことが第3次の中で重要だろうと考えております。
 そのシナリオを描く過程では環境立国戦略の中には「SATOYAMAイニシアティブ」という形で盛り込まれましたが、我が国の伝統とか文化を再評価しながら検討していただく必要があるということでございます。
 この提言の1と2は、悪い言い方をしますと、コンピューターをぶん回すという作業になろうかと思いますけれども、仮説の積み重ねにすぎないとか、条件設定の問題じゃないかという批判は覚悟の上で、やはりしっかりした目標像とシナリオを描くことが第3次の中では必要であろうという認識でございます。
 それから3点目として、先ほど掲げた国際社会。今後、国際社会の中でますます大きな役割を果たしていく必要があるということで、国際的な自然環境管理の仕組みですね、こうれをしっかり構築していく必要があるということでございます。日本にはそれだけの役割が期待されているという面もあろうと思いますし、また、今までのストックから考えて、それができる段階に来ているという認識はございます。
 その際に、先ほどとちょっとダブりますけれども、国際社会にアジア型といいますかあるいは日本型といいますか、循環型、自然共生型の社会モデルをしっかり発信をしていく作業も国際社会の中で重要な役割だろうと認識しております。そういう点でも、従来の里山のあり方、それが新しい生活様式の中でどういう形で生かしていけるのか、あるいは新たな形を提案できるのかということが、第3次で検討していただく重要な課題であろうと理解しております。
 それから4点目でございますけれども、生物多様性の問題を具体化をしていく上で、地域レベルでいかに展開を促進するかについて検討していただく必要があるだろうという点でございます。
 3点目までは国土レベルの問題、さらにはそれをアジアあるいは国際社会に広げていくという、広域レベルでの提案をさせていただいていますけれども、4点目は、地域というレベルにブレークダウンした具体的な展開が必要であるということでございます。
 後に参加型の問題も提案させていただきますけれども、自治体あるいは地域というものの自立的な展開ですとか、あるいは主体的な展開というものがますます重要になってきておりますので、それを促進したりサポートしたりするような施策展開が必要になってくると考えています。地域版の多様性保全戦略あるいは自然環境管理計画といったものを地域レベルで立案することを促進する政策も必要ではないかという提案でございます。
 その際、国土形成計画、環境基本計画という既存の基本的法制度がございますので、それとの整合性やリンクの問題を、まず念頭に置く必要があると考えています。
 それから、提言の5点目でございますけれども、より具体的な提言をしていく上ではデータが必要ですので、モニタリングの仕組みをさらに充実をしていただきたいということでございます。まだ、野生動物の問題とか、海洋生態系に関するあたりはデータが特に不足しておりますので、そうした補強問題も含めてモニタリングをしっかり進めていただくことが必要だろうということです。
 その際、参加型の仕組みも、また重要であると理解しております。調査を予算化して、大々的にモニタリング調査をすることも重要ですけれども、参加型で健康管理をしていくような仕組みづくりも重要であろうということで、提案をさせていただいております。
 それから、6番目は教育の問題でございまして、先ほどの国際環境マネジメント、あるいは生態を実際にこれから調査・分析する人員が必要になります。科学的なデータに基づいてシナリオづくりにつなげていこうとすると、専門的な知見を有した人材も必要になってまいります。そうした人材の育成、それから、何より育成後の活躍の場の確保ということもリンクした形で検討していただきたいと考えております。
 それから、子供たちへの教育プログラムですね、環境学習。特に、都市の中で身近なところでより豊かなふれあいが展開できるような機会が必要だということで、子供たちに対する教育のプログラム、その場、機会の確保ということも盛り込んでいただきたいということを提言に入れております。
 そして、最後に、多様な主体の参加という、提案の項目を設けましたけれども、やはりこれからは、企業あるいは市民と一体になって多様性の問題を考えていく必要があると思います。その際、実際の担い手あるいはお金の問題ですね。具体的に仕組みづくりをしていく上では、やはり現実として担い手や予算の確保が必要になってきますので、これらを確保する仕組みづくりを盛り込んでいただきたいと考えております。
 以上、基本認識等、7点の提案ということでご報告をさせていただきました。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 それでは、ただいまの造園学会からのご発表に、ご質問、ご意見がございましたら、どうぞよろしくお願いをいたします。
 浜本委員、よろしくお願いいたします。

【浜本委員】 ありがとうございました。とても共感するところばかりだったんですが、ただ一つ、提言5のところのモニタリングシステムの構築と自然環境に関わる科学的データの整備というところは、私どもも現場でこういう場はたくさん持っておりまして、痛切に感じております。その中の、特に2番目の市民参加型モニタリングシステムの仕組みづくりのところで、膨大な予算をとらなくても住民参加型でということをお話しされましたけれども、実は住民参加型でモニタリングを永続的にしていくことに対して、膨大な予算がかかるんですよね。それを、私どものようなNGOが一手に引き受けて、どこからも予算がなくて、全く身銭を切ってやっている状態なんですね。
 この前の生態学会の発表にもございましたけれども、指導者の養成だとか、現場でどういう方たちがそのシステムを、仕組みをつくり上げていくかということと、それを地域の中で永続的にやっていくかということに関して、しっかりした予算組みをしていただきたいということを、できればこの中にもうちょっと詳しく述べていただけたらなと思います。
 下手すると、専門家と言われる方たち、そういうモニタリングをする専門の方たちだけが予算をとってモニタリングのシステムをつくった場合、その後に、それを永続的に地域の中で本当に地域のために落としていく、それを維持管理するということが、ついついおろそかになりがちなんですが、それが一番大事なのではないか、それが多分その提言6とか提言7のところにもつながってくると思いますので、どうかこのあたりのところを予算から外さないように、もうちょっと詳しく書いていただけると、提言がより具体的になるのではないかなというふうに感じました。

【蓑茂氏】 はい。予算といいますと、財政をつけるということですね。それは全くそのとおりだと思いますけども、ただ一つだけ思いますのは、公共の、今、新しい公ということが問われていますけども、公共の公だけにその負担を強いるのではないということだけは考えた方がいいんじゃないかと。私たちは、共ということが非常に大事で、公共の共の方がですね。そういった意味でNPOであるとか、いろんな役割があるだろうと。
 今、私たちが実際やっています中では、企業等の社会貢献、環境への社会貢献という点で、そういう財政援助をいただくことも可能でございますので、幅広く財政の問題を考えていきたいと思っております。ありがとうございました。

【熊谷委員長】 ほかにございますでしょうか。
 それでは、高橋委員、お願いいたします。

【高橋委員】 ありがとうございました。
 一つ、モニタリングのところでは、専門家を育成してモニタリングを充実させるのも一方ですけれども、ある意味では学会から離れたような。ごくごくわかりやすい当たり前のモニタリングというのを、学会の側からもある程度提示していただけないと、これ、生態学会においても同じなんですけれども、モニタリング1000のサイトにおいてもかなり緻密なモニタリングということで、あれが果たして持続可能性があるのかどうかというのが検証されていないので、その辺はどうしていいか、私たち現場の者も含めて早急にやらなきゃいけないんじゃないかと。ごくごく簡単なことでもいいから、持続的なものをどうするのかということです。
 それから、自然環境管理に関わる専門家云々と、担い手を想定されているということなんですけれども、特に造園学会の場合、里地里山をかなり想定されていると思うんですけれど、その場合の担い手というのは、実は専門家ではなくて農業者だったり林業者だったりするわけで、そういう方たちとのかかわりと、それからそういう省庁というのは当然ありますので、その辺の仕組みとの連携というのも、ある程度そちらの方から提言していただけたらありがたいなと思っております。

【熊谷委員長】 それでは、学会、よろしくお願いいたします。

【下村氏】 ご質問ありがとうございました。
 先ほどの件も含めましてお答えさせていただきたいと思います。まずモニタリングの件ですけれども、会員の中には、実際の場所で、どういう生物を指標として一般の方に見てもらうと、その場所の健康状態がクリティカルに把握できるのかということを調査し始めている者がおります。先ほど、参加型でも大きな予算が要るというお話でしたけれども、仕組みをつくるまでに大きな予算がかかります。ただその後のランニングコストは、従来の一時に大きなお金を使って大調査をする形式とは違ってくると考えています。実際に一般の方とか、日ごろ山に行かれるあるいは自然地に行かれる方に協力していただき、何をどうチェックをして、それを研究者にどういう形で情報を提供して環境の状態を評価するかという大きな仕組みをつくることで、日々の低いランニングコストでやっていけるのではないかという考えで申しました。
 それから、あともう一点いただきました第一次産業の担い手の方たちとのかかわりの問題でございますが、この点に関しては我々も非常に大きなポイントだろうと理解をしております。提言書中に、「なりわい」という言葉をしきりに入れておるんですけれども、やはりなりわいの再構築といいますか、現代社会の中で旧来の第一次産業をいかに位置づけるかが重要な鍵の一つであろうと考えております。また、なりわいと自然とのかかわりを教育に反映させていないという問題もありまして、これらの問題を重点的に進めていく中で、第一次産業の担い手の方たちとのコミュニケーションも図られていくのではないかと理解をしております。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 まだ、ご質問はおありかと思いますが、今日は大変たくさんのヒアリングを計画しておりますので、もし、まだご意見等がございましたら、恐れ入りますが後ほどまたお寄せいただきたいというふうに思います。
 それでは、造園学会の会長初め総務理事のお二人には、大変ご苦労さまでした。ありがとうございました。
 それでは、引き続きまして、学会をこのヒアリングで終えまして、これからは地方公共団体からのヒアリングをさせていただきたいと思います。
 まず最初に、豊岡市の中貝市長からご発表をお願いしたいと思います。
 大変恐縮でございますが、発表時間は15分以内でお願いしたいと思いますので、よろしくお願いをいたします。

【中貝氏】 おはようございます。
 豊岡は、兵庫県の北部、日本海に面した人口8万9,000人のまちです。まちの真ん中を円山川が流れています。この画面中央あたりで、河口から10キロメートル上流ですが、カレイやアジが釣れます。円山川の河川勾配は1万分の1、10キロメートルに対して1メートル、100メートルに対して1センチメートルの高低差で、川底には海の水が忍び込んできています。したがって、風がないと、もうこんなふうに鏡の面のような静かな水面を示しています。しかし、河川勾配が極端に小さいということは、水はけの悪さも意味します。
 平成16年、台風23号で、豊岡は泥の海に沈みました。大雨が降ると水浸しになりやすい場所。低湿地帯というのは、人間にとっては結構、暮らすのに厄介な面がありますが、大好きな生きものもたくさんいます。豊岡における代表例がこれです、コウノトリ。羽を広げると2メートルもある白い大きな鳥で、かつては日本中至るところで見られる鳥でした。里山の松の上に巣をつくって、田んぼや川の浅瀬でカエルやナマズやドジョウやフナといったものをエサとしてとっていました。しかし、明治期の鉄砲による乱獲、第二次世界大戦中の松林の伐採、そして戦後の環境破壊によって数を減らし、1971年、野生最後の1羽が豊岡で死んで、コウノトリは日本の空から消えました。とどめを刺したのはこれ、農薬の散布です。
 その絶滅に先立って、コウノトリを守ろうという運動が起きて、1965年、人工飼育が始まります。しかし、人工飼育の開始以来、最初の24年間、来る年も来る年も1羽のヒナもかえりませんでした。絶望もありました。批判もありました。コウノトリが増えていくという確信をだれも持たないまま、いわば暗闇の中を黙々と人工飼育は続けられていきます。
 転機は1985年に起きます。ロシアのハバロフスクから6羽の幼い鳥が送られてきて、当時兵庫県から飼育を任されていた豊岡市の職員が大切に育てて、カップルができて、そして1989年、人工飼育の開始から25年目の春、待望のヒナが誕生いたします。以来19年連続でヒナがかえりまして、今、123羽のコウノトリが暮らしています。そのうちの14羽が野外で暮らしています。
 野生での絶滅から36年、人工飼育の開始から42年、豊岡で保護活動が明確な形をとってから52年になります。長い時間と膨大なエネルギー、たくさんのお金が必要でした。これからもそうだろうと思います。では、なぜそれほどまでにして、私たちの地域がコウノトリの野生化なのか、ねらいが三つあります。
 一つ目は、人間とコウノトリとの約束を守ろうということです。42年前、飛んでいた鳥を捕まえて鳥かごに入れました。安全なエサを与えて増えていったら、いつか空に返そうと誓いました。いわば、人間はコウノトリと約束をした。約束は果たされなければなりません。
 二つ目は、野生生物の保護に関して世界的な貢献をしようというものです。
 三つ目は、今度は観点を変えて、コウノトリも住める環境とはどういう環境なのかということにかかわります。コウノトリは完全肉食の大型の鳥です。あんな鳥も、また野生で暮らすことができるとすれば、そこには膨大な量の、そしてたくさんの種類の生き物がいなければなりません。そのような豊かな自然は、人間にとってこそすばらしいのではないのか。それだけではありません。どんなに自然が豊かになってエサが豊富になったとしても、飛んできた鳥に石を投げたり鉄砲を撃つ、そういう文化のところにコウノトリは暮らすことはできません。あんな鳥もいてもいいよねという、おおらかな文化も不可欠です。そこで、コウノトリの野生化をシンボルにしながら、コウノトリも住めるような豊かな自然と文化をつくり上げよう。それが三つ目の、そして最大のねらいです。
 そのために、様々なことが行われてきました。1999年に兵庫県は、豊岡市内に165ヘクタール、50万坪の用地を買って、県立コウノトリの郷公園をつくりました。そこに県立大学の研究所を設けまして、野生化の実践と研究を進めています。その一角に、豊岡市のコウノトリ文化館があります。こんなふうに間近でコウノトリをご覧いただくことができます。
 アイガモ農法。アイガモは草を食べます。虫を食べます。したがって、草を殺し、虫を殺す薬である農薬を使う必要がありません。昨年、市内で6.1ヘクタール栽培されまして、学校給食でも一部使っています。
 ビオトープ水田です。休耕田に水を張って、農家に草の管理をしていただいています。生き物がたくさんわいてきまして、コウノトリのエサ場にもなります。市内に16ヘクタール、こういう水田がございます。
 これは、田んぼで干上がってしまったトノサマガエル、アマガエルのオタマジャクシです。豊岡では、6月ごろに「中干し」といって、一度田んぼから水を抜きます。カエルになる前ですので、大量にオタマジャクシが死んでしまいます。これは、アカガエルの卵です。2月から3月に卵を産むカエルです。この時期、水田に水がないと、卵を産むことができません。これらを救うことはできないのか。そこで、冬に水を張って、中干しを後ろへずらしていただくようお願いしました。現在市内に39ヘクタールあります。果たしてカエルは本当に増えたのか。カエルが大量に増えていることが確認をされています。
 それから、水田魚道です。田んぼと水路との間の生きものの循環を取り戻そうということで、県の土地改良事務所の人たちが、水田魚道を造りました。確かに、ドジョウを初めたくさんの生き物がこの水田魚道を使っていることがわかっています。市内に94カ所、水田魚道がございます。
 そして、2005年の9月、「コウノトリ未来・国際かいぎ」が豊岡で開かれて、その日の午後、続々と人々がコウノトリの郷公園にやってきます。そして、歴史的瞬間がやってきました。
 最初の1羽が飛んだ瞬間に、やった、という大きな声がしました。私の声でありました。台風23号の被害を受けて、国土交通省が円山川の治水事業を進めています。河川敷を浅く掘って湿地を造りますと、ちゃんとコウノトリが舞い降りるようになりました。これは城崎の水田ですが、土地改良工事の順番を待っている間、休耕していたところ、ミズアオイの花がわっと咲き乱れて、一昨年、毎日、野生のコウノトリがやってくるようになりました。そこで、豊岡市が、この農地約4ヘクタールを取得いたしまして、土地改良事業と平行し、今、湿地として保全する作業を進めています。さらに、これは、堤外水田ですが、国土交通省が、約15ヘクタール、この農地を買収をして、自然再生をするということが決定されています。
 1960年の写真です。田んぼ道を、朝、子どもたちが学校へ行っています。2羽のコウノトリが、あたかも「行ってらっしゃい」と言わんばかりに見送っています。47年前の写真です。2006年、昨年の写真です。四十数年たって、またあの光景が戻ってきました。そして、5月20日、ついに野外で43年ぶり、ヒナが誕生をいたしました。
 コウノトリの自然放鳥が始まった今、豊岡が次に開こうとしている扉は「環境経済戦略」です。環境を良くしようとする行動によって、経済が活性化をする。そのことが誘引となって、環境行動がさらに広がっていく。そのような環境経済を広げていこうと考えています。ねらいが三つあります。一つは環境行動自体の持続可能性を図るということ。二つ目は、経済的自立につなげるということ。三つ目は、地域の誇りにつなげるということです。幾つかの例が出てきました。
 豊岡に、太陽電池をつくる会社があります。「私たちの夢にふさわしい場所、それがコウノトリのいる豊岡です。」と、この会社は言っています。ほとんどがドイツで圧倒的に売られています。これは、ドイツの農地に設置された、豊岡産の太陽電池の写真です。世界中の人々が、地球温暖化対策に貢献しようとして、太陽電池を買えば買うほど、この企業は儲かります。税収も増えます。環境と経済は矛盾をしない。
 プチマルシェ。豊岡の水産加工業者が、イワシを3枚におろしますと、頭と骨と内蔵がごみとして残ります。お金を払って処理をしていました。それをプラスチック加工会社が持って帰りまして焼き上げますと、イワシ100%、完全日本型食生活のドッグフードができました。ごみがお金に変わりました。
 もちろん、農業も決定的に重要です。コウノトリに最後のとどめを刺したのは、農薬でした。しかし、ただ農薬がけしからんというだけでは、何の事態の解決にもなりません。私たちは二つのことを考え実行しました。一つは、農薬に頼らない農法の提示、もう一つは、生産と消費を適正に結びつける仕組みの構築です。農法に関しては、「コウノトリを育む農法」が豊岡でできました。全国の要素・技術を取り入れて、組み合わせてアレンジしたものです。例えば、農薬を使いませんと、稲にウンカという害虫がつきます。しかし、クモが発生して、それを食べます。クモをカエルが食べます。カエルをヘビが食べます。コウノトリがヘビやカエルを食べる。こういった自然の法則を農薬に代えようという農法です。よくご覧ください。農業者にとって、大変説得力のある映像でありました。
 このコウノトリを育む農法による水稲の作付面積の推移です。平成18年度、平成19年度、今、猛烈な勢いで伸びています。もう一つ、生産と消費を適正に結びつける仕組みとして、認証制度を設けました。県の「ひょうご安心ブランド」、それよりやや厳しい豊岡市の「コウノトリの舞」です。安全な作り方をしているということを確認した場合に、こういうシールを貼ってもいいよという制度です。通常のものの2割から10割高く売られています。
 その作付面積の推移です。16年度、17年度、18年度。環境創造型農業は、もはや変わり者がする農業ではなくなっています。
 コウノトリのお酒もできました。これは4合瓶5,000円の大吟醸です。モナコ王室にも届けましたところ、大好評を博しております。
 豊岡を空から見たところです。一昨年の放鳥拠点の周りで環境創造型農業が広がりました。昨年の放鳥拠点の周りでも、環境創造型農業が広がっています。今年放鳥が2カ所で予定されていますが、そこでも既に環境創造型農業は広がっています。さらに広がるものと思います。かつて、コウノトリは農業によって絶滅に追いやられました。今、その農業を、コウノトリが押し戻しています。農業を変えながら、農業を再生させながら。
 コウノトリツーリズムも盛んになってきました。JTBが団体旅行を売り出しました。コウノトリを見て、城崎温泉に泊まって、コウノトリのお米を食べて、メインディッシュは但馬牛。大好評を博しています。
 コウノトリの郷公園の来館者数の推移です。平成17年度24万人、18年度48万8,000人。手ぶらで帰してなるものかと、そう考えています。
 これは、冬水田んぼ、冬期湛水田にコハクチョウがやってきた写真です。これまでなかったことです。コウノトリの取り組みを通じて、田んぼに様々なものが帰ってきました。カエルやナマズやドジョウやフナも帰ってきました。コハクチョウもやってくるようになりました。コウノトリも帰ってきました。しかし、水田の風景に戻ってきたものの中で最も誇るべきものは、おそらくこれだろうと思います。子どもたちです。
 最後にこの写真をご覧ください。1960年、豊岡市内で撮られた写真です。農家の女性、95歳で、今もご健在です。7頭の但馬牛、12羽のコウノトリ。この距離で暮らしていました。12年前に、私たちは、この写真を使って大きなポスターを作りました。「35年前、みんなで暮らしていた」という言葉を添えました。同時に、「私たちは、人間の努力を信じます」という言葉も添えました。
 このポスターをつくったときに、あのおばあちゃんはあそこのおばあちゃんらしいでということになって、市の職員と新聞記者がインタビューに行きました。ところが、この女性は、35年も前の写真、しかも後ろ姿だ、自分かどうかわからない。だけれども、この左の牛はうちの牛だ、と。
 仲良く暮らしていた時代がありました。そして、この女性は、コウノトリのことはほとんど覚えておられなくて、ひたすら牛の話をされて、最後にこう言われたんだそうです。「あのころは、心が本当に豊かでした」と。私たちが、何を失ってきたのか、何を取り戻そうとしているのか、この写真がシンボリックに示しているように思います。そして、最初に見ていただいた、あの恐ろしい水害の写真と重ね合わせて考えるときに、この写真は同時に、私たちは自然とどのように共生できるのか。その深い問いを突きつけているように思います。豊岡は豊岡の答えを出してまいりたいと思います。
 どうもありがとうございました。

【熊谷委員長】 どうもありがとうございました。
 ただいまの豊岡市のご発表につきまして、ご質問あるいはご意見ございましたら、どうぞよろしくお願いをいたします。
 それでは、高橋委員、お願いいたします。

【高橋委員】 ありがとうございました。大変おもしろかったです。
 お米を作ったり、いろいろな産物を作って、消費者が下支えをしているというお話があったんですけど、果たして消費者と市民だけで今後ずっとやっていけるという思いがあるかどうかということと、それから、様々な鳥がそれによって、また守られているわけなんですけど、例えば後でお話しになる野鳥の会のような、本当に野鳥を守りたいという人たちがそういうお米や何かを積極的に買っていらっしゃるのかどうか。そういう仕組みがあるのかどうか、お聞かせいただきたい。

【中貝氏】 最初の消費者と市民だけでというのは、ちょっと意味がよくとれなかったんですが、実は豊岡の取り組みはJAが当初から関わっています。これは極めて特徴的なことだと思っています。通常、有機農業というのは変わり者がやる農業みたいなところがありまして、JAとはかなり険悪な仲にあるのが通常なんですが、豊岡の場合には最初からJAが加わってきました。それも結構渋々だったんですけれども、最近確実に、これは経済につながることが分かってまいりましたので、今は積極的に取り組んでいる。相当、そういう意味では組織的なバックがあるということが強みではないかというふうに考えています。
 それから、野鳥の会の人たちが買っているかどうかということですけれども、分かりません。ただ、柳生博さんはコウノトリファンクラブの会長でもございますので、至るところでPRをしていただいています。
 最近、例えばコウノトリをシンボルマークに使っている九州石油という会社は、6月の1カ月間、社員食堂でコウノトリのお米を使っていただきました。そういう形で応援をしようという方々も出てきています。それから、生協――コープこうべでありますとか、コープ自然派連合といった人たちが、コウノトリのお米を買っていただいておりまして、あるいは、いきもの調査にも自らやって来られていますので、そういった結びつきも、今、強まりつつあると。むしろ、量は絶対的に足りないという状況になっています。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。

【高橋委員】 いいですか。すみません。言い方が悪かったみたいなんですが、消費者も、あるいはそういう形でボランティアも入っていらっしゃるんですけど、例えば納税者からのしっかりした手だて、例えば何かそういう環境を守ることに対して、きちんと何か税金や何かから入れるという、ある程度は補填するという、そういう仕組みは必要ないですか。

【中貝氏】 実は、言葉では表さなかったんですが、お手元の資料に書いていますが、ビオトープ水田は10アールあたり5万4,000円のお礼をしています。半分は県から市への補助で、市から農業者に委託をしています。それから、冬期湛水・中干し延期田は4万円、半分は県から市への補助でやっております。
 ただ、最近分かってきたのは、ビオトープ水田はお米を使わないんですが、冬期湛水田の方は、これは儲かることが分かってきておりますので、実は私たちは補助制度から徐々に撤退することを考えています。それをやらなくても、おそらくペイをするだろうと。ただ、いきなりがいいのか、もう少し段階的な手順を踏むべきなのかということがございますので、そこは十分注意する必要はございますけれども、できることならマーケットの支持によって成り立つという方向に持っていきたいと、そういうふうに考えています。

【熊谷委員長】 高橋委員、よろしゅうございますか。
 それでは、山岸委員、よろしくお願いいたします。

【山岸委員】 あまりに豊岡の活動というのがすばらしくて、中貝さんのプレゼンテーションもあまりにすばらしいので、鳥なんか絶滅させてもこうやれば幾らでもできるんだよというふうにならないように私は心配するほどすばらしいんですが、ここまでするのに豊岡市が幾ら金をかけて、兵庫県が幾ら金をかけたとかというのは分かりますか。

【中貝氏】 分かりません。多分、人件費が相当かかっているだろうと思いますが、コウノトリの郷公園自体の建設費は、関連する道路、市の負担分を含めて約50億円です。そこのところに、研究者が4人、それから、さらに事務員がいますので、それから豊岡市にはコウノトリ共生課あるいはコウノトリ共生部という部までありますから、相当なお金がかかっているんじゃないかと思います。1羽1億円かかっていると揶揄する人もあります。本当かどうかわかりませんけれども、相当かかっていることは確かです。

【山岸委員】 一つの種をつぶしてしまった場合には、こんなにうまくいく場合でも100億円以上かかっていると僕は思っていますけど、お金がかかるんだということと、コウノトリが余りにうまくいったから、つぶれても、あとは飼って野に放せばいいんだというようにならないようにするということを、ぜひ中貝さんのうまいプレゼンの中にこれからは1カ所入れていただいて、世間に広めていただきたいものだと思います。これは希望でございます。

【中貝氏】 ありがとうございます。100億円というのは、50年の歴史の上での合計額だというふうに、ぜひ。
 それと、豊岡も、さっき申し上げましたけど、最初の24年間というのは、もう絶望の中にいました。飼育員を飼っているのかコウノトリを飼っているのかという批判すらありましたので、豊岡はその苦しみを本当によく知っています。農業者の説得にも大変なエネルギーが要りました。次から意識して入れたいと思います。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 森戸委員、お願いをいたします。

【森戸委員】 この小委員会は生物多様性という表現を使っていますけども、コウノトリの郷では全然使っていないところがなかなかいいなと思ったんですけど、実際にいろんな行政の中で生物多様性というような言葉やそういうものは使っているんでしょうか。あるいは、全然使っていないんですか。

【中貝氏】 豊岡市は使っておりません。これはもう、私たちのまちづくりの問題でありますし、私たちの生きざまというか、豊岡スタイルを築くための動きでありますので。スタートはあの鳥を守れという、種の保存からスタートしたんですが、それはやがて環境問題という認識に変わり、それは人間にとっての環境問題というふうに意味が反転をして、さらにこれで一丁儲けようかという経済のところまで広がり、そしてこれはどうも自分たちの誇りにつながるということまで意識が広まってきておりますので、あまり専門的な用語では考えないというふうにしております。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。
 それでは、磯部(雅)委員、お願いいたします。

【磯部(雅)委員】 平成16年の23号台風を経験されて、市民の方々からは、洪水について、市に対してご質問やら要望やら来ると思うのですが、どのようなものが来るかということと、また、市としてはどのようにお答えになるのかということの一端を教えていただけたらと思います。

【中貝氏】 一つはもちろん、河川改修をしっかりしてほしいという要望が強烈に来ています。これは今、国交省の方が確実に応えつつあります。
 それからもう一つは、結局行政は当てにならないということを市民は知りました。それは、絶望の意味ではなくて、自分たちがやらなければいけないという方向で、行政は当てにならないということを、市民は普通に語るようになりました。私も率直に、私たちは最大の努力をするけれども、大規模災害では、もうほとんど無力だと。だれも逃げることはできない。市民も地域社会も団体も行政も、直接に水害に向き合わなければいけないということを言っていまして、コミュニティーの中での対応策が随分増えてきています。
 それと、実はこの洪水とコウノトリが根っこが一緒であるという認識も急速に広がっています。よく、母なる円山川とか言いますけれども、では私たちは何なのか、私たちは円山川の子どもである。このお母さんは大変慈悲深いんですが、時々わけもなく理不尽な振る舞いをするわけですね。腹が立つけれども、やっぱりお母ちゃん、と。このお母ちゃんが大好きであるという、そういう認識が広まっているように、私は思います。

【磯部(雅)委員】 一つだけ。そのときに湿地化ということと、洪水の遊水池として使うというようなことは意識されているのでしょうか。

【中貝氏】 現に湿地を造るという動きが国交省でも始まっていますし、遊水池をつくるというのも事業の中に入っています。ただ、このあたりはやっぱりみんな非常に複雑なところでして、湿地というのは大半はまさに農地だったわけですけれども、先ほど1羽のコウノトリが降りてきている場所というのは嫁殺しの田んぼと言われていまして、腰までつかるような大変な労働で、嫁いでこられたお嫁さんが死んでしまうのではないかと比喩されたところでした。そこが、コウノトリは大好きなわけですね。農家の側から見ると、こんな田んぼは嫌だと。そこを土地改良している途中で、湿地として再生するという話をしたわけですから、市役所の前の松の木に首をつって、市長に抗議をしてやるという声もありました。これはでも、普通にあり得ることですので、そこから議論をしてどこまで折り合っていくのかという、その姿勢なのではないかというふうに思います。幸いに土地所有者は了解をして、4ヘクタール取得することができました。これはいつもある矛盾ですので、それは抱えていかなくてはいけないというふうに思っています。

【熊谷委員長】 いかがでしょうか。
 ほかにございますでしょうか。よろしゅうございますでしょうか。
(なし)

【熊谷委員長】 それでは、豊岡市の方から、中貝宗治市長様のご発表、ありがとうございました。どうもありがとうございました。
 引き続きまして、次には、千葉県の方から、堂本知事からご発表をお願いしたいと思います。

【堂本氏】 おはようございます。ちょっと風邪を引いていて変な声をしていますけれども、今日はお招きいただきましてありがとうございました。
 問題意識で申しますと、1990年ごろから生物多様性にかかわらせていただきましたけども、一番思っていたことは、やはり気候変動枠組条約が、IPCCのようなきちっとデータを集めたり、研究するような枠組みがありながら、生物多様性はそういうふうに国際的にならなかったこと。それから、今度、国内的には、環境基本法ができたときに、温暖化の方はそれ以後になりますが、きちっと都道府県に計画づくりが義務づけられながら、生物多様性の方はそういうふうに義務づけられていないということで、これもきちっとしたデータづくりが全くなされていないということでございます。
 1回目の多様性の国家戦略がつくられるときに、できるだけ市民の参加をお願いしたいということをいたしましたけれども、そのときはなかなか、当時の庁ですが、環境庁以外のところでは、それに対応していただきにくいような状況があったと思っております。そして、今、千葉県の知事になってから、本当に市民参加という形でのことを実践しようということでやっておりますけども、今、豊岡の市長さんの話を伺って、それなら、市ならもっと徹底してできるのかなと思いましたけれども。結局、日本の中の市町村が全部豊岡のような形で生物多様性に問題意識を――まあ、生物多様性ということは言わないと、今、市長はおっしゃいましたけれども、そのような問題意識を持つようになれば、日本の国としては随分よくなっていくだろうと思います。
 しかし、環境白書を拝見すると、やっと温暖化と生物多様性という項が出てきました。私の問題意識は、一番ここに強く持っているものですから、日本で今度COP10が行われるそのチャンスに、できれば、せっかくIUCNのようなところがあるので、そういうところがIPCCのような役を果たせばいいんじゃないかと思いますし、そして、国のレベルで言えば、もう少し、先ほど造園学会の方がおっしゃいましたけども、制度としてきちっと、国内的にはいい制度をつくっていただきたい。温暖化とバランスがとれるような、もう少し生物多様性の方に力点を置いたらいいのではないか。そういう意味では、ちょっと十三、四年おくれて、こちらが走っているような気もいたしますけれども、今度の新しい国家戦略にたくさんの期待をさせていただきながら、今日は伺わせていただきました。
 それでは、千葉県のことを簡単にお話ししようと思いますが、ポイントは、いかにしてトップダウンではなくてボトムアップで、今、県の戦略をつくろうとしているかというところでございます。それでは、お願いいたします。
 この一番最初の、政策づくりの「千葉方式」と書かせていただきましたが、ここが一番大事だと思っております。あと、ⅡとⅢがありますが、次、どうぞ。
 これは、徹底した情報公開と県民参加ということに徹しております。普通は行政が素案を示して、何かそれに対しての意見を聞くというようなことがあると思いますが、私どもはあえてそれをやりません。そして、何かを示すのではなくて、全く白紙の段階から市民の方たちに意見を伺うことにしております。それをまとめる役は、もちろん行政のプロがやらなければならないし、法律や制度との整合性を確認する必要がございます。しかし、これずっと、この6年間やってみてわかったことは、多くの方が参加すればするほど、自分たちがつくった計画、それを絵にかいた餅にしたくないと。だから、自分たちがみずから行動して政策を実践しようという、そういう意欲を持ってくださるんですね。そのモチベーションが大事だと思っています。それで、県民と行政との協働による実践。新しい公というような言葉も先ほど出ていましたけれども、すべてを行政がやるのではない、ましてや計画を行政がつくるのではなくて、県民がつくったというその意識が大事だと思っています。次、お願いします。
 これは、その図なんですけれども、生物多様性のタウンミーティングは、18年の10月から12月まで、県内各地域ですが20回開催されました。どんなことをやったかは、お手元に資料をお配りしてございますので、後ほどご覧いただければと思いますが、いろいろ今までも市民の方の、自然保護の運動だとか、廃棄物を捨てさせない運動だとか、いろいろありました。でも、それがそれぞれ、ばらばらではないんですが、それが行政と、あるいはそれを有機的に結ぶようなシステムにはなっておりませんでした。それをやりまして、それから、今度は県民会議ということで、そのテーマを1人5分ずつということでしたから大変だったんですが、全部をまとめて、その上で今、再度今度は、また今から9月まで、皆さんとにかくどんどん自分で言い出してくださいということで、県が主導するのではなくて、それぞれ1人のリーダーがこの指とまれ式にテーマを出す。そのテーマを出したところに人が集まって、これも30ぐらい、自発的に30ぐらいのグループができているんですが、そこでやると。一方で、こちらの委員でもいらっしゃる大澤先生が委員長になっていただいて、専門委員会も7回開催いたしました。あともう一つは、県庁内で言いますと、全庁の取り組みにしております庁内連絡会ということで、ひっくり返した言い方をいたしますと、生物多様性の視点からすべての県内の施策を考えるという視点を大事にしたい。そういうような作業の中から、原案をつくり、パブリックコメントをし、そして戦略の策定と実施ということでございます。次、お願いします。
 これは、今行われている、いろんな、自発的に、私どもの方からこれをやってくださいではなくて、それぞれの人たちが勝手にやっているいろんな県民会議なんですが、先週、私は出席していないんですけれども、例えば一番下の「土木技術者の生物多様性」と、こんなテーマのことが出てくるんですね。大変おもしろいと思いました。そういった分野からのお話とか、それから、芸術・文化と生物多様性、あるいは水循環、農業、谷津田、里海、それから漁業といったように、これは市民の人たちが、皆さんが勝手にグループをつくって、まあ100人の場合もあれば200人の場合もあれば、もっと少ない場合もあるかもしれませんが、今、もう土日は、県じゅうあちこちで、勝手にみんな、こういう会を開いているというのが現状でございます。次、お願いします。
 これをミレニアムのテーマに分けてみますと、大体皆さんが勝手に言い出していることを、大体このような形で分けることができるんじゃないかという図でございます。次、お願いします。
 これは、各会場で、みんないろんなところで、こちらは専門委員会、タウンミーティングといったような取り組みです。
 これは県民会議。私も少ししゃべらせていただいたりいたしました。みんないろんな形で議論を勝手にしてくださっています。
 ここまでで、あと、ちょっと千葉県の自然環境の状況だけ、少しお話ししたいと思います。
 千葉県は大変、ご覧のとおり、ちょうど親潮と黒潮が出会うところで、日本の中で言うと、非常に生物多様性の豊かなところに位置しているということが言えると思います。
 これがまさにその絵ですけれども。ですから、いろんな、北からのものですとサケの南限であったり、逆に、南からですと造礁サンゴの北限であったりというようなことで、植物にもそういうことが言えます。どうぞ、次。
 こういうふうに見ていきますと、千葉県は宅地率、それから耕地率、そして林野率の割合が大変低くて、日本の中ではちょうど真ん中、その三つがちょうど同じぐらいのパーセンテージであるということで、埼玉、千葉、茨城が同じような状況にあるということが言えます。次、どうぞ。
 そうやって見た場合に、千葉の自然の特徴というのは、何よりも、まずは里山的な、人がいろいろな意味で手をかけている自然だということが言えます。どうぞ。
 これは、今まさにアヤメのときですけれども、江戸時代から盛んになったハナショウブですが、大変に、いろんな、多様な種類が今もたくさん咲いている最中です。
 あとは、私も若いときに随分尾瀬沼に行ったりしましたけれども、千葉に来て驚いたのは、食虫植物が8種類もあるということで驚きました。私たちの知らないことがいっぱいあるということで、非常に生物多様性の豊かなこと、しかしそれが余り表に出て、ふだんは見えていないというのが現状でございました。
 もう一つ、海ですけど、三方を海に囲まれている千葉県は、このように、磯部(雅)先生も今日いらっしゃいますけれども、三番瀬のことも非常に大きな問題になりましたが、それ以外に海岸もありますし、それから岩礁の地帯、特に岩礁のところが、館山ですとかそれから九十九里の海岸のところにもありまして、非常に海の生物の宝庫ということがいえると思います。次、お願いします。
 東京湾もご覧のように、89%が千葉県です。
 これは東京湾の中での漁業ですが、いかに大きいか、有明に比べてもはるかに大きいのが東京湾の中に、いまだにそれだけの生態系があるということが言えると思います。
 千葉の自然と里山里海のつながりというのがこの絵でご覧いただけると思いますけれども、そういった、今までは業としての林業、あるいは原始林、白神山地のようなところとか知床とか、そういうところが自然保護の領域では盛んに問題にされましたけれども、千葉の知事になってみて、つくづく、そういった、原生林でもなければ業としての林業でもない、里山里海という、日本独特の地域の重要性というのを改めて思っているところでございます。どうぞ。
 これは、そして、いかにそこに人が古くから住んだかということですが、この一番大きい丸、千葉県ですけれども、貝塚は日本一ではなくて世界一の貝塚がある、と。そういう意味では、昔から人がここで営みを持ってきたということが言えます。
 これ、再度ご覧いただきますと、南の方はまだ自然が残っていますけれども、東京湾は臨海のところはもう京葉臨海工業地帯ということで、完全に埋め立てられてしまっておりますけれども、本当はここは、もう宝物のような自然の地域ではございました。あとこれからどれだけ保全を、三番瀬なりあるいはもう少し南の方に下がって守っていけるかというのが、これからの課題になっています。
 大変困っていることは、東京、神奈川からこのような形で、もう、非常にきれいな田んぼやそれから森の中に、不法にごみを捨てられてしまうと。それが自然を壊し、地下水を同時に汚染をしています。どうぞ。
 これは不法投棄、千葉県が25%ということです。
 あと外来種で荒らされているということもほかのところと全く同じで、いろんな破壊の構造が、同じ問題がたくさんございます。
 これはイノシシによる被害。これも、人間と野生生物のどのような共生がこれからテーマかという問題を抱えております。
 これは、埋め立てで、このような形で開発をされた東京湾です。どうぞ。
 それから、これは絶滅のいかに多いかということで、これは千葉県がここのところ、干潟、それから、一番、こちらの方は海中ですね、やはり、海の中での絶滅が、大変危惧されているところです。
 これも同じような形、湿地、それから田んぼ、沼というような、水田での動物たちが危機に瀕しています。
 これは三番瀬です。次、お願いします。
 それからもう一つ、これは、里山ということを申し上げましたけれども、里山を守るのを市民も守りたいということで、里山条例という仕組みをつくりました。これは、土地の所有者に県が仲人役をいたしまして、一般の市民が民有地に入っていって、里山を保全するというシステムです。今度は大きい臨海工業地帯の会社の方たちもそれに加わってくださるということなので、今はNGOだけになっていますけれども、NPOでやっていますが、今度は企業の方もそれに参画できるというシステムに改正をいたしまして、できるだけみんなで里山を守っていこうという県民運動を起こしています。
 これは温暖化との問題ですが、ナガサキアゲハ、これは長崎の蝶々だそうですけども、千葉県でももう発見するようになりました。温暖化の影響がいかに出てきているかということを、私たち認識をしているところです。
 これが、2081年、2100年になると、今の鹿児島県ぐらいの温度が、多分千葉県になってしまうだろうと、そのようなときを考えますと、今、温暖化と生物多様性という視点で、これからの自然、これからどういう形で戦略を展開するかということがとても大事になってきていると思っています。
 これが、これから2081年の様子だと思います。どうぞ、次お願いします。
 これが、千葉県の特徴的な生物ということで、次へ行きます。
 これも同じです。北方からの要素でございます。
 今までが、概略、千葉のことを申し上げましたけども、一番大事なのがこの先だと思っています。ここのところが何が大事かといいますと、今、間違いなく自然環境が、今までご覧いただいたようないろいろな形で損なわれてきているんですけれども、温暖化によって生態系そのものが大変に変化してきている。それに対して、それを十分に踏まえた上で、生物多様性の保全、再生、そして温暖化防止ということを、総合的、横断的に対策を練っていく必要があると考えております。
 千葉県の場合の自然の特徴を踏まえた保全ということでいいますと、先ほどから申し上げているように、要素としては里山里海。これを科学的な概念として里山里海という言い方はないかもしれませんが、原生林とか、そういうようなことと違って、もっと中間的な自然をもう少し注目する必要があるという意味で、里山と里海の豊かさ、そしてそれに、そのつながりをどう再生していくかというところに視点を置いております。
 生物多様性の資料、データベースを構築していく必要があると。それを今、県民の方も非常に、ハイアマチュアと言われるそうですけど、もう沼田眞先生がいらしたこともあって、千葉生物学会というのもございまして、大変熱心に皆様、データを集めていらっしゃいます。そうかと思いますと一方で、自然史博物館があるものですから、博物館を中心としてのいろいろなデータも、こういう形で、ほかの県に比べると中央博物館に蓄積されたものもある。しかし、そういうものと、それから市民の方たちがこつこつと集めておられるもの、そういったものと行政とが一体化していないというところに一番問題を感じております。
 そこで、県立の博物館とそれから一般の市民の方たちのデータ、それを全部どういう形で一体化していけるかということで、こちらの、今やっていますのはデータベースをどう構築するかということ、自然公園のあり方に関しての検討、それから、千葉県の野生鳥獣対策というようなことも本部を設置してやっておりますけれども、その場合に、トップダウンでやったのではまず難しい。なぜ、市民参加でやっているかというと、ほとんど市民の方たちが自発的に――まあ、600万県民全部とは言えませんけれども、そこに広がるような方向性で、みんなが問題意識を持ってやっていただく以外にない、と。どんなに私たちがレベルの高いことを考えても、それが一人一人の市民の問題意識にならない限りだめだということで、最初のきっかけのところも、県、市町村、県民、NPO、企業、研究機関、全部を一緒にした形でスタートして、またそこへ戻ってくる。そこの実際に実施主体も全部が一緒にやっていくのだということで、プロセスをみんな一緒につくり上げていくということで、真ん中のところの実施体制ですが、多様な主体との連携・協働のシステムづくり、それから生物多様性情報の統合管理と調査研究の拠点づくり(センター機能)でございます。それから、現場を担う人材の育成。そして、生物多様性に関する環境教育・学習の推進と、そして取り組みの手法・成果の評価・検証システムづくりということを一体化してやっていこうということでやっております。
 あとは、時間がなくなると思うので、次、お願いします。これで終わりかしら。この次は――そうですね、たまたまG20を千葉でやってくださるというので、それに向けて気候変動とクリーンエネルギーとそして生物多様性と、一緒にずっと、いろいろな催しをこのような形で、今、計画をしているところです。
 最後に、ありがとうございました。以上でございます。

【熊谷委員長】 どうもありがとうございました。
 それでは、ただいまの千葉県からのご発表について、ご質問なりご意見がございましたら、どうぞお願いをいたします。
 それでは、篠原委員、お願いいたします。

【篠原委員】 非常に多様な取り組みをやっておられて、特に県民の下からの動きを重視されているということで、非常に心強く思いましたけど、こういう生物多様性の問題とか地球温暖化の問題とか、そういう問題は、これからの地域づくりにとって非常に重要なわけです。
 しかし、私がいろんなところで経験しているそれから言いますと、行政のシステムもそうですし、公共事業のシステムもそうですが、いまだに高度成長時代のシステムになっていて、なるべく早く大量に安くつくるのがいいと。仕事のやり方もそうなっておりますよね。その辺のところが改善されないと、なかなか実際にはうまくいかない部分が多くて、いつもそれで、軋轢で悩んでいるんですね。いいものをつくろう、あるいは生物を尊重して何かつくろうと思っても、事業のシステムがそうなっていませんので、その辺については何か手をお打ちになっているのかどうかというのを、ちょっと伺いたかったんです。

【堂本氏】 はい。まず、庁内全部で連絡会を持ちながらやっているということを申し上げましたけど、県知事というのは、すごく過酷なところに追い込まれるんだなと経験したのは、印旛沼のところですね。サンカノゴイ、大変貴重な絶滅種が発見されたんですが、そこに成田-東京間の高速の列車を通すんですけれども、知事の立場というのは、環境アセスメントを審査する立場と、それからその工事を着工して完成させる責任と、両方を担っているものですから、成田新高速鉄道の方の側の方は、私がノーと言ったらどうしようか、あの人は環境知事だからノーと言ったら工事がとまってしまうということで、大変心配をされました。
 そこのところは、今、ヨシを植えて、できるだけ鳥たちには引っ越してもらうように努力をしているところですけども、果たしてどうなるかわかりませんが、そういう意味では、まだなかなかそういう徹底して、そこのところは印旛沼を通らないで東京まで鉄道を通すことが不可能なものですから、とてもつらい思いをして苦渋の決断ですが、一定線路は通すことにしたんですけども、まだそういう面はあると思います。
 でも、前から比べれば随分と変わってくるし、それから必ずそういう視点を入れて設計してほしいとか、それからその、道のつくり方一つにしても、障害を持った方にとって段差があることがまずいのと同じように、これは鹿児島で見ましたけども、やっぱりカニがどうしても上れない、横に。それでマングローブのところに行かれないとか、そういったようなことで、カニに都合のいいような道づくりというのも、当時さんざん言っていたんですが、そういうことは可能だろうと思うんですね。カニに都合のいい道をつくることは可能だけども、なかなか成田新高速を通すのに、サンカノゴイの巣のところは通ってしまうというようなところで、まだ矛盾はございます。

【熊谷委員長】 ほかにどうぞ。
 それでは、森戸委員、それから和里田委員、服部委員の順でお願いしたいと思います。まず、森戸委員からよろしくお願いいたします。

【森戸委員】 県を挙げてこういう県戦略をいうのをつくられているのはすばらしいことだと思って拝聴していましたけども、千葉県は例えば東京湾とか利根川とかいろんな形で、隣近所の都県とつながっているわけですけれども、千葉県で進められているこういう取り組みを隣近所の自治体レベルでは、どういう連携というか、反応があるのかを、お聞きしたいです。なければ、これからどうなるのかということですね。
 それから、ついでですけれども、今日の資料の中では仮称という言葉が大分出てきているんですが、正式に決まっていないから、ある時点で仮称をとるということなのか、それとももっと違うタイトルにされるためにとりあえず仮称と言っているのか、その辺も教えてください。

【堂本氏】 名前の方は、どこかでとるのがいいかと思っています。仮称をとってしまうことがいいかと思っています。
 それから、周りの県ですけれども、たまたま私は、偶然、生物多様性と出会った。もともと科学者じゃございませんし、余り知らなかったんですが、ある物のはずみで生物多様性に深入りしちゃったんですが、そういう知事というのは珍しいと思うんですね。ですから、周りを見て、そういう視点は少ないんじゃないかというふうに思います。
 しかし、市民の方たちはとっても熱心で、一つは、しわ寄せしているのはやっぱり、その博物館が自然史的な博物館を、また戦線に出したことであったということ。それで熱心なアマチュアの方たちの知識が集積しているということなんですね。ただ、そこと行政とはつながっていなかったというのが今までの形態だっただろうと思います。あと、千葉大とかほかの大学とも連携して、その研究をしている方たち、それから行政と、それから市民とが有機的につながることによって、いろんな方のデータがむだにならないようなシステムをつくっていくことがとても大事。
 そうすると、市民運動の方は割に周りとつながっていると思います、余り県境というのを意識していない、市民の方は。ですから、そういうことから広がっていくことがいいと思うんですが、私は、やっぱりサンドイッチになることが一番いいんだろうと思っています。COP10に向けて国のレベルで今回の国家戦略をおつくりになる。その動きで、生物多様性ということがもう少し一般に、温暖化と同じくらい有名に、名前が知られるようになったらいいと思いますし、それでサンドイッチに、市民の運動と両方からサンドイッチになっていくことが一番大事かなと思っております。
 ちょっと隣近所の県を見ても、なかなか、石原さんを見ても、あんまり熱心に東京都がやってくださるかどうかわからないし、だけど、国全体がそういうムードになっていくときに、豊岡のような市があったり、千葉のような県があるということが、幾らかお役に立てばうれしいと思います。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 それでは、和里田委員、お願いします。

【和里田委員】 参加から行動へという千葉県の取り組み、知事のご説明、圧倒されて伺いましたんですけれども、先ほど里山条例の仕組みの話の中で、近く民間の企業が積極的に参加してくる動きが出てくるというお話がありましたけれども、それは県として何か税制上の措置をとられた、とられようとされることなのか、それとも、そういうことなしに、相当民間の企業が活発な千葉県だからこそ民間がもう自発的に動こうとしているのか、その辺をお聞かせいただきたい。

【堂本氏】 はい。これは非常に、これもまた、さっきの成田新高速と同じで、千葉県の臨海工業地帯の緑化率というのが今まで20%でした。もう、ですから川崎の方から比べると、緑がとっても多いんですね。ところが、非常に国際競争が激しくなってきて、その緑化率を10%に下げてほしいと。国のレベルが10%です。私どもとしては下げたくないということで、いろいろ交渉を、私ども直接企業の方といろいろ話しましたけど、その結果として、それじゃ工場の中での緑化率を10%に下げようと。そのかわり、何%か下げたその分は、工場の外に緑化をやってほしいということの交渉が成立したわけですね。なものですから、工場の外で緑化をするということになったわけです。
 まだ具体的にそういうのは出てこないんですが、そのお話のプロセスの中で、社会貢献として緑化に協力をしていこうというお話が出てきました。それをシステム化して、今まではNPO中心に、今、70ぐらいのNPOが実際に活動しているんですけれども、経済的には、財政的にはみんなとても苦しいということで、企業の方はその財源を出す形でもいい、と。それから、実際に社員の方が土日に里山に入って、雑草を切ったり、いろいろするような形でもいいということでシステム化をいたしました。
 非常に大きな新エネルギーをこれからどうやってやっていこうかということも、ここの工業地帯、世界一大きいコンビナートですから、そこでやるのと平行して、新エネルギーの開発と、それからその緑化、それを民間の方と一緒にやるということで、これをもう、本当に1年ぐらい、話して話して話し抜いて、やっとそういうシステムができ上がってきたという形で。本当に労力を出したいという会社もあるんですけれども、財政的なことで寄附したいという方もいらっしゃいます。そうすると、民間の方もまた仕事がしやすいという、そういうシステムができたらいいなと。これからでございます。

【熊谷委員長】 それでは、服部委員、お願いいたします。

【服部委員】 一つ、知事さんのお考えをお聞かせいただきたいと思うんですが、何度かこのプロジェクトの推進で、トップダウンでなくてボトムアップというふうにおっしゃったと思うんですが、実はこのシステムをつくっていかれるのは、知事さんのトップダウンだったんじゃないかなというふうに私は思っているんです。
 そうじゃないと、行政が何の役割をしているのかという、堂本知事さんになられたからこういうことをやられて、隣近所の都県が、そういう協力的なあれは見えないとおっしゃったのは、知事さんがそういうあれがないからじゃないかなというふうに思うんですよね。
 そうすると、まさに国家戦略のわが、というかこの委員会で非常に参考になるのは、環境省はどういう対応をしたらいいのかというあたりは、千葉県の例がかなり参考になるんじゃないかなというふうに私、思っておりまして、行政とか専門的な知識でもってこうあるべきだというふうに言ったのを、実施に移す際にはボトムアップになるようなシステムをうまく採用していかないと、中身が成り立たないというか、成功しないんじゃないか。そのために費用と時間がかかるというふうなところを、さっきの豊岡市長さんの話とか、続いてお話しいただく滋賀県の知事さん、これは先ほど印旛沼の鉄道の問題もありましたけど、これに似たような話は知事さん、経験されていると思うんですが、そういう意味で、行政あるいは知事さんの役割みたいなものがこの中でどういうふうに、哲学的にどうやったかと、指導的にどうやったか、それから実際にどうやったかというあたりを、ちょっとお聞かせいただけたらなと思います。

【堂本氏】 おっしゃるとおりで、必ずしも、日本の行政は中央集権でもう100年以上やってきたわけですから、そういう体質は私は持っていないと思います。ですから、最初に知事になったときも、始めたのはNPOの政策づくりからだったんですね。でも、あんまり県庁の中に浸透しませんでした。障害者の問題とか福祉の問題とか、それから今では国土利用計画、そんなのまで、今や、もう、みんなタウンミーティングをやっているんです。
 最初は、もう何がタウンミーティングかわからなかったんですが、今はもう千葉県じゅうで、いろんな政策でそこらじゅうでやっていて、どこでだれがやっているかわからないぐらい、たくさんのタウンミーティングが開かれています。環境のタウンミーティングは比較的遅く始めた方です。ですけれども、もう、それがさんざんほかの政策でやってきたものですから、そういう形でやることが当たり前に、県庁ではなってきているんですね。
 私が一番よかったと思っていることは、自分の予想を反してよかったと思っていることは、情報公開と県民参加ということ、最初から言っておりましたけども、政策をつくったら、つくったまでで県がやらないんじゃないかと。みんな参加した人が言い出した。それで、自分たちがやるということで、実施する方にお回りになったんですね、県民の人たちが。これやる、あれやる、と。県は金だけ出してくれ、自分たちがやるというふうに言い出して、福祉の方でもそういう動きが出ました。
 それから、教育関係のところは、何と10万人の人が参加した。そうなると、もう県庁だけではなくて、その方たちが動くわけなんですね。ですから、やはり環境のことは、本当は600万県民一人一人が、温暖化に対しても生物多様性に対しても問題意識を持ってほしいということだと、一番この方式が大事なのは環境政策だろうと思っております。しかし、それに関わるまでに、環境政策に関わるまでに、ほかの政策で幾つも幾つもやってきて、やっと環境にたどり着いた。
 外国のことで言いますと、随分そういうことをやることが当たり前だったけど、日本ではない。ちょっとはばかられるので申し上げにくいんですが、国家戦略の場合も、そういうようなことができればすばらしい。しかし、国のレベルだと難しく、県のレベルだと幾らか易しくて、豊岡市なんて一番易しいんじゃないか。もっと小さな町なら、もっと易しいだろうと思います。
 ですから、最初に申し上げたように、本当は、日本の市町村が、それぞれにそういうモチベーションを市民の方に持ってもらうような政策づくりをやることが、私は環境については一番大事だろうと思っているんですけど、日本は残念ながら、やはり公害、そして裁判という形で、環境保全とそして経済的な開発が対峙してきた、対立してきたという歴史がございます。そこからどうやって脱却して、本当にみんなで自分たちの環境を守りながら持続的な発展ができるのかというところまで、どうやってやるのか。そのためには、今度の国家戦略でぜひお願いしたいのは、やはり国の方で、ある程度は制度をつくっていただくことだと思います、やはり、温暖化は制度がありますから、最初から、県庁に行ったときから、もう計画づくりがありました。しかし、生物多様性の方はなかなかそういかないということで、COP10に向けて、また今度の国家戦略づくりの中で何らかの形で制度化をしていただく、法制化していただくということが、私はとても大事だろうというふうに思います。
 それはトップダウンのようですけども、同時にボトムアップを誘導する一つのきっかけとして、それをやっていただくことがいいんじゃないかと。逆説的な物の言い方をしていますけども、それがないとなかなかボトムアップが実現しないのがこの生態系の問題なんじゃないかというふうに、今は考えているところです。

【熊谷委員長】 どうもありがとうございました。
 ほかにご意見もあろうかと思いますが、予定された時間を多少オーバーしておりますので。
 それでは、千葉県知事の堂本暁子様、本当にありがとうございました。

【堂本氏】 どうもありがとうございました。期待しております、たくさん。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 それでは、続きまして、滋賀県の方からご発表を、嘉田知事様からお願いしたいと思いますので、よろしくお願いをいたします。
 ご準備できましたら、大変恐縮ですが15分でご発表をお願いしたいと思いますので、よろしくお願いをいたします。

【嘉田氏】 皆さん、こんにちは。この生物多様性国家戦略の委員会、私自身もかつて委員をさせていただいておりまして、仲間として今日は、またその後、ちょうど7月、1年になりますが、1年間滋賀県知事をやらせていただいたその経験も踏まえて、今日、お話しさせていただきたいと思います。
 まず、皆さんの机の上に、『滋賀の環境』という冊子をお届けさせていただいていると思います。滋賀県の環境政策、今日、15分しかございませんので、そのはしりだけを、柱だけをお話しさせていただきますけれども、今日お話しさせていただくのは、どちらかというと、生態系の回復、ページで見ますと何ページでしょうか。8ページのところですね。「野生動生物との共生に向けた取組」、それから11ページ、「魚のゆりかご」、美しい自然の保全、それから41ページ、少し琵琶湖博物館の紹介をさせていただいております。それから44ページですね。ここには、「世代をつなぐ農村まるごと」、かなり個別の政策、本当にたくさん、滋賀県は並行して進んでいるんですけれども、こういうパンフレットがつくられている視点というのは、どちらかというと私は三人称の視点と言っておりますけれども、だれでも、どこでも、ある意味ノーを言えない、客観化されたと、あるいは科学的なというような表現で来ていると思うんですけれども、今日お話ししますのは、そのような、いわば政策の中の常道である仕組みに対して、本当に地域の人たち、実は今、堂本知事のお話のポイントにもありました、市民、住民の方に関心を持ってもらって、参加から行動へという、この参加から行動へというところに入っていくときの基本的考え方をどうしたらいいかということを、今日はお話しさせていただきます。どちらかというと、大変個人的な経験を踏まえてお話しさせていただきます。
 「今、滋賀県が求める自然共生型の地域社会とは」ということでございますけれども、私自身、30年間、滋賀県琵琶湖周辺、世界の湖沼も歩きましたけれども、世界の湖と琵琶湖周辺を両方、フィールドワーク、環境社会学者としてのフィールドワークをしながら、徹底的に地元の人のお話を聞くという、土着主義に私の足元を置きました。楽しかったからです。新しいことを知れる、それぞれのところに行ったら田んぼで、何でこういう田んぼなの、何でこういう山なの、ここに何がいるのという、暮らしと自然をともかく教えてもらうのが楽しくて、徹底的に聞き書きフィールドワークをさせていただきました。
 そこでは、必ず当事者としての意識が出てきます。人々が何にこだわっているのかというところの内面の世界が見えてきます。その内面の世界を見せていただくときに、実はこういうパンフレットでは書きにくいストーリー、あるいは書いてはいけないと私たちが躊躇する。私は知事になって、いつも一番みんなが、周囲の人間がはらはらしているのは、また知事は自分の言葉で言う、と。自分の言葉は言ってはいけない、三人称化された行政用語で語ってほしいというのが、一般の仕組みです。これはこれでもちろん大変大事な世界なんですが、それに対してやはり自分の言葉というのを持つ行政、あるいは自分の言葉を持っている地域の人々に関わってもらう行政、それがこれから大事ではないかということでございます。つまり、当事者としての意識、そしてそれは必ず属地的、属人的です。一般論というのは、本当に少ない。その中で、人々が好んで語ってくれたこと、もうこの時点で既に一般論化しているから、私は何百人、何千人に聞いたお話をここで縮約化しているので自分としてはじくじたる思いがあるんですけど、A村のこの人、B村のこの人と、全部をぶちまけたい思いですが、それを少し我慢して、人々が好んで語ってくれたことを大きく四つに分けました。
 一つは、多種多様な生き物が現場にたくさんいた。この川にはホタルが顔に当たるぐらいたくさんいて、ボテジャコ――ボテジャコというのはタナゴの仲間ですね。生き物がいっぱい足元にいた。生活の中で湖が生きていた。この川からはふろ水を汲んで洗濯をした、この川の水は昔は飲めたのに、と。実は琵琶湖も、今、飲めます。私は船で沖合いに出ると、特に子どもたちを連れて竹生島付近まで行きましたら、そのまま飲みます。飲めます。知事として言っていいのかと言われますが、病原性大腸菌などは出ません。これは、かなり安心してお勧めできます。三つ目は、子どもたちの遊び場。毎日、川に魚つかみに行った。「魚とり」とは言いません、「魚つかみ」。これは滋賀県の人たちの暮らし言葉です。「えかい(大きな)ナマズをつかんだことはわすれられん」、あのつかんだときの感触。そして、小さなコミュニティ、村落、あるいは自治会の範囲ですが、自主的な、例えば水害に対する対策があった。大雨のとき、堤防の見回りを自分たちでした、堤防直しも自分たちでした。川は自分たちのものだという、この当事者意識ですね。
 例えば一つの例ですけど、これは昭和30年代の琵琶湖岸、沖島という集落ですが、湖が汚れなかった。この湖の水を、そのまま飲み水にしておりました。なぜ汚れないのか。ごはんつぶが鍋から出ます。ジャコが食べます。ジャコをまた人々が食べるという形で、この小さな生態システム、循環がありました。そして、ここでは例えば汚れものをしてはいけないという社会的ルールもあります。生態の仕組みと社会的ルールとあわせて、水の中には水神さんがいるんや、川におしっこしたらおちんちんがはれる。こういうふうに子どもたちに言い聞かせる。その仕組みが、ですから、環境問題を考えるときには、三人称的な、だれでもどこでも計測をして再現できる、いわば科学的再現性、「科学的思考」とあわせて、私が、私たちがという、これを仮に「文化的思考」と言わせていただきますけど、その複眼が大事だろうということです。
 ですから、自然環境の質を論じるときに一般的に、ここは希少種がいる、固有種がいる。希少種も固有種も、いつも見ている人にはわかりません。それは現場の、まさに属地的な当事者の意識です。当事者の意識プラス三人称的な意識、その両方が必要だろうと。
 データであらわせない価値、先ほど言いました、この川は魚をつかんだんだ、そしてこの水は自分たちが遊んだんだ、お風呂の水も汲んだ、と。このような、私はこれを「近い水」と言っておりますけれど、近い水、近い木々への関心、それが水辺、里山という風景の価値を、精神の場面で支えてきているだろうと。そして、じゃあ心地よい風景って何なんだろう。いまだに私、これという言葉はございませんけれども、心地よさというのは文化的に変わるんだろうか。ヨーロッパの人たちにとっての森と、日本人にとっての森と、どう違うんだろう。アフリカの人たちにとっての森は。ということも含めて、やはり文化としての思考が大事だろう。これは、ある意味で、私、Iという一人称の視点、そして私たちという二人称の視点です。その中から、環境の多面性が出てまいります。
 これは、私が琵琶湖岸を、ずっとお話を聞かせていただいた中で、生物と文化の多様性はリンクしているという例でございます。左側の方が、湖、ヨシ帯、棚田、そして圃場整備前の水田とダム。この右に行くに従って、一種の環境が単純化していくという時間軸をあらわしております。そして、その時間軸の中で、何を求めたかというと、稲作の土地生産性です。そして、一方で労働生産性です。その稲作の土地生産性、労働生産性を求めるというところから、過去30年、40年の日本の開発あるいは近代化というのは進められたわけですけれども、その中で失われてきたのがこの文化の多様性だろうと。
 例えば湖岸でヨシがとれる。そのヨシはたいまつ祭のお祭りのヨシになる。そして、フナ、ニゴロブナというフナがとれる。それはふなずし。しかし、そのふなずしも、単に食文化ではなくて、ここではすし切り祭という、それこそ集落の伝統、いわば氏神様にお供えをする、千年、千五百年の伝統の中に、ニゴロブナを使うすし切り祭、ふなずしです。というようなところから、これはそして共有という地域社会の、いわば共同体的な所有の中にある。それが、じゃあ、小魚はどうだろう。メダカ、ドジョウ、タニシ、ホタル。子供たちの遊びです。魚つかみ、ホタルつかみ、生きもの遊び。そして、じゃあ、菜の花、レンゲ、あぜ豆、コイやフナ。これ、多品種少量の自家加工食品。いわば地産地消。そして、米はだんだんに市場化されて、米だけが実は田んぼに残った。魚もホタルもいっぱい田んぼと水路にいたんですけど、米だけがいわば単一価値の中で残ってきたというのが、現在の田んぼの仕組みです。
 そして、農業の構造改善がここを求めてきたわけですけれども、今、私たちはこの、右に行ったところを左に戻したいと思っております。それは私が知事として戻したいということ以上に、地域の皆が、そういう思いになりつつある。ここが今日のポイントでございます。
 左と右、同じ場所、同じアングルです。先ほどの、田んぼでニゴロブナをつかんで、そしてすし切り祭をしていたという守山市というところ。右を私たちは求めたんです。どういう田んぼかというと、田んぼの下に水路、管を引いて、バルブ一つひねったら水が入るという形で、この右側のところは圃場整備後です。左は圃場整備前。同じ場所、同じアングルです。私たちは、右のような農業の仕組みを一方で求めた。この次にこのままでいいんですかというところが、今日の問題提起でございます。
 「マザーレイク21」、これは琵琶湖総合開発の後、総合保全という形で整備計画をつくっておりますけれども、ここのキーワード、共感・共存・共有、人と地域と幅広い共感を持って、そしてともに生きていく。そのともに生きていく価値は、次の世代に共有したいという。特に琵琶湖とその周辺の自然を、丸ごと共有したい。それは、文化と暮らしとかかわった形でということです。このマザーレイク計画、2050年くらいには昭和30年代の水質ということを一つの目標にしております。それは、まさに先ほどの、そのまま飲めた、生き物もたくさんいたという、そのイメージをあらわしているわけでございます。
 そこの中の一つの仕組みが生態系ネットワーク構想ですけれども、ここでは重要保全エリア、そして生態系回廊、それから自然再生エリアという形で、ある意味で計画的にその生態系ネットワークを維持しようという一つのベースになりますけれども、じゃあ、そのベースの上、もう一つのベースが、琵琶湖岸ですと、ヨシ群落の保護・再生です。先ほど、湖岸の状態、お見せしました。ヨシがあって田んぼがあってというところが、まさに生き物と人の接点であって、生き物の豊富だけど、いろんな文化があったという場所でございます。そのヨシ群落を改めて、右の上にありますが、昭和28年には261ヘクタールあったのが、平成4年には126ヘクタールにまで減りました。主に琵琶湖総合開発、埋め立てあるいは干拓など、湖岸道路をつくったりということですが、今、少しずつ回復をさせております。
 そんな中で、じゃあ、人はどう関わるのかという、一つの紹介が魚のゆりかご。田んぼはもともと、先ほど申し上げました、魚もいっぱいいた、ホタルもいた、丸ごとの生き物と文化が田んぼに集約されていた。それを取り戻そうという動きでございます。平成の初年度あたりに、実は琵琶湖博物館で田んぼ総合研究というのを始めたときに、生態学の人が、まさか田んぼにそんなに生き物はいないだろうというのを調べてもらったら、いっぱいいる。
 そして、親魚。おなかに卵を持っているニゴロブナの親を放したら、それこそ水産センターで養殖するよりも、ずっと効率よくふえる。これは、昔、魚島といって、まさに産卵、田んぼに入ってきていた。そのことずばりなんですね。ですから、私は、きっと新魚を放したらふえるよと。田んぼは敵もいないし、水温は高いし、そしてプランクトンもあるから、稚魚にとっては格好の場所のはずだと。親は、稚魚がきちんと育つところに産みに来るはずだ。琵琶湖岸、琵琶湖に五十三種類ほどの生き物、魚がいますが、一種たりとも沖合いで産卵しません。ヨシ帯、田んぼ、水路、つまり子どもが産まれたときに安全に生きていける場所に産卵するわけです。それを、昔の人は知っていたし、おのずと田んぼがゆりかごであったことを改めて行政としてバックアップしようというのが、この魚のゆりかご水田プロジェクトです。
 最初1ヘクタール、2ヘクタールから始まって、今年は80ヘクタールほど増えております。これは何がいいのかということですが、まず「生きものによし」、今申し上げました。親にとって沖合いには産卵できない。やっぱり、田んぼはプランクトンが豊富で、そして外敵が少ない。「琵琶湖によし」、魚道で排水路をせきとめることによって、田んぼの濁水を抑えることができます。「地域によし」、実は田んぼに魚を放すようになって、多くの人が田んぼを訪れるようになって交流が生まれ、田んぼに人と生き物の賑わいが戻りました。「農家によし」、これは、魚のゆりかご水田米として、いわば安全というイメージのもとに農薬を減らしますので、ゼロというわけではありませんが安心の米のブランドをつくる。そして最後は「子どもによし」。実は農業が機械化されて、子供たちが田んぼに行かなくなりました。行くと危険なんです。ところが、この子供たちは田んぼに近づいてくるようになった。これが大変大きな成果でございます。
 そして、私たちは、ニゴロブナをふやす、何がいいか。安いふなずしを食べたい。実はニゴロブナは琵琶湖の在来魚でございますけれども、今、1匹1万円ほどします。私は食いしん坊ですので、ともかく生物多様性とか、そういう難しいことは言いません。皆さん、ふなずしをちゃんとまともな値段で食べたくないですかと。純正ふなずしは、かつて1,000円か2,000円だった。そのふなずしを取り戻しましょうというのが、私が呼びかける出発点です。食いしん坊なんですけど、背景にはこの生物の多様性に関心を持ってほしい。ところが、生物の多様性といっても、みんなわかりません。ふなずしから入る、それがある意味で、私自身が戦略というんでしょうか、呼びかけ、コミュニケーションツールとして使っているところです。
 それから、じゃあ、そういう魚、ふやすのはいいけど、どれだけいるかということも調べよう。これは、私たちは最初、ホタルダスという住民参加の環境調査を始めたんですけど、それの仕組みの中で、琵琶湖博物館で、みんなでお魚を調べようという「お魚ネットワーク」というのを、2000年以降やっております。WWFさんの補助も受けておりまして、後から紹介もあると思いますけれども、ここは、関わってもらう、子どもたちが楽しんでいるというのは、すごくそれでうれしいんですが、大きな発見は、外来魚ではない在来魚は、田んぼの隅なり小さな水路なりに、たくさん、まだ逃げ隠れて生きていたということを発見したんです。これは大変大きな成果でした。もう琵琶湖の沖合い、あるいは琵琶湖本体は、ブラックバスとブルーギル、外来魚で大変なんですけど、本当に水路の横に小さな、それこそアユモドキはもうほとんどいないんですけれども、ボテジャコがいたというようなことの発見がありました。
 さあ、それで、国家戦略への提言なんですけれども、時間がございませんが、私、「もったいない」という言葉を地域の皆さんから教えていただきました。これは、単に物を節約するだけではなくて、物事の本質があらわれていないことを心惜しいと思う気持ちです。英語になりません。セービングでもないし、ウェイストフルでもないし、バリュアブルが近い。そして、ありがたいと思う気持ちの中に、感謝の気持ちがあります。ああ、もったいないことやなと。これは、ある意味で、そうですね、これも英語になりませんね。だから、一言で英語にならない。これが日本の大変大事な文化だろうと思っております。
 そして、自然とのかかわり、人とのつながりを大切にしたあの時代にあった暮らしの知恵を、現在にうまく生かせないだろうか。そこで、ある人が、それは嘉田さん、懐かしい未来やろうと。昭和30年代に戻る、それは単にノスタルジアだと、ずっと批判をされてきておりました。琵琶湖博物館を企画、オープンしたときに、昭和30年代の暮らしぶりを表現したときに、ノスタルジア、過去や、と。でも、実はここの中に、未来への指針があるんじゃないのかというのが、一つの本日の提案でございます。
 懐かしい未来の創造――節約、物が循環する、まさに使い回し、もったいない。そして合理性、これは生態的仕組みや科学的なりたち、やっぱりこれは知らないといけません。知ることによって、より合理的な判断ができます。と、あわせて、自然の力や命をいただくという気持ち、ありがたい、もったいないと思う精神。この三つがセットになって、日本文化の中にはずっと生き続けていたわけです。そこをこれからの政策にもぜひとも生かしていただきたいし、これは世界の様々なバイオダイバーシティーの会議などに行っても、私はいつもこのことを申し上げて、そしてどちらかというと、日本型、東洋型自然観というものがバックにある。余りこれ、東、西と二項対立で言えないところがあるんですが、そこのところをしっかりと、日本としたら国際的な戦略のところでも主張する必要があるだろうと。
 共感による主体性の回復、つまり当事者意識。身近な環境を自分のものにする。ひとりの玄人が魚の調査、ホタルの調査をするのもいいけど、100人の素人が、1,000人の素人が、そこで関わって共感を育んでほしい。あわせて、その背景には、生態的な知識とともに、いわば自然観というものが埋め込まれ、そのことが結果として次の世代との自然の価値の共有につながっていくのではないのかと思っております。
 ちょっと時間をオーバーしてしまいましたが、私の方の話題提供、ここまでにさせていただきます。どうもありがとうございました。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 それでは、ただいまの滋賀県からのご発表に、ご質問なりご意見がありましたら、どうぞお願いをいたします。
 それでは、速水委員、お願いいたします。

【速水委員】 ありがとうございます。大変すばらしい取り組みをされているので、感心して聞かせていただいていたんですけど、私、三重県で事業評価をしばらくやっていたときに、例えば農地の、ああいう多様な自然に配慮した工事なんかを要求したときのベネフィットとコストみたいな話というのは、常について回るわけですよね。本来、私は、この生物多様性だとかそういうものを、余りそういう視点で見たくないというのが本来の気持ちでございますし、そんなことをやっていたってと思うんですけれど。しかし、ある面、やっぱり行政としてはそれをせざるを得ないという、多分、知事という立場であると一番そこでぶつかってくるんだろうと思うんですけど、先ほどの堂本知事にもそのようなお話をいただいたと思うんですけど、そういう数値化をせざるを得ないときに、多様性の数値化みたいなものは、知事としてというよりは研究者として、今まで様々なところでぶつかったところはあると思うんですけど、公共事業とかそういうものの多様性をどう評価をしていくかというときは、どう考えられていらっしゃるかという。ちょっと教えていただければ。

【嘉田氏】 はい。どうも速水さん、お久しぶりでございます。林業の価値も、それからまさに今おっしゃっておられる様々な自然の価値を、どう経済化するか。これは、先ほどの精神の部分、哲学の部分からやったら、やるべきではないと。ずっと私も、研究者時代は主張しておりましたが、うちは連れ合いがそれの専門家なので、いつも家で議論をしてきたんですけど、行政の立場になるとやらざるを得ません。それが、先ほどの第三者的な科学的な思考というところに対して、一つの力になるからですね。
 まだ、具体的にはやっておりませんが、生態系サービスをどのように評価するかというところで、行く行くはある河川の価値とか、あるいは琵琶湖の価値そのものを、金銭化せざるを得ないと思っております。今、具体的にここまでデータが出ているというのは県としては持っておりませんが、研究者の方が、例えば琵琶湖の生態系価値は、水を供給する、そして風景などを含めて、生き物も含めて、ちょっと正確な数字を覚えていないんですが、数兆円というようなことを言っておられました。ですから、これ滋賀県の1年の一般会計5,000億円ほどですから、それの何十年分もの価値があるというようなことも、数字を出していただいたことがありますので、事業評価においてはそういう視点も必要だろうと思っております。
 逆に、その方法を、皆さんに教えていただきたいとも思います。

【速水委員】 よろしいですか。そうすると今は、それをされないままに、ああいう形でいろんな付加価値が高いような工事をやっていらっしゃるわけですね。そのときはどういうふうに、えいやあと進めていらっしゃるのか、ちょっと教えていただきたい。

【嘉田氏】 それはまさに、住民の人の共感です。ああ、田んぼに魚がいてくれたらええなあ、ふなずし食べたいという、まさに文化的共感ですね。その気になってもらう。その気になってもらったら、数字はわからんけどやろうやと言って、予算はつけられます。そこのところが、いわば、その気分をふやしていくことが大事だろうと思います。
 そのために、実は滋賀県は、琵琶湖研究所、琵琶湖博物館、また県立大学など、大変県としても独自のいろんな施設もつくり、そういうところでその共感の輪を広げるプラットホームというんでしょうか、を行政もつくっておりますので、比較的動きやすいかなとも思っております。

【熊谷委員長】 はい。ほかにございますでしょうか。
 篠原委員、お願いいたします。

【篠原委員】 「懐かしい未来」ということは私も非常に共感いたしましたが、まちあるいは滋賀県だと県土ということになるかと思いますけど、琵琶湖を中心とした環境をどういう状態に持っていこうかという目標設定というのは、非常に重要だと思います。
 ここに書いてあるように、もったいないという生活哲学が生きていた昭和30年代までというのは、多分恐らく高度成長前だと、こういう規定なんだと思いますけど、でもそういうことを考え出すと、昭和30年代なのか、いやいや戦前で一番よかったのは昭和10年ぐらいだと言われていますよね。10年なのか、いや、極端なことを言うと江戸時代の方がよかったんじゃないのというような話もあって、その辺の議論というのはされているんでしょうかね。それをちょっとお聞きしたかった。

【嘉田氏】 はい。滋賀県の場合には、急速な文明工業化が進むのが昭和30年代なんです。例えば、昭和30年に、人口のうち95%は自然の水を飲んでおります。水道は5%しかありません。もちろん、し尿は、大小便を分離して畑に入れております。ですから、具体の生活なり、仕組みを考えたときに、滋賀県の場合には、大体昭和30年代だと。昭和38年に名神高速道路が開発されて急速に工業化が進みますが、その影響が出てくるのが昭和40年代末から50年代です。東京あたりだったら江戸時代でしょうかね。多分、それぞれの地域の条件によって違うのだろうと思います。

【篠原委員】 これは大体、そうすると県民の合意はとれているんですか。

【嘉田氏】 はい。県民の合意は、まさに、あの時代が懐かしいな、よかったなと、さっきの共感を呼ぶのが30年代。それは、私自身が一種のマーケットリサーチをしたのは、琵琶湖博物館に昭和39年の農村の暮らしを展示いたしました。そして、いろんな人の意見を聞くときに、あの時代はよかったな、でももちろんハエもいるし、くさいし、ある意味で大変やったなと。でも、あそこや、という。それが例えば、今残っているところがその後随分と、湖西に、高島市に新旭町針江という集落があります。家の中で湧き水がぼんぼん湧いておりますが、あれも一時期、昭和30年代に水道が入って、もうつぶそうと言っていたのが今に生きているわけですが、あれなどはまさに30年代の暮らしぶりですね。そこに対して多くの皆さんが共感を持っているということをマーケットリサーチしてきたのが琵琶湖博物館だということで、私どもはそういう意味で、ある程度の社会的合意は得られているかなと思います。
 そして、このマザーレイクをつくったとき6省庁の皆さんが、やっぱりあの時代だというふうに、行政的にも合意をしていただきました。

【熊谷委員長】 ほかに。
 では、三浦委員、お願いいたします。

【三浦委員】 お話、大変ありがとうございました。先ほど堂本知事のときにもお聞きしたかったんですが、千葉県にしても滋賀県にしても大学があり、それから大きな研究所があり、博物館がありという格好で、専門家にかなり恵まれていると思うし、一方で情報の徹底した公開等で市民の意識も非常に高まっていると。こういう中で、行政として、その間をただ単につないでいくというよりも、行政の中にもある程度のスペシャリストというのを育てていくプログラムが必要だというふうに思うんですが、今の地方自治体、国もそうですけれども、全体のプログラムとしては、やっぱりジェネラリストをつくっていくという、そういう方向なんですけれども、特に、そうですね、多様性、それから里山里海、それから湖沼、あるいは野生動物といったような、そういう面では行政の中にかなり高いレベルのスペシャリストを制度的に配置していくような設計が必要だと思うんですが、その点、どのような工夫を今後されていきたいという、そういうものがありましたらお聞かせいただきたいんですが。

【嘉田氏】 まず滋賀県としては、琵琶湖博物館をつくるときに、博物館の中に県の行政の人、河川行政、農林水産、それから森林、学校の先生に学芸員として入ってもらっています。つまり、県職員が博物館に2年、3年いることで、汚染とは言いませんけど、かなり影響を受けます。実は、この「田んぼのゆりかご」プロジェクトは、私がまだ学芸員でいた時代に、農林から来た人と一緒に。そして、私たちは、どちらかというと制度の緻密な仕組みはわかりませんけど、その行政の方は緻密な仕組みがわかるので制度に組み上げていくことができます。という形で、実は滋賀県の場合には、かなり初期の段階から、研究組織と行政をつなぐという仕組みをつくっておりますが、それでもまだまだ不足しております。
 一方で、ですから琵琶湖博物館のメンバーあるいは大学のメンバーを行政の方に入ってもらうという人事交流ですね。それから、次の段階は、やはり行政そのものの中に、例えば5年契約のスタッフ制であるとか、あるいは5年、10年の形で、もっと終身雇用のかちっとした行政だけではなくて、動きのきくスタッフに入ってもらうことが必要かなと、今、行政の内部に入って感じております。
 ですから、ちょうど今様々な行政改革の時代ですけれども、人事制度もそのような形で、首長が決心をしてその気になったら、そんなに難しいことではないと思います。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 いかがでしょうか。よろしゅうございますでしょうか。
(なし)

【熊谷委員長】 それでは、滋賀県からのご発表、嘉田由紀子知事、どうもありがとうございました。

【嘉田氏】 どうもありがとうございました。

【熊谷委員長】 それでは、午前中のヒアリングはここまでといたします。
 午後は、NGOのヒアリングから始めたいと思います。
 では、一たん事務局にお返しいたします。

【事務局】 それでは、これから30分間の休憩に入ります。メインテーブルにお座りの皆様には昼食の用意をしておりますので、そのままお席でお待ちください。
 なお、午後の部は、30分後の12時35分から開始したいと考えておりますので、よろしくお願いいたします。
(休憩)

【事務局】 それでは、12時35分となりましたので、午後の部を始めたいと思います。
 熊谷委員長、よろしくお願いいたします。

【熊谷委員長】 はい。それでは、午後のヒアリングに入る前に、新しく、自然環境・野生生物合同部会並びに本小委員会のメンバーとして入っていただきました、経団連自然保護協議会の大久保会長がお見えになりましたので、ご紹介をいたします。
 大久保様、よろしくお願いをいたします。

【大久保委員】 ただいまご紹介いただきました、大久保でございます。
 ちょうど5年前から、日本経団連の自然保護協議会の会長を仰せつかって、いろいろ経団連として一生懸命やっておりまして、最近、ようやく、各企業でも非常に活動が活発になってきているなと感じております。今回こういう形で委員にしていただきまして、お役に立てればと思っておりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 では、午後のヒアリングに入ります。
 まず、世界自然保護基金ジャパンの草刈様、よろしくお願いをいたします。

【草刈氏】 WWFジャパンの自然保護室の次長をしております、草刈です。よろしくお願いします。座って、説明をさせていただきます。
 お手元に資料が配られていると思いますが、A4の紙とパワーポイントの印刷物でございます。まず、そのA4の紙の方から順番に説明した後で、パワーポイントの方でポイントを絞って、お話ししたいと思います。
 A4の紙に、最初の方に空、山、川、沿岸・海洋、南西諸島、有害化学物質とキーワードが並べてありますけれども、イメージしやすいようにキーワードを並べましが、WWFジャパンはこういった分野を幅広く扱っております。この関連で、WWFジャパンの生物多様性保全の取り組みをご説明したいと思っております。
 委員の先生方のお手元には、WWFジャパンの年次報告、赤い表紙の冊子が配られているかと思いますが、WWFジャパンでは、毎年、活動を年次報告という形で報告させていただいております。
 まず、配付資料のWWFジャパンの生物多様性保全の取り組み、順次、説明させていただきます。
 まず、空ですけれども、これは気候変動、温暖化問題を扱っておりまして、温暖化を引き起こす二酸化炭素などの排出を抑えて、地球の平均気温の上昇を産業革命以前のレベルに比べて、2%未満に抑えることを目標として活動しております。地球温暖化が生物多様性に及ぼす影響は、WWFジャパンが取り組む多くの環境活動の中でも大きな関係を持っておりますが、当会の気候変動への取り組みは、対企業が主であります。項目を並べておりますが、温室効果ガスの排出量の取引とか、パワー・スイッチ! キャンペーンとか、グリーン電力の推進とか、または、クライメート・セイバーズのプログラムとか、または温DOWN化計画とか、最近ではG8に向けたロビー活動等もやっております。
 それから、2番目の山なんですけれども、森です。FSCの森林認証制度を進めておりまして、持続的な森林の利用ということで、対企業向けに「責任ある林産物の調達」を推進しております。FSCについては既に懇談会で取り上げられておりまして、生物多様性国家戦略の見直しに関する資料集の141ページに、生物多様性の保全に資する認証制度ということが掲載されております。参照していただければと思います。森林認証制度のほかに、インドネシアにおける違法伐採問題なども扱っております。
 次に、川ですが、湖沼ということで、琵琶湖エコリージョンということで活動しております。先ほど滋賀県知事の嘉田さんが触れられました、琵琶湖流域の淡水生態系保全活動「琵琶湖お魚ネットワーク」による調査活動事例、これは後ほどパワーポイントで説明させていただきます。このような、市民が主体となって活動する、定期的な、市民によるモニタリング体制というのは不可欠ではないかと考えております。
 それから、沿岸・海洋ですが、沿岸・海洋のプログラムでは、FSCの森林認証と同じように、海産物の認証ということで、MSC認証ということをやります。海洋管理協議会がございまして、持続可能な漁業の推進を行っているということです。MSCの海洋管理協議会についても、FSC同様、生物多様性国家戦略の見直しに関する資料集の142ページに水産物の認証制度ということで入っておりますので、参照していただければと思います。
 このほかに、沿岸・海洋については、先ほども午前中幾つか出ていましたが、モニタリングサイト1000への協力とか、東アジア・オーストラリア地域の「シギ・チドリ類重要生息地ネットワーク」事業の推進とか、有明海の環境保全等、様々な事業を展開しているところでございます。
 海洋生態系の保全、これは陸と同じぐらいに重要であります。海洋基本法が先日成立されたわけですが、海洋基本計画の中に、もっと積極的に、海洋生態系の保全のこと、文言を入れるべきではないかと思います。例えば、種の保存ですと、ジュゴンとかコククジラの早急な保護措置なども明記すべきではないかと思います。生息域の保全としては、海洋保護区の設定が重要だと考えております。それから、国際法の遵守ということで、ボン条約の批准を含む生物多様性の保全に関した国際法の遵守を国家戦略の中に具体的に保全戦略を示すことが重要ではないかと考えております。
 それから、南西諸島ですが、南西諸島保全プログラムということで、括弧してエコリージョンと書いてあります。先ほども、エコリージョンというお話をしましたが、後ほどパワーポイントでエコリージョンのことは説明させていただきます。
 南西諸島は1980年より重点地域として取り組んでおります。1980年というのはIUCNとWWFとUNEPが地球環境保全戦略をつくって、その中で南西諸島が島嶼生態系として重要だということで挙げられております。特別な事業として長い間、取り組んでおります。
 最近ですと、泡瀬干潟の保全や、やんばるの森林の保全、ジュゴンの生息地の保全とか外来種問題等を扱っております。この南西諸島の中では、生物多様性評価ということで、WWFとソフトバンクとの共同事業で、「南西諸島の生きものマップ」プロジェクトを進めております。これも追ってパワーポイントで説明させていただきます。
 それから、WWFジャパンは、サンゴ礁の保護研究センターが白保にあり、そこに常駐した職員が2人おります。様々な活動をしております。
 南西諸島の中でも、白保サンゴ礁は保全上非常に重要で、様々な保全活動を今まで行ってきております。白保のサンゴ礁のモニタリング調査とか、白保海域での赤土調査、新石垣空港問題とか、石西礁湖の自然再生事業への協力とか、また、「しらほサンゴ村」ということで、サンゴ村民として登録されている人に対して普及啓発活動を行っているところでございます。
 それから、有害化学物質問題も取り扱っておりまして、有害化学物質の規制制度を日本に導入する取り組みとして、PRTR、環境汚染物質の移動・排出の登録制度を進めております。それから、REACHといいまして化学品の登録・評価・認可制度、それから、欧米の事例の紹介等々の活動をしております。この化学物質については、現行の新生物多様性国家戦略では第三の危機として指摘されていますが、化学物質による生態系の影響に対する具体的な取り組みはほとんど示されなかったと思っております。ここら辺も、今回の見直しでは検討していく必要があると思います。
 国際的な化学物質管理のための戦略的なアプローチということをSAICMと言いますが、この世界行動計画の項目も、参考にしながら、具体的な取り組みを検討すべきではないかと思います。例えば、保護区については、除草剤とか化学物質の問題は、保護区を網羅する環境影響評価において考慮すべき事業を確認すべきではないかと感じております。それから、黄海エコリージョンなんですが、保全プログラムということで、日本、中国、韓国の3国が、自治体や研究者、NGO、教育関係者が協力してこれに取り組んでおります。黄海エコリージョンの優先保全地域マップを作成しました。これについても、別途、パワーポイントでご説明させていただきたいと思います。
 それから、最後になりますが、野生生物ですが(含む:トラフィック イーストアジア)TRAFFICジャパンはワシントン条約の野生動植物の取引を監視するセクションで、ここでも様々な活動をしております。この野生生物の活動の中では、クマの保全プロジェクトを進めております。また、絶滅のおそれの高い四国の剣山系のツキノワグマの保全活動も行っております。この他に、外来種対策ということで、南西諸島におけるマングース対策とか、午前中もちょっと触れられたみたいですが、カエルのツボカビ症問題、それから、外来種対策では普及啓発活動も行っております。この普及啓発活動については、別途、パワーポイントでご説明させていただきたいと思います。
 配付資料の中に入っておりませんが、外来種問題としてカルタヘナ法の国内法の問題をやっぱり挙げておきたいと思います。遺伝子組換え生物が生物多様性に与える影響についても、現在の制度の問題点が幾つかございます。一つ目は、現在のカルタヘナ議定書の国内法では、遺伝子組換え作物が、農業のあり方を変えることによって起きる問題、これが評価されていないということ。また、遺伝子組換え作物が大規模に栽培されることによる影響も評価されていない。遺伝子組換えの作物、種子がこぼれ落ちたり、鳥が運んだりして、日本全国に遺伝子組換え生物が自生しているということで、遺伝子組換えナタネの場合、カナダでは冬を越せなかったけども暖かい日本では冬を越せる多年草化しているということで、このような問題も想定外のことが起きているので、対応していかなければいけない。
 この遺伝子組換えについては、関連する団体から聞いたのですが、毎回パブリックコメントが求められているのですが、なかなか、パブリックコメントが反映されたことがない。これは、いかがなものかなという意見を聞いております。この遺伝子組換えについては参議院の附帯決議がつけられており、予防原則に立って、この問題を対処することが重要ではないかなと思います。
 TRAFFICジャパン系では、野生生物の取引をモニタリングするNGOですけが、ワシントン条約の違反は横ばい状態で、減少しないということがあります。
 それから、最後の方になりますが、野生生物保護基本法の制定、生物多様性条約の国内法をめざすということと、種の保存法の改正のことをパワーポイントで説明させていただきます。
 では、残りの時間をパワーポイントで説明させていただきます。

【熊谷委員長】 恐れ入りますけど、恐縮ですけど、あと5分以内でお願いしたいと思います。

【草刈氏】 はい。
 WWFジャパンは、先ほど言った六つの重点課題ということで活動しておりまして、森林と淡水域、海洋、それからスピーシーズと気候変動、有害化学物質というような三つの重点分野を、WWFのネットワーク全体で活動しております。それから、先ほど言ったグローバル200ということで、世界で様々な重要生態域をマッピングしまして、これを重点的に保全して行く活動をしています。WWFジャパンが関わっている活動は、黄海のエコリージョンのプログラムと南西諸島と琵琶湖でございます。
 先ほど滋賀県の県知事がおっしゃっていましたが、WWFジャパンでは、琵琶湖のお魚ネットワークの一員ということで魚の見つけ方の活動をしております。この内容は県知事のスライドとほぼ同じですので、ご覧になってください。
 それから、先ほどの南西諸島についてですが、ソフトバンクの生きものプロジェクトということで、南西諸島(琉球列島)の自然環境を包括的にとらえて、生物多様性の現状を調査し、必要な保全対策を検討する。南西諸島、生物多様性調査と、沖縄島の生物多様性調査、石垣島の生物多様性調査という活動しております。南西諸島についての野生生物の特徴をにらみ、特に重要とされる生物を選定し、その生息分布と自然環境のデータを重ね合わせた生物多様性マップを作成する活動をしております。
 それから、時間が差し迫っていますので、黄海のエコリージョンのプログラムですけが、黄海の重要地域を選定するということで活動しております。具体的には、例えば、黄海の哺乳類で重要な地域がどこか、鳥類で重要な地域はどこか、魚類で重要な地域はどこか、軟体類で重要な地域はどこか、海浜植物で重要な地域はどこか、甲殻類で重要地域はどこか。このような各重要地域を選定しまして、これを重ね合わせた上で、どのような地域が重点的に保全活動していかなきゃいけないかということの作業を進めております。これは、日中韓、初めての共同で黄海エコリージョンの優先保全地域のマップがつくられたということでございます。
 それから、外来種の普及啓発の問題なんですが、国の地球環境推進費を使って、普及啓発の教材をつくっております。これは「ピンチくん」というトランプ型の教材ですが、南西諸島で問題になっている外来種が13種類と、それ以外の外来種が13種類、それから、特に南西諸島で重要な在来種が13種類とそれ以外の13種類というようなことで、このような形のトランプのカードになっております。それぞれ、1枚のカードに外来種の多様なインフォメーションを載せておりまして、これを使って、普及啓発の活動をするということです。
 それから、最後になりますが、生物多様性国家戦略初心に立ち返ってもう一回考えてみたいということで、新聞記事をつけております。
 これは1990年の河北新報の新聞記事ですけども、この中にある、ここで国際ルールが必要と、新条約で野生生物保護をということが書いてありますが、幾つかピックアップしますと、野生生物種の絶滅を防ぐために、国連環境計画では現在新しい保護条約を進めていると。地球レベルで思い切った国際ルールの確立を目指すものである、と。現在、地球上の生物種は500万、数千万と言われていて、外来種の侵入等で急速に今は生態系が破壊されていて、何とかせねばならないということがここで書かれている。国際的に、野生生物を守る条約で、国際取り決めがあるワシントン条約ですとかラムサール条約、ボン条約とかあるが、これは十分ではない、と。資金的な面で問題もあるということが書かれています。このため、UNEPでは、新条約を包括する新しい生物種の保護条約をつくる提唱をしていて、これを出すと。
 これが生物多様性条約になるわけですが、このときに、環境省と日本自然保護協会のまとめによりますと、国内で650種の動物と900種の植物が絶滅の危機にあるということで、鳥獣保護法とか自然公園法、自然環境保全法などには、まちまちであって、環境庁は総合的な保護のための新しい保護制度が必要だということが当時言われていたのです。このときにつくられたのが種の保存法ですけども、種の保存法は、残念ながら絶滅のおそれのある種のわずか2%ぐらいしか、指定されていないというようなことで、生物多様性条約の具体的な国内法がつくられていないんではないかということで、WWFジャパンを初めいろんなNGOがこの生物多様性条約の国内法を担保する野生生物保護基本法が必要ではないかと、ある程度の条文づくりをしていること。アンブレラとなる法律をつくった上で種の保存法の改正をしていくべきではないかということは、一つ触れておきたいと思います。
 以上であります。ありがとうございました。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 それでは、ただいまの世界自然保護基金ジャパンのご発表について、ご質問、ご意見がございましたら、どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは、桜井委員、お願いをいたします。

【桜井委員】 午前中の議論の中でもありましたけれども、生物多様性とそれからいわゆる産業基盤ですね、一次産業。特に、農業とか林業、漁業。これとの関連の中で、生物多様性をどのようにWWFは考えていらっしゃるか、そこをちょっとお聞きしたかったんです。

【草刈氏】 先ほど飛ばしてしまいましたけれども、森林認証制度ですとか海産物資源の認証制度のように、そのような産業での重要なものというものを、これからどんどん使って行かなければならない。森林とか海産物とか。この認証制度は、その保全をする核心地域はきちんと持った上で持続的に漁業資源を使うとか森林資源を使うということを試みておりまして、そういうことを積極的に使うことによって、森や海は守られるというようなことを進めております。ご質問のお答えは、そういう活動をしているということではないかな思いますが。よろしいでしょうか。

【熊谷委員長】 ほかにございますでしょうか。
 それでは、桜井委員、お願いをいたします。

【桜井委員】 今のに関連するんですけれども、いわゆるWWFとして、ジャパンでですね、日本の特殊な――特殊性と言ったら失礼かもしれませんけども、いろんな部分であると思うんですけれども、その中で、先ほどの認証制度にしても、これはむしろ欧米から出たものですね。日本型のものじゃないですね。そういったものをより日本の現実に合ったような形で形づくるということはお考えですか。

【草刈氏】 はい。森林認証制度ですけども、海外から認証機関が来て認証をやるわけですけれども、かねてよりいろんな指摘がありまして、国内版の日本の事情に合わせた認証取り組み、制度をつくるべきだという声が上がっております。そういう形で、国内版の認証、海外のガイドラインに則した認証制度をつくるということは手がけております。

【熊谷委員長】 いかがでしょうか。よろしゅうございますか。
 それでは、磯部(雅)委員、お願いをいたします。

【磯部(雅)委員】 WWFジャパンに新しい人が入ってくるということがあると思うんですけれども、そのときに、生物多様性というのはどういうふうに説明をされているのでしょうか。新しいメンバーが入ってくると思いますけど、そういうときに。

【草刈氏】 メンバーというと、職員ですか、会員さんですか。

【磯部(雅)委員】 いいえ、会員に。

【草刈氏】 会員の方には、WWFジャパンのホームページとか機関紙を通じてご説明しております。WWF自体が世界的に優先順位とか、生物多様性を保全するとか、持続的な資源を活用するという三つの課題がありますが、それに基づいて活動しているということで、WWFで言っている生物多様性というのは、遺伝子の多様性、種の多様性、生態系の多様性のほかに文化の多様性があるということです。WWFジャパンの生物多様性を解説するブックレットを随分前につくられているのですけども、その後再版してはいないのです。そういうブックレットを使って、生物多様性の理解に努めたりとか、または企業と一緒に、国家戦略のヒアリングで、株式会社アレフという外食産業の企業がありましたが、そこと一緒に、生物多様性の重要性を伝えるシンポジウムを開いたり、そういった取り組みをしております。

【熊谷委員長】 ほかに何かございますでしょうか。
 それでは、浜本委員、お願いをいたします。

【浜本委員】 すみません。様々な啓蒙活動をされていらっしゃる中で、この外来種の「ピンチくん」という、特に南西諸島に限ったものが、品物が多くて、これ、もっと活用されていいなと私なんかはかねがね思っているんですが、現時点で、これはどれぐらいの頻度でどれぐらいのところの人たち、特にこれ、子供たちが学校などで使ったりするのにはいいと思うんですが、これを指導する側の人たちがどれぐらいこれを活用しているのかというのがもしおわかりなら、教えていただきたいんですけれども。

【草刈氏】 ありがとうございます。地球環境推進費の予算で、国環研からの事業を受けて作成したのですけども、もともとのプロジェクトが南西諸島の外来種問題に対応して、最初は住民意識調査、アンケート調査を2年ほど奄美大島と沖縄でやって、そのアンケート調査の結果からやはり普及啓発が重要だというようなことで、3年目は普及啓発教材を作ろうということで、沖縄と奄美のそれぞれ高校1校ずつでモデル事業をさせていただきました。そのときに、外来種問題というのをまずレクチャーした上で、教材を使って、あと、アンケートを行なった結果、やはり外来種の認識は非常に高まるということで、南西諸島のアンケートに協力した小中学校には全校配付しております。そのようなところで先生方が使われていると。あとは、沖縄と奄美のNGOがこの「ピンチくん」を使った事業を進めておられるということで、これは南西諸島版でつくられているんですが、外来種の部分は本土版とかローカル版に置きかえればできるということで、なるべくスポンサーを探して、商品化したいと考えています。今探しているところではございますが、非常に、こういう外来種に関する関係性を理解できる教材がないということで、ニーズはかなり高いのではないかなと考えております。

【熊谷委員長】 はい。ありがとうございました。
 それでは、予定の時間が参りましたので、これで世界自然保護基金ジャパンからのヒアリングを終わりたいと思います。
 どうも、草刈秀紀様、ありがとうございました。
 続きまして、日本自然保護協会からのヒアリングを行いたいと思います。保護研究部主任の大野正人様からお願いをいたします。よろしくお願いをいたします。

【大野氏】 はい。財団法人日本自然保護協会の大野と申します。よろしくお願いします。
 お手元に、当協会の会報『自然保護』、7・8月号をお配りさせていただきました。これは、先ほど印刷会社の方から納品されたばかりの会報です。この日に合わせて、生物多様性国家戦略への提言という特集を組みました。かなり詳しく、個別のことで具体的な提言をした特集企画をつくりました。その中身については、また、追ってご覧いただければと思います。
 私の方からは、第三次生物多様性国家戦略へのNACS-J提言ということで、お話をさせていただきます。
 まず最初に、第二次生物多様性国家戦略というのは、他省庁を巻き込んで三つの危機を挙げるなど、課題設定までは評価できます。しかし、危機的な課題についてどのように解決していくのかといった戦略そのものについては、描き切れていませんでした。そこで、NACS-Jとして第三次国家戦略に望むことは、実効性を高めていくということです。それは、自然保護を望むNGOだけじゃなくて、国民全体も同様のことです。パワーポイントの図にありますように、自然保護に関する世論調査ですが、自然保護を不要としてとらえている人は、わずか2%しかありません。それ以外は何らかの意味で自然保護を国民の方たちは望んでいるということがわかると思います。第三次戦略というのは、国際的な約束事でもある2010年までに、生物多様性の損失速度を劇的に抑えるということで、2010年目標があるんですけれども、それを大前提に、生物多様性を保全する力を発揮するものにしなければならないと思います。
 そして、国家戦略の実効性を高めるということの要点には、以下のようなものがあります。1番目としては、大きな目標が明確であること。これは先ほどお話ししたような2010年目標でよいと思います。それを少しでも実現の努力をしていくためには、その主体である政府が本気で取り組むという姿勢が必要です。これが今回の戦略には求められています。3番目に、個別の目標の設定や優先度をはっきりさせていくこと。そのときに、有効に運用していくための方策、そのための道筋を明記した行動計画ということが今必須とされています。そして、そのように立てられた目標や行動計画に関して、政府だけの取り組みじゃなくて、様々な関係者を巻き込んで、また、その関係者の方たちが自主的に動いてもらえるような仕組みをつくるということが重要です。4番目が、その目標が達成されるのかどうかを検証して、行動を見直すための指標づくりということも大切です。この中の3番目と4番目、目標と指標については、見直しの懇談会の方でお話しさせていただきました。
 本日の提言ですが、本日は、これまでの見直し懇談会、小委員会において議論に上がっていない重要な論点を四つ提言したいと思います。
 一つ目は、生物多様性を損なう公共事業を見直すこと。これは事業官庁を対象とした提言になります。二つ目は、環境行政の基本ツールを再構築する。これは環境省そのものの機能を強化するという提言です。三つ目は資金メカニズムを構築すること。これはNGOや企業のかかわりを活性化させるという提言です。そして、最後に、四つ目の提言として、カウントダウン2010というものを紹介し、関係者を巻き込む仕組みということを提言したいと思います。
 提言1ですが、生物多様性の損失をまねく公共事業が続けられる限り、第一の危機の状況というのは決して好転しません。NACS-Jが取り組んでいる保護活動のうちでも、生物多様性を損なう公共事業の問題というのは数多くあります。そこで、今回は、北海道の天塩川流域で計画されているサンルダム計画について、少し紹介をしたいと思います。
 天塩川というのは、国内で4位の長さを持つ長流です。河口から160キロにわたり分断する人工構築物がありません。そういった連続性を持った河川生態系が維持されているために、毎年3,000匹の天然サクラマスが遡上し、産卵します。その支流にあるサンル川にダム計画があるんですが、そのサンル川にサクラマスの産卵場所が多くあります。また、サクラマスのえらに寄生するカワシンジュガイという貝があります。これは絶滅危惧Ⅱ類なんですけれども、それもサンル川に分布をしています。このような連続性と生物の関係性が確保されている、健全な河川を分断するダム計画について、地元の地元団体を中心に、計画そのものと流域委員会を中心とした合意形成のあり方について、問題視されています。NACS-Jでも、見直しの意見を出しております。
 ダムができると、このように、水面に覆われるだけではなくて、流れも同時になくなることになります。川本来の機能が失われて、生物多様性そのものが低下することは明白です。北海道開発局は、高低差20メートルもある魚道を設置して保全されていますけども、到底、現在のサクラマスの産卵状況が維持できるとは思えません。サンル川は、釣り人の人たちにとって、釣っても釣ってもヤマメが湧いてくるというような表現をされます。こういった豊かさというのは、人類にとってもかけがえのない存在です。
 こうした公共事業をしっかりと見直すことが、まず必要です。各省庁が公共事業、補助金事業というのを生物多様性の観点から、第三者も加えて点検・評価を行う仕組み、生物多様性へのインパクト評価システムをつくることを今回の戦略に盛り込み、公共事業の見直しを具体的に進めていくことが必要です。それが何よりも生物多様性の保全に貢献するものになるはずです。
 2番目の提言に移りたいと思います。
 環境省の所轄する法制度、ツールというのは、効果的に使えるようにすることによって、生物多様性の保全をより前進させることができると思います。いろんな制度がありますけれども、50周年を迎えた自然公園法について言えば、目的条項に生物多様性というのを加えて、特定植物群落といった守るべき自然というのが、現在、保護担保されていませんので、保護地域化するといったことが必要です。また、国立公園、国定公園については、自然環境保全地域や林野庁の保護林制度などとあわせて統合的管理ができるよう、整理・統合する必要があると思います。鳥獣保護法については、鳥獣の捕獲許可というツールでのみしかコントロールできておらず、あつれきを起こす鳥獣の生息環境の回復や人材育成について、十分にできている状況とは言えません。また、先ほどのような開発に関する問題についても、2009年に見直しの時期を迎えるアセス法があります。このアセス法は、風力発電が対象になっていないということに問題が多くあります。ことしの4月に戦略的環境アセスメントのガイドラインができましたけれども、これとあわせた制度化を含めて、強化をしていく必要があると思います。
 ちょっと余談になりますが、川辺川ダム計画、熊本にありますけれども、これは利水目的が今外れまして、完全に計画の見直し状態にあるという状態です。にもかかわらず、先日、環境大臣が個人的な見解としてSEAの戦略的アセスメントの対象にはならないというような発言をされています。ちょっとこれは理解しがたい発言だと思います。
 このほかにも、自然再生法、特定外来生物法、先日できたばかりのエコツーリズム推進法ができました。これらも、次の国家戦略のもと、どのように運用していくかということも大きな課題だと思います。
 種の保存法の問題点について簡単にお話をしますと、例えば、種の保存法というのは、2010年目標を少しでも達成されるためには、この制度をもっと強化しなければならないはずです。例えば、日本のRDB種のうち、希少種指定されているのは73種のたった2.7%でしかありません。生息地と保護区の指定は7種、保護増殖事業計画の樹立は38種しかありません。アメリカの絶滅危惧種法では、ほぼ回復計画の樹立というのが義務づけられております。1,264種ありまして、そのうち82%の回復計画が樹立されています。1973年以降16種の成果を上げています。日本もこのように、日本の場合は、数ページの文書でまとめられた保護増殖計画なんですが、それを数値目標、年次計画なども盛り込んで、生息地の保全と回復を基調とした保護回復計画に改めるべきだと思います。
 個別の改正だけでは、もう限界があるのだと思います。他省庁の持つツールも含めて、大胆な整理・統合も視野に入れた再構築というような、生物多様性の保全のための環境行政のツールの再構築が必要だと思います。その際に、環境行政の内部だけで検討せずに、例えば、日本学術会議にこういったツールの再構築を諮問してみるということはどうでしょうか。その意味で、先ほど草刈さんの方からも紹介のあった、生物多様性に関わる法律のアンブレラとなる基本法をつくる。これには野生生物保護基本法ですとか生物多様性保全法ということが市民提案され、日本弁護士会からも提案されていますけれども、そういったことも重要な視点です。
 3番目に資金メカニズムの構築の提案です。すばらしい理念の国家戦略ができても、理念実現に向けた活動に人とお金が動く仕組みがなければ、何も実現しません。重大な点ですけれども、安定し、継続した資金メカニズムをどうすべきかということを国家戦略で明確にしていかなければなりません。
 国の予算配分を見てみると、環境省の予算は1%あるかないかというところを推移しています。この現状に対して、環境税のように、国の環境予算をふやすということも大事ですけれども、生物多様性の保全の担い手であるNGOの活動をどう守り立てていくのかといったことを踏まえた制度を提案してみたいと思います。
 参考にしているのは、ハンガリーのパーセント法です。ハンガリーでは住民税の1%をNGOに寄附するということが納税時にできます。例えば、住民税10万円を納める人が、その1%をNACS-Jに寄附したいと申し出ることによって、税務署に、NACS-Jに1,000円が寄附されるという仕組みです。およそ、年間23億円がNGOの寄附に回っているそうです。これを参考に、日本の場合を提案したいと思います。
 日本では、法人税を対象とする制度ということを提案します。企業が法人税を納入する際に、その1%を寄附したい公益活動分野を指定します。国は、予算から、企業に指定された金額をNGO活動基金に拠出をします。平成17年の法人税は11兆5,000億円ですから、仮にすべての企業が申し出た場合、1,150億円になります。活動基金が金額・分野などの指定の比率に応じた活動助成を実施していきます。国レベルや地域レベルのプロジェクトをNGOが主体となってこの企画を申請し、その助成金を活用してプロジェクトを実施していくという仕組みです。その助成の審査の際に、国家戦略が推進する、市民総出でやるべき優先課題、戦略が推進するエコシステムアプローチにのっとったものなどが優先されていけば、各NGOにとっても戦略の意味というものが見えてくると思います。
 最後の提案になります。第三次国家戦略がこの秋に無事にでき上がったとして、その戦略にNGOや企業の参加、さらに情報の共有とネットワークをどうするかという議論まで、見直しの中では、まだされておりません。そういった活動する関係者を巻き込む仕組みの事例として、カウントダウン2010という活動を紹介したいと思います。
 カウントダウン2010は、2010年目標に貢献するあらゆる団体が参加できるものです。うちのNACS-JのようなNGOだけじゃなくて、自治体や博物館、政府、教育機関も入ることができます。それらの団体は、右下に書いてあるようなロゴを表示することによって連帯感を持ち、様々な会合を通じて情報や経験を共有する場になっております。現在、約220の団体が入っているそうです。
 入るためのステップとしては、2010年目標に向けた、自分たちの団体が何をできるかということを話し合い、検討します。その次に、「支持」、「普及」、「活動」を行うことに加え、その団体の独自の活動を宣言することで入会することができます。そして、取り組みを進めるとともに、活動の事例や経験を共有するためのメンバーシップ会合というものが開かれます。つまり、自然保護の活動をする人々のネットワークを提供するとともに、一堂に会する場をつくるという機能がこの2010年カウントダウン2010にはあります。
 ちょっとこれは海外の事例ですけれども、環境省、市役所、博物館などがメンバーになっていまして、このような独自の活動を宣言し、2010年カウントダウン2010に参加されています。
 2010年を控えた中で、この小委員会で行われている国家戦略の見直しへの社会的な関心というのは、残念ながら低いのが現状です。もっと生物多様性保全に社会を巻き込むということに、政府一丸となって本腰に力を入れて、力を注ぐべきだと思います。2010年に向けた盛り上がりをつくる上でも、カウントダウン2010のような、生物多様性の国内、国外の様々な関係者による共通のプラットフォームをCOP10以降も常設することを日本主導でつくっていくことを提案してみてはどうでしょうか。そういったプラットフォームができた場合に、NGOとして参加して回していくことということは、NGOの役割だと考えています。そういった意味で、NACS-Jでは、このタイミングで、会員2万人の方に届ける会報の特集を国家戦略にした意味がわかっていただけるかと思います。
 最後、残りの時間で、生物多様性の貢献に関わるNACS-Jの活動を紹介したいと思います。
 NGOとしては、研究機関とは異なり、ある地域を、地域の会員の方、ナチュラリストの方たちを中心に、モニタリングをしていきます。そういったモニタリングを通した科学的知見、情報、経験が蓄積されていくということが一つあります。2番目として、その経験によって、持続性のある地域社会づくりを目指した先駆的モデルを試行し、それを各地に、全国に波及させるということがあります。また、生物多様性の重要性を広く普及啓発する人材とその機会をつくること。最後に、IUCN日本委員会の事務局をNACS-Jが務めておりますけれども、そういった場を通じて、NGOや関係者とのネットワーク、コミュニケーションを図っていくこと、この四つが国家戦略に貢献できる役回りだと思います。この中のAKAYAプロジェクトと自然しらべについて、簡単にご紹介したいと思います。
 AKAYAプロジェクトですが、新潟県との県境、群馬県みなかみ町に1万ヘクタールの国有林、赤谷の森があります。ここでは、地元住民で組織する地域協議会、林野庁、NACS-Jが協定を結んで、生物多様性の復元と統合的環境管理のモデルづくりを行っています。このモデルを全国に波及できないかということを常に意識して、様々なプログラムメニューを展開しています。このプロジェクトをやるにおいて、生物多様性の復元の際に重視しているのは、この画面の2番目にあります自然のプロセスを重視した復元であるということです。このエリアの森林整備計画を自然林に復元するということを目的に見直し、このような植林地では列状間伐を行っています。そこでは新たな植樹は行わず、自然に運ばれてくる種子や埋蔵種子等による芽生えに任せるといった、自然のプロセスを重視した森林管理を始めています。これがどういうふうに変わっていくかということをモニタリングしながら、その方法を探っているところです。
 また、プロジェクトエリアの中にある茂倉沢という沢には、設置50年を経過した治山ダムが17基あります。そこでヤマメやカワネズミが生息する渓流環境の連続性を修復して、河川生態系を復元することを目的に、既に破堤した治山ダムを撤去していくことを合意しました。知床などでも、サケが遡上するような魚道の設置や堰堤の高さを低くするなどといった取り組みがありますけれども、このような撤去の事例は全国発となりまして、各地の老朽化した治山ダムや新たにこれからつくられる治山ダムについても、このモデルが全国に波及効果を及ぼすことを願っています。
 自然しらべのお話ですが、教育普及的な貢献として、1995年から身近な自然とのふれあいの機会をつくるために、全国一斉自然しらべということを行っています。毎年テーマを決めて、会員に広く、また、広く一般の方も含めて呼びかけ、調査マニュアルを配付して、各地で身近な自然の健康診断をしてもらうというものです。大体、夏休みに行いますので、親子をターゲットとしたそういった自然のふれあいの機会ということを計画しています。参加者は、各メディアの協力も得ながら、大体2,000人から4,000人ぐらいの参加者があります。
 ことしのテーマは、セミを設定しています。できたばかりの調査票というのをお手元に配らせていただきましたけども、セミの抜け殻調査を行っております。環境庁が1995年に実施した身近な生きもの調査の結果と比較して、セミの分布状況がどう変わっているのかということを今回は調べようと思っています。特に注目しているのがクマゼミやアブラゼミの分布です。これらが北上しているのかどうかということを調べて、その要因の背景として温暖化があるのかどうかということを探ってみたいと思います。
 このような全国的な状況を押さえる、傾向を押さえるという調査のときに、市民参加型の調査の手法をとれば、データの量だけではなくて、生物多様性の重要性を体験的に理解してもらうという意味でも得られる効果は大きいはずです。現在、論点の中に市民参加型調査ということが盛り込まれておりますけれども、NACS-Jで培われた経験や情報ということが生かすことができるようになることを期待しています。
 以上、ちょっと時間がオーバーしてしまいましたけれども、NACS-Jからの提言を述べさせていただきました。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 それでは、ただいまの日本自然保護協会からのご発表にご質問、ご意見がおありでしたらお願いしたいと思います。
 それでは、三浦委員、お願いをいたします。

【三浦委員】 大変興味深いお話をありがとうございました。
 先ほど、スライドの12枚目なんですが、もう少し具体的に説明していただきたいと思うんですが、切り口自体がこういうものなのかなと私自身も思ったんですが、解決方法の提言の中で、「他の省庁が持つツールも含め大胆な整理統合も視野にいれ、」というのは、これは具体的には、もう少し具体の法律で、例えばこういうものといったようなことを念頭にすると、どんなことが考えられますか。

【大野氏】 例えば、保護地域制度で言えば、ちょっとお話もしましたけども、国立公園という制度の保護地域制度があります。一方で、環境省の中で、自然環境保全地域という、自然環境保全法に基づくものもあります。あと、林野庁の保護林、それぞれいろいろ役割は違うんですけども、それを完全に一緒にしなくても、もう少し整理をしてはっきりと位置づけをしていくことができるんじゃないかと……。

【三浦委員】 例えば、今おっしゃっていたように、そのように私も思うんですが、例えば保護林制度というのは、あれは法律でも……。

【大野氏】 ないです。

【三浦委員】 ないですよね。そういうものとどうリンクさせていくのかというのは非常に大きな問題だと思うんですが、こういう全体の枠組みを変えていくということが、どういうやり方をすれば可能なのかというのがもう一つ見えていないんですけれども。

【大野氏】 はっきりとは私もまだ見えてはいないんですけれども、一つ参考になるのは、IUCNの保護地域のカテゴリー分けだと思います。そこで日本政府から登録されているのが、やはり保護林に関しても、国立公園についても、それぞれカテゴリーがばらばらに登録されていることがあります。そういったカテゴリーをもとにして、法律制度もそういった森林保護区として重要であれば制度化すべきだというふうに思いますし、そういった見直しが必要だと思います。

【熊谷委員長】 ほかにございますでしょうか。よろしいでしょうか。
(なし)

【熊谷委員長】 それでは、予定の時間が参りましたので、どうも、日本自然保護協会の保護研究員大野様、ありがとうございました。

【大野氏】 ありがとうございました。

【熊谷委員長】 引き続きまして、日本野鳥の会からのご発表をお願いしたいと思います。ご発表は自然保護室長の古南様からお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
 大変恐縮ですが、発表時間は15分以内でお願いしたいと思いますので、よろしくお願いをいたします。

【古南氏】 日本野鳥の会、自然保護室の古南と申します。皆様のお手元に、A3判裏表で二つ折りにしたものと、私どもの自己紹介の『活動』と書いたパンフレットを配らせていただきました。活動の詳細については、今日はお話しする時間がありませんので、適宜ご参照いただきながらお話を聞いていただければと思います。
 私どもも全国的に会員を持っている自然保護団体で、今、会員が4万名ちょっとおりますが、そういう中で、野鳥とその生息環境を守るというような活動をしております。
 レジュメに従ってお話をしたいと思います。まず、前置きとして、鳥類から見た生物多様性保全に関する日本の位置ということで簡単にお話しいたします。日本は中緯度地域に位置しておりますので、特に渡り鳥の生息の割合が非常に多いということが特徴として言えると思います。ここに、夏鳥、旅鳥、冬鳥という表現をしてありますけれども、低緯度地方で冬を越して日本に繁殖に来る渡り鳥、それから、高緯度地方で繁殖して、逆に、冬、日本に渡ってくる渡り鳥、こういうものを夏鳥、冬鳥というような表現にしております。それから、高緯度地方で繁殖して、低緯度地方あるいは南半球に通過していく鳥を旅鳥というふうに言いますけれども、日本の鳥が大体555種あるいは600種弱ぐらいというふうに言われていますけれども、その中で約半数がこのような渡り鳥ということです。
 こういうふうに見ていきますと、日本の鳥というのは国土の中だけで暮らしている留鳥というカテゴリー以外に、非常に多くの渡り鳥が暮らしておりまして、周辺の諸国との関係が非常に大きいということです。したがって、日本の多様性保全ということで、特に鳥類の保全を考えるときに、渡り鳥を通してアジア全体の生物多様性に直結していくというところが重要な視点と思います。それからもう一つ、日本は海洋国ですので、周りの海域とか、それから、孤島、離島も含めて、たくさんの海鳥が生息しております。そういった意味でも、周辺の地域とのつながりが非常に深いということが言えるかと思います。
 次に、鳥類保護に関して四つの視点からお話をしたいと思います。
 まず最初に、鳥類の種への脅威について分析をしっかり行っていきたいということです。それから、生息地の保全に関して2番目に述べます。次に生息地の中で、特に水田環境、これは東アジアのモンスーン地帯に特有な耕作形態ですけれども、特に重要なハビタットと思われますので、そのお話をしたいと思います。最後に、生息地以外の脅威というのがございますので、それへの対応が足りないというお話をしたいと思います。
 まず、鳥類の種への脅威、現状ということで非常に簡単に申し上げますと、昨年12月に2006年度版のレッドリスト鳥類版が公表されました。その中で前の版との差異を見ますと、全体で絶滅危惧種は種数としては3種増加しただけですが、危機のランクが上がったものが非常に多くて、26種に及びます。準絶滅危惧種を入れると31種です。鳥類の保全の状況は、この間徐々に悪化してきているということが言えると思います。この危機ランクが上がったものの中身を見ますと、幾つかハビタット等の特徴がございます。まず、島に生息する鳥が14種含まれておりました。このうち、南西諸島では5種類の状況が悪くなっています。それから、草地、林縁の鳥というのが7種、主に里山環境、水田の周辺など、あるいはその周りの草地などに住んでいる種というのが7種、含まれております。こういう生息地のカテゴリーとは別に、日本の固有種あるいは固有亜種に関しても、11種のランクが悪くなっている。あるいは、夏鳥、東南アジアなどから渡ってくる渡り鳥が、8種というような内訳になっております。今回のレッドリスト、環境省からの発表は、こういった種数に関する内容だけが発表されておりますが、それぞれの種にどのような脅威があるのか、あるいは、どのような生息地の特徴があるのかといった減少要因の分析が必要ではないかと考えております。現在もレッドリストに基づいたレッドデータブックがあるわけですが、これには、減少の原因・要因というところが、ごく簡単にしか書かれておりません。これをアップデートして、環境省がこのような形で監視している種類に関して、より具体的な中身をつくるべきではないかなと思います。
 先ほど日本自然保護協会の方からもお話がありましたけれども、種の保存法が目指している、このような絶滅のおそれのある種類の絶滅を防ぐというような目的から考えますと、種の保存法で国内希少野生動物種に指定されている種類というのが、鳥類の場合にはほかの分類群に比べて比較的多いですけれども、それでも、全体のレッドリストに上がっている種類の中で、大体15%ぐらいしか指定されていません。それから、その15%の中で、保護増殖計画、つまり具体的ないろんなアクションを伴うアクションプランが策定されている種は、全体39種のうち14種ですので、そのうちのまだ半分に満たないという状況です。こういった状況は、法律的な、法律の中の政令の指定の中で早く改善していかないといけない部分であると思いますが、それと同時に、このレッドリストという、種の危険度を監視している段階の中で、ある程度の減少要因の分析を行った上で法律が指定したときにより詳細なアクションプランへつなげていけるようにするべきと思います。
 鳥類の場合には、環境省の自然環境保全基礎調査の中で鳥類繁殖分布調査というものをやっておりますが、これは私どもの会員が参加して実施したもので、今まで2回やっております。1978年と、1998年から2002年にかけて実施していますので、大体20年ぐらい間があいてしまっております。例えば、アカモズという里山の種類でいうと、全国的に、もともとそんなに多い鳥ではありませんでしたけれども、例えば北海道などを見ていただいても、もうかなりのところが減少してしまっています。東北地方もほとんどのところでいなくなっているということで、非常に減少が激しいために、レッドリストに取り上げられているわけですが、このような分布の減少が著しいような種類に関しても、例えば保護増殖計画というようなものが策定されていないということがあります。こういった分布の変化の調査というのは、継続的に行う必要がありますが、間が20年というはあき過ぎで、比較のためにはもうちょっと短いペースが望ましいと思われますので、10年とか、せめて5年とか、そういったペースでこうした分布調査を行い、それがレッドリストのリストアップと、それから、先ほど申し上げた減少への分析というところにつながっていくということが今後は望ましいのではないかと考えます。そうでない限り、種の危機を防ぐということができないのではないかと思われます。
 これは少し一般論的な話になりますけれども、鳥類の各種の脅威として、世界的な傾向として、生息環境を失うことによる脅威というのは非常に大きいということが言われております。これは2002年にバードライフ・インターナショナルという世界的な鳥類保護団体がつくったアジア版のレッドデータブックの中で、脅威の要因を調べたものです。かなり大ざっぱな分析が含まれていますけれども、その中で全体の80%以上が生息地の創出と悪化ということが脅威に挙げられているというところです。こういうところを見ても、鳥類の保全を考える場合に、やはり生息地を失うということがダメージが非常に大きいということが言えると思います。
 今挙げたアジア版のレッドデータブック種が生息している主な生息地というのを地図にプロットしたのが、これです。これは日本野鳥の会がいろんな調査結果をもとにしてプロットしたものですけれども、このプロットのうち、赤いところは保全措置が何らかの形で網がかかっているものですが、白いところは何もかかっていないというところで、こうした生息地の保全というところを見ると、まだ、法的な指定が必要な部分があるということがわかります。今申し上げたような形で、重要な生息地をプロットしていって、保全目標を明確にするというのを、インポータント・バード・エリア(IBA)プロジェクトというふうに呼んでおりまして、ヨーロッパを初めとして世界的に同じ指標を採用して、リストアップを進めているところです。日本では、私どもが今のような希少種も含めてリストアップをしているところです。
 選定基準は、世界共通で、科学的に認められたものを使っております。レッドデータブック種が生息している場所固有種の生息している場所、あるいはバイオームに特徴的な種が生息している場所、たくさんの渡り鳥などが集中して利用している場所という、四つの基準を採用しておりますが、総合的に、鳥類の種なり個体群なりが非常に主な部分を使っている生息地を重要ととらえております。
 IBAの基準のうち、先ほどのたくさんの鳥が利用する場所というのは、ラムサール条約湿地の基準と共通するところがあるんですけれども、IBAの特徴は、陸鳥の基準も含まれているところが違います。ラムサールは水鳥だけですので、総計で、全国で167カ所の重要生息地をピックアップしております。
 これらの重要生息地の、法的な指定状況を調べてみますと、ハビタットごとにいろいろ差はあるんですけれども、まだ、大体、50%ぐらいしか、規制のある場所がないということです。特に、水田ですとか草地ですとか浅海域、河川、あるいは、干潟、砂浜のような海岸といったところの指定率が低くなっています。
 私どもは、こういう場所それぞれに今どういう脅威があるかということを監視して、保護地点がないところに関しては、それぞれの市民運動で保護地点を求めていく、あるいは、定期的に調査・監視をしていく体制というのをつくっております。このように法律の指定と、実際の生物の生息状況というのはギャップがありますので、このギャップを認識しつつ、重要なところに法律の指定が来るようにという目標としていわゆるインベントリを作成していくことは非常に重要だと考えております。
 ラムサール条約湿地に関しては、環境省でも重要湿地500というインベントリをつくっておりますけれども、こうした手法が、特に陸生の動物にもあるいは植物にも適用されてくるべきではないかというふうに考えておりまして、いろいろな生物群のインベントリがあるべきではないかというふうなことを考えています。

【熊谷委員長】 恐れ入ります。発表時間、もうなくなりましたので。よろしくお願いいたします。

【古南氏】 はい、わかりました。あとはもう、ちょっと流していきますけれども、レジュメの方には少し詳しいことが書いてございます。
 生息地に関して申し上げたいことは、具体的な施策として、種の保存法が生息地と保護区という手法を持っていますが、これには限界があるということと、それから、土地の所有者への留意規定というのがございますけれども、こういったものに関してのガイドラインは猛禽類に関するものしか定まっていませんので、こういったところを強化していくべきであろうという点です。
 それから、関連しまして、先回の国家戦略にも、ボン条約への加盟ということがうたわれていますが、前回以降ほとんど進んでいないように感じられます。こういった生息地の間を移動する移動性の種類、渡りをするような渡り鳥の種類等を守る国際的な枠組みとしてのボン条約への加盟は非常に重要なことで、水鳥以外のものをカバーするというところで非常に重要と思われますけれども、こういったものに関しても、日本がアジアに率先して加盟をして、リーダーとなっていくべきと考えています。
 さて次に、多くの淡水性の鳥類が水田にすんでおります。水田は二次的環境ですけれども、日本の湿地環境としては非常に重要な要素を持っておりまして、それは鳥でも例外ではありません。レッドリスト種のうちの大体30種類弱ぐらいが水田を何らかの形で利用すると思われますが、これはレッドリストの種のうちの大体4分の1ぐらいの割合になっております。ところが、水田は、土地を買ったりするようなことが農家でない限りはできませんので、手法として囲い込みというよりはインセンティブで守っていくということが重要と思っております。
 例えば、これは冬みず田んぼと言って、水鳥のハビタットとして、冬に水を張るということで、白鳥とかガンとかツルとか、いろんな鳥を呼ぶということをやっているんですけれども、これには経済的な効果というのもあります。生産者にとっては、お米がより価値高く売れるというようなことで、インセンティブになり得るということで、今非常に盛り上がっている運動です。生き物ブランド米というような呼び方もされておりますけれども、こういった民民同士の動きが出てきていますので、こういったところにご注目をいただきたい。こういうことで、より水田を保全していくという方向性が出てくるのではないかと思います。
 最後に、生息地への脅威以外の脅威への対応です。事故とか疾病といった脅威への対応が、日本の法律では余り重視されておりません。風力発電施設への衝突であるとか、漁網による海鳥の混獲であるとか、あるいは油事故。病気としては、鳥インフルエンザとかウエストナイル熱といった、幾つかの疾病がございますけれども、こういった事故疾病への対応というのは、法律上は少なくともカバーするものがございません。しかも、いろいろな省庁にまたがるというところで、ぜひ、こういったところも、国家戦略の次の課題としてご注目いただきたいと思います。
 種の保存法の国内希少野生動物種について、少なくとも保護増殖計画をつくるときには、こういった事故や疾病に関してもきちっと扱うべきと考えています。風力発電については、先般、資源エネルギー庁と環境省が共同で環境影響評価に関しての前進をしようといった論点整理がなされてきたところです。ほかにもやむを得ぬ混獲などが非常に深刻になっているということが、海鳥などで確認されています。
 病気については絶滅危惧種のツル類の例で、鹿児島県の出水というところに、世界のナベヅルの個体数の80%以上、マナヅルの50%以上、が渡って来ます。こういうところに感染症が入り込みますと、非常に大きな個体数が一どきに危機に瀕して、あっという間に絶滅のおそれが高まってしまうということです。こういった病気への監視体制というのは、出水では鹿児島県がモニタリングをしておりますけれども、こういったところを非常にポイント的にだけやられていない現状があります。病気に関してもいろいろな省庁が関係しますが、野生動物の病気そのものを扱う、モニタリングする、監視する、原因を究明するという仕組みがございませんので、いろんなところで大量死が起きたりする場合に、その場その場の対応だけで、データがうまく継続していけないというようなことがございます。アメリカ合衆国では、National Wildlife Health Center(国立野生動物保護センター、内務省地質調査書に所属する一機関)といったようなシステムができておりますけれども、日本でもそうした野生動物の疾病、病気に関して、省庁横断的なシステムは必要ではないかと思います。
 挙げさせていただいた論点のまとめです。レッドリスト種の減少要因の分析、保護増殖計画への反映、種の分布の定期的な調査の継続、生息地目録の整備、それに基づく重要な生息地の法的指定の促進、また特に、種の保存法の、土地の所有者への留意規定に関するガイドラインの整備。ボン条約への加盟。水田環境への注目。それから、事故や疾病への対応について、述べさせていただきました。
 すみません。時間をオーバーしまして、申しわけありません。以上で終わります。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 それでは、ただいまの日本野鳥の会のご発表にご質問、ご意見がございましたら、よろしくお願いいたします。
 桜井委員、お願いをいたします。

【桜井委員】 鳥というのは空を飛ぶものですから、非常に大きな問題も一つあるんですけれども、最後のこの印刷物の中の最後のところの、いわゆる油汚染の問題と、それから、鳥インフルエンザ等の病原菌の持ち込みということなんかを考えますと、一つは、非常に多くの省庁とか関係機関を巻き込んでいるものなんですね。これに対して、野鳥の会としてはどういう提言あるいはどういう方策をとればいいという、そういう明確な提言をできるようなことを――私、問題点を挙げることはできますけれども、そのようにして、こういうような仕組みでやった方がいいというようなことを提言されているんでしょうか。

【古南氏】 はい。すみません、油汚染の部分は、時間がないのではしょってしまいましたけれども、まず、油汚染に関しては、おっしゃるように非常に多くの省庁が関係をしております。海の領域には、省庁のいわゆる縄張りの境界がいっぱいありますが、それにまたがって事故が起きます。これに関しては、国際条約としてOPRC条約というのがございまして、国家緊急時計画というものが策定されているんですが、その中で、野生生物に関する記述は、海鳥の救護というような部分は書かれているんですけれども、そこの責務が明確にされていないということですね。対応すべき省庁はレジュメの4ページに書きましたけども、非常に多岐にわたっているということです。
 一つ申し上げたいのは、野生生物の保護の責務に関して、国家緊急時計画に明記をした上で、この話題に関して、少なくとも関係省庁の連絡会議をきちっとつくる必要があるということ。それから、一番問題なのは、事故が起きても、環境省あるいは都道府県の野生生物の担当者に油事故の状況についてすぐに報告が入るというような状況にはなっていないということです。海上保安庁さんに報告義務がないというのが一番大きいと思います。そのあたりの少し制度的な整備を行うべきであろうと思います。
 これに関しては、事故が起きる前、ふだんから、どこに鳥が集まっていて、どこに油が流れていくと危ないか、といったことを表示したマップ――いわゆるセンシティビティーマップ――を整備するということが言われていますが、そのあたりの予算配置なども、各都道府県によって非常にばらばらです。北海道のように非常にしっかりやっているところもあるんですが、そのあたりをサポートする体制というのを、もう少し国としても考えるべきではないかと思います。
 疾病については、これもやはり、省庁横断的な仕組みを考える必要もあって、やはり理想は、このNational Wildlife Health Centerに当たるような、何でしょう、野生生物健康センターと言いますか、そういったものが例えば国立環境研究所なり、そういったところの中の1部門として設けられるといったようなところが理想ではないかと思います。そこに至る前として、省庁横断的に、少なくとも定期的な会合を持つ省庁間の連絡会議などをつくっていく。特に、野生生物の大量死がいろんな形で起きますけれども、これの原因解明は現在対応が非常にまちまちで、都道府県によっても対応能力に差がありますので、過去に、国立環境研究所で毒物の検査などをやってはじめて、原因解明に至ったような例が幾つか出てきていますので、やはり国立環境研究所の機能を少し拡大するといったようなことができれば、それが一番いいんじゃないかなと思います。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 ほかにご意見がおありかと思いますが、予定の時間を過ぎておりますので、もし、後ほどご質問等いただけましたら、事務局から文書で、野鳥の会の方にお尋ねをするかもしれませんので、そのときにはよろしくお願いいたします。
 どうも、古南室長、ありがとうございました。

【古南氏】 ありがとうございました。

【熊谷委員長】 それでは、続きまして、日本生態系協会からのヒアリングを行いたいと思います。
 日本生態系協会の事務局長の関健志様からお願いをしたいと思います。
 大変恐縮ですが、15分以内でご発表をお願いしたいと思いますので、よろしくお願いをいたします。

【関氏】 日本生態系協会の関といいます。よろしくお願いいたします。座って、失礼させていただきます。
 まず資料ですけれども、私の方もパワーポイントを使ってお話しさせていただきますけども、パワーポイントの資料のほかに、A3の資料が入っているのと、A4の資料と、3部入っているかと思います。国土の再構築というテーマでお話しさせていただければと思います。
 まず、1枚目の資料です。左上は人口予想をグラフ化したものです。世界の人口は今60億人を少し超えたところですけれども、中位推計で見ましても、90億人を2050年には超えるということが予想さていれます。一方、日本が右側の大きなグラフになりますけれども、日本の総人口、中位推計で現在から、2050年で、減っていって9,500万人、2100年には4,771万人という推移になっております。今の人口の約40%まで減少するというふうに予測されています。また、人口の関係ですけれども、将来人口の推計を年齢別に見たものになりますけれども、各年齢層が一律に減っていくというわけではなくて、15歳から64歳と、いわゆる生産年齢人口と言われているものですけれども、現在、全人口の66%になっておりますが、2050年には50%まで減少すると。以降、そういった状況が長期間続いていくと予想されています。また、65歳以上の人口割合が、高齢化率と言いますけれども、2050年代に40%まで上昇すると。やはり、以降、この状態が長期間続くと予想されています。
 もう一つだけ全体のものになりますけれども、これは何度もこの委員会等でも配付されているものかと思いますけれども、この20年間における哺乳類の分布ですが、ニホンジカなどの大型の哺乳類の分布拡大が進んでいると。過疎化や耕作放棄地等の影響で、ニホンジカの分布域が1.7倍、ニホンザルの分布域は1.5倍、イノシシの分布域は1.3倍というふうに拡大してきております。
 このように、3枚見ていただいてきましたが、国土を取り巻く環境というのが非常に大きく、これからの時代変わっていくということを予想した中で、私どもの協会としまして、第三次国家戦略において、七つの要点を提案させていただければと思っております。
 まず一つ目ですが、災害を減らし、さらに自然を取り戻すということです。お手元の資料としてはA3判の原稿を書いたものが一緒に入っておりますけれども、同じタイトルになっております。戦後、日本は人口増加がずっと進んできて、災害防止のために、例えばここで出させていただいたのは、渓流に砂防ダムを入れて、その下流域を守るという作業をインフラとして、してきました。一方、住宅などを建てる、危険な場所になるようなところに建てるということの建築規制が必ずしも十分にされてこなかったと。その結果、工事を行っても土砂災害の危険箇所の総数は減らず、増えていく一方だったと。ちょうどこの梅雨時期になりますと、新聞記事でも出ますけれども、国土交通省向けに、災害から25%ぐらいの地域は守られているけれども、まだ75%が危険地帯にある、と。そういった地域を、たくさん予算をつけて早く守りましょうというような論調で新聞には出ますけれども、私どもは、ちょっと古いんですけれども、第三次急傾斜地5カ年計画、これは平成5年から平成9年までのものを白書から拾ってみましたが、その間に国費で5,800億円、防災施設の整備で使っております。約4,000カ所の地域を守るために5,800億円使ってきているわけですけども、実際5年たってみて、じゃあ、4,000カ所減っているのか、危ないところが減ってきたのかということを見ますと、逆に4,801カ所増えていると。これは、守っても守っても、危険箇所は減るどころかというか、どんどん増えていってしまう。危険箇所を特定して調査する調査の精度が上がってきたということは言えますけれども、住宅などの建築規制を十分に土地利用計画の中で行ってこなかったということが非常に大きな原因になっているのかなと。そうした中、大切な自然環境が全国各地で破壊されてきてしまうという状況があると思っています。
 右下のグラフにありますのと同じ管轄で、今、砂防の話をしましたけれども、そういった整備したインフラを守っていくという予算に関して、今日の朝日新聞にも出ていましたけど、国としての借金が800兆円を超えて、ますます、財政的に非常に難しい状況になっているわけですけれども、このグラフで見ますと、これは白書をもとにつくったものですが、2022年には、今あるインフラを維持管理していくこともできなくなる状況になると。ですから、当然、撤去というのが出てこないと、とてもじゃないですけども、インフラ整備できない。計画的に撤去していくことを大きな方針として示す時期に今、来ているのかなと、そのように思っています。人間が自然の領域から計画的に撤去していくということを、まず一つ目に話をさせていただければと思います。
 二つ目は、シュリンキング・ポリシーという題をつけていますが、これも一種の撤去になります。撤退と言った方がいいのかもしれません。シュリンキング・ポリシーというのは、モータリゼーションが進んで郊外に広がり過ぎた都市を、再度コンパクトなまちにつくり変えて、郊外部では自然的空間を再生していくという取り組みです。日本も最近、コンパクトシティーの重要性が指摘されて、中心市街地の活性化が言われています。郊外部の自然再生という発想は、まだ余り強調されていないように思いますけども、日本でも中心市街地の活性化ということではコンパクトシティーということが出てきています。
 この写真は、ドイツのフランクフルト・オーダー市の写真になります。この下に日本生態系協会のシンポジウムのことが書かれていますが、これは昨年12月の国家戦略の見直しの懇談会で、懇談会の委員の先生方から、政府に対する提言もいいが、実現に向けてNGOはどんな提言活動を行っているのかといった指摘がありましたので、我々の会としてこのようなシンポジウムを行っていますというものをつけてみました。例えばシュリンキング・ポリシーについては、私たちの会として2003年から2006年にかけて4回、シンポジウムを行ってきたと。昨年、来日していただいたフランクフルト・オーダー市の市長さんが、講演の中で次のようにお話をしていました。短いものですからちょっと読み上げさせていただきます。「私たちの祖先は自然を破壊してきました。これからそれを取り戻すことが私たちの役目です。まちの周囲は森に戻します。まちの中では公園や庭をふやします。市民や観光客もそれを必要としています。また、それを望んでいます」。
 第3番目の提案は自然再生の推進です。一番目は土砂災害の関係、2番目に都市計画やまちづくりの関係で撤退、と。そして、撤退した跡地での自然再生ということについて、1、2と述べさせていただきましたけれども、残された貴重な自然を、保護、保全していくとともに、失われた自然を再生していくという方向性を現在の戦略に引き続いて、第三次の国家戦略においても重要なテーマとしてしっかり挙げていっていただく必要があるかと思っています。協会としても、それに向けてのシンポジウムを行ってきましたので、それもあわせて表につけさせていただいています。
 4番目は、エコロジカルネットワークの形成。現在の戦略では、「生態系ネットワーク」という文言で書かれておりますけれども、保護、保全していく場所、自然再生していくおおよその地域などを地図化して示した全体構想のことになります。ここで左側に書かせていただいたもの、載せさせていただいたものは、オランダの例ですけれども、オランダでは、こうした構想図を作成し、30年から40年かけてエコロジカルネットワークを実現していくという計画が立てられています。オランダも、特にヨーロッパにおける渡り鳥の重要な中継地点になっていることもあって、国境を越えたヨーロッパ全体のエコロジカルネットワークにも力が入れられています。
 これは、オランダと同じで、同様、非常にエコロジカルネットワークに早くから取り組まれているドイツのシュレースヴィヒ=ホルシュタイン州の計画制度になります。これは前回の国家戦略の見直しの際にも協会として紹介させていただいたものになりますけど、非常に私どもは重要な考え方だと思いましたので、大変恐縮ですけれども再度ご紹介させていただくことにしました。
 エコロジカルネットワークは、この表の右側の欄になりますけれども、様々なレベル、スケールで検討されています。また、そのための見取り図を作成していくだけでなくて、重要なことは、それが自然環境の法定計画や、さらには国土計画に反映させていくということになっています。この表で、一番右側がエコロジカルネットワークに関する部分です。縮尺25万分の1、2万5,000分の1、5,000分の1のエコロジカルネットワークの見取り図をつくると同時に、ランドスケープ計画の制度にそれを反映させ、それを総合計画制度の中に反映させて土地利用計画が行われていくと。こういった、ただ単に絵を描くだけではなくて、法制度の中にそれをどうやって入れ込んでいくのかということが非常に重要なテーマになるかと思いますけれども、オランダ同様、ドイツのシュレースヴィヒ=ホルシュタイン州では、それがかなり実現されているということが言えるかと思います。
 生物多様性を保全していく上で、重要な地域を様々なデータから特定して、それを1枚の図にまとめると。これでいう一番上の図になりますけれども、そういったことをやった上で、それを自然環境の法定計画に反映して、また、国土計画にも反映させていくわけです。特定された地域ですが、特定した段階ではまだ、特に自然保護地域になっているわけではありませんけれども、即地的な図にあらわしていくことによって、その時点でもう開発部局は事業を計画する際に配慮しなければいけないということになっています。環境部局はこの図面を参考にしながら、自然保護地域の拡大であるとか新たな指定または土地の取得を行っていくということになっております。
 翻って日本ですけれども、日本も、これは環境省が昨年の1月に公表した、「自然資本 百年の国づくり」(案)の一部ですけれども、まず、左の上の提案[2]に「緑、風、水、生き物を都市の骨格とする」ということが出ております。また、提案⑤には、人口減少社会も見据え、中心部に都市機能を集約し、郊外部は自然再生ということも書かれてきております。また、最後の提案⑥の部分になりますけども、「自然資本で栄える国家の実現」と題しまして、一番最後のところに数兆円規模の取り組みを息長く継続ということが書かれています。
 国土交通省からも同様のものが出されております。「国づくりの100年デザイン」というものになりますけども、これもそのまま、そこから抜粋させていただいたものですけれども、人口が減少して空間にゆとりが生まれるということもここでは書かれております。未来型危険情報図と、これは左の上側の、そのままこれ、載せたものですけれども、これは土砂災害などに関する精度の高いハザードマップ的なものになるかと思いますけれども、それらをもとに、建物の建てかえのときをとらえて、災害の危険性の高い地域を避けた土地利用に100年かけて転換していくことを提案として、国土交通省の中でも出されています。まさに、これからはハードな公共事業によって安全を確保していくという考え方から、立地環境をより重視した土地利用によって安全を確保するという考え方が重要になってくるということだと思います。さらに、では撤退した跡地について積極的に自然を再生していくということがセットで進められていくことを、今回も私たちとしては求めたいと思っております。
 「国づくり100年デザイン」の中では、このほかにもグリーンベルトに囲まれたコンパクトなまちづくり、または、一番下の「よろこびの森」創設における生命の動脈づくりとして、エコロジカルネットワークを推進していってはどうかと、そんな提案も国土交通省からも出てきています。
 5番目の提案は、学校ビオトープ、幼稚園・保育所の敷地を生かした園庭ビオトープの推進です。私たちの協会では環境教育というものを活動の大きな一つの柱にしています、中でも具体的に、学校ビオトープであるとか幼稚園・保育所の敷地を生かした園庭ビオトープを、各地の教育関係者や野生生物の専門家と協力しつつ、全国に広げる活動を行っています。その一環として、多くの方のご協力を得ながら、全国学校ビオトープコンクールを隔年で開催しておりまして、これまで4回行っています。これまでのコンクールの受賞校を、別紙、これも配付させていただきました。後ほどご覧になっていただければと思います。
 ここでお話ししたいのは、環境教育推進法が4年前に制定されて、法律に基づく基本方針が策定されておりますけども、「学校教育における環境教育」という部分に、早速といいますか、「地域在来の植物に配慮した緑化やビオトープづくり等を通じて学校の屋外教育環境を整備充実させることにより、………環境教育を進めていきます」という文章が入ってきております。第三次戦略の方にも、学校ビオトープまたは幼稚園や保育所の敷地を生かした園庭ビオトープの推進ということを具体的に文言として入れていただければと、そのように思っています。
 また、3年前には外来生物法が制定されておりますけれども、同じ時期に景観緑三法も制定しております。ここでは、それらの法案が国会の委員会で採択された順番に、つけられた附帯決議を順番に、日付順に並べたものになっております。一番上と一番下のものが景観緑三法案の国会の委員会で採択された際のものです。緑色の字で書かせていただいていますが、「景観の形成に当たり、………地域在来の植物等の活用による緑化の推進に努めること」とあります。2番目の外来生物法案の関係でも、「政府や自治体が行う緑化等の対策において、外来生物の使用は避けるよう努め、地域個体群の遺伝的攪乱にも十分配慮すること」という附帯決議がつけられております。これは、緑化が外来種問題の原因となっていることがあることとか、また、美しい景観とは、やはり各地の自然環境を大切にしていくということがベースであるという考えからの附帯決議がつけられたと聞いております。
 この審議会の答申におきましても、また第三次の国家戦略でも、緑化に当たっては地域在来の植物を基本とする、と。特に行政が行う緑化については、ここにもあるように外来生物の使用は避け、地域個体群の遺伝的攪乱にも十分配慮することを地域在来の植物の利用を基本とする、といったことを盛り込んでいただければ大変ありがたいと思う次第です。
 最後、7番目ですが、「最も重要なこと」と書かせていただきました。先ほどの日本自然保護協会さんの発表の中でも予算のことをお話になられていましたけども、国の予算ですが、左の上の図は環境保全経費というくくりがありますけども、ここで示したのは、国全体の予算に占める環境保全経費の割合をグラフにしたものです。国といいますか内閣といいますか、生物多様性を含む環境保全を重視しているかどうかはある程度予算に表れるものだと思いますけれども、このところ毎年その割合が減っています。ただ、平成19年度については予算案の段階ですけれども増えています。右下の図は、環境保全経費の中の予算を事項別に見たものです。自然環境の保全と自然とのふれあいの推進の予算は、環境保全経費の中でも減り続けているというのが現状です。この審議会の答申の中に、こうしたことを書くことができるのか、ぜひとも、いいことをたくさん書いても、予算がつかなければ実現不可能になってしまいますので、何とか予算をつけていただけるような、環境省の応援になるような答申になっていただければありがたいなと思います。
 また、自然保護協会さんの方でも詳しく述べられておりましたけれども、ハンガリーのパーセント法等のように、この生物多様性の保全について責任を担うNGOを支援するような制度、こういった新しい制度についても、もちろん触れていただければ大変ありがたいと思っております。
 予算の使い道のことになりますが、生物多様性保全の基本というのは、土地の確保だというふうに、私たちは考えております。国家予算の相当の割合を大胆に継続して、土地の確保に使っていくということが必要ではないのかなというふうに考えております。ここでご紹介させていただくのは、アメリカのフロリダ州の例です。これも前回、国家戦略の見直しの際にお示ししたものの一部になります。フロリダ州では州の生物多様性保全のためにいろいろなデータをもとに保護すべき地域を特定して1枚の図に示していますが、これらを参考に、毎年予算をつけて、土地の取得をずっと継続して続けています。
 最後のスライドになります。日本の社会が人口減少に入るということに関しては、今話題になっています年金問題とも関係して、マイナスのイメージで一般的にはとらえられていますけども、これまでの様々なひずみを修正して、生態系をベースに国土を再構築していくという意味では、私ども大変大きなチャンスとも言えるんではなかろうかというふうに考えております。現在、この国家戦略と並行して、国土形成計画の全国計画の策定作業が、これは国土交通省になりますけれども、中心に行われています。昨年の11月の審議会の中間の取りまとめで出ていますけれども、この国土形成計画の中間取りまとめを見ますと、私どもが今日発表させていただいたような方向性が随所に入ってきているという現状もあります。
 最後になりますが、撤退とか自然再生、全体構想としてのエコロジカルネットワーク、それを支える環境教育での学校ビオトープと園庭ビオトープ、それと、各行政機関での地域在来の植物による緑化、そして、最も重要なこととして予算の確保と、これらのことを第三次戦略に柱として位置づけ、それを実行に移していくことが重要ではないかと考えます。
 私どもの発表はこれで終わりにしたいと思います。ありがとうございました。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 それでは、ただいまの日本生態系協会のご発表に、ご質問、ご意見がございましたら、お願いをしたいと思います。
 いかがでしょうか。
(なし)

【熊谷委員長】 特に、今のところご発言がないようでございましたら、大変申しわけありませんけども、時間が押しておりますので、後ほどご意見、ご質問がございましたら、事務局を通じて委員の方からのご意見なりご質問を生態系協会さんの方にお尋ねすることもあろうかと思いますが、そのときにはぜひ、よろしくお願いをいたします。
 今日はどうもありがとうございました。関事務局長、ありがとうございました。
 それでは、続きまして、コンサベーション・インターナショナル・ジャパンからのヒアリングをお願いしたいと思いますので、日比様、よろしくお願いしたいと思います。

【日比氏】 ありがとうございます。コンサベーション・インターナショナル・ジャパンの日比と申します。よろしくお願いいたします。
 本日は、小委員会の方でのヒアリングでの発言の機会をいただきまして、ありがとうございます。私どもの発表でございますけれども、本日は「地球規模での生物多様性の保全に向けて」と題しまして、より国際的な視点からの生物多様性の保全、それに向けて日本の国家戦略としてどういう方向性があり得るのかということに対して、アイデアになればというふうに思って、用意いたしました。
 最初にちょっと、私どもの団体を余りご存じない委員の先生方もいらっしゃるかもしれませんので、簡単に紹介させていただきたいと思います。
 ここに挙げておりますのは私どもの活動理念でございまして、生物多様性というものを守っていこう、と。ただ守るというのではなくて、やはり、人間社会と自然が調和する、それを具体的な方策を探して実践していこうという団体でございます。
 これを三つのアプローチと我々呼んでいるんですけど、活動の指針といいましょうか、一つは科学的な知見をベースにやっていく。それから、二つ目、左下の丸になりますけれども、人間の福祉への貢献。やはり、先ほど地球規模での人口の増加のお話もございましたけれども、今後、人間が生きていく上で必要な資源ですとかエネルギーですとか土地ですとか、そういったものと、じゃあ、生物多様性の保全をどう折り合いをつけていくのかというのは非常に重要な問題になってくるわけでございますけれども、どちらだけというわけにも当然いかないと。この人間の福祉という部分も十分に取り込んだ保全活動というものを進めていこうということでやっております。
 それから、3番目、パートナーシップでございまして、これはもう、そのままなんですけれども、政府あるいは国際機関はもちろん、ほかのNGOですとか地元コミュニティー、特に先住民族なんかとの連携も重視しておりますし、あと、非常に私どもコンサベーション・インターナショナルで重要視しているのは、企業とのパートナーシップということでございます。こちらは幾つか、後ほど事例もご紹介したいと思っております。
 私ども、この地球規模での生物多様性というものに取り組んでいるわけでございます。その上で、この生物多様性ホットスポットという考え方を取り入れて、主にな活動地域を選定していく上で、戦略として取り入れております。そのホットスポットというものでございますけれども、一言で言えば、非常に豊かであるけれども、非常に危機に瀕している地域ということになりまして、この地図である中で、赤系、茶色系の色に塗ってあるところというのがこのホットスポットになりまして、現在、世界で34カ所、ホットスポットに指定されている状況でございます。日本もホットスポットということになっておりまして、破壊の危機に瀕しているのか、それとも非常に豊かな自然がまだ残っているというのか、その解釈の仕方はいろいろあるんですけれども、世界の非常に豊かな、あるいは危機に瀕している地域と、同じようなホットスポットということになっております。私どもは、このような、ホットスポットを中心に、特に途上国で保全活動にほぼ特化しておりまして、現在、45カ国ぐらいでこのホットスポットを中心に活動をしております。
 幾つか、その中でご紹介したいと思うんですけど、一つ目はこのホットスポットに非常に、当然、脅威というのがありまして、脅威自体はもう、皆さんご存じのとおりなんですけれども、この場合で特に、下の方ですね、気候変動による脅威というのはますます増加しているということが一つちょっと申し上げておきたいのと、やはり貧困問題ですね、特に、日本の生物多様性という観点ではあんまり入ってこないですけれども、地球規模で考えた場合、貧困問題とは切っても切り離せない問題かと思います。
 また、これは今回の戦略の論点整理の冒頭部分でもありましたように、日本というのは、やはり食糧にしろ、いろんな工業関係の原材料にしろ、あるいはエネルギー、海外からの輸入に非常に頼っている国でございますし、今後もそれは変わらないと思います。そういう観点からいきますと、海外における生物多様性、またそれがもたらす生態系サービスへの責任といいますか取り組みというのは、非常に国際的にも求められているんじゃないかなというふうに、我々考えております。
 この気候変動に関しましては、もう、皆さんご存じのとおりかと思いますけれども、昨今G8なんかでも取り上げられて非常に関心が高まっているわけですけれども、ややもしますと、いわゆるエネルギー分野での取り組みというのが非常に脚光を浴びて、あるいは、新たな技術開発というところにどうしても視点が行きがちなんですけれども、一方で、現在でも世界の人為的な温室効果ガスの排出量の5分の1ぐらいというのは、森林が失われることによって排出されているということは、もう既にIPCCなんかでも報告されておりますし、これにまだ、これまで全く手がついてきていないと。当然、森林、特に熱帯雨林が多くなってきますので、世界の生物多様性という観点からいきますと、非常に気候変動とのかかわりが深いということは言えるかと思います。ことしの後半にバリで開かれます気候変動のCOP13、COP/MOP3においても、森林破壊の防止によるこの排出量をどうするかというのが、一定の方向性が示されるということになってくると思うんですけれども、生物多様性の保全という観点からも、この問題にはもう少し取り組んでいく必要があるんじゃないかというふうに考えております。
 このホットスポットを先ほどちょっとご紹介いたしましたけれども、このホットスポットの保全において、日本政府も関わる形で非常に画期的な基金というものの立ち上げに私どもも関わってまいりました。これがクリティカル・エコシステム・パートナーシップ基金という、ちょっと長ったらしい名前ですが、CEPFと略しておりますけれども、非常に画期的な基金でございまして、こちらは地球環境ファシリティー、GEFですね、それから、世界銀行、マッカーサー財団、日本政府と、それから私どもCIが関わって設立した基金でございまして、これは途上国のホットスポットでのNGOによる活動というものを支援していこうというものでございまして、特に、例えば世界銀行、GEF、あるいは二国間の国際協力からどうしても抜け落ちていた部分というものをサポートしていこうということで立てられた基金でございまして、これまでに34カ国、これすべて途上国になります。こちらで約1,000団体ほどに8,800万ドルの支援を、ここ6年ほどしてきているということになります。そういう意味では、日本政府も非常にこの地球規模の生物多様性保全の、特に画期的な取り組みというところに早くから関わってきているということが意外に知られていないので、こちらでちょっとご紹介させていただきました。
 このCEPFはNGO等の途上国での活動を支援しているわけですけれども、一番下にありますエコシステム・プロファイルというプロセスがございまして、これはこの基金をその国で受けて使っていく際に、いわば戦略を立てていくと、これをその国の人たち、政府、NGOあるいは研究機関が一緒になってその戦略をつくっていくわけですけれども、このプロファイリングのプロセスというのは、非常に特に、途上国のキャパシテイービルディングにつながって、中にはこのプロファイリングでの成果をそのまま国家戦略にしていったというような国もあるような状況でございます。
 このCEPFで、一つ、非常に支援をしているものがこのキー・バイオダイバーシティー・エリアと呼んでいるもので、KBAでございます。先ほど野鳥の会の方からの発表で、IBAという、インポータント・バード・エリアというお話があったと思うんですけれども、このKBAというのは、IBAがここ20年ぐらい、バードライフさんを中心にされてきて、非常に成果を上げてきたということで、じゃあ、その鳥類以外の種も含めた、より総合的な保護地を、優先順位をつけるための手順とできるんじゃないかということで取り組まれているものでございまして、これは何も私どもCIだけではなくて、バードライフさんあるいはほかの国際NGO、あるいはローカルなNGO、研究機関、国の機関等が参加する形で、このKBAというイニシアチブを進めているところでございます。そのクライテリアにつきましては、先ほどIBAでご紹介があったのとほぼ同じ形でございまして、最後の渡り鳥というところが、鳥だけじゃなくて他の生物種を含むということになってくるんですけれども、こういった国際的なクライテリアを通して、地球規模でどこが非常に保全の重要性があるのかというのを見つけていこうというプロセス、サイトレベルでの保護を進めていくプロセスでございまして、このCEPFは、途上国でのKBAの分析を支援していって、これまでやってきたところがこの星の形で示されているわけでございます。
 次に、企業とのパートナーシップを我々は非常に重視しているということを申し上げたんですけれども、NGOという観点から、企業とどういう取り組みをしているかというお話を残りの時間でさせていただければと思います。
 今日、この後も企業さんからのご発表があるかと思うんですけれども、やはり、生物多様性と企業が非常に密接に絡んでいるというのは、特にここ1年数カ月、非常に認識が高まってきているなというのを、私どもも感じているところでございます。これはやはり、生物多様性というのは、何も生物学者が難しいことを言っているだけのものではなくて、非常に経済、産業、生活を支える基盤であるという考え方が、かなり浸透しつつある結果かなというふうに思っております。ここに幾つか挙げましたのは、企業がなぜ生物多様性の保全に取り組まなければいけないかという幾つかの理由でございますけれども、一つは、やはり、直接、生態系あるいは生物多様性から原材料等を調達しているというような業界ですね。こういうところは、当然もう、現業にそのまま関わってきますし、持続的にその生態系あるいは生物多様性というものが保全されなければ、いわば原材料の調達が不安定になるという、非常にビジネスにとってリスク要因になってくるわけでございます。
 それから、生物多様性の問題が非常に注目を浴びて、例えば2010年目標というお話もございました。それはG8でも議題に取り上げられ、来年の洞爺湖でも議論されることになるかと思いますけれども、そういった観点から生物多様性への取り組みというのは、もっとしていかないといけないんではないかということが、そういう目的でもこの小委員会も開かれているわけでございますけれども、国際的にもそういう広がりが当然出てきているわけでございまして、例えば企業なんかが生物多様性にどう責任を持つべきなのかとか、生物多様性というものを、ちゃんと貨幣価値というのを何とか算出して、それを取り入れていく方法を考える必要があるんじゃないかとか、あるいは、これは日本でももうすぐ入ってくるかと思うんですけれども、環境報告書等において生物多様性へのインパクト等を報告しなければいけない、と。こういうことになってきますと、当然、非常に、それだけでも企業にとっては新たな責任ということになる、企業側からするとなるかと思うんですけれども、また、サプライチェーンにおける配慮はちゃんとできているのかと、あるいは、経営の中でちゃんと生物多様性というものを認識しているのかというところへの監視の目というのも厳格化されてくると思います。こういうことから、生物多様性というのが企業の観点から見たら、次の気候変動問題であるというふうに言われているゆえんじゃないかと思います。
 こういったことに、じゃあ、企業はどうやって取り組んでいけるのかというのを、我々NGOの立場からもこれまで取り組んできているんですけれども、一つは、やはり、当然、現業の中での負荷をいかに減らしていくかということが挙げられるかと思います。これは何も、自社が扱っている部分だけ、自社のその事業活動に直接関わる部分だけと、あるいは、工場から排出するものだけとかそういうことじゃなくて、もっと幅広い、サプライチェーンも上流から下流までと、またそのサプライチェーンがどういう影響を、間接的に、最後に生物多様性にどこまで影響を与えているのかというところまでしっかり見ていかないと、この生物多様性の問題というのは、最終的には企業側から責任を果たすというのはなかなか難しいんじゃないかというふうに考えております。
 一つの方策として、私どもガイドラインですね、企業さんの現業の中で、じゃあ、どうやって生物多様性に配慮していけるのかということで、これはアメリカの、欧米の企業なんかだと先進的な取り組みが進んでいるんですけれども、例えばここに挙げていますマクドナルドというハンバーガーの会社がありますけれども、こちらは当然、食を扱う産業ということで、生態系からの恩恵を一番受ける業界の一つだと思うんですけれども、じゃあ、例えば牛肉であったり、鶏肉、ジャガイモ等、あるいは魚というものを調達する際にどういう配慮をすればいいのかということを見ていっているようなガイドラインです。同じようなものでコーヒー関係というものもやっておりますし、これはスターバックスという会社でございますけれども、スターバックスの場合、ガイドラインのほかにも、直接、こういう環境等に配慮したコーヒーの生産農家を支援するというような取り組みもしておりまして、一緒にやらせていただいております。
 また、直接関わる業界ということで、エネルギー関係ですね、これはエネルギーというかマイニングといった鉱業も関わってくると思うんですけれども、やはり、地中から掘り出すというときには、多くの場合、かなり生物多様性の負荷がどうしても大きくなると。では、それをいかに最小限にできるかということを、いろんなデータをGIS等でシステム化していくと。これを業界で使っていけるような形にしていこうということを一緒にやらせていただいておりますし、これをさらに進めたところでは、それでもどうしても残る負荷というのは、オフセットという形で、じゃあ、ほかの地域で、より保全しなければいけない地域があれば、そこにも守っていくような資金なりリソースというものをオフセットという形で提供していこうと。こういったところでも、じゃあ、どういう指標がとれるのかとか、そういったところで、いろいろ一緒に企業とやらせていただいています。
 あと、もう一つご紹介しますと、これは気候変動との関係で、CDM、クリーン開発メカニズム、皆さんご存じだと思いますけれども、このCDMの中でなかなか出てこないのは土地利用関係のCDMでございまして、我々も植林を通じて、植林も単一種による、プランテーションではなくて、森林を回復していくというような形での植林、それをCDMにして温暖化対策につなげようということで、方法論をつくって国連の承認をとったりもしているんですけれども、ほかの企業等が取り組めるようにということで、やはりガイドラインというものをつくって、どういう形でやれば気候変動のためにやる植林あるいは土地利用関係のプロジェクト、今後は森林保護というのも入ってくると思うんですけれども、それをいかに、単にCO2が一番効率的に吸収・固定できるという視点だけではなくて、生物多様性への保全の視点、あるいは現地のコミュニティー、貧困削減等にどうやったら寄与するのかということをガイドライン化しているようなものでございます。
 時間の関係もあってすべてご紹介できませんけれども、こういったことを通じまして、我々、企業さんともかなり積極的に取り組みをしておりまして、この国家戦略という中でも、やはり、当然、国だけでできることではなく、企業の役割というのも期待されていると思うんですけれども、NGO側からの一つの視点ということでご紹介させていただきました。
 ありがとうございました。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 それでは、ただいまのコンサベーション・インターナショナル・ジャパンのご発表につきまして、ご質問、ご意見がございましたら、お願いをしたいと思います。
 いかがでしょうか。どなたかございませんでしょうか。
 では、森戸委員、お願いをいたします。

【森戸委員】 何か質問しなきゃならない感じもして、ちょっと言っているんですけれども。
 今のご報告は大変おもしろかったんですけれども、基本的には活動団体としての報告みたいなものと受けとめたんですが、国家戦略そのものに対して、これとこれを特に提言したいというか、そういうものがもしあるならばちょっとお聞かせいただきたいなと思ったんです。

【日比氏】 ありがとうございます。具体的な施策レベルということにはなかなかなってこないんですけれども、やはり、国際、地球規模、グローバルなレベルでの生物多様性にどう関わっていくのかというところが、これまでも戦略でも当然入っておりましたし、今後も入ってくると思うんですけれども、もっと強く出てもいいんじゃないかと。
 それは、特に、国際社会の中における日本の位置づけ、役割ということを考えていくと、ちょっと、まだまだ遠慮がちなのじゃないかなというふうには思っております。それもありまして、最初に基金の話を少しさせていただきましたのは、やはり、日本もそういった形で、既に貢献もしている部分もございますし、そこの知見を生かしながら、例えばODA等において、もっと、例えば生物多様性と貧困削減に関するプロジェクトをもっとふやしていくとか、そういうやり方というのはいろいろできるんじゃないかというふうには考えております。
 あと、もう一つ、企業との関係というのでも、これも戦略でどうのこうのというよりも、最終的には民間企業さんがどう取り組んでいかれるかということになってくるかとは思うんですけれども、それはある一定の指針というのが、今後、環境省さんなんかでも出てくるというふうには伺っておりますけれども、まだまだ、欧米なんかと比べますと、企業と生物多様性の関係のところについて、例えば市民側からの非常に厳しい目が本当に日本にあるかというと、まだまだ優しいといいますか、それは企業にとってはいいことなのかもしれないんですけれども、それによって、その取り組みが行われないというのは、非常に生物多様性の観点からいくとマイナスになっていきますので、そういう意味でも、そこのプッシュをしていくというのは、戦略の一つの役割としてはあるんじゃないかなというふうに考えております。

【熊谷委員長】 では、服部委員、お願いをいたします。

【服部委員】 今のに関連して、企業への注文ということで、税制関係に対する何か改正といいますか、何かそういう、企業が協力することによって、協力のお金の税制問題に対して、何か措置をするみたいな話は出てきますですか。

【日比氏】 そうですね、それは私どもなんかの内部あるいはほかのNGOさんなんかと議論になるポイントの一つで、一つあるのはNGOと一緒に何かやるときのNGOへの資金の提供あるいは寄附というのが税制優遇の対象に、今も非常に非常に小さい窓があってできるような、仕組みはあるんでしょうけれども、それがやはり、もっと幅広く社会全体で行える、業界全体で行えるような形に持っていくような税制というのは、一つ必要なんじゃないかというのは、これはもう、皆さんご存じのとおりのことかと思いますし、もう一つは企業自体の取り組みに関する税制優遇措置というのは、ある意味、やはり必要になってくるんじゃないかなというふうに思っておりまして、ただ、これ、生物多様性への取り組みそのものについてというのは、なかなか、まだまだ、欧米でもそんなに、ちょっと事例を知らないんですけれども、例えば、アメリカでやっているような、プリウスのようなハイブリッド車――これは購入者側ですけれども――に、それを買った場合には税制の優遇があるということ。そういったことを、例えば調達の場合においてもやっていくという、グリーン調達の考え方をさらに生物多様性も含めた形で広げていくというのは、一つの方法としてはあるんじゃないかというふうには感じております。

【熊谷委員長】 よろしいですか。
 では、大久保委員、お願いをいたします。

【大久保委員】 ちょっと、経団連の立場でもお話をしておかんといかんと思うんですけれども。
 CIさんは昔から非常にこういう取り組みをいただいていて、私どもとしてもいろんな意味で参考にさせていただいているわけですけれども、今、企業レベルで申し上げますと、排出源である、CO2の排出についてどう抑えるかという立場、気候変動の問題については、もう、かなり浸透してきたと思います。それで、その辺をどう排出を抑えていくのか、さらに、本当に各企業ごとに自主的な目標を定めてやっていくという形は、大体浸透してきたかなと思いますが、生物多様性という言葉は、企業レベルではほとんどまだ浸透していないと思います。要するに、大きく二つあって、排出源問題と吸収源問題というとらまえ方をしますと、吸収源としての自然保護、こちらの問題が次の課題になるんだろうと。この間のドイツのG8でも、生物多様性という言葉がサミットの場で出てきたということ、それが日本の中で、個別の企業活動の中にどう取り組んでいくかというのがこれからの大きな問題だろうということで、ぜひ、そのあたりをいろいろ議論を重ねながら詰めていきたいと思います。ここに、いろんなご提案がありますし、現実の問題としては、やはり、一番の問題は、資源獲得の、要するに開発と資源保護の問題が最大の難しい問題で、これは何も、企業の問題というよりも、ある意味では人類の問題であり、そこのところを今でも資源開発はする、と。しかし、そこの、あとはきちっと再生・復元しながら開発していくとか、そういうような動きは大分出ていると思うんですが、そのあたりをどうするか。それから、一種の、今の税の問題もある意味では同じことだと思いますが、そういう生態系サービスへの支払いという提案をされていますが、このあたりも、そういう一種の代替手段的なものでいいのか。もうちょっとやはり、本質的に自然保護あるいは生物多様性の保全というような視点でやらんといかんことがあるのか。そのあたりについてはいろいろ今後詰めていかなきゃいけないなというレベルにようやく来たかなというふうに、我々は認識しております。
 従来のマクドナルドさんのいろんな動きなんかにしても、包装材にしてもある決断をしても、やっぱり一種のトレードオフの関係で、片一方をやるとある問題が新たに起こってくる、だからもう一回後戻りしたというようなのが、マクドナルドさんのあの包装材料の動きだったと思いますね。
 ですから、今、一概にあるスタンスだけで判断するというレベルには、まだ、僕は来ていないんだろうと思いまして、そのあたりがこれからの大きな課題かなと思っておりますので、今後ともどうぞよろしく、ご協力をしていきたいと思っております。

【日比氏】 こちらこそ、よろしくお願いいたします。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 いかがでしょうか。一応、このコンサベーション・インターナショナル・ジャパンのヒアリングで、本日のNGOの方々からのヒアリングは最後となりますが、一応予定された時間となりましたので、また最後にディスカッションの時間が多少とってございますので、そのときにまたご意見をいただけたらと思いますので、一応これでコンサベーション・インターナショナル・ジャパンの方からのヒアリングを終了させていただきたいと思います。
 代表の日比保史様、どうもありがとうございました。

【日比氏】 ありがとうございました。

【熊谷委員長】 それでは、ここで、一遍休憩をとらさせていただきたいと思いますが、事務局の方、どのぐらい。いかがでしょうか。

【事務局】 それでは、約10分ぐらいということで、14時55分再開ということにさせていただきます。
 それでは、休憩に入ります。
(休憩)

【事務局】 それでは、休憩の時間を終わりとさせていただきまして、また議論に入りたいと思います。
 熊谷先生、よろしくお願いいたします。

【熊谷委員長】 それでは、お疲れのところでございますが、休憩を終わらせていただいて、これからは、企業等からのヒアリングに入りたいと思います。
 まず、日本電気株式会社からのヒアリングを行いたいと思いますので、宇郷様からご発表お願いいたします。よろしくお願いいたします。

【宇郷氏】 NECの宇郷でございます。どうぞよろしくお願いいたします。座って失礼いたします。
 それでは、時間も制約されておりますので、私どもNECが実際にやっております、ここに書いてあるとおりで、田んぼ作りプロジェクトについてご紹介をさせていただきたいと思います。
 なぜ、IT企業が今田んぼをやっているかということでございますが、端的に言えば企業として環境にきちんと対応していくためのベースとなる全従業員の環境意識をいかに高めていこうかと。その具体的な実践の場、環境を身近に感じていただければということで、こういうものを企画してやってきているということでございます。少し大上段にはなりますけれども、こういうものを通じて、できれば企業活動の中でのいろんな価値の多様性だとかあるいは文化・風土、そういったものについて、いろんな多面性を持っているということについて、少し考えるきっかけにしていきたいと、そういう意図で展開をさせていただいております。
 もともとは、ここにありますとおり、私どもNECグループとしては、2010年までの長期ビジョンというものを2002年に公表させていただきました。このてんびんの絵は、左側のてんびんが、我々NECグループが事業活動をすることによって、直接あるいは間接的に出してしまうCO2、これを右側のてんびんにありますとおり、我々が社会あるいはお客様にご提供するITソリューションの効率効果によって、端的に言えばCO2を削減する効果を生み出していき、それと排出CO2とをバランスさせていこうと、こういう考え方でございます。そのために、下にありますとおり、幾つかのもう少し具体的な長期目標を設定して活動を展開しておりますが、その中で一番下にありますとおり、その一番基盤となります社員一人一人の意識をいかに高く維持していこうか。そういった施策の中で、こういったものを考えてきているということです。
 その社員の意識を高めるためにも、2010年までに全員が環境意識を高くしようという目標ですが、アプローチとしては、本来企業の活動の中で、それぞれ自分の業務に沿ってどういうふうに環境のことを考えてもらうかと。こういう企業人としての環境に対しての関心の持ち方がある一方で、企業を離れて家に帰れば、それぞれがまた生活者あるいは消費者の立場でございますから、そういった観点からも環境に対して意識を高めてもらい、そういったものを逆に企業の職場・現場に帰っても維持しながら、総合的に環境に対しての効率的な活動を進めていきたいと、そういう意図で展開しているものでございます。
 それを確認するために、NECグループの中では、毎年11月にグループ全体に対しての環境経営意識調査というのをやっておりますが、左側が2003年当時の実施結果、右側が昨年の実施結果でございます。いろんな活動を通してのこの意識の高まりぐあいを定点調査しているわけですけれども、ここ数年で、少しずつではありますが、ここにありますとおり環境に対しての意識が高まってきているかと。こういう定量的な把握をしており、これをもとに、逆に、また来年以降の意識調査に対しての目標値を設定して、活動を展開していると、そういうことでございます。
 次に、今回のこの田んぼ作りプロジェクトにつきましては、アサザ基金さんというNPOさんと協業をさせていただいております。なぜ、そのNPOさんとの協業かということですが、一言で言えばここに書いてある公式どおりでございまして、我々企業が持っておりますいろんな事業ノウハウ、あるいはマネジメント機能、こういったものと、NPOさんがお持ちの特定領域に対しての高い専門性、こういったものを組み合わせることによって新しい社会的な付加価値がつくり出せないかと、そんな期待から協業をさせていただいたということでございます。
 その一つが、ここにありますとおり、今回の田んぼ作りプロジェクト、大目的はあくまでも全従業員の環境意識を向上させるための一つのモデルになる活動づくりでございますが、それ以外にも先ほどいいましたNPOさんの専門性と我々NEC、例えばNECが持っておりますIT技術、こういうものを組み合わせることによって新しいビジネスモデルの開発ができないか。あるいは、そういうものを使うことによって、地域への新しい貢献の仕方ができないか。こういうことを組み合わせた、三位一体の効果を意図した活動として展開してきております。
 ちなみに一つ事業、新しいビジネスモデルということでは、先般、愛知で開催されました万博会場に万博アメダスというものを設置させていただいておりまして、これはネットワークセンサーというシステムでございますが、この写真にありますとおり、いわゆる電子百葉箱のようなものでございまして、その地点の温度・湿度・日照時間あるいは風といったような環境データをモニタリングする仕組みでございます。こういうものを複数点設置しておきまして、相互に無線でデータを交換することによって、例えばこの場合ですと万博会場全体のCO2排出量のリアルタイムでの分布図を示す、そういったサービスを提供したものでございます。
 さて、前置きが長くなりましたが、この活動の概要でございます。
 ここにありますとおり、先ほど目的で申し上げましたが、NECの社員とそれから家族を対象にしまして、年間田んぼ作りから田植え、草刈り、最終的にはできたお米で、今、皆様方に参考資料としてお配りしましたお酒、これまでを一貫してつくる、一連のシナリオを持ったプログラムとして、開催・実施しているということでございます。
 写真、ちょっと小さくて見えにくくなっておりますが、ここは後ほどお示ししますが、霞ヶ浦の北にあります谷津田でございまして、復田前はこういうふうに、本当に田んぼかというような荒地でございましたが、ここを社員とNPOさん協業で、こういった右のような田んぼに再生いたしまして、ここで実際に活動をしております。
 場所はこの地図のとおりでございまして、駅で言うと常磐線の高浜という駅、そこから歩いて20分程度のところにございます。そこで、今、大体4反の田んぼをお借りして、そこで毎年大体1トン程度の玄米ベースでの収穫をしております。そのほかにも近くで畑を2反ほどお借りして、そこでは大豆や、そのほかいろいろな作物をつくりまして、またこれも従業員みずから、いろんな加工品までつくっております。
 この参加者でございますが、初年度は700名弱でございましたが、昨年から2年は1,000人を超えるような規模になっております。その中でも一番下にありますとおりさらに別途に達人コースというのを設けまして、ここはもう少し関心の高い人たちが自由に活動を展開していただけるようなプログラムとして、右側にありますように、もうほとんどひっきりなしで毎週活動しているみたいな、そういうプログラムでございます。ここにも、おかげさまで220名ほどが、昨年は参加をいただきました。
 先ほど申しましたとおり、実際にはこういった春先のあぜづくりから始まって、5月のメーン行事であります田植え、それから草取り――これは実は来週の土曜日、七夕に、ことしのプログラムをやる予定です。それから、こういった稲刈り、脱穀、下にありますとおり収穫しましたお米で、新酒を仕込み、蔵出しをするということで、お手元にありますお酒の名前「愛酊で笑呼」、これはNECが環境をポリシーとして、キャッチフレーズにしております「ITでエコ」を漢字でもじって、名前をつけさせていただいています。
 そのほか、それぞれ各行事に合わせて、例えば田植えの時期であれば田楽奉納ということで、地元の津軽三味線奏者においでいただきまして三味線の鑑賞会を開いたり、あるいは、時季時季それぞれのプログラムを設定して、ただ単に作業でしんどい思いをするだけではなくて、楽しみながら自然に対しての実感を深めていただく、そんなプログラムもつくっております。
 ちょっと見にくうございますが、一番下の左から二つ目、昨年度は手掘りでの井戸掘りにも挑戦しまして、この地点での水・お米・畑作・作物と、そういったことで、自給自足率をどれだけ高められるかということにも挑戦しております。
 参加者の分布を見ておりますと、霞ヶ浦、非常に都心からは少し距離がございますが、ご覧のように東京を越えて2時間かけて来られる方が半数以上いらっしゃる。それから、年齢を見ても、ゼロ歳から80歳まで、これは例えば家族でも家族三世代でいらっしゃるとか、そういうところもございます。それから、結構30代中ごろの女性グループ、こういった方々も多数参加をしていただいております。リピーターが多いかといいますと、上にありますとおり、決してリピーターだけのクローズした活動になっておりませんで、大体、平均すると、6:4で新規の方が、半分弱ではございますが毎回おいでいただいて、確実にその輪を広げている活動になっているというふうに評価をしております。
 それでは、じゃあ、なぜお酒かということでございますが、通常お米までつくって、そのお米をみんなで食べて、いやあ、よかったというところで終わるんですが、今回我々が企画しましたプログラムは、最初からお米からお酒までということを考えました。これは一つには、そのお米までであれば完全にこれは自然の循環の中でできるプログラムですが、もう一歩進めてお酒にするということで、より人為性の高い活動を組み込む。そういうことで、少しここも大上段かもしれませんが、人が関わって物をつくるということについての原点みたいなものを、もう一度実感していただく。そんな期待も込めてのプログラムでございます。
 それから、このお酒づくりについては、地場産業さんで、霞ヶ浦周辺には非常にたくさんの地酒づくり屋さん、酒蔵さんがございますので、そういった地域産業の活性化といった意味も含めて、こういうプログラムを設定いたしました。
 それでは、この田んぼ作りのプロジェクトの効果ということで、第一番に挙げなければいけないのは、ここにありますとおり、お米ができて、それでNECブランドのお酒をつくることができたと。そういう一つの大きな成果です。そのほか、生態系の再生、あるいは企業的な観点から、下にありますような、様々な、もちろん参加者の意識変革、こういった効果も含めて、それなりの実績を得ているものというふうに評価しております。
 まず、生き物再生状況ですが、ここにありますとおり、今年度典型的な田んぼの生きものということで、カエルの調査をしていましたところ、ご覧のように、ここ数年で明らかにカエルの発生数が増えてきているという定量的な実態でございます。
 それから、こちらは企業的な広報、宣伝・広告効果になりますが、この3年間累計で、テレビに7件、ラジオ2件、そのほか新聞・雑誌等に五十数件の掲載をいただきました。こういったものを独自的な宣伝・広告評価にはなりますが、例えば全国紙一面記事広告掲載したときの料金等から換算いたしまして、これらの広告効果を約2億強相当というふうに評価をしております。このプログラムに過去3年で投入した資金からすると、相当の効率の高い経済効果も得ているというふうに考えております。そのほか、映像あるいは本の出版、あるいは社外からも、おかげさまで、年に一度ずつ評価をいただいております。
 それから、でき上がりましたお酒、昨年は玄米で、先ほど平均で約1,000キロと言いましたが1,300キロ、それから今日はお持ちしませんでしたが、お手元にありますこの2合瓶、これの倍の瓶をこの写真のように用意しておりまして、これを本数換算で2,000本相当の量のお酒をつくることができました。これらの用途でございますが、基本的には、NECの営業活動あるいは様々な宣伝・広告活動、それからもちろん環境面での活動に対してのアピール活動、それから社内での意識啓発、そういった場で、様々に活用させていただいております。
 それから、その派生的な効果になるかもしれませんが、ここに参加した子供たちも、たくさんこうした活動に対して共感をしていただき、みずからこういう作品をつくって、事務局の方にお寄せいただきます。中には、ここにありますとおり、作文が社会のこういう作文コンクールに入選をしたということで、うれしいお便りをいただく場合もございます。
 そういう状況を踏まえて、年間を通した参加者の意識を見てみますと、ここにありますとおり、最初は田植えの時期、非常にその行事が楽しかったとか、充実した1日、日ごろない雰囲気を味わえたというような声が非常に主でありましたが、活動が進んで1年間進むと、最終的には環境に対して実感をし始めると、そういう傾向が出てまいります。中には、ここにありますとおり、自分と環境のつながりはどういうものか、あるいは、環境がきちんと保全されていることで、自分たちの活動がその上に生かされているんだと。そういった意識が徐々に出始めると。そういうコメントを我々が行事終了後の行うアンケートの中でいただくようになります。
 それから、さらには、ともすると、その企業の中でも縦割り的になかなか横のコミュニケーションが促進いたしませんが、こういう場で階級・職種関係なく、作業をしながら気軽に言葉を交わすことによって、その部門の壁を越えたコミュニケーション、あるいは日ごろ家庭の中で、なかなか子供さんたちと一緒に過ごす時間がとれないようなお父さんお母さんが、こういう場を通して家庭内でのコミュニケーションを高めていただく。そういういろんな意味での副次効果も出ております。こういう中で子供たちからすると、いろいろ、会社に行って、親の背中が見えない、お父さん、お母さんが田んぼで自分たち以上の力を発揮して作業している。あるいは、まだまだ子供だと思っていた自分の子が、しっかりと鎌を使って稲を刈っている。そんなところで、自分の子供も大したものだというように、改めて、日ごろ見えていないコミュニケーションを図っていただくという効果もあったということで、そういう情報をいただいております。
 そういうことで、このプロジェクトにつきましては、継続するに当たって、基本的には遊び心があって楽しさを含んでおりますが、それだけでは、なかなかこの活動というのは継続できません。そういった中で、いかに事務局としての意識として、どういうこの中に活動としての基本的なポリシーを盛り込んでいくかということが非常に重要であると思います。
 それから、その他のコミュニケーション、先ほど生まれたといいましたが、こういったものをいかに今後、会社の活動の中に、帰っても生かしていくような工夫をしてくかということが求められているのだろうと思います。
 それから、おかげさまで、こういったものを一つのモデル事業として、昨年、ことしと、例えば、損保ジャパン様あるいは三井物産様が同じようなスキームでお使いいただいて活動を展開されたという、そういう業種を超えた活動も増えていっているという状況でございます。
 今後この活動をどうするかということですが、アサザ基金さん、NPOさんが目的にされていますのは、100年後でトキの自然再生をという明確な目標を置いていらっしゃいます。これに向けて非常に高い記載ですが、一番最初に自然再生されたトキは、このNECの田んぼに来ることを目指しながら、いかに継続的かつ自律的な活動にと展開していくことができるか。これが非常に今大きな活動だろうと思います。要するに事務局がいるから、あるからできるのではなくて、この活動自体が自律的に動いて継続できる状態をつくっていくということが、一つの課題であろうと思います。
 それから、こういったものをいつまでも単に企業の中でも意識啓発活動レベルではなくて、やはり一つのきちんとした制度としてどう構築していくか。例えば一つのアイデアでございますが、箱物に頼らない福利厚生制度という形のサービス提供ということも考えられるだろうというふうに意識しております。言うなれば、こういう活動を通して、持続可能な社会というものを意識しながら、企業みずからがどう持続性をつくっていくかという活動の一つとして、今後もこういうものを継続できたらというふうに考えております。
 ここに、最後、メッセージがございますが、お酒の裏のラベルにも書いておりますが、継続は力なりでございまして、我々こういうものを通して、我々の、我々による、我々のための田んぼ作り、言いかえれば里山保全、こういうものを継続することによって、実際に結果として里山がきちんと再生されてくる。そういうふうに考えております。
 お手元には、そのほか、ここにお示しして――すみません、資料におつけしておりませんでしたが、プロジェクトで使いました参加証、あるいはプロジェクトの昨年の活動報告書、それから活動そのものをプロモートする、こういった下敷きのようなものもおつくりしておりますので、ぜひご参考にご覧いただきたいと思います。
 それから、こちら、これは4合瓶を包むときの包装紙になっておりますが、ここにそれぞれ参加者からの、この活動に向けた思いをメッセージとして、掲載してデザインしたものでございます。
 ちょっと時間が押して。以上でございます。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 それでは、ただいまの日本電気株式会社のご発表に、ご質問、ご意見をいただけたらと思いますので、よろしくお願いをいたします。
 服部委員、お願いをいたします。

【服部委員】 どうもありがとうございました。
 ちょっと教えてもらいたいんですが、聞き漏らしたかもわかりません。withアサザ基金というのが随所に入っておりまして、これの概要がちょっとブラックボックスになっているみたいなところがあるものですから、どういうところを、どういうことを一緒にやられたのかということが一つ、概要をちょっと教えてもらいたいということ。
 それからもう一つは、NECさんの環境推進本部のこの事業といいますか、プロジェクトに対する予算がどのくらい会社で持っておられるのかということを教えていただきたいと思います。

【宇郷氏】 今日、ちょっとアサザさん側の情報を余りご提供しておりませんけれども、具体的に年間通じたここの田んぼの維持管理を業務管理していただいております。
 それから、そのほかに各行事、先ほど言いました年間五、六回ありますが、それについての企画を共同でいろいろプランを練りながらやっていただく。そういった共同企画制作者という立場でお願いしております。それが1点目のお答えです。それでよろしいでしょうか。

【服部委員】 委託費はどれぐらいですか。

【宇郷氏】 はい。それで、年間これにかけているものですが、先ほどちょっと広告費の数倍というふうに言いましたが、年間の業務委託料としては600万円程度でございます。

【服部委員】 結構です。ありがとうございました。
 推進本部の予算は。

【宇郷氏】 推進本部全体ですか。

【服部委員】 はい。このプロジェクトに対する……。

【宇郷氏】 ですから、それぐらいです。

【服部委員】 600万円で。そうですか。ありがとうございました。

【熊谷委員長】 それでは、鹿野委員、お願いをいたします。

【鹿野委員】 企業の環境保全活動といいましょうか、これ、社員の、もしかしたら体験活動支援みたいな、それが結果的に環境保全につながるみたいな。よく言えば、一番最後に言っておられましたけど、レクリエーションかもしれませんから福利厚生かもしれませんですね。そういう活動の典型的な例だと思って、すごく参考になると思って、聞かせていただきました。
 ただ心配はあって、一つお聞きしたいんですが、こういう活動の中で、やっと何とか環境保全ということに社員の方々に目を開いていただきたいというような意味で、多分会社としては活動されている。それが一歩だとすると、今ここで話題にしている生物多様性保全という言葉なんか、数歩、どこか先の言葉なのかなという感じがしていまして、我々としては、この言葉なりこういう取り組みなりをもっと広げていきたいと思っているんですが、そういう場合に実際に企業で環境担当をされていて、例えば企業それぞれの環境担当の間で生物多様性保全というのをどの程度、今後こういう形の中で生かしていけそうなのか。さらには、もっと言えば具体的に社員一人一人に生物多様性保全なんていう言葉を皆さんに理解してもらおうとしたらどうしたらいいのかというあたり、もしお考えがありましたらお聞かせいただきたいと思います。

【宇郷氏】 はい。ご意見のとおり、この活動そのものは、生物多様性を目的にしたものじゃないのはもう明確です。例えばですが、私が考える、例えばNECの生物多様性の対応といったらどういうことになるかというと、やはりそれはサプライチェーン全体を考えた中で、NECが事業をする上で生物多様性と、あるいはそのナチュラルキャピタルとどう関係を持っているのかというところをきちんと整理しながら、事業の中でそういう理解を促進することが一番重要な課題じゃないかなというふうに思います。
 何といいましょうか、全然、自分の事業と関連づけのない状態で、環境だから、自然だから、単純に社員として社会貢献の一環として環境保全をすれば、それはNECとしての生物多様性に対応した責任を果たすというような考えは、私としては、全く誤解をした理解になってしまうというふうに危惧しております。このような内容でお答えになったでしょうか。
 ですので、環境担当者間でよく話をする場合がございますが、社会貢献の一環としていろんな業種の会社さんが、それぞれに環境保全活動や植林をされることがありますが、本来の生物多様性への対応とはそういうことではなくて、やはり自分の事業、自らが実際にやっているビジネスと、風が吹けば桶屋はもうかる式かもしれませんが、生物多様性あるいはナチュラルキャピタルというものとどう関係しているのか。そこの関係の強さを意識して具体的な対策をとることが、本当の企業としての生物多様性への対応責任だと思います。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 それでは、佐藤委員、お願いをいたします。

【佐藤委員】 私も企業人なのでいろいろ感じるところがあるんですけれども、企業のCSRでこういう取り組みをする場合に、やはりその企業活動との関係というのが、社員にとってはとてもモチベーションのところで大事なことなんじゃないかなと思ったりもしているんですね。例えば、今やっていらっしゃる田んぼの話と、それから愛知の万博アメダスみたいだと、企業の人たちにとっては、多分、万博アメダスの方がNECさんとしては近い感じを受けるんじゃないかなと思うのですね。そういう意味では、今やっていらして、いろんな、社内のよい評価だけではなくて、批判みたいなものも多分受けていらっしゃるのだと思うのですけれども、こういう自然に関する、関わることを企業の中でやるときに、社内の中でどういうふうに、それを乗り越えてやっていくのかというので、ご苦労がおありになるのではないかなと。私も文化・社会本部というところにいて、いろんな活動をするときに、それは会社の役に立つのかと、言われ続け、なかなか社員の納得を得られないというところがあるので、福利厚生としては非常によくできているというのは、多分社員も皆さん認めていらっしゃると思いますけれども、企業活動との関係の中で、トップだとか経営者はこういうのをどういうふうに判断するのか。先ほどちょっと広告換算という話が出ましたけれども、私もいつもそれでやっているわけですけれども、なかなかそれだけでは突破できない部分もありますので、もしその辺のご苦労があれば、教えていただければと思います。

【宇郷氏】 それについては、いつもいろいろな場でご質問、確かにいただくところなのですが、はっきり言って4年前にこれをNECグループの中期活動計画に盛り込んで提案したときに、その場では特に大きな批判はなく、おもしろいから、じゃあやってみたらということで、その場では了解をいただきました。ただし、実際にやる段になったときには、やっぱり、上部というよりも、むしろ、いろんな実際に事業をやっている最前線のところからは、一体どういう効果があるのだ、何のためだと、そういう意見はあったように思います。
 ただし、先ほど参加者をお見せしたとおり、実はこれ、募集をやるたびに、毎回、募集締め切り時間が短くなっていまして、今回なんかは朝8時半に募集を始めて、45分であわやオーバーフローするといったぐらいに、非常に高い関心あるいは人気をいただいています。でき上がったものを先ほどおっしゃられたとおり、我々この活動自体の効果は、福利厚生だとか社会貢献という観点ではなくて、むしろその宣伝・広告効果だとか、次にここにお示ししたように、例えばトップセールスの折に、こういったものを進物として話のネタにしながら、お客様と交流を深めていただく。そういった場で活用していただくことによって、かなり経営層の方の理解も深まっていると思いますのと、その効果そのものも認めていただいているのではないかというふうに考えています。
 ということで、今は非常にありがたい状況でやらせていただいているんじゃないかと思います。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 ほかにございますか。それでは、浜本委員、お願いをいたします。

【浜本委員】 多分、都市部から遠いとはいっても2時間以内で行けるところにフィールドがございまして、社員の方々もそういう体験ができるということで、年間600万円ものお金を活動に使っているということ自体が、一連の事業として何とうらやましいことかと。これは、ちょっとご質問なのですけれども、今後の展開といたしまして、例えばここに気象観測システムのウェザーバケットを田んぼに置きますと。これはNECさんのグループでつくられているものですよね。

【宇郷氏】 システム全体を開発しています。

【浜本委員】 はい。例えばこういうものを実際に全国で置いていただければ、生物多様性の干潟だとか、河川だとか、田んぼだとかに置いていただけるところを募集して、そこからデータをとって、それが科学的な生物多様性のそういう見地に生かしていただけるようなNGOに寄附をするとか、レンタルリースするとか、そういうようなことにも何か使っていただけないのかなというのをすごく思うのですが、そのように1カ所だけではなくて、ほかのところにも、そういう直接的な、技術的なものにおいて社会貢献するというような、そういう観点は、これからはなかなかお持ちになるのは難しいことなのでしょうか。

【宇郷氏】 いえ、そんなことはないと思いますし、ただ、今おっしゃった社会貢献というのは、私の考える社会貢献というのは、あくまでもビジネスで社会に役立つものを提供するというのが本来の社会貢献だと思っておりますので、単に寄附を差し上げるとか、あるいは何かで慈善事業をするのは、企業の本来の社会貢献ではないと思っております。ですので、NPOさんとやらせていただくときも、今日ここでご紹介したように、あるビジネスモデルの将来性を考えるのであれば、それを前提にした協業の仕方は大いにあると思います。
 我々もこのウェザーバケットというか環境モニタリングシステムは、他省庁さんを含めていろんな流域の防災あるいは都市の交通監視システム、あるいはここでも、この報告書にもデータを載せておりますけれども、今後そのIターンなどで、セカンドキャリアとして就農される方のための農業ナビゲーションシステム、そういったものをいろいろ考えてはいるのですが、なかなか実際にビジネスモデルとして成り立つものではないということで、逆にそういうビジネスモデルを活性化するような協業をしていただけるのであれば、ぜひ協力させていただきたいと思いますが。よろしくお願いいたします。

【熊谷委員長】 では、服部委員、お願いをいたします。

【服部委員】 今のに関連しまして、例えば、浜本さんが今おっしゃった機具の提供があるかという話だったんですけれども、実はそれについてアサザ基金のような、そういうNPOが各地にできて、こういうことを展開するから寄附も出してくださいよという話につながると、今の宇郷さんのあれにちょうど乗っかるんでしょうかね。

【宇郷氏】 いえ、基本的には寄附であれば、それは狭い意味の社会貢献としては、その中身を見て評価をさせていただくかもしれませんが、今までの関係上で、こういう展開があるから寄附しろ、そういう話には単純には乗らないと思います。

【服部委員】 どうもありがとうございました。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 ほかに、ご質問、ご意見おありかと思いますが、予定された時間を過ぎておりますので、一応、日本電気さんからのヒアリングはこれで……。

【宇郷氏】 一言だけ、すみません。このお酒、今日委員の先生方にのみお配りさせていただきましたけれども、参考資料ですので、ぜひ後ほどじっくりとご確認いただきたいと思います。

【熊谷委員長】 ありがとうございます。十分に、後ほど参考にさせていただきたいと思いますが。
 それでは、CSR推進本部環境推進部統括マネージャーの宇郷良介様、本当にありがとうございました。
 それでは、引き続きまして、イオン株式会社の方からのヒアリングをお願いしたいと思います。環境・社会貢献部部長の髙橋晋様、よろしくお願いをいたします。

【髙橋氏】 イオン株式会社、環境・社会貢献部の髙橋でございます。よろしくお願いいたします。
 パワーポイントだけではちょっと情報が足りませんので、このイオンのコミュニケーションレポートという環境社会報告書をご用意させていただきました。これとあわせてご覧をいただきたいと思います。
 それでは、ただいまからイオン株式会社から発表いたします。イオン株式会社の会社概要というのが、ご覧のとおりでございます。イオンの基本理念と環境理念というところでございますが、お客様を中心に平和・人間・地域ということをキーワードにして事業を展開しております。グループ、イオンというブランドメッセージを打ち出しております。156社で構成しているグループ内企業でございます。多種多様な業種、業態であり、まさに多様性そのものをDNAとしている集団でございます。
 こちらのページ、38ページをちょっと開いていただきたいと思います。ここは、私どものグループの中にあるボディショップという会社でございます。ここは、まさにフェアトレードの商品を90%以上扱っている企業でございまして、世界のいわゆる多様性を最も重視してビジネスを構築しております。ここの社会貢献活動もDV、家庭内暴力の根絶キャンペーンだとかということも積極的に取り組んでいる企業でございます。
 近年、イオンはヤオハンさん、マイカルさんなどのいろんな企業再生にも関わってきましたけれども、イオンから出向する人間というのは最低限の数ということで、基本的には、その企業のメンバーが自力で自社の企業文化を再認識して、自力で再生をするという方式がイオンの方式でございます。そういう意味では、多様性を尊重するというのは、企業のDNAということだと思います。これがこれからご案内する中でも、いろんなことをやっておりますので、その一端をご紹介をさせていただきます。
 一つは環境方針ということにつきましては、各社当然あるわけですが、私どもの場合は明確に生物多様性の保全に配慮するということを盛り込んでおります。これをもとにあらゆることをやっているということでございます。
 グリーンアイという、これはページ、34ページをちょっと開いていただきたいと思いますが、トップバリュというのはイオンのプライベートブランドでございます。小売業であるイオンは商品に当然こだわりがあるわけですが、お客様の声、毎日直接伺う機会を持つことは、商品開発に必要な消費者の生の情報をいただくことと、イオンでなければできない商品をつくろうということで、開始から12年、現在は3,600品目の品揃え、日本のPBの中では、約2,200億円ということで、大変な売り上げになっております。
 このトップバリュの五つのこだわりというのは、お客様の声を商品化、安全と環境に配慮した安全な商品をお届けします。必要な情報をわかりやすく表示します。遺伝子組み換えや栄養成分をはっきり表示しますというようなことを明記をしておるわけですが、その中でグリーンアイというものは、自然の持つ力を最大限に活かして生産し、おいしくて栄養があり、環境にも優しい「トップバリュ グリーンアイ」ということでございます。たくさんの農産物があるわけですが、この基準は合成着色料、合成保存料、合成甘味料などを使わない。それから、化学肥料、農薬、抗生物質などの化学製品の使用を極力抑えて生産する。適地・適作・適肥育などの自然力によるおいしさを大切にする。環境や生態系の保全に配慮した農畜水産物をサポートする。それから自主基準に基づき、生産から販売まで管理をするというような基準でございます。2006年度で、約180億円の実績でございます。
 そして、これがイオンの農産物取引先品質管理基準ということですが、生産をお願いしている契約農家の件数というのは約3,500件でございますが、この農産物電算管理システムというのは、農薬、施肥、育成レポートなど、直接生産者がパソコン、携帯電話、ファクスで入力・送信できると。そして、その情報を店頭や自宅のパソコンで確認できる。それから、店頭では携帯電話を使ってQRコードをカメラつきの携帯電話で読み取って情報も確認をできるというようなことで、生産を、本当に自然を重視した取り組みをしております。
 それから、MSCということにつきましては、これは同じくグリーンアイの下の方に、34ページで取り上げておりますが、MSCについては、皆様ご存じだと思います。近年、天然魚の資源の減少が問題になっていますと。イオンでは持続可能性という視点から永続的に安心して天然魚を提供し続けることができ、召し上がっていただくということを目的に、欧米で急速にその取り扱いが拡大しているMSC(海洋管理協議会)認証商品、通称海のエコラベルと申しておりますが、これがついた商品の取り扱いを他に先駆けて開始をいたしましたと。日本では初めてでございます。2006年11月20日にMSC認証商品の加工・流通のライセンスを、このCOC認証を店舗とセンターで取得をいたしました。11月29日より、アラスカやニュージーランドの認証された魚を原料にした商品を開始をしています。このエコラベルのついた商品を選ぶということは、海の環境保全を間接的に支援し、天然の魚介類の持続可能性を実現するために取り組んでいる漁業関係者様を後押しすることになります。イオンでは、世界中の漁業者とともに日本の魚食文化を継承するために、持続的に天然魚介類を提供できる仕組みを確立していきます、と。こういう内容でございます。
 それから、FSC、森林資源に対する取り組みは、FSC認証を取得したパルプの商品をこれはトップバリュということで開発をしております。
 それから、豪州のアデレードに三井製紙さんとか三菱製紙さん、北越製紙さんなどイオンも含めて7社が共同出資をして、植林事業をスタートいたしております。成長が早いユーカリを植樹して、11年目からパルプに加工して日本に輸出をするということで、天然林に頼らないビジネスにしていこうということで、こういう形で取り組んでいます。豪州は京都議定書には批准をしていないということですけれども、将来CO2の排出圏の取引だとか、いろんな形、それからイオンで販売促進が環境に負荷をかけない資源が得られるということの重要性を考えております。
 それから、これはふるさとの森づくりということで、これはページの10ページをちょっとお開きいただきたいと思います。
 このイオンのふるさとの森づくりというのは、ショッピングセンターなどの開店に先立ち、お客様とともにお店の敷地内に植樹活動を行う、イオンふるさとの森づくりを行っております。1991年、マレーシア、ジャヤ・ジャスコストアーズからスタートをしまして、2006年度は全国573カ所で6万人のお客様と一緒に植樹をいたしました。累計で、国内で630万本の植樹をしております。そしてイオン環境財団が、これは国内でも植えているわけですが、カンボジアで7,100本、それからタイで22万5,000本、マレーシアで18万2,000本、それからケニアで3,450本、中国で5万本と。この7月1日も万里の長城に、私も植樹に行ってまいりますが、そういう世界各地で行って、約80万本、海外で植えております。合計で718万本になっております。これは、植生学の権威である宮脇横浜国大の名誉教授から当初から指導を受けている、いわゆるふるさとに自生をする樹木を植えるということを実施しております。
 それから、この1%クラブは、これはページの15ページにちょっとご案内がございます。ジャスコ誕生20周年に、グループの名前をジャスコからイオンというふうにしたときに、1%クラブというのをつくりました。イオングループの企業、税前利益の1%を拠出して活動資金にしていると。環境保全、国際的な文化、人材交流、人材育成、地域の文化、社会振興、あるいは支援事業及び寄附ということが事業でございます。募金・寄附金は2000年度から2006年度までに、お客様から10億円ちょうだいいたしております。
 これは、環境財団1%のこのパンフレットの中に明細がついておりますが、お客様から10億円、募金・寄附をいただきました。そして、マッチングという仕組みで、イオン1%クラブ、環境財団から、ほぼ同額を寄附をして、合計で19億円の寄附をしております。多様性に関するものでも、ケニアの動物たちを森に返そう、クリスマスラッピング、それから、自然遺産、知床の森を守ろう、それからシマフクロウを森に返そう、オランウータンを森に返そうというような形の、多様性に関するテーマを持ったキャンペーンも毎年行っております。
 カンボジアに小学校を建設するという活動につきましても、カンボジア149校、ネパールに57校、2006年度ではラオスに3年間で100校を目指して、現在しております。
 なお、子供の環境教育の一環ということでは、全国147カ所で3,500人の子供たちが、チアーズクラブという環境教育のクラブをつくっております。実施をしているお店には、担当者がいて一緒に活動しております。各エリアで活動・発表大会を行って、優秀なクラブは毎年、ドイツに学ぶエコツアーということで、ことしもお盆明けに子供たちをドイツに一緒に行って、ドイツの環境のいろんなことを勉強してもらおうという企画でございます。これは4年間で210名参加しております。
 それから、環境財団につきましては、1991年に財団がスタートいたしました。地域環境の保全のため、積極的・継続的に活動している団体・個人に助成を行っております。1991年から累計で、1,887団体に対して、合計1億6,200万円の助成を行っております。第16回は、今年度ですけれども、自然の生態系を守るためにということで、1億5,000万円の助成をしました。公募先は、野生生物保護、生態系保全、植樹、緑化、砂漠化防止、こういういろんな細かいことに活動しているところに助成をしております。
 それから、最後は黄色いレシートキャンペーンということで、2001年度からスタートしたんですが、地域ボランティアの団体にそのお店に登録をしていただきます。店内にボックスを設けまして、毎月11日をイオン・デーということにしておりまして、その日はジャスコのレシートが黄色に変わります。お客様が買い物をされたレシートを自分の応援をしたい団体のボックスに投函をしていただくと、レシートの1%がイオンから品物で団体に寄附をされるということで、2006年度の実績は、グループ合計、今大体6,000団体が登録をされているわけですけれども、合計で1億1,000万円の寄附、累計5万団体、これは半期で計算しますのでふえるわけですが、3億3,000万円の寄附をしてきたということで、こういう活動をしているわけですが、本当に皆さんいろんなことをやっていると思われると思うのですけれども、私どもは小売業というのは地域産業だと。そして、地域の暮らしをお客様と一緒に、どのようにつくり上げていくかということを一つのベースにしております。ですから、環境問題の取り組みということについては、レジ袋を有料化というようなことにも積極的に取り組んでいるわけですけれども、以上でイオンの発表を終わらさせていただきます。
 ありがとうございました。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 それでは、ただいまのイオン株式会社のご発表にご質問、ご意見がございましたら、どうぞお願いをいたします。
 それでは、森戸委員、お願いをいたします。

【森戸委員】 このA4で、パワーポイントの印刷したものの2ページに、イオン株式会社環境方針というのがありますね。これは、一番下に2006年2月と書いてありますけれども、この時点でこういう方針を確立したという意味なのか、これより前の時点で、こういう環境に関するような方針があって、それの最新版ということなのかということをお聞きしたいんですけれども。

【髙橋氏】 これは、今現在の最新版で、また今新しく変えつつあります。

【森戸委員】 今時点ということは、こういう環境方針というのは、もっと前からあったのですか。

【髙橋氏】 はい。温暖化防止、京都議定書が問題になったときに、イオンとしては京都議定書の方針に沿った形でCO2削減の社内目標をつくりまして、そして行動計画をすべて決めて、今現在進行中というところでございます。

【森戸委員】 この環境方針というのは。経営の中では、どういう位置づけになるのですか。

【髙橋氏】 現在は大変重いと。トップの言葉でいけば、もうイオングループの156社を結びつける最大の共通テーマは環境だということを明言しておりますので、最も重いというふうに理解しています。

【森戸委員】 わかりました。

【熊谷委員長】 よろしいですか。
 では、佐藤委員、お願いをいたします。

【佐藤委員】 イオンさんの環境の取り組みは、いろんな形で拝見して、すばらしいなと思っております。それで、市民の方が環境とか安全に対する意識が非常に高まっていて、多分購買行動をするときにもそれがかなり基準になっているという背景があると思うんです。これが生物多様性となると、市民の方はほとんど知らない状態で、さっきその一文が入っているとおっしゃいましたけど、例えばそこまで、この活動をもう少し伸ばしていくというか広めていくとすれば、何か可能性があるのかどうか。その辺が多分すごくアクセスポイントをたくさん市民と持っていらっしゃるので、本当はここで議論しているような、なぜ生物多様性が広がらないかというようなところで、もしかしたら、すごいブレークスルーするポイントをお持ちなんじゃないかなというふうに、私なんかは感じるんですけれども。
 例えば、ジャスト・アイデアで言えば、エコバッグに、毎回、毎月違う希少生物が印刷されるとか、そういう何か新たな形で、おしゃれな形で市民にアピールするというようなことが、もしかしたら可能なんじゃないかなと、ちょっと思ったんですが。そういうようなことをお考えがあるかどうか。さっきも一文入れていらっしゃるということなので、何らか考えていらっしゃると思うんですが、もしあれば、教えていただきたいと思います。

【髙橋氏】 明確に決めたというか、やらなければいけない方向はたくさんありまして、私どもの扱っている商品が本当に多種多様なんですね。ですから、今行っているのは、やはりNPOとNGOの団体の方といろんな交流を持って、その情報を得る、それからグローバル企業というのは、やはり世界的ないろんな情報を持っています。仕組みの中で、いろんな、例えばMSC認証だとか、ああいう本当に制度設計が非常にすぐれているのですね。そういうところを私たちはいち早く情報をとって、そして、短期的なことではない、長期的な仕組みの中に盛り込んでいこうと。そして、イオンの、いろんな、持っている影響力の大きさを整備をして社会の中で貢献していこうという、そういうことでございます。
 ですから、本当に細かいアイデアというのは、私どもでもいっぱい出すのですけれども、まさにこの私どものトップのやり方というのが、本当に十何年前から木を植え始めました。私たちは、駐車場が減るのに何で木を植えるんですかと、こういうふうに、おかしいな、おかしいなとは思っていたのですけれども、でも、ある関東の市がいろんなコンペをして、そしてイオンの提示の方はむしろ経済条件が低かったと。しかし、イオンが選ばれたと。そうしたら、市民が、いや、もう、やはり自分たちのふるさとに木を植えたり、いろんなことを大事にしてくれる企業の方がやはりいいではないかということで選んでいただいた。だからもう財団を最初からつくって、その企業の業績と関係なく、こういうことはやっていくのだということで、1%クラブもそうですし、この財団も独立をしてスタートしたというのが一つの考え方なので、私たちもいろんなことをやる中で、グローバルな制度設計を参考にして、そして揺るがない形でやっていこうということで、今、そういう意味では勉強中でございます。

【熊谷委員長】 それでは、桜井委員、お願いをいたします。

【桜井委員】 一つそうですけれども、青島に行きまして、イオンのスーパーがありますね。中国の人が言うには、中国のスーパーでは安全なものが買えないと、イオンでは安全なものが買えると言われましたけれども、その背景として、ちょっと今聞きたかったのは、海の場合もそうですけれども、今、食料資源は海外からどんどん入ってきている現状でして、その中で確かにMSCのような概念とか、確かにわかります。ただ、今後もし日本の生物多様性ということを、日本国内を考えた場合に、例えば海にしても陸にしても、食料を得る場合に、そのときにどういう考え方でそれを出していくか。海外から出していくのは非常に厳しいから、それは当然やらなければならない。でも、日本の場合には、それも余りそういうものがない部分も若干ありますね。そうすると、そこの中で日本の中の生産物を使う場合に、イオンさんがどういう形でそれをうまく取り込んでいくか。そういう中で、今言われたような、生物多様性ということは、むしろ自然ですよね。自然そのものをどうやって保全しながらやっていくかというところの部分ですね。要は自給自足型をどのように考えていらっしゃるか。

【髙橋氏】 これは、私というよりも、食品、でいくと、食品商品部というがございます。そこが、そのイオンのいわゆる品質基準というものを決めて、それを担保するには、どういう仕組みあるいは第三者団体とどう組むかということを制度設計をしておりまして、そのグリーンアイというのは一つの仕組みなのですね。きちっとしたルールを守って、実際には個人だとかあるいは家族的な形で、有機の農産物をつくっておられるところが多いんですね。そういうところに、こういう管理をしてくださいという、マニュアルというかそういうものをお渡しをして、そして自主チェックをして、たまに監査に行ってというような形で、生産者の方にある意味では入り込んで、安心・安全を担保していると。こういうことが農産物の取り組みですし、それ以外のところでは、本当に生産者の方がつくっているようなルールとタイアップしながら、いろいろやっているということで、私もちょっとその辺専門家ではないので、これから勉強していきますけれども。

【熊谷委員長】 中道委員、お願いをいたします。

【中道委員】 一つ教えてください。トップバリュのことは、お客様があって、それに合わせた生産をしている、そういう仕組みですね。生産者が売って、それを仕入れて売るという仕組みではなくて、まず売る量を決めて生産者を確保しているというような仕組みなんですか。

【髙橋氏】 いや、決してそうではございません。

【中道委員】 そうだとすると、ちょっと教えてほしいんですけど、例えば減農薬、減化学肥料をやっている生産者たちがたくさんおるわけですね。彼らがやっぱり、多くの人が言うのは、市民はそれほど意識はない。それほどの価格差というのをつけてくれない。市民は選択しないという声が非常に多いのですよ。それで、もしイオンで、トップバリュの方でやられている世界というのは、どのくらいの価格差で同じものが売れているのか。市民の意識というのは、そういうことについて、少し変わりつつある。要するに減農薬、減肥料、化学肥料を選ぶような意向というのが、だんだん広がっているのかどうか。その辺の感じがわかりましたら、教えてください。

【髙橋氏】 私どもの今までの計測でいくと、2割以上差があると、お客様は幾らいいものでも、2割違ったらもう買わないというので、上限2割、1割ぐらいだと、むしろお客様が中国産と国産というのは、お客様は3割ぐらい違っても、これは、今、国産を選びますけれども、同じ国産であってもグリーンアイがあったときに、1割ぐらいあるいは2割ぐらいでも、お客様は買っていただけるお客様は大変多いです。年々功績が高まってきております。
 あと、このページ、25ページにサプライヤーCoCということがあるのですが、これはトップバリュのつくっている工場に、第三者監査という形で立ち入り検査をしまして、本当に安心・安全、労働環境も含めて正しく管理をされたところから、商品がつくられたものかということをチェックしています。ですから、商品の品質も当然求めていますけれども、労働環境も入り込んでいるというのが、今のトップバリュの姿勢でございます。

【大久保委員】 ちょっとよろしいですか。

【熊谷委員長】 大久保委員、お願いいたします。

【大久保委員】 もう圧倒的に、企業グループさんとしては圧倒的な活動をされておられると思うんですけれども、一つはいろんな支援をNGOにするときに、お金の使い道はいろいろ何か制限されていますか。というのは、いわゆるNGOの方の人件費的なものだとか、そういうものはほとんどのところがだめだよというような格好ですけれども、その点については何か規制をかけていますか。

【髙橋氏】 私も店長をしていたときに、地元の団体の方が随分申請をして、随分もらいました。目的がはっきりしていて、そして収支の報告書を1ペーパーちゃんと書いてくれたら、それでいいと。その当時は、やっぱり、書類審査とか、何か本当にもう、使い勝手が悪いと、なかなか通らないということで、私どもの場合はもっと草の根的なところに庇護しようと、支援しようということでスタートしておりますので、非常にそういう意味では使い勝手がいいと思います。

【大久保委員】 すばらしいですね。
 もう一つは、これだけの活動をやられるのに、大体スタッフはどれぐらいの体制で全体的にはおやりになっているのか。

【髙橋氏】 この二つ合わせて10人ぐらいですかね。

【大久保委員】 10人ぐらいですか。

【髙橋氏】 はい。10人までいないですけれども。

【大久保委員】 そうですか。わかりました。

【髙橋氏】 すみません。それで、これは私の部署と違います、この財団の方は。私はイオン(株)の方の環境社会貢献ということで、こっちをやっておりますけれども。

【大久保委員】 そっちもまた別にスタッフがいると。

【髙橋氏】 それは、別にいるんです。いわゆる独立という形で。

【熊谷委員長】 どうもありがとうございました。
 まだ、幾つかご質問おありかと思いますが、予定の時間となりましたので、これでイオン株式会社からのヒアリングを終了させていただきたいと思います。
 どうも、髙橋部長、ありがとうございました。

【髙橋氏】 最後に、このコミュニケーションレポートは最後にウェブアンケートが入っておりますので、ぜひ皆様のいろいろなご意見を私どもにお届けいただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 それでは、続きまして、サラヤ株式会社からのヒアリングに移りたいと思います。ご発表は、商品開発本部の商品企画室研究調査員の中西様、それから営業第一部リテール・マーケティング担当部長の代島様にお願いをしたいと思いますので、よろしくお願いをいたします。

【中西氏】 サラヤ株式会社の研究調査員、中西と申します。
 すみません。1番目のスライドは配付資料の方のスライドが正しい方ですので、1枚目に関しては、こちらの方をご覧になってください。タイトルも今回のためにつけていただいただきました「私達の食・住の原料供給地、ボルネオの生物多様性を守る活動」ということで、弊社の事例を発表させていただきます。
 私は、研究調査員の中西と申します。今日は、営業第一部リテール・マーケティング担当部長の代島と一緒に同席させていただきます。キャンペーンに関することなど、企業の戦略的な部分の説明については私では十分に説明できないということもあり今日は一緒に来ていただきました。
 これは、前回の地方説明会のときに使わせていただいたスライドと同じです。そのときに私どもが生物多様性国家戦略に対して、生物多様性の保全に取り組んでいる企業、組織に対する優遇政策、つまり優遇税制であるとか低利融資、それから保全事業に対する免税などの実施ということを要望として提言させていただきました。
 サラヤがそういう提言を持つに至った過程ですが、それはこれまで行ってきました活動の中から経験的に上がってきた、実践の場から出てきた要望であるということが言えると思います。
 では事例報告に移らせていただきます、サラヤは今ボルネオの熱帯雨林の保全事業というフィールドで活動を続けています。具体的には、現在はボルネオ保全トラストの支援という形でおこなっております。このボルネオ保全トラストは、目的としてボルネオの熱帯雨林の生態系のコリドー回復ということを目的として掲げています。現地を訪問しますと、何でサラヤがこんなことやっているのかという質問を受けます。園と展を説明するためにこのスライドを入れています。昨今、熱帯雨林の消失ということが問題になっていますが、ボルネオ島ではそれはアブラヤシ農園の拡大が、主な原因であるといわれています。アブラヤシ需要が拡大し農園が拡大しているのです。日本の消費者、末端の消費者はアブラヤシというものを、そのままヤシノミ洗剤という商品名に結びつつけてしまいます。そして熱帯雨林の消失はヤシノミ洗剤のせいじゃないのかということになり、メディアなどが過剰に喧伝したりしたこともありました。サラヤはそういうことがきっかけとなって、この活動に足を踏み入れることになりました。
 ここにおられる方々は実際のアブラヤシをご存じの方が多いかと思うのですけれども、一般的にはなかなか知られておりません。大抵はココヤシの実を想像される方が多いので、一般の方に説明するときは、まずアブラヤシの実がどういうものかというところから説明することになります。アブラヤシというのはこういう形状をしておりまして、パーム油の原料になっています。この大きな房に200から300の果実がついています。果実を二つに割るとこういうふうな形状になっていまして、黄色い果肉からパーム油がとれます。もともと、種の方は使われていなかったのですが、そこからも油がとれるということがわかり、パーム核油というものを抽出して、それも利用するようになりました。つまり、アブラヤシからは2種類の植物油がとれるのです。このパーム核油というのが、ココヤシノ実の油、ヤシ油の成分とよく似ておりまして、ヤシ油同様洗剤等の原料に向いているということがわかり、現在その数パーセントが洗剤の原料として使われています。
 パーム油というのはどういうものに使われているかと申しますと、例えばポテトチップス、揚げ菓子などの油、インスタントラーメンの加工のために使われる油なども、大抵は植物油脂というふうに表示にはなっていますけれども、これもパーム油です。一般的に揚げ油に使われている、業務用の揚げ油というのは、やはりパーム油が多いようです。
 それから、情報を集めていって初めて知ったんですけれども、例えばコーヒーミルク。あれも本当のミルクだと思っていたんですけれども、実はパーム油を使ってつくっているということです。このようにいろんなものに使われていますが、その80%から90%が実は食用に使われております。つまり、ほとんどの方が、今日も少しはパーム油をおなかの中に入れているといってしまってもよいと思います。インスタント麺、スナック菓子、マーガリン、ココアバター代替品、それからドーナツ、化粧品、石けん・洗剤、印刷用インク、キャンドルなど、ゴムなどの可塑剤、様々な方面で使われている。ではなぜ、これほどまでに使われるようになったのか。それは、やはり安いということが一つ理由として挙げられると思います。安く生産できる理由としては、まず単位面積当たりの収穫量が植物油の仲で最も高い。それから、年間を通じ安定して収穫できる、精製後も酸化しにくいなど、様々な利点がこの植物油にはあります。
 このパーム油、これが原因になって熱帯雨林が消失している。それなら、これを使わなければいいのではないか、という意見も出るかと思います。しかし、今お話ししましたように、我々の生活を見ればパーム油がなければやっていけないような状況になっているということが言えると思います。
 このスライドはほかの植物油との比較なのですけれども、今一番世界で生産されているのがパーム油、その次が大豆油――二、三年前までは大豆油が一番だったのですけれども、大豆油を抜いて、今はパーム油が断トツで最も生産されている油になっています。右の方の円グラフをご覧ください。生産地は、インドネシアとマレーシアだけで85%ですから、パーム油に関する問題、アブラヤシプランテーションに関する問題は、大抵はインドネシア、マレーシアで起こっている問題であるというふうに考えていいかと思います。
 これは、プランテーションの拡大をグラフにしたものですけれども、水色の部分が半島部マレーシアでのプランテーションの拡大の様子です。70年代から急速に広がっています。80年代終わりぐらいから徐々に増加の勢いがとまってきています。ピンク、それから黄緑のところが、サバ州、サラワク州のプランテーション面積で、80年代の中ごろから徐々に広がってきて、今、拡大の中心、開発の中心はボルネオが中心になっているということが言えると思います。
 これは、あるテレビ番組でつくったアニメーションなのですけれども、サバ州には、キナバタンガン川という有名な川があります。その川の下流域の様子をアニメーションにしたものです。20年前は、そこはほとんどが森林であった、熱帯雨林であった。これが徐々にアブラヤシのプランテーションが広がるにつれて森林が少なくなっていき、現在ではもう川の両岸にぽそぽそと残る程度、この程度の森林になってしまった。この茶色い部分、これはアブラヤシのプランテーションと考えていただいていいかと思います。
 これはヘリコプターに乗って空撮してきたのですけれども、実際の写真でも森が分断されている様子がはっきりとわかると思います。左手の方がプランテーションで、右手の方に森林があります。きれいに木が並んでいるのがわかります。この木、一本一本の距離が大体七、八メートルぐらいだったと思います、この間隔から推測すると広大な面積の土地が、今、プランテーションに置きかわっていっているのが分かるかと思います。
 これは先々月、マレーシアのプランテーション協会のアドバイザー、現在はRSPO――ラウンドテーブル・オン・サスティナブル・パーム・オイルという団体のアドバイザーをしておられる、チャンドランさんがプレゼンテーションに使っておられたスライドです。ここで言われているのは、マレーシアにとってのアブラヤシ産業は、国の経済を支える重要な産業の一つである、特に村落部の発展に必要な役割を果たしている。そして、直接、パーム油生産に関わる仕事だけで57万人の雇用を生み出している。現在では外貨獲得の重要な産業である。パーム油生産はマレーシアにとってもなくてはならない産業の一つになっている。これがマレーシアのパームオイル産業に関わる方々の言い分です。
 では、現地ではその拡大によって、何が、どういうことが具体的に問題になっているのでしょうか。それは、人間と野生動物との衝突、象などが畑やプランテーションに侵入し害獣扱いをされているということ。それから、森林資源の減少。森林がなくなることは住民にとって燃料用の木材がなくな留ことを意味します。薬用・食用の植物も不足します。そういうことが起こっています。また、アブラヤシというのは余り手間のかからない植物なのですけれども、それでもやはり肥料・農薬などを必要とします。しかし、熱帯雨林にはスコールというものがあります。大雨が降るわけです。そのたびに、農薬や肥料のほとんどが川に流れてしまう。それによって河川が汚染されて漁獲量が低下して、その川からの恵みで生きている住民などは被害をこうむることになる。さらに住民はその川の水を生活用水として使います。マンディーといいまして、体に水を浴びるのにも使い、それで皮膚炎を起こすなど、健康被害も現在では出てきているという話を聞いています。
 この方は、フランス人の霊長類学者なのですけれども、もともとそういう消失しつつある熱帯雨林の中でオランウータンがどのようにして、現状に適応しているかということを研究されるために約10年前に現地に入られました。しかし、現地の様子を見ているうちに、研究だけしていてはもうこれはとめられないということで、NGOを立ち上げられました。そして、現在に至るまでのこの10年間、環境保全、オランウータンの保護活動などを続けてこられました。これはこの博士がその活動の中でつくった手書きの地図です。この地図は、先ほどの熱帯雨林の消失の地図と同じで、キナバタンガン川の地図です。黄色の部分と緑の部分が、森林です。緑の部分は原生林、黄色の部分は、サンクチュアリに指定されていますけれども、一度伐採されているということで、二次林ということになります。森林は川の両端に島状に、パッチワーク状に残っているにすぎない。このパッチワーク状、島状になったところには一つ一つ番号が振られておりまして、上の方から、右端の方からロット1、ロット2、ロット3、ロット10まであります。この赤い数字ですけれども、これがオランウータンの頭数です。
 野生のオランウータンは地面は歩かないというふうに、一応、原則的には考えられています。こういうふうに島状に森が隔てられますと、隣の森にはいけない。しかも、オランウータンは泳げないので、真ん中にある黒い部分が川なのですけれども、ここも横切ることができない。つまりオランウータンはこの狭い森に押し込められて、なんとか生き延びているという状態です。必然的に、その小さな群の中で交配を続けますので、遺伝子的な問題などが出てくる可能性があり、将来その生存が危機に瀕することになるのではないかと考えられています。
 オランウータンだけではありません。もちろんボルネオには様々な動物がいます。その中でも象、これは先ほど申しましたように、人間との衝突で問題になっています。これをまず日本で大きく取り上げたのは、『素敵な宇宙船地球号』という番組です。この右側の象の写真を見ていただくと、目をこすっている象の鼻の先、ちょっと黒いものがついています。これはロープが絡まっているんです。象が人里にやってきて、小動物を捕まえるためにつくったわなに鼻を伸ばしたり、小象などは好奇心が強いので、足で踏んでみたりするんですけれども、そのときにロープが絡まります。象は力が強いですから、小動物ならそのまま木につるし上げられて捕まってしまうところを、象はロープを引きちぎって、再び森へ逃げていきます。そのまま成長を続け、絡まったロープが徐々に食い込んで傷口になる。そういう経緯で、足を引きずって歩いている象が、私がいたころには、6頭、7頭認められていました。
 これは、また別の研究者の資料ですけれども、これは、ある時期の象の移動を赤線で示したものです。キナバタンガン川沿いでは、象はこのように移動します。島状になったところ、プランテーション、村人が住んでいるところ、そういうところを横切って移動することになります。そこで、人間との衝突が起こる。そして、わなにかかったり、あるいはプランテーションの中に入れば、プランテーションの管理人に邪魔だからということで撃たれたり、そういう形で人間との衝突が広がっている。そういったことが問題になっています。
 これは、サラヤが資金を提供しまして、負傷した象を助けようということで現地に向かい、そのときに捕まえた象なんですけれども、この象は足にロープが絡まっておりまして、このように肉が巻きつき、傷口は化膿していました。これを現地の野生生物局とチームをつくって捕まえ、施設に送り、このひもを切ってやって、傷口を治療し、1カ月後、傷口がおさまるのを待ってから森へ返してやる。こういうプロジェクトを行いました。
 しかし傷ついた象の救助というのは、問題の根本的な解決にはなりません。では、どういうことをすればいいのか。解決のためには、パーム油産業と生物多様性の共存を図るということを考えていかなければならない。まず野生生物生息域を確保する、それから、社会・環境に配慮したパーム油産業の発展、そして地域住民の理解と協力を得る、こういうことを指針にして活動の方針を立てました。今日お話しするのは、主に野生生物生息域の確保ということに関する活動です。この2番目の社会・環境に配慮したパーム油産業の発展ということに関しては、WWF主導で細くしたラウンドテーブル・オン・サスティナブル・パーム・オイルという団体に参加するということで一歩踏み出したことになります。サラヤは、日本の企業としては初めてこの団体に加盟して、提言を行ってきました。
 次に野生動物の生息域の確保でについての活動ですが、サラヤはこういう分野と全く関係のない企業でした。したがって、現地で自らプロジェクトを立ち上げるということはかなり難しいと考えました。ならば、現地で実施されているプロジェクトを支援するような形でやっていくのがよいであろうと考えました。政府の関連部署や団体にコンタクトをとり、情報を集めているうちに、まず挙がってきたのがWWFのプロジェクトでした。ただ、私が現地へ行きましたときは、トップの方が入れかわられたり、何かの内部の問題があり、コンタクトがとれなくなったという事情がありまして、WWFへの協力はあきらめざるを得ませんでした。その当時、JICAがBBECというプロジェクトを現地の野生生物局と行っておりまして、私はそこにコンタクトをとりました。何か協力できる方法はないかということで専門家などに話を聞きそのプロジェクトを視察するところから関わるようになりました。
 民間企業がこのような形で関わってくるということは、現地の野生生物局にとってめずらしいことのようでした。民間企業の協力が得られるのなら、ということで、野生生物局が持ち出してこられたのが、長く保留にされていたボルネオ保全トラストという構想です。
 これは先ほどの日本生態系協会の発表に生物多様性保全の基本は土地の確保であるということをのべておられましたが、まさにそういう指針に沿って行う事業であるといえます。具体的に言うと、先ほどお見せした島状になった森を川上からずっと川下まで、回廊のようにつなげてしまおう、分断された島状になった森をつなげてしまおうというプロジェクトです。現地で理事を集めまして、ボルネオ保全トラストとして発足し、昨年10月サバ州の政府より認可も得て活動を開始しました。
 活動内容としては、緑の回廊のための土地を入手するということ、生物多様性のために活動している組織や人々のために、プラットホームを提供すること、ネットワークを確立すること、有限地球生物圏における持続可能な人間社会の変革を促進するモデルを確立するということを挙げています。根幹になるのは、もちろん、緑の回廊のための土地を入手するということです。
 これはキナバタンガン川下流域にあるサンクチュアリです。合計2万7,000ヘクタールあります。それらの森林は分断されています。近隣のセガマ川流域にも分断された森林がある。それらの森林をあわせて緑の回廊をつくっていく。最終的には2万ヘクタールの土地を確保するということを目標に掲げています。
 これは先ほどのドリームマップを拡大したものですけども、濃い緑色のところが、守られている森林、黄色の部分、黄緑色の部分を確保していって、回廊を確立しようというものです。野生生物局が調べて、記録しています。これは、もうちょっと川上の部分ですね。
 では最終的に買収に一体どれぐらいかかるのか。土地によっても値段も違います。だれが持っているのか、どういうふうに獲得していくのかということで、価格はばらばらなんですが、エーカー当たり6,000リンギットという、目安を立てて計算したところ、93億7,100万円という見積額が出されました。何十億というお金がかかるプロジェクトになるということがわかったわけです。
 この時点で、サラヤのような、それほど大きくない一企業で支えるのはとうてい無理な事業であるということがはっきりしてきました。
 そこでこの事業を支援するために、いくつかの企業を回りましてお話を聞いていただいて、資金協力などもしていただくようお願いしましたが、現状ではと寄付する側のメリットが見出しにくい。そこであがってきた要望が生物多様性の保全に取り組んでいる企業に対しての優遇政策ということになります。
 これは、ボルネオ保全トラストのロゴマークなのです。これを活動の看板としまして、運動を広げていきたいというふうに考えております。
 ここからはちょっとキャンペーンの話になるので、担当を替わらせていただきます。

【代島氏】 すみません。ここからリテール・マーケティングを担当している代島と申しますが、ご説明させていただきます。
 今までのお話にあったように、ヤシノミ洗剤がこの活動を始めるきっかけになりました。36年前からある小さな洗剤のブランドなのですが、ヤシという音がつくために、2004年8月以降、この問題に巻き込まれていきました。また、動物が痛めつけられているというか絶滅、そういう話と結びつけられていたので、非常に感情論的になりやすいムーブメントが起きていまして、いわゆる不買運動に近いような投書とかメールが企業に届くようになっていきました。今も国家戦略として取り上げられているわけですが、マスメディアというのは、やはり情報が多くなっているというのが、非常に私たちを突き動かした、いわゆる消費者から突き動かされて動いたというのが経緯でございます。
 現在は、逆に私たちはパームオイルの本当のことを知らせる役割と、それから、消費者が1人でもこの問題に関心を持って、かつ、ボルネオというのは日本と非常に関係が深いところでありますが、一つのモデルとして、ここに興味を持つ方が1人でも多く増えてほしいということで、ことしの5月からヤシノミ洗剤の売り上げの1%をボルネオ保全トラストに継続的に支援するということを、店頭の、まず、私たち製造メーカーの一番の命でもある商品そのものに表示をする。そして、店頭販促物それから一般の告知媒体すべてに宣言をするということを始めました。たかだか台所用洗剤の市場の中では2.5%ぐらいしか持っていない非常に小さなブランドなんですが、今、ロハスみたいな消費者の動向もあって、幸いなことに、この活動を始めてからヤシノミ洗剤の売り上げがずっと落ち続けていたんですが、少し回復基調になってきております。それは支持を得ることができてきたのかなと解釈をしております。いわゆるグリーンコンシューマーの運動に結びついていくのだと思うんですが、何もしていないものより何かしている。そして、洗剤メーカーとしては洗剤を必要悪だということも、機を見て話をするようにしています。できれば使わない方がいい。どうせ使うなら、いい洗剤をちょっとだけにしてほしい。そんなメッセージも一緒に添えて、このボルネオから原料が来ているのは間違いないので、そこの生物多様性を守る義務も使う側にあるのではないかということをわかっていただける消費者を1人でもふやしたいという思いで、消費者キャンペーンをスタートしております。
 これも、ことしの年末商戦に向けてつくるものなんですが、実際にボルネオ調査隊という第一陣を9月に現地に派遣するキャンペーンをやっています。一般の消費者の方と社員が一緒になって、現地に行って実情を視察して、それをレポートにまとめて発表させていただきます。この活動を継続していくことで、この中にはボルネオの位置もあるんですけれども、一般の方でボルネオどこですかと指し示していただこうと思っても、わからないです、ほとんど。そこからのスタートなんですが、こういう野生生物の写真などもふんだんに使って、ここにはオランウータン、それから、象、ラフレシア、テングザルなどの写真も使っていますが、こういう野生生物のカメラマンとも、またこれも共同作業をして、一般の消費者の方にこの生物多様性というのをもっとわかりやすく、自分たちとつながっているというのをアピールしようというふうに考えております。
 簡単ですが、最後は私の方から消費者についてのキャンペーンについて、ご説明させていただきました。
 以上です。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 ご丁寧な説明、ありがとうございました。ちょっと予定の時間を全部使ってしまったものですから、もしご質問でございましたら、どうぞよろしくお願いいたします。
 和里田委員、お願いいたします。

【和里田委員】 今のご説明、前の方の緑の回廊の実現のお話でしたけども、この資料で試算をされていますが、ちょっと理解に苦しんだのは、この土地をなぜ買わなければならないのかということ。これを相手国としても、環境保護その他ということから、土地利用の規制、あるいは、必要ならば国立公園の指定をするというようなこととか、いろいろな行政上の措置もあるはずで、それをなぜ、これを、土地を買うという計算から入ってしまうのかと。やはりその相手国の政府その他とその土地の利用のあり方その他ということを十分詰めて、そちらの方をまず啓蒙していくということが先じゃないかというのが強い印象で、単にこれをお金を計算しちゃったので、それであちこちから寄附下さいというのは、ちょっと安易ではないかという感じがしました。

【中西氏】 もちろんこれは、サラヤ、日本側が発案した話ではなくて、現地の野生生物局の方々、あるいはこの理事にも、現地の方、森林局の方など入っていただいているのですけれども、向こうにも法律がありまして、川岸20メートル以内は何もつくってはいけないとか、そういう法律もあるんですけども、ただそれが施行されていなかったりとかそういう問題もありますので、そういうことも含めて、このボルネオ保全トラストで、そういう政府の方の実施する部分であるとか、そういう政府の官庁であるとか、そういうところにプッシュをかけていって、もちろんそういうことで獲得できる部分はやっていくのですけれども、もうプランテーションとして広がっている部分があるんですね。そういうところは、やはりある程度の代償というか、そういうものをお支払いして獲得していかないと、もう、森林として回復できないという部分もありますので、そういうところは、このプロジェクトでやっていこうということで、もちろん所有しますのは、ボルネオ保全トラストという現地で法的に認められた団体が所有することになりますので、個人の土地になったりとか、そういうことではありませんので。

【和里田委員】 ほとんど企業の土地になっちゃっているの。

【中西氏】 そうですね。プランテーションが広がっていって、変わっていってしまっているという状況です。

【熊谷委員長】 ほかにございますでしょうか。
 桜井委員、お願いいたします。

【桜井委員】 大変、非常に大事なことだと思うのですけれども、ちょっとお聞きしたかったのは、ちょっとタイムスパンがよくわからなかったのですが、どのくらいの時間のスケールでこれを回復しようとしているのか、ちょっと見えなかったんですが。

【中西氏】 できるだけ早くということがまずあるんですけれども、ただ実際にはどういうふうに土地を確保していくかと申しますと、まず、これだけ、この部分、先ほどの黄緑色の部分であるとか、黄色で示してある部分ですけども、それぞれ個別にこの土地の所有者であるプランテーションがちょっと話に乗ってくれそうだとか、そういう個別の当たり方をしていますので、全体を回復するのにどれぐらいかかるかとか、そういうことは、今はまだ予測は不可能な状況です。現在2カ所で話が進んでいて、この土地を持っている方が、今、話に乗ってくれそうだという話があって、そこを集中的に今はやっているという状況で、これからどれぐらいかかるのかというのは、全然先が見えていないです。しかも、プランテーションは広がりつつあるので、余りこちらもゆっくりやっていると、手おくれになってしまうという現状はあります。

【熊谷委員長】 浜本委員、お願いをいたします。

【浜本委員】 私も10年以上前から東南アジアの方に行きまして、ちょうどこのパームヤシ油が日本でもすごい市場を確保し始めたころ、余り国民の方たちが洗剤以外に使われていることを知らなかったころに、特にタイの南側の方だとか、あのあたりのプランテーションをずっと見てきたんですけれども、サラヤさんのこの活動はとても支援できるものだし、たくさんの方たち、国民の方たちに知っていただかないといけない。特にこの生物多様性という考え方からしても、もっと知っていただきたいとは思うのですが、実際に企業としてのサラヤさんのこの原料が核油であろうが、ボルネオから来ていることは確実ですよね。それがどこにも書いていないです、このレポートの中に。見ましても。私、ずっと見たのですけれども、どれぐらい年間、どこから来ているのか。実際に保全活動をしようとしている、トラストをしようとしている、ここからはさすがに来ていないだろうと思うんだけれども、ボルネオのどこから来ていて、どれぐらいの量で、企業として実際に営業をずっと続けて成長していくためには、どれぐらいの量を確保しなければいけなくてとかということを実際にもっと具体的に、この活動の中に盛り込まなければ、やはり生物多様性というものに、企業はこれだけ寄与していますよということが、余り実情がわかっていない一般の国民の方たちには賛同より誤解を生むのではないかなというのを、今すごくちょっと感じましたので、そのあたり説明をお願いいたします。

【代島氏】 まさに、ご指摘を受けたことが、やらなければいけない企業としての最初の項目に現在挙げております。
 私たちは、RSPOという国際会議に毎年参加しております。ことしも11月にラウンドテーブル5というのがシンガポールで行われます。それまでに、今ご指摘のあったサラヤの原料が来る、サプライチェーンマネジメントとして、商社、それからその前の製油の会社、さらにその前のというふうにさかのぼっていって、現在、アンケートを策定して、これから7月に入ったら、そちらに配付をします。10月までに回収をして、統計をとって、今おっしゃられた、自分たちが使っている原料がどういうルートで入ってきていて、私たちはパーム核油がほとんどなんですが、それもどういうルートで入ってきているか。これを消費者に、実際に公開できる準備を今しています。何分、2004年から急激に始まった活動なので、現在、ちょうど進行中のプロジェクトもございまして、ご指摘のものは、ことしの10月の段階ではホームページからまず公開できる状態にしようというふうに考えております。
 参考までに、ことしの9月からは、こちらのパッケージにあります、横塚眞己人さんというカメラマンの、生物多様性に視点を置いたウェブ写真展という、ボルネオの生物多様性を一般の人たちに知らせる写真展をウェブ上で開催をするということも考えておりますので、その情報とあわせて、先ほどの自分たちの原料についての情報公開をやっていこうというふうに思っております。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 いかがでしょうか。よろしゅうございますでしょうか。
(なし)

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 それでは、サラヤ株式会社に対しますヒアリングをこれで終了させていただきます。
 どうも、中西様、代島様、ありがとうございました。
 続きまして、最後のヒアリングになりますが、パルシステム生活協同組合連合会からのヒアリングをお願いしたいと思います。
 大変長らくお待たせいたしました。パルシステム生活協同組合連合会の商品統轄本部産直事業部の次席の田崎愛知郎様から、ご発表をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

【田崎氏】 どうぞよろしくお願いいたします。
 パワーポイントではなく、報告レジュメに沿ってパルシステムの「新農業政策及び事業の展開」を補足資料のパルシステム産直データブック、報告をさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。
 パルシステムという名前の由来なのですけれども、まず、もともとは首都圏コープ事業連合という、東京を中心にした小さい生協の連合会でした。現在、このパルシステムの概要に書いてあります1都7県の各都県の中規模生協の連合会です。私が所属しているのは、そこの商品関係、商品の調達・開発をする部署になります。
 現在、組合員は、100万人と書かれていますが、実際、商品供給では個配事業がメーンになり、そこは登録では90万人、毎週繰り返して注文、配達で買い物をする人は65万人ぐらいという規模です。年間の供給高はここに書いてあるとおり、1,600億円になります。
 パルシステムは、先ほど言いましたとおり、小さい生協ということで、いろんな生協が集まっていたので、そこでまず共有する理念というところの議論が、1990年ぐらいからはじまり、ここに書かれている基本理念、事業理念、組織理念を1995年ぐらいまでの議論の中でつくってきた過程があります。このように書いてあるとおり、「心豊かなくらしと共生社会を創ります」ということに基づいて、事業としては、「環境と調和した事業を進め、協同の力で組合員のくらしに貢献します」、組織的な理念としては、「『多様性の共存』を大切にし、協同連帯の輪を拡げます。より多くの組合員の参加と、社会に開かれた運営を実現します」ということで、いろんな議論はありながら、要望も少しずつ変わりながら、ほぼ1995年ぐらいにでき上がったもので、今までこのまま継続し、理念に基づいた事業活動を展開しています。
 私は、大体1993年に小さい単協から連合会に移籍し、以来、ここに書いてある、どちらかというとスタッフ的な仕事になってきました。そういう政策的なところに関わる部分が多かった経過がありまして、この新農業政策の展開その一と3番目に掲げてありますけれども、当初1993年の米の不作、1994年の米パニックのときに、産直ということで非常に議論になりまして。議論になったというのは、米の不作で組合員に届かなかったということで、ではどういうふうに安定できるような仕組みをつくっていくかということで始まったのが、予約登録米制度ということです。
 その後、商品の中身について、連合会で各小さい生協が合同したので、なかなか商品統一というのができなかったのですが、少しずつ手をつけて、こういう農薬削減の問題、それと「theふーど」と書いてありますけれども、商品政策として、どういう商品をつくっていくかということ。ここに書いてある五つの視点ということで、自然や生きるものみんなに優しい食料生産、食料の国内自給と輸入に関する定義、安全な食生活、共生の価値観にもとづいた地域との提携、暮らし方の改善、これを視点にして商品開発をしてきた経過があります。それと、公開確認会と書いてありますけれども、これは産直データブックのところの17ページですね、農産物なりの安全・安心を確認するのに、普通は第三者の機関に預けて認証を担保するわけですけれども、パルのところでは、原料のところ、生産者ですね。工場ももちろんありますけども、今は両方の公開確認をやっていますけども、生産者、あとは加工のメーカーさんにプレゼンをしていただいて、それを一つは組合員が自己責任ということで、それを確認していくという仕組みです。だから、常時それができるわけではなくて、生産者との関係の中で言うと、組織についてのプレゼン、理念、各生産者なり加工メーカーさんで理念から生産履歴までを明らかにしていただいて、それを組合員が質問しながら理解を深めるということを公開で行う仕組みです。
 そういうことを新農業政策への転換第一期としてそれぞれ順番に推進してきた中で、首都圏コープの新農業政策をここに書いてある2000年に連合理事会で確認しました。方向性としては、農業が食料生産の根幹であるということ。それと食料と農業は統一的にとらえて、生産者、それから消費者を生活者として一体的にとらえ直すということで進んでいこうということです。生協自身も農業の事業に対して積極的に関わっていくんだということで、当時、首都圏コープ新農業政策ということを立てました。
 それに基づいて、新農業事業推進室という部署、そこに私は当初属したわけですけれども、部をつくって、連合会の会員生協の理事、職員を含めプロジェクトが組織され、何を活動分野としていくかという議論をやってきました。その中で、ここに書いてある5番目のところの新農業事業の展開その二というふうに書いてある五つの分野ですね。「theふーど」を核とした産直の拡大ということ。資源循環・環境保全型の農業モデル、地域モデルを推進していこうということ。それと、それに付随というか連携しますけれども、交流事業の本格的事業化ということです。あと、ゼロ・エミッションの事業ということで、おからの飼料化、堆肥・肥料の事業化ができないかということで、課題推進を進めてきました。
 そういう中で、成果があったものと、実際にはなかなか進まなかったものが両方あるわけですけれども、こういう五つの分野で活動をしながら、商品開発も含めてやった、現在もそういう意味で進行しているものももちろんあります。それを新農業の事業、政策活動の第一期とすると、2006年の7月のところ、生協は総代会が大体6月にあるので、新しい人事が決まるのは大体7月なので、7月からそのような活動が始まることになりますので、7月からここに書いてある「ふーど部会」「交流部会」「生きもの調査部会」の三つをつくりました。それぞれのところ、本来関連するわけですけれども、三つのところで、それぞれ専門部会として活動しようということで始めて、現在に至っています。そういう意味で、約1年、今まで活動をしてきた経過があります。
 内容的には、次のページの6番目のところに書いておきましたが、生きものの視点から環境と農業、そして暮らし・地域を見直す-その一と書いてあります。推進事例で幾つか書いてありますが、その基本的な考え方というのを新農業事業として推進してきた各領域についての生きものの視点=生物多様性の視点から商品事業、交流事業、地域農業モデル、先ほど言いました循環型の地域モデルづくりというところの全般について見直しを再度、進めていこうということになりました。
 そういう意味で、ここに黒丸で四つ書いてありますけれども、これはそういう第二期の新農業事業の活動の中からできた商品です。「ふーどの牛肉」というのは、北海道アンガス種ですけれども、地元産素牛導入をしながら、生物多様性の一つの形だと思いますけれども、アニマルウエルフェアーの視点を入れて、環境と畜産動物の生理、健康から評価のできるような飼養管理をしていく。それを一つ商品としてつくっています。非常に頭数が限られているというのがあって、60万人のうちの組合員さんに供給できるのは2,600人の数字です。
 それと「ふーどの卵」というのは、これは結構取り組みが早くて、最初の新農業事業のときに、ゼロ・エミッションということで、PBの豆腐メーカーさんと組んで、山梨の工場と山梨にある養鶏農家、平飼いの幾つかの農家との循環で、おからを飼料にできないかということで、単なる飼料を、残渣を入れるということではなくて、生物多様性ということに話は整理できると思うんですけれども、発酵飼料として循環型の飼料、これは鶏の健康に結びつくということと、あとは卵の品質がすごくよくなったということで、あとはアレルギーの人にというふうには組合員は言うんだけれども、学問的に証明がまだないということで、なかなかチラシには出せませんけれども、組合員の声としては非常に好評で、一度使った人は減らないということで、結構、6個パック280円の価格設定をしていますけれども、今、3万人の人が予約登録で買っています。
 そういう意味で、幾つかありまして、有機野菜のセット、あとは「海を守るふーどの森づくり野付植樹協議会」ということで、これも北海道の野付湾で――2005年にラムサール登録で登録湿地にされた地域ですけれども――それ以前に、地元というか漁協婦人部のところは植樹活動をやっていました。それに、その当時の新農業事業の関係者が行って、一緒にやりたいということでお願いをして交流が始まった経過で、商品も開発されたわけです。そういうので、生産者自身も、この漁業者のところは四輪採区というふうな形で、湾内を畑みたいな形で栽培漁業をして、4年目にやっと収穫するというような形。だから、漁業者と言っても、非常に、農業者のような感じの印象がしたりする人たちなのですけれども、そういう意味で、ここで基金制度をつくって植樹活動、これは交流事業の一環でもありますけども、私ども組合員交流で毎月交流チラシを配布して、組合員に呼びかけるわけですけども、「産地に行こう!」というチラシの毎年の6月企画にこれが入っています。そういう意味で、組合員参加の参加費補助と、植樹にかかる森林組合委託費、行ったときの苗代とかに充てる基金制度をつくって、活動をしています。そういう意味で、その結果としての海を豊かにして、「ふーどのホタテ」の供給をしているということになります。
 今日メーンで話すところは、7番目のところになります。生物多様性農法と田んぼの生きもの調査ということで、これについては二つ折りのパンフがあると思いますけれども、このパンフはことし田んぼの生きもの調査を広げていこうということで、これはパルだけではなくて全国に広げていきたいということで、生きもの調査プロジェクトの名前でつくりました。現在、実際にやっているところで、これはもう、7,000枚ぐらいを刷って、ほぼ、今年のところではまき切るんじゃないかというふうに思っています。
 まずスタートのところは、7番目のところ、ふーどのお米というのは、もともとはパルシステムのところで有機栽培ということで、農薬を使わない、化学肥料を使わないということで、有機JAS認証をとったお米を基本にして、そういう商品をつくっていただいたわけですけれども、理念にあるとおり、考え方からして、ただ農薬を使わない、化学肥料を使わないということではなくて、食の安全を、そういう「ない」「ない」尽くしで安全を保障するということではなくて、農業と環境の共生ですね、そこを基本にして環境というときに、生物多様性、自然の循環機能を生かした農法というのが第一に必要だということで、それを生産者のところに試験栽培を提案しました。これは2004年の春の作付に向けてです。実はそれ以前に交流事業ということで、生きもの観察会、生きもの調査と銘打ったこともありましたけども、当初は交流事業の一つの企画として、農薬を減らして、化学肥料を減らした有機とか減農薬、減化学肥料栽培の産地だったら、生きものは従前よりも豊かになっているだろうという、そういう仮説でもってやったわけですけれども、生産者のところ自身が、なかなか生物の多様性とかというところの意識というよりも、生協組合員さんにそうして苦労したものを買ってもらうのだということでの企画にしかやはりならなかったということで、当初生きものというところで、非常に産地交流の中で非常に喜ばれたのですけれども、企画の一つということで、じゃあ、その企画が理念だったらほかのものをやろうというような形で、だんだん定着はしましたが飽きられてくるというふうになりました。
 パルのところの説明を先にしなきゃいけなかったのですけれども、米産地との田んぼの交流については非常に数が多くて、それは生協は小さいときに連合会で一緒になったということがあって、それぞれの産地と会員生協が結びつくというふうになっています。
 それで、6ページのところを見ていただければと思います。産直米データというところで、地図があり、主に東日本、東北地方になりますけれども、ほとんどの産地がどこかの会員生協と結びついているということで、毎年田植え、草取り、それとサマーキャンプもやるところもありますけれども、稲刈りの約6カ月間に2回か3回の系統的な交流を行い、その中に生きもの観察会を当初入れました。それは、先ほどのように企画の一つとして終わったということで、その後、それに単なる農薬・化学肥料を使わないということではなくて、自然の循環機能を生かした生きものと農業の関係に視点を持つという積極的な話を聞き、そのことを2004年作付けに向け各産地と会員生協に提起して、生物多様性農法が始まりました。それが、2004年度4産地で、2006年度は2産地ということで、順調に各産地で実験的な栽培から本格的にやるところも出てきました。現在11産地と各会員生協の田んぼの交流の中で試験栽培をやることとあわせ、田んぼの生きもの調査ということで、非常に産地でいろんな温度差がありながらも、この二つを同時に進めるというやり方でやっています。
 非常に変わったのは、生産者が今までのお米をつくる苦労を草取りの苦労とか、いろんな肥料、収量が落ちるとかということを一生懸命組合員に説明して、それを理解してもらってという話が多かったんですけれども、そうではなくて、どういう生きものがいたかというのが夜の交流会で話題になるというように、がらっと変わってきたというのが実際にあります。まだ3年目ですが、そのように、お米に対する見方が、生産者、消費者とも変わってきています。
 それと同時に、次のページのところになりますけれども、田んぼの生きもの調査プロジェクトの開始ということで、当初、パルの4産地で始めたのですけれども、翌年から全国的な広がりから、当時、一緒に協力してくださっているJA・全農さんと一緒に組んで、プロジェクトを結成しました。参加については、NPO法人田んぼ、それとNPO法人民間稲作研究所、農村環境整備センターがシンクタンク的役割を担い――まあ、シンクタンクというのは、NPO法人田んぼの岩渕先生がこの調査手法についてのアドバイス、指導をしてくださるということと、生産者に対しての栽培の技術については民間稲作研究所の稲葉先生が指導をしてくれるということを踏まえて、全国展開をしようというふうになりました。非常に急速に伸びて、実際にはプロジェクトといっても寄り集まりということもあって、事務局体制もそんなに確固としたものがなくて、どちらかというと発生主義的にやっているので、現在、ことしは約60産地ぐらいがプロジェクト関係の中で行われることと、生きもの調査については独り立ちして始める地域、いろんなアドバイスとか、インストラクターを派遣してやるところとを含めると、100から150ぐらいの回数になるんじゃないかと思います。多いところは、毎月1回やる調査の産地もあります。
 それと、去年あたりから顕著なのは、地域の学校、総合学習の時間なり、学校田での冬水田んぼをやったり、生きもの調査を一緒にやったりというふうな形が非常に多くなっています。そういう意味で、環境学習的なところの側面もあわせて、地域の市民調査という形になっています。それと、生産者にとっては営農に結びつく調査ということで考えています。
 委員さんのところには行っていると思いますけれども、『田んぼの生きもの図鑑・ポケット版・』というのがありますけれども、実はこれは販売をしていて、300円で参加者に買ってもらうようにしています。ただであげてもいいのですけれども、ただであげると、あんまり物を大事にしないというのがあって、ぜひ買ってもらう形でやるようにしています。これで2刷り目なのですけれども、1刷りが一昨年、2005年の秋につくって、1年半で2万冊を販売しました。それで、今年7月、ちょうどこれ、刷り上がったばかりなのですけれども、もう一回1万冊今増刷して、各地で現在使っているところです。そういう意味で、生産者だけではなくて、消費者も一緒に同じ田んぼの中を同じ生きものを同じ目線で見るというところから、営農のこと、それから、生物多様性といいますけれども、生きもののつながりだというふうに僕らは言っていて、「生物多様性」と組合員に言うと、何か非常に偉そうに言っているのだということと、なかなか理解されないので、田んぼの中の生きもののつながりを知ることが生きもの調査というふうに言っています。
 だから、前回生きもの観察会で失敗したというかなかなか定着できなかったのは、生協の組合員さんもそうですし、生産者もそういう見方で田んぼの中を見なかったというところが大きかったんだろうというふうに思っています。現在、そういう意味で、パルシステム、それからJA・全農さんを含めて、一緒の形で、企業のCSRではないですけれども、僕らは事業そのものはこういう形でやって、パルシステムだけが変わっていくのではなくて、全国全体が変わっていくんだというところの活動としてやっています。
 このことについては、産直データブックの6ページのところの下19ページのところに出ています。20ページのところに、いろんな産直協議会が出ています。田んぼの産地が多いですが、農業体験の田んぼの交流、それからそういう生物多様性の試験栽培を含めて、ここからいろんな深化した交流事業と地域づくりに向かい、地域にNPOが幾つかできたところがあります。そのようなそういう形が現在進んでいるところです。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 大変丁寧なご説明いただいたんすが、またちょっと時間が押しておりますけれども、ご質問がございましたら、ぜひお願いをしたいと思います。
 和里田委員、お願いをいたします。

【和里田委員】 非常に興味深く聞かせていただいたんですが、この産直を心がけておられているということで、その一般的に我が国は外国からの輸入が多いというふうに言われておりますが、その産直の努力によって、我が国の平均に比べて、国産を利用する率が相当上がったとかというような形が出ていますでしょうか。

【田崎氏】 パルのところは、基本的に店舗がなくて商品案内で販売・供給をしているということがあって、海外商品、農産物で言うと、非常に、日本で生産できないバナナとかパイナップルとか、何種類しかないんですよ。そういう意味で、基本的には国産を基本にしているので、その中で、あとは産地との関係だというふうに思っています。だから、そういう意味で、生産者と信頼関係をどういうふうに担保するかというところで、交流の事業、それと先ほど言いました公開確認会とか、それを別に義務的ということよりも、生産者が、自分たちがどういう考え方、理念を持って生産して、消費者はどういうふうにつき合いたい、関係を持続して持ちたいかということをお互いに言い合いながらというようなところで、産直というのが、一つ、言葉だけではなくて成り立っているのだというふうに思います。

【熊谷委員長】 ほかにいかがでしょうか。
 高橋委員、よろしくお願いいたします。

【高橋委員】 すみません。ちょっと些細なことを聞かせていただきたい。最初の方に牛肉とか卵、発酵飼料を使ったりしているということは、生物多様性の関係でという関連性をちょっと教えていただきたいということと、もう一つ、生きもの商品というものが、今後どの程度見込みがあるか。例えば生協だとかなり生産者に近いところにいるんですけど、今までお話しになったようなイオンさんだとか、大きなところにも実際聞くべきだったと思うんですけど、聞かないでしまったんですけど、その辺の見込みとかを教えていだだければ。

【田崎氏】 実は、先ほどレジュメ全部は読まなかったんですけれども、4ページの最初のところにパルシステムの新農業委員会活動方針、2007年度の目的のところに書いて、三つ並べてあるんですけれども、一つは生きものと共生する農業の価値を広げますということで、これは自然観を変えるということですね。今まで、だから日本農業が農薬・化学肥料漬けというふうには言いませんけれども、大量生産、大量消費のための農業生産、これはやっぱりそうではなくて、そういう生物多様性というか、生きものの循環、自然の循環機能を生かした農業、それは昔の農業に戻るということではなくて、科学的な知見をちゃんと理解した上で、栽培なり、飼料管理をしていくのを価値として認めていきたい。認めていきたいというか、価値として広めていきたいということで、経済的な価値とは別のものだというふうに思っています。そういう意味で、これを組合員に理解してもらう、一緒に理解していこうということで、一つは経済価値から抜けた価値商品として、ふーどの商品を展開しようということで進めています。
 だから、先ほど言いました生物多様性農法――、言葉の定義はまだ明確ではありませんけれども、湛水管理をして整備をして、田んぼの中の稲をほかの生きものと一緒に育てていくんだというような決意でもって生産者が始めて、それを栽培として成功する、確立するんだというところまで追っかけていこう。それを組合員に理解してもらって、科学的なところで言えば、直接のコストは多分差があると思いますけれども、人間として、人として田んぼに入る時間がやはり多くなると思いますので、それの価格設定は必要だというふうに思っています。
 それと同時に、仕組みづくりを3番目のところに書いてありますけども、今は検討中で決まってはいませんけれども、来年に向けた話というのが、民間版の環境直接支払いみたいな形を商品案内の中に入れていけないかというふうに考えています。例えば、一つの考え方ですけども、お米を例にとって5キロ、例えば3,000円の商品があるとしたら、大体1%程度ですね。だから、3,000円だと300円、0.5%以内とすると100円から150円で、仮に100円を組合員に出してもらえないかということで、チェックするわけですけども、商品の価格の隣にチェック欄を置いて、気持ちのある組合員のところにはチェックを入れてもらって、それを集めて、そういう活動をしている地域の生産者の組織と、先ほど協議会がありましたけども、そういう地域の環境を保全なり、水田再生を含めてやっている活動に対して活動支援をしていこうという仕組みをつくろうというふうに思っています。それが、ふーどの牛肉とか野付の植樹とか、それぞれお米の産地で、今、4ページのところの表に出ている11地域ありますけども、この中でそういう生産をしようとしているところにできないかという話をしているところです。
 すみません。ちょっと答えになっているかどうか、あれなんですけれども。

【熊谷委員長】 いかがでしょうか。よろしゅうございますか。
 ほかにございますでしょうか。
(なし)

【熊谷委員長】 よろしゅうございますでしょうか。
 それでは、時間の関係もございますので、パルシステム生活協同組合連合会へのヒアリングは、これで終了させていただきたいと思います。
 どうも、田崎次長、ありがとうございました。

【田崎氏】 どうもありがとうございました。

【熊谷委員長】 まだ、いろいろとご意見がおありかと思いますが、一応、ヒアリングに関する個別のまだご質問等がございましたら、ぜひ後ほど事務局の方へお申し出いただければ、文書にて各ヒアリング対象の方々へお聞きしたいと思いますので、一応ここでヒアリングに対する個別のご質問については、切らさせていただきたいというふうに思います。
 それで、残りました時間、それほどございませんが、それを使いまして、もう一度全体を振り返っていただきまして、委員の方々からのご意見を賜ればというふうに思います。また、できましたらば、委員相互でいろいろなご議論をいただいてもよろしいかなと思いますので、基本的には委員の方々からコメントをそれぞれいただけたらというふうに思いますので、どうぞよろしくお願いをいたします。
 どなたからでも結構でございます。多分、朝からで大分お疲れになっていると思いますが、どうぞご意見をいただけたらと思います。
 和里田委員、お願いをいたします。

【和里田委員】 午前中の三つの地方自治体のお話、非常に興味深く伺いました。そのときに服部さんがいいことをおっしゃったのですが、当然、トップダウンじゃなくてボトムアップで、いろいろな活動が進んで実ってきているということが各自治体等の説明があったのですが、その中で服部さんが指摘したように、やはりそのときのトップ、為政者の認識、それが相当左右するのだということを痛感いたしました。ですから、やっぱり、これから、次の計画の際には、その辺、国が示すということだけではなくて、地域地域の国民それぞれの意識が必要ですけれども、さらにやはり個々の自治体、単位単位のやっぱり認識・意識でまたリードしていただくということの大事さということを痛感いたしました。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。大変大事なご指摘だと思いますし。
 ほかにございますでしょうか。では、川名委員、お願いいたします。

【川名委員】 私も午前中の地方公共団体のところで、ちょっと疑問に思ったことがあるんですけど、特に2人の知事がボトムアップだとか住民参加だとか言って非常に喜んでいらっしゃったのですけれども、私の知り合いとか親類で、そういうものに参加している人って聞いたことがない。一体どのくらいの人が、どういう意識の人が参加しているのか。まるで知事さんたちは、住民、県民がみんな参加しているよう思っていらっしゃるような感じです。そこら辺はどうなのかというような気がちょっとしました。
 それから、昔の活動家という人たちが参加しているのではないかと、ちょっとそんな気もしましたし。だから、参加している人たちは、この生物多様性という意識はないんじゃないかという気がして、ちょっと聞いてみたいような気がしました。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 これはご質問ですので、事務局の方と私の方で整理をさせていただいて、ほかのご意見も含めて、いろいろ自治体なりなんなりにご質問を返してみたいというふうに思いますので、それでよろしいでしょうか。

【川名委員】 はい。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 ほかにございますでしょうか。では、鹿野委員、お願いをいたします。

【鹿野委員】 私も少しおくれてきましたので、最初の学会等はちょっと失礼してしまったんですが、次のところの地方公共団体から、ちょっと、全体の感触というのでしょうか、感想を述べたいと思います。
 まず、地方公共団体なんですが、我々とすれば生物多様性、特に国家戦略がどうして地方に浸透しないのかと気にしているところなんですが、やはり自治体の生物多様性ってトップ次第だなというのが、まず実感です。
 もう一つは、あの琵琶湖を抱えた滋賀県で、環境保全熱心な県でさえ、一般の県民には「生物多様性」という言葉を使っていない。違う言葉で常に説明しているというのを聞いて、やはりちょっと一つショックを受けたところです。堂本千葉県知事でしたかね、最後には各自治体に本当に進めるなら、制度的な対応が必要ですというようなことを言われたと思うんですが、これまた、印象に残った言葉でございます。
 次に、企業の取り組みですけれども、これは聞いていてなかなか悩ましい、先ほどの自治体よりもっと企業が取り組んでいる先の人たちと生物多様性という言葉は、もっと乖離があるというような感じがしました。ですから、これを浸透させる、難しいなと。いろいろ活動されていることは、まさに生物多様性保全の取り組みそのものなんですが、そういうことをどうやって生物多様性保全と理解していただくのかというのは、やっぱり大変なのかなと思いました。特に、最後に聞いた農協系というか、農業、田んぼをやっている系統では、もうまさに生物多様性保全の取り組みそのものなんですね。でも、何か最後に言っていらっしゃいましたけど、生物多様性保全なんて言うと、どうも皆さんの受けがよくなくて、もっと生き物と一緒にとか、生き物と一緒の生活とか、そういうことの方がずっと通りがよかったという話を聞きまして、やはりちょっとこのあたりが、これからつくる、今度の国家戦略の大きな課題の一つかなという印象を持ちました。
 以上です。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 地方自治体と、そらから企業に対しての大変貴重なコメントをいただいたんですが、NGOはいかがですか。特にご意見ございませんでしょうか。

【鹿野委員】 NGOには特に意見はありませんが、この前にもちょっと言ったのですが、生物多様性って霞ヶ関の中では本当に浸透したと思っています。その次は、やはりNGOの皆さんに浸透しているのかなという感じですね。ただ、時間があれば、もうちょっと中身の話をしてみたいところがありました。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 ほかにご意見ございますでしょうか。鷲谷委員、お待たせいたしました。どうぞ。

【鷲谷委員】 今回3回目の見直し、策定ということになるわけですけれども、前回に比べると活動の領域が大きく広がってきて、この生物多様性に関わる主体といいますか、プレーヤーの範囲が広がってきたと思います。それで、それぞれが、まだ課題はもちろんあるのは当然ですけれども、日本の社会でほとんど意識されていなかったこと、価値もなかったことに、これだけ真剣に取り組む主体の範囲が広がったということは、きちっと評価して、次の発展を期するのがいいんじゃないかと思います。
 それから、生物多様性をめぐって、今まで余りかかわりのなかった領域とか分野がかかわり始めると、新しい価値が生まれて、そのことがもしかしたら世界全体の活性化などにもつながっていくのかなと。お話を聞いていて、いろいろな出会いとか、活動の異分野だったものが一つになっていくという姿が、今あらわれつつあるような気がします。
 最後のパルシステムさんも、これから何かますます発展していきそうな気がするんですけど、例えば野付半島というのを活動の場にしていらっしゃいますけれども、ラムサール湿地でもありますし、非常に特殊な生態系がありまして、一方、温暖化の影響で、その特殊な、そういう意味では、日本においては保全上の価値が高い生態系がこれから大きく変化しようとしているときでもありますので、そういうようなことに関しても、恐らく生産者と消費者に加えて、ナチュラルヒストリーに関係ある研究者とかが協働をすることが重要なのだろうと思いますが、今ある様々なコラボレーションの上にまたさらに新しい視点が加わると、本当に実効性のある生物多様性保全につながる戦略になっていくのではないかというふうに感じました。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。大変前向きな評価をいただいて。
 磯部(雅)委員、失礼しました。よろしくお願いいたします。

【磯部(雅)委員】 私もというか、生物多様性という言葉については、皆さん非常に苦労されているという印象を受けました。それで、いろいろ拾ってみると、生態学会では「豊かな自然」という言葉を使ってみたり、単一種ではない、単一種に対してネガティブな言い方をしてみたり。それから、私はおもしろいなと思ったのは、千葉県では「生命(いのち)のにぎわいとつながりの総体」というような言葉が使われていたと思います。もちろん、ちゃんとした定義では遺伝子レベル、種レベル、生態系レベルの多様性ということがあるわけですけれども、これをもうちょっとかみ砕いて、何か表現をしないと、なかなか社会全体として浸透して、それを大事にして運動にしていこうというか、活動にしていこうということが難しいのかなという印象を受けています。
 そういう目で、この前の新・生物多様性国家戦略というのを見ると、生物多様性という言葉の定義が出てくるのが、多分42ページの第1章というとこだと思いますけれども、その前には全然出てきていないのですね。だから、読んでいると、最初のうちのところというのは、第一部あたりを読んでいると、生物多様性って何か全然わからないうちに、話が始まってしまうということなので、やはりこれについては最初に定義が必要かなというふうに思います。
 今日、プレゼンテーションがあったのは、非常に多かったのは、第一編のところに三つの危機ということが書いてあって、これは明らかに生物多様性から見ると危機ですということが書いてあって、それは何とか緊急に手当てしなきゃいけないと、何とかしなきゃいけないというようなことが書かれていて、それをやっていますというプレゼンテーションが今日はたくさんあったのだと思います。
 それに対して、例えば造園学会では、目標像をきちっと定めようとか、あるいはNACSでは、指標をつくりましょうとか、そういう言い方がしてあって、それはもうちょっと進んで緊急対応ではなくて、最終的な姿といいますか、まさに生物多様性そのものの姿を見せて、それに向かってやっていこうじゃないかという、そういう話だったのではないかという気がします。それを酌み取ると、私たちとしては、何かまとめるときに、まず生物多様性とは何かということを先頭に置くべきだし、そのときに、今あるような危機という意味で緊急対応が必要ですということも書かなければいけないのだけれども、最終形としては、こうならなきゃいけませんということも含めて書き、それに向かって何をするかというふうに、そんな論理構成にしなくちゃいけないのかなというふうな、そんな印象を持ちました。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 それでは、佐藤委員、お願いをいたします。

【佐藤委員】 おくれてきたので、前半がわからなかったんですけれども、地方自治体の方のお話なんかを聞いていても思ったのは、属人的なライフスタイルそのものに、どういうふうに近づいていくかという視点がないと、なかなか難しいなと。一人一人は、実はやっていらっしゃるわけですよね。生物多様性の国家戦略に関わることをやっているのだけども、市民はそういう自覚がなくやっている。でも、国が目標設定するというのも大事で、これは男性は多分こういう目標がないとなかなか動きにくいというのはあるかもしれませんけど、女性というのは感覚的に、自然に親しむとか、自分の子供にとって何がいいかとか、どういうふうに地球がなってほしいかということは、かなり感覚的に感じてやっているんですね。ただ、その意味づけが今までできていなかったのを、もう少し意味づけをきちっとしてあげるということができれば、実はみんながやっていることだったんじゃないかというような、逆転の発想というのもあるのではないかと思うんですね。
 それぞれの地域が、多分何かにかかわれば、循環しているわけですから、生物多様性は。一つをやれば結局つながってくるわけですよね。そういう意味で、一つ一つの地域が何か一つの目標を持つというか、何か大事にすべきものに気づくというのでしょうかね。そのことがあれば、そこから始まる、すごく広がりを持った活動になっていくのではないかと。ここで、実際いろんなことをやって、企業もやっていらっしゃるのも、実は生物多様性になかなか見えないんだけど、実はみんな関わっているわけですよね。そういう発見をするときなんじゃないかと。
 市民参加のことをちょっとおっしゃいましたけれども、今市民参加のことをいろんな形のものを調べていると、今までのようにイデオロギーで、みんなで一枚岩になるような活動って、ないんですよ。みんな非常に一部に関わっていて、それがユニット化されて動いているんですね。なので、なかなかそれは見えづらいんですけど、楽しいことだとみんな知らずに参加していると。実は大きな意味を持っているんだというような活動体が、これからのあり方で、それは今までのヒエラルキー型で、トップがいて何かが命令されて動くという形じゃなくて、みんなばらばらに動いているんだけど、実は一つのものをやっていたというような。ある部分では違うこともやっているという、そういう新しい組織のあり方というのも出てきているので、そういうものにも、この活動というのは非常に合致したものになっていくのじゃないかと。その辺はにらみながらやっていかないと、従来の枠にはめてやってしまうと、なかなか市民のところに届かないとか、そういうことになってしまうのではないかと。今日、いろんな方のお話を聞いていて、そんなことを思いました。

【熊谷委員長】 ありがとうございました。
 ほかにございますでしょうか。いかがでしょうか。よろしゅうございますでしょうか。

(なし)

【熊谷委員長】 それでは、大変ありがとうございました。
 本日は、14団体の皆様から大変貴重なヒアリングをさせていただきまして、大変ありがとうございました。
 それから、時間が限られておりますので、傍聴の皆さんとかあるいは関係省庁で来られている方にもご意見を伺う時間がございませんでしたが、どうぞお許しをいただきたいというふうに思います。
 委員を初め、もし関係省庁の方々からでも何かご質問等ございましたら、事務局の方へぜひ、ご意見でも結構でございますのでお寄せいただきたいというふうに思います。
 次回は多分7月17日で、これは骨子案ということでございますので、本日の委員の方々のご意見を十分に反映させて、事務局の方で取りまとめをしていっていただきたいというふうに思います。
 なお、本小委員会の運営方針に基づきまして、本日配付の資料、議事録は公開することになっておりますので、どうぞご承知おきをいただきたいと思います。
 それでは、第3回小委員会を閉会といたします。本日はありがとうございました。
 それでは、事務局へお返しいたします。

【事務局】 委員の皆様、本日は午前、午後と長時間にわたりまして、熱心なご議論ありがとうございました。次回の小委員会は7月17日火曜日、14時から17時まで、経済産業省別館会議室にて行いますので、ご出席をよろしくお願いいたします。
 なお、本日配付の資料につきましては、郵送をご希望の委員の方は、封筒にお名前をお書きの上、机に置いていただければ、事務局から後日発送させていただきます。
 また、NECの成果品として配付いただきましたお酒につきましては、これは恐縮でございますが、お持ち帰りいただきますようお願いいたします。
 それでは、どうも、本日はありがとうございました。

(以上)